TSおねショタ雷十太   作:WhatSoon

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第六幕「塚山庭園・会談」

「あ?石動……雷十太だって?俺が寄らねぇ日に限って、そんな面白ぇ奴が来てたかい」

 

「面白くないわよ!」

 

 

薫殿が、竹箒で左之助の頭を殴ろうとして……避けられた。

 

相楽 左之助。

元・喧嘩屋で、現在は神谷道場でタダ飯ぐらいをしている居候でござる。

……それは拙者も同じでござるが。

頼りになる男で、竹を割ったような性格でござる。

 

 

「左之、何か知っているでござるか?」

 

「あー……まぁ、浪人笠でデケェ女って特徴で思い出したぜ。喧嘩屋をしてりゃ、多少はそういう情報が入ってくる」

 

 

左之助が竹箒を手で受け止めた。

薫殿も、気になるようで耳を傾けている。

 

 

「『凶賊狩りの雷十太』。でけぇタッパと、鋭利な剣、小綺麗な顔。そんで、凶賊を狩りまくってた流浪人(るろうに)だな」

 

流浪人(るろうに)……?」

 

 

薫殿の視線を感じる。

拙者は目配せをして、左之助の言葉の続きを促す。

 

 

「数年前からパッタリと聞かなくなったが、当時は結構……裏では有名だったぜ。俺にも何度か、喧嘩屋として依頼が来る程にな……ま、断ったが」

 

「おろ?左之が断ったでござるか?」

 

「ったりめーだ。女と喧嘩する趣味はねぇーよ」

 

 

薫殿が箒を降ろした。

何か、考え込むような素振りをしている。

 

……拙者が、代わりに代弁するか。

 

 

「左之、『凶賊狩り』という事は、殺しを──

 

「それは知らねぇ。だが、五体満足で豚箱にぶち込まれてる奴が結構いる。だからこそ、恨まれてんだが……」

 

「なるほど……殺して遺恨を断たぬ故に、逆恨み……で、ござるか」

 

「そういうこった。面白ぇ奴だろ?」

 

 

左之助がカラカラと笑い、それを見た薫殿は頬を膨らませた。

 

 

「あの女の所為で前川道場がしばらく門を閉じる事になっちゃったのよ!?何も面白くない!」

 

「ふーん。けど、そりゃあ──

 

 

左之助が手を開いて、指を立てた。

 

 

「仕方ねぇんじゃねぇか?嬢ちゃん」

 

「……仕方ない?」

 

「おう。前川って奴と、雷十太は正々堂々勝負したんだろ?それで一方的に負けたとなりゃ……な?」

 

「で、でも……」

 

「一流派、一道場。ソイツを担うんなら『相手が強すぎた』なんて言い訳にしかならねぇ。だろ?剣心」

 

 

左之助の目が拙者に移った。

……酷く、非情な言い分だが──

 

 

「確かに、そうでござるな」

 

「……剣心」

 

 

剣術とは戦う術。

その流派を背負い、尋常な勝負を果たした。

結果、負けた。

ならば、仕方ない事。

 

前川殿は自ら戦いに挑んだ。

そして、返り討ちに遭ったのだ。

外から文句を言う筋合いはない。

 

 

「しかし──

 

 

それにしても、強過ぎたのは事実。

腕を磨くとか、道場破りを愉しむとか……そういった目的ではないのは確か。

実践本位の殺人剣にて、何故……あのような事をしているのか。

 

それに、あの目。

淀み、歪み、混ざった目。

……負の感情が見えた。

怒りや妬みではなく……あれは、憂い。

何かを不安に思い、それを取り除こうと躍起になっている。

 

……何を考え、何を目的に道場破りを──

 

 

「ごめんください」

 

 

神谷道場の門から、声が聞こえた。

そちらに顔を向けると……一人、洋服を着た老人がいた。

 

そして、拙者の顔を見るなり口を開いた。

 

 

「お尋ねしますが……緋村 剣心様でしょうか?」

 

「……確かに、拙者が緋村でござるが」

 

「おぉ、そうでしたか。では、これを」

 

 

老人は頬を緩め、拙者に近付いて……紙を手渡してきた。

そこには──

 

 

「「招待状?」」

 

 

覗き込んできた、薫殿と声が被った。

裏返すと……成程、『石動 雷十太』と名前が書いてあった。

 

薫殿と左之助が、首を傾げた。

 

 

「え?何コレ、どういう事なの?」

 

「は?決闘状の間違いじゃねぇのか?」

 

 

困惑する二人を他所に、老人……恐らく、雷十太からの遣いが口を開いた。

 

 

「さぁ……私はただの奉公人ですので。とにかく表へ馬車を用意しております。よろしければ──

 

「あぁ、行こう」

 

 

拙者が立ち上がると、薫殿と左之助も立ち上がった。

 

 

「おろ?呼ばれたのは拙者だけでござるが……」

 

「嫌よ、だって気になるし」

 

「面白そうだろうが、俺も混ぜろ」

 

 

拙者はため息を吐いて、奉公人へと顔を向けた。

 

 

「二人増えても、大丈夫でござるか?」

 

「えぇ、まぁ……恐らく」

 

 

安堵の息を吐き……ふと、気付く。

 

一人、留守番させる訳にもいかんな。

それに……あの、由太郎という少年がいるのならば……きっと、連れて行く事が正解になるだろう。

 

 

「すまぬが、そこの二人に加えて、もう一人連れて行っても良いでござるか?」

 

「構いませんが……」

 

 

そう言って、拙者と左之助、薫殿と弥彦。

四人で馬車に乗った。

神谷道場、総出である。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「先生、今日……あの、緋村 剣心って奴が来るんですよね?」

 

「あぁ」

 

 

服装を整え、由太郎に向き直る。

由太郎は床に正座し、吾輩を見上げていた。

 

 

「……な、何故ですか?」

 

「何故、とは?」

 

「……いえ、何か思惑があっての事だと……思い、まして」

 

 

思惑、か。

言うならば、剣心に吾輩への悪印象を植え付けるのが目的だ。

これから成される、吾輩の悪事……それを打ち砕くのは彼でなくてはならない。

 

……吾輩が悪人であれば、神谷 薫も由太郎へ同情的になるだろう。

そうして、神谷道場で預かって貰えれば……吾輩も、悔いなく此処を去れる。

 

……しかし、それを正直に由太郎に言える訳もない。

 

 

「奴は優れた剣客だ。一つ、談義してみたくなってな」

 

「……ず、随分と気に入っているのですね」

 

 

由太郎が顔を強張らせた。

……最近、吾輩は由太郎を避けている。

これ以上、情を深めても、別れの時に互いが辛いからだ。

 

故に、吾輩が執着『しているように見える』剣心という存在が気に食わないのだろう。

……いや、実際に吾輩も執着しているのか。

 

吾輩の悩むような顔に、由太郎が眉を顰めて……小さく、口を開いた。

 

 

「……先生」

 

「何だ?」

 

 

それはか細く、縋るような声だった。

 

 

「……俺に、剣を教えてください」

 

「…………」

 

「お願い、します……」

 

 

優れた剣客に執着する吾輩。

それに対して、少しでも気を引きたいのならば……自身がその『優れた剣客』になるしかないと。

そう思ったのだろう。

 

……胸が、少し苦しい。

 

 

「……ダメだ」

 

「な、何故ですか?そんなに、俺は……俺は、見込みがないですか!?」

 

「……由太郎」

 

「頑張りますから、どんな鍛錬にだって耐えてみせますから……きっと、きっと先生の弟子に相応しいぐらい強くなってみせます!だから──

 

「由太郎」

 

 

言葉を被せ、制止する。

由太郎は目を潤ませて、息を少し荒げて……口を、噤んだ。

 

 

「すまない、由太郎」

 

「……先生、俺は──

 

「まだ、ダメだ」

 

「……何、で……ですか?」

 

 

由太郎が目を強く閉じる。

頬を涙が伝う。

 

吾輩は慰めようと手を伸ばし……握り、堪えた。

吾輩にその資格はない。

 

由太郎の側を通り……耳打ちする。

 

 

「……いずれ、教える。だが、今はダメだ」

 

「…………」

 

 

もう、言葉すら返せないようだ。

吾輩の身体は強張り、今すぐ……こんな強がりをやめて、抱きしめたい衝動に駆られる。

 

それでも、耐えなければならない。

此処で流されては、由太郎の為にならない。

 

 

「……本当に、すまないな」

 

 

謝罪を漏らし、その場を後にした。

振り返る勇気は、吾輩には……無かった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「どうぞ、こちらです。私は馬車を収めて参りますので……ここで。真っ直ぐ庭を突き抜けますと、母屋に辿りつきますので」

 

 

そう言って、奉公人の老人は拙者達から離れていった。

 

拙者も、薫殿も、左之助も弥彦も……全員が呆けていた。

一番最初に、正気に戻ったのは左之助だった。

 

 

「……なぁ、嬢ちゃん。雷十太ってのは、こう……着飾ったお嬢様なのか?」

 

「ぜ、全然?厳つい筋肉質の身体をした、剣客って感じよ……うん、確か……自信なくなってきたけど」

 

 

左之助と薫殿が何やら、失礼な事を言っている。

拙者がため息を吐くと同時に……前方から誰か……成人済みの男が現れた。

 

 

「緋村さんですか?よくいらして下さいました」

 

「お主は──

 

「初めまして。この家の主人で、塚山 由左衛門と言います」

 

 

その言葉に、弥彦が片眉を上げた。

 

 

「塚山?するってーと……あのクソガキの親父か?」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、薫殿が弥彦の口を塞いだ。

 

 

てめー、何すんだ(ふごー、ふごふご)!」

 

「バカ!失礼な事を言わないの!」

 

 

拙者が苦笑すると、由左衛門殿も苦笑した。

……成程、あの由太郎の父親である。

この年頃の子供が言うことを聞かないのを、よく体験しているのでござろう。

 

がさり、と足音が聞こえた。

 

 

「…………」

 

 

そこには、由太郎が居た。

顔を顰めて、拙者を……睨んでいた。

 

……試合とはいえ、彼が尊敬している師匠の頭を叩いたのだ。

嫌われても仕方なかろう。

 

 

「……雷十太先生が呼んだのは、そこの剣客だけだぞ。何で、お前らが居るんだ」

 

 

険しい言葉に、弥彦が顔を顰めた。

 

 

「あ?俺がいちゃ悪いかよ」

 

「当たり前だろ。呼んでもないんだから──

 

「こら!やめんか、由太郎」

 

 

それを制止したのは、父、由左衛門だった。

由太郎は納得していないようで、まだ顔を顰めた。

 

由左衛門は小さくため息を吐き、拙者に向き直った。

 

 

「申し訳ありません、緋村さん。息子が無礼を働いてしまい──

 

「いえ、こちらこそ弥彦が失礼を致した」

 

 

目下、睨み合ってる弥彦と由太郎を見る。

……こうして、同年代故に友達になれるかと思ったが……少し、早かったでござるか。

 

相性は悪そうな気はしないが……似た者同士、故に反発しているでござるな。

 

 

「……雷十太先生は池のほとりにて待っています。私がご案内いたしましょう……由太郎は、お連れの方々を案内しなさい」

 

「……チッ」

 

 

由太郎が聞こえるぐらいの音で舌打ちをした。

由左衛門殿も聞こえていたようで、苦笑していた。

 

 

 

……そのまま、二人と別れて由左衛門殿と庭園内を歩く。

 

行き届いた整備の中で、踏み締められた足跡が見えた。

同じ箇所を何度も踏みつけて、硬くなった土。

 

それに……苔も生えていない、最近も動かされたばかりであろう重石。

壁に立てかけられた真新しい巻藁。

 

……なるほど、由太郎と雷十太はここで鍛錬をしているのだろう。

 

 

「……緋村さん、私は刀商を中心とした貿易をやっているのですよ」

 

 

徐に、由左衛門が口を開いた。

 

 

「日本の刀は欧羅巴(ヨーロッパ)では芸術品として愛でられています。しかし、その商いは武士の魂を売るような行為……やっかむ連中も出てきます」

 

 

その言葉に、拙者も頷く。

拙者はどうこう言うつもりはないが、古い武士族ならば文句の一言も出てもおかしくはない。

 

 

「結果、私と由太郎は馬車ごと凶賊に襲われました。そこを丁度通りがかった先生に助けて貰ったのです」

 

「……そうだったのでござるか」

 

 

……やはり、雷十太。

悪い人間ではない……のだろう。

 

 

「以来、彼女にはウチで由太郎を鍛える剣客として……また、客人として滞在して貰っています。しかし、あの容姿と口調でしょう?少し……誤解を招いていると思いますが──

 

 

由左衛門の眉が上った。

 

 

「悪い人ではないんです。そこだけは、貴方に知って欲しいのです」

 

「……随分と彼女を信用されているでござるな」

 

「当然です。助けて貰いましたし……今も、彼女には救われていますから。でなければ、息子を預けたりはしません」

 

 

由左衛門の顔には、まるで家族を想うような……そんな感情が垣間見えた。

 

 

「……士族ならば、いつ如何なる時でも強くなければなりません。しかし、それを私が由太郎へ教える事は出来ません。ですから、先生に任せているのですよ」

 

 

そう言って、由左衛門は半身、ずらした。

手で指し示された場所は、池のほとり……つまり目的地であった。

 

 

「では、あちらに先生が居ますから」

 

「……かたじけない、由左衛門殿」

 

「いえ……ごゆっくりと」

 

 

由左衛門から離れ、池のほとり……池へかかった橋を渡る。

目的の人物が、橋の中央に佇んでいた。

 

夜の町や、道場で見た格好ではない。

袴を着た女性がそこに立っていた。

 

しかし、町娘が着るような可憐な物ではない。

質素な色合いをしている。

それに、腰には、鞘……真剣を差していた。

 

 

「……よく来たな、緋村 剣心。いや……緋村 抜刀斎と呼ぶべきか」

 

 

向き合う。

過去の名を知られていようと、もう驚く事はない。

 

 

「拙者はもう、そう名乗っておらぬよ。剣心で構わん」

 

「……ふ、そうか」

 

 

やはり、目は濁っている。

由左衛門から聞いた印象、左之助から聞いた伝聞……それらに似合わぬ、目。

 

どれが真実なのか……それは、今から分かる事。

内心、少しの緊張をしながら……会談へ、足を進めた。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

親父が離れた後。

 

緋村 剣心について来た奴らを見回した。

 

神谷道場の師範代、神谷 薫。

クソムカつくクソガキ、明神 弥彦。

後もう一人、ガラの悪い……誰だ、コイツ?

 

兎に角、親父に言われたからには、もてなさなきゃならない。

 

息を深く吐く。

 

 

「仕方ない。ついて来な。粕漬けと二番茶ぐらいなら振る舞ってやる」

 

 

剣心の方……先生とどんな事を話すのか、気になって仕方がない。

だけど、今は……何で付いて来やがったんだ、コイツら。

悪態だって吐きたくなる。

 

 

「……ほう、そりゃ結構なオモテナシだな。だが、俺達にはちょいとやる事があるんだよ」

 

「は?」

 

 

振り返ると、ガラの悪い男が手を閉じて、開いてを繰り返していた。

それを見て、神谷道場の師範代……神谷 薫がギョッとした。

 

 

「ちょ、ちょっと左之助──

 

「あ?ちょっと(さらし)で縛って、剣心の後を追うだけだろうが」

 

 

その言葉に、俺は冷や汗をかいた。

ガラが悪そうだとは思ったが、コイツ……本当にガラが悪い。

 

だけど……剣心の後を追う、か。

少し悩み……ガラの悪い、左之助と呼ばれた男へ顔を向ける。

 

 

「……俺が案内してやる」

 

「お?」

 

「代わりに、バレないように気を付けろよ」

 

 

俺が鼻を鳴らすと、左之助はニヤリと笑った。

 

 

「お前も気になんのか?自分の師匠が何話すか」

 

「……当然だろ。よく分からない流浪人(るろうに)が、先生と何を話すか……心配だろうが」

 

 

顔を顰めると、弥彦が下卑た笑みを浮かべた。

 

 

「へっ……エロガキ」

 

「は!?何言ってるんだ!俺はそんなんじゃない!」

 

 

苛立ち、弥彦に大股で近付こうとすると……薫に止められた。

 

 

「はいはい!二人とも、そこまで!早く追わないと、剣心達の会話も聞けないわよ?」

 

「ぐ……」

 

「それもそーだな。早く案内しやがれ」

 

「……何でお前は、そんなに偉そうなんだ」

 

 

ムカつく二人と、女一人を連れて……俺は先生のいる池のほとりへと向かった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「今日は拙者に、何の用でござるか?」

 

 

拙者は、目前の雷十太へ問いかける。

歪んだ視線が、拙者を貫く。

 

 

「……お前は、今の日本剣術をどう思う?」

 

「どう、とは?」

 

「惰弱だと思わないか?脆弱だと感じないか?いや……感傷ではなく、本当に弱くなっているだろう。身も心も」

 

「…………」

 

 

拙者は先日の、前川道場の門下生達を思い出した。

そして、偽・抜刀斎事件で神谷道場から離れた門下生達もだ。

 

剣技が弱いのはまだしも……確かに、道場の危機に立ち向かう意思も見せないというのは……弱くなった、と言っていい。

昔ならば、敵うか敵わないか、そんな事も考えず道場の危機に立ち向かっていたであろう。

 

 

「弱いモノは必ず淘汰される。日本剣術も、いずれは……」

 

「何が言いたいでござるか?」

 

 

回り道をするような言葉に、思わず問い掛けた。

そして、その言葉に雷十太がニタりと笑った。

 

 

「緋村 剣心。貴様には……我が『真古流』の一員となり、これから始まる日本剣術再興の立役者になって貰いたい」

 

「……真、古流?」

 

 

思わず、目を細めた。

 

 

「そうだ。まだ、吾輩しかいない流派だが……貴様が一員となれば、それだけで凡百の流派に勝る」

 

「……お主の門下に入れと?」

 

「否。『真古流』は凡ゆる古流剣術を許容し、内包する。無論、貴様の『飛天御剣流』も」

 

 

……拙者の流派を知っているか。

緋村 抜刀斎という昔の名を知っているのだから、荒唐無稽ではない。

 

しかし、随分と情報通のようだ。

 

 

「ふむ……流派、と言っても剣客集団のような物でござるか」

 

「左様。貴様と共に『真古流』を立ち上げ、今ある剣術……全て、根こそぎ……根絶する」

 

「……根絶?」

 

 

ぴくり、と眉が動いた。

聞き逃せない不穏な言葉に、警戒を強める。

 

 

「そうだ。日本剣術の再興……ならば、弱体化の要因となった現在の剣術、全ては邪魔ではないか?」

 

 

雷十太が自身の手を握りしめた。

 

 

「全てを破壊し、後に『真古流』を広める。決して弱体化する事がない、不滅の剣……それを正当な一流として、再興を始めるのだ」

 

 

……滅茶苦茶だ。

だが、筋は通っている。

 

強さを求める武術として、それは『正しい』かも知れない。

しかし、武術とは『強さ』だけが全てではない。

 

それに気付いていないのか、気付かないフリをしているのか、気付いている上で踏み躙るつもりか。

 

 

「そうだ。弱者に剣を教える必要などない。真に強き素養のある者のみが、殺人を是とする剣を身に付ける!真に強き、古き剣術を甦らせるのだ!」

 

 

澱んだ目が、拙者を見た。

滲み出る、邪悪な自惚れ。

 

それを醜悪に感じながらも……どこか、何かが……欠けているような気がしたのだ。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

俺は、先生の言葉に目を見開いた。

喉が、乾いた。

 

そして、横から声が聞こえた。

 

 

「何て、事をするつもりなの……」

 

 

薫がそう言い、左之助が反応した。

 

 

「……だが一理はあるぜ。能や歌舞伎みてぇに、限られた者のみが習得できるようにすりゃあ……強さの純度を保つ事ができる」

 

 

理屈は正しいのだと、そう左之助は言った。

 

俺は冷や汗が流れるのを感じた。

 

嘘だ。

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。

 

先生は嘘を吐いている。

だって、そんな素振りを見せた事はなかった。

先生はそんな事しない、優しい人だ。

 

違う。

先生はそんな事、考えて無い筈──

 

 

『弱者に剣を教える必要などない』

 

「あ……」

 

 

脳内で、その言葉が頭に響いた。

 

俺に剣を教えてくれないのは……そういう、事なのか?

俺に見込みがないから、俺が弱いから──

 

 

「……ちょ、ちょっと……由太郎君、大丈夫」

 

「あ?由太郎が……って、おい、お前、汗ヤベーぞ!?」

 

「え?」

 

 

服で拭う。

……凄い量の汗が流れていた。

それだけ、俺は動揺しているのだろう。

 

大丈夫ではない。

だけど、まだ先生の言葉を聞かなければならない。

 

 

「大丈夫だから、気にしないでくれ……」

 

「でも、由太郎君──

 

「大丈夫だって、言ってるだろ……!」

 

 

真意を確かめなければならない。

茂みに隠れて、ボヤけた視界で先生を見つめる。

 

普段とは違う、笑みを浮かべた先生の顔を──

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「緋村 剣心。吾輩に協力して貰おう」

 

「一つ、聞きたい」

 

 

拙者は逆刃刀の柄に、手を触れる。

 

 

「古流剣術は実戦本位の殺人剣……それを承知の上で広めるつもりか」

 

「無論。貴様も分かっているだろう。剣術とは、所詮……殺人術だ。どう取り繕うともな」

 

 

瞬間、脳裏に……師匠からの言葉が反芻した。

 

剣は凶器。

剣術は殺人術。

どんな綺麗事や、お題目を口にしても……それは真実。

 

そうだ。

それは事実だ。

 

しかし──

 

 

「お主、本気か」

 

「本気だとも。この世の弱き剣を滅ぼし、強き剣へと作り変える。それが吾輩の為すべき事だ !」

 

 

瞬間、雷十太が剣の柄に触れた。

 

剣気が、頬を叩く。

宙に舞う木の葉が、砕けた。

 

圧倒的な威圧。

普通の剣客ならば腰を抜かしてしまうような、気迫。

 

……拙者はそれを、微風のように感じていた。

 

 

「さぁ、緋村 剣心、どう答える……!吾輩と共に『真古流』を立ち上げるか……それとも、ここで死ぬか!」

 

 

彼女は……典型的な独裁者だ。

己を善とし、気に食わぬ者を全て滅ぼす。

自らに都合がよい世界を、力によって押し付ける。

拙者が苦手とする、暴力を厭わない強者──

 

 

しかし。

 

 

「雷十太『殿』」

 

 

名を、呼ぶ。

 

 

「む……」

 

 

雷十太殿は、拙者の言葉……そこに秘めた宥めるような声に気付いたのか、唸った。

 

拙者は彼女の演説を聴いて、憤りを覚えそうになった。

そう、覚え『そうに』なった。

 

今は、風に流される柳のように……静かな、心持ちをしていた。

 

何故なら、彼女の語る理屈より前に、どうしようもなく気になる事があったからだ。

 

 

「お主、何故──

 

 

だから、その問いを口にする。

 

 

「何故、嘘を吐いているでござるか?」

 

 

雷十太殿の目が……惑った。




だから、剣心からの印象を悪くする必要があったんですね。
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