TSおねショタ雷十太   作:WhatSoon

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第十九幕 白べこ

旅館、薫の借りた少し広い部屋にて。

 

 

「まったく……そんな事で無茶をするな」

 

「すみません、先生……」

 

 

吾輩はのぼせた由太郎を膝枕しながら、団扇で仰いでいた。

先程、銭湯に入っていたら急に落ちてきたのだ。

そして、そのまま気を失ってしまった。

 

慌てて湯船から引き上げれば、女湯の入り口で弥彦が慌てていた。

そして、事情を聞いてみれば……猿に財布を取られたとか、なんとか。

 

しかも、薫に黙って持ち出した金だという。

何をしているんだと怒りではなく、呆れてしまう程だ。

 

そのまま吾輩は気絶した悪童(わるがき)と気絶してない悪童(わるがき)を連れて、薫の元へ連行した訳だ。

薫は二人が居なくなっている事に気付いて心配していたようだったが、吾輩を見て驚き、何とも言えない雰囲気になってしまった。

 

今、弥彦は薫に説教されているが。

由太郎の説教は吾輩の役目である。

 

 

「大体、風呂に居たのが吾輩だったから良かったものの……知らぬ女性が居れば、こうして叱られる以上に大変だったのだぞ?」

 

 

そう、ここにいるのが吾輩でなければ、相当な問題になっていた事を予測するには容易く。

由太郎が幾ら子供といえども、だ。

 

そう考えての吾輩の言葉だったが──

 

 

「それは……っ、その、はい、そうですが……」

 

 

何とも歯切れの悪い返答が返ってきた。

はて、そんな返答が返ってくるとは思っても居なかったので、吾輩は少し困惑した。

 

由太郎は良い事と悪い事の区別はつく。

厳格な家で育てられただけあり、その辺は聡い。

 

だというのに、こうも歯切れが悪いのはよく分からぬ。

 

 

「……何か思う所があるのか?」

 

「い、いえっ、そうではなく……すみません。俺が悪いのはよく分かっています」

 

 

その言葉に裏はなさそうである。

本当の意味で反省はしていそうだ。

故に、先程の納得していない様子が、罪に対してではなく、吾輩の発言に対するものだと分かる。

 

……いや、吾輩は常識の範疇でしか話をしていない筈だが。

 

と考えながら、視線を横にずらす。

 

 

「弥彦!また由太郎くんを悪事に引き込んで!」

 

「ちげぇって!アイツも乗り気だったんだって!」

 

 

わちゃわちゃとしている様子を見て、思わず頬が緩む。

一人旅で荒んだ心が癒されるような──

 

いや待て。

一人旅なぞ過去に幾度もしていた筈だ。

寧ろ、誰かと過ごすという行為は塚山家に世話になってからだ。

 

一度人肌を知れば、人無しでは生きていられない。

吾輩は野生の兎なのかも知れん。

 

自嘲しながら由太郎へ目線を落とせば、少し複雑そうな顔をしていた。

 

 

「どうかしたか?」

 

「……先生は怒らないんですか?」

 

「怒っているだろう、今」

 

 

説教が甘いのか、怒っているように見えないのか。

いや、実際、吾輩は叱っているつもりでいるが、感情から怒っている訳ではない。

 

あくまで無茶をすること、悪事……というよりは悪戯のようなことをしたことに対しての説教である。

確かに怒っていないのか。

 

そう考えていると、由太郎が首を横に振った。

 

 

「そうではなく……俺が京都に来た事です」

 

 

あぁ、そのことかと得心する。

 

 

「由太郎。吾輩が来るなと言ったのは心配してだ。今すぐにでも東京へ戻って欲しいと考えてはいる」

 

「……先生」

 

「しかし、覚悟を持ち、薫さんと来たのであれば言う事もあるまい。出来る事を目の前にして、何もせずに居られないという気持ちも分かる。であれば、帰らせようとももう思わない」

 

 

薫と共に京都へ由太郎が来る……その未来が想定できなかったか?と問われれば、答えは否である。

正直に言えば、由太郎が京都へ来るであろう事は想定していた。

 

由太郎は優しい。

剣心が、薫が、弥彦が。

困っているんであれば、渦中に飛び込む勇気もある。

であれば、この結果は想定できた事でもある。

 

 

「先生、ありがとうございます……」

 

 

吾輩は頷き、由太郎の頭を撫でた。

子供特有のさらさらとした感触を確かめつつ、現状を省みる。

 

 

「しかし、硬くないか?」

 

「硬く?何の話ですか?」

 

「吾輩の膝の話だ」

 

 

現在進行形で、吾輩は由太郎に膝枕をしている。

考えてみれば布団に寝かした方が良かったのではないかと今更、反省しているが。

この旅館は高級旅客でもなく、布団は薄く、床の硬さを直接感じる事になる。

 

そう思っての膝枕だったが、吾輩の太腿は鍛え上げられているため筋肉で途方もなく硬い。

結果的に床に寝るのと変わらないかも知れない。

 

 

「か、硬くないですよ?寧ろその、えっと……」

 

 

由太郎はまだ湯船でのぼせた余韻があるのだろう、顔を赤くしつつ否定した。

気を遣わせてしまったようだ。

 

そう考えていると──

 

 

「……マセガキ」

 

 

横から弥彦が、薫に説教されながらも小声で何か口にしていた。

よく聞き取れなかったが、由太郎はそれを悪口と認識していたようで弥彦を睨んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、吾輩は剣心が京都に居る事を話した。

道中で出会った事も含めて話せば、薫は嬉しそうにしつつも心配そうな顔をしていた。

さもありなん。

危険な道に進む想い人を考えれば、心配になるというものだ。

 

弥彦は「やっぱ剣心は何処にいても人助けしてんだな」ぐらいでしか考えてなさそうだ。

 

由太郎は、吾輩が怪我をしていた事を知って根掘り葉掘り聞いてきたが。

この世界の剣客は凄まじい再生力を持っている。

重傷間近であろうと、数日あれば治る。

そう心配するような事でもないと口にしたが、由太郎……どころか薫、弥彦からも湿(ジト)っとした目で見られてしまった。

 

解せぬ。

左之助相手にはそう、心配せんだろうに。

 

そういう訳で、翌日以降は吾輩は三人と行動する事となった。

彼等は剣心と会うために。

吾輩は剣心と合流するために。

目的は同じだが、少し異なる。

 

 

そうして一晩が明け、吾輩達は日中の京都へと足を進めたのだが──

 

 

吾輩の足元を犬が走り抜けた。

少し茶色がかった毛色の惚けた愛嬌のある犬だ。

 

 

「なんだあの犬」

 

 

あれは、ちゃうちゃう。

いや、ちゃうちゃうちゃうんちゃう?

ちゃうちゃうちゃうんか。

じゃあ結局なんの犬なんだ。

 

どうでもいい会話が脳裏を過ぎった。

こんな事に脳の容量を使いたくはない。

 

現在、吾輩、薫、弥彦、由太郎の四人は赤べこの店長の娘、妙の実家へと向かっていた。

この時代、宿代も飯代も旅人には高いもので、融通を利かせてくれるそうで。

 

吾輩は剣心が葵屋に居たであろう事は知っているが……今は何処に居るか断定できない。

そもそも葵屋が何処にあるか分からんし。

そういう訳で、一旦の拠点として居座らせてもらう事にしたのだが。

 

地図を片手に云々と唸る薫を前に、吾輩は少し苦笑した。

 

 

「道が分からないのか?」

 

「え?あ、うん、そうなの……あれ、こっちだと思うんだけどな……」

 

 

明治時代に便利な電子機器などない。

地図を読むにも方角も分からず、一苦労だ。

 

 

「……薫さん、ちょっと貸してください」

 

「うん、いいけど……分かる?」

 

 

由太郎が地図を受け取り、頷いた。

 

 

「分かります。こういうの、得意なので」

 

 

由太郎は商家の跡取り息子であり、こういった初めて行く土地に対する地図の見方なんかも習っているのだろう。

ちなみに吾輩は地図が読めない。

単純に方向音痴なのもある。

 

由太郎と道場破りをしていた頃は、よく地図を読ませて先に場所を特定して貰っていたぐらいだ。

何とも迷惑な先生だと、吾輩も自覚はしているが。

 

 

そんな訳で、由太郎の案内のもと京風牛鍋「白べこ」に到着した。

店主の名は、関原 冴。

赤べこの店長の娘、妙の双子の姉だ。

 

 

「いらっしゃいまし。話は妙から知らされてるわ。色々と大変やったみたいやね?」

 

 

容姿もそっくりで、声も同じく。

違うのは口調ぐらいか。

 

並べられたら区別つかんだろう。

 

何やら色々と薫と冴が話している中、吾輩は店内を見渡した。

赤べこと代わりない店内だが、どことなく漂う空気感は違う。

 

なんて考えていると──

 

 

「あら?あらあら?」

 

 

冴が吾輩に近寄ってきた。

 

 

「……何か?」

 

 

興味を引くようなものでもあるまい、何の用かと問えば冴は笑みを浮かべた。

 

 

「あんた、妙の言うてた雷十太さん?」

 

「そ、そうだが?」

 

 

距離も詰めてくる。

糸目で色白の美人が、褐色で筋肉質な吾輩に詰めてくる。

推されているのは吾輩だ。

 

 

「ふむ……ちょっと失礼」

 

 

何を失礼かと思えば──

 

 

「ぬっ!?」

 

 

腹筋を触られた。

撫でるように、三往復ほど。

 

思わず、変な声が漏れて……恥ずかしさのあまり、睨んでしまう。

 

 

「な、何をするか」

 

「いや、いえ、ねぇ?せやねぇ、妙が……うーん……うん」

 

 

何だと言うのか。

吾輩が顔を顰めていると──

 

 

 

「まぁまぁ、雷十太さん。ほら落ち着いて」

 

 

薫が落ち着くように肩を撫でてきた。

 

 

「どうどう、雷十太。どう──

 

 

ついでに弥彦が吾輩の背中を叩いて。

 

 

「先生を馬扱いするな!」

 

 

由太郎に蹴りを入れられていた。

ぎゃぁぎゃぁと喧嘩が始まり、薫が慌てて仲裁に入る。

いつもの光景ながら、あの二人はどうしてこうも仲が良いのか。

 

呆れて怒気も失せて、吾輩は冴へ視線を戻した。

 

 

「それで、吾輩が何だというのか?」

 

「うーん。せやねぇ……ね、雷十太さん。いっこ提案あるねんけど……」

 

「提案?」

 

「そ。三人ぐらい泊めるんは全然問題ないんやけど、四人となるとうちも苦しくてなぁ。分かるよね?元々、三人って聞いてたし、うち」

 

「……それは確かに申し訳ないが」

 

 

痛い所を突かれた。

元々、薫、弥彦、由太郎の三人が世話になる予定だった。

そこに大の大人である吾輩が増えるとなれば、白べこへの負荷も増えるというもの。

 

流石に気まずく思っていると、冴がにこりと笑みを浮かべた。

 

 

「せやから、提案。あることをしてくれたら、泊まらせてあげるのも“やぶさか”ではないというか。泊まってええよー、ってなるんですけど。どうやろか?」

 

 

提案か。

確かに宿泊費の対価として、何か働くというのも悪い話ではあるまい。

 

 

「いいだろう。言ってみるといい」

 

「ほんと?わー、助かったわ、本当おおきに。そんで提案っていうのは──

 

 

よくよく冴の目を見ると、細目で開いていた。

そして、ぎらぎらと肉食獣のような目になっていた。

 

冷や汗が垂れるが、もう既に決断はした。

全てが遅かったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃい、ま、せ……」

 

「あかんあかん!そやない、もっと愛想よーく可愛いーくね!」

 

 

吾輩の強張る声を聞き、冴が注意してきた。

 

吾輩は今、女物の着物の上に洋物の前掛け(エプロン)をつけて、頭に一つリボンを巻いていた。

 

なんたる屈辱か。

仏陀は死んだのか。

 

 

「なんでぇ、雷十太のやつも苦手の一つぐらいあるってか」

 

 

なんて悪態を後ろから吐いてきたのは弥彦である。

 

 

「っ、安心してください、先生!似合ってますよ!」

 

 

由太郎の擁護が身に染みる。

どちらかと言えば身というよりは、傷なのだが。

 

いや、理解はしているのだ。

吾輩が店で給仕服を着るなど似合わんことなど。

 

これは冴の提案である。

一時的に白べこを手伝う……それが店を宿代わりに使う条件である。

無論、本題である志々雄関連があれば、そちらを優先していいそうだが。

 

しかし、何故、吾輩なのか。

仕事をするのが嫌という訳ではなく、こうも似合わん格好をさせる理由がわからん。

 

そも、なんだこのリボンは。

ちゃらちゃらとした若人向けの装飾なぞ、似合う訳がない。

 

 

「雷十太ちゃん、また顔が強張ってるで。笑顔やね、笑顔ぉ」

 

「……あい分かった」

 

 

……にこぉ。

勤めて頬を緩めるが、眉間に皺は寄るし、引きつってる。

 

そんな吾輩を見て、薫さんが口を開いた。

 

 

「雷十太さん……無理しなくていいからね?私も仕事の手伝いするし。いいですよね、冴さん」

 

 

なんと良い娘か。

 

しかし、薫は歳若く、見目麗しく、華麗な剣術小町である。

このような服もさぞ似合うだろう。

 

 

「ええの?助かるわぁ。お店手伝ってくれるならくれるだけ、嬉しいから」

 

 

冴の同意に薫は頷き、視線を弥彦に向けた。

 

 

「それに、弥彦にも働かせるし」

 

「は!!!?なんで俺まで!!!?」

 

「だって弥彦、東京では赤べこで働いてるでしょ?勝手が分かると思うし、適任でしょ」

 

 

弥彦がげーっと顔を顰めた。

それを見て由太郎も頷いた。

 

 

「薫さん、俺も働きます!先生だけに働かせる事なんてできませんし!」

 

 

うんうんと頷く由太郎に、弥彦が顔を顰めた。

 

 

「イイ格好してんじゃねーぞ!」

 

「なんだお前、一宿一飯の恩知らずか?」

 

「……チッ!!」

 

 

なんとも仲の良い二人である。

吾輩の生暖かい視線に気付くと、弥彦はぶすっと顔を歪めた。

 

そんな二人を見て冴さんはより笑顔を深めていた。

 

 

「この二人も似合いそうやねぇ……取り敢えず、ちょっと着替えて貰えへん?」

 

「「げっ」」

 

 

吾輩の痴態を楽しんでいた結果、巻き込まれてしまった……故に自業自得である。

冴の有無を言わさぬ笑みに、弥彦と由太郎は怯んだ。

 

念仏でも唱えておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わはははは!よく似合ってるぞ、弥彦!」

 

「馬鹿言ってんじゃねぇ!似合ってんのはお前だろ!」

 

 

由太郎と弥彦が互いを罵りあっている。

薄紅色の可愛らしい柄をした着物の上にエプロンを付けて、頭に小さなリボンを付けている。

男にも付けられるのか、そのリボン。

 

三人の女性陣の視線に気付き、弥彦が顔を顰めた。

 

 

「だいたいなんだ、これは!俺ァ東京の赤べこで働いてたんだぞ!エプロン着用の義務なんてねェだろ!」

 

「弥彦、東京と京都では違うのよ?」

 

 

弥彦の慟哭に薫が真顔で答えた。

そして、由太郎が頷いた。

 

 

「そうだぞ、弥彦。ぷっくく、薫さんの言う通り。ふふふ、のれんが分けられていようと、店によって勝手が違うのは普通だぞ、弥彦」

 

「てめェはいったいどっちの味方なんだよ!その格好に思う所はないのか!?」

 

 

正直に言えば、だ。

弥彦は似合ってない。

彼の粗暴さが可愛らしい服と擦れを起こしている。

 

対して、由太郎は似合っている。

リボンは確かに過剰であるが、彼の容姿は比較的、理知的で整った風貌だ。

女装とまでは言わないが、こういった中性的な服装もよく似合う。

 

 

「そもそも!そもそもだ!女の雷十太は分かるが、俺がなんでこんな服装なんだよ!」

 

 

弥彦が冴さんを指差した。

こらやめろ、雇い主を指差すでない。

そもそも店の経営戦略であるなら、手伝いである吾輩達も甘んじて受け入れて──

 

 

「そら、あれやろ。うちの趣味♡」

 

 

前言撤回。

誰かこの女を何とかしてくれ。

 

 

「……あ、あはは。流石は妙さんのお姉さん」

 

 

薫も流石に呆れて苦笑している。

そんなこんなしていると、客がやって来た。

 

吾輩は慌てて客の前まで移動して、一つ挨拶を口にする。

 

 

「いらっしゃ……いませ?」

 

「いませ?」

 

 

来た客の顔を見て、吾輩は顔を強張らせた。

見覚えのある顔だった。

 

巻町 操である。

新月村でも剣心と行動を共にしていた、忍者娘である。

 

 

「……何?顔に何かついてる?」

 

 

しかし、こちらには気付いていない様子。

さもありなん、あの時とは服装も雰囲気も違うだろう。

火事場の吾輩と紐付けるには難しいか。

 

 

「……覚えておらんか?」

 

 

店員用の口調から崩して、平時のものにする。

すると操は片眉を上げて、手を顎に当てて、何かを思い出すような仕草をして──

 

 

「あっ!緋村の知り合いの!」

 

 

吾輩を指差して、声を上げれば──

 

 

「あなた剣心に心当たりがあるの!?」

 

 

薫が操の肩を掴んで、がくがくと振り回した。

 

 

「わっ、あ、あんたっ、なづっ!?」

 

「ねぇ、剣心を知ってるのね!?今どこに──

 

「薫、落ち着け。落ち着け」

 

 

弥彦がため息を吐く程である。

いつもの様子と真逆の二人に苦笑しつつ、吾輩は薫の脇腹に手を突っ込んで操から引き剥がした。

 

薫は普段しっかりしているが、剣心のことになるとどうも冷静ではいられないらしく。

その辺りはやはり、恋する乙女というか、歳相応というか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

店内の一席を借り、操と薫は話し合った。

東京を出て京都へ向かう剣心について、そして先日、志々雄一派の十本刀と争ったこと。

そして、剣心が人を巻き込みたくないと、数日前に葵屋を出た事を。

 

 

「……剣心ってそういう所あるよな」

 

「あるある」

 

 

後ろで由太郎と弥彦が随分と失礼な事を言っている。

その二人に対して、薫は少し苛立っていた。

 

 

「泣きに泣いて恵さんに後押ししてもらって、京都に来たのに……!頭に来た!こーなったらどんな手を使っても剣心を見つけて、一言がつんと言わなきゃ気が済まないっ──

 

「どうどう、落ち着いて」

 

 

吾輩は怒り心頭の薫を抱き抱え、操から引き剥がす。

薫が小柄で、吾輩が大柄なのもあり、小動物を持ち上げるような感覚だ。

 

そんなこんな、暴れる薫を落ち着かせていると、音が耳に聞こえた。

爆ぜるような、萎むような音。

 

 

「……む。弥彦、薫さんを頼む」

 

「……は?頼む、じゃねぇけど!?」

 

 

怒れる少女を弥彦に押し付けて、音の聞こえた方へ……格子窓から外を見た。

白い煙を上げながら、色のない花火が打ち上がっていた。

 

 

「狼煙……」

 

 

吾輩の様子から、操も外を確認したようだ。

つまるところ、この狼煙は葵屋によってあげられたもので、剣心を呼び出す狼煙。

 

飛天御剣流の師範、比古清十郎の発見を知らせる狼煙であった。

 

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