孫悟空が花果山にやって来てから早くも十年以上が経過した。
美候王の花果山国は一部の隙もない統治が続き、霊猿たちは衣食住に困らない平和を謳歌している。
ド田舎を超えた秘境である花果山に大きな出来事はほとんど無く、
唯一と言って良い事件は、美候王が悟空が100年かけて習得した仙術を10年余りで網羅し、悟空を本気で凹ませたぐらいだった。
そんな訳で充実した生活を送っていた美候王だったが、ついにやる事の種が尽き、次なる目標を探すため外界に目を向ける事にした。
……ちなみに現在(紀元前600年頃)、中国人界の春秋戦国時代はまだまだ始まったばかりである。
◇
花果山 水簾洞
滝に入り口の隠れた洞窟。
花果山の霊猿たちの住む花果山の居住スペース。
その中央に据えられているのは木製の玉座。
無駄に極まった施工技術により艶が出るほど磨き上げられた豪奢な椅子に座っているのは1人の少女。
麗しの美候王は今日も王様ごっこに興じていた。
草花で飾りたてられた白い着物は妖精たちの王らしく素朴さと高貴さを兼ね備えていて美候王の金と空色の髪と相まって美しい。
身長の関係で、現世の皇帝などの玉座を参考に作られた豪奢な椅子との対比で少しちんまい印象を受けるが「すぐに大きくなるから!!」とは本人の弁。
千里眼で人界を覗いていた美候王は呆れたようなため息をついた。
「悟空くん悟空くん。なんか下、凄いことになってるみたいですけど」
「下? あー……。今の地上は覇権争いで大変なことになってるらしいな」
戦国時代
あっちで戦争こっちで戦争、そちらで物取り、向こうじゃ山賊。
紀元前の生命のまあ軽いこと辛いこと。
「上が強欲だと下々は大変ですねぇ。あっちで殺し殺され、こっちで殺し殺され、身内でも殺し殺され、人死にだらけで冥界が大忙し。よく絶滅しませんね」
「数が減れば流石に自重するからな。で、増えたらまた戦争を始めると」
「知的生命体のやる事じゃないですよソレ」
「悲しいが、同種間闘争による知的進化は人類の属性なんだ」
「ひっどいマラソン」
「それは間違いない」
技術に目を見張るものこそあるものの戦乱続きの人界の様相には辟易といった様子の美候王。
望めば叶う全能者であり、生命を慈しむ精霊である美候王には、人の果てなき欲望は理解に苦しむ感情だった。
◇
玉座で何か暇を潰せるものはないものかと美候王が思案していると、1匹の猿が滝の中から飛び出して美候王の前に膝をついた。
「美候王様、ご報告です」
「んっん、良いでしょう。発言を許します」
「花果山の麓に人間の一団が侵入しました。数は300人ぐらいで、たくさんの人がボロを着ていて、中には老人に女子供もいました。どうやらどこかから逃げてきたご様子です。美候王様、いかが致しましょう?」
「300人は多いですね」
花果山は紛う事なき秘境。
街の噂でも豊かな土地なれど魔性の猿の一族が山全体を守っているというのは有名な話。
時折迷い込んできた者には物珍しい果物を持たせて帰していたおかげで、近くの村落に特別危険視されるような事は無かったが、人智の及ばぬ霊峰として人々からは恐れられていた。
そんな土地に人間が集団で踏み込んでくる事は間違いなく異常事態。しかし、彼らの目的は明白だった。
「やはり食料目当てでしょうか?」
「木の実や野いちごだけでなく蜜を貯めた花まで取っている様子でした。人間たちの中で体の大きい者は皆武装しています。我々を警戒しているみたいですが、足取りは変わりません」
「秘境への恐怖より飢えの方が勝っているようだな」
「戦禍に焼け出された難民が、花果山の噂に頼ってやってきた、ということですか」
美候王はポンと手を打ち
「ではいつも通り果物をあげて帰ってもらいましょう」
良い考えでしょう? と言いたげな表情に
「その帰る場所が無いんだよ」
スパーンと美候王の頭にチョップが入る。
ギョッとする霊猿。しかし、既に十年来の付き合い。今更どつき漫才程度でどうなる関係ではない。
「あ痛ッ! 身長が縮んだらどうするんですか!」
「帰る家が無いからわざわざこんな辺境にまで来ているんだろ。食料を与えても、帰る場所が無い彼らは遅かれ早かれここら辺に勝手に住み着くはずだ」
「不法滞在でございますか?」
「花果山は美候王様が法だ。不法かどうか美候王様が決める。で、どうする? さっき言った通り当分の食料だけ渡して追い出すか?」
悟空がケロッと薄情な事を言うので美候王は若干引き気味。
先に言ったのはお前だからな、と釘をさされて気を取り直す。
「そんな酷い事は出来ません。……いいでしょう。その人たちを花果山に住まわせます」
美候王がゆるりと連絡に来た霊猿を指差した。
「貴方は霊猿の仲間から10匹ほど連れてその人たちを花果山の西側の花畑の所へ誘導してください」
「びっくりサプライズはいたしますか?」
妖精はイタズラ好きなモノ。
けれどそんな事をすれば実害こそ無くても不信感を持たれてしまうだろう。
妖精のイタズラ自体が洒落にならない類が多いというのもあるが。
「悪戯は無し。おどかさないように礼儀作法に気をつけて案内してください」
「かしこまりました。行って参ります」
霊猿はビシッと敬礼を決めると、一鳴きするとすぐさま仲間を集めて水簾洞から飛び出していった。
悟空は猿たちが人の様に規則正しい動きをしたら、それはそれで不気味がられる気がしたが、心意気が大事だろうと口を挟まなかった。
「さて、私は……。うん、私も花果山に来てくれた人達のためにスピーチの内容でも考えておきましょう」
「ああ、せっかくの神様のフリだ。ボロが出ない様に気をつけないと、ッ痛」
失礼なことを口走った悟空に仕置きのジャブを一発お見舞いし、美候王はノートは思いついた文章を書き出し始めた。
◇
霊猿たちに見張られ(見守られ)、おっかなびっくり難民たちが連れられてきたのは、広大な花畑だった。
色とりどりの花々が咲き乱れる様はとても美しく、まるで楽園の様な光景。
季節の花々が一堂に介して狂い咲き、甘い香りが鼻腔を満たす。
難民たちはその美しさに見惚れて言葉を失い、ただただ立ち尽くすばかり。
そんな彼らの前を歩いていた猿用に仕立てられた小さめの紺色の着物を着た白毛の老猿がギィとしわがれた声で鳴いた。
人々が老猿の方を一斉に見合わせると老猿は前方に深々と頭を下げた。
自然と人々の視線は老猿の頭の先に向けられる。
ふわり
と風が吹き、花びらを巻き上げた。
花びらを巻き上げた風は色鮮やかな帯となり集団の前で渦を巻いた。
やがてその渦巻く風の中より1人の美しい少女が現れた。
美候王、満を辞しての登場。
朝日差す青空のような金と空色のツートンカラーの髪は飾り立てる花冠は王冠よりも荘厳。長いまつげに縁取られた紅眼は宝石のよう。
白磁の肌は日の光に透けて淡く輝き、すらりとした手足は健康的な艶めかしさを感じさせる。
身に纏う衣装はシンプルな白いワンピースだが、花畑の中において彼女の存在感をより一層際立たせていた。
あまりの神々しさに人々は思わず膝をつく。
「皆さま遠路はるばるようこそおいで下さいました。私はこの花果山の主、美候王と申します」
鈴の音のように澄んだ声が響く。
「貴方がたはどのような理由でこの花果山にいらしたのですか?」
優しく微笑みながら問いかける美候王に、集団の先頭に立っていた男が手に持っていた槍を手放して答えた。
「私達は戦争で家族や故郷を失い、行く宛もなく彷徨っていたところ、食料に困らない豊かな森があるという噂を聞いてここに来ました。どうかしばらくの間、我々を保護していただけないでしょうか? 」
美候王はすぐに返事をせず、指先を花畑の向こうの森に向けた。
人々がまた一斉に美候王の指差す先に目を向けると、まるで津波が流れるように木々がうごめき森が開かれ大きな広場が出来上がった。
「花果山国の民である知恵ある獣を傷つけない限り、一時と言わず、いつまでも暮らして構いません。ただし、いつまでも山の恵みを頼るのではなく、自分たちで作物を育てて暮らす事が貴方たちがここに住んで良い条件です」
「心得ました。このご恩生涯忘れはいたしません」
美候王はにっこりと微笑み手を振って合図を出した。
すると人々の前に再び姿を現わす霊猿たち。
猿たちに驚く人々をよそに霊猿たちは果物の入った籠を難民たちに配っていく。
気の早い子供が親の静止も聞かずに林檎を口にしてそのあまりの美味しさに歓喜の声をあげた。
それを皮切りに飢えていた人々は籠に入った果物を口にし、その美味に多くの人が涙した。
「しばらくは、霊猿の皆さんに山の食べ物について教えてもらってください。それから、貴方たちが家を作るために木を切り倒すことも許しましょう」
「これだけの厚遇、なんとお礼を言ったらよいか……」
感謝の言葉を述べる男に美候王は首を横に振る。
「お礼は言葉ではなく行動で表してください。常に食材と貴方がたを受け入れた霊猿の皆への感謝を忘れない様に。悪心が芽生えれば私にはわかりますからね?」
自身の星の様に煌めく瞳を指差して最後にそう言うと、美候王は現れたときと同じ様に風に吹かれ、花びらの中へフッと消えてしまった。
難民たちは花果山の土地神である美候王へ感謝の祈りを捧げ、こうして、花果山に人が加わったのである。
◇◇◇
花果山 水簾洞
洞窟の中はちょっとした打ち上げパーティー状態。
居並ぶ霊猿たちに振る舞われているコップの中身は花果山の清らか、というか入り口の滝から汲んだだけの水に思い思いの果物や花を浮かべた健全極まりない果実水。
それでも場のノリに酔っているのか皆一際陽気である。
「いやぁ、会心の演出でしたね! 私の美しさにみんなメロメロでしたよ!」
「大変お美しゅうございました。天の西王母も美候王様の美貌には叶いますまい」
「あまり過度に褒めそやすな。浮かれすぎて次に顔を見せる時に化けの皮が剥がれる」
「化けの皮なんて無いんですが! アレも私の素なんですが!!」
「ならいつも真面目にしたらどうだ?」
「やだ! 面倒い! こーゆーのはメリハリが大事なんですよ」
やだもんね。っと、べーっと舌を出した美候王に悟空は苦笑した。
美候王の性格について
現状、美候王には妖精人格と精霊人格の2つの人格がある。
妖精人格
属性 混沌・中庸
産まれながらの精神性。本性と言うべき人格。
良くも悪くも素直でお調子者。
楽しいことが大好きで自由を愛し、それでいて物欲も多いとても子供っぽい性格。
善悪の区別は出来ても私情を優先してしまうため、能力を鑑みると非常に危険。
Fateシリーズに例えると謎のヒロインXやアストルフォといったネジのはずれた元気キャラが近い。
ここから更に自分の能力を鼻にかけて傲慢になり慢心AUO化したのが原典の孫悟空。
精霊人格
属性 中立・善
付加された属性の影響を受けた基本的に善良な人格。
礼節を理解し、計画の概念を持つ。
悪事は許さないが必要悪を理解する王様としてちょうど良い性格。
Fateシリーズに例えるとBBやキャストリアといった私情と使命をキチンと分けられるタイプ。
外面が良い(重要)
■■人格
属性 秩序・中庸
使命:地球存続
嗜好:世界平和
属性について
Fateで表記される属性は本人の性格を
ただし、本人の自己認識により簡単に変化してしまうため一律の基準を持たず、フレーバーテキストとして扱うのが妥当。
秩序-中立-混沌
ルールや常識にどこまで従うかの指標。
貴方は法律に従いますか?
はい=秩序
どちらかといえばはい=中立
いいえ=混沌
俺がルールだ=秩序
善-中庸-悪
自身が善人か悪人かどう思っているかの指標。
自己申告性のため信憑性は低い。
例
稀代の天才発明家=混沌・善
自身の正義を盲信する殺人鬼=秩序・善
王国の末代王=秩序・悪
(国を滅ぼしてしまったので)