ブラムストーク王国の王都、その元造船所にて。
鉄線で簀巻きにした人間たちをウィンチに吊り下げ、徐々に降下させながらエミディオが通信機に向かって呟く。
その水面下には、彼の管理する巨大タガメが数体顔を出しており、吊られた人間たちは恐怖に顔を引き攣らせていた。
「我らの勝利の暁には、例の『ブラッドフォーミング計画』が本格的に実行される。そして……
人間たちの足が海面に近付き、戻り、また近づきを繰り返す。
その度に彼らは悲鳴を上げ、男女問わず失禁していた。
「ともかく、お前が動きさえすればレジスタンス共など容易く根絶やしにできるんだ。あまり遊びすぎるなよ」
言いながら、エミディオは一気にウィンチを下ろす。
激しく波を立ててタガメたちが人間を襲撃し、その生き血を啜り出した。
「おい、どうしたジル?」
『ZZZ……』
「……寝るなぁぁぁ~~~っ!!」
エミディオが叫ぶ後ろでは、水面が赤く染まっていた。
Vからの情報を得て、イザベラ・バートリーの領地へ奇襲をかける事になったX-ROSSの面々。
ただし拠点の防衛戦の事も想定し、今回は極力少数の戦力で戦いに向かうという方針に定まった。
現地に向かうのは千種とソーマ、そしてUVライトと銃を装備した戦闘員のみ。
シルキィとの『絶対に生きて帰還すること』という約束を胸に、千種はダイナストームで、ソーマたちは装甲車両で走り出す。
「あと少しで奴さんの領土の近くだな……どんなヤツなんだ、イザベラ・バートリーって」
通信機でソーマに尋ねると、すぐに車両から返事が来た。
『バートリーブランドという蜂蜜製品の販売を営んでいる貴族だ。領地の中に蜂蜜工房があって、それを使った菓子やら酒やらを他の貴族やマキナイトに売り、自分でもそれを食べているらしい』
「……なぁ、俺今すごい嫌な予想してんだけど。それって絶対普通の食い物じゃないよな?」
『正解。基本的に人間の骨肉やら内臓やら血液が蜂蜜と一緒に混ぜ込まれた、悪趣味極まりないものばかりだよ。購入者は自分で食うだけじゃなく、奴隷の人間に食わせて反応を楽しむために使う場合もあるとか』
「うへぇ」
聞いているだけで気分の悪くなりそうな内容に、千種は思わず眉を顰める。
そうして走っている内に、一行はバートリー伯爵領を守る壁の前に到着した。
千種とソーマはそれぞれ自分の乗って来た車両を降り、周囲に目を配って警戒する。
「ここか」
「何か妙だな、見張りが一人もいない」
「俺たちの話が連中の耳に入ってんなら、普通はもっと警備を強化するはずだよな……なぁんか釈然としねぇ、ただナメてかかってるだけならありがたいんだけどよ」
警邏が見当たらないとはいえ門の正面から堂々と侵入するワケにはいかないので、X-ROSSの戦闘員たちはロープで繋がったフックを車両から出した機械で射出し、それを壁の縁に引っ掛けてよじ登り始めた。
そして完全に登り切った後、壁内の街を見下ろす。
「これは……!?」
視界に広がる風景は、異質の一言だった。
太陽がなくマキナイトの巣窟と化している支配領土の中で、人間たちが普通に歩いている。
身なりこそ小汚く首輪もされているが、通りかかる貴族たちが彼らを攻撃したり肉と血を啜る事もない。
他の領土であれば発見されたら即座に喰い殺されるところなのだが、それがないのだ。これにはソーマたちは己の目を疑っていた。
「なんなんだ、この状況は……バートリー領はこんな事になっていたのか!?」
一見すれば平和に思える街の風景。
だが、だからと言って彼らが油断するはずもない。そもそも、この街にあるバートリーブランドの件を聞いている以上、楽観視できる理由などないのだから。
「念のために隠れながら移動しようぜ、俺たちも見つかって無事でいられるとは限らねぇだろ」
「その通りだな。全員、顔を隠して人目を避けるように」
千種とソーマの言葉に従い、X-ROSSの面々はフードを深く被って、路地裏へ降りてから静かに移動を開始する。
他の貴族が支配している街なら、路地裏にこそ多くの人間が隠れ潜み、怯えるように貴族から逃れて生きているものなのだが、ここでは驚く程人の気配がない。
否、家屋の中に明かりがあったり人の声は聞こえて来るのだが、それさえ普通なら起こり得ない。人間には家を与えられていないはずなのだ。
「なんつーか、かえって不気味だぜ……平穏すぎだ、どうなってやがる」
余程人間を丁重に扱っているのだろうか。それとも、ここの人間は支配を受け入れているから害はないと判断しているのか。
後者であれば付け入る隙はあるかも知れない。そう考えつつ、一行は手始めに拠点として使えそうな場所を探し始める。
既にほとんどの場所に居住者がいる中、X-ROSSが目をつけたのは地下水道だ。
「地上に人とマキナイトが大勢住んでいるのなら、逆に言えば他と違ってこの場所に誰かが潜む事はないはず。うってつけだな」
水路に繋がる入口の六角形の蓋を開き、彼らは侵入を開始する。
一応電力の消耗を避けるために、UVライトではなくランタンで照らしながら、一息付けそうな広い場所を目指して歩き出す。
「しかし、予想していた事とはいえ本当に誰もいないな」
「そりゃ好きでこんなとこに住むヤツいないだろ」
「僕としては、ここにならレジスタンスの一人や二人隠れているだろうと少し期待してもいたんだが……本当に屈服しているとでも言うのか?」
そんな会話をしながら進み続けると、一行は開けた場所に到達する。
直後、全員明かりを消した。
何者かが、というよりも正体不明の集団がその広い空間の中にいるのを察知したからだ。
「準備完了です、メイド長」
微かに会話が漏れ聞こえて来る。
よく目を凝らしてみると、そこにはメイド服の女たちが、デッドアントが持っているようなナイフの大剣やフォークの槍で武装して立っていた。
また、千種たちは預かり知らない事ではあるが、メイド長と呼ばれたのは以前イザベラと共に王都へ参上した者と同一人物である。
「皆さん、自分たちの持ち場までのルートはちゃんと覚えていますか」
メイドたちは姿勢を正して肯定の返事をし、各々武器を構えた。
そして。
「ウフフッ! じゃあそろそろ、子爵領奪還のための華麗なる作戦を始めましょうか!」
そんな言葉と共にその場に現れたのは、13歳ほどの外見の、黄と黒の縞模様の髪の少女。
集まったメイドが跪いて一礼するその姿を見て、X-ROSSの一行は彼女こそが四傑伯のイザベラなのだと悟る。
「一応内容を確認しておくわ! この地下道は私の領地のあらゆる場所に繋がっているだけでなく、壁外に出るルートもある! これによって、領地内の人間に知られず外部への侵攻を実行できる……つまり、スパイがいたとしてもその目を欺けるってワケ!」
「流石です、イザベラ伯爵様」
「ふふん、もう公爵の座は目の前よ! 当然だけど現地に着いたら人間は全員捕獲すること。じゃあ、しゅつげ――」
号令をかけようとした瞬間、千種はライフルモードのダイナシューターによって彼女の側頭部へと弾丸を叩き込む。
それを合図に、X-ROSSの面々も一斉に飛び出した。
「撃て、撃てぇー!」
「ライトで包囲急げ、一人も逃がすな!」
メイドたちに威嚇射撃を行いながら、彼らはUVライトを点灯させて素早く陣形を整えていく。
「人間ども……!」
光を浴びてしまったメイド軍団の動きが鈍くなり、銃弾によって負傷する。
だが、そんな中。イザベラだけは、光の影響を受けてもなお、苦しみつつも活動していた。
自らの舌に歯で傷をつけた後、その傷口から吐息とともに真っ赤な霧を生み出す。
「なんだ!? 血で霧を!?」
「普通のマキナイトよりも光に耐性があるのか!?」
血霧がメイドたちとイザベラ自身を守るように彼女らの周囲を埋め尽くし、光が届かなくなってしまう。
「厄介な技術を持っているようだけど、残念だったわねぇ。一瞬でも動ければこの通り……光を遮るなんて造作もないこと」
霧の向こう側からそのような声が聞こえ、やがて晴れていくと、そこには
首元がふさふさとしたオレンジ色の毛で包まれた、エプロンの下に黄と黒の縞模様のメイド服を纏うミツバチ。手には武器を持ち、黒く丸い瞳で人間たちを見据えている。
これがイザベラの配下、ハニービー・マキナイトだ。
彼女らは掌にドロドロとした黄色い液体を生み出すと、それを投擲して懐中電灯に命中させヘッドを埋める。
「あぁ!? なんだこれ、蜂蜜!?」
「マズイ、光が通らない……!」
「これで邪魔な力は封じたわ」
クスクスと余裕の笑みを見せ、イザベラは左手の甲を見せつけた。
そこにあるのは、スズメバチの紋章。即座に、千種とソーマもギミックアンバーを手に取る。
「BOA
全身が蒸気に包まれ、それが消えた後に現れたのは、レイピアを片手に持つ鋭い眼差しの女怪人。
黄色いドレスのようなボディを黒いハニカム模様で彩られ、ヒールの高いブーツを着用し、背中の透き通った薄翅を拡げて剣先を突き出す。
イザベラの変異した姿、ホーネット・マキナイトである。
「安心なさい、人間。仮面ライダー以外は殺しはしないわ……生かして捕らえて、美味しいものに変えてあげる」
口部からヨダレを流しながら、ホーネットは愉快げにそう言った。
だが、そんな彼女たちの前に二人の男が立ちはだかる。
千種とソーマ、それぞれがドライバーを装着してギミックアンバーをセットした。
《
「させるワケねぇだろ」
《ライノビートル!
「貴様らの思い通りにはならん」
《スタッグビートル!
『変身!』
《
二人の身体が真鍮の繭に包まれ、それが割れて蒸気が溢れ出し、人々を守る戦士の姿となって現れる。
《
《
「道を開けろ
《
「僕は
《
武器を手に並び立ち、マキナイトと対峙するダイナストとレギウス。
しかし二人を前にしてもホーネットはまるで怯まず、フンと鼻を鳴らして号令をかける。
「やっておしまい」
『ハッ!』
ハニービーたちがX-ROSSの面々に目を向け、今にも飛び掛からんとする中。
ダイナストは密かに、隣のレギウスへとギミックアンバーを一つ手渡す。
「イザベラの方はお前に任せる、困ったらこれ使え」
「ありがとう、君も気をつけて」
「おう!」
そう言った後、レギウスは前進しながら双剣で目の前のハニービーを次々に斬り伏せていき、その横をすり抜けた者たちはダイナストが後ろで翅を撃ち抜いていく。
だが全てを撃ち落とす事はできず、ダイナストの前に十体ほどのハニービーが押し寄せて来る。
瞬間、ダイナストは武器をホルスターにセットし、両掌を開いて構えを取った。
そしてメイドの蜂たちが間合いに入った直後。
「ハァッ!」
掌底を顔面や胴に打ち込み、身体を砕く。
それを見て、素手でもマキナイトを潰せる戦闘能力を持つ事を理解したメイド長は、彼の背後にいるレジスタンスたちを先に攻撃するように指示を飛ばした。
しかし、ダイナストもそうはさせまいとギミックアンバーを取り出し、ライノビートルのものと入れ替える。
「アーマーコンバート!」
《ファイアアーマメント!
「オラァ!」
体の各所にある発光器から光の球体を放ち、それを目にぶつけて左右を通り過ぎようとする蜜蜂メイドを怯ませ、その隙に再びダイナシューターを抜いて頭を狙い撃つ。
さらに退避中のX-ROSSの面々も、次々に発砲してダイナストを援護。索敵用の光球による補助もあって、ハニービーたちに傷を負わせる事に成功している。
反撃をしようにも、ダイナストは近距離・遠距離共に隙がない。
「この男、なかなか手強いな……!」
「どうした? そんなもんか?」
「ふざけた事を!」
憤ったメイド長は、部下たちと共に掌に蜜を生み出し、それを球状にして射出する。
ダイナストはそれをすぐに回避、ドロドロの粘液が壁や床に付着した。
直後、蜜が急速に赤熱化し、小規模の爆発を起こす。
「うお!? なんだそりゃ!?」
「逃げ切れると思うな!」
前方から無数に丸く黄色い塊が飛んで来る。
当たれば死は確実。そうなる前に光球で身を守りつつ、ダイナストは自身の銃にギミックアンバーを装填し、巻鍵をひねった。
《ギミックチャージ! マルスエレファントビートル!》
「こいつでどうだ!」
銃口をメイドたちに向け、引き金を弾く。
紫色の炎の弾丸がハニービーの一体の頭部を砕き、その炎が蜜に引火。熱によって即座に起爆し、それが他のメイドが生み出そうとしていた蜜にも燃え移って連鎖的に爆破していった。
「な……きゃあ!?」
メイド長だけは直前に手放していため誘爆から逃れる事ができたが、爆風から齎された熱波が彼女を吹き飛ばして壁面に叩きつける。
その様子を、レギウスとホーネットが鍔迫り合いの状態で眺めていた。
「向こうは苦戦しているようじゃないか。伯爵級の配下も、大した事ないな」
「だからって私が弱いと思っているんじゃないでしょうねぇ?」
言いながらホーネットは体当たりで押し込むような形でレギウスを突き飛ばし、体勢を崩したところで素早くレイピアによる突きを繰り出す。
刀身は何やら淡く濡れており、危機を感じてクワガタの騎士は横っ飛びで避けた。
「逃げるんじゃないわよぉ!」
「まさか、毒か……!?」
このマキナイトが蜂である以上、考えられる話だ。
レギウスは持ち前のスピードと感知能力で、敵の猛烈な速度の攻撃をギリギリで回避し続ける。
だが疲労から徐々に対応し切れなくなり、装甲に刺突が掠め始めた。
「キャーハハァ! ほら、ほら! ほらほらほらぁもっと速く避けないと死んじゃうよぉ!?」
「く!」
「まぁ人間には無理な話よね! 私たちマキナイトは、そんなに軟弱じゃないけどさぁ!」
「ならば!」
ドライバーのハンガーを一度閉じたレギウスは、先程ダイナストから受け取ったギミックアンバーをセットする。
《
「アーマーアペンディクス!」
《
そして再びマンディブルハンガーを開くと、その背にジェット機のようなバックパックが装着された。
《
「ハァッ!!」
《
レギウスドライバーに備わっている機能のひとつ、イクイップメントモード。
敵の戦闘スタイルに合わせて形態を変化させるダイナスティドライバーと異なり、各種ギミックアンバーに応じた追加装備を身につける事によって戦闘能力を高めるのだ。
「行くぞ!!」
大きくバックステップし、背中のジェットパックを稼働させるレギウス。
蒸気を噴きながら猛スピードで突撃して、すれ違いざまに右腕の剣を振り被った。
「速ッ……!?」
しかしホーネット側もその高速攻撃に反応できており、飛び回るレギウスの剣撃をレイピア一本で受け止める。
何度も、何度も耳を裂くような激しい金属音が地下に鳴り渡り、それでもなお彼女の身体には傷ひとつついていない。
「キャッハハハ! やっぱり人間なんかじゃ私たちに勝てな――ぁ?」
背後へと飛んだレギウスの次の攻撃に対応するため、振り向こうとした時。
ホーネットは、自分の身に起きている異変に気付いた。
足がピクリとも動かない。それどころか、レイピアからも手が離せない。
視線を落とせば、両足と剣を持つ右腕が凍りついている。レギウスの猛攻を防ぐ事に集中するあまり、彼女は気が付けなかったのだ。
「な……」
《
「ハッ!?」
「隙あり!!」
《ドラゴン・リベリオンインパクト!》
驚く間に、ジェットパックによる飛翔をしながらの強烈なキックが背中に直撃し、ホーネットの両足が千切れて身体が吹き飛び、壁に叩きつけられた。
《
「どうだ!」
土煙が地下に舞い、両足を失って地面に倒れた蜂の怪人のシルエットが視界に映る。
倒したか、と思ったその刹那、ホーネットは背の翅を羽ばたかせて飛翔した。
「まだやるか……!」
「こっちがちょっとばかり遊んであげてるからって、良い気になりすぎよあんたぁ!!」
憤りながら、ホーネットは自身の左腕を天井に掲げる。
一体何をする気だ。レギウスが身構えていると、彼女の左手甲が再び光を放つ。
「BOA
たちまち全身が蒸気に包まれていき、内部で機械音と共に蜂の影が
そうして完全に蒸気が失せてそこにいたのは、全身を重厚な黒い金属甲殻で固めた、クワガタめいた大顎の赤い翅の怪人だった。
武器も大振りなサーベルに変化しており、その変化にはレギウスも目を見張る。
「なっ……!? 変わった!?」
今までに戦ったマキナイトたちに、このような特性はなかった。プレラーティでさえ、本体が別の生物に寄生しているからこそ肉体を自在に変化させられたのだ。
この怪人は、ホーネット・マキナイトは違う。同じ蜂であっても、明らかに別種の存在になっていた。
「驚いているようね……これは
「くっ!」
「勝手に動くな!! たかが血袋なんだから大人しく玩具になってなさぁいぃ!!」
足を失ったまま、羽音を響かせてホーネットが飛んで来る。しかし、その速度は先程よりも目に見えて遅かった。
これならば避けて一撃を叩き込める。そう考え、レギウスは即座に高速で回り込んで斬りかかる。
だが。彼女の甲殻には、傷ひとつ付かない。
「効かないのよねぇぇぇ!!」
「ガハッ!?」
今度はホーネットのサーベルが振られ、レギウスの胸の装甲を容易く裂いた。
スピードこそ落ちているが、明らかにパワーが増している。装甲も硬く、これでは全く歯が立たない。
一体どうすればいいのか。考えている内に、じわじわとホーネットが迫って来る。
「このまま死ぃになさぁいぃ!!」
「させるかよ!」
突如、そんなダイナストの声が響く。
見れば彼は既にメイドたちを破壊、あるいは戦闘続行不能にしており、ファイアアーマメントのままドライバーを操作して真っ直ぐに向かって来ていた。
《
音声と共に蒸気が放出され、その姿が巨大なゲンジボタルのものに変化する。
突撃しながら翅を拡げ、背中に備えられた発光器官から無数の光の球を生み出し、それをぶつけて自身も光を纏って攻撃した。
それでもなお、ホーネットはビクともしなかったが。
反対に、ホーネット側の拳は容易にヴェスパー・ダイナストの身体を突き飛ばしてしまい、変形を解除せしめる。
「ぐぁっ!?」
「んん~? 何かしたぁ?」
「クソ、蒸気解放でもダメなのかよ……!」
今の装備では絶対に勝てない。そう判断せざるを得なかった。
「逃げんぞ、ソーマ!」
「だが、このままヤツを放置するというのは……」
「今死んだら意味ねぇだろうが!」
そう告げられてもなおレギウスは戦おうとするものの、この戦いに加わっているのが自分やダイナストだけではない事を思い出し、グッと拳を握る。
背を向けて走るしかない。少なくとも、
だが、当然ホーネットに彼らを逃がす気などあるはずがない。
「アハッ、逃げちゃダメよぉ!! 痛めつけながら殺してあげちゃうんだからさぁ!!」
怒りながら笑い声を上げ、サーベルを手にレジスタンスへと迫るホーネット。
万事休すか、と思われたその時、人間たちとマキナイトたちの耳に僅かな震音が聞こえた。
「あ……何?」
何事かと言わんばかりに周囲を見回し、その隙にダイナストたちは颯爽と走り出す。
ホーネットはそれを見逃さず追跡しようとするが、直後に大きな爆発音と共に瓦礫が彼女の頭と背中に直撃した。
「がっ!?」
再び土煙が舞い上がり、それに紛れてレジスタンスたちの姿も視界から徐々に消えていく。
やがて地響きと爆発が収まると、X-ROSSは忽然とその場からいなくなっていた。
――出入口が瓦礫で塞がれているにも関わらず。
「イザベラ様、大変です! 襲撃用の経路が全て爆破されて埋まってしまっています!」
「屋敷へのルートも塞がっています、これでは帰還もできません!」
「メイド兵も数名死亡しました! 撤去には少々時間がかかるかと……」
「如何致しますか、レジスタンスを追わず一度帰還するのも手ですが」
マキナイト化を解除したメイドたちが口々に質問し、その場にぺたんと座り込んだイザベラは、目に涙を溜めて地面を何度も拳で叩き始める。
「んもぉぉぉぉぉ~!! もうやだやだやだやだ、足痛い!! 服汚れた!! 帰る、帰る帰る帰る帰る帰る帰る!! お風呂入るのぉぉぉぉぉ~!!」
まるで駄々っ子のように暴れて地面を砕くイザベラを、メイドたちは必死に諫めるのであった。