仮面ライダーダイナスト   作:正気山脈

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GEAR.15[暗中飛躍]

 ブラムストーク王国の王都、そこにある巨大な王城にて。

 会議室の前でトントンと何度も足を踏み鳴らしている、目鼻立ちは整っているが神経質そうな雰囲気の緑のマントと礼服を纏う男、毒風卿エミディオ・フォン・クラトカ侯爵は、苛立った様子で自身の腕を組んでいた。

 

「スモーキーめ、一体何をしている! もうじき会議の時間だというのに……!」

「いやぁ待たせて悪いね」

「ぬお!?」

 

 唐突に視線の外から声が聞こえ、振り返ってみればそこには愛煙卿のスモーキーがいる。

 面食らいながらも、エミディオは彼に問う。

 

「貴様いつの間に……いや、それは良い。今までどこにいた!?」

「さっき緊急の報告があったのでね、聞いていたら遅れてしまった。この会議にも関係する事だったんだ」

「そうか……まぁ過ぎた事だ、とりあえず準備が良いならもう入るぞ」

 

 咳払いしつつそう言い、扉をノックするエミディオ。

 すると「入れ」という返事が聞こえ、ドアノブに手をかけて二人が入室した。

 薄暗い会議室には縦に配置されたテーブルと、椅子が左右に三つずつ、最奥にもう一つ。

 既に四つの影が座しており、最奥の席と右側の席が埋まっている。

 一人は、以前にもカーテン越しにスモーキーと密かに会話していた大柄な男だ。死人のように真っ白な肌と髪一本ない禿げ上がった頭に、異様に尖った長い耳が特徴的で、四白眼の血走った目は裂けんばかりに大きく見開かれている。

 濃い紅色の礼服の胸ポケットから顔を出すネズミを指先で撫で、右拳で頬杖をついて不気味に笑い、男は入室した二人の侯爵に赤い眼光を向けた。

 

「来たか、愛煙卿、毒風卿……『久し振り』だな」

「えぇ。再会を栄誉に思います、オルロック様」

「光栄でございます、オルロック様!」

 

 名を呼ばれた男、オルロック・シュレック公爵は闇の中でニヤリと刺々しく並んだ牙を見せる。

 スモーキーは以前にも会って話をしていたのだが、それをおくびにも出さない様子だった。

 新たに入室した二人はすぐに対面側に腰掛け、これで空席はひとつのみとなる。

 

(わたくし)たちを呼び出したという事は、とうとう『あの計画』を完全な形で実行に移す時が来たのね?」

 

 そう言ったのは、オルロックの隣にいる、右眼の下に小さなホクロのある銀髪の貴婦人だ。

 男女構わずの視線を釘付けにするような肩や胸の開いた純白のビスチェドレスを纏っており、それに見合ったハリのある豊満な胸部と引き締まったウェスト、スカート越しでも分かる大きさの尻と艶めかしい脚線美を併せ持っている。

 しかしそれらよりも際立つのは、白の中で映える真っ赤な唇だ。その妖艶で柔らかな麗しい唇が、彼女の存在感を引き立たせていた。

 スモーキーはそんな彼女に魅了される事なく、薄く笑みを見せて頭を振る。

 

「いえいえカーミラ様、確かにそれに関係する事ではありますが、逆なのですよ」

「逆?」

 

 美しく整った眉をしかめ、その貴婦人、カーミラ・リップ公爵が尋ねる。

 すると、カーミラの左隣に座る別の男が口を開いた。

 

「つまりスモーキー殿は……悪い事が起きている、と(せつ)たちに報せに来たのであろう」

 

 黒く長い髪を頭の後ろで一つに束ね、武士や将軍を思わせるような見事な漆黒の和装を纏う美丈夫。

 目は閉じているかのように細く、華奢に見えるが長身で、両手はゴツゴツとしており骨の太さを伺える。また、椅子の後ろには数本の刀が立てかけてあるのが見えた。

 

「して、如何した。この星において計画の妨げになるような事が起きるとは思えぬが」

「当たり前でしょうドクロ、まさか人間風情が私たちを阻めるとでも?」

 

 一笑に付したカーミラの言葉を聞き、ドクロ・シラヌイ公爵は鼻を鳴らす。

 だが、スモーキーは即座に彼らの言葉を否定した。

 

「残念ですが。まさしく今仰った通り、人間たちは力を付け始めております。我々の計画を邪魔立てできる程に……!」

 

 ドクロとカーミラの表情が僅かに動き、一人冷静な様子のオルロックは右手を挙げて尋ねる。

 

「スモーキー卿よ。どういう事か、説明して貰えるかね?」

「かしこまりました」

 

 言いながらスモーキーは薄い板状の端末を取り出してテーブルに置き、そこにある映像を投影し始めた。

 銃を持つカブトムシの姿に似た赤い仮面の戦士、ダイナストの姿を。

 

「ただ今御覧頂いているのは、人間たちに加わった新戦力……仮面ライダーダイナストと呼ばれているモノです」

「これは……!?」

 

 銃撃や格闘で戦うダイナストの様子を目にすると、カーミラは瞠目し、ドクロは細い目を僅かに開け、オルロックは笑みを消して憮然とした表情になる。

 そしてスモーキーの隣に座るエミディオも、困惑と焦燥で目を白黒させていた。

 

「バ、バカなッ!? なぜこんなものがある!? なぜいきなり現れた!? ()()()()()()()……ッ!!」

 

 大きな音と共に席を立ったエミディオが狼狽し、片手を挙げたオルロックがその興奮を制する。

 スモーキーは一礼した後、一同を見据えて続きを話し始めた。

 

「このダイナストは、バベッジ一族抹殺の命を受けていたレンフィールド男爵を殺害しています」

「……レンフィールドといえば、あの小僧か? 知恵も回り剣の腕も立つ将来有望なマキナイトだったはずだが、それが人間風情に?」

「恐らく最初の相手でなければあの時点でダイナストに負ける事はなかったと思うが、運が悪かった。人間相手なら……と心のどこかで油断してしまったのだろう」

 

 彼から明かされた情報には、エミディオだけでなくカーミラも動揺していた。

 たとえ相手がレンフィールドでなかったとしても、人間がマキナイトに敗れるというだけで、彼らにとっては衝撃的なニュースなので、驚くのも当然ではある。

 

「その後ダイナストに何度か追手のマキナイトを差し向けましたが、全員死亡しています。しかも彼らはレジスタンスと合流してプレラーティ子爵領を落とし、拠点として利用しているようですね」

 

 淡々と語るスモーキー。すると、苛立った様子でエミディオが割り込んだ。

 

「貴様、それを知っていながらなぜ侵攻部隊を編成しない!」

「子爵領陥落の報せを聞いてからすぐに送ったとも。数日で全滅しただけで」

「な……!?」

「そもそも敵戦力はダイナストだけではない」

 

 言いながら、スモーキーはもう一度映像を切り替える。

 次に投影されたのは、二本角の青いクワガタの戦士であった。

 

「仮面ライダーレギウス。レジスタンスの中に、このようなものまで生み出されたようです。最終的にプレラーティを討ったのも彼ですよ」

 

 映像の中では、レギウスがプレラーティの分裂体を相手に大立ち回りを繰り広げている姿が映っている。その戦い振りもまた、貴族たちを驚かせる凄まじいものだ。

 思わず、ドクロは尋ねる。

 

「先程から悪い知らせばかりではないか?」

「私も今回の会議で良いニュースを持ち込みたかったのですがね、彼らがここまで手強いとは思いませんでしたよ」

 

 肩を竦めて愛煙卿が言うと、今度はオルロックが牙を見せながら口を開く。

 

「では、スモーキー卿。今回の顛末で君の負った汚名、そして黒の貴族が被った損害。如何にして返上するつもりかね?」

 

 するとすぐさま、スモーキーが答えた。

 

「新たな部隊を編成させて頂きたい。仮面ライダーの確実な殲滅のための、本腰を入れた抹殺部隊を作ります」

「具体的には誰を欲している?」

「――四傑伯を」

 

 エミディオがぎょっと目を剥き、ドクロが薄く右目を開いて、カーミラはほうと口を丸くする。

 

「乱刺卿イザベラ・バートリー、斬首卿アルベリヒ・パウル、鉄道卿ポーダ・ギースレーリン、青髯卿ジル・ド・レスピナス。以上四名の伯爵に加え、伯爵・子爵・男爵級のマキナイトの指揮権を私に。その総力を以て、レジスタンスを……潰します」

 

 その堂々とした返答を聞いたオルロックは、耳まで裂けるのではないかとばかりに唇を釣り上げた。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 時を同じくして、X-ROSSが管理する元プレラーティ子爵領の街『ヴァリエテ』へと、密やかに忍び寄る者たちがいた。

 黒の貴族の隠密行動用デッドアント、そしてアメンボの意匠を持つ騎士。ウォータースキッパー・マキナイト、男爵級だ。

 

「ここがプレラーティ子爵領……噂通りなら、ここにヤツを討った人間がいるという事だが」

 

 彼は近隣の領地に住む貴族で、先日プレラーティが人間に殺された上、そのレジスタンスたちの討伐部隊も返り討ちにあったと聞いてここに訪れたのである。

 それほどの相手を仕留める事ができれば、自分の名声は黒の貴族の中でも大いに高まり、地位向上に繋がるに違いないと信じて。

 多くのマキナイトがそう考えているように、彼にとっても人間は単なる食糧。力のない家畜程度に決して負けるはずがなく、路傍の石コロを拾うよりも容易い戦いだと断じていた。

 否、戦いとすら呼べないものになるだろうとさえ考えていたのだ。

 

「では、行くとしようか」

 

 そう言って身軽に外壁を登って内部に侵入しようとした、その時である。

 警報音と共に頭上から突然に光が差し、スキッパーとデッドアントを照らし出した。

 

「なっ……なん、だぁ……あ!?」

 

 壁に触れたまま驚いていると、マキナイトたちはその場で座り込んでしまう。

 立ち上がろうとしても、全く力が入らない。まるで何かに上から身体を押さえつけられているかのように。

 一体何が起こっているというのか。理解が追いつかずに困惑していると、壁の上から声が聞こえて来る。

 

「ったく、出て来やがったな面倒くせぇ」

「今日に限って襲撃とはな、運のないヤツらだ」

 

 ゆっくりと見上げると、そこにはいくつかの人影がある。

 炎に燃える青い十字架の旗印。X-ROSSの象徴だ。

 直後に無数の銃声が聞こえ、スキッパーの配下であるデッドアントたちは無抵抗のまま全身を撃ち抜かれ、消滅していく。

 ただの蒸気銃だけで、隠密部隊が全滅。

 その事態にただただ狼狽えていると、壁の上から何者かが降りて来た。

 カブトムシを彷彿とさせる角を頭に生やした、赤い装甲の戦士。仮面ライダーダイナストである。

 

「なんだお前は!?」

「俺はお前ら貴族をブッ潰す……魔王だ!」

 

 言いながらスキッパーの腹を蹴り上げ、遠くへ吹き飛ばす。

 痛みに苦悶しながらも、それによって光の外に放り出された瞬間、スキッパーは自分の五体が自由に動く事に気付いた。

 

「人間如きが不遜な! 我らの王はラクール王家のみ、その無礼を命で償わせてやる!」

「やってみろ」

 

 クイクイと手招きをすると、逆上したスキッパーは地面を滑るようにスピーディに疾走し、ダイナストの側面から剣を振り上げる。

 だが、ダイナストはその一撃を左手で受けて打ち上げ、続け様に右拳を突き出して反撃した。

 

「ガハッ!?」

「遅ぇんだよ」

 

 さらに手刀によって剣を叩き折られた挙げ句、今度は回転運動と共に放たれた掌底が胸に痛烈な打撃を与える。

 

「ぐおおお……!?」

「これで終わらせてやる」

 

 ダイナストはそのままスキッパーの胸倉を引っ掴み、真上に投げ飛ばす。

 そしてダイナシューターを取り出すと、スロットにギミックアンバーを装填して、ギアを回転させた。

 

BREAK OUT(ブレイクアウト)! マルスエレファントビートル・ダイナスティキャノン!》

「消えてなくなれ!」

 

 巨大な紫炎の弾丸が直撃し、スキッパーは爆散してアメンボの機甲中は空中で解けて消滅。

 

GROOVY(グルーヴィ)!》

 

 燃えて明るくなる空を見上げ、外壁上で戦いを見ていたソーマは小さく拍手を送る。

 

「見事な手並みだ。これなら()()()心配もない」

「あんがとよ。にしても、やっぱシルキィの発明はすげぇなぁ」

 

 レジスタンスたちにはしごを立てかけて貰い、壁を登った千種は、そう言って壁に等間隔で備え付けられた、あるものに目をやる。

 真鍮のカバーで守られた、人感センサー式のUVライトだ。ある程度の距離に近付くと自動で点灯し、近付いた者に光を浴びせるのだ。

 無論、普通の人間であれば効果はないが、マキナイト相手への対策としては充分に機能する。警報とも併用しているため、戦闘要員もすぐに駆けつけられる。

 

「君の星にあるという技術を聞いて、すぐに作ってしまうんだからな。彼女には頭が上がらないよ」

「全くだな。あんたらの蒸気銃もついでに改造しちまったしよ」

 

 そう言った千種の視線の先にあるのは、X-ROSSの面々が所有する蒸気銃。その銃身には、タクティカルライトが取り付けられていた。

 この装備もまたUVライトであり、シルキィが専用の追加アタッチメントを配備したのである。

 

「これでX-ROSSの、人間の戦いは変わる。侵攻戦にも防衛戦にも、このUVライトは必須の装備となるだろう。そして僕ら仮面ライダーがいれば階級の高い貴族が相手でも勝てる。後は……彼女さえ見つかれば良いんだが」

「あんたの言ってたお姫様か。確か名前は、ヴィルヘルミナ・ストークだっけか」

「そうだ。X-ROSSを纏める事ができる立ち場で、マキナイトの支配から人間を蜂起させる力を持つのは、彼女しかいない。一体今どこで何をしているのか」

 

 顎に手を添え考え込むソーマ。そんな彼を見て、千種はなんと声をかけるべきか逡巡するが、何も浮かばない。

 すると、壁の下の町並みの広場の方に、ぽつぽつとセンサーライトとは違う明かりが点き始めた。

 貴族に支配されていた頃からは考えられない、仄かだが温かな光が。

 

「今この事を考えるのはよそう、何せ今日は……」

「ああ」

 

 千種とソーマ、X-ROSSの面々は下に降りて武装を解除し、広場の光に向かって歩き出していく。

 

「今日はお祭りの日だ!」

 

 ここはもう子爵領ではない。この領地で人間の命を弄んでいた貴族も、人間を惨殺していた斬り裂き魔ももう存在しない。

 街の復興も叶い、住民の人間たちはX-ROSSへの感謝のため、ささやかながら宴を催す事に決めたのだ。

 まだ他の領地を奪還できたワケではないのでソーマは渋っていたが、戦ってくれた者たちや何より貴族の支配に疲弊していた住民たちに休息が必要だと感じ、同意した。

 さらに、千種や瑠璃羽やシルキィ、貂にも参加して欲しいと申し出たのだ。

 

「さて、広場で待ち合わせるという話だったが……」

「まだ来てないみたいだな」

 

 街には様々な出店が立ち並んでおり、彼女らの到着を待つ間その店に目をやる千種たち。

 すると、ややあって後ろから二人に声をかける者が現れる。

 

「やぁ助手くんとソーマ、お待たせ!」

 

 振り返ると、そこにいたのはシルキィだ。

 祭りという事もあってか、今日の彼女は普段の白衣とコルセット姿ではなく、フリルのあしらわれた滑らかな生地の赤いロングドレスでめかしこんでいた。

 自信満々な表情はいつもと変わらないのだが、髪型も編み込みなどでアレンジされており、この日のためにやる気をだしているのが良く分かる。

 

「ふふん! どうだい助手くん、元々が超絶美女なワタシなんだ、見惚れちゃうだろぉ~?」

 

 微笑みながらウィンクしてそう言うが、千種から応答はない。

 

「なんだよぉ、返事は? 何か言う事ないのかい?」

「あ、いや悪い……その、言葉が出なかったっつーか……マジでキレイだから……」

 

 ようやく反応を示した千種の発言に、自分で尋ねておきながらシルキィはボッと音が出そうなほどに顔を赤くし、両手で頬を押さえて目を逸らす。

 

「んん……そっ、そうかい……ふ、ふふん! まぁワタシは超天才な上に超絶美女だからね、当然だよね! ふ、ふふっ、えへへへへ~……」

 

 嬉しさのあまりニヤけてしまうのを耐えながら、そんな事を口走るシルキィ。

 直後に、ソーマが広場に近付く者の姿を視界に捉えた。

 

「おや、彼女らも来たみたいだぞ」

『え?』

 

 それを聞いて、千種もシルキィもその方向に視線をやる。

 現れたのは、制服姿から薄い黄色のドレスに着替えている貂だ。

 シルキィと違い髪型を変えたりなどはしていないが、眼鏡を外してコンタクトレンズを付けているようだった。

 

「ごめんなさい遅れちゃって。街の女の人たちにドレス借りたんですけど、着るのに手間取っちゃいまして」

「おう、似合ってんな羽取も」

「あはは、どうも。でも瑠璃羽の方が……あれ?」

 

 苦笑しつつそう言って、貂は後ろを振り返る。

 見れば、そこには物陰に隠れながら彼女に付いて来る何者かがいた。

 

「もー、前に出て来なよ瑠璃羽ったら。先輩がお待ちかねよ?」

「だ、だって……恥ずかしいし……」

「恥ずかしくない恥ずかしくない。ほぉら」

 

 言いながら、貂は隠れる瑠璃羽の後ろに回り、その背中を押す。

 瞬間、今度は千種だけでなくシルキィも、呼吸が止まったかのように愕然とする。

 彼女も制服ではなく青いドレスに着替えており、しかも胸元がやや開いているデザインのものを着用していた。

 また髪型にもアレンジがされており、長くなって眼の上半分が隠れている前髪を右に流してヘアピンで留め、丸い形の左目が露出して右目がほとんど隠れる形になっている。

 

「えと、その……変、ですよね……似合ってないですよね、私に……こういうのは……」

 

 かぁっと顔を赤くしながら、瞳を潤ませスカートを握って俯いてしまう瑠璃羽。

 だが千種は、驚きつつも彼女の美貌に見入り、すぐに感想を呟く。

 

「いや……すっげぇ可愛い……」

「え……か、かわ……!?」

 

 赤くなっていた瑠璃羽の顔がさらに真っ赤に染まり、お互いに狼狽する。

 その様子を見ていたシルキィは「むむむ……」と唸り、貂は三人を眺めてくすくすと笑う。

 そしてソーマは、両手を叩いて彼らに声をかけた。

 

「人数も揃った事だ、そろそろ僕らも祭りに参加した方が良いんじゃないのかい?」

「そーですねー、時間も限られてますし! と、その前に……」

 

 貂が千種に向き直り、頭を下げる。

 

「才賀先輩、今までごめんなさい! 本当に失礼しました!」

「ンだよ羽取、まだそれ気にしてたのか? それよりめでたい日なんだから祭りを楽しもうぜ、忘れろ忘れろ」

 

 笑い飛ばしながらそう言って、千種は出店の方に歩く。

 その後ろからシルキィと瑠璃羽、貂やソーマが付いていった。

 一行はその後、様々な店を見て回った。串焼き屋台や焼き菓子の店、さらに射的や舞台演劇まで。

 千種たちも住民と共に時間を忘れて楽しみ、共に食べて飲んで笑い合う。

 生まれた星、住まう場所は違えども、彼らの心はこの時一つとなっていた。

 

「楽しいな……」

 

 不意に、千種がそう呟く。

 それに同調して、隣で瑠璃羽も頷いた。

 

「ずっとこんな日が、この国で続けば良いですね……」

「ああ。そうするために、そんで空久里もこんな状態にしないために、まだまだ俺も頑張らないとな」

 

 言いながら、電灯の下で振り返り、千種は微笑みかける。

 

「香衣、シルキィ。一緒に戦ってくれてありがとな」

「あ、え、えと……その……は、はいっ!」

「ふ、ふふん! まぁ、これからもワタシの頭脳を頼りにしてくれたまえよ!」

 

 その笑顔を見た二人は、再び顔を赤く染めつつも、瑠璃羽は慌てながら、シルキィは普段通りを装って返答した。

 貂はそんな彼女らを見守りつつ、空に明かりが灯ったのに気づいて、視線を上げる。

 すると、そこには大輪の光の花が咲いていた。その後からも、光の尾が空に登った後、同じように音を立てて破裂し、光を発した。

 

「花火だ!」

 

 驚いた様子で嬉しそうに貂が言う。

 聞けば、街の蔵の中でホコリを被っていた装置をシルキィが掃除・修復したところ、花火の打ち上げ装置であった事が分かったとの事だ。

 花火の作り方やその技術を受け継いだ者も残っていたので、せっかくの祭りだからと試用したのである。

 

「姉さん……フェニックス一族、そして遠き祖先のヘルシング一族の名に懸けて、僕は絶対に悲願を成就してみせるよ」

 

 空に咲く光を見上げて、酒を呷って一人そう宣言するソーマ。

 

「そして彼女を……ミナを、必ず見つけ出す」

 

 花火の下で静かに誓った後、彼は再び酒を口に含んだ。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

「総力を以て、レジスタンスを……潰します」

 

 僅かに時を遡り、スモーキーがX-ROSS殲滅作戦を提案した後。

 その場を一瞬の沈黙が支配したように見えた瞬間、エミディオが立ち上がる。

 

「――その大役!! どうか、このエミディオ・フォン・クラトカに任命して頂きたいッ!!」

 

 再び、沈黙が会議場に訪れる。

 それを破ったのは、オルロックだった。

 

「エミディオ卿。どういう意図で言っているのか、理由を聞かせて貰えるかね? 何故、君が横入りする?」

「恐れながら。汚名返上の機会との事ですが、それを強力なレジスタンスの掃討という絶対に失敗できない場面で実行するのは適切でないと存じます。既に彼はダイナスト抹殺を企てていながら何度も失態を犯している、ならばまず彼は任を解かれるべきです」

「ふむ」

 

 一理ある、とばかりにオルロックが自分の顎を掌で擦り、カーミラとドクロもエミディオの言葉に耳を傾けている。

 スモーキーからも反論がないので、エミディオは発言を続けた。

 

「無論、スモーキー卿の汚名を雪ぐ機会そのものは与えられるべきだと存じております! ですがどうかこの場は、この作戦は私に任せて頂きたい! 何卒!」

「そこまで言うからには、あの問題児のジル・ド・レスピナスを手懐ける策も考えてあるのだろうな?」

「考えはあります! ですので、どうか!」

 

 必死に頭を下げ続けるエミディオ。すると、オルロックはスモーキーの方を見て尋ねる。

 

「良いかね? 彼に任命しても」

「了解しました、この件はエミディオ卿に委譲しましょう」

「では……」

 

 スモーキーの答えを受け、一同は最奥の席に座る人物に目を向けた。

 ここまでずっと無言を貫いていた、小さな影。

 漆黒のドレスの上に体格に合わない大きく真っ赤なマントを羽織っている、まだ10歳にも満たない幼く美しい少女の姿。艶めく髪は腰まで真っ直ぐに伸びており、前髪は目の上で丁寧に切り揃えられている。

 しかし幼さとは裏腹に、その凛々しい顔立ちからは気品や気高さのようなものが感じ取れ、この中で誰よりも年上のようにも思える。

 

「最終的な裁決を貴女様にお願い致します。よろしいですかな、アルケー・ド・ラクール王女殿下」

 

 黒髪赤眼の少女、アルケー王女はオルロックからの言葉を聞いた後、目を閉ざしてから静かに頷いた。

 

「良かろう。汝、エミディオ・フォン・クラトカ侯爵に命ずる。レジスタンス討伐部隊を編成し、作戦を遂行せよ」

「はっ!」

 

 小さな口から言葉が紡がれ、エミディオが頭を垂れる。

 そして彼の作戦を全員で聞いて、オルロックたちが今後の方策を練った後に、会議はお開きとなった。

 他の貴族たちが次々に自分の持ち場に戻っていく中、オルロックとスモーキーは、廊下を歩きながら二人で話をしていた。

 

「大丈夫なのかね? この結末は当初の予定とは違うようだが?」

 

 声を潜めて問うオルロック。すると、スモーキーは獰猛な笑みを見せ、小さく頷く。

 

「構いませんよ。むしろ、私自身はこの方がずっと身軽に動けるでしょうからねぇ」

「自分の同僚さえ利用するか、エミディオ卿もそうだが全く末恐ろしい男たちだ」

「いえいえ偶然です、偶然ですとも。むしろ、それを言うならオルロック卿……()()()()()()()()()()()()

 

 そう言われてオルロックの方も、牙を見せてニィッと笑う。

 

「こんな些末な事で躓かぬよう、エミディオ卿共々頑張ってくれよ。私の野望を支えるためにね」

「善処致しますよ、私にはまだ『切り札』もありますからねぇ」

「ククッ、それはそれは。楽しみにしているよ……スモーキー・ヴァーニー侯爵」

 

 スモーキーは一礼し、懐から半分に切れた一枚のタロットカードを取り出す。

 絆や結びつきを示す『恋人』のカード。それを頭上に掲げると、彼の姿は一瞬の内に消えてしまった。

 

 そして、スモーキーは王都とは全く別の領土の、監獄のような場所に瞬間移動する。

 彼は地面に落ちているカードの左半分を回収して元の形に戻すと、一番奥の檻の外にいる人物に向かって手を振った。

 シモンだ。彼はファングレイザーを提げ、腕を組んで壁へ背を預けて立っている。

 

「そう……私には最大の切り札が残っている」

 

 黒騎士の横を通って牢屋の中に入り、そこで座っている女に声をかけた。

 特に拘束も何もされていない、小綺麗な衣服を纏う、顔立ちの整った長い金髪の女。

 しなやかな細い手足には傷ひとつなく、白く滑らかな肌が暗がりの中でも光っているようにさえ見えた。

 

「気分はいかがですか、ヴィルヘルミナ・ストーク嬢?」

 

 問いかけられたその美女は、表情を変えずに笑顔のスモーキーを翡翠のような瞳で見つめ返す。




次回、SECTION.Ⅱ[興隆]
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