仮面ライダーダイナスト   作:正気山脈

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「それにしても驚いたよねぇ、あの怪盗だか探偵だかって仮面ライダーさぁ」

 マキナイトの襲撃を、新たな仮面ライダーたるラレーヌが退けた後。
 一時の平和を取り戻したヴァリエテの街で、シルキィは言った。

「ワタシも知らない変身システムを使うなんて……一体どこの蒸機技師の仕業なんだろうね?」
「あの後笑いながら普通にどこかに行ったけど、結局味方なんですかね?」
「まぁ味方だとしたら心強いけど、なんというか明らかに変態だもんなぁアレ」

 研究室の椅子に座ってコーヒーを飲み、シルキィと貂が笑い合う。
 だがそこで、キョトンとした様子で瑠璃羽が首を傾げた。

「えっ、カッコいいじゃないですか?」
「瑠璃羽?」
「……博士くん、ワタシには時々キミの感性が分からなくなるよ……」

 二人の言葉を聞いてもなお、しきりに首を傾げる瑠璃羽。
 シルキィも瑠璃羽も苦笑しつつ、話題を切り替える。

「に、にしてもなんか取ってつけたような名前ですよね、アルセーヌ・ホームズって! アレはないですよ!」
「そっ、そうだね! っていうか絶対あの二つの小説から取ってるよね!」

 すると再び、瑠璃羽が不思議そうに首を傾げた。

「シルキィさん、どうしてそれを知ってるんですか? アルセーヌ・ルパンとシャーロック・ホームズって地球の小説なのに?」
「……えっ?」


GEAR.19[乱刺乙女]

 イザベラ・バートリーの領土で起こった謀反。

 ダイナストたちの煽動によって住民たちは大量の火炎瓶を彼女の屋敷に投げ込み、破壊の限りを尽くす。

 そうして養蜂所や蜂蜜酒醸造所にまで火の手が回った結果――果たしてイザベラは、ホーネット・マキナイト・ヴェスパとして空から姿を現した。

 

「あなたたち……レジスタンスに唆されたとは言え、自分が何をしたか分かっているんでしょうねェッ!?」

 

 怒号を浴びた市民たちは震え上がり、マキナイトたちの所業を思い出す。

 彼らは人を食う。人の血を啜り、肉を喰らい、骨までしゃぶり尽くす恐ろしい機人だ。

 その怒りを買えばどうなるか、想像はできていた。その上で、反旗を翻した。

 故に、彼らは恐慌状態にありながらも、武器を手に声を張り上げる。

 

「お、俺たちはもうあんたには従わないぞ!」

「これ以上惨めな生き方はしたくない!」

「私たちが人間だった頃の生活を取り戻すんだ!」

 

 再び火炎瓶が投げ込まれ、ヴェスパが火を浴びる。

 だが彼女は自らの翅を動かして即座に火を散らすと、毒液の付着したレイピアでトントンと肩を叩きながら降下していく。

 

「馬鹿な子たち。そんな事できっこないのに、まんまと口車に乗って……でも同情はしてあげない」

 

 ひゅんひゅんっ、と威嚇するように何度もその場でレイピアの素振りをし、民衆たちの恐怖を煽る。

 

「あの養蜂所は私の資産、富を生む金の卵だったのよ……それを!! よくも!! あんな風に焼き払ったわね!? 許さない許さない許さない許さない許さない!!」

「ひ……!?」

「全員纏めてドリルメイデンにブチ込んで!! 血肉を麦畑に撒いてやる!!」

 

 言いながら、目の前にいる男に向かって勢い良く切っ先を突き出そうとするヴェスパ。

 瞬間、銃声と共にその右眼を弾丸が抉る。

 見れば、上空には飛行形態のダイナストームで漂う仮面ライダーダイナスト マルスアーマメントが、ライフルモードのダイナシューターを構えて照準を定めていた。

 

「させねぇよ、クソ蜂女め」

「ダイナストォ……!!」

 

 ギチギチと牙を軋ませ、睨み殺さんばかりの敵意をヴェスパが向ける。

 

「お前らの……お前らのせいで!! 私の大事な大事な大事な大事な大事な養蜂所が!!」

「ハッ! そんなに大事なら呑気に目ぇ離すなっての。自分の領土ン中で反乱が起きないと思ってたんだろうが、油断しすぎなんだよ」

「死ィねぇぇぇえええぇぇぇッ!!」

 

 怒号と共に、ヴェスパが剣先を向けたまま猛スピードで飛びかかった。

 それを見計らって、ダイナストも腕から紫の炎を吹き出し、怯んだ隙にバイクを操作して直進し轢く。

 

「ぐが!?」

「こっちだ蜂女!」

 

 吹き飛ばした方向にあるのは、未だ燃え広がりつつあるイザベラの屋敷だ。

 ダイナストの方もバイクを降りて中に侵入すると、炎を発して彼女の住処をさらに燃やし始める。

 

「この期に及んで何を!!」

「お前ら貴族が御大層に積み上げたモン全部、俺がこの手でブッ壊して台無しにしてやろうってェんだよ」

「……人間如きにそんな権利があると思ってるの!?」

「ある。俺は魔王だ」

 

 堂々とそう言い放つと、ダイナストはそのまま掌を突き出して足をゆっくりと動かしながら間合いを取り、ヴェスパと対峙した。

 強気に戦いを挑まんとする仮面ライダーに対し、ヴェスパはフンと鼻を鳴らしつつ飛翔する。

 

「前回はなんだかんだ逃げ切れたから、頑張ればどうにかなるかもとか思ってない? 甘い甘い、甘いのよォッ!!」

 

 瞬間、空気を突き破ったかのような破裂音と共に、ヴェスパの一突きが仮面ライダーの胸へと直撃した。

 幸いにもマルスアーマメントの堅い装甲は貫かれなかったものの、その力強い刺突によって亀裂が走っている。

 さらにヴェスパ自身は即座に距離を取って再度飛び回っており、反撃に移る事ができなかった。

 

「その様子だと見えなかったみたいねぇ? 当然よね、前回は狭い地下だったから本来のスピードを出し切れなかっただけ……あなたが出させたのよ! 私に! 本気のスピードをォォォーッ!」

 

 先程と同じ破壊的な刺突撃が、絶え間なく繰り出される。

 吹き上がる炎も打破し、一発一発が腕や肩などを掠める度にダイナストはよろめいてしまう。

 勝機を見たヴェスパは天井を砕きながら空高く飛び上がると、そのまま回転しながらレイピアを真っ直ぐに前へ突き出す。

 地上に立つ魔王に向けて急降下し、命を奪うつもりなのだ。身体のどこであろうと、当たれば致命傷になるだろう。

 

「死になさぁい! ダイナストォ!」

「死ぬかよ!」

《ギミックチャージ! スワロウテイル!》

 

 その言葉と共に、彼女の降下が始まる寸前でダイナストは動いた。

 ダイナシューターを再び手に取って素早くギミックアンバーを装填すると、足元に向かって何度も撃ち続ける。

 煙に紛れて姿は見えなくなるが、明らかに一歩も動いていない。

 

「ハッ、どこを撃って……!?」

 

 既にダイナストへ狙いを定めて地上へ急速飛行していたヴェスパは、嘲笑の直後にハッと目を剥いた。

 空中に漂っている蝶の形をしたいくつもの光弾。ひらひらと揺れ動きながら、それらがゆっくりと彼女へ向かっていく。

 

「ギャッ!?」

 

 そして、全弾背の翅へ直撃。

 スワロウテイルのギミックアンバーを使った弾丸は、ダイナスト自身でさえ予測できない程の不規則な軌道を描いて放たれる。

 それを跳弾という形で利用し、自身へ突っ込んで来るヴェスパを妨害しつつ攻撃したのだ。

 

「隙あり!」

 

 上空から墜落して来た蜂の怪人へ、続け様に拳を二度叩き込む。

 吹き飛ばされた蜂女は炎の海にダイブさせられ、大きな悲鳴を上げる。

 しかしそれで終わるはずもなく、今度は怒りに満ちた叫びを発して炎を斬り裂くように飛び、ダイナストの前に降り立った。

 

「落盤でも死ななかっただけはあるな、流石に頑丈だ」

「殺す……もう……殺すぅ……!!」

「そりゃさっき聞いたよ」

「黙れぇぇぇ!!」

 

 挑発的な言葉に乗せられ、ホーネット・ヴェスパは細剣を振り上げ真っ直ぐに魔王へ向かう。

 だが翅が治り切っていない今、スピードは目で追える程度にまで落ち着いている。その一瞬の隙を見計らって、ダイナストは噴射口から炎を発しながら素早く拳を突き出す。

 拳打は避ける暇を与えずヴェスパの顔面にめり込み、今度は壁面を突き破って吹き飛んで行った。

 

「グハッ!?」

「まだまだァ!」

《ギミックチャージ! ライノビートル!》

「地下の時に加減してたのはこっちだって同じなんだぜ! マルスアーマメントじゃパワーがありすぎて味方も巻き込んじまうからな!」

 

 壁が崩れてできた穴に向かって、貫通弾の発砲を続けるダイナスト。

 直後に中から金属音が響き、イザベラが出てくる。ホーネット・マキナイト・ヴェスパから、ホーネット・マキナイト・ガルーダへと姿を変えて。

 おまけに、その左手には今しがた空になったであろう鮮血蜂蜜酒のボトルが握られている。

 

「チッ、治ってやがる!?」

「さあ第二ラウンドと行こうかしらぁ!!」

 

 投げ捨てたボトルの割れる音を聞きながら、ホーネット・ガルーダが詰め寄ってサーベルで突きを繰り出す。

 ヴェスパほどのスピードはないものの、翅が再生している事もありダイナストは接近を許してしまい、装甲に傷が付いて行く。

 そうして突きの後に振り抜かれた大上段からの斬撃を腕の装甲で受け止めるものの、徐々に刃が腕を取らんと食い込む。

 

「ぐ……!」

「ほら、ほらほらぁ!! 斬り落としちゃうわよ!?」

 

 するとダイナストはガルーダの胸に銃口を押し当て、至近距離から発砲。リズムを良く二度、一度、三度。

 堅牢な黒い甲殻には傷一つ付かないが、それでも攻撃を続ける。

 

「アハハハハ! そんな豆鉄砲、痛くも痒くもないわね!」

「だろうな……でも、これで良いのさ……!」

「はぁ~?」

 

 ダイナストが強がりを言っているのだろうと思い、サーベルを持つ手へさらに力を込めるガルーダ。

 瞬間、彼女の目の前から叫び声が上がった。

 

()()!!」

 

 それを合図としたかのように、ガルーダの両足は凍結する。

 地下で戦った時とほぼ同じ戦況、劣勢の再現だ。

 何が起こったか分からずガルーダが背後を振り返ると、足を凍らせた犯人がそこにいた。

 

「もう一人いるのを失念していたんじゃないだろうな?」

 

 ソーマが変身した双剣を持つ戦士、仮面ライダーレギウスである。

 

「ウソ、でしょ!? いつからここに!?」

「ダイナストが襲撃をかけて派手に立ち回っている間、僕は速やかに裏手から侵入していたのさ。さっきの銃撃音は招集の合図。全て作戦通りだ」

 

 如何に強大なパワーを持つガルーダといえど、足が凍って身動きが取れなくなってしまっては無意味。破損した足が回復した事で、逆に枷を嵌められてしまったのだ。

 そしてダイナストとレギウスは、決してこの機を逃さない。

 

BREAK OUT(ブレイクアウト)!》

「これで決める! 行くぜ!」

「ああ!」

《マルスエレファントビートル・ダイナスティスマッシュ!》

《スタッグビートル・リベリオンインパクト!》

 

 二人同時に疾走して跳躍し、赤と青の光を纏って足を突き出す。

 飛び蹴りが自分に直撃するのを覚悟し、ホーネット・マキナイト・ガルーダは唸る。

 しかし、その時だった。

 突如として細く白い糸がダイナストを絡め取り、二人の身体が衝突して必殺の一撃が中断されてしまう。

 

「ぐあっ!!」

「な!?」

 

 ダイナストもレギウスも、困惑して糸の飛んで来た方向へ視線を送る。

 敵の正体が分からないから、ではない。察しがついているからこそ、見ざるを得なかった。

 そしてそこには、想像通りの人物が立っている。チェーンソーのような剣を肩で担ぎ、左腕の噴射口から糸を発した紫の蜘蛛の戦士が。

 

「スモーキーの指示だ。貴様らを狩るぞ、仮面ライダー」

「ルーガルー、てめぇ……!!」

 

 謎めいた人物、シモンが変身した邪甲騎士ルーガルーの姿を見て、ダイナストは糸を焼き切って即座に飛び出していく。

 一方、レギウスは炎で凍りついた足を元に戻したホーネット・ガルーダに斬りかかるが、それはサーベルで受け止められた。

 またしても戦況が一変してしまった。直後、レギウスは分厚い氷の壁を生み出し、自身とダイナストの間を隔てる。

 戦力を分断する形にはなるが、これで一対一になった。相方の無事を祈りつつ、魔王は目の前の騎士に拳を叩き込まんと踏み出す。

 

「一体どっちの味方だ!? 何のために戦ってんだよ、お前は!!」

「俺は常にすべき事をしているだけ、元から貴様の仲間になった覚えはない。それに……」

 

 拳撃を腕で弾いて反らして、ルーガルーはファングレイザーのトリガーを引いて刃を駆動させながら振り下ろした。

 

「言ったはずだ。決着は必ずつけると、な!」

「く!?」

 

 イザベラとの戦いで装甲が損傷している事もあって、チェーンソーの連続攻撃は今のダイナストにとって脅威そのもの。

 ダイナシューターの銃弾でノコギリの側面を撃って軌道を逸らし、回避し続ける。

 

「何がすべき事だよバカバカしい! 結局は貴族からの命令に従ってるだけで、お前自身には何も目指してるモンなんざないんじゃねぇのか!」

「なんだと……グッ!?」

 

 言い返そうとする寸前で、ダイナストの掌底が胸部に直撃し、続け様の素早い拳打が脇腹を捉えた。

 

「こいつ、いつの間にここまで強く……!?」

「オラァッ!!」

「チッ!!」

 

 左腕を掲げて蜘蛛の糸を発射しようとするも、動作を見切ったダイナストはその腕を蹴り上げ射出方向を変える。

 さらに再び炎を纏う拳と足による激しい連続打撃が放たれ、ルーガルーは身を守るので精一杯だった。

 

「この星じゃ人間は明日さえ迎えられないかも知れない状態で生きてんだ、みんな必死なんだぞ! なのにお前は何も考えねぇでその明日を遮ってやがる!」

「む……!」

「レジスタンスの行動にも貴族の作る国にも興味ねぇなら、いっそ黙って引っ込んでろ!!」

「ぬぅっ!?」

 

 徐々に攻撃を凌ぎ切れなくなり始め、回し蹴りがまともに顔面へと直撃し、邪甲騎士はたたらを踏んだ。

 それを好機と見て、ダイナストは滑り込むように接近しつつ、ドライバーを操作する。

 

BREAK OUT(ブレイクアウト)!》

「望み通りこれで決着だ!」

《マルスエレファントビートル・ダイナスティスマッシュ!》

「喰らいやがれェェェーッ!!」

 

 ダイナストは四肢のマフラーから爆炎を発し、眼にも留まらぬ速さでルーガルーの胴体に飛び蹴りを食らわせた。

 直後、地面を転がり倒れたシモンは、騎士の姿から元に戻ってしまう。

 

「ぐ、ここまでか……!」

 

 よろめいて片膝を地につき、ファングレイザーを杖のようにして身体を支えつつ、すぐに立ち上がったシモンは即座にその場から撤退する。

 ダイナストは深追いせず見送り、レギウスの去った方へと足を運ぶ。

 

「無事でいろよ、ソーマ!」

 

※ ※ ※ ※ ※

 

「そぉ、れぇ!」

「ぐ!」

 

 一方。

 レギウスは、飛びながら自分を追って斬撃を仕掛けて来るホーネット・ガルーダに対処していた。

 事前に周囲に氷の壁を作って行動範囲を絞り、高く飛べないよう天井にも張り巡らせている。さながら、氷の迷宮だ。

 だがガルーダの方は、そんなものは関係ないとばかりに、強固な装甲に任せて氷にぶつかりながら迫っていく。

 

「どこまで行く気か知らないけど! 逃げても無駄よ、必ず追いつくから!」

「それは……どうかな!」

 

 言いながらレギウスは階段を登り、氷の壁を生み出して上下左右の幅を狭める。

 

「だから無駄だって!」

 

 それでも、ガルーダは無理矢理に全身をねじ込み、突破した。

 さらにレギウスが逃げた先は分厚い氷の壁となっており、進路が封鎖されている。

 もはや完全に追い詰めた。ガルーダはそう思い、嘲笑と共に猛進した。

 

「さぁ、死になさぁい!」

「死ぬのはお前だ!」

 

 その瞬間。レギウスは、ドラゴンフライギミックアンバーを取り出して、ドライバーに装填する。

 

SET(セット)! ドラゴンフライ! COUNTERTIME(カウンタータイム)!》

「アーマーアペンディクス!」

ECLOSION(エクロージョン)! TREASON COORDINATION(トリーズン・コーディネーション)! ドラゴンイクイップメント!》

「ハァァァッ!」

 

 背中にジェットパックが装着され、レギウスはそのままガルーダに背を向け疾走し、()()()()()()()背後に回った。

 

COOL(クール)!》

 

 突然の出来事に理解が追いつかないまま、思い切り氷の壁に頭をぶつけ、転倒するガルーダ。

 だがやはり大したダメージはないため、すぐに起き上がった。

 

「何のつもりで――!?」

 

 しかし、起き上がった直後に映る光景を目の当たりにして、絶句する。

 氷がいつの間にか消失し、気づけば周囲にあるのは黒黒とした鉄の壁とそこに備え付けられた無数のドリル。

 彼女自身が人間から血を採取する時に使っている、通称ドリルメイデンの中だった。

 

「ま……まさか!?」

「自分がその名の通りの末路を辿るんだな、乱刺卿よ!!」

 

 そう言ってレギウスは、壁に備えられたレバーを下ろす。

 彼は最初からこの場所に誘導するため、氷壁を駆使して走り続けていたのだ。そして今、鉄の壁が閉じておびただしい数のドリルが、今回は領主自身に牙を剥く。

 とはいえ今のイザベラは全身が硬い殻で覆われたホーネット・マキナイト・ガルーダに変異している状態。多少甲殻を削られようとも問題なく動けるのだ。

 そもそも彼女のパワーであれば、鉄の扉であれこじ開ける事さえできる。

 

「こんな程度で……本当にこの私が、四傑伯が死ぬとでも思ってるのかしら!?」

 

 叫ぶと同時に、ガルーダの拳が鉄扉を叩く。

 僅かに歪んで小さな隙間ができるが、ただそれだけだ。壊れて開く様子はない。

 

「はぁっ!? な、なんで!?」

 

 愕然としつつ、削れるのも構わず再度拳を叩きつけるが、結果は変わらず。

 まるで何かで塞がれているかのように、扉が重い。

 

「ま、まさか……」

「気づいたか? そう、今僕はこの鉄の塊を何層もの氷の壁で覆っている。たとえ貴様でも破れん」

 

 告げられた真実を聞いてもなお、ガルーダは拳で叩き続ける。

 その度に鉄の扉に痕跡がくっきりと付くが、開く気配はまるでない。

 さらに、立ち上る冷気と共に彼女自身も段々と凍りついていく。

 閉じ込めるだけではなく、内側で凍らせてしまうつもりだ。そうして完全に凍ったところでドリルによって破壊する作戦なのだ。

 ガルーダはそれに気づいて、よろめきながらどこかに脆い箇所はないかと視線を動かす。

 

「くぅ……あ!!」

 

 そして、ある部分に目が留まった。

 浴室のシャワーヘッドに繋がる鉄の蓋。まだこの部分は氷の層で塞がっておらず、ホーネット・ガルーダの力であれば当然容易く開ける事ができる。

 そう思ったガルーダは、すぐに飛びついて右足を叩きつける形で蓋を思い切り蹴り開く。

 次の瞬間に彼女を迎えたのは、紫色のごうごうと燃え盛る炎だった。

 

「え!?」

 

 階下にいるのはダイナスト。彼女が蓋を壊して姿を見せるのを、息を潜めて待っていたのだ。

 ダイナストは一気に超高温の炎を放出し、全身に冷気を帯びるガルーダを攻撃する。

 だが炎ならば先程戦った時のように耐えられる。床を蹴って下にいる仮面ライダーに向かって、サーベルを手にガルーダが飛びかかった。

 

「俺バカだからどうしてそうなるのか知らねぇけどよぉ」

 

 ダイナストは、そう呟きながら炎の勢いをさらに強める。

 直後、ガルーダの装甲に少しずつ亀裂が走り出した。

 

「キンキンに冷えたモンを一気に熱すると……」

「な、あ!?」

「ブッ壊れちまうんだよなぁーッ!!」

 

 素材にもよるが、ガラスや金属は急激な温度差の影響を受ける事によって、ヒビ割れを起こしたり脆くなって壊れてしまう。

 その性質を利用して、ダイナストは装甲の突破を試み、そして成功したのだ。

 地上に落ちると同時に掌が顔面へと叩きつけられ、浴槽を破壊しながらホーネットは強かに壁面に背を打ちつける。

 

「ま……まずい、ガルーダ形態の意味がない……!」

 

 サーベルも根本から折れてしまい、完全に窮地に立たされた彼女は、ダイナストの侵入経路であろう浴室にできた壁の穴から逃げようと駆け出す。

 だがその瞬間に頭上からレギウスが降り、彼の扱う双剣によって背中を斬り裂かれる。

 

「がっ!?」

 

 切断された翅が、ひらりと床に落ちた。

 そうしてガルーダがバランスを崩してよろめいたところに、ダイナストの拳が横腹を捉え、吹き飛んだ先にいたレギウスが素早く踵落としを食らわせる。

 四傑伯を討つための、徹底した二人がかりの連続打撃。ガルーダの装甲は完全に大破し、もはや抵抗する力を失ってくらくらと頭を揺らしていた。

 今度こそ確実に終わらせる。その思いで、二人は同時に武器を取り、ギミックアンバーを装填する。

 

BREAK OUT(ブレイクアウト)!》

「ブチ抜く!」

《ライノビートル・ダイナスティキャノン!》

「斬り刻む!」

《ドラゴンフライ・リベリオンカッティング!》

 

 シザーモードのレギウスラッシャーが両足を断ち、マグナムモードのダイナシューターから放たれた赤い閃光がガルーダの胴を撃つ。

 

GROOVY(グルーヴィ)!》

COOL(クール)!》

「この私があああああああっ……!?」

 

 蜂の伯爵は光に包まれ空の彼方まで吹き飛んで行き、領主を失った街に静寂が訪れた。

 館を包んでいた火は消し止められ、残っていたメイド兵も全滅。X-ROSSの面々と住民たちが鬨の声を上げ旗を掲げるのを見下ろし、二人は息をつく。

 

「これでもうこの街は安全だな」

「ああ。だが、四傑伯の一角を倒した以上、残りの連中も警戒するはず……油断せず次に備えよう」

 

 シルキィたちへ良い報告ができるな、などと他愛のない会話を交わしつつ、二人はその場を去って行った。

 ――そんな街の様子を、背に翅を生やした一体のデッドアントが観測した後、飛び去る。




「全滅だと?」

 それから数日が経過した後、王都造船場にて。
 斥候として放ったデッドアントの一報を聞いて、エミディオは訝しげにその目を細める。
 彼が聞いたのは、バートリー領の陥落と彼女の所有する戦力の壊滅。農場も焼かれ、今は反乱軍の旗が誇示されているという。
 共に話を聞いていたオルロックの方も、丸い目をさらに丸く見開いている。

「確かに乱刺卿イザベラ・バートリーは四傑伯の中では実力が一段劣る、慢心もあるだろうしこの結果に至る可能性は僅かながら考えられた。だが……」

 ()()()()
 あまりにも、人間側にとって都合の良い、貴族にとって都合の悪い展開だ。
 やや神経質で些細なミスに苛立ちやすい部分のあるエミディオは、今回のような追い詰められた戦況や危機に直面すると、逆に脳が冷静に冴え渡る性質の持ち主であった。

「オルロック様、これは明らかに異常事態です。四傑伯の一角が、ただ油断していたというだけでこうもあっさり敗戦するのはあり得ない。彼らはBOAを二つ使えるし、その力で不意打ちもできたはずです」

 言われてオルロックも頷き、エミディオの続く言葉に聞き耳を立てる。

「それに、あまりにも反乱軍の行動が()()()()()……戦闘力はともかくとして、バートリーの政治力・統率力は四傑伯の中では文句なしに一番。いわゆるカリスマですから」
「うむ。反乱軍が自由に動き回れる場所ではない、家畜(人間)が裏切るというのも難しい線だ。普通ならこの速さで落とせるワケがない」

 では彼女に一体どんな不運が舞い込んだのか。
 その結論を口にしようとする前に、もう一体のデッドアントが偵察結果の報告に現れる。

「アルベリヒの刺客も撃退されただと? 新たな仮面ライダーに? やはり妙だ、ヤツらはなぜ今までそんな戦力を隠していた? どこにそんな余裕がある?」

 今後の計画に支障が出るかも知れないと考えつつ、エミディオは眉間に指をトンと乗せた。
 そして、考え続けた後、オルロックに向かって一つの結論を提示する。

「……オルロック様。今回の件、考えにくい事ですがひょっとすると……」

 息を呑み間を開けつつも、エミディオは言った。

「我々の中に内通者がいるのかも知れません」
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