型月世界の西遊記   作:筆折ルマンド

8 / 10

評価に色が付いてる!ありがたや

描きやすさの関係でボクっ娘モードは廃止されました。どうしても丁寧口調になる心理描写との兼ね合いが難しかった…。(見切り発車)


戦火/初陣

 

 ソレはこの時代において当たり前の様に起きていた出来事だった。

 

 戦火は絶えず、国々が土地を取り合い、農民は戦によって住処を追われ、東奔西走。

 

 それどころか、敗残兵が山賊に、元農民の難民団がそのまま食い扶持を求めて傭兵団に。

 そんな事が当然の如く起きる時代だった。

 

 花果山にたどり着いた人々もそういった流れの中にあった。

 少なくとも武器に心得のある男たちは実質的に難民たちの用心棒のようなものだったし、一度ならず戦争の暴力から逃げ延びたからこその花果山での今があったのだから。

 

 故に、反応は早かった。動きに澱みなく、男たちは武器を手に取るのに躊躇は無かった。

 

 ただ、花果山に住む霊猿たちにとっては実に数十年ぶりの出来事だった。

 

 ましてや、美候王にとって、それは初めての経験であった。

 

 生存競争

 純然たる殺し合い。

 

 王とその側近が、政治学習のために土地を離れ、山から放たれる威圧感が無くなった事を鋭敏に感じ取っていたのだろう。

 

 花果山は美候王が目覚めて以来、初めて妖怪の群れに襲われた。

 

 ◇

 大力国 大書庫

 静謐な空間にあちこちから足音と紙を捲る音だけがかすかに聞こえてくる。

 

 一度始めてしまえば続けられるタイプのお姫様。

 花果は学問収集のため政治の本を熟読中。

 

 そのため、遠く数千キロも離れた花果山の異変に気付けたのは、意外にも悟空が先だった。

 

 花果の方は千里眼を教本を読み漁るのに使用していたため、花果山の方には目を向けていなかった。

 

 悟空は花果山をぐるりと取り囲む巨大な円形の結界「安身法」を張っていたが、その結界が弱まったのを察知した。

 

 悟空が花果に近づき肩を叩く。

 

「花果様、緊急事態だ。花果山に何か入り込んだ」

 

「んー? それっていつもの事では? 特に入るのを制限するための結界も張って無いですし」

 

「俺が張った防衛用の結界が干渉を受けたんだ。何か悪い物が花果山に居る」

 

 花果が本を読んでいた手を止めパタンと閉じる。

 

「ふむ、悟空くんがそこまで言うなら確認してみましょう」

 花果が目を閉じる。

 花果山に意識を集中し、光景を脳裏に映す。

 

 ◇

 

 異変はすぐさま分かった。

 

 いつも晴天か天気雨しか降らない花果山に、雷雲が立ち込めているのだ。

 

 もう少し目を凝らすと

 花果山の麓の村には異常なほど多くの鳥が群がっていた。

 

 その有様はさながら鳥葬。

 ただの鳥ではない、揃いも揃って全長1mを超える大きな鳥の群れ。

 

 トキやら鶴といった温厚な鳥ではない。

 人喰いの凶暴な鳥妖の群れだ。

 

 その大群が花果山の村の人々を、

 鋭いクチバシで、

 更に鋭い脚爪で襲っていた。

 

 霊猿と槍を持った男達が抵抗しているものの、自在に空を飛ぶ鳥妖相手には分が悪すぎる。

 

 花果が見ている間にも、猿や人が次々と狩られていくのが見えた。

 

 ◇

 

 花果がカッと目を見開く。

 デート気分は消し飛んだ。

 自身の怠慢を目の当たりにし、悔恨が花果の胸に押し寄せる。

 

「帰りましょう」

 一もにも無く有無を言わせず悟空の腕を掴む。

 花果の周囲で魔力が吹き出し渦を巻く。

 

「いや、待て、せめて外「そんな時間はありません」

 

 ギュっと魔力が凝縮し、直後にカポンと悟空と花果の姿が消える。

 

 二人が居た場所にぽっかりと虚空が残り、吹き込む風が書庫をめちゃくちゃに荒らした。

 

 ◇

 

 花果山 麓の村

 

 花果山で見た事の無い雷雨が空を満たしていた。

 

 ザァザァと打ち付けるような雨の中

 ゴゥゴゥと雷が輝く暗がりの中

 

 鳥妖の群れが宙を舞う。

 

 人を襲おうと爪をギラつかせ、逃げる人間の背中を掴む。

 

 しかし、鳥妖の爪は空を切り、居たはずの人間が幻の様に消えた。

 

 それだけでなく、鳥妖に襲われる人々の姿が次々とぼふんぼふんと消えていく。

 

 それと同時にまた、家の中から人が飛び出し補充され、逃げる人と追う鳥妖で花果山の村は大混乱。

 

 その裏で、霊猿たちがほくそ笑み──

 

 ゴゥ

 

 と風を切る音と共に一切合切がひっくり返った。

 

 音源はそれはもう巨大な剣。

 握る巨漢の背丈より更に巨大。

 全長3mにもなる斬馬刀

 しかも2本、両手で軽々と担がれている。

 

 大剣を振るった事で巻き起こった暴風が家を砕き、逃げ惑う人々の幻影を纏めて消し去った。

 

 隠れ家となっていた家が吹き飛ばされ、

 丸裸にされたのは数匹の霊猿。

 

 その中でも最も大きく全身が白い毛で覆われた大柄な老猿を前に

 

 鳥たちの中心で一際体格の大きい鷹の顔をした妖怪が両手に持った斬馬刀を拍手代わりにガツンガツンと打ち鳴らした。

 

「よくも、いや、よくぞか? このクソ爺! 俺たちを謀りやがって!」

 妖怪の(カシラ)は腹を立てていた。

 ビュッフェに来たつもりが、ちっとも満足に食事にありつけなかったからだった。

 妖怪の頭の予想では今頃は怯え逃げる人間たちを肴に、猿どもの手足で豪勢に焼き猿パーティに興じているはずだったというのに。

 

 目の前の多少幻術の腕の立つ老猿に上手いこと時間を稼がれてしまった。

 怒り心頭の妖怪の頭はこの爺を姿焼きにして髑髏酒にしてやると意気込んでいた。

 

 ◇

 

 実の所

 妖怪の頭「混世魔王」は何年も前からこの地に目をつけていた。

 

 最も精霊と仙人の居る土地に馬鹿正直に攻めていった所で、部下が返り討ちにされるのは目に見えていたので()()()()襲わなかった。

 

 しかしここ数日、花果山からその2人が消えていた。

 混世魔王はその正確な理由を知らなかったが、土地神や仙人の多くは宴会好きが多く、またそういった者たちは時間の流れが違うため、一度宴会に繰り出せば軽く半月は帰ってこない事を知っていた。

 

 二日三日と様子を伺いコイツは帰って来ないと確信した混世魔王は、この絶好の機会を逃すまいと手勢を集めて花果山へ奇襲を仕掛けたのだ。

 

 奇襲は見事に成功し

 

 呆けていた何十人かを容易く殺してみせた。

 勢いそのままに

 

 200人あまりを

 食い殺し

 切り殺し

 啄み殺しはしたものの

 

 猿を合わせればまだまだ2千人近くの人間が残っているというのに、人影は幻にすり替えられてしまった。

 

 混世魔王たちは、目の前の老猿を始めとする霊猿の幻術によって多くの獲物を取り逃がしてしまったのだ。

 

 ◇

 

 花果山と混世魔王の住む山は決して近くない。せっかく襲うのだからせめて五百人は備蓄食糧として持ち帰りたい。

 

 だがその前にこの俺を舐め腐った爺の素っ首撥ねてやると

 混世魔王は瞳をギラつかせ、足の爪で地を抉り、クチバシをバチバチと音を立たせて威嚇する。

 

「俺たちゃ腹ァ減ってんだ。ここに住んでる連中を出しな。そうすりゃ、お前みてぇなガリガリの食いでの無ぇ老骨、楽に殺してやるからヨォ」

 

「斯様な物言いをされて、民を差し出す阿呆はおらぬわ! 鳥頭め!」

 

 老猿

 六賢筆頭「白毛獼猴(みこう)

 悟空の見様見真似ではあるが、拳法の構えを取る。

 当然、幻術に一日の長があるだけで、既に老境の獼猴に混世魔王の剣をどうこうする力は無い。

 

 いわゆるハッタリ。

 せめて才と勇気のある自身の後ろの成猿だけでも逃さねば。

 使命感に燃える獼猴は命を捨てる覚悟があった。

 

 混世魔王が獼猴の悲壮な決意を理解した上でカツンとクチバシを鳴らした。

 比較的知恵のある中級の鳥妖がそれに応えて地面に降り立つ。

 

 獼猴と猿たちをあっという間に取り囲まれ、全方位からカチカチとまるで焼肉が焼き上がるのを今か今かと待ち受ける待ち箸のような大合唱。

 

 さしもの勇気ある霊猿たちもこの光景に顔を恐怖に歪める。

 獼猴もこの絶望的な状況に小さくすまないと呟いた。

 

 混世魔王が霊猿たちの表情を眺めて悦に浸ってニタリと嗤う。

 

 鳥妖の輪はしだいに狭まり、猿たちは背中合わせに身を庇い合うが、その程度でどうにかなる物量差ではない。

 

 ギチギチに輪を縮めた鳥妖たちが混世魔王をチラチラと見始める。部下の我慢の限界が近い事を察した混世魔王は片腕の斬馬刀を天高く掲げ

 

「喰え」

 

 無情の号令が下した。

 

 鳥妖が一斉に羽ばたき我先に獼猴たちへ殺到──

 

 しようとした所に一筋の光が差し込む。

 

 真っ先に飛び出した鳥妖のクチバシを焼き切り

 

 地面をジュっと焼き焦がし、獼猴たちの周囲を一周。

 円が描かれ

 

「悟空くん!」

 少女の声

 

「結!」

 男の声

 

 円が薄く輝き

 

 飛び出した鳥妖たちはまるでガラスに気付かず飛び込んだかのように顔面を見えない壁に打ちつけた。

 

結界術 安身法

 

 円を描き、その中を守る結界を張る。

 古くからのおまじないであるが、古ければ古いほど強力な力を持つのが神秘。

 術理を理解した者が扱えば、簡易さに似合わず、その護りは堅牢。

 人型にもなれない木端妖怪にどうこうできる強度では無い。

 

「ちぇすとぉぉぉぉぉ!!」

 花果が蹴りと共に舞い降りる。

 

 蹴りが地面を突くと同時に地面が隆起し、安身法で守られた獼猴たち以外の地面が宙に吹き飛ぶ。

 

「変われ!」

 

 更に頭上、悟空の一声によって空中にばら撒かれた髪の毛が一斉に刀剣へと変化して鳥妖たちを串刺しにしていく。

 

 混世魔王は怒りのままにギィ──と鳴き、花果に右手の斬馬刀を振り下ろす。

 

 ガツンとまるで鉄塊を殴りつけたかのような金属音と共に花果の左手が混世魔王の斬馬刀を受け止めた。

 

 硬い、いや強い

 

 混世魔王が咄嗟に身を浮かせ、下がろうと、している間に花果の右ストレートが混世魔王の胸部を打ち据えた。

 身体を浮かせていたのが功を奏して、ダメージを最小限に混世魔王は大きく大きく吹っ飛ばされる。

 

 その間にも悟空の剣が宙を舞い、混世魔王が立ち上がる頃には鳥妖の刺さった串で地面が埋まっていた。

 

 なんとか逃げ延びた中級の鳥妖は、遠巻きに自分たちの王と帰ってきてしまった精霊と仙人を見つめ、そしてもう近寄ろうとはしなかった。

 

 半透明の結界の中で獼猴が花果に頭を下げる。

 

「美候王様、申し訳ございません。我々の力が及ばず多くの者を死なせて「いいえ」」

 

 花果が無表情を努めて作り混世魔王をジッと見据える。

 

「全て私が悪いんです。全部、私がちゃんとしていなかったから」

 

 花果山は安全だと

 この世の悪意から切り離された場所なんだと

 信じていた。

 

 保証もなく、

 確証もなく、

 ただ漠然とそう信じ込んでいた。

 私の怠慢

 私が全て悪いのだ。

 

 遠くの方で、混世魔王の簡易な号令に反応しなかった低級の鳥妖が不幸にも奇襲によって命を落とした人の遺体を我関せずと啄んでいる。

 

「どうしてこんな事をするんですか」

 それは無意識の呟きだった。

 明確な失言だった。

 

 どうしてそんな事をするのか

 なんてことは誰もが理解していた。

 花果自身も理解していた。

 

 それでも、唖然と、どこか遠くの事に思えていた戦火を目の前にして、思わず花果は聞いてしまった。

 

 花果の失言を聞いて、

 世間知らずのお嬢さんの言葉を聞いて、

 

 混世魔王はゲラゲラと笑った。

 遠くの方の焼けた家屋が崩れ落ちるほどの大声で呵々大笑。

 

 屍肉を啄んでいた鳥妖がザァと空へ羽ばたく。

 

「ここには飯がある! 俺たちは腹が減っている! なら、やる事は一つだろう?」

 ニタリと笑う。

 

 食べ物が欲しいから村を襲った。

 ただそれだけの話。

 

 実に賊らしい、動物的な思考。

 

 持つ者から無い物を奪う。

 食料が無いなら有る所から奪う。

 自分の命を長らえるために、他者の命を奪う。

 

 それは生物の最も原始的なルール

 

 すなわち弱肉強食

 

 花果自身も理解している原始のルールだ。

 

 ただそれは、花果山には必要の無いルールだった。

 飽食の花果山において、食料に困るなどと言う概念は存在しなかったからだ。

 

 その点において混世魔王は不幸とも言えるだろう。

 目先の欲に群がる前に、キチンと見渡し、精一杯知恵を巡らせれば、生き残る道も見えたかもしれない。

 

 彼はその野卑な性分故に今、ここで、命を落とす。

 

 ◇

 

「そうですよね。知っていました」

 一瞬俯き、前を向く。

 

 自分の髪をプツンと一本だけ切って右手に握り込む。

 

「変われ」

 

 悟空がよく扱う体外変化の術。

 髪の毛を武器に変化させる基礎的な仙術。

 

 だが今回は扱う者の格が違う。

 

 ゴゥ!! 

 

 と花果の手から光が吹き出す。

 

 直視すれば目が焼けてしまう

 そう思えるほどの閃光。

 

 花果が両手を突き出し、ゆっくりとまるで剣を抜くかのように拳の間を広げる。

 

 瞬間、ツンとした青い匂いが辺りを満たした。

 強烈な光が大量のオゾンを精製したからだ。

 

 光が収まり、花果の手の中に一本の光が握られていた。

 

 ヴン

 

 と自然界においておよそ聞かない電子的な音を響かせて、花果は手に得物を、輝く光剣を手にしていた。

 

 花果が光剣を混世魔王へ向ける。

 

「最後に一つ。コレはただの八つ当たりです。貴方たちの行動は生物的に正しい。私の行動に物理的な意味はありません」

 

 生物の意義として考えれば、ただ捕食者である混世魔王たちに悪性は無いだろう。

 単純な生命循環のみを考えればの話だが。

 

 だからって、生かして返せる訳ないじゃないですか! 

 

 花果にとってそれは初めての感情だった。

 

 復讐

 敵討ち

 

 単純な損得勘定に由来しない行動

 

「……ああ、でもここで貴方たちを逃す理由も無いですよね。うん、貴方たち性根が直らなさそうだし。ほっといたってどこかでまた悪い事しますよね? うん、それなら今倒す方が良い。はい、理論武装完了。うんうん、これで心置きなく──」

 

 剣を一振り

 

 ヂン

 

 と剣が触れた地面がバターの様に溶断され、断面はぐつぐつと煮えている。

 

「ぶっ倒せます」

 

 花果は飛び出した。

 

 ◇

 

 この時代、魔王を名乗る敷居は低かった。

 そもそも自称。

 自他共に魔王と認識されているのはごく一部の大国の妖王だけであるが、山一つを領地にする程度の中堅上位の妖怪も皆思い思いに魔王を名乗っていた。

 

 混世魔王もそのうちの一体。

 本性「混世鳥魔」

 大きな鳥の妖怪である混世魔王は、両手に持った2本の刃渡り2mを超える巨大な斬馬刀を扱う力が自慢だった。

 

 それでも察した。

 

 これを受ければ死ぬと。

 

 花果が走り込み、剣を振り抜く。

 

 混世魔王と花果の距離は目算50m以上。

 

 1秒足らずで

 

 混世魔王の胴体のあった位置の空気が焼き切れ、熱とオゾン臭が立ち込める。

 

 混世魔王は自身の勘に従って、人型を捨て、鳥の姿に戻って舞い上がっていた。

 

 花果の頭上に影を落としたのは巨大な怪鳥。

 

 混世魔王の真の姿。

 翼を含めた全長は5mを超え、両足に掴んだ斬馬刀はさながら二枚重ねのギロチンの如し。ギロギロと鋭い眼光、ソレに負けず劣らず鋭いクチバシ。巨大を覆う真白い羽毛は混世魔王を無駄に荘厳に飾り立てている。

 

 舞った羽毛の一枚が光剣に触れ、スッと真っ二つに切れた直後にボッと燃えて消えた。

 

 混世魔王は一瞬の逡巡も無く、両足の斬馬刀を投げつける。

 

「無駄ッ、ブヘっ」

 花果は見事な反応で斬馬刀を真っ二つ。

 合計4つの塊がそのまま花果に激突した。

 

 切れ味が良すぎるのも困り物。

 切れ味が良すぎて投擲された武器の推進力を全く殺さず両断してしまった。

 

 花果が怯んだ隙に混世魔王が脱兎の如く空へ飛び立つ。

 光剣を見せつけられた時点で力量差は理解していた。

 

 三十六計逃げるに如かず

 

 部下などまた別の田舎山を乗っ取れば良い。

 今は自分が生き残る事だけを考えて、混世魔王は飛び立つ。

 

「お前だけ逃げるつもりか?」

 混世魔王が頭上を見ると悟空と目があった。

 

「応」

 

 悟空の渾身の踵落としを混世魔王は身体を翻し鳥の姿のままサマーソルトキックで迎え撃った。

 

 圧倒的な体重、体格の差で悟空の身体が打ち上がる。

 

 混世魔王が羽ばたき、宙を泳いだ身体が逆回転を始める。

 翼で宙返りの回転を反対方向に修正し、恐竜の様な鋭いかぎ爪がひるがえって悟空へ迫る。

 

「変われ!」

 悟空が吠え、悟空の身体が石に変わる。

 ザリザリとわずかに表層のみに跡を残し、混世魔王の蹴りが防がれた。

 

 しかし石になった悟空は咄嗟に動けない。打ち下ろしの蹴りを受けて落下する。

 

 僅かな隙に

 

 混世魔王は

 ギョワァァァァァァァ

 と全力で鳴いた。

 

 撤退の号令

 

 屍肉を漁っていた鳥妖が一斉に飛び立つ。

 

 四方八方全方位に散らばり逃げる。

 

 それと同時に混世魔王もその姿を低級の鳥妖と同じ様に小さく縮めて姿をくらませる。

 

「逃しません!!」

 花果が光剣に魔力を注ぐ。

 光剣が爛々と輝く。

 

永久(エク)──」

 

「待て! それで無理やり全ての鳥妖を焼き払うと、花果山を含めた周囲の山まで焼いてしまう」

「でも、アイツを逃す訳には「落ち着け、あの鳥は他の雑魚より明らかに強い。花果の千里眼なら見分けられるはずだ。後は俺を奴の所に送ってくれれば俺が片をつける」

 花果は敵は自分の手で取りたかったと少しだけ不満を顔に出し、すぐに引っ込め悟空に光剣を差し出した。

 

「悟空くん、攻撃力低いから、コレ使ってください。ビーム一回ぐらいなら撃てますから」

 憮然とした表情で悟空の手に光剣を握らせる。

 

「ああ、その通りだ。要改善だな」

 

 ◇

 

 四方八方散り散りになって逃げる鳥妖の中に混世魔王は紛れていた。

 

 権勢を誇示するように広げていた暗雲は霧散し、快晴の空が忌々しく混世魔王の背に照り付けている。

 

「畜生、次だ。次はもっと上手く」

 ぶつぶつと呟き、逃げる混世魔王だが、その頭の中には再起のためにどこを襲うか脳を働かせ──

 

「お前に次なんて、無い」

 混世魔王の頭上に悟空が居た。

 千里眼と空間転移の合わせ技。

 太陽系にいる限り美候王からは逃げられない。

 

「同じ事してんじゃねぇヨォォ!!」

 混世魔王が即座に小鳥の姿から怪鳥の姿に膨れ上がる。

 

「同じじゃねぇよ」

 悟空の振りかぶった手が頂点を通る。

 太陽の光に紛れ悟空の背に隠れて見えなかった光剣が姿を現す。

 

「裸猿ガァ!!」

 

 混世魔王が身を翻す。鋭いかぎ爪が十分な加速を持って振り抜かれる。

 

 再演

 されど誤差有り

 

 混世魔王の再度の蹴りに合わせるように悟空は身体を捻る。

 混世魔王の蹴りを躱し、

 光剣はくの字に曲がった混世魔王の背筋を正す様に、

 

 混世魔王の頭蓋にスッと光剣が当てられ、

 

 脳天から尾羽までをなぞる様に両断した。

 

 遺言も恨み言も、言う暇無く、地面に落下するより先に混世魔王は燃え尽きた。

 

 ◇◇◇

 

 ──────

 ────

 ──

 

 壊れた家は花果が能力で全てを元通りに戻した。

 襲われる以前の状態に完全に復元された。

 殺された人々が、襲われる直前までやっていた作業までもを完璧に。

 

 くつくつと煮えた味噌汁をかき混ぜる母の姿は無く

 

 中途半端に割られた薪を割る父は無く

 

 畑の側で遊んでいた子供はぬいぐるみだけを遺して

 

 5分の1の人がすっぽりと抜け落ちたまま村は再建された。

 

 人々は不平は何一つ言わなかった。

 

 戦争の中ではそんな事日常茶飯事だったからだ。

 

 皆、気丈に振る舞い、美候王様に感謝した。

 

 ()()()()()()()()()()で済んだのは美候王様のお陰だと。

 皆、大変喜び、死者を悼み、生に感謝した。

 

 再建された村のその日の夜は、妖怪の撃退を記念して、盛大な宴が開かれた。

 割れて家を燃やした酒すら元に戻っていたので、大人たちは「これは割れたモノ」だからと屁理屈をこねて皆で飲み干してしまった。

 

 美候王様は微笑を崩さず、ただただ朗らかに人々の感謝を受け取っていた。




混世魔王
本性 混世鳥魔
強さA- (悟空をA+として)
自身の身長よりも巨大な斬馬刀を2本振るうパワーファイター
エルデンリングに例えると
ジャンプ攻撃を多用する大剣2刀。
体力が減ると巨大な戦鷹(両足に剣を装備した鷹)に形態変化する。
その立派な名前と生態から生き残れば準レギュラーの幹部枠に入れるキャラの濃さがあった。
だが、初めて花果山を襲う下手人であるため、どう足掻いても死ぬ。

*原典においては悟空が仙人に弟子入りしている間に花果山に攻め入り、悟空が帰ってくるまでの数年の間に花果山の中枢である水簾洞まで攻め落として霊猿たちを離散させている。
その後、仇討ちに来た悟空に自慢の斬馬刀を奪われて首を刎ねられた。

黄金剣
ランクA
対人宝具
花果が自身の髪を一本使って生成した擬似聖剣。
魔力放出(光)のスキルを搭載しており、非活性状態は一本の紐。魔力を消費して光の刃を形成する。
魔性・悪特攻を持つ
刀身を形成するための魔力消費量はかなり重い。

安身法
結界魔術(仙術)
ランクC
円を描き内部を守る結界を張る。
原始的な結界術だが、古ければ古いほど神秘が強まる型月世界においては、発動の容易さに見合わない確かな強度を誇る。
ちなみに類似するおまじないがジブリ最新作「君たちはどう生きるか」で使用されている。

六賢筆頭
白毛獼猴(みこう)
年老いた猿は白髪になり、身体が白い猿はシルバーバックと呼ばれる。
獼猴は大柄な猿という意味。
花果、悟空の次に偉いご意見番。
霊猿の中では一番魔術が得意。
肝の据わったナイス爺。
*原典において孫悟空は七大聖という7人の魔王からなる義兄弟の集まりを作るが、悟空含めてそのうち3人が猿(数合わせ?)。その中に六耳獼猴王という猿王がいるが、流石に魔王のうち3人が猿なのはどうかと思うので格下げ。

Q.花果たちが居ない時にたまたま悪い妖怪が襲ってくるって都合良くない?

A.たまたまではない。花果山が霊峰なのは有名な話。
で、見張ってたら強い奴出かけてラッキー!という感じ。
紀元前だから実際の治安なんて北斗の拳並みに悪いからね。ヒャッハー
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