目前に比古清十郎。
隣に、剣心。
そして、吾輩。
吾輩だけ一歩、格下であるには違いない。
ざぁざぁと崖から水が落ちて、滝底へと沈む。
空気中に満ちる水気と、剣気。
今すぐにでも爆ぜそうな爆弾を目の前にしているかのような、焦燥感と緊張感。
そんな中、目の前にいる比古清十郎がにやりと笑った。
「どうした?来ないのか?」
明らかな挑発。
だが、それは物事を有利に進めようと謀る挑発ではなかった。
それは湿気た火薬に発破をかけるようなもの。
吾輩を焚き付けて、その火を見たいという興味。
「……ふぅ」
ならば、乗らねば無作法というもの。
「はぁ……ッ!」
吾輩は全身の筋肉を怒張させて、微細に振動させる。
力を込めるのが目的ではなく、身体を震わせる事が目的だ。
「……ほう?」
そんな吾輩の姿を見て、比古清十郎は感嘆の息を吐いた。
対して、剣心も片眉を上げて少し驚いているようだ。
そんな視線が集まる中、吾輩は真剣を水平に構えた。
「
「ああ、来い」
堂々と防御体制を構える比古清十郎に対して、吾輩は剣を振りかぶる。
筋肉の微細な振動を剣先に伝え、その剣先から空間へ、空気の層が生み出される。
秘剣──飛飯綱。
空気の断層は真空の刃となり、空間を引き裂く斬撃となる。
それを吾輩は水平に放った。
上段からの振り下ろしに比べて威力は劣るが、回避は困難。
まともに当たれば
「……なるほど、確かに厄介だ」
対する比古清十郎は不可視の斬撃を前に、その性質を感じ取っていた。
そして、目の前に飛飯綱が迫る瞬間……地を蹴り、跳躍した。
当然、斬撃は避けられる。
だが、宙に浮いたその隙を見逃す吾輩ではない。
水平に薙ぎ払った構えのまま、吾輩は片足を軸に踏み込み直す。
そのまま一回転しつつ振りかぶり、さらなる技へと繋げる。
「
一度解き放った真空を、回転と同時に再度生み出し、回転の力を元に解き放つ。
「……む」
再度放たれた飛飯綱は、一度目と同等の速度を持っていた。
名付けて『飛飯綱返し』である。
地を蹴り、宙へ飛んだ比古清十郎に避ける事はできない──
と、考えるのは比古清十郎を知らぬ人間だけだ。
彼は宙で回転し、身に纏っていた外套を脱ぎ捨ててつつ空中で軌道変化した。
斬撃は外套と比古清十郎の間を通り……比古清十郎は無傷のまま地面に着地した。
同時に、強烈な衝撃音と共に地面へ外套が落ちた。
地面が砕けている……そして、外套は布とは思えぬ異様な形に跳ね上がっている。
尋常ならざる様子に訝しむと、比古清十郎が鼻を鳴らした。
「フン……重さ十貫の肩当て、筋肉を反る
そして、比古清十郎が髪を掻き上げた。
「まさか、こんな早々に脱がされるとはな」
「……それを脱ぐつもりはなかったと?」
「俺に露出の趣味はない」
的外れな悪態を吐きつつも、比古清十郎には余裕が見える。
そして、外套の下に着ている赤い服越しに、身体の形がはっきりと見えた。
瞬間、吾輩は目に集中して……比古清十郎の肉体を透かし見た。
「……なんと」
凄まじい肉体だ。
体躯は大きく、筋肉質……無駄な脂肪一つなく、無駄な筋肉もない。
ただ剣を振るう事に最適化された、究極の剣士……その肉体。
正しく、万金に値する究極の機能美だ。
剣士としての完成形と言って良いだろう。
「さて……馬鹿弟子。お前は見ているだけか?俺は同時に来いと言ったんだ……順番に交代などせんでいい」
「……師匠がそう言うのであれば」
「フン、さっさと来やがれ」
瞬間、剣気が爆ぜた。
比古清十郎を中心とした空間から、押し出されるような威圧感。
びりびりと、肌が震える。
これが外套を脱ぎ捨てた比古清十郎か──
そう考えた瞬間、剣心が前に出た。
「はッ!」
地面を蹴り、宙を飛ぶ。
それこそ、頭上から剣を相手に叩きつける技であろう。
飛天御剣流──龍槌閃。
「フン」
それに対して、比古清十郎は迎え撃つように剣を構えて飛翔した。
恐らくは、大地を蹴り、剣を切り上げる技。
飛天御剣流──龍翔閃。
「おおお!!」
二つの飛天御剣流が接触する……吾輩がそう考えた瞬間──
「がっ!?」
剣心が比古清十郎に蹴り飛ばされた。
そのまま剣心は宙を回転しながら、地面へと転がった。
「く、っ……!」
だが、受け身は取れたようで即座に立ち上がっていたが。
そんな剣心に対して、比古清十郎は指を差した。
「お前は自分の読みに頼り過ぎだ。経験から自分の読みに違いはないと考えやがる……その頑固さは、短所だぜ」
嘲笑しつつも、欠点を指摘する。
なるほど、師匠らしい姿だ。
「師匠も、性格が悪い……」
「フン、そういうお前も昔から生意気なままだ。だが、ここまで腕が鈍っているとは予想外だったぜ。奥義伝授なんてする前に、試して正解だった」
「くっ……」
そう言い切り、比古清十郎が吾輩へ目を向けた。
「さて、互いに一手ずつ様子見したんだ。次こそ同時に掛かってこい」
比古清十郎の言葉に剣心が立ち上がり、比古清十郎へと構え直した。
そして、吾輩に耳打ちする。
「拙者が隙を作る。隙が見えたら、雷十太殿は飛飯綱を」
「承知した」
短い作戦会議に対して、比古清十郎は欠伸をしながら刀の背で己の肩を叩く。
「おいおい、丸聞こえだぞ?」
聞こえているようだが、構わない。
元々、作戦会議とは形だけの意思の共有。
知られた所で問題になるような、緻密な作戦など存在しないのだから。
「では、拙者から……はッ!」
瞬間、剣心が地面を蹴った。
速い──
あの時見た、瀬田 宗次郎に負けず劣らずの瞬発力。
「フッ」
それを鼻で笑い、比古清十郎は鞘を腰から引き抜き、剣を収めた。
対して、剣心もいつの間にか剣を鞘へと収めていた。
互いに抜刀術の構えを取りながら、距離が縮まる。
制空権を犯し、先手を取ったのはどちらかて…吾輩の目には同時に見えた。
「はぁッ!」
神速の抜刀術同士がぶつかる──
剣がぶつかりあう。
そう考えていたが、現実は違った。
「なッ!?」
響いたのは、鈍い音。
剣心の放った剣は、比古清十郎の鞘に防がれていた。
比古清十郎は抜刀していなかったのだ。
鞘に剣を収めたまま、剣心の一撃を相殺したのだ。
そして、たった一瞬。
たった一瞬の鍔迫り合いではあったが、力の差は歴然だった。
技術ではなく、生物としての力の差が。
「しまっ──
剣心は鞘の一撃を受け流しきれず、浮き上がっていた。
真に恐るべきは、剣心を浮き上がらせるほどの一撃を放った比古清十郎だ。
「ふんっ!!」
瞬間、剣心は弾き飛ばされた。
剣越しに凄まじい力を込められ、吹き飛ばされたのだ。
木々を砕いて吹き飛ぶ剣心を横目に、吾輩は剣を構えていた。
そう、今が好機なのだ。
剣心を弾き飛ばした余韻が抜けきっていない、今の隙こそが狙い目である。
「
秘剣・飛飯綱──
空を引き裂く斬撃が、比古清十郎の元へと疾る。
対して、比古清十郎はまだその場に留まっている。
そして……鞘を振り回した姿勢から、そのまま抜刀した。
そうだ、飛天御剣流の抜刀術は全て、隙を生じぬ二段構えであった。
飛天御剣流──双龍閃・雷。
かつて吾輩を破った一撃が、飛飯綱とぶつかった。
だが、飛飯綱をそれで受け止める事は出来ないはずだ。
真空の斬撃は、剣と接触したところで、そのまま剣を貫き、剣客へと届く。
そう考えていたが──
「なに……っ!?」
吾輩の一撃は、比古清十郎の剣と接触した瞬間に砕け散った。
そして、見たのだ。
相殺する直前、比古清十郎の剣先が蜃気楼のように歪んで見えたことを。
それは間違いなく、纏飯綱であった。
吾輩の技であった。
驚く吾輩に対して、比古清十郎は息を深く吐いた。
「フン……そう驚く事じゃない。お前の剣はさっき見た。そして、その性質も見抜いた。であれば、俺に出来ない道理はない。違うか?」
「……そう容易く使い熟せるとは思いたくなかったが」
「安心しろ。並の、いや、一流の剣客でもこうは上手く行かない。俺がただ一流を超えた、超一流だった……というだけだ」
滅茶苦茶な理屈だが、比古清十郎の言葉であれば道理となる。
それ程までに規格外。
これが飛天御剣流、第十三代目継承者……比古清十郎なのだ。
「さて、次は俺から行こう」
「むっ」
「そう遠くから斬撃を飛ばすだけでは、分からん事もあるだろうし……な!」
刹那、比古清十郎の足元が爆発したかのように見えた。
速さだけならば、体の軽い剣心の方が上となる筈……だとしても、殆ど同速だ。
吾輩はこの透き通るような視界の中で見た。
全身の筋肉を発条のように、しなやかに、しかして力強く活かし、大地を踏み抜いたのを。
そして、その結果が迫り来る。
比古清十郎が吾輩の間合いに来る。
「……っ!」
油断していた訳ではない。
だが、あまりにも速すぎる。
吾輩は剣を構えつつ、大地を踏み砕く。
剣に纏うは飯綱、迎え撃つは真空の刃。
直後、比古清十郎が吾輩の間合いに入った。
「おおッ!」
声を発し、気を昂めて、剣を振るう。
袈裟斬り、それを放った。
だが、比古清十郎も同様に剣を振るう。
左右逆転、互いに剣がぶつかり合う。
それ即ち、比古清十郎の剣が真空の刃を纏っていた事の証明となる。
「ぬうっ!?」
砕けた真空の刃は吾輩の薄皮一枚を引き裂いた。
僅かに血が漏れる。
対して、比古清十郎は見えているかのように、その不可視の斬撃を避けきっていた。
そして更に、吾輩は力負けをしていたのだ。
鍔迫り合いの中、押し込まれていく。
吾輩が力負けをしている。
その事実は理解できても、衝撃であった。
これまで、吾輩を純粋な筋力で上回る剣客と相対した事はなかったからだ。
「く、おおッ!」
吾輩は剣を弾き、身を引く。
さすれば、比古清十郎の剣を避けられると思っていたからだ。
だがそれは甘えであった。
一歩。
そう、一歩だ。
吾輩は一歩退いた。
そして、彼は一歩踏み込んだ。
ただそれだけで、間合いの内に居た。
「歯を食い縛れ、少し痛いぞ」
その言葉が耳に届いた瞬間──
ゴッという音と共に、肩に衝撃が走った。
「があッ!?」
剣を逆手に持ち、棟で吾輩を叩き潰すかのように振り下ろしていたのだ。
みしり、と衝撃で全身の骨が悲鳴を上げていた。
「っ、う、ぐ……ッ!!」
吾輩は地面に倒れそうになりつつ……同時に、片手で地面を叩いた。
受け身を取りつつ、再び剣を構えたのだ。
「なるほど、やはり根気があるな。この俺の一撃を受けて、尚倒れないとはな」
そう比古清十郎が語る。
「やっぱりお前は、どちらかというと俺と型が近い」
「近い……型が?」
ここまで別格の相手に言われてもよく分からない。
困惑していると、剣心が林から戻ってきた。
「はぁ、はぁ……!」
「随分と遅いご帰還だ。それにボロボロだな」
「どの口が……!」
木の葉を払いつつ、剣心が比古清十郎を睨んだ。
「その意気だ。お前はどうにも、戦う気力が薄い。ここで俺と戦っても無意味だと考えている節がある」
「……っ!」
「舐めるな。その鈍った腕、甘え切った心では、飛天御剣流の奥義習得など夢のまた夢だ。このバカ弟子が」
流れるような罵倒に辟易しつつも、剣心は心も折れていないようだった。
そんな剣心を見て少し嬉しそうにしているのは……比古清十郎が捻くれ者だからか。
そうして、比古清十郎が薄く笑った。
「さあ、続けるぞ」
吾輩と剣心、二人を相手取りながらも少しの疲れも見せない。
そんな比古清十郎を前にして、吾輩は息を飲み込んだ。
◇◆◇
「はあ、はあ……っ」
既に何度打ち込んだだろうか。
拙者と雷十太殿で、師匠に挑んでから既に数刻が流れていた。
太陽は沈み、月が上り、また沈み……夜が明けようとしていた。
「…………」
師匠を前に、雷十太殿は既に気を失っていた。
地面に女子を寝かせている事に対する申し訳なさ……よりも、真に恐るべきは師匠の持久力だ。
拙者と雷十太殿を前にして、未だ息切れすらしていない。
そしてまだ、拙者は一撃も入れられていない。
「オイ、いつまで休んでるんだ。いい加減、攻めて来い」
「く……っ」
しかし、本当に性格が悪い。
こうして息を整える事すら咎めてくるとは。
飛天御剣流継承者第十三代目比古清十郎──
性格が悪く、陰険。
ぶっきらぼうで人間嫌い。
拙者の過去を知っており、それを面白半分でほじくり返すタチの悪さを持つ。
「オイ、陰口ってのは思ってても口に出すもんじゃねェぞ」
だが、間違いなく最強の剣客。
人斬りの時代を含めて、師匠よりも強かった者は居らず……それどころか、比べられる相手すら居なかった。
ならばこそ、今、まだ体力のある内でなければ勝ち目はない。
「……行きます、師匠」
万感の想い、覚悟、決意。
その全てをこの逆刃刀に込め、全身全霊、渾身の一撃を放つ。
それが唯一、打ち負かす方法だ。
「おう。来い、バカ弟子」
瞬間、拙者は地面を蹴った。
同時に、師匠も地面を蹴った。
師匠は拙者の方に……だが、拙者は宙へと飛び上がっていた。
「空中戦か……良いだろう。付き合ってやる」
瞬間、師匠も大地を踏み砕き、直角に飛び上がった。
飛んだ拙者を追うように、飛び上がったのだ。
対して、拙者も剣を構えた。
宙を飛ぶ拙者に対して、それを迎え撃たんと飛び上がる師匠。
即ち、先程の再現。
しかし、先程とは剣に込める力が違う。
飛天御剣流──
拙者と師匠、どちらも奥義を選択した。
ここで決着をつけるという覚悟だ。
その決意のまま、拙者は剣を振り下ろした。
──龍槌閃!!!
対して、師匠は剣を振り上げた。
──龍翔閃!!!
互いの剣が、空中でぶつかった。
火花が散って、吹き飛ぶ。
確かな手応え。
だが、その衝撃は拙者の身体を貫いた。
痺れる感触と共に目の前に光が散って──
「うぐっ!?」
拙者は地面に叩きつけられた。
平衡感覚が狂う中、視線は師匠へと向ける。
「惜しかったな。技のキレは悪くなかったが……紙一重で、力不足だ」
師匠は地面にすんなりと着地していた。
だが、その手が震えている事に気付いた。
間違いなく、衝撃は師匠の体をも貫いた。
今なら碌に剣も振るえないだろう。
ならば、今が好機──
そう思い、立ちあがろうとするが……足が震えて立ち上がれない。
「脳震盪だ。着地の際に姿勢制御すらできんほど、全力で剣を振るうからそうなる」
「くっ」
「だが、そうでもしなけりゃ一撃すら当たられねェ……その気持ちは分かってやらんでも──
そこまで口にして、師匠は視線を拙者から背けた。
そして、振り返った。
「……驚いたぜ。目を覚ましたか」
そこには、雷十太殿が立っていた。
しかし、あまり万全と言える状況ではない。
「……ふんッ!」
まるで幽鬼のようにふらふらとしていたが、大地を踏み締めて構え直した。
「気迫は十分、か。いいぜ、相手してやる」
地面に倒れる拙者から背を背けて、雷十太殿と師匠が向き合う。
雷十太殿も疲労困憊のようだが、師匠の腕も震えている。
どちらも万全ではない。
であれば、どちらの方がマシなのか。
そう考えていると──
「かッ!」
雷十太殿が白目を剥きながら、大地を踏み砕いた。
正気や冷静さを失おうとも、戦いを挑んだのだ。
「は、あっ!」
瞬間、雷十太殿が剣を振り抜いた。
だが、師匠は一歩引いて避けていた。
「甘いぜ」
そして、剣を鞘から抜こうとして……身体が固まった。
「……ちっ」
拙者には見えていた。
先程の拙者の一撃と相打った所為で、剣を抜く事ができなかったのだろう。
それは雷十太殿も同様に……疲れに疲れて、切った張ったなど出来なさそうだ。
だが、それでも。
雷十太殿は剣を構えて、師匠へと近付いた。
「お、おおおッ!!!」
怒声と雄叫びと共に、その剣が師匠へと迫る。
だが、それでも師匠は師匠だった。
「来るか……だが、まだまだだ」
両手で押さえるように、雷十太殿の剣を受け止めていたのだ。
「あれは……!?」
飛天御剣流──龍咬閃。
手を組むようにして、剣身を押さえて白羽取る、飛天御剣流唯一の無手。
それを雷十太殿という剛力者に対して使ったのだ。
ここまで疲弊させて、剣を抜くことを躊躇わさせて尚、まだ勝てないというのか。
そう考えていたが──
「まだ、だッ!」
雷十太殿は剣を捨てた。
受け止められていた剣を投げ捨てたのだから。
「ん……?」
互いに素手へと……いや、今は剣身を受け止めるべく両手で掴んでいる師匠の方が不利だ。
「
直後……雷十太殿の拳が振り抜かれた。
純粋な殴打、それが師匠へと迫り──
既に剣を捨てていた師匠は、逃げるでもなく雷十太殿へと向き直った。
「だが、まだ甘いぜ……そお、らっ!」
そして、迫る雷十太殿の拳を避けて、その腕を掴み……背負い投げた。
「ら、雷十太殿!」
このまま大地に叩きつけられれば、受け身も取れまい。
吾輩の声が響いた瞬間、雷十太殿の目に光が宿った。
それはまだ諦めていない、覚悟の目だった。
「
掴まれていた腕を固定し、投げ捨てられた慣性を生かして接地したのだ。
「何……っ」
腕が痺れている今、雷十太殿を掴み続ける事が出来なかったのだ。
「はあああああッ!!!」
そして、そのまま雷十太殿は、師匠の腕を掴んだまま振り回して……地面へと叩きつけた。
「……は、はぁ……く、くっ」
どかん、と地表が砕けて……雷十太殿は、そのまま地面へと転がった。
投げた側も無事では済まなかったのだろう。
「……ふう」
対して師匠は……即座に地面を殴り、立ち上がった。
傷は全く無いように見える。
攻撃した側が限界を迎えて、攻撃を受けた側が無傷。
それでも──
「一撃は一撃か」
師匠に初めて、攻撃を与える事ができた。
その貢献人である雷十太殿は──
「…………」
地面に再び転がっていたのだった。