型月世界の西遊記   作:筆折ルマンド

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作風が迷子です。いつものことですが。


王様稼業

 

 花果山山頂

 豪奢な瓦に真白い壁、見るからに質の良い御堂。

 周囲は草木の無い断崖絶壁に囲まれ、雲がかかれば正に天空に浮くが如し。

 

 ココこそ美候王の新居。

 諸事情により美候王は水簾洞から花果山の頂上へと引っ越した。

 

 具体的に言うと、威厳の維持? 

 

 新築一軒家。(御堂)

 にしては無駄なほど大きな広間。

 正面に備え付けられた玉座に座っているのは、当然ながら美候王。

 

 彼女はうんざりとした様子で悟空を呼んだ。

「悟空くん悟空くん」

 

 呼ばれて隣の部屋からひょっこり顔を出す孫悟空。

 陸の孤島、図らずも2人暮らし。

 

「なんだ? 今日はいつにも増して気怠そうだな。夏バテか?」

 

「精霊にそんなものあるわけないでしょー。悟空くん、私は思ったんですよ」

 のそっと上半身を起こし、肘掛けにドンと体重を乗せる。

 

「花果山にも法律が必要です。ざっくり言うと、悪いことしたら死刑とかそういう奴」

 ピシャーンと美候王の背後に雷。

 ペシ、と美候王の頭を悟空が叩く。

 

「罪の初動が重すぎるだろ」

 

「だぁーって面倒なんですよ。別に人なんて勝手に向こうからやってくるんだから集団における危険因子は排除すべきじゃないですか?」

 

「極端な合理思考は辞めろ。というか、そんなに陳情の対処が面倒になったのか」

 

「はい」

 

「いや、はいって……。最近、花果がしてるマトモな王様としての仕事なんてそれぐらいなんだから頑張「いやです」」

 

 美候王が人間を花果山に迎え入れて早1年。

 当初は300人だった人口は、花果山に住んだ人の誰かが家族やら親族やらを呼んだのか、数百人単位で人が舞い込み、あれよあれよと言う間に今や1000人越え。

 

 別に美候王としては人が何人増えようが気にはしないのだが、

 

 女3人寄れば姦しい。

 ならば人間1000人寄れば……? 

 まぁ、多少なりとも治安は荒れるよね。

 と言う極々単純なお話。

 

 やる気のあった頃の美候王は大きな揉め事があるたびに下界に降りては争いの仲裁をしてあげていたのだが、

 

 いかんせん、人有る所に戦有り。

 諍いは一向に減らないし、フレンドリーに振る舞いすぎた美候王に慣れた人々が水簾洞にお詣りに来る始末。

 

 形だけで満足するタイプの飽き性である美候王様は、そんな人のしがらみに尻尾を巻いて逃げ出した訳である。

 

 ヒーローというのはごっこ遊びだから楽しいのです。

 

 ◇

 

「とりあえず三猿に裁判官になってもらいましょうか?」

 三猿というのは花果山の霊猿の中でも特に賢い老猿たちのこと。

 

「裁判官を霊猿で固めるのはあまり良い策じゃないな」

 

「どうしてですか? 彼らは嘘を見抜ける妖精の眼も持っていますし、判断を間違えるなんてこと無いと思いますが」

 

「理屈で決めればそうなるのは分かる。けど人間っていうのは、気難しいというか気位だけは高いというか。端的に言えば裁判官に人間も混ぜないと後でうるさくなる。なんなら霊猿だけズルいと言い出しかねない」

 

「え、何、人ってそんな面倒くさいんですか」

 

「面倒くさいんだなコレが。とりあえず三猿と同数の3人を裁判官に選ぼう」

 

「なんだかんだ権力を得て性格が変わっちゃった王様ってのを私、結構見てるんだけど、大丈夫ですかねぇ?」

 

「定期的に花果が直々に本性を確認する必要はあるだろうが、村の管理はずっと楽になるはずだ」

 

「んー、ならやってみますか」

 

 こうして始まった3+3の六賢治法

 美候王がわざわざ千里眼で選りすぐった善人である彼らは良い活躍をしたが、話の分かるトップを得た事で、少しずつ要望が出始めた。

 端的に言えば「土地が無いので開墾したい」とのこと。

 そもそも300人+αを想定して用意した土地に1000人もいればパンクもするのも自明の理。

 

 美候王は六賢伝いに聞いた要望を隣の山をバッサリ更地にする事で希望を叶えた。

 悟空は地母神か星の権能か知らないが、腕の一振りで山を更地に変える美候王に若干の恐怖を覚えた。

(コイツ強すぎないか?)

(そりゃ星の精霊様ですから)

(コイツ直接脳内に!?)

(だって千里眼で筒抜けですし)

(──、────)

(あ、魔眼殺しのおまじないはズルですってー!)

 

 テレパシーもそこそこに悟空が美候王に真面目な話を振る。

「で、たぶんこれから益々人が増えいくけど、どうする?」

 

「……え、まだ人増えるの?」

 想定外、といった様子の美候王。

 

「そりゃそうだろ。土地と食べ物さえ有ればどんな生物だって限界値まで増える」

 

「あー……。六賢のみんなに全部お任せは?」

 無理と承知でボケてみる

 

「花果様が六賢を働き過ぎで殺したいならお好きにどうぞ」

 

 まー、そうなりますよね。と肩を落とす美候王

 

「……どうしよ」

 美候王の困り顔の前で

 

 したり顔の孫悟空。

 

「俺に良い考えがある」

 

「良い考え?」

 

「ああ、知恵が足りないなら足せば良いんだ」

 

「それは道理ですが、でもいったいどうやって」

 

「それは当然……」

 孫悟空は美候王の頭を指差した。

 コツンと小突く。

 

「勉強だ」

 

 美候王

 キョトンとして

 

「凄い、至極真っ当な意見ですね。でも肝心のその勉強はどこでするって言うんですか。賢い人のツテなんて私には無いですよ。まさか悟空くんの先生の弟子になれ。なんて言わないですよね?」

 自分を目の敵にしているような人に何も習いたくないんだけど。

 と反意バリバリの美候王を悟空が手で静止する。

 

「まさか、そんな事しなくても花果様なら本から簡単に知識を得られるだろ?」

 

「まぁ、そうですが。でも結局、その元となる本なんて花果山には無いんですって」

 

「花果山に無いのなら、有る所に行けば良い」

 美候王が反論するより早く、悟空は懐にから地図を取り出した。

 

 地面に広げ地図のほぼ端と端を指でなぞって繋ぐ。

 

「花果山のある東勝州から西南にずっと行った先に中国の中で最も巨大な妖怪の国がある。大力国という国だ。そこの首都ならきっと、いや必ず大量の書物がある」

 

「妖怪の国って治安大丈夫ですか?」

 

「心配するほどじゃない。国王である牛魔王の威光で人界なんかとは比べ物にならないほど治安が良いらしい」

 

「……魔王の国より治安の悪い人界とか世も末がすぎるでしょう」

 

「なんなら適当に人界の国を一つ分捕るって手も無くは無いぞ」

「面倒だからパスで」

「ははっ、だろうな」

 

「じゃ、とりあえず大力国に行くって事で良いか?」

 

「え? 私、まだ行くとは一言も言ってないんですけど」

 

「大力国には色々な料理やお菓子があるらしいん「えー、そんなので釣られる私じゃ」杏仁豆腐という甘く柔らかい豆腐や糖包という甘い餡をふわふわの生地で包んだ菓子もあるらしいぞ」

「乗ります!」

 美候王も女の子、甘い物には目がないのである。

 

「よし、決まりだな」

 

 大力国へ行く事を決めた悟空と美候王は思い立ったが吉日と、その日のうちに大力国へ視察に出かけると霊猿たちに伝え、次の日の朝には見送りに集まった猿たちに珍しい食べ物の土産をねだられながら、悟空の呼び出した筋斗雲に乗って大力国へ旅立っていった。

 




この世界設定における妖精郷・魔界について

仏教用語に例えて
欲界(物質世界・地上)
・(妖精郷・魔界はこの間)
色界(天界・魔力により歪み展延された空間)
・(天国・地獄はこの間)
ーー世界の外側ーー
無色界(魂の世界・正真正銘の死後の世界)
に分類される

神話の時代の世界がやけに広く描写されているのは、魔力によって物理法則が歪んでいて実際に広くなっているから。
また、アステカやインドで頻繁に世界が滅んでいたり、ヘラクレスが世界を持ち上げるのを交代したり、世界に端がある地動説が広まっていたのは、色界がメロンの網目のように間に挟まって世界を区分していたから。
物理法則が強くなるとこの隙間は閉じてしまう。
その際、狭間の空間は世界の外に切り離される。(ファラオの神の国)
または世界の内側に潜り込む事になる。(星の内海)

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