ブラムストーク王国、その王都の暗い街路にて。
男の声に呼び止められた愛煙卿は、ゆっくりと振り返って笑みを見せる。
「これはこれは、毒風卿のクラトカくん。久し振りだねぇ」
「貴様! いつもいつもこの大事な時期にどこをほっつき歩いている!? 会議の日は近いんだぞ、不用意な行動は慎め!」
「そう邪険にしないでくれよ、君と私の仲だろう?」
深くフードを被った緑のローブの男にそう微笑みかけ、愛煙卿、スモーキーは彼の肩に手を置く。
しかしそれで機嫌が良くなる事はなく、クラトカという男はその手を振り払う。
「まったく、なぜあの御方や殿下は貴様などを私と同じ侯爵に指名したのか……ともかくだ! あまり勝手に動き回るな! 良いな!」
それだけ言い放った後、クラトカはずかずかと街路を歩いて自身の目的地である館に向かっていく。
スモーキーは肩をすくめ、静かに赤い月を見上げつつ、同じ方向へ歩むのであった。
千種がシルキィのナビゲートで、目的地であるプレラーティの臨時研究所に向かっている頃。
レジスタンス組織X-ROSSに所属するソーマは、既にその場所に到着していた。
「ここが『牧場』か……」
暗い瞳で、研究所の外に並んだ檻を眺め、看板に書かれたその文字を読むソーマ。
背後で彼に付き従うレジスタンスのメンバーは、出番を待ち詫びている様子で声を掛けてくる。
「どうします、ソーマさん!」
「決まっている」
ソーマは腰に帯びたカトラスを抜き払い、その切っ先を研究所の方に向けた。
「領主が既に死んでいようと関係などない! 残党のマキナイト共を探し、殲滅する! 総員、僕に続けェッ!!」
『応ッ!!』
力強い号令と共に、一行が動き出す。
しかし、上空から一直線に何かが二つ飛来したかと思うと、それが立ち上がって彼らの前に立ち塞がる。
その正体は、ソニアとエリックだった。
「姉さん……!」
「もう手を引け、ソーマ。ここからはアタシに任せて貰う」
真っ直ぐに弟を見つめ、抜剣するソニア。
しかし姉を前にしても、ソーマの意思は揺らがない。首を左右に振り、剣を構える。
ソニアは首を左右に振り、諫めるような口調で言葉を紡いだ。
「アタシはお前と戦いたくはないんだよ……たとえ、アタシ自身がもう人間ではないとしても」
「……手を引くべきのは姉さんの方だろう」
弟からの言葉に、ソニアは圧された様子で目を細める。
「僕はマキナイトを殲滅すると決めた。姉さん、マキナイトになってしまったというのなら……僕らは戦わなければならない」
「ソーマ……」
「そして戦うのが嫌だと本気で思っているのなら、逃げるべきなのは姉さんの方だ。違うかい?」
一歩も引かず、ソーマは剣先を突きつけて前に躙り寄っていく。
固唾を呑んでレジスタンスの面々が見守る中、ソニアは共に弟と静かに見つめ合う。
「全く、生意気な口利いてくれちゃって」
小さく溜め息を吐くと、エリックの方に振り返った。
「悪いエリック、流石にアタシはこの子たちとは戦えない。そういうワケだから、ここまでにして一旦帰ろう」
「そうか」
エリックは目を閉ざした後、スゥッと息を吸い込む。
そして。
「まぁ」
「ッが……あ、あァァァ……!?」
「私には無関係な話だな」
喉から発せられた音波を耳にして、ソニアは機甲虫の入った左目を押さえて苦しみ始めた。
「……何をしてる!?」
「あの小僧から聞いていないのか? 私は音で機甲虫を活性化できる」
「そういう事を聞いているんじゃあない!! 貴様、姉さんの味方をしているんじゃなかったのか!?」
「勘違いするな。誓いを破っているのは彼女の方だ、私じゃない」
ソニアの身体が激しく痙攣し、機甲虫が赤く光る。
このままでは命に関わると確信したソーマは、二本のカトラスを振り上げてエリックに斬り掛かった。
「プレラーティの野望を打ち砕く。ヤツが死んでいようが、まだ生きていようが……自分自身がどうなったとしても、必ずやり遂げる。この事に了承したのは他でもない、ソニア自身だ」
だがその攻撃は容易く回避され、エリックはカティディッド・マキナイトに変異して大きく跳躍。
牧場と銘打たれた施設の屋根に降り立ち、さらに音の出力を強めていく。
「やめろ……」
「グウ、あ……ガ……!!」
「やめろォォォォォーッ!!」
ソーマの叫びが木霊する中、無情にも望みは果たされず、彼の眼の前でソニアが異形のクワガタの騎士へと変貌を果たした。
「本当に残念だよ、ソニア。君とは同志として仲良くやっていけると思ったんだが」
そう言い捨ててから、カティディッドは一行に背を向ける。
「出力を全開にしてやった。もう、死ぬまで止まらん。姉弟揃って地獄に堕ちるが良い」
「斬り裂き魔ァァァァァッ!! 貴様のようなクズが!! よくも姉さんを同志などと!!」
「お前の怨み言などどうでもいいんだよ。さっさと死んでろ」
逃走するカティディッド、しかしそれを追いかけようとした瞬間、正気を失ったスタッグビートル・マキナイトが介入する。
変わり果てた姉の姿を眼の前にして、ソーマは握ったカトラスを振り上げた。
だが、構えたまま動かない。肉親を斬りたくないという思いが、どうしようもなく躊躇を生んでしまう。
「グゥガァァァッ!!」
そうしている間に、スタッグビートルの方は容赦なく踏み込んで剣を振り、身を守ったソーマの手から武器を両方取り落とさせた。
さらに倒れ込んだ隙に他のX-ROSSのメンバーにも斬りかかり、次々に負傷させていく。
立ち上がって阻止なければならないが、頭では分かっていても心が姉を傷つけるなと叫んでしまう。
「誰か……姉さんを、止めてくれ……!!」
自身の無力と愚かしさを痛感し、涙するソーマ。
「すまん。待たせたな」
そんな彼の耳に届いた声に顔を上げると、そこにいたのはバイクに跨る
※ ※ ※ ※ ※
一方、臨時研究室の内部では。
「フ……手荒な歓迎をする余裕もない、か?」
ソニアに外のレジスタンスの相手を任せて先に侵入したカティディッドは、そのような事を呟いて周囲の様子を探っていた。
しかし、あまりにも静かで他のマキナイトは影も形も見当たらない。
この分ではプレラーティが生きているかも知れないという推察は外れているかも知れない、などと考えながらカティディッドが歩いていると、彼の足裏にブヨブヨとした柔らかい感触が伝わる。
「ん?」
足をどけて見下ろすと、そこには青い布と奇妙な白い物体が落ちていた。
否、どうやら単なる布ではない。そこに刺繍された十字架は、ついさっきも見たものだ。
「X-ROSSのジャケット? なぜここに……!?」
直後、その白い物体に黒っぽい毛が
彼は気付いた。これが人間の生皮だ、という事に。
「招かれざる客が来たようだね」
闇の奥から声が聞こえて来たのは、そんな時だった。
見れば、暗い廊下から人間の骨や肉を貼り合わせて作った神輿のようなものに乗る全裸のプレラーティの姿がある。
神輿を担いでいる被検体たちを足蹴にしながら、ふんぞり返ってカティディッドを見下ろしていた。
「プレラーティ……!!」
ナイフホルダーからマチェットナイフを抜き取り、両手に一本ずつ持って構えを取る。
「ようやくだ……ようやく、お前に会えた。やはり死んではいなかったようだな。これでやっと復讐を果たせる」
「ん~、悪いんだけどさ。君は誰?」
「フン……お前にとって私は実験体の一人でしかない、覚えていないのは当然だろう。だが私はお前を忘れた事はないぞ!!」
翅を大きく拡げて、キリギリスのマキナイトは自分の名を堂々と明かした。
「私の名はエリック・ジャック!! お前を殺すために今日まで必死に生きて来た!!」
「殺す、ねぇ……?」
彼の宣言を面白おかしそうに笑い飛ばし、プレラーティは自身の左手を顔の前に掲げる。
「良いだろう。せっかくわざわざ来てくれたんだ、特別に相手をしてあげるよ……BOAアクティベート」
瞬間、神輿を担いでいた者たちを含む百を超える人間たちが、一斉にプレラーティの裸体に群がり牙を立てて喰らい始めた。
「なに!?」
「フフフ……」
頬を紅潮させ血や体液を噴き出しながら、プレラーティは大層興奮した様子で、ヨダレを垂らして彼らの猛りを受け入れている。
そうして完全に血も肉も髪の毛一本さえ残らなくなった後、被検体の人間たちは一斉にカティディッドの方を見た。
彼ら全員、左腕には機甲虫が埋め込まれている。つまり、百人以上の全てがマキナイトだったのだ。
酷く嫌な予感がして、カティディッドは即座に眼の前の男一人に向かって斬りかかる。
だがその刃は、横から割って入った少女の腕が受け止めた。
「うっ……!?」
半ばまで食い込んだナイフが抜けず、仕方なく柄から手を離して、カティディッドはバックステップして不気味な集団から距離を取る。
直後、彼らは一斉に同じ声で喋り始めた。
――プレラーティと同じ声で、緑色の瞳を輝かせて。
「さぁ、エリックと言ったね」
「そろそろ始めようじゃないか」
「ただし君の復讐ではなく」
「私自身の手による」
「
被験体の集団が口々に喋って笑いながら、同時に自らの左腕を天井に掲げた。
『BOAアクティベート』
すると、全員の姿が蒸気と共に変化していく。
ダニやノミ、シラミにシバンムシ、フンコロガシとアブラムシといった多種多様なマキナイトとなって、一斉に襲いかかった。
如何に優れた身体能力を持つカティディッドと言えど、この数が相手ではまともに立ち回る事などできない。
「ならば!」
カティディッドが翅を激しく動かし、さらに口腔から音波を放つ。
先刻も使用した、機甲虫を活性化させ、マキナイトを暴走させる能力。
だが。
「んんん~? なんかちょっと不愉快な音だねぇ、本当にちょっとだけど」
「効いていない……!?」
敵側の勢いは一切衰えず、隙を突いて手にした武器で襲いかかって来る。
素早く飛んで辛くも回避しつつ、振動を与えたナイフを構えながらカティディッドは呟く。
しかしその動作も読まれていたのか、跳躍力に富むノミとダニのマキナイトたちが既に着地点に回り込んでいる。
「くっ!」
カティディッドは攻撃が来る前に蹴りを繰り出し、ノミの一体を怯ませた後、回転しながら刃を振るって一網打尽にした。
直後、斬られたマキナイトが致命傷を負った他のマキナイトを食い始める。
それによって、食った側は負傷が癒えていった。
「なんなんだ、これは一体……ど、どういう能力なんだ!?」
混乱を極めるカティディッド。そもそも、全員がプレラーティと全く同じ意識を持っているというのが、彼にとっては理解し難い状況なのだ。
「疑問に思うのは分かるよ」
「だが、君が真実を知る事はない」
「秘密を理解する必要もない」
「ここで死ぬのだからね」
「覚悟はできたかな?」
ぞろぞろとカティディッドを取り囲んで押し潰そうと動くマキナイトたち。
すると、キリギリスの騎士は一度舌打ちした後、天井に刃で穴を開けて跳んで行ってしまった。
今のままでは絶対に勝てない、と判断したのだろう。
「……逃げられてしまったか。良い実験台になるかと思ったが」
言いながら、マキナイトたちは大勢が再び研究所の奥に戻り、残った数名は別の場所に進んでいく。
千種たちのいる、入口の方に。
※ ※ ※ ※ ※
「グガァァァッ!!」
「ラァッ!!」
臨時研究所にて再度激突する、ダイナストとスタッグビートル・マキナイト。
スワロウアーマメントにアーマーコンバートしたダイナストは、目にも留まらない速さで襲い来る刃を受け流し続け、X-ROSSの面々が全員逃げられるよう時間を稼いでいる。
しかし、スピードを犠牲にして守りに特化した形態であるが故に、反撃の掌打が回避されてしまう。
単純な話、互いに互いの攻撃が命中しないので、決着が付かないのだ。
「ウゥルルルッ!!」
流石に焦れて来たのか、緑のクワガタのマキナイトは地団駄を踏み、無理矢理ダイナストを押しのけようとする。
そこに隙を見たダイナストは、即座にダイナシューターを抜いてギミックアンバーを装填、発砲した。
《ギミックチャージ! ドラゴンフライ!》
「行かせるかよ!!」
「グゥゥゥッ!!」
弾丸は命中したものの、かすり傷にもなっていない。
スタッグビートルは逆上して双剣を突き出し、ダイナストを殺しにかかるが、再び彼はその一撃を受け流す。
「攻めようにも攻めきれねぇ……っつーか、そもそも倒しちまうとソニアは……!」
かと言って、野放しにしてしまえば無差別に人を襲う事になるだろう。
ここに来て千種は迷っていた。逃げてソニアを生かすべきなのか、それとも意地でも倒すべきなのかを。
そんな時、戦いを見ていたソーマが声を掛けてくる。
「待ってくれ! 姉さんを……殺さないでくれ!」
「く……」
彼女を元の人間に戻す方法があるのかどうか分からないが、どちらにせよこれ以上暴れるのは止めなければならない。
そう思ったダイナストは、すぐに彼女に組み付こうと考え駆け出した。
しかし、その時だった。
ダイナストとスタッグビートルの間に、三つの人影が割り込んだ。
ノミとダニとシラミのマキナイトだ。
「おお! 逃げ出した実験体、こいつは覚えているぞ! 中々良い鳴き声の玩具だったからな!」
「プレラーティの声……!?」
当然、ダイナストは困惑する。姿が異なるにも関わらず、全く同じ声のマキナイトが三人もいるのだから。
その闖入者たちが自らの左腕を切断すると、それが首輪や腕輪となって、スタッグビートルの体を拘束する。
「何してやがる!?」
驚きつつも即座に攻撃に動くダイナスト。
しかしそれを、件の三体のマキナイトが殴りかかって阻む。
「ぐあっ!」
三人がかりというだけでなく、見た目に反した凄まじい腕力による攻撃で、スワロウアーマメントの状態にも関わらずダイナストは地面に倒れてしまう。
その間、スタッグビートルに巻き付いた腕輪と首輪からは触手のようなものが伸びて、剣を取り落としたスタッグビートルの体を冒そうとしていた。
「ガァァァッ、ウガァァァァァ!!」
「中々抵抗して来るな……まぁ時間の問題か、管が脳に達すれば終わりだ。それでこの体も私のものになる」
プレラーティのそんな声が聞こえて、千種は直感する。
あの首輪はプレラーティの一部、即ちレウコクロリジウム・マキナイトの能力によって生み出されたものなのだと言う事を。
眼の前にいるマキナイトたちも同じようにプレラーティの細胞を埋め込まれ、強化と同時に操作されているのだろうと。
そして。
ソニアをマキナイトに改造したように、眼の前で行われている所業を、これまでもこれからも何度でも行うであろうという事も。
「――おい」
それが理解できた途端、千種は自分の頭の中でプツリと糸が切れたような感覚に陥った。
激しく燃え盛る炎が、脳を熱く沸騰させるような、そんな怒りを感じているのだ。
気付けば、Vという男から渡された深紅のギミックアンバーを握っていた。
《
装填された装置のキーをひねると、ダイナストの背後に禍々しい紫の炎を帯びた深紅の歯車が出現する。
「そいつを放せ……クソ野郎」
《
叫びながらホーングリップを倒すと、中央のディスプレイに炎が描かれて光が高速回転し、背後の歯車も怒りに呼応するように炎を噴き散らしながら回り出す。
そしてその炎が、ダイナストを包み込んで繭を形成していく。
「なんだ、この炎は……!?」
驚きながら呆然と事態を見守るプレラーティ。
直後、炎の繭が蒸気と共に内側からの爆発で破れ、中からカブトムシの戦士が現れた。
ただしその姿はライノアーマメントよりも重厚な装甲で覆われており、
そして複眼や装甲全体に走る、紫色のメタリックカラーのファイアパターン。圧倒的な威圧感に、その場に居合わせただけのソーマすら戦慄していた。
「俺はてめぇを許さねぇ……」
《
「ブッ壊してやる……プレラーティ!!」
叫び声を上げ、ダイナスト マルスアーマメントは進撃する。
『マルスエレファント……マルスゾウカブトのギミックアンバーだったんですか!?』
驚く瑠璃羽の声さえも聞こえていないのか、何も答えずにダイナストはマフラーから炎を噴き出しながら、スタッグビートルへ直進していく。
装甲が厚くなっているとは思えない程のスピード。だが当然、プレラーティの操るマキナイトたちがその妨害に入った。
「フン、片腕がなくともこちらは強化体だ。それにこの数なら……」
「邪魔だァッ!!」
しかしプレラーティの想定に反して、ダイナストはただの拳一発でノミのマキナイトの頭部を消し飛ばす。
「は……!? なんだと!?」
プレラーティは仰天しつつもマキナイトを操作して背後から襲わせるが、ダイナストはマフラーから再び炎を発してノミのマキナイトを焼き、加速しながら正面に立つシラミの顔面を殴打する。
そして炎で怯んでいる隙に、ノミの方も連続で高速の拳打を叩き込んで消滅させた。
あまりの圧倒的な強さを目の当たりにして、プレラーティは唖然とする。
「ふ、フフフ……なんという強さだ。美しいな、欲しいぞお前のからギャッ」
そんな話に聞く耳持たず、ダイナストはスタッグビートルに付けられた首輪を引き千切り、腕輪も破壊して完全にプレラーティから引き剥がす。
さらにそのまま、彼女を取り押さえるべく両腕を掴んで動きを止めた。
「ソニア! 俺だ、元に戻れ! ソニ――」
「グゥラァァァッ……!!」
だが、スタッグビートルは意識を取り戻さず、ほとんど互角の腕力で逆にダイナストを押し倒そうとしている。
一体どうすれば良いのか。抵抗しながら必死に打開策を考えていると、シルキィから通信が届いた。
『無理だ……やめてくれ助手くん、ダメなんだよ。マキナイトになった人間を以前の状態に復元する手段は……存在しないんだ……!!』
告げられたのは諦めの言葉。
最も機甲虫やマキナイトを良く知る彼女のその発言である以上、ダイナストはそれを否定する事ができない。
そしてついに腕を振り解かれ、顔面に拳を叩き込まれると、スタッグビートルが次の獲物としてソーマを視線に捉えているのが見えた。
「ッあああああああ!!」
《マルスエレファントビートル!
「ダイナストォォォーム!!」
獣のような咆哮を発し、現れた自身の愛機と一緒に蒸気に包み込まれたダイナストは、紫の炎を宿す巨大なマルスゾウカブトのバイクに変わる。
そして蒸気を放出すると、眼前のクワガタの騎士へと真っ直ぐに突撃して空久里アクアシティへのパスを繋いだ。
「うっ!?」
近くに立っていたソーマも、蒸気によって彼らと共に空久里に送り込まれる。
次の瞬間、天に昇っている太陽の光が、ビルの屋上に立つ彼らの目に飛び込んだ。
「なんだ……あの、光は……?」
初めて見る、美しい
それを目にして、ソーマだけでなくスタッグビートルですらも動きを止めてしまう。
ダイナストは、その一瞬を見逃さなかった。ヴェイパー・ブラストを解除し、ホーングリップを倒して上空で右足を突き出す。
《
紫の炎を纏い、繰り出される会心の一撃。
それを腹部に受け、クワガタの騎士は紫の爆炎と共に地に落ちる。
《
仰向けに倒れるスタッグビートル。しかし、まだマキナイトの姿のまま解除されておらず、足に力を入れて立ち上がろうとしている。
だが再び太陽の光を目にした時、その瞳が正気に返ったように輝きを帯びた。
「――きれい……」
同時に、変異が解けて徐々に灰化していく肉体。
そんな自分の手を見下ろして、ソニアはフッと笑みを浮かべる。
「体が渇いて、灰になってく……あぁ……そっか……これが……アタシの夢、黄金の矢……マキナイトの弱点、か」
「ソニア……」
「ありがと、な……チグサ……最期に、こんないいもの……見せてくれてさ」
目尻に滲む涙も、灰に落ちて失せていく。
死にゆく彼女の手を取ったのは、他でもない弟のソーマだ。
「ソーマ」
「姉さん、姉さん……!! ダメだ、イヤだ、死なないで……!!」
灰になっていく姉に涙しながら、ソーマは必死に呼びかける。
「まだ僕ら何も成し遂げてないじゃないか!! 二人で一緒に……何年かかったって良い、自由を取り戻すんだろう!?」
ソニアも涙を浮かべながら、しかし笑みを作ると、彼の手の甲にそっと口づけた。
そして。
「愛してるよ」
その言葉を最期に、完全に灰となって消滅する。
灰の山の中に遺されたのは、義眼とそこに埋め込まれたクワガタの機甲虫のみとなった。
「姉さぁぁぁぁぁん!!」
痛烈な悲鳴が、空の下で響き渡る。
そして震える手で遺品の義眼を取ったソーマは、そのままダイナストに掴みかかった。
殺意に満ちた眼差しを、憤怒を、彼にぶつけようとしていた。
しかし、それも一瞬の内に揺らいでしまう。
変身を解いていないために気付かなかったが、ダイナストの肩は、震えていたのだ。
「……ぐ、くっ……う、うあああ、あ……ああああああ……」
どこにも向ける事のできない怒り、憎しみ。
そんなソーマの慟哭を、