仮面ライダーダイナスト   作:正気山脈

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SECTION.Ⅱ[興隆]
GEAR.16[四伯集結]


 ヴァリエテでの祭りが終わってから、数日後の夜。

 空久里アクアシティの赤心軒でエプロンを付けて働く千種は、来店を報せる音を聞いて「いらっしゃいませ」と応えながら駆け寄っていく。

 そしてその客を見て、目を丸くした。

 

「香衣! それに羽取も!」

 

 入口に立っていた人物は、同じ学校に通う二人の後輩の女子生徒、瑠璃羽と貂だ。

 千種を見て瑠璃羽はオドオドとしながら頭を下げ、貂は唇を釣り上げて小さく手を振る。

 

「ど、どうも……先輩」

「今日はここで食べる事にしたんですよ、瑠璃羽の提案で」

「て、ててて貂ちゃん!」

 

 見る間に瑠璃羽の顔が耳まで赤くなり、彼女はサッと貂の後ろに隠れてしまう。

 直後、彼らの様子に気付いたある人物がゆっくり歩いて来た。

 

「おや? キミたちも来たのかい?」

「えぇっ!? し、シルキィさん!?」

 

 見れば、それは白いチャイナドレスと赤いエプロンに身を包んで、髪をツインテールにしているシルキィだった。

 彼女自身の魅力である柔らかな長い脚と太腿、そして形の美しいヒップがさらに引き立っている。

 その姿を見て、貂は戸惑いながら首を傾げて問いかけた。

 

「……アルバイトしてるんです?」

「あはは、まぁね。助手くんがどうしても手伝って欲しいって言うから」

「おめーが俺に奢らせてばっかで金払わねーからだよ。働いて返せ」

「うぐ」

 

 指摘を受け、シルキィは苦笑して誤魔化すように目を逸らす。

 しかしまだ疑問が残っているので、貂はそれを尋ねてみる。

 

「じゃあその格好は?」

「あたしの提案でーす!」

 

 シルキィが答える前に、彼女の後ろからひょこっと小さな少女が顔を出した。

 

「あっ、紬ちゃん!」

 

 千種の妹、紬である。彼女の方は、ミニスカートの赤いチャイナドレスを着用している。

 曰く、接客用にと巴にねだって二人分入手したのだという。

 

「シルちゃんめちゃめちゃカワイイよね~! お兄もそう思うよね、ね!」

「お、おう……そうだな……」

 

 頬を染め、照れた様子で千種が言うと、シルキィも思わず顔を赤くしてしまう。

 その返事を聞き、紬はペチンッと彼女の尻を掌ではたいた。

 

「だってさー! やったねシルちゃん!」

「ぅわひゃんっ!? い、妹くん! お尻を叩くのはやめたまえよ!?」

「え~」

 

 紬がクスクスと笑い、シルキィは叩かれた部分を手で撫でる。

 その形の整った美尻を、千種が感嘆しながら眺めていると、背後から貂がじとっとした眼差しを向けた。

 

「何鼻の下伸ばしてるんです、早く私たちを席に案内して下さいよムッツリスケベ先輩」

「変なアダ名を付けんじゃねぇ!?」

 

 焦りつつも、千種は二人をカウンター席に通し、また来客の音を聞いて入口へ目をやる。

 

「いらっしゃいま……ん?」

 

 そこにいたのは、以前この店で父の武生と話をしていた刑事、安藤 宗仁だ。

 後ろには男女問わずスーツを着た数名の警察官らしき人物がおり、ぞろぞろと入店して来る。

 そして最後尾には、ボサボサの長い金髪を生やしている、黄色いパーカーワンピースを纏う眼鏡の女がいた。

 警察の関係者の中で、彼女だけが明らかに場違いだ。見た目も明らかに十代に見える。

 

「ようボウズ、空いてるかい?」

「ええ、団体用の奥の席が……そっちはお子さんスか?」

 

 眼鏡の女を見ながら問いかけると、その本人が小さく頭を振った。

 

「あー違う違う、ウチこう見えて27歳だから」

「はぁ……えっ!?」

「それはそうとさ、目つき悪いけど結構美少年だねぇ君。女装とか興味ナイ?」

「いきなり何スか!?」

 

 唐突すぎる提案に困惑し、思わず後ずさる千種。

 そんな時、宗仁がその女に向かって座席から声をかけた。

 

「浅黄、未成年に怪しい事吹き込んでないでさっさと来いよ」

「はいはーい、じゃあ上がらせてもらうよ~ん。後でねぇ、美少年くん」

 

 ニヒヒ、と笑顔を見せて浅黄と呼ばれた女はちょこんと奥に座る。

 そして仕事を終えた警察たちの飲み会が始まり、宗仁も浅黄もそれ以外のメンバーも酒を飲み、中華料理に舌鼓を打つ。

 

「っかぁ~! いいねぇ、ビールと餃子! これさえあれば生きていけるわ~!」

「ガハハ! あの人もこっちに来てくれたら良かったのにな!」

「そうだよー! ゲッちゃんがいればさぁー! んぐ、んぐ……ぷはぁ! もっと楽しかったのにぃ! 多分『これ』の研究も進んだしぃ!」

 

 研究。

 その一言を聞いて、シルキィは彼らの会話に聞き耳を立てる。

 

「この新しいドライバーの開発難しすぎるんだよねえ~、警察官や武術の心得があるなら誰でも使えるよう、しかも戦闘能力は高めにったって~……!」

「おい、あんまり大声出すなよ……それに開発自体は良いところまで進んでるはずだろ?」

「肝心な変身アイテムが全然ダメなの! うー、どうしたら良いんだろ……」

 

 彼女にとって非常に興味深い話題であったので、シルキィは身体をうずうずとさせ、ついに我慢できず話しかけてしまった。

 

「ねぇキミたち、お困りかい?」

「んぇ? 姉ちゃん誰?」

「なぁに通りすがりの超天才さ、人はワタシをハイパーサイエンティストと呼ぶ。少し、そう……すこぉ~しだけ設計図か何か見せてくれるかい?」

「良いよ良いよ」

 

 美少女そのものな見た目のシルキィからの頼みのせいか、浅黄は宗仁からの「一般人に見せんな」という抗議も聞き流してあっさりと設計図のコピーを渡す。

 シルキィはそれをスラスラと読んだ後、真っ白な裏面にペンを走らせ始めた。

 警官たちと浅黄が呆気にとられている内に、彼女は腕を止めて瑠璃羽を呼び出す。

 

「どうしたんですか?」

「これなんだけどさぁ、ちょっと博士くんのアドバイスも欲しいなって。この部分が――」

「なるほど、でしたらこの虫がマッチするのではないかと」

「流石博士くんだ!」

 

 そんな会話を交わすシルキィと瑠璃羽の間から、浅黄は設計図を覗き込む。

 直後、ぎょっと目を見開いた。彼女自身の発想にはなかった、この星には存在しない技術で作られた道具、ギミックアンバーの設計図がそこに記されているからだ。

 

「ウッソなにこれ!? 問題解決しちゃったよ、本当に天才なんじゃないの!?」

「あっはっはっはっは、もっと褒めてくれたま……ちょ、ちょっと!? なんでワタシの尻を揉んでるんだい!? んあっ、ちょ、やめ……」

「ひうっ!? 私のお尻も!? んやぁっ、離して下さいぃ!?」

「ぐへへへへ、よいではないかよいではない……はぉっ!?」

 

 貂の手で背後から脳天に思い切りチョップされ、浅黄は彼女らから手を離し、シルキィも瑠璃羽もササッと千種の後ろまで遠ざかった。

 さらに周囲の警官からも叱られているのを眺めつつ、貂は声を潜めて千種へ耳打ちする。

 

「先輩。実は、ちょっと話しておきたい事が」

「なんだ?」

「例のシモンさんについての事です」

 

 密かに語る貂曰く、向こうの世界に送られてシモンに救助された際、彼が口走っていた名前があったという。

 それが、スモーキー。名前を聞いて、千種は僅かに眉根を寄せる。

 

「その名前……確かプレラーティと野郎の部下の会話の中に、出て来たような……」

「お兄~、お友達と話してないで手伝ってよ~」

「おう、悪い!」

 

 話の続きはブラムストーク王国で、と伝えた後、千種は仕事に戻るのであった。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 それから時は過ぎ。

 子爵領の奪還によって、人間たちの手で街が復興してから約三ヶ月後、9月の中頃。

 ヴァリエテに拠点を構えたX-ROSSの攻勢は、緩やかながらその間も続いていた。

 瑠璃羽が持ち込み、シルキィの技術によって改造・量産されたUVライトが、想定以上にマキナイトたちを相手に猛威を奮ったのだ。

 貴族に反感を持つ者たちのいる領土へUVライトを流し、機を見て襲撃を掛け、レギウスの手で領主を討って土地を奪還する。

 その繰り返し。ただそれだけで、近隣の貴族領は容易く内部崩壊させる事ができた。

 

「だがこの近辺にいるのはプレラーティに比べれば弱小の貴族、そしてそのプレラーティも伯爵級ほど強大な影響力を持っていたワケじゃない。高い爵位の貴族領で支配されている奉仕市民たちの心を動かすには、まだ足りない」

「もっと絶大な力を持った貴族が相手じゃねぇと、みんな目を覚まさねぇって事か……」

 

 ヴァリエテ内のホテルを改装して作ったX-ROSSの新拠点の広い食堂にて、ソーマと千種がそのような会話をする。

 瑠璃羽と貂も来ているがこの場におらず、二人で持ち込んだコーヒーを淹れに行っていた。

 彼らレジスタンスが市民と共に行動を起こす際において、何よりも重要なのは武装よりも士気だ。

 不満と怒りを募らせ、今の支配者たちを倒して自分たちの権利を取り戻そうという気が起きない限り、そもそも仕掛ける事ができない。

 そしてプレラーティがX-ROSSによって倒された今でも、貴族に屈して現状を受け入れてしまっている者たちはまだ多く、叛旗を翻すにはまだ時間がかかる。

 

「あんたの探してるお姫様、まだ見つからないのか?」

「ああ……領土を奪還するのと並行して捜索を続けているが、成果なしだ。彼女の行方さえ掴めれば、一気に状況を変える事ができるというのに」

 

 黒の貴族を一網打尽にするには、やはりまだまだ手が足りない。調査範囲を拡げるくらいしか、現在打てる手立てはないだろう。

 そう結論付けて、二人はひとまず話題を切り替えた。

 

「それから、以前君たちが話していたスモーキーという貴族について。残念だが、あまり情報が入手できていない。侯爵という位に就いている程だから恐らくマキナイトの中でも古株だろうとは思うが、その割に住民の間では全く名前を聞かないそうだ」

「じゃあ古株じゃなくて、何かデカい功績挙げて成り上がった新人の貴族なんじゃねぇか?」

「だとしたら尚更噂になっていないのはおかしい。一体何者なんだ、スモーキーという男は……?」

「分かってるのは、ヤツがシモンの上司だか雇い主だかって事くらいか」

「そのシモンの素性も謎めいているがね」

 

 一時は共闘したが、そもそも千種たちはシモンに関してほぼ何も知らないに等しい。

 この二人に関しては本人に直接尋ねるくらいしか、他に情報を集める方法はないだろう。

 そのように考えた直後、瑠璃羽と貂が四人分のアイスコーヒーと砂糖・ミルクを盆に載せて食堂に現れた。

 

「はーい、お待たせしました! コーヒー入りましたよ!」

 

 貂がそう言いながら、コーヒーをソーマに渡しつつ、自分も座ってコーヒーをテーブルに置く。

 そして瑠璃羽も、もじもじとしながら千種に差し出した。

 

「せ、先輩っ、どうぞ」

「あぁ、ありがとな」

 

 彼からの一言を聞くと、瑠璃羽はボッと顔を赤くして、千種の隣で俯きながらちびちびとコーヒーを啜り始める。

 貂はそんな二人の様子をニヤニヤと眺めていたが、直後にソーマの様子が変わってそちらに視線が移った。

 

「んんっ!? こ、これは……本当にコーヒーなのか!?」

「え、そ、そうですけど?」

「そんな……この風味、香り……そして口に広がる苦さ!! 僕が知っているコーヒーと全然違う!! なぜこんなに濃厚なんだ!?」

「あー、苦いのダメなら砂糖とミルクありますよ」

「バカな!? まだ美味くなるというのか――!?」

 

 苦味が余程衝撃的だったのか、それとも単に今までが薄すぎてほとんど味を感じていなかったのか。

 ともかくソーマは驚愕と共にコーヒーの味を堪能し、三人は微笑ましく思いながらその姿を見守った。

 そんな折、再び食堂の扉が勢い良く開かれる。

 

「やぁみんな、ちょっと見て欲しいものが……?」

「あ、シルキィさん。少し待って下さい、コーヒーを淹れますね」

 

 入口でポカンとしている彼女を見て瑠璃羽が立ち上がるも、シルキィは頭を振って一行の背後に指を差す。

 

「いや……彼は、いつからそこに?」

 

 ハッとして千種が振り向き、ソーマと貂も目を剥く。

 そこにいたのは、真鍮製の笑顔のマスクヘルムを被ったローブ姿の占い師のような男。

 全員、驚いてその場から飛び退いた。

 

「どうも皆様、ごきげんよう」

「V!?」

 

 神出鬼没の仮面の男、V。

 彼もまた正体不明の謎の多い人物であり、以前X-ROSSの面々に対して助言に現れたりギミックアンバーを授けた事もあった。

 今回は何をしに来たのか。身構えていると、Vは含み笑いを発しながら近くの椅子にそっと腰掛ける。

 

「そう警戒しないで下さいよ。今回は、耳寄りな情報をお持ちしたのですから」

「あんたの正体とか?」

「ハハ! 私は私以外の何者でもありません」

 

 千種からの追及をひらりとかわし、その仮面の男は足を組みながら本題を話し始めた。

 順調に攻め続けているX-ROSSにとって、最悪のニュースを。

 

「四傑伯が動くようです」

「……なに!?」

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 数日前。

 王都に向かうムカデ型の蒸気機関車の操縦席で、身長200cm以上はあろうかという赤い車掌帽を被った一人の女が、長い脚を広げて椅子にもたれかかっていた。

 紐のように細い下着のスリングショットレオタードの上に、胸辺りまでしかない非常に丈の短い赤色のジャケットを前を開けて直接羽織り、下半身には同じく赤いホットパンツとロングブーツを履いている。

 その局部がギリギリ隠されている豊かな胸は車両の動きに合わせて揺れ、今にも服と下着からブルンッと零れそうになっているのだが、彼女にそれを気にする素振りはなく、大股を開きながら外を眺めていた。

 

「……そろそろか」

 

 言いながら、女は肩まで伸びた明るい水色の髪を掻き上げ、微睡んだような垂れたオレンジ色の瞳をブレーキの方にやって、それを足裏でゆっくりと操作する。

 徐々に速度が落ちて行き、車両は王都の駅に到着した。

 それを見計らった後、女は鞄と共に箱の中に入った赤みがかった黒い炭をひとつ拾い上げ、口に放り込んで咀嚼する。

 女はそのまま炭を飲み込んだ後、機関車から外に出て駅のベンチに座り込む。

 

「あー……君、見張りを頼むよ」

 

 窓から顔を出した別の車掌のマキナイトに声をかけ、その女、鉄道卿のポーダ・ギースレーリンは短く欠伸をする。

 すると、車両から三つの影が降りて来た。

 

「快適な旅だったわ、流石ねギースレーリン卿」

 

 ほんの12歳か13歳ほどに見える、特徴的な金と黒の縞模様の長い髪を左右に束ねた小柄な麗しい少女。黒いフリルで縁取られた豪奢な黄色いドレスを纏い、両腕にツルツルとした生地のロンググローブを付けている。

 脚には尖ったヒールブーツを履いており、自信に満ちた青い眼は真っ直ぐにギースレーリンを捉え、不敵に微笑んでいた。

 乱刺卿のイザベラ・バートリーだ。その背後には、20歳程の銀髪のメイドが控えている。

 

「あー……ごきげんよう、バートリー卿」

「ふふ、堅苦しい挨拶は必要ないわよ。あなたも好きじゃないでしょう? あっ、キャンディ舐める? 私の領地で作ってる、カワイイ子供のオスから採った血と最高級の蜂蜜をブレンドしたものなんだけど」

「いや結構……私はこれがあるから」

 

 言いながら鞄から取り出して見せたのは、赤い色の混じった炭だ。

 

「それって人間の血肉を焼いて作った肉炭でしょ? あなたにはそれが良いんでしょうけど、こっちだって美味しいのにぃ」

「知っているよ……バートリーブランドの人血蜂蜜酒(ブラッドハニーワイン)は、私も好きだし部下の間でも評判だから……」

「あらぁ、ありがと♡」

 

 可愛らしくウィンクして、イザベラはメイドに命じて棒の付いた飴を出させ、それを受け取る。

 包み紙を破くと、渦巻き模様の中央に人間の眼球が埋め込まれたロリポップキャンディがあらわとなった。

 

「随分仲が良いようだな」

 

 そんな声を発したのは、機関車から出て来た三番目の人物。

 真鍮の籠手と脛当、鎖帷子の上に茶色いマントコートを羽織る、老齢な風貌ながら屈強な男。布に包まれた一本の大鎌を肩で担ぎ、腰の左右にも一本ずつ鎌を帯びている。

 斬首卿、アルベリヒ・パウルの登場だ。

 

「あなたも食べるぅ? こっちは『食事と睡眠の量を制限した上で貞操帯を付けて一年以上監禁したオス』から採った血液で作ったの。まぁ本当は直飲みが一番キくんだけどね、痙攣しながらお漏らしするから面白いし」

「儂はメスの血の方が好みだ」

「だったら後で、みんなで見て回らないかしら? 広い王都ならどんな血も肉も選び放題、よりどりみどりなんだし」

 

 ペロペロとキャンディを舐めつつ、イザベラが提案した。

 そうして四人が駅から出ていくと、広場からすぐに緑のマントを羽織った一人の男が向かって来る。

 エミディオ・フォン・クラトカ侯爵、アルベリヒたちよりも爵位が上の貴族だ。

 彼はカツッと踵を合わせて左手を後ろに回し、右手を袈裟に振り上げて敬礼を行う。

 

「黒の貴族に栄光を!」

『黒の貴族に栄光を!』

「ようこそ諸君。三ヶ月程前にも通達したが、君たちには任務が与えられた……と、立ち話をする前に腰を落ち着けよう。作戦会議室へ案内する」

 

 そう言ったエミディオが親指で示した場所には、蒸気バスが停まっており、彼らはぞろぞろとそれに乗り込む。

 そして各々着席した後、ギースレーリンが口を開いた。

 

「あー……クラトカ様。ひとつ質問をしてもよろしいでしょうか?」

「構わんぞ」

「なぜ……私たちに話してから、三ヶ月も時間がかかってしまったのです?」

「……準備の時間がかかったのもそうだが、ジル・ド・レスピナス卿のせいだ。主にな」

 

 眉間にシワを寄せてこめかみを指で押さえながら、深い溜め息を吐く。

 さらにその一言で、貴族たちは全てを察したように同じく渋面を浮かべる。

 

「あの問題児め……三ヶ月間なんの返事も寄越さないと思ったら、薬漬けにした人間の女を山程囲って、血を吸いながらまぐわって遊んでいやがった!」

「えっ、三ヶ月間ずっと!? サカりすぎでしょ、あいつ頭おかしいんじゃないのぉ!?」

 

 イザベラが驚くのを聞きながら、エミディオは「まったくだ」と返答し、再び溜め息を吐いた。

 そうして数分ほど経過した後、バスは大きな屋敷に到着する。

 オルロック・カーミラ・ドクロたち公爵が管理している、貴族のための集会所だ。

 5人はバスを降りるとすぐにその玄関の扉を開け、階段を登って広い部屋の中に入って行く。

 

「おぉっと、来た来た!」

 

 するとすぐに、そのような愉快そうな声が一行を出迎えた。

 首と両腕両足を枷や鎖で雁字搦めにされて机の上に放置された、青い長髪の端正な顔立ちの偉丈夫。上半身は裸で健剛な分厚い筋肉を外気に晒し、下半身にはやや血で薄汚れたズボンを履いている。

 青髯卿のジル・ド・レスピナスだった。

 

「待ちくたびれたぜクラトカ~! ほら早く、座った座った!」

「クラトカ『様』だ! 大体待たせていたのは貴様の方だ、このたわけが!」

 

 文句を言いながらも、エミディオは解錠のためポケットから鍵を取り出す。

 が、その前にジルは全身に力を込め、鎖も枷も千切って全て破壊した。

 

「出て行こうと思ったらいつでもやれたんだよね、俺チャン。じゃあ会議始めてくれよ」

「……まぁ、よかろう」

 

 鍵を戻したエミディオは、他の四傑伯と共に席につく。

 

「さて。知っての通り、君たちに与えられた任務は『X-ROSSの完全な殲滅』だ。人間たちは新たな戦力、仮面ライダーを擁しており、今日までに数々の貴族が討たれてしまっている……プレラーティ子爵を失った穴は大きい」

 

 それを聞くと、ジルはまるで今思い出したかのようにいきなり両目から滝のように涙を流し出した。

 

「そうなんだよそうそう俺チャンのマブダチのプレラーティが死んじまったんだようお~~~~いおいおいおいぃぃぃまぁそれは置いといて貴族が殺されたとはいえなんで人間如きを相手にするためにわざわざ俺たちを呼んだんだ?」

 

 直前まで本気で悲しみ号泣していたかと思えば、いきなり泣き止んでどうでもいいとばかりに満面の笑みを浮かべるジル。

 その異様な感情の振れ具合に全員がやや戸惑いつつも、会議は続いた。

 

「それだけ件の仮面ライダーを脅威と見ているという事だ。面倒だと思っているだろうが、先に仮面ライダーを全員始末した者には特別な褒章が与えられる」

「褒章ですか?」

「今回の作戦、成功の暁にはオルロック様を始めとする三人の公爵様が大公に陞爵なされる。それに伴い、私とスモーキーめも公爵に上がる事になっているのだが……」

 

 一度言葉を区切ったエミディオが、ピッと人差し指を立てる。

 

「君たちの内三人も侯爵、そして仮面ライダーを始末できた者は私と同じ公爵の位にすると三ヶ月前の会議で決まった」

 

 おおっ、とその場で声が上がる。

 長らく空席であった大公の座が埋まるというだけでなく、完遂できれば自分も段飛ばしで公爵の座を勝ち得るかも知れない。

 そして先を越されたとしても、陞爵自体は与えられる。彼らにとって非常に魅力的な話であった。

 

「分かっているとは思うが、功を焦るあまり同士討ちなどしてくれるなよ?」

「当然ですよぉ。飽くまで私たちは同じ貴族、潰し合ったらそれこそレジスタンスに付け入られてしまいますからね」

 

 イザベラが言い、アルベリヒとギースレーリンも同意する。

 ジルも歪んだ笑顔をさらに大きく釣り上げると、エミディオに尋ねた。

 

「それで……作戦は? 誰が動いてどうやってレジスタンスを滅ぼす?」

「恐らく、ヤツらは最も近い領土を攻めようとするはずだ。位置関係で言えばイザベラ卿の方だろう。先手を打つか、防衛するか……いくらか作戦に加わる貴族たちを招集してあるので、判断は君に任せる」

 

 イザベラは自身に満ちた笑みを見せ、キャンディを噛み砕く。

 

「お任せ下さい、クラトカ様。私が軽~くひねってやりますよぉ♡」

 

※ ※ ※ ※ ※

 

「確かなのか、その話は」

 

 そして、現在。

 ヴァリエテのホテルでVから齎された情報を聞き、ソーマは目を見張っていた。

 

「王都で調査して得た、間違いない情報です。実際に彼らは一度、エミディオ・フォン・クラトカ侯爵と共に王都へ集結し作戦会議を行っていたようです」

「なんてことだ……侯爵、それも毒風卿まで動いているのか!」

 

 腕を組んで考え込むソーマ。シルキィの方も、顔を青くさせて小刻みに震えている。

 千種も、以前にシルキィからその四傑伯という名前だけは聞いていた。しかし実際に相対した事はなく、これまでに貴族相手に勝利を重ねて来た事もあって、どれほどの状況なのか彼は掴みかねていた。

 

「そんなにヤバい連中なのかよ、マルスアーマメントがあってもか?」

「ヤバいなんて言葉で片付けられるようなものじゃあない、今でも活動して語り継がれている怪物どもだぞ。プレラーティとは格が違う。正直現状ではまだヤツらの領土に足を踏み入れていないから、危機感を募らせないと思っていたが……甘かったか……」

 

 額を右手で押さえ、溜め息と共に項垂れる。

 すると千種はそんな彼の肩に手を置き、言葉をかけた。

 

「こうなった以上、うだうだ言ってても仕方ねぇんじゃねぇか? 連中がなにか仕出かすってのが分かってるなら、逆に準備が整ってない内にこっちから攻めてやろうぜ」

「……君の言う通りかもな。慌てふためくよりも、まずは行動だ。奇襲は悪くないか」

「よし!」

 

 二人は頷き合って、早速行動に出ようとする。

 だがそれを、シルキィが引き止めた。

 

「待ってよ! キミたちがいなくなったら誰がここを守るんだい!?」

 

 言葉を詰まらせる千種。

 実際、UVライトがあるとはいえ未知の敵に攻め入られる可能性がある以上、守りを手薄にするのは彼らにとってリスクの高い選択と言える。

 しかし片方を残してもう一人が攻め込むというのも、やはり危険が伴う。マルスアーマメントでの蒸気解放が使える二人ならまだしも、一人だけでは確実に倒し切れる保証などないのだ。

 

「どうしたもんかな……」

「あ、あの、では二人とも残るというのは?」

「そっちは悪手だと思うぜ。数の上じゃ向こうの方が圧倒的に上なんだ、攻め込まれたら確実に押し切られる」

「た……確かに」

 

 瑠璃羽はオドオドとしながらも納得し、ソーマは意を決した様子で顔を上げる。

 

「やはりここは攻勢に動くべきだ。ヤツらが準備を終える前に、速攻で片をつける!」

「だな……!」

 

 それしか方法はない。シルキィもその結論に、渋々ながらも頷いた。

 

「分かったよ、キミたちがそう言うのならもう止めない……けど、絶対帰って来てね!! 約束だからね!!」

 

 千種もソーマも、心配そうな彼女からの懇願にフッと笑みを見せ、拳を掲げて応える。

 そうしてその場を後にした二人の戦士を見送りつつ、Vも腰を上げて出口に向かう。

 

「では、私もこの辺りで」

「待って」

 

 彼のその背中を、貂が引き止めた。

 

「何者なの? 今回の情報もそうだけど、どうやって仕入れたの?」

「……」

「貴族の本拠地である王都で見つからないように調査なんて……絶対、普通じゃない。答えてよ、あなたは本当にみか……」

 

 貂が尋ね終えるよりも前に、素早くVが指先を彼女の唇に押し付けて、ニヤリと笑う。

 

「んなぁっ!?」

「この星の者ではないのなら……興味本位で深入りしない方が身のためですよ? 長生きできなくなりますからねぇ」

 

 驚いて後退りする貂を見てカラカラと仮面の中で笑い、Vは去っていく。

 我に返った彼女はすぐに後を追って扉を開くものの、既にその姿は煙のように消えていた。

 

「ムッカつくぅぅぅ~!!」

「て、貂ちゃん落ち着いて……!」

 

 拳を握り地団駄を踏む貂を諌める瑠璃羽。

 彼女の手を引いて部屋に引き戻した、その時。

 ほんの一瞬、窓の外に大型犬や人間の子供程のサイズの虫のようなものが見えた。

 

「えっ?」

 

 しかしそこに再び視線を向けても、誰もいない。

 困惑して頭上に疑問符を浮かべていると、訝しんだ様子でシルキィが声をかけて来る。

 

「博士くん、どうしたんだい?」

「いえ、今誰かがいたような気が……見間違い、かなぁ……?」

「ともかく手伝ってよ、急いで完成させなきゃならないものがある。今は時間が惜しいんだ」

 

 言われて瑠璃羽と貂はすぐにシルキィの後を追う。

 ――そのホテルの屋上に、瑠璃羽の目撃した正体不明の虫と、シルクハットを被りマントを羽織る何者かの影がある事も知らずに。

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