栄光と落日  氷菓・古典部SS   作:よねぽ

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 もともと土曜日曜には外出しない性分であったが、最近古典部の活動が不活性化するにつれて、俺の出不精はさらに加速していくことになった。昼頃に起きて珈琲をちびちび飲みながら読書をし、目が疲れたらソファでうたた寝をする。時折視界の端に父の姿をとらえることがあるが、その時はきまって隠居老人の余生を眺めるような目で俺を見てくる。

 今日は昼に姉貴からの手紙が届いた。それを郵便受けから取り出して、俺の今日の可処分エネルギーはすべて使い果たされたのだ。

今の時代、電話もあるというのに妙なことをするものだ。以前ベナレスから送ってきた時も思ったが、この使い分けには果たして何の意味があるのだろう。手紙の内容は他愛もない近況報告と、父親に向けての小言だけだった。ただ、便箋以外に、近所の新規開店した喫茶店の名刺が挟まっていたことが気にはなったが。

 ふと、電話が鳴った。

 この家に固定電話をかけてくるメンツは相場が決まっている。父親に用がある人は父親の携帯を鳴らすだろうし、姉貴に用がある人はそもそも固定電話にかけても意味がないということを知っている。

 まぁ十中八九姉貴だろうと思いつつ、別の人物の影がちらつく。

 

「……はい、折木です」

「あ、折木君。お世話になっています、十文字かほです。今、ちょっといいかな」

「……久しぶり、といえばいいか」

「何回か廊下ですれ違ったりはしているけど、そうだね。言い忘れていたけど、境内の掃除、助かったよ」

「いや……気にすることはない。途中で帰ったしな」

「そう?だとしても直接の礼はいえなかったから」

 

 さて……。俺は十文字に電話番号を教えたつもりはないし、今日日電話番号という個人情報が公開されている書類が頒布されているとは考えにくい。

 

「千反田から俺の固定電話番号を聞いたのか」

「いや、福部君から聞いた。私も今えるとは連絡が取れない状況にあるし。ところで折木君は今何をしているの」

「今は……ヤドカリの生態模倣」

「へぇ。カタツムリじゃないんだ」

「自分の力でつかみ取った家じゃないからな。……御託はおいて、要件は」

 

 そうは聞いたものの、どういう要件なのかは分かりきっていた。

 

「えるのこと、なんだけど。どこかで話したいんだけれど、いいお店知っていたりするかな」

「いい店か……」

 

 バグパイプは閉店したし、大日向の従兄弟の店に行くのも気が引ける。そこまで考えて、姉貴からの手紙の中に入っていた名刺を思い出した。

 まさかね。変な偶然だと自分に言い聞かせながら、その店の名前を告げる。

 

「……じゃあ、俺の家の近くにある、麻屋という喫茶店で」

「分かった。じゃあ、一時間後にその店の前で待っているから」

 

 そう言って電話は切られた。俺はソファに戻る。

 

 里志をいったん経由してきた意味だが、元同クラスの里志を差し置いてわざわざあまり話したこともないような俺を呼んだ理由としては何か推理を要するものがある、ということがあるだろう。千反田から俺の過剰な評判を聞いていたため、十文字が俺の推理能力を過大評価しているに違いない。

 また、それはなるべく公開したくないものである。そうでなければ古典部で集まっているときにその情報を公開した方が、人海戦術的に当たれて有力な手掛かりを見つけやすいからだ。今の様子だと、明らかに俺にだけその情報を公開する、というようなものであった。それに、今になってその情報に気付いたのでなければ、失踪してから公開までの時間が空きすぎている。

 次に、それは文字や写真に類するものである。電話口で説明できず、直接会うということから視覚情報が必要なのではないかと推察できる。

 他に、ある程度説明に時間を要する、若しくは受け渡しに時間がかかるものだと考えられる。情報の手渡しであれば学校でもできたはずなのに、あえて喫茶店を指定する理由は小一時間程度、人気のないところで話し合いが必要だからだ。

 

 それらの事実を総合すると、千反田による十文字宛の書置きの線が一番高そうだ。手紙は十文字宛にすると彼女の親族が誤って開封する可能性もある。

 そうなると、十文字が警察にその書置きを公開している線もあまりないとみていい。操作に進展がないから焦燥感が募り、俺にもその書置きを公開するという感情的な行動をとるような人間ではなさそうだからだ。

 十文字のあの落ち着きからも、たった今書置きが発見された感じではなかった。計画的に、里志から俺の電話番号を手に入れ、連絡をして、喫茶店で合流すると手筈をたてたという感じだ。となると、既に発見されていた公開しにくい書置きをどう解釈するか考えあぐねた末、結果的に俺に連絡をしたということになる。

 それでも疑問が残る。警察やその他に公開しにくい手紙、おそらく千反田のプライベートにかかわる話だろう。あくまでも伝聞でしか俺を評価できない十文字が、俺をその公開相手に選ぶだろうか。

 

 考えていても仕方がない。俺は寝癖を直すため、相棒たるソファに別れを告げ、洗面所へと発った。

 

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