仮面ライダーダイナスト   作:正気山脈

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「ソーマ、ソぉーマぁー!」

 自分を呼ぶ少女の、懐かしい声。
 簡素な椅子に腰掛けて本を読んでいた10歳前後の少年、ソーマ・フェニックスは、ページにしおりを挟んでゆっくりと振り返る。

「どうしたの、ミナ」
「じゃーん! 見てください!」

 あどけない笑顔を見せる赤毛の少女、ヴィルヘルミナ・ストーク。
 ミナと呼ばれたその可憐な少女の正体は、ストーク王家の末裔である。
 そんな彼女の手には――紙を切り折りして作った、やや不格好な仮面のようなものがあった。

「えっと……本当にどうしたの? 何それ?」
「ふふ~ん! あの本で読んだ『怪盗』の仮面です!」

 どうですかカッコイイでしょう、と言わんばかりに胸を張り、ミナはにっこりと笑う。
 さらにもうひとつ、同じく紙製の簡素な帽子のようなものを掲げる。

「『探偵』の帽子もあります! 良いでしょう!」
「ミナ……」

 ソーマはやや呆れながら、本を机に置いて彼女に語りかけた。

「僕らはいつか、大人たちみたいに戦わなきゃいけなくなるんだよ? 今は遊んでる場合じゃない。少しでも鍛えたり、多くのことを学んだり……僕の姉さんのように強くなって、備えないと」
「……もちろん分かってますよ」

 一転してミナの表情に影が差し、ソーマはハッと目を見張る。

「今いる大人も子供も、みんないつかはマキナイトとの戦いで命を落としてしまうかも知れない。わたくし自身だって」
「待ってミナ、僕は別にそういう事を言いたいんじゃ――」

 フォローしようとした彼の言葉を遮るようにして、ミナは首を左右に振った。

「わたくしは死ぬことを許されない身。だけど、戦に勝てるとは限らない。何よりわたくしには、力もなければ戦う勇気も覚悟も全部足りないのです」
「……ミナ……」
「だから、だからせめて……みんながいなくなってしまう前に、わたくしが命を落とす前に、みんなで少しでも楽しい思い出を増やしたくて……」

 目に涙を貯めて、啜り泣きかけるミナ。
 そんな彼女の小さな体を、ソーマはそっと抱き寄せる。

「君のその明るさが、本当に僕らの力になっているよ。ありがとう、ミナ」

 直後、ミナはわんわんと泣き出し、彼女が落ち着くまでソーマはずっと傍に居続けた。

※ ※ ※ ※ ※

「……ん」

 ――ふと、体育館のマットの上でソーマの意識が覚醒する。
 10年以上も前の懐かしい記憶。幼馴染と過ごした日々が、夢となって現れたのだと、彼はすぐに自覚した。
 瞼を擦って大きく伸びをすると、壁に背を預けているVから声がかかる。

「敵が現れたようです」
「そうか。なら僕が出る」

 いつか彼女(ミナ)と再会するまで、この十字架の炎を絶やすワケにはいかない。
 そんな誓いを改めて胸に刻み、ソーマはドライバーを手に駆け出した。


GEAR.23[多事多難]

「まさか、あのデカブツがここにまで現れるとはなぁ」

 

 空久里学園の校門を突き破って現れた、スピエルドルフとモノレールを媒体とする蒸気機関の巨大ムカデ。

 瑠璃羽と貂の奮闘で乗車していたマキナイトたちは数が半分ほどに減ったものの、最大の脅威たる車両そのものは未だ健在だ。

 そんなピンチを迎える彼女らを助けるべく颯爽と現れたのは、千種が変身する仮面ライダーダイナスト、さらにレギウスとVであった。

 

「自動操縦に切り替えた。校舎の中で隠れてろ、良いな」

「……はい!」

 

 バイクから降りたダイナストは紬にそう告げて、彼女が体育館の方に運ばれるのを見届けつつ、その手に握ったダイナシューターの銃口をムカデに向ける。

 そして、発砲。

 放たれた銃弾は、顔の半分溶けたムカデのそこに直撃するものの、怯みさえしなかった。

 

「やっぱ効かねぇのか!」

「頑丈だな……彼女らの光の武装でも大きなダメージにはなっていないらしい。どうするんだ、ダイナスト」

「決まってんだろそんなもん。撃ってダメなら」

 

 言いながらダイナストは拳を握り込み、敵の巨体に向かって跳躍する。

 

「ブン殴ってブッ壊す!!」

「なら僕がサポートしよう」

 

 レギウスもその行動に合わせて剣を地面に突き立てると、氷の柱を足場として生み出し、地上の敵を相手に拳で挑む。

 だが一人ではカバーし切れず、討ち漏らした者たちがVに襲いかかっていく。

 

「しまった!」

「フン」

 

 デッドアントたちが武器を振り上げて向かって来ても、Vは少しも焦らない。

 袖の下から小さく薄い数枚の紙のようなものを取り出し投擲すると、それらが一陣の風と共に剣となって兵士らの身体に突き刺さった。

 

「なっ!?」

「なんだ、あの力は……!?」

 

 Vの動向に一瞬視線を奪われるダイナストとレギウス、それと同時に迫る敵勢の投げつけたフォーク型の槍。

 その刹那、再び紙を取り出したVの手に杯が現れ、そこから溢れ出る液体が蛇のように虚空で蠢いて飛び、二人を覆ってフォークを弾き飛ばす。

 

「これは……水!?」

「なんだ、お前実はすげぇ強いんじゃねぇか!? なんで今まで隠してやがった!」

 

 水のバリアが消えるのを確認して、ダイナストは跳躍しながらそう言い放つ。

 すると、Vは続いて数枚の硬貨を掌に生み出し、ムカデを取り囲むようにそれらを投げて配置。

 直後にコインが石柱となり、枷のようにその巨体を拘束する。

 

「あまり積極的に戦いたくないんですよ。それにこう見えても私、戦闘能力は低い方ですから」

「ウソつけ!」

「事実ですよぉ。ほら、チャンスですから余所見をしないで」

 

 ダイナストはその指摘を受けて舌打ちしつつも、動けないムカデの溶けた顔の部分に拳を叩き込む。

 さらにレギウスの方も、その双剣を交差させ車体に刃を振り下ろす。

 だが。

 

「ヴォオオオオオッ!!」

「くっ!?」

 

 その一撃を受けても、巨大なムカデにはほとんどダメージが見られない。

 むしろより凶暴に全身を動かし、身をしならせ鞭のようにダイナストを打った。

 

「がぁっ!?」

「打撃も斬撃も銃撃も通用しないのか!?」

 

 氷壁を生み出して自身とダイナストの身を守りながら、レギウスは焦燥感を滲ませながら呟く。

 すると、戦いを見ていたシルキィからダイナストたちへ声がかかった。

 

「だったら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

「弱点? それは一体……」

「ダイナスト、Α1! 二人のコンビネーションが重要だよ!」

 

 言われて二人はハッと顔を上げ、目を見合わせて頷く。

 

「そうか……そういう事か!」

「行きましょう、先輩! Α2、サポートして!」

 

 言われるがまま、Α2は手にした剣でレギウスと共に周囲の敵を次々と斬り、ダイナストとΑ1のための道を文字通りに切り開いた。

 とはいえそれでムカデの方を止められるはずもなく、その巨体が石の枷を破壊し、地上の魔王へ毒牙を突き立てんとする。

 その直前、Α1がグレネード光弾を発射して視界を光で埋め尽くし、援護を行った。

 

「オラッ!」

「グゥオオオッ!?」

 

 さらにダイナストはその間にムカデの右側頭部にあるモノレールのドアのような部位を掴んで無理矢理に引き剥がし、悶えて身を捩る巨体から跳んで離れる。

 ややあって視力が回復した巨大ムカデは、ダイナストの姿を探して頭を動かし周囲を見やった。

 瞬間、再びΑ1がグレネード弾を放つ。今度はムカデの頭上、左の触覚を掠めて()()()()()()()

 

「ここだ」

 

 その声が聞こえたのは、地上からだった。

 炎を噴き出しながら真上に大きく跳躍したダイナストは、そのまま光弾にオーバーヘッドキック。

 狙うは、ドアがこじ開けられて剥き出しとなった、スピエルドルフのいる運転席だ。

 

「グッアアアアアァ!?」

 

 狭い室内で眩い閃光を浴びた彼は、溶解・灰化して消滅。

 ムカデ車両自体も徐々に大きな灰の塊となり、完全に形を失ってしまった。

 

「なんとか、勝てたな……」

「ああ」

 

 紬が戻って来ない内に変身を解除し、千種は深く息をつく。

 だが、今の騒ぎを聞きつけて敵が再び襲って来る可能性がある。あまり悠長に休んでいる暇はないだろう、と二人ともすぐに結論付けていた。

 

「とりあえず校門の破損部にバリケード作って補強しようぜ」

「それが良いな。だがその前に、君は妹さんに会って来た方が良いんじゃないのか?」

 

 ソーマに言われ、千種はハッと目を見張る。

 ダイナストとしては先程会っているが、まだ自分の安否を紬に伝える事はできていない。

 ならばまずは安心させるべきだ。そう考えて、千種は礼を述べた後すぐに妹の元へ向かうのであった。

 

「さて……」

 

 残ったソーマは、灰の山となった巨大ムカデの方に足を運び、祈りを捧げるようにグッと胸の前に拳を握り込む。

 

「スピエルドルフ……君自身の蛮行が招いた結果とはいえ、まさか追い出した後マキナイトに変えられていたとは……せめて安らかに眠ってくれ」

 

 その言葉と同時に突風が灰を巻き上げ、完全に痕跡を消し去っていく。

 ソーマはそれを見届けた後、瑠璃羽や貂と共にバリケード作りに動いた。

 一方、Vは月を仰ぎながら小さく溜め息を漏らす。

 

「今回はなんとかなりましたが、やはり貴族側の攻勢が強力すぎる。流石に急がないといけませんねぇ」

 

 そうひとりごちて、自分も作業に加わるべく足を進める。

 口元に、ニヤリと笑みを見せながら。

 

「いざとなれば……フフフ」

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 ダイナストたちが巨大ムカデの処理を終えたのと同じ頃。

 Sトルーパーに変身した才賀夫妻は、マキナイトを殲滅しつつ警察と共に近隣の住民の救助に当たっていた。

 

「これでもうこの辺りの避難は済んだか?」

「多分、ね」

 

 S-Α1()はそう言って、落ち着かない様子でキョロキョロと視線を彷徨わせる。

 その行為の意味するところを察したS-Α2(武生)は、彼女の肩にそっと手を乗せた。

 

「千種の事が気になるな」

「……ええ」

「きっとあの子なら大丈夫なはずだ。信じよう」

「あなた……」

 

 二人は戦闘スーツ姿のまま見つめ合い、そしてゆっくりと互いの身体を抱きしめる。

 その時だった。

 

「ヒャハハハ! 獲物はっけーん!」

『!』

 

 頭上から声が聞こえて見上げると、そこにはアブの姿をした銃を持つ怪人がいる。

 ダイナストたちが交戦した、ホースフライ・マキナイトであった。

 彼は高笑いしながら地上へ無数の弾丸を発射し、Sトルーパーたちを強襲する。

 

「く!」

「チッ……」

 

 降り注ぐ銃弾から腕で身を守りつつ、S-Α2はドライバーについたスイッチを指で操作した。

 

SW-G2(セキュアウェポン・ジーツー) コンバットライフル、レディ・ゴー》

「空を飛べるのは厄介だ、ここで落とそう」

「ええ」

 

 二人は頷き合い、S-Α2は手に持ったライフルの銃口を、ホースフライの翅に定めて撃つ。

 

「おっと!」

 

 しかし高速ながら最小限の動作で銃弾を避けられてしまい、双銃の連撃が再び襲いかかる。

 そこへS-Α1が立ち塞がり、拳で激しい連射を撃ち落として防いでいく。

 S-Α2もその間に狙撃を継続しているが、それもホースフライに見切られ全て回避されてしまっていた。

 

「ヘッ! 中々やるみたいだが、その腕がいつまで保つかなァ!?」

「安心なさい。そんな心配は必要ないから」

 

 S-Α1がそう言って疾走を始め、虻の騎士へと向かっていく。

 それを見てホースフライは「は?」と間の抜けた声を発するも、すぐに彼らの狙いに気付いた。

 翅を執拗に狙われ、回避し続けた事により、命中せずとも高度は徐々に落ちていた。S-Α1はそこを叩き落とそうとしているのだ。

 

「ヒャッハハハ! バーカ、そう上手く行くわけねぇだろ!」

 

 次の行動が読めた以上、対策は容易い。

 そう考えたホースフライは、彼女の腕が届かないよう一気に高度を上げようと翅をはためかせる。

 瞬間、再びS-Α1は動く。

 右腰に保持してあるギミックアンバーを手に取り、それを左腰のスロットに装填して、キーをひねった。

 

《ギミックブースト、グラスホッパー》

 

 S-Α1の両足に緑色の光と共にエネルギーが集中していき、その場で大きく跳躍。それと同時に、悪い予感を察知したホースフライは両足を上に向かって広げつつ、より高く飛ばんと翅を動かす。

 そして彼女は一瞬の内にホースフライの足下まで接近するものの、手を伸ばしても()()()ギリギリ届かない。

 内心ほくそ笑み、安堵する虻騎士。

 だが、S-Α1は最初から足を掴む気などなかった。

 その右手がガシッと握り締めたのは――。

 

「はぅぉっ……!?」

 

 ホースフライの、ガラ空きの股間だった。

 急所を鷲掴みにされ、しかもS-Α1の体重も加わった事によって目に見えてスピードも高度も落ちていく。

 そんな絶好の反撃のチャンスを、才賀夫妻が見落とすはずがなかった。

 

「フンッ!!」

 

 S-Α1はそのまま右掌に思い切り力を込め、水風船を割るようにホースフライの股間を圧壊せしめる。

 太極拳や形意拳とも違う拳法の技のひとつ、敵の股を掌で掴んで潰す『落嚢』だ。

 

「んぎゃああああああああああっ!?」

 

 一際大きな悲鳴を上げ、完全に翅の動きが止まった。

 そして一気に地上へ落下したところで、再生の始まった股間へと、地面を砕く勢いの痛烈な踵落としが叩き込まれる。

 

「ひぎぃぃぃ!?」

「まだ死なないのね」

「て、め……お、おれの……俺のタマをよくも……こンのクソ女が……!!」

 

 四つん這いになって這うように逃げながら、ホースフライは吐き捨てる。

 痛みに耐えどうにかして翅を動かし逃れようとするが、今度はS-Α2のライフル弾で背中を連続で撃ち抜かれ、飛行能力をも喪失してしまう。

 完全に逃げ場がなくなり、恐慌状態に陥るホースフライ。そこへ追い打ちをかけるように、S-Α1はドライバーのボタンを押した。

 

SW-M2(セキュアウェポン・エムツー) タクティカルフレイル、レディ・ゴー》

「フッ!!」

「ぐべへぇ!?」

 

 そうして両手に握られた武器は、漆黒の三節棍。

 まるでもう一つの自分の手足のように滑らかな動作で振り回し、ホースフライの顔面を勢い良く殴打した。

 悶絶する満身創痍のマキナイトであるが、眼の前の彼女が攻め手を緩める事などなく、一切の容赦をしない。

 

「ハイィィィッ!!」

「うがっ、ごあっ!? ひぎゃっ、あごぁっ!?」

 

 顔面の正中線・こめかみ・両目・顎・肋骨・肝臓・鳩尾・膀胱・金的。

 ありとあらゆる人体急所への攻撃が、何度も何度もホースフライの身体を的確に叩く。

 治り切る前に全身を痛めつけられ、もはや満身創痍のマキナイト。S-Α2は、スコープで覗き込み頭部に狙いをつけた。

 

「よし、このまま一気にトドメを……!?」

 

 そして引き金を弾こうとした、その刹那。

 頭上から大きな影が差し込んで来た事に気付いて、S-Α2は慌ててその場で前に跳んだ。

 

「くっ!?」

 

 土煙が巻き上がり、Α1も思わずそちらに目を向ける。

 そこにいたのは、長い手足が特徴的なナナフシのマキナイト。さらにその傍らには、メガネを掛けた少年が立っていた。

 

「何をしている」

「手間をかけさせんで欲しいのぉ」

 

 少年は老騎士ウォーキングスティック・マキナイトの隣で、自らの左腕を掲げ、拳を握り込む。

 

「BOA、アクティベート」

 

 少年の姿が蒸気に包まれ、そのシルエットが変質していく。

 頭部から二本の長い触覚を生やした、黒い甲殻の騎士だ。

 背中には翅を生やしている他、右腕には手に代わり、血に濡れたように赤く長い刃のハサミが付いていた。

 ハサミムシの騎械、イヤーウィグ・マキナイトである。

 

「新手が二体……!」

 

 ホースフライがボロボロになっているとはいえ、これで二対三。数の上ではΑ1とΑ2が不利となった。

 

「刀利! それにじいさん! た、助かったぜ……」

 

 虻の騎士はホッと息をつきながら、イヤーウィグ――波佐見 刀利の元へ這うように向かう。

 イヤーウィグは彼を一瞥した後、その右腕を振り被ってΑ1()の方に素早く突き出した。

 大きく距離が開いているため、当たるはずがない。

 そう思っていたΑ1であったが、奇妙な悪寒を感じて、自身の持つ三節棍を交差させる。

 直後、イヤーウィグの右腕が猛スピードで大きく伸び出し、刃が棍を弾き飛ばして左腕の装甲を斬り裂く。

 

「!?」

 

 たった一撃で装甲が剥がれ、薄くできた切り傷から出血するΑ1。

 さらにウォーキングスティックの方も迫撃砲めいた射程の長い掌打を放ち、Α2は手に持ったライフルの銃床でそれを弾き逸らそうと試みるものの、防ぎ切れず吹き飛ばされた。

 

「あなた!」

「一旦退くぞ巴、こいつら別格だ! そこのタマ無しとは強さの桁が違う、この装備だけでは倒せん!」

 

 そう言い放ちながら、二人は頷き合って背後に向かって駆け出す。

 しかし、当然イヤーウィングもウォーキングスティックもその後ろ姿を見逃さず、追撃に動かんとしていた。

 

「逃がすと思うか?」

「いいや」

 

 視線だけ振り返りつつ、Α2は否定して右手からあるものを取り落とす。

 その手からこぼれ落ちたものは、スタングレネードであった。

 

「う!?」

「お前にその気がなくとも、退路は勝ち取る」

 

 一瞬その物体に注目してしまったために、発せられた閃光は容易く三人の視界を埋め尽くす。

 そして、次に視界が回復した時には、夫婦戦士の姿は完全に消失していた。

 

「チッ……まぁいい、少しは楽しめそうな相手だ」

 

 呟くと同時に、刀利は変異を解除。

 股間の破損と痛みからようやく復帰したホースフライと、その長身で周囲を警戒していたウォーキングスティックも変異を解除し、灰色のパーカー姿の青年と恰幅の良い老人の姿へと戻る。

 

「伯爵方に報告しとくか?」

「位置を特定でき次第な。まずは連中のアジトを探すぞ」

 

 刀利の言葉に二人とも頷き、巴たちを追跡すべく動き出した。

 

 

 

 ほどなくして、空久里学園の体育館にて。

 紬に会いに行った千種は、顔を見るなり泣き出して抱きついてきた妹の背や頭を撫で、落ち着かせていた。

 

「ごめんな、心配かけて」

「うぅん……」

 

 千種の胸の中で首を左右に振り、安心したように身を預ける紬。

 しかし続いて彼女の口から飛び出した言葉に、千種は青褪める事になる。

 

「お兄とダイナスト様の撫で方、なんか似てる」

「えっ!?」

「だから安心したのかなぁ、えへへっ」

「ソ、ソウダナ~……ハ、ハハハハハ……」

 

 視線を逸らす兄の気持ちなど露知らず、紬はダイナストへの想いを募らせ続けていく。

 そんな折、二人の元にシルキィが訪れた。

 眉をしかめてどこか難しく考え込んでいるような表情から、千種はすぐに新型ギミックアンバーの製作が行き詰まっている事を察する。

 

「助手くん、ちょっと良いかい? 手伝って欲しいんだ」

「おう。じゃあ紬、また後でな」

 

 すっかり元気を取り戻した妹に手を振った後、千種は真剣な面持ちで尋ねた。

 

「研究が難航してんだな?」

「うん……方向性は決まってるんだけどね、マルスアーマメントを参考にしつつ欠点を改善してる。ただ……」

 

 うんうんと唸って、シルキィは自らの腕を組む。

 

「キミも知っての通り、マルスアーマメントの蒸気解放は出力が高すぎて単体では使いものにならなかった。だからレギウスとの合体機能を組み込んでいたけど……当然ながら、毎回同じにするワケにはいかない」

「まぁ、だろうな。分断されたら使えねぇし」

「とはいえ蒸気解放は仮面ライダーにとって最大の切り札だ、オミットはできない。でも搭載すると通常のアーマメントと同程度の出力になるか、マルスアーマメントのように使用者に負担をかけてしまう……ここが問題なんだよ」

 

 この欠陥は、技術者である彼女にとって絶対に無視できない課題だった。

 特に失敗すれば変身者である千種の身に危険が迫る上、ダイナストの力がなければこれから先の戦いで生き抜く事はできないため、どうあっても解決する必要があるのだ。

 しかも相手は四傑伯。なおさら半端な調整などは許されない。

 

「既にこの街にヤツらがいる以上、猶予は残されていない……なんとしても完成させないといけないのに」

「……あんまり焦り過ぎんな。連中だって疲れ知らずじゃねぇんだ、今すぐ仕掛けて来るワケじゃ――」

 

 廊下を歩きながら話している二人、その途中で、千種は前方に見覚えのある姿を発見する。

 

「千種!」

「母さん、父さんも!」

 

 巴と武生だ。

 息子の姿を見るなり、巴はすぐに駆け出して力強く抱きしめた。

 

「まったくもうこの子は、どこに行っていたの……!」

「ちょ、苦しい苦しい! 俺より紬を心配しなよ! 今体育館にいるからよ!」

 

 シルキィの前でもあるからか、恥ずかしそうにじたばたと動く千種。

 一方の武生は、そのシルキィと千種を交互に見比べて、考え込むように顎をさすっている。

 

「父さん?」

「……いや、なんでもない。お前が無事で良かった、だが用事があるなら済ませて来い。その後体育館に来てくれ」

 

 そう言って千種の頭に手をポンと乗せた後、目に涙を浮かべている巴を連れ、体育館に向かって足を運ぶ。

 一体何だったのだろうと首を傾げつつも、二人は歩きながら話を再開した。

 

「実は今、開発にVの力を借りている」

「大丈夫なのか?」

「現状はね。というか、彼の蒸機技師としての技術力は凄まじいからね、そもそもマルスアーマメントを作ったのもVだ。紛れもなくワタシに匹敵する才能の持ち主だよ。しかしそうなると、明らかに不自然なんだ」

「不自然?」

「これほどの技量の持ち主が、今までどこで何をしていた? なぜ今になって手を貸す? X-ROSSの活動だって最近始まったワケじゃないのに、どうして今接触して来た?」

 

 あの仮面の男については、やはり謎ばかりだ。

 二人ともそう思い、しかし湧き出る疑問を抑える事ができなかった。

 

「そもそもギミックアンバーをどうやって作ったのか、それも不明だからね。これとドライバーの完成はバベッジ一族の目標であり、ワタシという超天才がようやく実現させたものなのに」

「お前の親か何かと知り合いだったんじゃねぇか?」

「それこそあり得ないさ。だったら最初から力になってくれているはずだろう、正体だって明かさない理由がないじゃないか」

「まぁな……それにあの戦い方。今思えばアレ、かなり変じゃねぇか? 何もないところから剣だの水だの生み出すなんて、まるで魔法だぜ。そんなの蒸機技師にだってできやしないだろ?」

「んー、ワタシも技術者だから全く不可能とまでは言い切りたくないけど、少なくとも今の技術で再現するのは確かに無理だね。本当に何者なんだろうな……」

 

 そうこうしている内に、千種とシルキィは仮の研究室として使っている理科室に到着。

 待機していたVと瑠璃羽、そしてタブレットとにらめっこしている浅黄に軽く会釈しつつ、千種は椅子に腰掛ける。

 

「で、俺は何をすりゃ良い?」

 

 問いかけると、Vは機甲虫が内蔵された簡素な透明のギミックアンバーと細いケーブルを差し出す。

 ケーブルは浅黄の持つタブレットと繋がっているようであった。

 

「とりあえず形にした試作品、それから測定用のケーブルです。この場で使ってみて下さい、その結果で改善策を練ります」

「分かった……けど、誰か来ないか見張っといてくれ」

 

 いきなり家族の内の誰かが扉を開けて転がり込んで来ないとも限らない。

 一応の警戒をしつつ、ダイナスティドライバーを装着した千種は、その小型機械をスロットに挿入する。

 だが。

 

「……ん? あれ?」

「反応しない、ですね?」

 

 音は鳴らずキーをひねっても何も起こらず、姿が変わる事もなかった。

 Vは困った様子で首をひねり、千種に返却を促す。

 

「浅黄さん、結果はどうでしたか」

「出力が高すぎてドライバーにセーフティロックがかかったぽい? これを外せたら通るだろうけど、今度はベルトが壊れそうだなぁ」

「ふぅむ……これは手詰まりですかねぇ」

 

 腕を組み、短く溜め息を吐くV。瑠璃羽も心配そうな様子で千種をチラチラと見やり、浅黄は変わらずタブレットを見つめている。

 その場の空気が諦観一色に染まりつつある中、シルキィは意を決した様子で頭を振った。

 

「方法はある」

「おや、そうですか。その手段とは?」

「ダイナスティドライバーそのものに手を加えよう、それしかないだろう」

 

 それを聞くなり、千種と瑠璃羽は驚いた様子で彼女の方を振り向く。

 

「えと、良いんですか? せっかく作ったものなのに……」

「今までの努力や経験が無駄になるワケじゃない、手をこまねいて死ぬ方がよっぽど無意味さ。次に敵が現れるまでになんとか間に合わせるよ」

 

 シルキィの表情に悔悟や焦燥の念はなく、逆に新しいものを造り出す事への意欲に燃えている。

 この様子なら心配はいらなさそうだと感じて、千種は僅かに笑みをこぼす。

 

「呼びつけて悪かったね助手くん、少し横になっておいた方が良い。休んでおいでよ」

「じゃあそうさせて貰うか……保健室のベッド空いてっかな」

 

 言いながら千種は退室し、保健室へと足を運ぶのであった。




 翌日、夜。

「ここが恐らくヤツらの潜伏先です。大勢の人間が避難しているようです、見張られているとも知らずに」

 巴たちの足跡を辿り続けて居場所を特定した刀利は、双眼鏡で校舎を眺めてそのように報告した。
 彼の隣にいるのは、四傑伯最強の男、ジル・ド・レスピナスである。

「でかした、トウリィ~。大手柄じゃないかぁ」
「いえ。では早速攻めますか?」
「焦んな焦んなぁ、抜け駆けしたらあの二人にどやされちまうよ。俺ちゃんが勝つけどね」

 ジルは舌をベロリと放りだしながら、歯を剥き出しにしてゲラゲラと笑い、夜の空を仰ぐ。

「楽しみだなァァァ~! 血も肉も内臓も啜り放題の攻城大虐殺がさァァァァァ~ヒャハハハハハァ~!!」
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