仮面ライダーダイナスト   作:正気山脈

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GEAR.18[怪盗探偵]

「はぁ、はぁ」

「こ……ここは一体どこだ?」

 

 イザベラたちが地下に閉じ込められているのと同じ頃。

 千種とソーマ、そしてX-ROSSの面々は、煙と蒸気の混じった地下空間を走り抜ける内に、見慣れない場所に到着していた。

 明らかに地下道とは異なる、まるで高級なホテルのフロントのような広く豪奢な空間。床には青いカーペットが敷かれ、窓は同じく青いカーテンによって閉ざされている。

 ふと見れば、部屋の中央のベルベットクロスが引かれたテーブルの前のソファに、ローブと真鍮の仮面を被った男が腰掛けていた。

 

「危ないところでしたね」

「V! お前が俺たちを助けたのか!?」

「爆破したのも私ですがね。これで彼女らも閉じ込められました、ご安心を」

 

 そう言ってVはニヤリと口元に笑みを浮かべる。

 危うく死にかけるところであったが、助けられたのは事実なのでひとまず飲み込み、千種もソーマも話を聞く事にした。

 

「この場所は私が用意したセーフハウスです。安心して下さい、貴族も奉仕市民もここには近寄れません」

「どうしてそんな事が分かる?」

「それが私の力だからです。ここはバートリー領内のどことも繋がっていない、異空間のようなものですので」

「お前は一体何者なんだ?」

 

 ソーマからの指摘を受けて口を噤み、しかしVは首を左右に振る。

 

「それより今後の事を考えた方がよろしいかと。簡単に勝てる相手ではない、というのは身に沁みたでしょう」

「……あぁ。あの二重血章って、何なんだ?」

 

 室内の椅子に座し、千種が問う。

 

「同じ種の二体の機甲虫を同時に組み込んだ状態のBOAの事です。彼女(イザベラ)ならば蜂同士でオオスズメバチとメガララ・ガルーダといった具合にね」

「そうやって使い分けて戦えるってワケか……でもよ、だとしたらなんで他の貴族も二重血章にしねぇんだ? 使える方がどう考えても便利じゃん」

「……そこが、彼らが四傑伯となった要因です。彼らの体内には特別な血が宿っている」

「特別な血……?」

 

 テーブルの前で、Vがベルベットクロスの上に数個の石を配置する。

 すると、卓上で光によって五芒星が描き出され、さらに彼は空中にペンデュラムを放り投げた。

 ペンデュラムは一定の規則に基づいて大きく激しく揺れ動き、その場に映像を描き出す。

 

「――かつて、この国の支配者が人間であった頃。七人の機身の怪物が突如として現れ、人間を同種の怪物にしながら領土を次々に簒奪し、国を乗っ取った。機甲虫を身体に埋め込み、血を分け与え改造する……その行為を『叙勲』と彼らは呼んでいますがね」

 

 つまりその七人以外のマキナイトは、元々はこの星の人間だったという事だ。

 

「ヴラディス・ド・ラクールをリーダーとした彼らは『七大真祖(セブン・エルダーズ)』と名乗り、ストーク王家を始めとする権力者を討滅しようとした……四傑伯の身体に流れている血は、その七大真祖から抽出したものなのです」

「その真祖って連中、まさか今も生きてんのか?」

「いえ、ご存知とは思いますがヴラディスは死んでいます。当時は王・大公三名・公爵三名の七人体制で国を治めていたのですが、その大公たちも王と共に死亡。残りの三人の公爵だけが今も生きています」

「……なんでそこまで知ってる? まるで見てきたみたいじゃねェか、まさかお前もマキナイトなんじゃないだろうな?」

 

 目を細めながら千種が責めるように問うと、Vは自らの左手にはめた手袋を取り、その手の甲を見せる。

 マキナイトの特徴である虫の紋章はどこにも見当たらなかった。

 

「これで信じて貰えますかね? 私にBOAはないんです、マキナイトではあり得ない」

 

 念入りに右手の方も見せてVが言い、千種自身もその目で確認して、疑問は残るがとりあえず納得し頷く。

 

「じゃあ、そもそも王と大公はなぜ死んだ?」

 

 情報を集めるべくソーマは質問を重ねるが、Vは頭を振る。

 

「その辺りについては私からはなんとも。謎の多い部分ですからねぇ」

「……本当に知らないんだろうな?」

「フフフッ。それよりも、今はイザベラに対処するのが先決ではありませんか」

 

 Vに対して湧き上がる疑問。ソーマたちでさえ分かっていない部分を、なぜここまで詳しく知っているのか。

 疑問と不安が募るも、追及はやはりはぐらかされた。

 

「ヤツにはあの光が一瞬しか通じなかった。それも真祖の血が関係しているのだとすれば、他の三人も同じように耐性があると見て間違いないだろう」

「メイド連中も、生き残ってるとすりゃ次は簡単に食らってくれなさそうだよな。どうすっかなぁ~……」

 

 腕を組んで考え込む千種。

 さらに、問題は他にもあった。

 

「そもそもどうやって襲撃するんだ? もう地下から行くのは難しいよな」

「あの爆発では入口も瓦礫に埋まっているだろうな。かと言って、正面から挑むのは無謀だ」

「だよなぁ。あいつらが閉じ込められてても、屋敷に残ってる方の対処がな。会った時の手際の良さから見ても、UVライトのことは筒抜けだろうし」

「何より侵入前に警邏のマキナイトや人間に見つかってもアウトだ。これは思ったより、難関だぞ……」

 

 唸り、悩み続ける二人。

 それを聞いて、Vはキョトンとした様子で尋ねる。

 

「だったら民衆を味方につけて黙って貰えばいいじゃないですか」

『簡単に言うなよ!?』

 

 千種とソーマのツッコミが重なって、Vが目を丸くした。

 そして情報が足りない以上は考えていても仕方ないので、千種は眼の前の男からこの領土の状況を聞き出す。

 

「っつーか、そもそもこの街はなんで人間が食われずに表立って歩けてるんだ? あんた何か知ってるか?」

「彼らは街を歩いて衣食住を保証される代わりに、多くの血を献上し重労働を課されているのですよ。いわば家畜扱いです。衣服はボロ布同然の囚人服、食事は良質な血液を採るため少量の麦粥と貧相な野菜類、住処は狭い馬小屋の片隅ですが」

「家畜未満だろ……」

「それでも他の領民よりはずっとマシな扱いですよ。戯れに殺されないし、不満があっても逆らわなければ生きていけるから抵抗しない。たとえこれから先……自分の子孫が永遠に同じ境遇であったとしても」

「だから表面的には平和に見えるワケか」

 

 千種は自分の口でそう言った直後、ハッと目を見張って頭を押さえた。

 ソーマやVはその様子に首を傾げつつも、続く彼の言葉を待つ。

 

「俺、すっげぇ良い事……いや、()()()思いついたかも」

 

 

 

 数日後。イザベラ・バートリー伯爵領では、失った両足を無理やり繋ぎ合わせて、ドロドロに汚れた姿のイザベラが屋敷に到着していた。

 瓦礫で塞がれていた地下道の帰還ルートがようやく開通し終え、心身ともに疲弊し切った状態ながら、帰還を果たしたのだ。

 尤も主に働いていたのはメイドたちなのだが。

 

「やっ……と帰って来れたぁ~……」

「まずは何をなさいますか、イザベラ様」

「もちろんお風呂よお風呂お風呂! いつも通り浴槽を蜂蜜いっぱいにして、血もたっぷり使いましょ! じゃなきゃこの足も治らないわ!」

「かしこまりました」

 

 言うなり、イザベラは浴場に向かい、メイド長は他のメイドたちに飼育室から人間を数人連れて来るよう指示を飛ばす。

 ややあって、一糸纏わぬ姿になったイザベラは、浴室へと入り込む。

 天井にはハニカム状の穴がいくつも空いた大きなシャワーヘッドのようなものが浴槽の上の辺りで配置されており、彼女はそれを眺めて笑みを浮かべる。

 そして、蜂蜜で満たされた温かい湯船へと、その膨らみかけのままで維持された幼さを残す肢体を浸す。

 

「こっちはもう準備良いわよ」

 

 イザベラが扉の方にそのような声をかけると、メイド長が拘束された数名の人間たちを連れて現れた。

 奴隷たちはワケも分からぬまま付いて行き、室内の奥にある階段を登っていく。

 その先にあったものは、扉のついた巨大な鉄の塊。上部には少女の顔があり、ちょうど浴室にあったシャワーヘッドと繋がる形に存在する。

 メイド長がゆっくりとその門扉を開くと、何人も入れそうな大きさの鉄塊の中は、無数のドリルで満たされているのが見えた。

 

「さっさと入りなさい。イザベラ様を悦ばせるために」

「ひ、ひいっ……た、助け……」

 

 人間たちの懇願を無視して、メイド長は彼らを押し込め、戸を閉じる。

 そして傍にあったレバーを下ろすと、鋼鉄の塊の中でドリルの駆動音に混じって悲鳴と肉が裂け骨の削れる音が響き渡った。

 イザベラはその下で血塗れになりながら、蜂蜜風呂と共に阿鼻叫喚のおぞましい音色を堪能している。

 やがてその音が止むと、メイド長が鮮血蜂蜜酒の入った瓶とワイングラスを持って降りて来た。

 

「どうぞ」

「うふ、ありがと♡」

 

 血を浴びながら蜂蜜酒を呷り、イザベラは恍惚と笑みを浮かべる。

 しばしの後、浴槽から出た彼女は、その裸身を包み隠さずメイド長と向かい合う。

 

「そろそろ足も治ってきたし、洗ってくれる?」

 

 言いながら蜂蜜と血の混じった液体で濡れた右腕をスッと差し出すと、メイド長は頬を赤く染めて生唾を飲み込み、跪いて唇を近づける。

 

「で、では……失礼致します……」

 

 息遣いを荒くしながら、細く小さな指先に口づける。

 甘い味と血の香りが口いっぱいに広がり、それで我慢が効かなくなったのか、舌で掬うようにして夢中で舐め取り出した。

 手も、足も、とにかく全身をくまなく。

 

「あはは、がっつきすぎ♡」

 

 イザベラが甘えたような声を出すのも手伝って、メイド長は夢中で彼女の身体に付着した液体を堪能し続ける。

 が、その時。

 ノックもなしに、浴室へと数名のメイドが飛び込んで来た。

 

「何事!?」

 

 イザベラとメイド長が驚きつつも尋ねると、メイドたちは慌てた様子で報告を行う。

 

「大変です、市民たちが暴動を起こしています!」

「なんですって!? どうして!?」

「ど、どうやら私たちが不当に食糧を制限しているのを問題視しているとかで、食糧庫からも根こそぎ奪われています!」

「そんな、なんで……!?」

 

 なぜ、今更。

 彼女ら全員が思う。古き時代を生き続けたマキナイトたちからして見れば、この状況をずっと受け入れていた人間が突然蜂起したのには違和感を禁じ得なかった。

 もし何らかの原因があるのだとすれば、それは――X-ROSSの介入しかないだろう。

 そう結論付け、早急な対処のため冷静に動こうと判断した直後、さらなる報告が舞い込む。

 

「イザベラ様! 市民が火炎瓶を投げ込んで……養蜂所と蜂蜜酒醸造所に火が!」

「……は?」

 

 その瞬間。

 イザベラ・バートリーの怒りは、頂点に達した。

 

 

 

 一方、バートリー邸からやや離れた場所に陣を構えたレジスタンスたちは千種を中心に――。

 

「ヘへッ、上手く行ったな」

「まさかこんな方法が成功するなんて……」

 

 料理を作っていた。

 包丁を振るい、鍋をかき混ぜ、皿に盛り付けて次々に市民たちへ渡して行く。つまるところは炊き出しだ。

 既に食べ終えた者たちには火炎瓶の作り方を教え、UVライト付きの槍を持たせて敵地を襲撃する方法を指南している。

 Vから住民たちの状況を聞いた時、千種が思いついた『悪い考え』。それは、食料を利用しての住民の懐柔だった。

 彼らが嫌でも貴族に従っている主な理由は衣食住の保証、苦しくても最低限野垂れ死なない程度に生かされている事にある。彼らがイザベラの統治に唯一信用できる部分がそこで、人間としての尊厳もギリギリのところで保っているのだろう。

 ならば、イザベラの信用を損なわせた上で、苦しむ必要なくまともに人間として生きていける土壌が作れる事を見せれば、住民の叛意を引き出せるのではないか。

 この考えに至った時、千種は自分が拳法と同様に得意としている料理によってそれが成せるのではないかとソーマやVに打ち明け、結果Vからイザベラ領の食糧の強奪を提案されたのだ。

 そこからは迅速に――千種は自宅にも帰って調味料をこっそり仕入れつつ――麦や芋といった食糧の確保に警邏のマキナイトの討伐を分担して行い、イザベラが帰って来る前に準備を済ませる事に成功した。

 

「あまり急いで食いすぎるなよー!」

「絶食させられてた人たちにはスープから渡してくれ!」

 

 千種によって中華風の味付け(アレンジ)がされた料理を、領民たちは涙ぐみながら美味しそうに頬張っている。

 領主を恐れる彼らと交渉する折に、ソーマは三つ彼らに吹き込んだ。

『イザベラが不当に食事量を制限させているのは血液の質のため』『ここにある食糧は全部備蓄されていたもので、腐ったものや食べられなくなったものは廃棄しているようだった』『自分たちに協力してくれればもっと多くの食事を食べて清潔な服を来て広い家に住む事ができる』と言った内容を。

 どれもでまかせではなく、実際に領地内には廃棄場が存在しており、そもそもマキナイトたちが摂取しない必要以上の麦などはそこに捨ててあったのである。

 彼の言葉を誰も彼もが簡単に信じはしなかったが、千種が作った料理を口にすると、その猜疑心の壁は決壊した。

 毎日でなくともこんな料理を食べる事ができるなら。服も住居も取り戻せるのなら。千種たちは、そう思わせる事に成功したのだ。

 それでもX-ROSSの反抗に加わらない者はいたものの、逆に表立ってイザベラのためにと反発する声は全くなかった。

 

「さて……そろそろヤツも動く頃だな」

「ああ。行こう、千種」

 

 千種はダイナストームに跨り、ソーマは装甲車に乗って、イザベラの元へ向かう。

 この領地で苦しむ人々を助けるために。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 同じ頃。

 シルキィや瑠璃羽たちが待つヴァリエテの壁外で、マキナイトの集団が武器を手に陣形を整えていた。

 彼らの掲げる旗に描かれているのは、カマキリの紋章。四傑伯が一人、アルベリヒ・パウルの所属を示す旗だ。

 尤も、そのアルベリヒ本人はこの場にいないが。

 

「総員配置についたな?」

 

 先頭に立ち部隊へ声を掛けたのは、二人の貴族の男。

 双方とも黒髪緑眼、顔立ちもよく似ており、それぞれウスバカゲロウとアリジゴクの紋章が左手の甲に刻まれていた。

 アリジゴクのBOAを持つ男の方はやや身長が低く、モノクルを掛けている。その彼が、ウスバカゲロウの方に問う。

 

「兄さん、パウル様からの命令とは言えこれって本当に大丈夫なのかい? イザベラ伯爵が既に仮面ライダーの最初の相手に指名されたんでしょ、報復とかされないかな?」

「問題ないだろ。だって、俺たちは別に作戦の妨害とか邪魔をしてるワケじゃない。万が一ヤツらが勝って帰って来た時、その戦意を挫くために先手を打ってるだけだ」

 

 兄と呼ばれた男の方はそう告げると、左腕を天に掲げて号令をかけた。

 

「では、全軍行くぞ! 俺に続け!」

 

 直後にその軍勢は左拳のBOAをアクティベートして、一斉に変異を遂げる。

 先陣を駆けるのは、四枚の翅をマントのように両肩に垂らしているブロードソードを持つ騎士。そしてその隣に、重厚な丸みを帯びた鎧を纏い、頭部に鋭い大顎が付いているアリジゴクの騎士だ。

 兄の方はミルメレオン・マキナイト、弟の方はドゥードゥルバグ・マキナイトである。

 残る顔触れも、デッドアント以外に多くの種類のマキナイトが揃っていた。

 続々とヴァリエテへ向かう異形の騎士たち。その彼らの前に、颯爽とひとつの影が立ちはだかる。

 

「なんだお前は!」

 

 そう叫んだドゥードゥルバグの視線の先にいるのは、黒いシルクハットを被り、裏地の赤い黒マントの下にフリルのついたレオタードを纏う女。

 右手には赤い杖を持ち、その杖の先端には縦に配置された歯車、その右側面に何かをはめ込むような窪み(スロット)があり、そして歯車の反対側にはグリップが付いている。

 ヒールブーツで地を蹴る音を鳴らしながらその人物は、パチンッと左手で軽快に指を弾いた。

 

「今! わたくしの名を聞いたわね?」

 

 シルクハットの下にある彼女の顔は半分が覆面に覆われており、露出している口元には不敵な笑みを浮かべている。

 一同が呆気に取られて何も言えずにいる中、その女はマントを翻し躍るようにその場で回転して語りを続けた。

 

「ある時は悩める人々の心に光を照らす救いの手、ある時は影に潜み悪しき陰謀を斬り裂く闇の刃……その真の正体は!!」

 

 ビシッと杖をマキナイトたちに向かって掲げ、まるでスポットライトでも浴びているのではないかと錯覚するように堂々と名乗りを上げる。

 

「謎の怪盗探偵美少女、アルセーヌ・ホームズ!! です!!」

 

 決まった、とばかりにニヤリと笑う女、自称アルセーヌ・ホームズ。

 そんな彼女を前に、マキナイトの軍勢は唖然とするばかりだった。

 

「な、なんなんだお前は……」

「ある時は悩める人々の心に――」

「いやいやいやそれはもういい、さっき聞いたよ!?」

「もう、だったら何が分からないんですか」

「何もかもだよ!!」

 

 アルセーヌに対し怒声に近い叫びをぶつけるミルメレオン。すると、なぜかアルセーヌの方が不満げに唇を尖らせる。

 

「まったく仕方ありませんね。じゃあ分かりやすいもう1バージョンの名乗りがあるので、そっちでやってあげましょうか?」

「頼んでねぇしそういう問題じゃないんだよ! 本当になんなんだお前!」

「私の名は!! アルセーヌ・ホームズ!!」

「だからさっき聞いたって言ってんだろォーッ!!」

 

 再びミルメレオンが苛立ちの募り募った声を上げると、ヴァリエテの方から車両が向かって来た。

 乗っているのは、シルキィと瑠璃羽と貂やX-ROSS所属の面々だ。

 

「何か外に妙な集団がいるって報告があったから来てみれば、マキナイトがこんなに!?」

「あの人は一体……誰?」

 

 シルキィが驚き、奇妙な姿の見慣れない女に貂が困惑する。

 瑠璃羽も驚愕しているようだが、それは敵にではなく、アルセーヌに対してのもの。しかも、明らかに彼女に見惚れている様子であった。

 

「チッ、こいつが騒いだせいでもう気づかれたか」

「兄さん、どうせ相手は人間なんだ。幸い向こうからも来てくれたし、さっさと殺してしまおう!」

「そうだな……悩む方がおかしかった」

 

 そんな会話を交わした後、マキナイトたちは各々武器を手に取り出す。

 

「貴様の茶番にこれ以上付き合ってやる気などない! どかぬのならもう死ね、人間め!」

 

 そして切っ先を突きつけて、宣告する。

 対するアルセーヌはやはりフッと笑みを見せており、身を捩って腰の後ろに左手を伸ばした。

 

「茶番を終わりにするのは同意だけれど……死ぬのはわたくしではないのよ」

 

 言いながらマントをバサリとはためかせて彼女が手に取ったもの、それはダイナストやレギウスが使うものに似た、一本のベルトだ。

 

《ラレーヌドライバー!》

 

 周囲が再び驚く中、その音声を聞きつつアルセーヌがドライバーを装着。

 バックルの右手側にハンドルがあり、中央部には映写機を思わせるようなレンズ、さらに左手側のフィルムのように見える部位の表面にはギミックアンバー用のスロットが備え付けられている。

 色合いは全体的にクリーム色やアイボリーカラーなどセピア調の配色で統一されており、ベルト部はフィルムテープを彷彿とさせるデザインであった。

 アルセーヌは左手にベダリアテントウの機甲虫が封入されているギミックアンバーを持って、それをスロットに装填し、ハンドルを右手で握る。

 

SET(セット)! レディバード!》

「鮮やかにデビューしましょうか」

SCREENTIME(スクリーンタイム)!》

 

 そのハンドルをぐるぐると回し続けていると、レンズ部に光によって回転するフィルムが描かれ、彼女の周囲に無数のフィルムテープが出現し、それが巻き付いて繭の形を形成。

 さらに上空から黒いスポットライトと朱色のスポットライトが降り注いでベダリアテントウの背甲の模様を作り、見ている者たちの視線をアルセーヌへ釘付けにする。

 

「変身」

ECLOSION(エクロージョン)!》

 

 言いながら彼女がハンドルから手を離した瞬間、フィルムの繭が破れて蒸気が溢れ出した。

 

LADIES & GENTLEMEN(レディース・アンド・ジェントルメン)! レディバードアーマメント!》

 

 そうして蒸気と軽快な音楽を背に現れたのは、黒いシルクハットのようなデザインの頭部が特徴的な仮面の戦士。

 ピッタリとした生地のアンダースーツはワインレッド、胸部や脚部などを覆う装甲は黒を中心にオレンジのカラーラインが走っており、両手のグローブにはベダリアテントウの模様が描かれている。

 オレンジの複眼は左側が鋭く尖ったような形だが、右眼は探偵の使う虫眼鏡、あるいは怪盗のモノクルを彷彿とさせるような円形だ。

 最後にシルクハットの鍔を指で撫でて得意げに笑って見せると、再びドライバーから音が流れる。

 

EXCELLENT(エクセレント)!》

「わたくしは麗王(ラレーヌ)、仮面ライダーラレーヌ!」

 

 杖を掲げ、改めて名乗る新たな仮面ライダー。その姿を前に、マキナイトたちはたじろいだ。

 

「三人目……だと……!?」

「そのドライバーは一体!?」

 

 シルキィも狼狽し、思わず声を上げる。

 するとラレーヌと名乗った彼女は、人差し指をチッチッと振って杖を構えた。

 

「観客の皆様はどうぞ席に着いて。間もなく、上映開始ですよ」

 

 ラレーヌはそう言いながら、マキナイトたちへ手招きする。

 すると、ミルメレオンもドゥードゥルバグも憤慨し、殺気立つ。

 

「ふざけやがって!」

「お前たち、やってしまえ!」

 

 命じられて、まずはデッドアントたちが武器を構えて突撃していく。

 迫りくるフォーク槍の穂先とナイフの刃、スプーンの一振り。

 しかしラレーヌは焦る事なく、杖を両手で構え、ひとつひとつを受け流す。

 

「なっ!?」

 

 槍よりも間合いが短く剣ほどの殺傷能力に乏しい杖、その最大の真価は身軽さから来る防御力。

 短い故に素早く振るう事ができ、打つ・払う・薙ぐ・突くと言った動作にも小回りが利くため後の先を取れる。短く持てば剣のようにも使えて攻めにも転じられ、臨機応変な戦い方ができるのだ。

 

「エイッ!」

 

 ラレーヌは自らの杖、ラレーヌロッドでデッドアントの腹を打ち付けて拳で追い打ちし、後ろへ回り込もうとした者には蹴りを浴びせて消滅させる。

 だがやはり敵は数が多く、すぐにマキナイトたちに包囲されてしまった。

 杖の欠点は威力の低さ。彼女はそれを格闘術でカバーしているが、それでも倒し切れていない。

 

「大口叩いた割には大した事ねぇな」

「危うい場面を描くのも演出の内……」

「あぁん?」

 

 呟いた後、ラレーヌは左腰にストックしてあるギミックアンバーに手を伸ばし、それを即座にラレーヌロッド ステッキモードへセットしてキーを捻った。

 

《ギミックチャージ! ドローンビートル!》

「さぁ、舞台を盛り上げる脇役を紹介しましょう!」

 

 言いながらトリガーを引くと、彼女の頭上に機関銃が装着されたカナブン型のドローンが出現する。

 そして、頭上からの銃火がデッドアントたちを強襲した。

 

《マスケットモード!》

「ヤァッ!」

 

 さらにラレーヌはグリップを展開する事で武器を杖から銃に変形させ、跳躍してドローンビートルの脚を掴み、そのまま自身も発砲する。

 雨霰と降り注ぐ銃弾の前に、ウスバカゲロウとアリジゴクのマキナイト以外はあっという間に蹂躙された。

 

「こ、こんな……バカな!?」

「くっ、ならば!」

 

 バサッ、と翅を拡げてミルメレオンが素早く飛翔する。

 そのままカナブンとラレーヌの上を取ると、ブロードソードを振り下ろしてドローンを破壊した。

 たちまちラレーヌは銃を取り落としてしまう。

 

「キャッ!?」

「兄さんでかした!」

 

 続いて待ち構えていたドゥードゥルバグが地面に潜り込み、その場に流砂を形成。

 その中央には、大顎を打ち鳴らし火花を散らすアリジゴクの騎士の姿がある。

 

「ははは、これぞ砂の監獄! このまま引き摺り込んで絞め殺してやる!」

 

 メキメキッ、と己の筋肉と鋭利なハサミを誇示するアリジゴク。

 徐々に流砂の中心に向かって沈んでいく両足、頭上には飛び続けて威嚇しているウスバカゲロウの騎士。先程のようにドローンビートルを呼び、飛んで逃げるのは難しいだろう。

 それでも、ラレーヌはニッと笑った。

 

「学習しないですね。優れた演者は劇的にピンチを魅せるもの、そして華麗に逆転するのです。こんな風に」

 

 言いながらグッと握り拳を作って左腕を地面に、右腕を空に向かって振り被る。

 

「トォッ!! エレクトリックウェイブ!!」

 

 するとラレーヌの全身から稲光が迸って二体の騎士を雷で焼き、ウスバカゲロウを地面に、アリジゴクを上空に向かって投げるように吹き飛ばす。

 レディバードギミックアンバーの能力、電光による攻撃だ。

 

『ぐあああああ!?』

 

 ドゥードゥルバグがいなくなった事で流砂の作用が収まっていき、二体のマキナイトは全身が痺れてその場でよろめくしかなかった。

 

「では、そろそろエンドロールと行きましょうか」

 

 その隙にラレーヌは動く。戦いを終わらせる一撃を放つため、ドライバーのキーを操作し、グリップを握って回転させる。

 

BREAK OUT(ブレイクアウト)! レディバード・シネマティックフィナーレ!》

 

 直後にドライバーから音声が流れ、ドゥードゥルバグの身体がフィルムテープによって雁字搦めになった。

 そうして完全に動きを封じ込めたところで、跳躍したラレーヌが雷光を纏ってキックを放つ。

 雷の飛び蹴りは見事命中し、アリジゴクの騎士を爆散せしめる。

 

EXCELLENT(エクセレント)!》

 

 弟がやられてしまった。

 残る戦力が自分だけとなった事でようやく危機を感じたのか、ミルメレオンはよろよろとしながらも翅を拡げ、背を向けて空へ飛び出す。

 その後ろで、ラレーヌは新たにタマムシのギミックアンバーを取り出し、それをラレーヌロッドへ装填。歯車を三度回転させる。

 

「ひ、ひぃっ!! 助け……」

「再上映はナシです」

《ジュエルビートル・シネマティックコンダクト!》

「アデュー!」

 

 トリガーが引かれると同時に銃口から飛び出す、七色の宝石の虫たち。

 それらがミルメレオンの薄翅と頭を貫き、輝きと共に騎士を大破させた。

 

EXCELLENT(エクセレント)!》

 

 背中に爆風を浴びながら、変身を解いたアルセーヌが薄く微笑む。

 自分たちの知らない新たなライダーの登場に、シルキィたちはただ瞠目していた。

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