栄光と落日  氷菓・古典部SS   作:よねぽ

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 部室に人がいないことが、最近増えた。里志は相変わらず手芸部だの生徒会だので忙しく、伊原は一時期よく来るようになり漫画を描いていたものの、里志が不在で俺と二人きりという状況が多いことに辟易したのか、それともほかの理由なのかで部室に来るのは三日に一回程度だ。千反田は、めっきり回数が減った。放課後は用事がない限り大体千反田は来ていたのだが、最近は一週間に一回程度しか姿を現さず、来たとしてもうわの空で空を見つめている。俺はといえば、何も変わらない。

 千反田とは夏休みのあの日に会ったきり、一度も会うことはなかった。蔵からでてきた千反田はギリギリのバスに乗り、どうにかソロの歌唱に間に合ったようだが、それ以後のことは俺は知らない。千反田とは会館の前で別れて、それっきりだった。俺の仕事は彼女を探し、そして呼び戻すことまで。過干渉はお互いのためにならない。それに、やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に、が俺のモットーなのだから。やらなければいけないことを、そこそこ手短にやった今、目標は完遂したのだ。

 だけども。俺は、そこに今でも囚われていた。

 千反田えるの目から光が消えた今。伊原や里志はなんとかして彼女のその状態を打開しようとさりげなくあれこれしていたが、それも不発に終わった。ああ見えて伊原も里志も聡い。きっと千反田がああなった原因が、家の家督相続問題にかかわると悟ったのだろう。

 彼女から好奇心の獣は失われた。

 果たしてそれは、本当に俺の願っていた、休日の安寧だったのだろうか。

 

 

 

 

 

 部室に行くと、伊原がいた。珍しく漫画用のノートを開けておらず、ノートパソコンを触っている。こちらに一瞥をくれ、また目線をノートパソコンに移す。さいですか。俺は手近な椅子に腰かけ、読みかけの文庫本を取り出した。再び静寂が訪れる。

 普段はこのままお互い話しかけずに二時間過ぎ、適当に鍵を押し付けあって解散するのだが、今日は伊原がやけにこちらをちらちら見てくる。今読んでいるのが純文学寄りの何回目な書物なだけあって、集中できず、酷く鬱陶しい。

「何か用があるなら聞くぞ」

 俺がそう言うと、伊原は言葉を濁した。

「いや、用ってわけじゃないんだけど」

「なんだ、いつになく歯切れが悪いな」

「んー。そうね、じゃあ言うけど、修学旅行、あんたどこにするか決めてるの」

「いいや。今日のホームルームでそういえば言われたな、場所が選べるとか。決めるには性急すぎないか」

「そうね。手早いっていう単語はあんたの辞書の中じゃあ性急って単語に置換されてるんでしょうね」

 何ともなお言葉だ。

「つまり、まだ決めてないってことね。なら、京都にしてくれない?」

「何故」

「古典部で一緒に回ろうって。ふくちゃんと話してたの」

「別に一緒に回る必要はないだろう。お前らは二人で回ればいいし、気を遣ってもらう必要はない。まだ馬に蹴られて死にたくはないしな」

「誰があんたのことなんて気にするのよ。気遣っているのはちーちゃんに決まってるじゃない、自惚れも過ぎると不快よ」

「千反田か?それこそクラスの適当な奴と回るだろう」

「そうだけど……。最近元気ないし、気になるのよ。何とか元気づけてあげたいんだけど、代わり映えのしない日常じゃあどうしようもない、何か変化を持たせないとって話をしてて……。私は三人で回るのもどうって提案したんだけど、ちーちゃんも訝しむでしょうし、ふくちゃんも流石に誘ってあげたらって」

「さいですか」

「どうせその様子じゃあ他の子に誘われてないんでしょう。日本史が好きなら京都は悪い選択でもないし」

 ふむ。若干どころか大分棘のある言い方を抜きにすれば、確かに誰かとは回らねばならない以上、誰と回っても大差ないことを考えると古典部で回ってもさほど問題はない。それに、確かに俺は先ほどのホームルームで、候補地のうちなら京都がいいと考えていたところだ。だが、誰にも誘われているはずがないという伊原の姿勢は、確かに的を得ているのだが見くびっているようで腹が立つ。

「そうか。確かに一理あるが、残念ながら先約が」

「あるの?あるなら私が話をしに行くから名前を教えて」

「特にないな」

「やっぱりないんじゃない!」

 話を付けに行くとは凄い度胸だ。

「見栄張ってないで、どう、お願いできない?本当に行きたい誰かがいるなら、勿論そっちに譲るけど……」

「まぁ、今のところ特にはいないな」

「ならお願いね。……これでも一応、期待はしているから。予定はこちらで組んでおくから、候補地を京都にしておくのはお願いね」

 俺は首肯する。

 

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