俺はHR終了の合図もそこそこに教室を出て、部室へと向かった。里志も伊原も、そこに集まるだろうという確証があった。
地学準備室の扉は空いていた。扉を開けると、おそらくは俺と同様にここに駆け込んできたであろう里志と伊原の姿があった。
「千反田の件だな。誰から聞いた」
俺は挨拶もそこそこに二人に尋ねる。
「私は昼休みに職員室で小耳に挟んだわ」
「俺はさっきクラスの女子達の噂が聞こえてきた。本当なのか」
「僕はさっき周りの女子達がうわさしているのを聞いたよ。その子たちに直接聞いたけど、どうやら本当らしい。千反田さんたちのクラスでは朝方からその話題で持ちきりだったそうだ」
「なんで失踪したなんてクラスメイトが分かるんだ」
「千反田さんたちと仲良くしているグループに警察から電話がかかってきたらしいよ、彼女の行方を知らないかどうかって。どうやら昨日、学校に行くと家を出てから帰ってきていないらしい。千反田さんの性格上家出や無断外泊はないとみて親は直ぐに警察に通報して、捜索が行われたそうだけど、進展はないらしい」
「よくそこまで把握しているな」
「データベースだからね。それはともかく」
里志の顔つきが変わった。
「夏休みの時とはまた事情が違う。一晩、しかもいくら携帯電話を持っていないとはいえ全く連絡がつかないというのはあり得ない状況だよ。千反田さんともあろう人が、こんなことをして大事にならないと想像がつかないわけがない」
「折木、何か心当たりはない?私とふくちゃんはそもそもちーちゃんと最近全く会っていないし、直近のことは何も分からないの」
「俺は……二日前、お前が帰った後に部室で千反田と会ったばかりだ」
瞬間、伊原が詰め寄ってくる
「……嘘でしょ、いえ、まあいいからその時の様子を教えて」
「確かに様子はおかしかったかもしれない、やたら自分を責めていて、だけど心配するな、大丈夫だからと……」
言いながら、伊原の顔色が変わっていくのがはっきりと分かった。
「なんでそんなことを言われておかしいって思わないのよ、あきらかに普段のちーちゃんと違うじゃない!」
伊原はほとんど叫ぶかのように怒鳴った。
「その状態で送り出したら行けないってこと、なんで分からないの、なんで洞察力はあるのに人の気持ちを考えず行動もしようとしないわけ!」
「摩耶花」
里志が低い声で伊原を呼び、その肩に手を置く。
「興奮するのは無理もないけど、落ち着きなよ。お門違いにも程がある」
「……そうね」
伊原の声がトーンダウンした。
「……ごめん。あんたを責めたってどうしようもないのに」
「いや……」
急にデジャビュが襲ってくる。どこかで、こんな状況を体感したことがある。そう、大日向の時に。
俺はいつも後手後手に回ってばかりだ。確かな兆候はあったはずなのに、それには気づかないばかりで。後からその問題を突き止めたって、何にもなりはしないことを分かっているというのに。
「ホータロー、こんな状況でぼーっとしないでよ」
「……ああ、すまん」
「とりあえず、警察から僕らへ連絡が来るのも時間の問題じゃないかな」
「そうね。なんなら今日にでもありそう」
「とはいっても、千反田さんの行先なんて想像もつかないね。先日の失踪した時とは違って事前情報も何もないうえに、最近喋ってないから有益な情報を提供できそうにない」
「そうね。まさかと思うけど、私達への書置きとかも……」
伊原は千反田が良く座っていた付近の机をちらっと見る。
「まぁ、ないわけだし」
「そもそも私物を置きっぱなしにすることはないしね。ホータロー、千反田さんと会話していた時に場所について言及とかしていなかった?」
「いや、なかった……と思う」
思い返してみるが、特に何も思い当たる節はない。