プレラーティが死に、支配者の貴族がいなくなったと思われた子爵領。
しかしその地下道から、巨大な怪物がX-ROSSと人間たちへと迫っていた。
先端に女神の胸像のように人間の死体が備わったバイオリンビートル・マキナイトと、それを従えるカティディッド・マキナイトのエリック・ジャック。
貂と瑠璃羽は、呆然としながらそのマキナイト、特にバイオリンビートルの方を見上げて口を開く。
「なに……アレ……」
「マキナイトって、あんなに大きくなるものなんですか!?」
その疑問に笑いながら答えたのは、エリックだ。
「紹介しよう愚か者共。彼女は私の愛した女性、クリスチーヌだ。かつてプレラーティに命を奪われたが、殺した人間の血肉や他のマキナイトの部品を使ってようやく復元できた。そして彼女の力を以て! 私とクリスチーヌの復讐を完遂するのだ!」
「く……狂ってる! こんなの、もうあなたの恋人じゃないでしょう!?」
瑠璃羽の一言を耳にすると、キリギリスの騎士は逆上して叫び散らす。
「黙れ小娘ェ!! お前に何が分かる!? たとえ彼女の意志がここになくとも、復讐を果たせば……そうとも、きっと応えてくれるはずだ!!」
あまりの怒気に瑠璃羽はビクッと身を震わせ、貂が怯える彼女の手を握る。
ダイナストとレギウスは、そんな二体のマキナイトから住民たちをかばうように前へ進み出て、武器を構えた。
「どうやって戦う、ダイナスト」
「さてな……あんなでけぇの相手にするのは俺だって初めてだよ。まぁでもとりあえずは」
チャキッ、とダイナストが銃口をカティディッドに向ける。
「あんなもん呼んだてめぇからブッ壊してやる!!」
「くく、できるかな……? クリスチーヌと共にあるこの私を……」
嘲笑するキリギリス。彼はそのまま、身にまとったローブを脱ぎ捨てる。
すると、ダイナストたちはこれまでとは大きく異なる点に気づく。
いくつもの刃物を収めていたナイフホルダーがなくなり、上半身が露出しているのだ。しかも、そこには無数の小さな穴が空いている。
手に持っているのは大振りのマチェットナイフのみ。三人の戦士を相手に、それでどうやって戦うというのか。
行動に警戒していると、クリスチーヌと呼ばれた巨大なバイオリンビートル・マキナイトは、背中から糸のようなものをカティディッドの方に伸ばした。
「なに!?」
驚くダイナスト。硬質の糸は胴体に空いた穴へと接続され、ピンと張られる。
そしてカティディッドはその糸に向かってナイフの刃を立て、引いた。
瞬間、バイオリンビートルの翅が拡がり、その場に凄まじい轟音が響き渡った。
「ぐおっ!?」
「な、んだ……この音は!?」
思わず耳を塞ぐダイナストたち。
触れる事さえなく、音の振動によって地面や建造物に亀裂が走っていく。
「これこそ私の真の能力、バイオリンビートルの『弦』と二人の発振器官を使った超振動波攻撃! これさえあれば、高周波ナイフもマキナイトの強制アクティベートも最初から必要ない!」
「ぐ、おおお……!?」
「もはや誰にも止められない!! 私とクリスチーヌの二人なら、まさに無敵!!」
徐々に破壊の規模が拡がっていき、自身も激しい音圧を前に危機を感じて、レギウスが叫ぶ。
「マズい!! 全員逃げろ、逃げるんだ!! できる限り遠くまで、走れ!!」
その声に従って、一目散に瑠璃羽や非戦闘員の住民たちは逃げ出した。
途中、走る彼らの頭上から瓦礫が落ちて来るが、直撃するよりも前にルーガルーが動き、糸を飛ばして民衆たちに落下する前に押し留めた。
「プレラーティを始末したらすぐに帰るつもりでいたが……どうやら、その前にこいつも処刑しなければならんようだ」
言いながら、邪甲騎士は再び武器を構えて立ち塞がる。
子爵を倒すために手を組んだ三人の戦士は、もう一度肩を並べた。
だがエリックは、彼らを前にしても余裕の態度を崩さない。
「どこへ逃げようと変わらない、音波の範囲はもっと拡げる事ができる。この子爵領程度までなら容易くなぁ……」
弓でバイオリンの弦を弾くように、ナイフを動かそうとするカティディッド。
次の瞬間、ルーガルーの腕の噴射口から糸が発射された。
「ならばその手から塞いでやる!」
この糸でナイフを持つ手を絡め取り、攻撃手段を失わせようという算段なのだ。
同じく、ダイナストも既に発砲して動きを止めようとしている。
しかしそれよりも先に、カティディッドが喉から音波の塊を球状にして発し、弾丸も糸も木っ端微塵に破裂せしめる。
「なに!?」
「そんなことまでできるようになってんのかよ……!」
仮面の中で歯噛みするダイナスト。
直後、彼は弾丸と糸の破裂の合間にレギウスの姿が消えている事に気付いた。
「ならばこれでどうだ!」
その声が聞こえて来たのは、カティディッドの背後からだ。
見れば、目にも留まらぬ速さで回り込んだレギウスが、勢い良く双剣を振り下ろそうとしていた。
スピードに富んだ形態の彼だからこそできる早業に舌を巻きつつも、ダイナストはレギウスの攻撃が致命的なダメージを与える事に期待する。
だが。
「甘いぞ!」
身を翻したカティディッドが指で弦を操り、それが双剣の刃と騎士の身体の間へと滑り込む。
頑丈な弦は斬撃を防ぐばかりか、これによって再び轟音がその場に鳴り響いた。
「があああああ!?」
爆音を叩きつけられ、苦悶するレギウス。
さらにキリギリスの騎士が翅を細かく動かして羽ばたき、何度も左腕を振るう。
するとカマイタチのように真空の刃が爪先から放たれ、ダイナストたちへと向かっていく。
「クッ!!」
一斉に散開し、距離を取る。
それもカティディッドの狙い通りだった。彼は即座にナイフでバイオリンを弾き、それに伴って二体のマキナイトの身体から音波が発せられた。
「しまっ……ぐあああああ!?」
強烈な音を叩きつけられて、三人は吹き飛ばされてしまう。
音の攻撃は今もなお継続しており、ダイナストたちは眩暈に苦しめられ、ほとんど立っていられないような状況だった。
「どうやって倒せってんだ……!?」
プレラーティとの交戦中に現れていたら、恐らく確実に自分もプレラーティもこの二人に殺されていただろうとダイナストは考えていた。最も警戒すべき相手は、あのキリギリスだったのだと。
しかし後悔しても、今更どうにかする方法などありはしない。剣は元より銃も届かないような相手では、対処しようがないのだ。
その時だった。
『ダイナスト、レギウス! ヴェイパー・ブラストを使うんだ!』
音波攻撃に苦しめられる二人の耳に、そんなシルキィの声が届いたのは。
「シルキィ、でもアレは……」
『もう大丈夫だよ。今なら使える、レギウスと一緒になら!』
確信に満ちた彼女からの言葉。
それならばと二人は発動しようと考えるが、当然ながらカティディッドがその抵抗を許してくれるはずもなく、演奏による音波の破壊攻撃は続いている。
「く! この状況では発動できないぞ!?」
「どうすりゃあ……!」
地に膝をつきながらも、体に力を入れて再起の方法を考え続けるダイナストとレギウス。
カティディッドは何もさせまいと、さらに演奏に力を入れようとするが、その寸前。
彼の周囲に、浮遊しているかのようにUVライトが多数
「なっ!? なんだこの光は……あ、あがあああああああああ!?」
太陽に似た光に照らされ、途端にキリギリスは苦しみ始める。
見ればそれらの照明は、腕部の噴射口から糸を出したルーガルーによって糸で吊り下げられていた。
「ルーガルー!?」
「おい、策があるならさっさとやれ! 恐らくそう長くは保たないぞ!」
彼の言葉通り、カティディッドには効果があるようだが、クリスチーヌの巨体では擬似太陽光を浴びてもほとんど苦にしてはいないようだ。
ならば早急に動く必要がある。そう判断し、二人は頷き合って動き出した。
まずはダイナストが、キーをひねってホーングリップを一度倒す。
《マルスエレファントビートル!
それと同時に、レギウスはマンディブルハンガーを一度閉じてからキーをひねり、再度ハンガーを開く。
《スタッグビートル!
二人の仮面ライダーの姿は同時にひとつの繭と蒸気に包まれ、それが内側から破れると、中から飛び出してきたのは上下に重なり合った大きな赤いカブトムシと青いクワガタだった。
上側ではマルスエレファントビートルのヴェイパー・ダイナストが前に角を伸ばし、その下にレギウスツヤクワガタのヴェイパー・レギウスが合着している。
「うおっ!? なんだこりゃ!?」
「合体したのか!?」
『そう! マルスアーマメントにはダイナストームと合体した時のように、車両との融合機能があるからね! それを利用して、レギウスの氷の能力でオーバーヒートを防いでいる! もう熱に苦しめられなくて済むよ!』
これで前回露呈した欠点は克服した。千種はシルキィの存在を頼もしく感じてフッと笑いながら、下にいるソーマに声をかけた。
「レギウス、行くぞ!」
「了解だ!」
蒸気を噴いて、二人の戦士が融合したヴェイパー・デュアルビートルがバイオリンビートルの方に向かって飛翔する。
体格には未だ大きな差があるが、それでも果敢にマルスエレファントの角先から火炎弾を発射して攻撃した。
その姿を見るや、カティディッドは怒声を発しナイフを構える。
「ま、待て、クリスチーヌに手を出すな!!」
「余所見をするな!」
直後にルーガルーの糸が、背を見せたキリギリスの腕を絡め取り、自身の方に引き寄せて延髄に踵を叩き込む。
「ぐはっ!?」
「貴様の相手はこの俺だ!」
UVライトの影響下であったためか、よろめいてそのまま転倒するカティディッド。
そして自分を縛ろうとする光を疎ましく思い、口腔から強力な音波を発して周囲の電灯を砕いた。
「チッ!」
「これでもうその邪魔な光は使えまい!」
改めて、カティディッドがルーガルーと真っ向から対峙する。
逆にルーガルーの方も、これでカティディッドの視線を自分の方に集中させる事ができた。
バイオリンビートルへの対処を任せつつ、彼はチェーンソーをキリギリスに向かって振るう。
「そんな攻撃など!」
言いながらエリックは翅を動かして高周波振動を起こし、ナイフと爪で音の刃を飛ばす。
ルーガルーの方は疾走しながら新たにギミックアンバーを取り出すと、それを装填してトリガーを引いた。
《ギミックジャック! ローリーポーリー!》
「ハァッ!!」
左腕の噴射口についた鉄球を糸で勢い良く発射するが、その一撃は即座に飛行によって回避される。
そして爪から放たれた音の刃によって糸を斬り裂かれて、動かせなくなってしまった。
上空からはカティディッドがナイフを振り上げて迫っており、このままでは頭を真っ二つにされてしまうだろう。
「チッ、ならば!」
《ギミックジャック! ソーヤービートル!》
そこで新たに左腕へと装着されたのは、カミキリムシの歯に似た刃の武装。
ルーガルーはそれを掲げてナイフを受け止めるものの、高周波振動を帯びている凶刃は一撃でその武装を斬り裂いて糸を千切った。
「無駄だ無駄だ無駄だ! 斬り合いの勝負でこの私に勝てるものか!」
「ぐ……!」
「貴族の手先でありながらマキナイトを処刑し、今回は人間に味方しているお前のような半端者如きで! 私の復讐を阻む事などできはしない!」
「がぁっ!?」
ナイフによるさらなる追撃を防ごうとする寸前、脇腹にカティディッドの爪が喰い込み、邪甲騎士の仮面から血が噴き出す。
「これで最期だ処刑人、死ねェェェ!」
狂喜と共に叫び、カティディッドは喉奥から最大出力の振動で音の塊を――。
一方、ダイナストとレギウスはバイオリンビートルを逃走中の住民たちから遠ざけるべく、飛翔して誘導しながら火炎弾を放っていた。
クリスチーヌと呼ばれていたその怪物は、悲鳴のようなものを漏らしつつも一体化した彼らを追い、時折弦を伸ばして捕まえようとして来る。
「おっとあぶねぇ!」
デュアルビートルはレギウス側の機能によってすぐにその行動を察知し、素早く回避しつつ再び火炎を発射した。
しかし、火炎弾はあまり彼女の巨体への有効打になっていない。
「ダイナスト、この形態は三分しか保たないハズだ! マズいんじゃないのか!?」
「ああ、これだけ遠くに来れば充分だろ! あと一分半、一気に決めるとしようぜ!」
ダイナストの掛け声に合わせ、レギウスが飛行し突き進む。
視界に捉えられないほどの速度で、すれ違いざまに鋏の刃で足を斬り裂き、一本、二本と切断していく。
堪らず、バイオリンビートルはビリビリと振動を起こしながら悲鳴を発して、それが攻撃となって二人に襲いかかる。
「うおっ!?」
「ぐぅ……!」
全身が軋みを立てるデュアルビートル。
このままでは時間切れの前に戦闘不能になってしまう、そう危惧した二人は少々作戦を変える事にした。
まずは足を負傷して身動きの鈍くなったバイオリンビートルの左右に、挟み込むような形で紫炎の壁を形成。その直線上を、デュアルビートルが真っ直ぐに飛翔する。
当然、バイオリンビートルの視界は彼らに釘付けになり、頭部先端にある女の遺体の口部から巨大な球状の音波の塊が発射された。
「今だレギウス!」
「ああ!」
その瞬間、レギウスの能力によって氷の坂道がデュアルビートルの進行方向に現れ、それを滑走路のようにして彼らはバイオリンムシの頭上に昇って行く。
一方のクリスチーヌは、その氷の坂を破壊した事で、落下してきた無数の氷の礫が身体に突き刺さってしまう。
「キイアアアアアアアアアアアア!!」
再び悲鳴を上げるバイオリンビートル。さらにデュアルビートルは彼女の翅で切断しつつ、炎を纏いながら思い切り角で背中を貫いた。
それによってまたもクリスチーヌがその場で暴れ回り、周囲に巡らされた炎の壁がどんどん身体を焼く。
もはや叫んで攻撃する元気もないようで、ダイナストとレギウスは決着の時が来た事を察した。
「これで……」
「終わらせてやる!」
デュアルビートルが分離し、元の姿に戻る二人。
そして、ダイナストはドライバーのキーをひねってホーングリップを三度倒し、レギウスは同じくキーをひねってからマンディブルハンガーを閉開する。
《
二人は左右から挟み込むような形で同時に足を突き出し、そのままの勢いで飛んでいく。
クリスチーヌは音波で迎え撃とうとするも、先程背から腹を貫かれた影響で声がほとんど出ていない。
《マルスエレファントビートル・ダイナスティスマッシュ!》
《スタッグビートル・リベリオンインパクト!》
何もできないまま炎と氷の
《
《
火の粉と冷気が漂う中、着地したダイナストとレギウスの背後に遺ったのは、呻きながら苦しむクリスチーヌの裸身の上半身だけだった。
時を僅かに遡り、ルーガルーにトドメを刺そうとしていたカティディッドの方は、両足を震わせ苦悶していた。
「は、ぐ……!?」
脇腹を貫いていた左腕が、半ばの辺りで切断されている。
ファングレイザーを逆手に構え直したルーガルーによって、音波攻撃を放つ直前に斬り裂かれたのだ。
血が溢れ出す自分の腕の断面を見て僅かな時間絶句していたカティディッドであったが、すぐに我に返って、今度は手にしたナイフで弦に刃を立てた。
「この、クソ野郎ォォォ……オォッ!?」
だがそれは叶わなかった。
至近距離から音を発そうとした瞬間、全身がグンッと後方に引っ張られて妨げられてしまったのだ。
見れば、背後でバイオリンビートルが攻撃を受け、身体を貫かれている。
カティディッドとバイオリンビートルは弦で繋がっているため、その際に彼女が大きくよろめいた事で、エリックの方も反動を受けてしまったのだ。
そしてルーガルーは、決してその隙を逃さない。
大きく跳躍して腕から糸を発し、再び鉄球に繋ぐと、すぐにそのままカティディッドの顔面に投擲。
「グヘッ!?」
顔面に重く硬い鉄球を受けたキリギリスの騎士は、口部を砕かれて先程の音波攻撃を使えなくなってしまった。
さらにそのまま離した糸でカティディッドを拘束すると、腕ずくで引き寄せつつ、逆手のままファングレイザーのトリガーを三度引く。
《
「断罪してやる、貴様の復讐を……」
チェーンソーの回転音が轟き、横薙ぎに刃がカティディッドの腹部へ直撃。
《ウルフスパイダー・ファングザッパー!》
「ヌゥン!!」
回転刃はそのまま装甲を抉って、火花と鮮血を散らしながらキリギリスの身体を深く深く引き裂いていく。
そして完全に振り抜かれた時、カティディッドの肉体は上半身と下半身に分けられ、その場に血の雨が降り注いだ。
「終わりだ」
《
頭から血を浴びながらルーガルーが告げ、地面に落ちた下半身にファングレイザーを突き立てて消滅させつつ、ダイナストたちの戦況に目をやる。
丁度彼らの方も終わったところであり、変異が解けたエリックは右腕だけで這いながら、同じく上半身だけになったクリスチーヌの方へ向かっていく。
「そ、んな……クリスチーヌ……あぁ、私が負けるなんて……!」
うわ言のようにブツブツと言い放つエリック。シモンはそんな哀れな背を見ながら黙々と近付き、最後の仕上げをしようとチェーンソーを肩で担ぐ。
だが、その時だった。
「エ……リ、ク……」
クリスチーヌが、死んだはずのエリックの婚約者が、言葉を発した。
この事態には千種やソーマどころかシモンすらも瞠目し、言葉を失ってしまう。
死人が生き返るなどあり得ない。これはまさしく、形はどうあれ彼女を想うエリックの献身が引き起こした奇跡と言って良いだろう。
「クリスチーヌ、クリスチーヌ!! あぁ、こんなに嬉しい事はないよ、最期に君に逢えるなんて……!!」
全身を駆け巡る痛みも忘れ、彼女へ必死に呼びかけるエリック。
しかし。
「ふざけ……ないで、エリック……どうして私を、こんな醜い姿に……しかも、人殺しを……するなんて……!!」
「……え……?」
彼女の口から出て来たのは拒絶と怒りの言葉だった。
「誰が……頼んだの!? 復讐とか、人類を滅ぼす……なんて……そんな事のために、私、を……私の身体を、勝手に利用しないで……最低よ!!」
「ク、クリス、チーヌ……? ま、待ってくれ、私は君のために……君の無念を思って……」
「だとしたらそれは全く見当違いよ……!!」
「そんな、そんなはずはない! 君だって世界を恨んで――」
「うるさい勝手に決めつけないで!! あんたなんか大嫌いよ……顔も見たくないわ!!」
最期の力を振り絞るように大きな叫び声を上げると、クリスチーヌの口腔からこれまでで一番激しい音波がエリックに向けて発せられる。
拒絶されたショックのあまり茫然自失状態だったエリックは、至近距離からその攻撃を受けてしまい、全身が粉々に砕けて灰のようになって吹き飛んでいく。
そして、そのまま自分の身体から噴き出た血溜まりの中に混ざって溶け、絶命した。
一方のクリスチーヌも、先程の咆哮でついに事切れてしまった。怒りと悲しみの合わさった表情のまま灰となり、風と共に空へ舞い上がる。
「……これで斬り裂き魔も死んだか。まさか自分の恋人にバラバラにされるとは、ヤツ自身も想定していなかっただろうな」
「だな……」
ソーマが空を見上げながら言い、千種は神妙な表情で頷く。
そんな声を聞きつつ、シモンは二人に背を向けた。
「あ、おい」
「任務は終わりだ、貴様らと戦う余裕も意味もない……帰らせて貰う」
言いながらシモンは、ファングレイザーを肩に担いで歩き出す。
そこに、石畳を走る音と荒い息遣いが聞こえ、思わず三人とも振り返る。
「待って下さい!」
「お前は……」
貂だ。戦いが終わる頃合いを見て、この場に急いで駆け付けたのだ。
「私たちの事、助けてくれて……本当に、ありがとうございました!!」
汗を拭う事も忘れ、深く頭を下げて貂は言った。
「……」
シモンは彼女の礼を聞いてほんの一瞬目を丸くさせた後、何も言わずに今度こそ去っていく。
千種は貂たちと共にその背中を見送りつつ、小さく首を傾げた。
「あいつ、一体なんで黒の貴族の味方なんかしてんだろうなぁ」
「さぁ、ね……それはともかく」
深い溜め息と共に千種に向き直って、ソーマが頭を下げる。
「ありがとう、千種。君のお陰でこの領地を奪還する事ができた」
「よしてくれよ、俺だけの成果じゃねぇぜ。あんたやみんなが頑張ってくれたからだ、その中にはソニアだって……」
「姉さんが聞いたらきっと喜んでくれただろう、本当にありがとう」
フッと微笑みを見せ、駆け付けてくる仲間のレジスタンスらに目を向けるソーマ。
そして赤い炎の中で燃える青い十字架が刺繍された旗を受け取ると、それを右腕で掲げて叫ぶ。
「さぁ、旗を掲げ鬨の声を挙げよう! 今日からここが僕らの新たな拠点だ!」
その号令に応じ、X-ROSSの者たちも住民たちも、大きな声援と力強い掛け声を上げる。
――人類にとってこれはまだ僅かな一歩に過ぎないが、それでも彼らは地上奪還に向け確かに前進したのだ。
同じ頃。
王都まで向かう機関車に乗っていたシモンは、自らの手の中にあるものを見下ろす。
戦いのドサクサに紛れてこっそりくすねた、懐中電灯型のUVライトである。
「何かの役に立つかも知れないな……」
言いながら、シモンは周りの貴族たちにバレないよう、静かにそれを懐に戻した。