TSおねショタ雷十太   作:WhatSoon

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第十五幕「明治十一年五月十五日」

目が覚めたら、全てが終わっていた。

 

……いや、言い訳をさせて欲しい。

怪我を負った吾輩は寝込んで……起きたら八日も経っていたのだ。

 

確かに吾輩は斎藤の『牙突』を肩に受けた。

だが、後遺症も残らず致命傷を避けた傷だった。

 

しかし、考えて欲しい。

肩に剣が貫通するという怪我……それは、普通に大怪我なのだと。

 

しかも、この明治の時代……医療もそれほど進んでいない。

傷の縫合はされたとて、その再生は身体の自然治癒能力頼りである。

 

まぁ、そういう事情があって……八日も寝っぱなしだったそうだ。

ちなみに左之助は吾輩が気絶した後ぐらいに目を覚ましたようで、左之助が寝ていた所に吾輩が入れ替わったようで。

目覚めた時に見た恵の顔は疲労困憊となっていた。

申し訳ない。

 

しかして。

 

私が道場の隅で気絶している間に、剣心と斎藤の争いが死合いに発展し……駆け付けた明治政府の要人に止められたそうで。

斎藤の目的が剣心の力量を計るため……そして、斎藤に指示したのが明治政府の内務卿だったと明らかになった。

まぁ吾輩は知っていたが。

 

そして内務卿の口から、京都で『志々雄(ししお)真実(まこと)』が暗躍していると告げられた。

 

志々雄は剣心の……『人斬り抜刀斎』の後継者だ。

幕末、剣心が遊撃剣士として表舞台に登場した際に、影の人斬りの後釜として維新志士の一人として活動した。

だが、その本質は剣心と似て非なるもの。

功名心と支配欲、残虐性を兼ね備えた『人斬り』、それが志々雄 真実だ。

 

そんな彼を、明治政府は危険視し……戊辰戦争の混乱に乗じて、彼を殺害した。

油をかけて焼き殺したのだ。

 

しかし……そんな彼は生きていた。

火に焼かれようとも生きていたのだ。

そして、地獄の底から……この国を破壊せんと蘇ったのだ。

 

明治の日本の在り方を良しとしない者達や、戦闘狂を集めて一大兵団を形成している。

所謂『志々雄一派』という集団だ。

 

目的は……国家転覆。

彼の信条である『弱肉強食』を、この国に押し付けるため……。

 

明治政府は、そんな危険人物である志々雄真実を排除するために、剣心の力を借りようと……いいや、人斬り抜刀斎へ『暗殺』を依頼しにきたのだ。

 

しかし、彼はもう『人斬り抜刀斎』ではない。

結局は神谷道場の面々からの反対に遭い、返事は持ち越しとなった。

 

……その間、やっぱり吾輩は道場の隅で気絶していた訳だが。

何とも情けない話である。

 

 

それが八日前。

 

 

……そして、昨日。

つまり、明治十一年、五月十四日。

 

明治政府の内務卿が暗殺された。

 

表では明治政府に不満を抱く石川県士族を中心とした暗殺団の犯行とされているが……その実は、志々雄一派の手によって暗殺されたのだ。

 

白昼堂々、馬車の中にいた内務卿は……何者かの手によって斬り殺された。

犯人は走る馬車と並走し、御者に気付かれぬよう中にいた内務卿を迅速に暗殺した。

 

その後、暗殺団は馬車を待ち構え……既に事切れていた内務卿を発見した。

という経緯だ。

 

内務卿は明治政府の事実上の首相。

つまり、この国の長が……志々雄の配下の手によって殺害された。

 

……そう、概ね、原作通り、という事だ。

吾輩が眠っている間に、そこまで進んでしまっていた。

 

元々、干渉するつもりはなかったのだ。

定まった物語に手を入れるという事は、不確定な改変を起こしてしまうということ。

不幸な末路を辿る人間が幸せになるだけならば良い。

吾輩も喜んで手を貸そう。

 

だが、幸せになる筈だった人間が不幸になるかもしれない。

吾輩はそれを懸念し、怯えていた。

 

自身の選択で誰かが不幸になってしまうかもしれないと……その責任は背負いたくないと……吾輩は目を逸らしてしまっていた。

 

だが、もう目を逸らす気はない。

 

この世界で、この道場の者達や、塚山家の者達と生きるために……自身にできる事をすべきだと覚悟した。

そして己の行動に責任を持つと。

 

故に……こうして、一つ。

暗殺される事を知っていながらも、止められなかった自身を省みた。

これは吾輩の所為でもあると。

 

そして、昨晩。

物語は進む。

 

剣心は内務卿の死を切っ掛けに、決意を固めた。

志々雄一派を止めなければならないと京都へ向かったのだ。

薫にのみ別れを告げて……。

 

それが吾輩の寝ていた八日間の話だ。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

神谷道場の一番弟子である俺、明神 弥彦は……由太郎と共に道場の清掃をしていた。

夕方、稽古終わりの道場掃除だ。

 

斎藤がブッ壊した箇所の修理費は政府のオッサンどもが払ってくれたから、今は逆に破壊される前より綺麗になってやがる。

 

 

「……ったく」

 

 

悪態を吐いた。

 

剣心が道場を出て行ってからというもの、みんなバラバラになっちまった。

薫は布団に潜ってずっとメソメソしてやがるし。

左之助はイライラして外を出歩いてやがる。

 

ついでに由太郎は──

 

 

「…………はぁ」

 

 

こうして時折、思い詰めたような顔でため息を吐いてやがる。

薫が寝込んでる所為で素振りぐらいしか出来ねぇ鍛錬も、今まで以上に打ち込んでいる。

いや、打ち込みすぎってぐらいだ。

手のタコが潰れて竹刀の持ち手が血で滲むぐらいに……。

 

その気持ちは分かるぜ。

自分の無力感っつうか、力不足に耐えられねぇんだろ。

目の前で自分の先生がボコボコにされても、助ける事すら出来ず竦む事しか出来なかった自分が嫌なんだろ。

 

……由太郎程じゃねぇが、俺だってそう思ったからだ。

 

まぁ、でも……頑張れば頑張るほど強くなれる訳じゃねぇ。

どっからどう見ても、コイツは頑張りすぎだ。

もうすぐ身体を壊しちまいそうな程に。

 

そうして、こんな奴を心配しちまってる自分に少し苛立つ。

 

 

「……ため息吐いてんじゃねーよ、気が滅入るだろうが」

 

「……あぁ、そうだよな」

 

 

心ここに在らずって返事。

目すらこっちに合わせねぇし。

 

 

「……チッ」

 

 

舌打ちをしながら、掃除用具を棚にしまう。

夕焼けが窓から差して、道場を茜色に照らしている。

 

 

「……俺、そろそろ帰る」

 

「好きにしろよ。別に、今日の稽古も終わったんだろ」

 

「あぁ……そうだよな」

 

 

とぼとぼと、由太郎が道場を後にした。

実家の塚山邸で療養している、雷十太の元に向かったのだろう。

……しっかし、元気の「げ」の字もなさそうな感じだな。

 

 

「……まったく、調子狂うぜ」

 

 

道場で寝転がり、大の字になる。

ひんやりとした床の冷たさが、今はただ心地よかった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

塚山邸に帰宅した俺は、閉じられた戸の前に立っていた。

ここは先生の部屋だ。

 

深呼吸して、西洋風の戸を叩く。

 

 

「先生、入って良いですか?」

 

「あぁ、構わない」

 

 

返事を聞いて、戸を開ければ──

 

 

「……せ、先生?何してるんですか?」

 

 

寝巻きではなく、最近よく着ている女性物の着物でもなく……黒い(カラス)の羽飾りが付いた着物を着ていた。

昔……神谷道場の人達と知り合う前に着ていた服装だ。

 

先生は寝床から立っており、机の前で何やら支度をしていたようだ。

寝床には、先生の代わりに……編笠の、浪人笠が置いてある。

 

……何処かに向かうための支度をしているようだった。

その事実に気付き、血の気が引く。

 

そして──

 

 

「あぁ、由太郎。京都に行くための用意だ」

 

 

それが事実だと分かり、冷や汗をかいた。

 

 

「な、何でですか!?何してるんですか!?」

 

「何とは……剣心は京都へ向かったのだろう?吾輩も後を追わねば……」

 

「そういう話をしている訳じゃありません!」

 

 

俺がそう口にすれば、先生は首を傾げた。

京都へ向かうのが当然だと言うような態度に……俺は寝込んでいる薫さんに少し共感した。

 

大切な人が目の前から居なくなってしまう。

それも危険な死地へ飛び込もうとしている。

それは凄く、恐ろしくて怖い事なのだ。

 

 

「先生は怪我人なんですよ!?」

 

「大丈夫だ。もう動ける。自分の身体の事は自分でよく分かってる」

 

「そ、それでもダメです!京都は危険だって……」

 

「だからこそ、吾輩は行かねばならない。分かるだろう、由太郎?」

 

「分かんないですよ、そんなのっ……!」

 

 

子供の癇癪を諭すような目で、先生は俺を見ていた。

その視線は優しかったけれど、何だか突き放されたような気がして、無性に腹が立って、悲しくなった。

 

理屈では、確かに先生が京都へ行こうとする気持ちは理解できる。

先生は確固たる意志を持って、人助けのために死地へ向かおうとしている。

 

だから、止めちゃダメだって分かる。

だってこれは……先生が京都へ向かう事は、きっと正しい事だからだ。

 

 

「安心してくれていい。必ず、戻って──

 

 

きっと先生は理屈では説得できない。

俺が何を言っても、先生は考えを変えないだろう。

 

だから、俺に出来る事はもう……先生の感情に訴えかける事だけだった。

俺は……先生の服の裾を掴んだ。

 

 

「……由太郎」

 

「い、行かないで……ください」

 

 

声も震えている、情けない懇願だった。

それだけ俺は切羽詰まっていた。

 

 

「俺、先生が……あの警官に刺されて……倒れた時……もう二度と、先生と話すことも出来ないかもって……思って……それが、怖くて……」

 

「由太郎……」

 

「もう二度と、先生に危ない目にあって欲しく、ない……」

 

 

先生の顔を見れない。

こんな、情けない姿を晒して……幻滅されてしまったと思うと、怖くて。

 

それでも、震える声のまま言葉を紡ぐ。

 

 

「どうして、先生が行かなきゃならないんですか?緋村が、剣心が居れば……それで十分じゃないですか……?」

 

「……いや、剣心も人間だ。一人では出来る事に限度がある」

 

「それならっ……先生が一人向かう意味だって──

 

「由太郎。吾輩は今、自分にできる事を為すべきだと……ようやく分かった。だから、見て見ぬ振りは出来ない」

 

 

その理屈は正しかった。

俺の言っている事は滅茶苦茶だ。

理解は出来る。

それでも、それでも納得は出来なかった。

 

 

「なら、せめて、俺もっ──

 

「それはダメだ。由太郎」

 

 

胸の奥が震えて、体も震えて……視界が、ボヤける。

 

 

「お、俺が弱いから……ですか?」

 

「…………そうだ」

 

 

先生が振り絞るような声で、そう言った。

分かっていた。

 

俺では先生の足手纏いになってしまう事を……剣心や左之助達みたいに、強くはない事を。

だけどこうして、突き付けられてしまうと……悲しくて、苦しくて。

 

 

「……ふ、ぐ……」

 

 

嗚咽と涙と共に、心の奥底から悔しさと情けなさが滲み出でてくる。

それは先生に見せたくないもので、堪えようとしても……堪え、られなくて。

 

 

「……由太郎」

 

 

優しく、声を掛けられた。

 

宥めないで欲しかった。

気を遣わないで欲しかった。

だって、自分がみじめに思えてしまうから。

 

だけど……そんな俺の感情とは真逆に、先生の手が俺の頭に触れた。

優しく撫でられて……思わず、視線を先生へと向けた。

 

 

「あ……」

 

 

先生もまた、凄く寂しそうな顔をしていた。

感情を噛み潰したような、辛そうな顔だ。

……ようやく、俺は理解した。

 

先生も京都へ行きたい訳ではないのだ。

死地に自ら飛び込みたい訳でもない。

 

ただ、自分がやらねばならないと、そう感じているだけなのだ。

 

なのに俺は、先生の覚悟を踏み躙ろうと……先生に辛い思いをさせてしまった。

俺がやるべきだったのは、先生を信じて送り出す事だけだったのに。

 

 

「……先生、すみ、ません。俺は……」

 

 

溢れたのは謝罪の言葉。

自分がどれだけ情けなくて、酷い事をしてしまったのか……理解した故の、謝罪だ。

 

どこか、今すぐここから逃げ出したい欲にかられる。

それでも、これ以上、先生に幻滅されたくなくて……先生の手が伸びて、俺の肩を掴んだ。

 

そのまま……引き寄せられた。

 

 

「……せ、先生?」

 

 

身長差もあって、先生の胸元に頭を埋める形で。

格好の付かない姿になってしまったけれど、先生の熱を感じられた。

 

 

「……謝るべきなのは『私』だ、由太郎」

 

 

静かな鼓動が耳元で響く。

想い人に密着しているという状況だけれど、今は気恥ずかしさよりも……安心感が勝っていた。

 

 

「これは私の我儘だ。それでも、許して欲しい」

 

 

見上げれば、先生の顔が見えた。

距離は近いのに、それは少し遠く感じた。

ほんの少しの距離が、凄く遠くに感じたから。

 

 

「お、俺は──

 

「お前を連れて……守れる自信がない。だから……すまない。私が弱くて」

 

 

抱き締める力が少し強まった。

それでも、俺の体を必要以上に締め付けないようにしようとしているのが感じた。

……全力で抱きしめる事が出来ないぐらい、俺は……弱い。

 

だから、もう、俺に出来る事は──

 

 

「……絶対、帰って来てくれるんですよね」

 

 

ここで待つ事ぐらいだ。

先生が帰って来れる場所として、ここで待つ事ぐらいしかできない。

悲しいけれど、それが俺に出来る唯一の事だった。

 

 

「当然だ……まだ教えていない事が沢山ある」

 

「……なら、もう何も言いませんから」

 

 

涙が濁流のように流れている今、凄く情けない顔をしているだろうけど……精一杯の強がりをした。

好きな人の前でくらい格好つけたかった。

 

先生は俺の顔を見て……深く、頷いた。

そして俺から離れて……それがほんの少し寂しかったけれど……。

 

頭を優しく、撫でられた。

 

 

「では、行ってくる」

 

「……今から、ですか?」

 

「あぁ。善は急げと言うだろう?」

 

 

突然過ぎる。

それでも、何も言わないと言った手前、何も言えなくなってしまった。

男の意地だ。

 

口出ししたい気持ちを何とか抑えて、ため息を吐いた。

 

 

「……わかりました。今から乗り物の手配を親父に──

 

「いや、徒歩で向かう」

 

 

突如、先生が意味の分からない事を言った。

 

 

「え?は?」

 

 

思わず失礼な態度を取ってしまうのも仕方ない事だろう。

東京から京都まで、どれだけ遠いと思っているのだろうか?

何か勘違いしてるのだろうか。

 

 

「怪我で鈍っていた身体の鍛錬をしつつ、京都へ向かおうと思ってな。斎藤に負けた手前、吾輩も鍛え直しと──

 

「だ、ダメです!何言ってるんですか先生!ここから京都まで、そんな散歩気分で行ける距離じゃないですよ!」

 

「え?いや、吾輩、出身が西の方だから京からの距離ぐらいは分かっているつもりで──

 

「尚更、馬鹿です!先生は大馬鹿です!」

 

「ば、馬鹿?」

 

 

先生が何やら衝撃を受けたような顔をしているが、事実である。

ここから京都まで馬車で向かっても何日もかかる距離。

それを徒歩で向かおうなどと馬鹿のする事である。

 

 

「だ、だが剣心も徒歩で向かったと聞いているが──

 

「先生は女性じゃないですか!」

 

「関係あるのか?」

 

「大有りですよ!」

 

「そ、そうか……?」

 

 

剣心は男で、先生は女性だ。

先生を見くびっている訳ではないが、色々と必要な事柄や、配慮すべき違いがある。

道沿いの宿の距離感を考えれば、徒歩では野宿をしなければならなくなる。

 

幾ら先生が大丈夫だからと言っても、心配になってしまう。

 

 

「何でそう、変な方向に思い切りが良いんですか、先生は!?」

 

「……い、いや、その……」

 

「船で行って下さい!親父も、屋敷の奉公人も全員そう言いますよ!」

 

「……す、すまぬ」

 

 

しょぼしょぼと小さくなる先生を見て……既に涙は引っ込んでいた。

 

少し前の……狂言をしようとしていた余裕のない頃とは違う。

ちゃんとした、いつも通りの先生だって分かったからだ。

 

だから安心して……待っていられると、ようやくそう思えた。

ちゃんと帰ってきてくれると。

 

 

その後、親父の元に先生を引っ張って連れて行き、徒歩で京都に向かおうとしていた事を叱られ、大阪行きの船を手配して貰っていた。

 

叱られてる最中、先生はかなり項垂れていた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

翌朝、吾輩は船に揺られていた。

乗り心地はあまり良くないが、徒歩よりはマシか。

 

……いや、やはり徒歩の方が良かったかも知れない。

つん、と鼻に吐瀉物の臭いがした。

大部屋の誰かが船酔いで吐いたのだろう。

 

ため息を吐いて、甲板に出た。

水平線が見える。

陸地からもかなり離れているようだ。

 

潮の匂いを感じつつ……背に背負う竹刀袋に意識を向ける。

 

この竹刀袋に入っているのは、竹刀ではない。

木剣でもない。

……実家から勘当された時から持っている真剣だ。

 

この剣、刀商をしている由左衛門に見定めて貰った所、そこそこの業物という評価を得た。

……勘当はされたが、手切れ金として刀を授けてくれるぐらいには……吾輩は嫌われていなかったのだろう。

そう思えれば、この刀に対する情も湧く。

 

今の京都に行くならば、この剣は必要だった。

幕末の剣客や、闇の住人、暗殺者……武器の差で敗北する事だけは避けたい。

 

……しかして、殺さぬ為の加減というのは難しい。

確かに塚山家に居候する前に行っていた凶賊狩りの時、吾輩はこの真剣で凶賊を殺さず捕えていた。

 

それは相手との力量の差があったからこそ出来た事だ。

相手の武具を破壊し、力量の差で心を折る。

 

……そんな事は、志々雄一派には通用しないだろう。

特に……幹部である『十本刀』と呼ばれる十人に対しては。

 

奴等は志々雄に心酔してる者や、確固たる意志を持っている者達だ。

力量の差程度では諦めないだろう。

 

……ならば、どうすれば良いのか。

 

斎藤の言っていた通り、真剣での加減は難しい。

人斬りではない吾輩では、同格の剣客相手に不殺(ころさず)の加減は出来ない。

 

して、ならば。

 

 

「…………」

 

 

竹刀袋を胸元に持ってくる。

両手で握り……視線を落とす。

 

このままでは駄目だ。

……一つだけ、思い当たる技がある。

 

原作『では』使用されていない『飯綱』が。

それを……使い熟せるようになれば、あるいは。

 

……視線を上げる。

 

青々しい海と、青々しい空が広がっていた。

 

これから、この船は清水港を経由して大阪へと向かう。

由左衛門から大阪行きまでの金銭を貰ってはいるが……吾輩は清水港で降りるつもりだった。

 

寄り道ではあるが……ただの寄り道ではない。

 

東海道五十三次、沼津宿。

そこから離れた所にある村落……そこが目的地だ。

 

名は……『新月村』。

そこで今、苦しめられている人達がいる。

志々雄の配下の手によって、殺される未来の善人がいる。

 

……息を深く吐く。

もう見て見ぬ振りはしないと誓ったのだ。

自分に出来る範囲で……戦わなければならない。

 

竹刀袋を……そして、その下にある真剣を、強く握った。

 




新アニメの由太郎くん可愛かった。

次回ちょっと遅れます。
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