スタッグビートル・マキナイトを倒すため、ヴェイパー・ブラストを駆使して彼女ごと空久里へと飛んだ仮面ライダーダイナスト、才賀 千種。
その転移に巻き込まれたソーマ・フェニックスは、姉であるソニアの死を見届けた後、その千種へ頭を下げていた。
「それに、君に当たり散らしそうになってしまった……本当に悪かった」
「いや、アンタが謝らないでくれよ」
変身を解除して千種は告げ、首を左右に振る。
「それより早く帰って――」
その時だった。
視界が揺らいで徐々に暗くなり、千種の全身の力が抜けていく。
「え、あ……れ? ヤバ……」
近くでソーマが何事か叫んでいるのを聞きながら、彼は意識を完全に手放した。
それは、プレラーティがまだ人間だった頃のこと。
彼には娘がおり、二人で蒸機技師として活動していた。
しかし当時のプレラーティは病気を患っており、その生命は長くは保たない事を自覚していた。
「お父さん、体の具合はどう?」
「大丈夫……心配いらない。薬を飲んでいればまだ動けるさ」
白衣を纏う白髪の混じった髪の初老の男、プレラーティは、喪った妻に似た若く美しい自分の娘に微笑みながら言う。
「せんせーすげぇ! おれの腕、本当に動くようになった!」
「ハッハッハッ、でも無理に動かさないようにね」
彼らの主な客は、戦争の被害で手足が千切れてしまった人間。特に子供には、プレラーティ家は真鍮製の義肢を実験という名目で無償提供していた。
決して裕福ではなかったものの、一家は支え合って笑って生きていた。
――だが、そんな幸せは突然に終わりを迎える。
「タルフ・プレラーティ氏! あなたには違法な実験の容疑がある、心苦しいが……同行して貰うぞ!」
王国軍の兵士がプレラーティの家に現れ、拘束する。
しかしこれは、単なる前兆に過ぎない。真に彼の人生を一変させたのは、直後にこの街を訪れた『悪意』だった。
四傑伯の青髯卿が、左手の甲にサソリの紋章を宿す恐ろしき貴族が、マキナイトの軍勢を引き連れて王国の領地を奪いにやって来たのだ。
街はたちまち戦火に焼かれ、兵士の奮闘も虚しくプレラーティ自身も娘も住民たち全員がその男の魔の手にかかり、残酷に辱められた。
「んん~~~、チュパッチュパッチュパッ♡ レロレロレロレロォン♡」
深い青色の髪を肩まで伸ばしたその鎧姿の偉丈夫――青髯卿ジル・ド・レスピナスは、その端正な顔を狂ったように歪めながら、プレラーティの眼の前で娘の剥がれた顔の皮の唇に濃厚なキスをしていた。
娘自身の方は既に殺されて放置されており、プレラーティはというと同じく顔を剥がれた挙げ句、両手足と舌を斬り落とされた上で体中をズタズタに引き裂かれ、マキナイトたちの蹂躙を見学させられている。
「ふぅ、気持ち良かった……でも、まだまだ物足りないねぇ」
燃え広がる領地を眺めて舌舐めずりをし、ジルが視線を彷徨わせていると、足元で芋虫のように蠢くプレラーティの存在に気付く。
「お? 君まだ生きてるんだ」
「あぐ……あ、う……」
「うんうんうぅん、そうだよねぇ。悲しぃいよねぇ。自分の見知った顔が死んでるって……うお~~~~いおいおいおぉぉぉぉぉ~~~いぃぃぃぃぃ!!」
突然に両目から滝のように涙を溢れさせたかと思うと、娘の生皮を捨てて自らの掌を爪で裂いて血を流し、それをプレラーティに振りかける。
そして小さな機甲虫を懐から取り出し、それを彼の背中に無理矢理埋め込んだ。
「運が良かったら君は生き延びる。もしそうなったら、お友達になろう。死んだらここでサヨナラってことで」
先程までの涙が嘘のように、能面めいた真顔で語りかけるジル。
プレラーティは倒れたまま嗚咽を漏らしつつも、歯を食いしばってその身を奮い立たせる。
直後、その肉体が再生を始めるだけでなく、娘の顔の皮膚を己のものとして取り込んでいく。住民の散らばった手足も、自分の体を補うために使う。
娘の顔を忘れないために。
受けた屈辱を刻み込むために。
眼前にいる悪魔と同じ存在になってでも生き延びるために。
その悪魔を超えるために。
結果として、プレラーティの顔は娘のものを継承した中性的なものになり、肉体も性別が判然としない継ぎ接ぎだらけの歪な状態になった。
「ア~~~ッハハハハハハハ~~~ァッ! 良いねぇ才能あるねぇ君! すごく良いお友達になれそうだぁ!」
ジルは狂ったように笑いながらそう言って、プレラーティの顎に手を添えて自分の方に引き寄せ、再び唇を奪って覆い被さった。
そして、現在。
「……クソッ、接続が切れた」
臨時研究所の中に戻った、礼服を纏う本体のプレラーティは、自身が操作する寄生先のマキナイトが破壊されたのを認識して舌打ちする。
BOAを解放した彼は、寄生元の抜け殻である『分裂体』を他のマキナイトに食わせる事により、その分裂体を介して寄生先のマキナイトを強化した上で自身の意思で操る事ができるのだ。
おまけに、分裂体は望む限り何体でも生み出せる上、寄生先も無制限に増やして操れる。解除も自由。
しかしその能力を利用した上でも、分裂体は仮面ライダーに敗北してしまった。
「あのダイナストとかいうヤツ……本当に手強いな、もう少し真面目にスモーキー侯爵の忠告を聞いておくべきだったか」
頬杖をついて親指を血が出る程に噛みながら、プレラーティは呟く。
交戦の時間が短かったとはいえ、マルスアーマメントを得たダイナストの戦闘力が容易に突破できるものではないのは明らかだ。
しかし、だからこそプレラーティはあの力を欲している。千種の肉体を乗っ取る事によって、仮面ライダーの力をも簒奪し、他のマキナイトよりも数歩上を行こうと考えたのである。
そして行く行くは、王の頂に。
「プレラーティ様」
そんな折、二人の兵がプレラーティの前に姿を現す。
彼らの後ろに縄で繋がれているのは、空久里から来訪してしまった羽取 貂であった。
「近くを彷徨いていた女を見つけました」
「見たところ、この星の者ではないようです」
「如何致しましょう?」
その問いに対し、プレラーティは貂の身体を爪先から頭まで舐め回すように見つめた後、その視線を兵たちに戻す。
「ご苦労、諸君。処遇は少し話して判断するから、ここに置いて戻っていいぞ」
『御意』
兵たちは素直に主の言葉に応じ、去っていく。
彼らを見送った後、改めて貂に目をやった。
「いや、本当に丁度良かった。慰労と栄養が欲しいところだったからね」
「な、なんなの……あなたたち……」
「質問に答える気はない。とりあえずまぁ、脱ぎなさい」
突然の指示を聞き、目を瞬かせる貂。
何かの冗談ではないかと思って尋ねようとするが、その前に眉間にシワを寄せて苛立った様子でプレラーティが口を開く。
「良いから脱げ。もたもたするようなら、痛い目に遭うぞ……ああいう風に」
そう言って、親指で自身の背後の暗闇を示す。
目を凝らして見れば、そこには無数の人骨が散乱していた。
「え……あれって、骨……ほ、本物の……人間の!?」
「まだ時間をかける気か」
真正面から聞こえて来る冷徹な声。命の危険を察知した貂は、恐怖に怯え顔を青くしながらも制服を一枚ずつ脱ぎ始める。
「そうそう、良い子だ」
プレラーティは唇を歪めて頷き、彼女の脱ぐ様子をじっと眺め続けた。
そして靴下まで脱ぎ終えて残すは下着のみとなった時、立ち上がって近付いていく。
「よし。後は私の手で脱がせてやろう」
ビクッと貂が震え、プレラーティの指先が最後の一枚を引き剥がそうとする。
だがその時。
研究所の壁が破壊されて大穴が開き、そこからひとつの影が飛び出して二人の間に介入した。
「な……に!?」
驚いたプレラーティは伸ばした手を止め、その人物を見て瞠目する。
それもそのはず、現れたのは黒騎士シモンだからだ。
「貴様は黒騎士!? なぜここに!!」
「命令だ。貴様を狩りに来た」
貂を守るように立ちはだかった彼はそう告げて、片手に持ったファングレイザーを突きつける。
行動の理由が分からずに、混乱してたじろぐ家主の子爵。
すると、シモンはじりじりと追い詰めるように接近しつつ、口を開く。
「プレラーティ。貴様の思惑は知っている……スモーキーから伝言だ」
懐からギミックアンバーを取り出すと、シモンはそれをチェーンソーに装填した。
《
「野心と向上心があるのは大いに結構、しかしそこに『あのお方』への叛意を孕んでいるのなら看過する事はできない……と」
「く……!」
「裏切るつもりでいるのなら、もっと巧妙に隠すべきだったな。血塗れの牙と嘘の臭いを……」
シモンはそう言いながらトリガーを引いて、糸と共に現れた大蜘蛛と融合する。
《
「ヌゥン!」
《
「では跪いて懺悔しろ。楽に処刑してやる」
紫の蜘蛛、邪甲騎士ルーガルーは、チェーンソーを手に堂々と宣戦布告した。
しかしプレラーティも、それで納得して自らの命を差し出すような人物ではない。
暗闇の中に隠れ潜んでいたデッドアントたちが数名姿を現し、ルーガルーと対峙する。
「BOAアクティベート!」
そしてルーガルーが身構えた瞬間にそう叫び、左手に指輪を形成。
直後、デッドアント全員がプレラーティの方を振り向き、牙を突き立てボリボリと喰らい始めた。
ただし本体である小さな虫は、どさくさに紛れて指輪に化けて投げ飛ばされ、部屋の片隅に散乱している人間の死体のひとつの指に収まって体内に侵入する。
こうする事により、能力で強化した分裂体だけを戦わせ、本体は安全圏から見物できるのだ。
『行くぞ!!』
抜け殻を食って分裂体に寄生されたデッドアントたちが同時に叫び、各々の持った武器で一斉に襲いかかる。
対するルーガルーは、素早くチェーンソーを振るって一撃でアリを一体真っ二つにし、背後から襲いかかった者も裏拳で頭を砕く。
「きゃあっ!?」
だがその矛先は、ルーガルーだけでなく背後の貂にも向けられていた。黒騎士の相手をするついでに、始末して栄養補給をしようというのだろう。
「……チッ……!」
それを認識すると、邪甲騎士は舌打ちと共に貂の身体を抱え、糸を発射して先程空けた穴へと跳躍する。
「フン、処刑すると宣っておきながら逃げる気か!」
「安心しろ。すぐに戻る」
プレラーティの声にそう返しつつ、ルーガルーは新たなギミックアンバーを取り出し、それをセットした。
《ギミックジャック! ローリーポーリー!》
「フン!」
使用したのはダンゴムシの琥珀。
左腕の噴射口に黒い鉄球が装備され、糸で繋がれたそれが射出、デッドアントの頭を打ち砕く。
「なっ!?」
「ヌウオオオオッ!!」
さらに右腕の糸を拡散させて蟻兵たちの足を絡め取って転倒させ、左腕の糸を巻き取って再び鉄球をぶつける。
貂を守りながらその攻撃を繰り返して敵を退け、残り一体のデッドアントを薙ぎ倒した後、ルーガルーはすぐにその場を後にした。
そしてしばらく走り続けた後、周囲にマキナイトがいないのを見計らって貂を解放する。
「向こうに明かりの点いた建物があるだろう、そこがレジスタンスの居住場所のはずだ。着替えたらさっさとそこに向かえ」
「は、はい……けどあなたは?」
「仕事が残っている」
ルーガルーはそう言って、再び研究所に目を向けた。
先程のデッドアントたちの中にプレラーティがいなかった事を見抜いているのだ。
そんな彼の背中へと、貂は深く頭を下げる。
「ありがとうございます!」
「……礼はいらない、そんな事を言われる立ち場じゃない」
「でも、私を助けてくれましたし……あなたみたいな良い人がいてくれてよかった」
立ち止まったルーガルーは、振り返らずに首を左右に振って、貂の声に答える。
「俺は人間ではない。しかしヤツらのようなマキナイトでもない、だから助けたのはただの気まぐれに過ぎん」
「え?」
「自分の名前も出自も分からない、ただ騎士を名乗っているだけの男……それが俺だ」
そう言った後、今度こそ蜘蛛の騎士は霧の立ち込める街路へと姿を消した。
同じ頃。子爵領でX-ROSSが拠点として使っている廃墟の2階に、毛布の上で横たわる千種の姿があった。
つい先程、空久里で気絶して倒れた彼をソーマが連れて戻ったのだ。
看病にはシルキィがつき、瑠璃羽も手伝う。作業をしている最中の彼女らの表情は真剣そのもので、千種を助けるため手を尽くしている。
結果として、着いた頃はうなされていた千種も今は落ち着いているようだった。
そんな時、ソーマが扉を開いて様子を見に来る。
「彼の容態はどうなんだ……?」
心配そうに尋ねると、溜め息と共にシルキィが解答する。
「とりあえず命に別状はない、最初はものすごい熱だったからビックリしたけど。原因は……間違いなく、これだろうね」
そう言ってシルキィが取り出したのは、マルスエレファントビートルのギミックアンバーだ。
これは彼女の手で作られたものではなくVと名乗る人物が持ち込んだもの。スタッグビートル・マキナイトとの戦闘でも使われたため、必然的に倒れた理由であると結論づけられる。
「出力が高いとはいえ通常形態を使う分には問題ない、けど蒸気解放の場合は別。元々三分しか保たない上に再使用に時間がかかる形態だ。それが助手くんの肉体に凄まじい負荷をかけた。ちゃんと事前に調べておくべきだった……これはワタシのせいだ」
「でも、あの時はそんな時間がなかったじゃないですか」
「それは甘えさ、言い訳なんだよ。人の命がかかっているのに……ワタシは、危険性を想定しなかった。科学者失格だよ」
項垂れて頭を抱え、次第にシルキィの両目に涙が溢れていく。
「ソニアのことだって何も気付いてあげられなかった! もっと早くに知ったところで、それで何かが変わったワケじゃないかも知れないけど……少なくとも、助手くんやソーマにこんな辛い思いをさせずに済んだかも知れないのに……」
彼女の悲痛な独白に、ソーマも瑠璃羽も何も言えずにいた。
だがその瑠璃羽が口を開こうとした時、突如として2階の扉が開いてぞろぞろと人間の集団が姿を現す。
X-ROSSの庇護下にある、元々子爵領に隠れ住んでいた者たちや、アジトから移動して来た戦えない住民たちだ。
「あんたら、今すぐに出て行ってくれんか」
彼らがシルキィたちへ投げつけたのは、そんな言葉だった。
「ソニアさんは私たちを解放してくれた恩人だったんだぞ!」
「なのにそんな簡単に命を奪うなんて……やっぱり、蒸機技師なんかに頼るべきじゃなかった」
「人殺しどもめ。我々はこれからどうやって生きていけば良い?」
「そもそも本当にあの人はマキナイトになっていたのか?」
「信用を得るために嘘をついて、彼女を排除しただけなんじゃないのか!」
「大体ソーマさん! 弟のあんたがついていながらなんでこんな事になってるんだ!」
口々に好き勝手な罵声を浴びせ、倒れている千種やシルキィを睨みつける住民たち。
落ち込んでいるところに険悪な空気が流れ、過去に両親ともども追い出された時の事も思い出してしまったシルキィは、彼らの雰囲気に呑まれて本当に立ち去ろうと考えてしまう。
しかし、その瞬間。
「いい加減にして下さい!!」
声を大きく張り上げたのは、瑠璃羽だ。自分たちを睨む住民たちを前にして一歩も退かず、逆に涙ながらに睨み返している。
「先輩もソーマさんも、戦いに出たレジスタンスの皆さんは私たちのことを必死に守ってくれたじゃないですか!! なのにどうしてそんな事を言われなきゃいけないんですか、そもそも戦ってくれる皆さんに対してあなたたちは何かしてくれたんですか!?」
「な、何も知らん余所者の小娘が知った風な事を……」
「あなたたちだって、先輩やシルキィさんの事を何も知らないでしょう!? 見ず知らずの赤の他人のくせに、これ以上私の恩人を傷付けないで下さい!!」
湧き上がる怒りを全力でぶつけ、荒い息をつく瑠璃羽。
大人しく地味な見た目の彼女からは考えられないような気迫に、その場に居合わせた全員が圧倒されてしまう。
「……気持ちは嬉しいけどさ、もう言い争うの止めてくれよ。人間同士でやる事じゃないだろ」
千種の意識が戻ったのは、その直後の事だった。
「先輩……!?」
「助手くん!!」
シルキィも瑠璃羽も、身を起こそうとしている彼の方にすぐに駆け寄っていく。
「悪い、どのくらい寝てた? プレラーティをどうにかしねぇと……」
「今からかい!? その体じゃ無理だ、体を休めないと!」
「今すぐじゃなきゃダメなんだ。俺たちにはもうプレラーティを倒せるだけの戦力がある。それにヤツがあの場所に留まってるってのは、他に打つ手がないって事だろ。仕掛けるなら
そう言いながらも、千種は自分自身の思うように動けないようで、身体がふらついている。
勝つための力を持っているとは言っても、今の状態ではまともに戦えないだろうと、ソーマもシルキィも思う。
そして目を閉ざして思考した後、ソーマの方から口を開いた。
「シルキィ、君に頼みたい事がある」
※ ※ ※ ※ ※
廃墟での騒動が収まって、数十分が経った後。
民衆たちに向かって激しく怒鳴り散らした瑠璃羽は、廃墟の外の入口付近で座り込み、今になって説教じみた真似をした事を後悔していた。
自分自身も彼らの活動に大きく貢献できているワケではない。偉そうな口を利ける立ち場ではないというのに。
しかし二人のことを、特に千種を愚弄されるのを、瑠璃羽は黙って聞いていられなかった。なぜ彼らの事になると熱くなってしまうのか、それは彼女自身にも分からなかったが。
「瑠璃羽」
「え……?」
悩んでいると、聞き覚えのある声が瑠璃羽の耳に届く。
振り返ってみれば、そこにいるのは空久里での彼女の友人、羽取 貂だった。
「貂ちゃん!? どうしてここに!?」
「歩いてたらいきなり霧が出て来て……それで、気付いたらここに」
「……私の時と同じだね」
ここに来てしまった以上は隠す必要もないと感じ、瑠璃羽はぽつぽつと事情を打ち明け始める。
マキナイトのこと、仮面ライダーのこと、この星のこと、そしてこれまで千種が空久里に被害が及ばないよう戦い続けていたことを。
貂は驚くでも否定するでもなく、ただ瑠璃羽の話に落ち着いて耳を傾け続けていた。
「ところで。聞いてたよ、さっきの啖呵」
「あ……あはは、騒がしくしちゃってごめん。貂ちゃんも怖い思いをしてたのに」
「私こそごめんなさい。あなたたちのこと……何度も問い詰めて、酷い誤解をして。こんな場所の話なんて言えるワケないのに。友達失格だよ」
自嘲気味に、そして申し訳なさそうに呟くと、瑠璃羽は頭を振って貂の身体をそっと抱き寄せる。
「大丈夫、何があっても私は貂ちゃんの友達だよ」
「瑠璃羽……!」
瞳を潤ませ、貂は彼女の手をキュッと握った。
そうして二人で笑みを交わし合った後、ふと瑠璃羽が疑問を投げかける。
「ところで貂ちゃん大丈夫だったの? ここに来て、マキナイトに襲われなかった?」
「一度は捕まったんだけど、助けてくれた人がいたの。シモンさんって人が」
「え?」
思わぬ名前が飛び出したので、瑠璃羽は目を丸くした。
シモンという名には一人しか心当たりがない。かの黒騎士が人助けをしたのだという事実を、どう受け止めれば良いのか分からない様子だ。
「二人とも、ちょっと良いかい?」
悩んでいると、手にトランクを提げたシルキィが現れて瑠璃羽らに声をかけて来る。
「向こうから持って来て欲しいものがある、なるべく多い方が良い。助手くんの話の通りなら今後絶対に必要になるからね」
「分かりました。何を取ってくれば良いんですか?」
尋ねられるとシルキィはやや声を潜め、その物資を明かす。
瑠璃羽も貂もそれを聞いて真剣な面持ちで頷き、空久里へパスを繋いで行動を開始した。
「さて……」
残ったシルキィは、再び屋内に戻って視線を彷徨わせる。
そして2階のとある一室で、一人の青年に目を向けた。
ソーマだ。著者名に『S・V・ヘルシング』とある十字架が表紙に刻印された青い革装丁の本を読んでいる彼に近付いていき、話しかける。
「ここにいたんだね」
シルキィの声を受け、ソーマは本を閉じてゆっくりと顔を上げた。
「頼んだものは?」
「とりあえず完成したよ。キミのお陰で最後のピースが揃った……けど、本当にこれで良かったのかい?」
尋ねると、ソーマは閉ざした本を片手に立ち上がり、著者の名を指で差す。
「話した事あったかな? 僕らフェニックス家のルーツを辿ると、X-ROSS創始者のヘルシング家に行き着くんだ。姉さんも父も祖父も、その先祖もみんなヘルシングが遺したこの書物を継承した。ストーク王家の歴史やマキナイトたちの所業を記したこの本を」
拳を握り込み、彼は強固な意志を感じさせる瞳で、真っ直ぐにシルキィを見つめた。
「それと同じように、姉さんが目指したものは僕が受け継ぐ。僕が……人々を黄金の光の下に導き、この世界の全てを変える」
その言葉にシルキィはフッと微笑んで頷き、トランクを手渡す。
直後、外で人間の悲鳴が上がった。
すぐに二人とも、マキナイトが現れたのだと察する。
「動くか、プレラーティ!!」
住民の避難をシルキィに委ね、ソーマはトランクを持ったまま外に出ていく。
※ ※ ※ ※ ※
「まだこんなに人間が隠れていたか」
ぞろぞろとその場に結集する、デッドアントを含めた無数のマキナイト。その全てが、プレラーティの分裂体を食って寄生された者たちだ。
その中には一体だけ、指輪型の本体を飲み込んだ個体が潜んでいる。これを倒して内部の寄生虫を潰さない限り、プレラーティが死ぬ事はない。
マキナイトたちは力を蓄えるため、逃げ惑う市民たちをぞろぞろと追いかけていく。
「そこまでだ」
直後に銃声と共に聞こえたのは、そんな声だった。
目を凝らせば、逃走する人間たちの流れに逆らい、ドライバーを装着した一人の男が立っている。
千種だ。騒ぎを聞きつけてこっそり廃墟から抜け出し、戦いに現れたのだ。
「丁度いい! 私は君の身体が欲しかったんだ!」
「気色悪い事言ってんじゃねぇ……くっ!」
ふらりと千種がよろめいて、頭を押さえる。
まだ体調が万全ではないのだ。それを見抜いて、プレラーティはニヤリと笑う。
「その様子ではどうやら本調子じゃないらしいな? 好都合だ、すぐ私のものにしてやろう」
住民を追うのを止め、百近い数の分裂体が一斉に千種を取り囲む。
万事休すか、と思った矢先、カトラスが二本飛来し、分裂体の頭に突き刺さる。
そして、トランクを持ったソーマが悠然と歩み出て来た。
「大丈夫か?」
千種に問いかけるソーマ。そんな彼の姿を見て、プレラーティは余裕を隠そうともせず鼻を鳴らす。
「ただの人間如きが、何をしに来た?」
「お前を消し去るためだ。他に理由はないだろう」
「口先だけは達者のようだが、力を持たない人間には不可能な事ぐらい理解していよう?」
そんな挑発めいた言葉を無視して、ソーマはトランクの中身を手に取る。
千種とプレラーティはそれを目にして、ハッと息を呑んだ。
そこにあるのは、中央のバックルにクワガタのアゴのようなものが付いた、ダイナスティドライバーに似た青いベルトだった。
「それは!?」
「僕がこの力で……貴様を、姉さんの仇を討つ!!」
《レギウスドライバー!》
言いながらソーマが腰にそれを装着し、さらに青いギミックアンバーを手に取って上から角と角の間に差し込む。
《
「変身!!」
《
上に向かって伸びている二本のグリップ、マンディブルハンガーを左右に開いた瞬間、中央のスクリーンが青く発光・回転し、全身が青い真鍮線の繭によって包まれる。
《
そしてその音声が流れた瞬間、繭が蒸気と共に弾け飛んで、中からスタッグビートル・マキナイトが現れた。
《
否、直後にその緑色の装甲にも亀裂が走って氷のように砕け散ると、青いボディに二本の角を生やす戦士が完成する。
冷気を纏う艷やかな光沢を放つ、クワガタを彷彿とさせるような真っ赤な瞳の仮面ライダーだ。
「ソーマ、お前……その姿は」
彼の姿を目にした千種が呆然とした様子で呟き、ソーマが変身したその戦士は、プレラーティたちの前に立ちはだかって名乗りを上げる。
「僕は