転がる岩、二人に朝が降る   作:玉藻黒酢

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久しぶりに書きたくなったので突発的に…

字の文苦手なので拙いところあればすみません。


転がる二人

 

俺がピアノを楽しくない、もうしたくないと感じたのは小学生最後のコンクールが終わった時だった。

 

いや、正確に言えばピアノは楽しい。音を奏でるということは今でも好きである。

 

ただ、コンクールでピアノを弾くことが楽しくなくなった。いつもは楽しく弾けるピアノも、この時だけは好きになれない理由に、当時の自分は分からなかった。

 

ピアノを始めた切っ掛けは特別素晴らしい夢があったわけでも、誰かのピアノを聴いて憧れたわけでもない。

単に「なにか習い事でもしてみないか?」という父の言葉を聞き入れただけだった。

 

スイミングスクールやサッカーなど、男の子がしそうな習い事をさせた父だったが、あまり楽しくないという自分の気持ちを感じ取ったのかどれも1ヶ月も経たずにやめさせた。

 

そして3回目の習い事。スポーツ関係は一旦やめて音楽や習字でもしてみないかと言うことで、近所のピアノスクールに通うことになった。

 

最初はあまり乗り気ではなかったのを覚えている。それでも初めて、拙いながらも一曲弾き終えた後の充足感に身体の内側が熱くなるのを感じていた。

 

それからの練習の日々はとても心地よかった。二度あることは三度あるとも言うし、またやめてしまうのではないかと思っていた両親も、家に帰ってからもピアノを弾く子の姿を見て笑顔になった。そんな両親の顔を見ると、自分もつられて喜んでいた。

 

それが嬉しかったのもあってか、スクールでも家でも常に練習、飲み込みの早い幼少期というのもあってかコンクールでは常に賞を取れるレベルまでには演奏の技量は上がっていた。

 

最初はコンクールで演奏して、拍手をもらって賞ももらえる事に不満なんてなく、自分はすごいやつなんだと思えたために何も考えることもなく弾いていた。

 

変わったのは小学5年生の頃くらいだろうか。

習ってたピアノスクールがなくなった為、新しいスクールへ行くようになって初めてのコンクール。

そのコンクールで賞を逃してしまった次の日の練習日だった。

 

「もう少し作曲者の気持ちを考えて弾きましょう」

 

「は?」

 

と思わず反応してしまったのは今では笑えるが、当時の俺は何を言ってんだコイツとしか思えず、不機嫌になって練習にも身が入っていなかった。

 

そうしていつの間にか「気持ちに寄り添って」や、「あまり我を出さないように」と言われ続けるようになった。

 

「普段の練習中にリズムにノッてしまうことは別に悪いことだとは言わないけどね?コンクールではやっぱり正確に弾かないと…静雄君とっても上手なんだから勿体ないわ」

 

今になって思うと、言わんとしてることは理解しているが、小5の頃の俺はまるで自分の演奏が否定されているような気がして、段々と熱が冷めていってしまった。

 

自分が弾きたい、奏でたいと思えるものを自由に表現するのが音楽だと思っていた。

偉人の曲を完璧に、楽譜にある通りにそのまま弾くのをとても息苦しく感じていた。

 

恐らくコンクールが嫌になってたのも好きに弾けずに、それに加えてダメ出しもされることが嫌だから嫌いになったのだと今は思う。

 

そうして小学生最後のコンクール。

3位入賞で俺、黒川静雄のピアノ人生は幕を閉じた。

 

両親はそれには何も言わず、別の習い事を勧めてくることもなかった。

 

そのまま何もせずに中1の夏になり、とある出会いを切っ掛けにキーボードをやり始めることになった。

 

が、そんな出会いも父の仕事の都合で新宿から横浜市の金沢八景付近へと引っ越すことになり、その子とは半年だけの付き合いになってしまった。

 

とは言え、別に一生会えない距離でもないため、ロインだけ交換し、また来るよと口約束だけをして新宿から引っ越した。

 

「絶対また来なさいよね」

「…うん」

 

そして4月になり、始業式のタイミングで横浜の中学校へと転校することになった。

 

♪ ♪ ♪

 

「黒川静雄です。新宿から引っ越してきました。よろしくお願いします」

 

中学二年へと進級したと同時に、男の子が転校してきた。

 

それは始業式が終わった後のHRの時間。新しい女性の担任が「プリント類を配る前に転校生を紹介したいと思います」と言い、扉から入ってきた男の子が自己紹介をした。

 

「えっと…他にはなにかないかしら?」

 

あまりに短い紹介だったからか、担任の教師が尋ねる。

 

「えっ…あー…ピアノやってました。今はやめてキーボードやってます…」

 

キーボードという単語にボーッと聞いていた後藤ひとりは転校してきた男の子を注視した。

 

身長は170cmはありそうで、中学二年生にしては大きく、髪色はクリーム色、顔立ちは整っているものの、今風な爽やかイケメンという訳ではなく、どちらかと言えば不良とかヤンキーにいそうな印象を受ける。

ただ、教師とのやり取りと簡潔な自己紹介を聞いてみると、大人しい人なのかなと思った。

 

(ちょ、ちょっと怖いけど、キーボードしてるんだ…ば、バンドとか好きなのかな?も、もしかしたら友達になっちゃったりして…)

 

「あっ、なのでバンドとか組んでみたいなって思ってます」

 

(ぅえッ!?!?好きとかいうレベルじゃなかった…バンドする気なんだ…)

 

「そっか~カッコいいね!自己紹介ありがとね黒川君。あそこの席に座ってもらえるかな?」

 

「……っす」

 

教師が指す場所は私の前の席だった。

 

(あ、そっか…五十音順に並んでるもんね…こ、これは話しかけるチャンスなのでは!?…でもやっぱり怖い…)

 

目の前に座る黒川君の威圧感というか、存在感が大きくて人見知りでコミュ症で陰キャな自分では話しかけるなんて無理無理と萎縮してしまう。

 

「それじゃ~プリント配ったら軽くみんなで自己紹介していってもらって今日は終わりにしよっか~」

 

(あ、そうだ自己紹介…!ここでギターしてますって言えれば話しかけてもらえるかもしれない…!)

 

そうして出席番号順に自己紹介をしていき、黒川君は先程したため1人飛ばして私の番がきた。

 

(言え!言うんだ後藤ひとり!ここで言わなきゃ後悔する!)

 

「……あ、えっと……ご、後藤ひとりです………あの…」

 

「あ…もう座って大丈夫よ後藤さん」

 

「あっ、はい…」

 

(……終わった…今年も誰とも話せず浮いて終わっちゃうんだ…い、いや!あ、明日話しかけよう!うん!ギターも持ってきてギターしてますよアピールもしよう!…そしたら話しかけてもらえる……よね?)

 

へたれ陰キャな私は「ギターしてますよ」なんて言えず、明日持ってくることで話しかけてもらおうという黒川君頼りなプランを考えていた。

そうして俯いて明日のことを考えていたせいか、前に座ってる黒川君が私のことを見ていたことに気付かなかった。

 

「はい!じゃあ皆さんこれから一年間よろしくお願いしますね~」

 

「「「は~い!」」」

 

担任がそう言ってHRを締め、帰宅となった。

去年クラスが同じだった子同士で集まって話していたり、部活繋がりで一緒に帰ろうとしている子達を横目に私も明日のために準備しようと帰ろうとした時だった。

 

「…あの、間違ってたら悪い、後藤さんもバンド好きなの?」

 

「………え……えぇッ!?あ、な、なんで分かったんですか?」

 

いつの間にか前に座ってた黒川君が私の隣に立っていて、声をかけられて驚愕した。自分の心を読まれたのかと思い狼狽える。

 

間近で見るとさらに整った顔立ちに萎縮してしまい、思わず下を向いてしまう。

 

「いや、前で自己紹介した時、バンドの話したら1人だけ食い付きがすごい人いるなって思ったからさ…」

 

「あ、そんなに分かりやすかったですか…」

 

「まぁ、下向いてた人が急にマジマジと見てきたら流石にね」

 

「あ、す、すみません」

 

「で、やっぱりバンド好きだったりするの?」

 

「あ、はい」

 

(や、やばい!…話しかけてもらえるなんて微塵も考えてなかったから頭働かない…!あ、そうだギター!ギターやってること言わなきゃ!)

 

「あ、あの…その…ぎ、ギターも弾いてます…」

 

「…へぇ」

 

すると黒川君は顎に手を当ててなにか考えるように俯いた。

少し沈黙の時間が続いたため、冷や汗をかくひとりはテンパり始める。

 

(ど、どうしよう…これ私が話しかけたほうがいいのかな…でも何を!?もうちょっとギターしてることに触れてくれるのかと思ってたけど「お前みたいな陰キャ興味ねぇよ」…ってこと!?いやでも話しかけてくれたんだし興味ないってことは…)

 

「…よし…もう言っちゃうか」

 

「…え?」

 

頭のなかで今から何を話すか必死に考えたひとりだったが、なにか意を決したようにひとりの目を見つめてくる黒川に思わず目を逸らしてしまった。

 

「後藤さん…俺とバンド組んでほしい」

 

「はひっ!?え、あ、え?」

 

(いきなり!?え、会ってまだ数分なのにもうバンド組むか組まないかの話になってる!?)

 

「あ、いや、ごめん。別に嫌だったらいいんだ…それに流石に急すぎた。すまん」

 

アワアワと動揺していたひとりに気付いた黒川は申し訳なさそうに謝る。

 

「あ、いや…嫌…じゃないです…その、ちょっといきなりだったのでその、びっくりしただけで…嫌じゃないです」

 

「え?」

 

流石に急すぎたと申し訳なさそうにする黒川に、ひとりは俯きながらも、ギュッと制服の横腹部分を握る。

先程までのおろおろしながら話していた雰囲気とは打って変わって、声のトーンから自分の意思を伝えようとするのが伝わってくる。

 

「あ、あの…その、バンド誘ってもらったことはすごく嬉しいです…私もその、バンドはしてみたいと思ってたので…でも、全然声かけれなくて…だからその…あの………よろしくお願いします」

 

「……うん。よろしく」

 

自己紹介の時から、先程の会話の最中も基本的に無表情だった黒川に、あまり顔に出ない人なのかなと思っていたひとりだったが、微笑みながら手を差し出す姿に、もう怖そうなイメージは消え去っていた。

 

「まぁ、バンド組むって言ってもまだ2人だけなんだけどね」

 

「あっ、そ、そうですよね…あ、というか最初のメンバーが私で良かったんですかね?ギターしてるって人なら他にもいるかもしれないですし…」

 

せっかく握手もして「よろしく」と言い合ったのに、やっぱり自分に自信のないひとりはそれが野暮だとしても聞いてしまう。

けれど、そんなひとりにも特に嫌な顔せずに黒川は応える。

 

「あー…確かにこういうのってお互いの演奏聴いてから組むのが多いのかな?組んだことないから分かんないけど。まぁ、俺が即決した理由は2つかな」

 

「あ、ふ、2つもですか」

 

「あぁ、だって後藤さん結構練習してるだろ?指先見たら分かるよ。それにさ、転校した先の後ろの席の子がギターしてるなんてちょっとロックじゃないか?」

 

「あ、な、なるほど…確かにロック…なのかも?」

 

指先を見られてたことにちょっと恥ずかしくもあるが、練習していたことを知られるのに何故か照れ臭くなってしまったひとりは2つ目の理由に対してリアクションをとる。

 

(黒川君、あんまり喋らない人なのかなって思ってたけど、そんなことないのかな?好きな事だとたくさん話しちゃうだけ?…だとしたらちょっと親近感…それに結構人のこと見てるんだ…あ、あと意外と話しやすいかも)

 

「だからさ、後藤さんと組めて俺は嬉しいよ」

 

「あ、そ、そうなんですね……ふへっ」

 

思わず気持ち悪い笑い方をしてしまったひとりだが、そんなこと気にせずに黒川はさらに続ける。

 

「それで早速なんだけどさ、この後時間あるなら一緒に弾いてみない?」

 

「あ、はい」

 

(く、黒川君ってひょっとして行動力エグいのかな…)

 

幼い頃から習い事をとりあえずやってみて、気に入らなかったらやめてをしていたせいか、何かする時は早速動いてみるようになったのが黒川だが、ひとりはそんなこと知りもしないので少し驚いた。

 

♪ ♪ ♪

 

始業式が昼前に終わったため、午後から時間があるのでせっかくなら音合わせしてみないかとなった。

どこでするかという話になったが、俺の方が家が近く後藤さんの家はそこそこ距離があるみたいなので、先にキーボードを取ってから後藤さんの部屋で弾いてみようという話になった。

 

「あの、音合わせしよって言ったのは俺だけどさ、いきなり家に行っても大丈夫か?」

 

「あ、さっきロインしてみたらご馳走用意するから是非って…」

 

何回も嘘じゃないかと両親に確認されたことにショックを受けたが、はじめて友達…友達?を家に招待することに両親はとてもはしゃいでいるのが文面からも伝わってきていた。恐らく疑い半分喜び半分なのだろう。

 

「そういや後藤さんってどのくらいギターしてるの?」

 

「あ、えっと、もうそろそろ1年経つ…のかな、だいたい6時間くらい毎日…ですかね」

 

「6時間?結構練習してる人だとは思ってたけど思ってた以上だな。すごい」

 

そう言うと後藤さんは目に見えてへにゃへにゃして照れ始める。結構表情に出る子だな。

 

「あ、く、黒川君は?」

 

「俺はキーボード自体は半年だけかな。まぁ、ピアノを7年間やってたから使い勝手は違えどすぐにある程度は弾けるようになったよ」

 

「あ、そういえばピアノやってたって言ってたような…」

 

「まぁな。なんか急に堅苦しくなってきたからやめた…キーボードやり出したのもバンドだったら自由に出来るかなって思ったからでさ」

 

「あ、そうなんですね」

 

「後藤さんはバンドなんでしてみたいと思ったの?」

 

自分のバンドしようと思った理由を言った後に、なんとなく気になったので聞いてみた。そしたら後藤さんは分かりやすく言いにくそうに俯いた。

 

「あ、せ、世界平和のため…ですかね?」

 

「なぜに疑問系」

 

まぁ、あんまりその辺の事は言いたくないのかな。

そう思って深掘りせずにいようと思っていたら家に着いた。

 

「取ってくるからちょっと待っててくれ」

 

「あ、はい」

 

(え、ここが黒川君の家?でかくない?)

 

黒川が家に入り、姿が見えなくなったところで改めてひとりは全体像を見てみる。

 

(や、やっぱり大きい…よね?豪邸…って感じでもないけど、普通の一軒家よりかは大きいような気がする)

 

幼少期からポンポンといろんな習い事をさせれるだけあってか、黒川家はそこそこお金がある。

3階建ての一軒家で庭も広く、ガレージもあって、停められてある車もあまり詳しくないひとりでも高そうだと感じた。

 

そうして黒川が出てくるまで家を眺めていたひとりだったが、5分もせずに黒川が家から出てきた。

2つのケースを持っており、キーボードと恐らく折りたためるX型のキーボード台だと推測する。

 

「悪い待たせた。じゃあ行くか」

 

「あ、はい」

 

そこから10分くらい歩くと後藤家に着いた。

お互いにそこまで話す性格でもないため、無言で歩いていた。

黒川静雄は別段コミュニケーションが苦手という訳ではないのだが、無理して話をしようという人でもなく、別に無言の状態が続いても特に何も思わない性格であるため、気まずいとかは思わない。

 

対する後藤ひとりは初めてできた友達のような存在に浮かれているのだが、基本的にへたれで陰キャでコミュ症なため話をしたくても話せない。そのためこの数十分間は常にソワソワとしながら歩いていた。

 

はっきり友達と言われた訳ではないため、友達にカウントしても良いものかひとりは悩んでいるのも加えて思うように話しかけずにいた。

 

(黒川君的に友達とバンド仲間はまた別なのかな…ビジネス的な関係?ど、どうなんだろう…友達が出来たと思って浮かれてたけどそういうわけでもないのかな…)

 

「あ、ここが私の家です…どうぞ」

 

「お邪魔します」

 

ガチャっと後藤さんが玄関扉を開けた瞬間、リビングからひとりのお母さんが顔を出した。

 

「あら?本当にお友達を連れてくるなんて…お母さんてっきりイマジナリーフレンド的ななにかだと思ってたのだけど…しかも初めてのお友達が男の子なんてひとりちゃんもなかなかね~」

 

「ちょ、ちょっとお母さん!」

 

ロインの反応的に全く信用されてないとは思っていたが、幻を見ていると思われていたことにショックを受けるも、男友達を連れてきた事に茶化されたような気がして恥ずかしくなってしまうひとり。

 

「初めまして、黒川静雄です。さっき友達になったばっかりなんすけど、いきなりお邪魔しちゃってすみません」

 

「ホッ…」

 

隣で急にホッとしてる後藤さんを横目に、とにかく挨拶と急に家に上がらせてもらう事への謝罪を話す。

 

「は~い、ひとりの母の後藤美智代です。あと全然迷惑だなんて思ってないから頭を上げてちょうだい?むしろ初めてひとりちゃんがお友達を連れてきたからお母さん嬉しいわ。どうぞ上がってちょうだい」

 

「……っす」

 

笑顔で出迎えてくれる後藤のお母さんを見て優しそうな人だなと思う。

 

「あ、男の子が来るって聞いて一応多めにお昼ごはん作ったのだけど、静雄君は結構食べる子かしら?」

 

「結構食います」

 

「そう?良かったわ~」

 

そう言ってニコニコしながらリビングに入っていく後藤のお母さんに付いていくと、中には後藤の妹だろう子と犬が遊んでて、お父さんらしき人がキッチンで何か作っていた。

 

「あ、お邪魔します。黒川静雄です」

 

「え、ほ、本当に娘が友達を……ひとりが…しかも男友達を招いてくるなんて…最悪作りすぎちゃったお昼ごはんは父さんが頑張って食べようと思ってたから良かったよ~。いやー嬉しいな~。あっ、ひとりの父の直樹です」

 

なんと言うか、後藤の両親の後藤さんの評価に苦笑してしまうが、2人とも笑顔で迎えてくれてる事に嬉しくなる。

すると犬とじゃれ合っていた妹らしき子がこっちに走ってきた。

 

「こんにちは!後藤ふたりです!えと…3歳です!犬はジミヘンです!」

 

「ワンッ!」

 

右手で数を数えてから歳を言うふたりちゃんが可愛らしく、思わず笑顔になる。

 

「ん、ふたりちゃんか。よろしく。挨拶できて偉いな」

 

「えへへ」

 

そう言って妹のためにしゃがんで頭を撫でてる黒川を見て、やっぱり全然怖くないじゃないかと思う。

口数は少ない方で、あまり表情が変わらない黒川だが、微笑みながらふたりの頭を撫でる姿を見ていると改めてそう思ったひとり。

 

「はーいお昼ごはん出来たよー」

 

「あっ、手伝います」

 

「ほんと?ありがとねー」

 

お父さんと一緒に食器や料理を並べていく黒川を見て「あれ?もう私より家族と仲良くしてない?」と負のオーラを纏い始める。

 

ふたりがいるからか基本的に小さいおかずを多めに作られたお昼ごはん。それらを並べ終えた黒川君に駆け寄るふたりがズボンの裾をクイクイと引っ張る。

 

「しずおお兄ちゃんいっしょに食べよー?」

 

「ん、いいぞ」

 

そうして黒川君はふたりを膝の上に乗せて座る。

 

「ほら、ひとりちゃんも食べましょ?」

 

「あ、うん」

 

母に呼ばれて蚊帳の外だったひとりはハッと意識が戻り、黒川の隣に座ってお昼ごはんを食べ始める。

 

「いただきます!お兄ちゃん!たこさんウィンナー食べたい!」

 

「はいはい…はい、どうぞ」

 

「あはは、良かったなーふたり。良いお兄ちゃんができたなー!」

 

「うん!」

 

いつの間にかお兄ちゃん呼びになったふたりに、3歳時の方がコミュニケーション取れて仲良くなっているのを見てまたショックを受ける。

 

(あ、あれ?私が連れてきた友達だよね?まだ家に着いてから一言も話してない!!)

 

涙を流しながらから揚げを食べていくひとりを置いて、両親は気になっていたことを黒川に質問していく。

 

「それで、ひとりちゃんとはどうやってお友達に?」

 

「後藤さんがギターをしてるってのを聞いたので、一緒にバンドしてみないかと誘ってって感じです」

 

「え?バンド?じゃあ静雄くんも楽器触るんだね。他には誰かいるのかい?」

 

「あ、いや、新宿から引っ越して、転校してきたばかりなので後藤さんしかまだいないです」

 

「あらそうだったの~ひとりちゃんのことをよろしくね~」

 

「……っす」

 

そうしてお昼ごはんを食べ終えて、眠ってしまったふたりをソファに寝かせて毛布をかけた黒川は家に着いてから初めてひとりに話しかける。

 

「じゃあ、そろそろやろうか」

 

「あ、はい」

 

本来の目的を果たすために黒川を自室へ連れていくひとりだが、初めて自分の部屋へ友達を入れるという事に内心とてもソワソワとしていた。

 

(へ、変な物置いていなかったよね?臭かったらどうしよう…ぎ、ギターもちゃんと弾けるよね?まだそんなに上手じゃないけど、やっぱりバンド組むのやめようとか言われたら死ねる!)

 

そんな不安に顔面が崩壊し始めた。

 

♪ ♪ ♪

 

後藤家にお昼ごはんを振る舞ってもらった後、今日ここに来た理由である合わせをするため、後藤さんの部屋へと連れていってもらう。

 

(……なんか、特に嫌そうにしてないから野暮かとも思ったけど、女の子の部屋にいきなり上がり込んでしまって大丈夫なのだろうか?後藤さんって引っ込み思案みたいだし、無理させてたら申し訳ないな…)

 

「あ、ど、どうぞ…」

 

「……なんか、もうちょっとバンド関係の物置いてると思ってたけど、だいぶ片付いてるな」

 

「あ、この中です…」

 

なんにも無いように思えた部屋だったが、後藤さんが押し入れを開けるとギターやギターの教本、ピックなどが置かれてある。

 

「お、おぉ…なんか秘密基地みたいでかっけぇな」

 

「え、へへっ…」

 

「もしかしていっつもこの中で弾いてるのか?」

 

「あっ、いや、ここでも弾きますし、普通に部屋で弾いたりとか…あっ、準備しますね」

 

そそくさとアンプとギターを取り出して弾く準備をする後藤さんを横目に、俺もキーボード台を立てて、そこにキーボードを設置する。

 

「あ、なに弾きましょう?」

 

「んー、後藤さんってどういうの弾くんだ?」

 

「…あ、基本はここ数年の売れ線バンドの曲とか有名な曲を弾けるようにしてます…」

 

「え、すげぇな」

 

「うへへ…」

 

「…じゃあORIOの空船やろうか」

 

「あ、はい………あ、あの」

 

さて弾こうかとしたところで、おずおずと後藤さんが何かを言いたそうに手を挙げる。

 

「あ、その…誰かと合わせたことがないのでどういう感じに弾けばいいのか…」

 

「そうか…じゃあ好きに弾いてくれ。合わせるから」

 

「あ、はい」

 

そうして合わせが始まる。

なるべく後藤さんが弾きやすいように音量は控えめ、そしてギターの音を強調させるようにサポートをしつつ、メロディラインはしっかりとメリハリをつけて、ソロしかしたことがない後藤さんがやりやすいように演奏する。

 

(…練習量から結構上手い奴だとは思ってたけど、これは思った以上だな…)

 

サポートして弾きやすい状況にしているのもあるが、それを加味してもなかなか面白い演奏をするんだなと思う。

好きに弾いてみろと言ってみたため、ちょくちょくアレンジもいれてくる余裕さえあるようだ。

 

すると、サビに入ったことによって、後藤さんがギアを上げ始めた。

どうやら段々とノッてきたようだ。

 

(……面白れー!…じゃあ俺もノらせてもらうぜ…)

 

支えられながら演奏してくれていると気付いていたひとりだが、ここでもう少しギアを上げてもついてきてくれるのか気になったため、上げてみると、それでも自分の音を殺さずにズレもなく合わしてくれる黒川に目を見開く。

 

(す、すごい…安定感も勿論だけど、いきなりギア上げたのになんの迷いもなくついてきてくれる…)

 

気付けば両者口元に笑みが浮かんでいた。

そんな状態で1曲演奏し終えた2人の感想は同じだった。

 

ただただ――楽しい

 

いつの間にか汗をかいて、息も荒くなっていた。

それほどまでに熱が、2人を熱中させた。

 

「…やべぇな…こんなに楽しいんだな…癖になりそうだ…」

 

「あ、はい…も、もっとやりませんか?」

 

「おう。次は後藤が弾きたいのやってくれ。キーボードパートがないやつでもなんでもいいからさ」

 

「え、あ、大丈夫なんですか?」

 

「コード弾きするし、アドリブでなんとかするから問題ねぇ…気にせずやってくれ」

 

「あ、分かりました」

 

テンションが上がってきたのか、黒川君の口調が少しだけ荒くなる。それに、いつの間にか後藤呼びにもなっていることに私は自然と嬉しくなる。

 

(よかった…私だけじゃない…黒川君も上がってきてるんだ…楽しいな…誰かと合わせるのってこんなに楽しいんだ…)

 

その後は時間も忘れて黒川とひとりはセッションを楽しんだ。

 

「静雄く~ん?もう18時だけど晩御飯どうする~?」

 

「え、あ、もうこんな時間なのか…あっ、すんません!こんな遅くまでお邪魔すると思ってなかったので親に連絡してなくて…多分晩御飯作っちゃってると思うんで帰ります」

 

「そう?気をつけて帰るのよ~?」

 

「……っす」

 

廊下から心配するような声で後藤のお母さんが確認をしてきた。

気がつけば4時間ぶっ続けてセッションしてたことに、我ながら呆れてしまう。もうすっかり外も暗くなってきていた。

でも、それだけ楽しめた事に、これだけ熱が籠った事がとても嬉しい。

 

「あ、ごめんなさい…私も夢中になってて…時間見てなかったです…でも…悪くない気分…です…」

 

「俺もだ。また明日やろう」

 

「え、あ、はい」

 

「んじゃそろそろ帰るわ。……あ、そうだ、ロイン交換しとこうぜ?」

 

「あ、はい」

 

そう言って急いで帰っていく黒川君を玄関まで見送り、ひとりは未だ興奮冷めやらぬ中、自室に戻りスマホを確認する。

 

そこには家族以外の名前が一つ追加されていた。

 

『静雄』

 

「……初めて友達とロイン交換しちゃったな…それに、また明日って言ってくれた…」

 

こうして、2つの岩が転がり始める。

 




今回は1万字超えちゃったけど、普段はもうちょい減らしていこうかと思う。
話はだいたい決めてるが、ストックが出来てないので更新遅いかも…
ラブコメ展開は今のところそんなに考えてないですが、気が向いたら書くかも?
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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