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ブラムストーク王国内、レジスタンスが拠点を構えるヴァリエテにて。
再び黒の貴族の侵攻が勃発し、この街に潜んでいた謎の人物・アルセーヌは、X-ROSSの面々が変身するXレイダーと共にすぐ対処に動いた。
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「ヤァッ!」
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今回の襲撃者は男爵・子爵級のマキナイトばかりで、戦力の整いつつあるレジスタンスにとってはまるで相手にならない存在。
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すぐさま鎮圧し、街に平穏が訪れる。
「ふぅ~……」
変身を解除すると、アルセーヌは大きく伸びをして息をつく。
その彼女の元に、住民の子どもたちが駆け寄っていった。
「お姉さんありがとー!」
「ふふっ、良いんですよ。この国の人々を守るのがわたくしの責務……いえ、使命ですので! それでは、アデュー!」
パチンッと仮面越しにウィンクした後、マントを翻して立ち去るアルセーヌ。
彼女の姿は、子どもたちにとって完全無欠のヒーローとして映っていた。
※ ※ ※ ※ ※
「とりあえず……これで外装の方は完成したよ、助手くん」
同じ頃、空久里学園の理科室にて。
作業を終えたシルキィは、千種にダイナスティドライバーを返却する。
今までと違い、バックル部にはカブトムシのシンボルが付いたメタリックレッドの外装が追加されており、全体的に重厚感を感じさせるデザインだ。
隣に立つソーマも、興味深そうに「ほう」と頷く。
「その名もダイナスティドライバー
「十分だよ、ありがとな」
千種はそう言い、強化されたドライバーを手に彼女に微笑みかける。
続いてシルキィは、マルスエレファントビートルのギミックアンバーを二人に見せた。
「それからもうひとつ、マルスアンバーの方をアップデートして付けた機能があるんだけど――」
シルキィの口から語られる、追加機能の内容。それを耳にして、千種もソーマも感嘆する。
と、その時だった。
校舎の外から凄まじい破壊音が轟き、三人ともハッと目を見開く。
もう、敵が来てしまったのだ。
「俺はとりあえず人目につかないところで変身する、ソーマは先に行ってくれ!」
「分かった!」
「じゃあ、ワタシは急いで完成させないとね……!」
男二人は散開し、シルキィは新型ギミックアンバー製作の作業に移る。
千種はすぐに1階まで降りて外へ出ると、ベルトを装着して赤いギミックアンバーを装填した。
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「変身!!」
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「ダイナストォォォーム!!」
その叫びに応じて現れるバイクに跨り、仮面ライダーダイナストは戦場へと駆け出した。
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「行くぜ……決着を付けてやる!」
千種が紬を無事に連れ出し、校舎にバリケードや見張りによる防衛体制を敷いてしばらくの後。
瑠璃羽は、避難して来た住民たちへの炊き出しの準備を手伝うため、食堂へと足を運ぼうとしていた。
調理の担当は才賀一家。しかし、いくら彼らでもたった四人で厨房を切り盛りするのは大変だろう。
その思いから、瑠璃羽は自ら補助をしようと申し出たのだ。
「瑠璃羽!」
そんな折、後ろの方から彼女を呼び止める声が聞こえてくる。
図書室で調べ物をしていた瑠璃羽の親友、貂だ。
「貂ちゃん、そんなに慌ててどうしたの?」
「分かったのよ! ジャーメインって名前をどこで見かけたのか、その正体も!」
「えっ!?」
貂の言葉に目を丸くし、瑠璃羽は完全に足を止めて話を聞く姿勢となった。
「私、小学生の頃までは磐戸市っていう場所で暮らしてたの。そこでは色んな神話とか伝説を纏めた本があって、空久里でもそれを見つけたのを思い出したのよ」
「じゃあ、そこにジャーメインさんの名前が?」
尋ねると、貂は眉をしかめて言い淀む。
一体どうしたのだろうと瑠璃羽が答えを待っていると、彼女は詳細を語り始めた。
「正確にはなんというか、その人の名前の『読み方』なんだけど」
「どういうこと?」
「なんて言えば良いのかな……私が知ってる方はフランス語での名前で、英語だと違う発音になるのよ。例えばバラが英語でローズ、フランス語だとロゼになるみたいに。ジャーメインは英語読みなの」
なるほど、と瑠璃羽は思う。
蝶も英語でバタフライだがフランス語ではパピヨンになるなど、虫の世界でも同じ事が言えるのだ。
そして、貂は肝心な部分について触れていく。
「ジャーメインのフランスでの読み方、そしてその正体は……」
貂の口から語られる真相。
それを聞いた瑠璃羽は、長い前髪でやや隠れた目を徐々に見開いた。
「じゃあ、もしかしてその人は」
「ええ。もしも私の想像通りだとしたら、きっと
そう貂が言い切る、その瞬間。
一枚のカードが床に突き刺さると同時に、二人の身に大きな異変が起きた。
照明が消えただけでなく、窓から僅かに漏れていた薄暮までも失せ、代わりに足元で鈍く光る五芒星が浮かび上がったのだ。
「な、なに!?」
「何なのこれ……黒い魔法陣、みたいな……」
驚きつつも嫌な予感を察知して、ふたりとも咄嗟にホッパーズバックルを手にしてその円の中から出ようとする。
すると、魔法陣から黒い煙が吐き出されると共に、二人の体が薄く透き通っていく。
「貂ちゃん!? にげ、逃げて……!!」
「瑠璃羽!! いや、いやぁ!? だ、誰か……」
当惑して体を見下ろす瑠璃羽が完全に消失したのを目の当たりにして、半ば錯乱気味に叫ぶ貂。
しかし彼女自身もその場から消えてしまい、照明の再点灯した廊下に静寂が訪れた。
「『悪魔』の正位置は裏切りと拘束を示す」
音の消えた空間に現れてバックルを拾い上げたのは、一人の仮面の男。
Vである。突き刺さったカードを引き抜くと、そこに描かれた悪魔のカードを懐に仕舞い、沈みゆく夕日を浴びながら仮面に手をかける。
「待ち望んでいましたよ、この時をね」
彼が仮面とフードを外すと、そこにあったのは愛煙卿スモーキー・ヴァーニーの顔であった。
※ ※ ※ ※ ※
同時刻。
日が沈んだ直後、住民たちが必死になって空久里学園に作ったバリケードが一撃の元に破壊される。
砂煙の舞う先を往くのは、四傑伯のギースレーリンとアルベリヒ。その後ろに、イヤーウィグ・ウォーキングスティック・ホースフライの三体のマキナイトが続く。
さらにその後には、他のマキナイトやデッドアントの軍団が押し寄せている。
「太陽は落ちた。これからが我らの時間だ」
「総員、人間どもを喰らい尽くせ」
二人の伯爵の威厳に満ちた号令と共に、怪人たちは一斉に侵攻を開始した。
「イヒャヒャヒャヒャヒャ~! さあ、俺様の銃の最初の獲物になるのは誰だ、誰だ誰だぁ~!! だアガッ」
大口を開け笑いながら飛んでいたホースフライ、その口内に一振りの剣が深々と突き刺さる。
出鼻を挫かれたマキナイト一行は驚いて空を仰ぎ、十字に斬り裂かれ消滅する虻騎士と双剣の戦士の姿を確認した。
仮面ライダーレギウス。たった一人で軍勢を前に立ち塞がり、剣を掲げる。
「そこまでだマキナイトども、この星を貴様らの好きにはさせない」
「そして戦うのは彼一人ではないわ」
続いて校舎から姿を見せたのは、ホッパーズバックルを装備した巴や武生に魔祓課の警察官たち。全員、戦闘の準備は整っていた。
すると、ゆらりとギースレーリンが前に出る。
「あぁー……やはり現れたな仮面ライダー、では私が直々に……」
そう言って拳を握り込んだところで、イヤーウィグとウォーキングスティックが静止をかけた。
「こいつ
「ダイナストとか言ったか、隠れとるんじゃろ!! 出てくるが良い!!」
ウォーキングスティックが挑発的に声を張り上げると、遠方から数度銃声が聞こえ、弾丸が真っ直ぐに飛んでくる。
しかしそれはイヤーウィグの刃によって弾かれ、阻まれた。
そうして間もなく、ダイナストームを駆り赤き魔王が登場する。その手に、ライフルモードのダイナシューターを携えて。
「流石に撃たれちゃくれねェか」
「フン、甘く見るな」
機体からサッと降り、ダイナストも身構える。
そんな彼の姿を――正確にはそのバイクを見ながら、武生は僅かに片眉を動かした。
「あのマシンは……」
頭の中に湧いた疑問を口に出そうとするが、今はそんな場合ではない事を思い返して、武生はSカードを手に取る。
巴を含む残りの面々もカードを抜き、それをリードした。
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並び立つSトルーパーの集団。今回は、全員が最初からクラスターフェーズだ。
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「なんとしても守り抜くぞ」
『了解!』
トルーパーたちは各自、バックルについたボタンを入力してENTERを押し、それぞれ武器を手にする。
ショットガンやライフルや大型のガトリング砲に、ナイフと三節棍、そして薙刀だ。
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「仮面ライダーたちに雑兵を近づけるな、俺たちで処理するんだ!」
武生の変身したガトリングを持つS-Α2からの指示を聞き、それに呼応して一斉に射撃が始まる。
絶え間ない弾丸の嵐はデッドアントたちを見る見る内に粉微塵にし、接近しようとしている他のマキナイトたちをも怯ませ、動きの止まった者たちには近接武器を持つトルーパーが斬りかかった。
四傑伯を倒すならば今、この状況が好機だ。そう思い、ダイナストとレギウスはまずハサミムシとナナフシの騎士と対峙する。
「まずはてめぇらからブッ倒す!」
「覚悟!」
そう言い放った仮面ライダーたちを、二人のマキナイトも臨戦態勢で応えた。
「カカッ、笑わせるなよ青二才ども!」
「屈服するのはお前らの方だ」
ウォーキングスティックが掌打をダイナストに向かって放ち、イヤーウィグはハサミの付いた右腕を伸ばして攻撃する。
ダイナストもレギウスも各々自身の武器で攻撃を受け流すものの、これによって左右に分断されてしまう。
さらにウォーキングスティックの猛攻は続き、掌を高速かつ連続で突き出して、ダイナストに反撃の隙を与えない。
自身の体得した拳法によって凄まじい威力の掌底を何度もいなし続けるが、拳法家として積んだ経験の差は歴然。次第に流し切れなくなり、腕に痛みが走り始めた。
「くっ!?」
変身後の見た目はベルト以外ほぼ変化していないが、ダイナスティドライバーのバージョンアップによって、現在のダイナストの性能は間違いなく向上している。
彼の扱う太極拳・形意拳・八卦掌の動作をより俊敏かつ円滑に行うためのチューニングがされ、千種自身も腕力と脚力に目覚ましい変化があるのを感じていた。
だがそれでも、拳法家としての練度の差だけは覆らない。
横薙ぎの掌打が放たれた直後、ダイナストは態勢を崩してよろめいてしまう。
「カカカァーッ! これで、まずはひとぉつ!」
その絶好のチャンスに、ウォーキングスティックは長い腕から間合いの読めない掌底を繰り出す。
狙いは胴。あわや直撃かと思われた、次の瞬間。
「ハァッ!!」
「ムッ!?」
薙刀の刃が後頭部目掛けて振り下ろされ、その殺気を感じ取ったウォーキングスティックが素早く身をかわす。
見れば、そこにいたのはペネトレイトグレイヴを持ったS-Α1、巴であった。
「今度はお嬢さんが相手かのう?」
「失礼な物言いね。私は二児の母よ」
地面に薙刀を突き刺しつつ、ゆらりと掌を前に出して構えを取る巴。
それに呼応するかのようにナナフシの騎士も掌を掲げ、突撃する。
リーチの長い破壊的な一撃は、しかし巴を捉える事なく受け流された。
「く!」
「カカッ! なるほどそこの小僧よりはマシじゃ。見事に練られた達人の功夫、それも暗殺者としての技の冴えを感じるぞ……しかし!」
ナナフシが伏せ、その長い脚を活かして凄まじい速度で草を刈り込むように地面スレスレを薙ぐ。
S-Α1は跳躍して避けるが、その動きを読んでいたウォーキングスティックは真下からかち上げるように連続で掌底を放つ。
「ぐうぅっ!?」
「元より功夫の年季は儂の方が上! マキナイト化によってフィジカルの差は言うに及ばず! そして何よりも、その拳には本物特有の『殺しの臭い』がしない! お主、暗殺のために拳を学びながら、一度も人を殺した事がないな!?」
「……!」
「カカッ、図星か! 殺しのできぬ暗殺者もどきで! 儂に敵うはずなかろうがァッ!」
連打を腕で弾き逸らしたS-Α1の後方へ跳躍し、その背に渾身の一撃を叩き込まんとするナナフシのマキナイト。
だがそこへ割り込むように、目の前をペネトレイトグレイヴが横切る。
「おっと!」
「俺を無視してんじゃねぇよジジイ」
見れば、薙刀を投擲したのはダイナストだった。
このままでは巴の命が危ないと思い、負傷した体に喝を入れて止めに入ったのだ。
尤もその攻撃は、ウォーキングスティックが咄嗟に後ろに下がった事で避けられたのだが。
「フン、若造が何を――」
苦し紛れの無意味な妨害だと嘲笑いながら、視線をダイナストに移した、その時。
ナナフシの老騎士の後頭部に、自動操縦状態のダイナストームの前輪タイヤが、鈍い音を立て思い切り直撃した。
「ヌオゥッ!?」
「そこだオラァッ!!」
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さらにそこへ挟み込むような形で、ダイナストの強烈なハイキックがウォーキングスティックの顔面に突き刺さり、頭部がメキメキとプレスされていく。
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「どうだ!」
「ぐがァッ……な、舐めるなァッ!」
しかしナナフシは音を上げず、左掌を全力で目の前の仮面ライダーに向かって振り被る。
それはダイナスト側も見切っており、すぐに飛び退いて攻撃を避けた。
「へっ! やれるワケねぇだろそんな見え見えの攻撃で!」
「大うつけが!! 殺るのはこれからじゃァッ!!」
言いながらウォーキングスティックは、空振りした自身の左手を掴んでそのままカチリと捻る。
するとその左腕が
さらに肩の付け根からぽっかりと空いた穴の中から、無数の鉄製の武器が、おもちゃ箱を引っ繰り返したように溢れ出る。
「なに!?」
「ハイッ! ハイッ! ハァイィヤーッ!」
長剣を振り回し、執拗にダイナストを追い詰めんとするウォーキングスティック。それでも魔王は全て回避し凌ぐ。
ならばとばかりにナナフシが剣を握る手を僅かに緩めると、剣の柄となっている左手の指がロープのように伸び出て、転がっている流星錘や狼牙棒などの武器を引っ掛けて雨霰と投げ飛ばす。
流石に斬撃から逃れながらその投擲攻撃を避ける事はできず、ダイナストの胸に重い錘が叩き込まれ、動きが止まったところに斬撃が襲いかかった。
「ぐあっ!」
「ただの暗殺拳の使い手と思ったか? 甘いわ戯けども! 武術とは拳法のみに非ず、兵器術も練りあげてこその! 美しく人を殺す業を鍛えてこその! 殺人功夫よォッ!」
「イカレジジイが……!」
ケタケタと笑いながら誇らしげに語るウォーキングスティックを睨み、ダイナストは銃を構える。
だがそれも、剣で掬い上げた後に鉄砲玉めいた勢いで弾き出された鉄鞭を腕に受け、取り落としてしまった。
このままではやられてしまうかも知れない。そう考えたダイナストであったが、ふとウォーキングスティックの動きに不自然なものを読み取る。
一瞬、僅かだが後方から近づいているS-Α1の方へ首を傾け、注意を払っていた。つまり飽くまでも狙いは巴、ダイナストを攻撃しているのは足止めのためなのだ。
「貴様が先に死ねィッ!」
「ヤバい! かあ……」
心配のあまり、思わず母と呼びそうになってしまう千種。
無数の武器がS-Α1へ殺到し、降り注ぐ――その只中にいながら、彼女は平然とウォーキングスティックに向かって歩く。
そして進路から飛んで来る武器を掴み取っては他の武器を弾き返し、砕ければ投げ捨て別のものを使って防ぎ、前へ前へと進み続けた。
「なっ……ぁ!?」
流れる水のように滑らかな、洗練された拳法家の達人の動き。
一気に距離を詰めたS-Α1は、そのまま青竜刀でウォーキングスティックの右手首に切り込む。
「ぐっ!?」
「確かにあなたの拳法は熟達している。拳仙の域に近い程に。そこだけは認めるわ、でもね」
「ハァッ!!」
手首を斬られ剣を取り落としてしまう老騎士であったが、彼は怯む事なく左肩口の発射口から再び無数の武器を吐き出した。
だがその至近距離からでも巴は全ての武器をその身一つで避け、無傷で逃れる。
なぜ、なぜ当たらない。
そんな焦りが行動に表れ、S-Α1に視線を集中させてしまっていたウォーキングスティックは、ダイナストによる側頭部への蹴りを避ける事ができなかった。
「グガ!? な、なんじゃと!?」
「生憎と私、人殺しを
「なにを……!」
「それに。純粋な拳法家より、バカみたいに殺気丸出しで武器を使う相手の方がずっと慣れてるわ」
言いながら、S-Α1はダイナストと共に肩を並べて構え、クイクイと手招きをする。
完全な挑発行為。それを見たウォーキングスティックは拳を握り込んで震わせ、自走してきた左腕を再装着して飛びかかった。
「儂の磨いた拳法を……功夫を、侮辱するつもりかァァァッ!!」
先刻と変わらない高速の掌底連打。
二人は同時に散開してその攻撃を避け、逆にそれぞれ腕を蹴りつけた。
「オラァッ!」
「ハアァッ!」
ベキリ、とウォーキングスティックの腕が圧し折れる。しかしそこはマキナイト、すぐに再生が始まり、そのダメージをものともせずその場で独楽のように高速回転して攻撃する。
しかしその苦し紛れの反撃も二人は読み、ダイナストは低く伏せて銃で両膝を狙い撃ち、S-Α1は跳躍して頭の正中線に踵落としを喰らわせた。
「ば、バカな……なぜだ!? なぜ、儂が……拳法でも押し負けて……!?」
「答えは単純だぜ」
「ええ、とってもシンプルな話」
よろめく老暗殺者を前に、ダイナストは三度ホーングリップを倒し、S-Α1は三度バックルのスリットにカードを通す。
「戦いの最中に我を忘れるようなヤツにはなぁ!」
「自己満足の殺人を誇りとするあなたには……!」
《
《マックスチャージ》
『功夫が足りないッ!!』
二人の戦士の鋭い指摘を聞いてウォーキングスティックは逆上し、再び掌を伸ばして攻撃する。
瞬間、S-Α1は自らの肘と膝で左腕を挟み込んで砕き、ダイナストも手刀を繰り出して右腕を両断。
悲鳴を上げるマキナイトに、トドメの飛び蹴りを胴へと叩き込んだ。
「道を開けろ
《ライノビートル・ダイナスティクラッシュ!!》
《セキュリティ・マックスブレイク》
『ハァァァーッ!!』
二つの赤い閃光が交差し、攻撃を受けたウォーキングスティックは地に倒れ、徐々に灰化していく。
「おのぉ……れ……ぇぇぇぇぇ!!」
《
《
怨嗟の断末魔の後、灰となりつつあるその体は爆散し、完全に消滅した。
紛れもなく強敵だった。勝てた事に安堵しつつも、ダイナストは次なる戦いのために駆け出す。
「……ねぇ」
だが、その背を巴が呼び止める。
「あなた、千種でしょ」
「え……!?」
「答えなくて良いし隠す必要はないわ、私の目は誤魔化せない。拳法の動きを見てすぐ分かった」
戦いの中だというのにそこまで見抜かれていたのか。
確実に怒られるだろうと思って身構えてしまう千種であったが、巴は彼に近づくと、そっとその体を抱き寄せた。
「いつから、どうしてこんなことをしてるのか、今は聞かないでおくわ。私にだって秘密にしてることはある。だから責めはしないけど、この戦いが終わったらみんなで話し合いましょう。分かった?」
「……ごめん、黙ってて」
「よし。それから、これを持って行きなさい」
そう言いながら手渡したのは、グラスホッパーギミックアンバー。XレイダーやSトルーパーの装備として、ホルダーにマウントされているものだ。
ダイナストはそれを大事そうに握った後、自分のドライバーに保持して頷く。
「ありがとう。行ってきます」
「行ってらっしゃい」
走り出した我が子の背を見送り、巴は一度溜め息をついて、再び薙刀を手に戦場を翔ける。
「本当に、知らない内に大きくなるものなのね。子供って」
ダイナスト・S-Α1がウォーキングスティックと戦っているのと時を同じくして。
レギウスの方も、イヤーウィグ・マキナイトと交戦していた。
「ハァッ!」
「フン」
双剣で斬りかかるレギウスに対し、イヤーウィグは右腕の甲殻で受けた後、その腕を鞭のように振るって胸の装甲を叩く。
それで怯んだところに、さらにハサミの刃がレギウスの胸へ突き立てられた。
「ぐ!?」
「この程度か? 物足りないぞ、もっと! 俺に暴力を楽しませてくれよ!」
ヒュルッ、と風を切る音を立ててハサミムシの刃が迫る。
レギウスは氷壁を眼前に生み出して防御を試みるが、精密に動く伸腕は即座に回り込んで背面を切った。
「があっ!!」
「あぁ楽しい……他人に暴力を振るう機会とそのための力があるっていうのは、それだけで最高の気分になれる!」
氷壁を飛び越え、再び鞭のように乱打を浴びせるイヤーウィグ。
トリッキーかつ高威力の連続攻撃を前に、レギウスは防戦一方となってしまう。
すると、危機を察知したSトルーパーの面々が、援護のために銃口をイヤーウィグへ向けた。
「我々で彼を守るんだ!」
「引っ込んでろザコ共が、お前たちは養分にしかならないんだからよ」
そう言ってハサミの付いた腕を振るうと、切っ先がいとも容易くトルーパー一人の喉に深く突き刺さり、その刃先からどんどん血を吸い取っていく。
「う、あ……く……」
「ふぅん、味はまぁまぁだな」
変身が解除され、警官の一人が干からびて土気色の肌となり、地面に崩れ落ちる。
その様子を目の当たりにしていたソーマは、仮面の奥で両目を見開き歯を軋ませた。
「……ここでも繰り返すのか、同じ星の人間同士で! 命の喰い合いを! 自ら望むのか!」
「何を今更! 強者が弱者を食い物にする、俺が生まれる前から元々そういう条理で成り立っている! 当然の話だろう、住む星が違おうと何も変わらない!」
「たとえこの世の条理が許しても、僕はお前を絶対に許さん!!」
怒りのままに叫び、斬りかかるレギウス。
変異した刀利はくつくつと笑いながら避け、再びしなる伸腕と斬撃を浴びせた。
「しまっ……!?」
そうしてよろめいた彼へと、イヤーウィグがトドメとばかりに大きく腕を振り上げた、次の瞬間。
「うぐっ!?」
そのハサミムシの騎士の方に向かってスポットライトのように光が差し込み、苦しみの声があがった。
見れば、その光源である校舎の屋上には、武生の変身するS-Α2がいる。紫外線照射装置を用意し、助けに入ったのだ。
「そこまでだ、小僧」
《
言いながら武生は、ライトを操作しつつ脚に照準を定めて狙撃し、イヤーウィグの攻撃を妨害する。
「な、なんの光だこれは!! う、動きが……治りも鈍く!?」
「今なら……!」
「俺に近付くな!」
焦ったイヤーウィグは、正面から真っ直ぐにハサミの付いた腕を伸ばし、攻撃。
それが仇となった。
レギウスは剣を交差させて防いだ瞬間、その右腕を凍結させたのだ。
「はっ!?」
「見誤ったな。お前の負けだ」
《
言いながらレギウスはキーを捻り、徐々に接近しつつハンガーを開閉する。
必殺技が来る。それを悟って、イヤーウィグは凍った右腕を自ら砕き、ハサミの片刃を握り締めた。
「まだだ! 喰らえェェェッ!」
その手に握った鋭い刃を、疾走してナイフのように突き立てるハサミムシのマキナイト。
レギウスはそれを、青い光と冷気を纏う拳で左腕ごと木っ端微塵に破壊する。
さらにイヤーウィグ自身も、冷気を浴びて徐々に凍りついていく。
《スタッグビートル・リベリオンインパクト!》
「いや、だ……俺はまだ、暴れ足りない……」
「君のお遊びに付き合う暇などない」
《
無慈悲に告げると同時に、裏拳の一撃で波佐見 刀利の五体は粉砕されて地に落ちる。
強力な敵を倒すことはできたが、まだ状況は変わっていない。真に倒すべき相手は、すぐそこまで迫っているのだ。
レギウスがそのように考えていると、ダイナストが颯爽と彼の元に駆けつけた。
「おい大丈夫か!」
「チグ……ダイナストか、こっちは平気だ」
「よし。じゃあ行くぞ、次は四傑伯どもを潰す!」
二人が首肯し合って敵陣に向かって走り出そうとした、その時。
「潰すだと? 私を?」
「あまり図に乗るなよ、人間」
彼らの前に、新たに二つの影が迫る。
鉄道卿ポーダ・ギースレーリンと、斬首卿アルベリヒ・パウルであった。
ついに出陣したかと思い、武器を手に臨戦態勢となるダイナストとレギウス。
だがギースレーリンはそんな二人を見て鼻を鳴らし、パチンと指を弾いた。
直後、空久里学園上空に霧が立ち込め、そこから六度ほど
「んなっ……!?」
「バカな、これは!!」
砂煙に包まれていても、ダイナストとレギウスにはその正体が分かった。
ギースレーリンが所有する、巨大ムカデの機関車だ。
鎌首をもたげ、ムカデたちは人間を見下ろし咆哮する。その光景は、Sトルーパーたちを狼狽させるのに十分な威力を持っていた。
さらに。
「BOAアルキュオネ、アクティベート」
「BOAゴースト、アクティベート!」
ギースレーリンとアルベリヒが左腕を天に掲げ、蒸気に包まれながらその姿を変容させる。
そうして現れた怪人の一体は、四肢に水色の小さな煙突のようなものを無数に生やし、分厚い装甲に包まれた巨躯と牙を生やしたリュウジンオオムカデのマキナイト、センチピード・マキナイト・アルキュオネ。
もう一体は、枯葉色のボロボロな外套を纏い大鎌を肩で担ぐ、死神のような様相のパラドックスカレハカマキリのマキナイト、マンティス・マキナイト・ゴーストだ。
「これら全てを相手にした上で……」
「貴様らは本当に我々を倒せるのか」
ペキペキと拳を鳴らすアルキュオネと、鎌を振り被るゴースト。
かつてない絶望と脅威が、圧倒的な暴威が、人々に叩きつけられようとしていた。