仮面ライダーダイナスト   作:正気山脈

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GEAR.13[炎銃氷剣]

 子爵領にてついに決戦を仕掛けたプレラーティ。

 百を超えるマキナイトの集団の前に立ちはだかる千種であったが、その体調は未だ万全ではなく、変身する前に立ち眩みを起こしてしまう。

 そんな中で彼の救援に現れたのは、新たなドライバーを引っ提げて変身を果たしたソーマ、仮面ライダーレギウスであった。

 

「もう一人……変身できる、だと!?」

「どうした? 呆けている余裕があるのか?」

 

 拳を握り締めてボクシングのようなファイティングポーズを取るレギウス。

 挑発を受けたプレラーティの分裂体たちは、フンと鼻を鳴らして同じく身構える。

 もしレギウスが強大な力を持っているのなら、今の今までダイナストと共に自分の前に現れなかった理由に説明がつかない。

 つまり、変身したのはこれが初めてであるはず。面食らいはしたものの冷静にそう結論づけて、勝てると判断したのだ。

 

「自惚れるなよ、小僧! 貴様如きが私を倒せるものか!」

 

 数に物を言わせて取り囲み、一斉に襲いかかる分裂体たち。

 レギウスの背後に回ったのが三体、正面から突撃する者が二体、さらに左右から挟撃するものが二体ずつ。

 手にはそれぞれ、デッドアントが使うものと同じ食器型の武器を持っており、四方八方から同時に突き出して来る。

 それらの攻撃に対し、レギウスは自身の周囲に氷の壁を形成する事によって防いだ。

 

「は!?」

「遅い」

 

 一瞬の内に全ての武器を止められてしまい、プレラーティは目を見開く。

 さらにレギウスは自らの拳で分裂体たちを殴り倒し、直撃した胴体や頬を凍りつかせた。

 

「く、その氷が貴様の能力……か!」

 

 彼の背後で倒れている分裂体が言いながら、フォークの槍を投擲する。

 しかしレギウスは振り返る事なく氷の壁を展開し、その穂先を弾き返して見せた。

 

「バカな、なぜだ!? 見えていない攻撃をどうやって防いでいる!?」

「簡単な事だ。姉さん……スタッグビートル・マキナイトには、元々強力な感知能力が備わっていた。僕はその能力を継承しているんだよ」

 

 以前、スタッグビートル・マキナイトは、ダイナスト自身でさえ軌道の読めないスワロウテイルギミックアンバーを使った射撃攻撃を回避した事がある。

 機甲虫を回収した結果、シルキィによってその機能が再現され組み込まれているのだ。

 これによって、レギウス自身のスピードと氷の能力との併用により、あらゆる攻撃を命中する前に防ぎ続ける事ができる。

 その間に呼吸を整えた千種は、ドライバーにギミックアンバーをセットし、ホーングリップを倒す。

 

「変身!」

HEAT & MASSIVE(ヒート・アンド・マッシブ)! ライノアーマメント! GROOVY(グルーヴィ)!》

「心強いぜ、レギウス。二人でなら勝てそうじゃねぇか!」

「ああ、ダイナスト。行くぞ」

 

 腕と腕をトンッと重ね、二人の王は分裂体に攻撃していく。

 レギウスは自らの両腕を前に掲げて、武器を呼び出した。

 

《レギウスラッシャー!》

 

 覇王の両手に握られたのは、クリアブルーの刀身を持つ双剣だ。

 彼自身の持ち前のスピードも手伝って、瞬く間にマキナイトたちを斬り刻んでいく。

 さらにダイナストも、射撃攻撃によって分裂体の身体を撃ち抜いた。

 

「おのれぇ! なぜこうも容易く……!?」

 

 負傷した者たちを無傷の分裂体が喰らっていき、その度に数が減っていく。

 だがプレラーティが空に向かって咆哮すると、新たにノミ・ダニ・シラミのマキナイトが二十体ほど戦場に現れた。

 

「まだいんのかよ!」

「何度現れようと倒すだけだ!」

 

 言いながら、レギウスは二つの刃を交差させるように合着させ、ハサミの形状を作り出す。

 

《シザーモード!》

「ハァッ!!」

 

 ハサミを開くと青い光の刃が発振され、閉じた瞬間にそこに挟まれたマキナイトたちが両断される。

 それでもなお分裂体マキナイトの数は増え続けており、二人だけでは対処しきれない程に増加していた。

 

「キリがねぇ……!」

 

 ダイナストとレギウスが撃墜に終始している間に、二人の背後に迫る分裂体。

 そしてまた不意打ちの攻撃を仕掛けようとした、その時。

 轟音と共に、その分裂体の首が横薙ぎの一振りで斬り落とされる。

 二人が振り返って見れば、そこにはチェーンソーを肩で担ぐ邪甲騎士の姿があった。

 

「アイツはルーガルー!?」

「なぜここに!?」

 

 驚く魔王と覇王の言葉を無視して、ルーガルーはファングレイザーを構えて言い放つ。

 

「逃げ切れると思うなよ、プレラーティ。貴様の処刑は確定事項だ」

 

 言いながら再びファングレイザーを振るい、蜘蛛の騎士はカブトの魔王と背中合わせになった。

 背中越しに、ダイナストは密かに問いかける。

 

「手ェ貸してくれるって事でいいのか?」

「勘違いするなよダイナスト。俺は俺のすべき事をしに来たのみ、貴様とも必ず決着をつけてやる」

「そうかい」

 

 これで戦う人数が増えた。ようやくプレラーティの殲滅が現実味を帯び始めたと思い、仮面ライダーの二人もX-ROSSの面々にも希望の光が差し込む。

 しかし、そのプレラーティの方にはまた動きがあった。

 

「チッ、仕方がない……今の兵力はジルを殺す時のためにある程度は温存しておきたかったが、ここで死んでは元も子もないからな」

 

 その言葉の直後、分裂体は互いに互いの身体にかぶりつく。

 

「アイツ何やってんだ!?」

 

 驚くダイナストの声も聞き流し、全員が肉を食らってどんどんその数を減らす。

 それによって食い散らかした側の身体はブクブクと肥大化するが、分裂体を食し終わると同時にその圧縮され、強靭な筋肉が形作られる。

 

「どうなっている!?」

「恐らくは……食べて増えた分の肉体を最適化しているんだろう、そのマキナイトにとって優秀な部分だけを抽出して融合し、より強力に……そうか、配下のマキナイトや実験体は最初からこのために!」

 

 残りが二体となった時、全身に引き締まった筋肉を持つそれらの分裂体が、また牙を立てる。

 

「喜べクズ共、貴様らの力も私が総取りしてやる!!」

 

 鮮血が迸って全てが喰らいつくされた後、そこに立っていたのは、分裂体全てを統合して本体を内蔵するプレラーティだ。

 貪られた生物が、まるでナメクジかカタツムリのように小さく圧縮され、それらが集合して引き締まった筋肉の人の形を作っているようであった。

 足は二本だが腕は四本生え、頭には四つの触覚めいた蠢く長い器官、その先端に緑色に光る眼球がある。

 プレラーティは拳を握り込み、疾走。一瞬の内にレギウスの眼前まで距離を詰めた。

 

「速い!?」

「だが無駄だ」

 

 ダイナストが驚く中、レギウスは怯まず攻撃の寸前に氷壁を生み出して防御しようとする。

 しかし、プレラーティの二つの拳は容易く氷の防御壁を打ち破った。

 

「なに!?」

「フハハハッ!!」

 

 さらに続け様に連続の拳打がレギウスを襲い、複数ある腕の攻撃を回避し切れなかった彼は堪らずよろめいてしまう。

 それでもなお追撃の手を止めようとしないプレラーティ。その背後から、ルーガルーがチェーンソーを真っ直ぐに振り下ろす。

 プレラーティの頭部と胴は、一直線にパッカリと左右に分かれた。

 

「やったか!?」

「残念、ハズレだよ」

 

 四本の腕の内の二つが180度後ろを向き、ルーガルーの両肩を掴む。

 体はファングレイザーで斬り裂かれたのではない。プレラーティが自ら、分裂体を左右に分断させたのだ。

 残る二本の拳はそのままルーガルーの両脇腹を打ち、後方へ大きく吹っ飛ばした。

 

「ぐぅっ!?」

 

 逆手に持ったチェーンソーを地面に突き刺してなんとか姿勢を保ち、ルーガルーはプレラーティを睨む。

 三人の戦士はみな、同時に理解した。プレラーティ――レウコクロリジウム・マキナイトの能力の脅威と、その本質を。

 単に分裂する事自体も厄介ではあるが、問題はそこではなかった。無数の分裂体を、手足のように自由自在に操る本体の頭脳と処理能力こそが最大の強みなのだ。

 そして分裂体全てが本体のみに圧縮して集合体となった今、圧倒的な攻撃力と精密かつ俊敏な動作を兼ね備えた凄まじい強敵が生まれたのである。

 

「どうだ、これが私の研究成果! 集大成、最高傑作! パーフェクト・レウコクロリジウムだ! あるいは究極完全プレラーティと呼んでくれても構わんよ!」

「誰が呼ぶかよ、この変態野郎が!!」

 

 ダイナストは拒否を叫びながらプレラーティへ発砲するが、それも穴を開けるように分裂体を操作する事によって、命中せずに終わってしまった。

 

「この野郎……だったらこいつでいく!」

SET(セット)! マルスエレファントビートル! SHOWTIME(ショウタイム)!》

「アーマーコンバート!」

ECLOSION(エクロージョン)!》

 

 ギミックアンバーを装填してグリップを倒すと、ダイナストの姿が繭に包まれ変化する。

 

RAGING GRADIUS(レイジング・グラディウス)! マルスアーマメント!》

「ハァッ!!」

GROOVY(グルーヴィ)!》

 

 紫炎を排気管から噴き出し、仮面ライダーダイナスト マルスアーマメントは拳を突き出す。

 しかしプレラーティは後方に素早く跳躍して即座に回避し、くつくつと笑う。

 

「そうだ、その力が欲しいんだ私は! 奪わせて貰うぞ!」

 

 言いながら離れた位置から集合体が拳を突き出すと、その腕が大きく伸びてダイナストの胸を叩いた。

 

「ちっ!!」

 

 ライノアーマメントよりも硬い装甲であるため直撃しても然程ダメージはないが、ダイナストの方も攻撃を当てる事はできていない。

 このまま攻め続けられては、三対一の状況でも負けるのはダイナストたちの方だろう。

 

「レギウス、お前の感知能力で本体の位置は分からないのか!? 身体のどこにいるのかってのをよ!」

「この機能はあくまでも敵の挙動を読むためのものだ、残念だがそれはできない……君の方こそ、ヤツの全身を一気に消し飛ばすような攻撃方法はないのか?」

「必殺技なら行けるだろうが、そもそも当たらなきゃ意味ねぇんだ! シルキィ、何か切り札とかねぇのかよ!?」

 

 通信を送ると、避難しているシルキィからすぐに返事が返って来る。

 

『ひとつだけあるよ。だけど……まだ、時間がかかる』

「だったら僕たちのやるべき事はひとつだな」

「ああ。時間を稼ぐぜ、一秒でも長く!」

 

 頷き合うダイナストとレギウス。

 すると、彼らの前にルーガルーが出て来て、迷宮を作るように四方八方に蜘蛛の糸を張り巡らせた。

 

「ルーガルー!?」

「時間を稼げば良いんだろう」

 

 この糸で絡め取れば、集合体の一部を分離させる事ができるかも知れない。

 そう考えての行動であったが、直後にプレラーティは笑い声を発する。

 

「捕まえるつもりか? 甘い!!」

 

 その言葉と同時に四本の腕の内の二本で手刀を作ったかと思うと、その手が本物の剣の形に変形し、鋼のように硬質化した。

 驚く間もなく、続いてプレラーティはその剣で自身の周囲の糸を断ち斬ろうとする。

 しかしその瞬間に、ダイナストも動く。

 

「甘いのはお前だ!」

「なに……?」

 

 腕から放出された紫の炎が糸を焼き、弾丸のように飛んで行って接近しようとしたプレラーティを襲う。

 ダイナストの方はあえて激しく攻め立て、守勢に回らせる事によって時間を稼ごうとしているのだ。

 だがその目論見も、敵側が腕を止めて咄嗟に硬質化した腕を盾に変化させた事で妨げられてしまった。

 

「危ない危ない……」

「何を安心している?」

 

 正面から聞こえるレギウスの声。

 見れば、彼はシザーモードのレギウスラッシャーを地面に突き刺し、トリガーを引いている。

 すると冷気が地面を伝い、徐々に凍りついてプレラーティの足元まで迫りつつあるのが見えた。

 

「うおっ!?」

 

 糸や銃弾はともかく、流石に凍らされては分離で攻撃から逃れる事はできない。

 プレラーティは慌てて跳び上がり、腕を再び変形させ、今度は翅で飛翔する。

 その判断が命取りとなった。タイミングを読んでいたルーガルーは、既に糸を利用しその頭上まで跳躍しているのだ。

 

「ハッ!?」

「捉えたぞ!」

 

 腕から射出された糸が集合体の全身を隙間なく埋め尽くす。

 ルーガルーはそのまま蹴りを叩き込み、糸で固められたプレラーティを地面に墜落させた。

 

「よっしゃあ! 後はこのままブン殴って……」

 

 ダイナストとレギウスもルーガルーの追撃に加わろうとするが、その時。

 糸の破れる音と共に、無数の刃が伸び出て三人を襲い、装甲を裂く。

 

「ガッ!?」

「なぁ~んて……ね」

 

 見れば、プレラーティの身体は棘状に変形しており、それらが蠢いて糸を切っているようであった。

 

「クソッ……糸で巻かれる寸前に、身体を変形させていたのか!」

「フフフフフ、そろそろ万策尽きたようだね? ではもう終わりに――」

 

 四本の腕全てを刃の形に変えて迫るプレラーティ。

 だがそれを遮るように、いくつもの足音が戦場に響き渡る。

 

「うん?」

「みなさんお待たせしました! 私たちの勝ちです!」

 

 そう言ってプレラーティの後ろにある建造物から現れたのは、瑠璃羽だった。隣には貂もおり、片手に懐中電灯のようなものを持っている。

 彼女らはどこからどう見ても普通の人間でしかないので、プレラーティは安堵と同時に嘲笑する。

 

「何もできん虫ケラどもが、一体何のつもりだ。そこでこいつらが倒されるのを黙って見ているが良い!」

 

 腕を振り上げ、ダイナストに迫るプレラーティ。

 その瞬間、機械音と共に彼に向かって一斉に光が照らされた。

 見れば、建物の中には二人の少女以外にも何人もX-ROSSの人員や国の住民たちが配置され、それぞれ撮影に使われるような照明スタンドや電灯を持っている。

 まるでスポットライトを浴びているかのような状態だが、その光を受けたプレラーティに大きな変化が起こった。

 

「ギッ!? ヒ、ヒギィィィィィアアアアアァァァァァッ!?」

「な、なんだ!?」

 

 突然苦悶の悲鳴を上げたかと思うと、腕の変形を解いて顔や脇腹を押さえ、地面に倒れて転げ回り始めたのだ。

 あまりの状態に、ルーガルーですら困惑している。

 

「痛い、痛いィィィ!! 何を……何をしたァァァ!?」

 

 四つの触覚がモゾモゾと動き、血走った目玉が人間たちを睨む。

 その様子を見ながら、ダイナストはグッと握り拳を作った。

 

「そうか……アレを持って来てくれたんだな」

「アレ?」

 

 レギウスが問うと、魔王は頷き答えを出す。

 

「こいつらが太陽の光に弱いって言うから、シルキィと話してたんだよ。俺たちの世界には擬似的にその光を再現した装置や技術があるって。香衣たちはそれを取ってきてくれたんだろ?」

「はい! UVライトを買えるだけ掻き集めました、ひとつ当たり100円のものですけど!」

「とはいえ、多分本物の太陽光じゃないせいかこれだけじゃ灰にまではならないみたいだな。効果はあるみたいだけど、よ!」

 

 ダイナシューターから発射された弾が、倒れているプレラーティの腕一本をいとも容易く砕く。

 

「ヒギャアアア!? ち、血が固まる……身体の自由が効かない……こ、こんな……こんなァァァ!!」

 

 分裂体そのものが岩石のように硬直しているため、それの操作を最大の能力とするプレラーティにとって、これは最悪の状況であった。

 この擬似太陽光から抜け出さない限りは、絶対に身動きがとれないのだ。おまけに変形もできないので、腕を伸ばして照明器具を破壊する事も不可能。

 もはや足を引き摺って動く事しかできないが、それでもこの状況を作った瑠璃羽と貂に憎しみをぶつけるために、自らの牙を突き立てようと迫る。

 

「殺してやる、殺してやるぞ小娘ェェェ!!」

 

 息も絶え絶えになりつつも、手を伸ばすプレラーティ。

 そんな彼に二人は怯えるものの、すぐに自分の手に持ったUVライトの懐中電灯で照らす。

 同時に、建造物の一角からレンガがいつつも投げつけられ、プレラーティの頭にぶつかった。

 

「アギャァッ!?」

 

 べしゃりと頭がへこんで血の塊が地面に落ち、歩みが止まる。

 レンガの飛んで来た方に視線をやれば、そこには光源を設置したと見られる住民とたちが、石や屑鉄などを持って声を荒らげていた。

 

「嬢ちゃん逃げろー!」

「くたばれプレラーティ!」

「先祖の代から散々人を追いかけ回しやがって!」

「今度は俺たち人間の番だ!」

「やっちまえ!」

 

 力を失って口々に罵倒され、プレラーティは徐々に戦意も喪失していく。

 マキナイトとなって長らく人間に敷いていた恐怖政治が今、怒りになって自分の身に返ってきたのだ。

 配下も全て食らってしまった以上、己の領地でありながらもうプレラーティに味方はいない。

 

「ヒッ、ヒィィィ……」

 

 それを自覚して、半ば錯乱しながらプレラーティは逃亡しようとする。

 当然その歩みはカタツムリのように遅い。すぐに、彼の前にレギウスが立ちはだかった。

 

「あ……」

「終わりだ、プレラーティ」

《ツインモード!》

 

 ハサミの状態から分離させ、再び双剣に戻した後、レギウスは左手に持ったスタッグビートルギミックアンバーを右手側の剣にセットする。

 

BREAK OUT(ブレイクアウト)! スタッグビートル・リベリオンカッティング!》

「ハァァァァーッ!!」

 

 そして鍔に付いた歯車を三度回転させてトリガーを引き、二つの剣でプレラーティの肉体を滅多斬りにし続けた。

 やがてその残骸の中に、リンゴの中に隠れた青虫のように揺れる小さなものを見つけると、剣を捨てその肉片を右手で握り込んだ。

 

COOL(クール)!》

 

 肉片は徐々に凍り始めており、中からは身動きの取れなくなったレウコクロリジウム・マキナイト、プレラーティの本体が這い出ている。

 右手にグッと力を込め、レギウスはその肉片ごと本体を砕こうとしていた。

 するとすぐに、プレラーティが声を上げる。

 

「やめてくれ、た、頼む! 私はまだ死にたくない……そ、そう! 私自身だけでなく娘の雪辱を晴らさなければならない、四傑伯のジル・ド・レスピナスを超えなければならないのだ!」

「……」

「ぐく、ぅ……そうだ、私は蒸機技師の技術を持っているんだ、これからはそれを人間のために役立てる! だから」

「お前が姉さんをマキナイトにしたんだ。その技術で」

「あ、っ……ぁ……」

 

 冷ややかな彼の一言に、まさしく身の凍ったような震え声をあげるプレラーティ。

 そしてレギウスの掌と指は、完全にその小さな虫を握り潰した。

 手の中と足元で灰になって散っていく分裂体。それは、プレラーティの完全な死を意味する。

 

「終わったよ、姉さん……いや。僕らの戦いはこれから始まるのかも知れないな……」

 

 静かに息をついてそんな言葉を口にし、レギウスは相変わらず暗いままの空を見上げた。

 ダイナストは彼の肩に手を置いて、ルーガルーも剣を下ろして変身を解こうとする。

 だが、その時。突然、大きな地響きがその場に起こった。

 まさか地震かとX-ROSS一行は考えるものの、一定のリズムで聞こえるそれは、どうやら違うものだと悟る。

 足音だ、と。

 次の瞬間にプレラーティの館とは反対方向の場所から伸び出たのは、まるで尖塔のような長い柱。

 否、それは柱でもない。長い触覚の生えた虫の頭だ。

 

「なんだ……あのデケェのは……」

「アレもマキナイトなのか!?」

 

 呆然とするダイナストとレギウス。動揺が波紋めいて拡がっていく中、瑠璃羽はどこか冷静にその虫の正体を口にする。

 

「あの見た目、もしかしてバイオリンムシ……?」

「見て! 誰か来る!」

 

 貂の言葉通り、巨大バイオリンムシの現れた方角から、フードを被った人型の何かが飛来する。

 

「プレラーティは先に死んだか、まぁ良い。どちらにせよこの街の人間にもマキナイトにも死んで貰うつもりだからな」

「斬り裂き魔……エリック!!」

 

 キリギリスの騎士、カティディッド・マキナイト。ただし今回は手にナイフを持っていない。

 

「さぁ行こう、クリスチーヌ。私たちがこの国を地獄に変えるんだ!!」

 

 背後からゆっくりと追従して来るバイオリンムシに語りかけながら、カティディッドは両腕を拡げて高らかに宣言した。

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