空久里学園を襲撃しに来たマキナイトたちを退けるべく、ダイナストたちは戦い続けていた。
だが、先行していたイヤーウィグやウォーキングスティックがやられると、状況は大きく変わってしまう。
巨大なムカデの機関車を数体伴い、ギースレーリンとアルベリヒが襲来したのだ。
「四傑伯が二人!」
「同時に攻めて来るとは……!」
ダイナストとレギウス、二人の目の前にいるのはリュウジンオオムカデのマキナイトと化したポーダ・ギースレーリンと、パラドクスカレハカマキリのマキナイトとなったアルベリヒ・パウル。
ムカデの巨女、センチピード・アルキュオネに注意を払いながら、ダイナストは隣に立つクワガタの戦士に声をかけた。
「レギウス、俺はあのムカデ女を倒す。お前はカマキリの方を頼む」
「ああ、分かった。死ぬなよ」
「当たり前だ!」
腕と腕をトンと重ね合い、二人は同時に駆け出す。
それを合図としたかのように、校舎の屋上に設置された照明が動き、アルキュオネを照らした。
だが、彼女は一瞬だけ身じろぎしたものの、すぐにダイナストに立ち向かっていく。
「チッ! やっぱUVライトは効かねぇのか!」
「その不可思議な光の事は聞いている……しかし、そんなものは上位のマキナイトには通じない。だが油断もしない、お前には確実に死んで貰う」
ギチギチと音が聞こえるほどに拳を強く握り締め、四肢についた無数のパイプから蒸気を噴きながら、アルキュオネが突撃して来る。
風を切り裂く音と共に、横薙ぎに振り抜かれる拳打。ダイナストはそれを、一歩後ろに下がって回避した。
しかし彼女の猛攻は止まらない。右フック、左ストレート、前蹴り、ローキック。その連撃のことごとくを、魔王は避けてのける。
防御はしない。それはアルキュオネが、体格や見た目からパワータイプであるのが明らかだからだ。一撃でも喰らえば、マルスアーマメントの装甲であろうと大きなダメージを負うだろう。
「スピードはこっちの方が上だぜ!」
「フン……そのようだな? しかし、そもそもこんな悠長な事をしている時間があるとでも?」
アルキュオネがそう言うのと同時に、ダイナストの背後で悲鳴が上がる。
見れば、Sトルーパーたちがムカデ機関車の激しい攻勢に押され、追い詰められていた。
そもそもモノレールを改造して無理矢理作られた巨大ムカデでさえ、倒すのにダイナストやレギウスといった総力を集める必要があったため、この状況も必然ではある。
このままでは味方は全滅、校舎も破壊され避難した住民も食われてしまうだろう。
「余所見か?」
そんな事をダイナストが考えていると、アルキュオネが再び拳を突き出して来る。
すかさず掌打で受け流そうとするも捌き切れず、その一撃が胸の装甲へと命中した。
「ぐっ!?」
完全に流せなかったとはいえ威力をある程度殺したにも関わらず、殴打された装甲は陥没し、激痛が走る。
スピードは紛れもなくダイナストの方が上。だが、このまま無尽蔵の体力と圧倒的な腕力で攻め続けられれば、不利なのは普通の人間である千種の方だ。
「理解できただろう? お前らは今まで運が良かっただけだ。ただ頑丈な鎧を纏っただけの人間如きに、生命を超越した存在たるマキナイトが敗れるはずがないのだから」
「チィッ!!」
続け様にハンマーのような威力と勢いで振り抜かれるミドルキック。
今度こそはと回避に動こうとするも、ダイナストは突然に自分の両腕が痺れるのを感じた。
狼狽しつつも腕を交差させて凌ぎ、吹き飛ばされながら九死に一生を得る。
そして、アルキュオネの両腕・両脚から噴き出す蒸気が毒々しい色に変化している事を察知し、仮面の奥で目を見開いた。
「この蒸気、まさか……毒!?」
「ようやく効いてきたか。この程度の事に気づかない凡俗が王を名乗るなど、おこがましいんだよ」
ムカデの騎士が自らの手を開いて前に掲げると、その手中に鞭が一本ずつ握られる。
鞭には無数の鉄のトゲが付いており、毒の蒸気によって湿り気を帯びているのが見えた。
このトゲに刺されてしまえば、さらに症状が進行してしまうかも知れない。
「潔く死ね」
考える間もなくアルキュオネがトゲの鞭を振り回し、ムカデそのもののように変則的な動きでうねり這うそれらが、左右から襲いかかる。
体の痺れのせいなのか、ダイナストはその場から動かない。そしてその両腕に、トゲつきの鞭が絡みつく。
「獲った!」
直後、アルキュオネは自らの両腕から蒸気を発散しつつ、あらん限りの力を込める。
すると、その剛力で引かれたダイナストの身体が浮かび上がり、後ろにいる巨大ムカデにその体が叩きつけられた。
「うぐっ!?」
「もう一度ォォォ!」
今度は真上に引っ張り上げた後、そのまま地面に向かって落とす。
ダイナストも腕の噴射口から炎を噴いて抵抗しようとしているものの、毒の影響なのか小さな火が鞭を焼くだけに留まっている。
ギースレーリンもその火を弱々しい悪足掻きと見て鼻で笑い、鞭を操って再び地面に投げ飛ばす。
「ふん!」
「がっ……!?」
「このままトドメを刺してやる、イザベラの報いを受けろ!」
アルキュオネはそう言って、最後のダメ押しとばかりに鞭を握る手に自らの全力を注ぎ、思い切り引っ張る。
瞬間、ダイナストの腕の噴射口から、先程までとは異なる膨大な炎が噴き上がった。
「死ぬのはテメェだ!」
すると、両腕を拘束した鉄の鞭が焼き切れ、全力で引っ張ろうとしていたアルキュオネは体勢を崩してズルリと転倒。
その隙を突いて、ダイナストの飛び蹴りが顔面を直撃する。
「な、んだと!?」
「毎度毎度面倒臭ェヤツらだぜ……マキナイトってのは、よぉ!」
さらにもう一度キックが、間髪入れずに拳の連打がムカデ騎士の顔面を捉えた。
ダイナストは機会を待っていたのだ。アルキュオネが命を奪うべく全力を投じる、その一瞬を。
そしてその全霊の一撃が来る時に備え、毒で弱体化したように見せた上で、規模を縮小しつつも威力の強い火で予め鞭を切断する用意をしていたのだ。
「こいつ……ふざけるな!!」
切れた鞭を捨て、ダイナストの視界を覆い尽くす程の毒蒸気を発するアルキュオネ。
多量に吸い込んでしまえば今度こそ完全に動けなくなってしまう、そう思った彼はホルダーからひとつのギミックアンバーを手に取った。
「イチかバチか……!」
徐々に蒸気の中に包まれながら、ダイナストはマルスアンバーを抜き取ってそれを装填する。
《
「アーマーコンバート!」
《
全身が真鍮の繭に覆われ、それを破ってひとつの影が空高く跳躍した。
そこにいたのは、トノサマバッタを彷彿とさせる赤色の丸い瞳と二本の触覚と、背中にある二つの赤い薄翅と両足の踵についたバネが特徴的な緑色の装甲の戦士。
《
「オラァッ!!」
《
仮面ライダーダイナスト ホッパーアーマメント。
彼が地上に降り立つと同時に熱風が吹き、毒霧を散らしてしまう。
「なに!?」
驚きつつも、アルキュオネは再び蒸気を噴いて妨害を試みる。
すると、背中の翅がふわりと浮かび、先程と同様に熱を伴う突風が蒸気を消し飛ばした。
さらにダイナストは踵のバネを活かして前に跳躍し、掌底を力強く鳩尾に叩き込む。
「く、バカな……!?」
「どうやらお前にはこっちの方が相性が良いらしいな?」
ホッパーアーマメントの特性、それは高い脚力と熱波の発生。
突風はアルキュオネの力を無力化するだけでなく、高熱を帯びているため怯ませて動きを止める事ができ、パワータイプのマルスアーマメントよりも優位に立ち回る事ができるのだ。
「……調子に乗るなァ!!」
アルキュオネは歯を軋ませ、股間目掛けて蹴りを放つ。
しかしそれは身軽なバッタとなったダイナストの跳躍で避けられ、振り抜いた足の上に着地されるという醜態を晒してしまう。
挙げ句、銃撃の連発と風を切るような鋭い蹴りがアルキュオネの鼻柱に直撃した。
「うが!?」
「マルスの時点で俺の方が速かったんだぜ! そんな見え見えのノロい攻撃、当たるワケねぇだろうが!」
マシンガンのようにスピーディなキックの連発。
逃げ場のないアルキュオネの顔面にその全ての蹴撃が命中し、よろめかせて隙を作る事に成功した。
それを確認して、ダイナストは地に降り立ってドライバーを操作する。
「これで終わらせてやる!」
《
音声が鳴ると共に両足へ緑色の光が集中し、魔王はバネを使って真っ直ぐに跳躍。
そして勢いのまま熱風を纏い、両足で何度も何度もアルキュオネの胴に蹴りを食らわせる。
《グラスホッパー・ダイナスティクラッシュ!!》
「喰らいやがれ!」
最後にムカデ騎士の胸を蹴って宙返りすると、より激しい熱波を帯びながら再び両足を突き出し、ドロップキックを放つ。
「ハァァァーッ!」
《
連続蹴りによって熱を直接叩き込まれて溶解しつつあったアルキュオネの胴部の装甲はその一撃で大破し、彼女自身も必殺のキックによって吹き飛んでいく。
「やったか!?」
着地したダイナストは、そう言いながら倒れたセンチピード・アルキュオネに目を向ける。
仰向けに転倒していた彼女は、しかしすぐに立ち上がって飛びかかって来た。
「うおっ!?」
「……クソ人間が……どこまでも、忌々しい……!!」
咄嗟に背後へジャンプした事により、ダイナストは回避に成功する。
だが、先程の一撃によって大破したはずの装甲は既に再生を始めており、成功したというのにダメージが然程大きくないという事を物語っていた。
「マジか、まだ動けんのかよ!?」
「当たり前だ!! その程度の力でこの私を倒せると思っていたのか!?」
それを聞くと、千種は仮面の奥でクッと歯を食いしばる。
ホッパーアーマメントは確かにスピード面においてマルスアーマメントを凌駕しているが、パワーにおいてはそうではない。
この欠点を補うための手数だったのだが、それもアルキュオネには通じていなかった。
しかも、怒りに駆られた彼女はダイナストにとって想定外の行動に出る。
「貴様らを始末してからにするつもりだったが、もういい! 今すぐ全部破壊してやる!」
アルキュオネの頭部の触覚が蠢き、それに従ってムカデ車両がSトルーパーを無視して校舎に狙いを定め始めたのだ。
恐らく電波のようなものを発して命令を与えているのだろう。それを悟って、ダイナストは即座に踵を返そうとした。
だが、その前にアルキュオネが再生した鞭を振るい、妨害に走る。
「や……やめろォォォ!!」
紬や瑠璃羽、シルキィに貂。他にも顔馴染みの空久里の住民たちが避難しているその場所に、巨大ムカデが迫っていく――。
時を遡り、同じく戦場と化した空久里学園にて。
戦いが始まるなり、レギウスは眼前のマンティス・マキナイト・ゴーストに、双剣で素早く斬りかかった。
「ハッ!」
「フン」
冷気を発する剣を前に、マンティス・ゴーストは大鎌の石突で反撃して食い止める。
ならば、とレギウスは地面から尖った氷柱を左右と後ろから囲む形で生み出し、さらに無数の氷の礫を飛ばす。
すると今度は鎌から左手だけを離し、腕についた小さな鎌を振り上げる。そして微細な振動を帯びているその刃は、それら全てを容易く両断した。
「……高周波の刃! 斬り裂き魔と同じ能力を持っているのか!」
かつてブラムストーク王国に出没したキリギリスの騎士、カティディッド・マキナイト。
音波を発する事により刃を振動させ、あらゆるものを両断するという力を持っていた相手だ。
手強い相手ではあったが、所詮は既に倒した能力。対策もできる以上は然程の脅威でもないはずだ、とレギウスは思う。
だが次の一言で、彼は衝撃を受ける事になる。
「能力だと? 一体何の話だ。こんなもの、能力どころか技ですらもない」
カティディッドが自らの能力を駆使して編み出した厄介な技を、この男はなんでもないただの攻撃手段のひとつとして使えるというのだ。
その高い破壊力を知っているだけに、レギウスにとってそれは驚くべき事実に聞こえた。
「斬り裂き魔などというつまらん小童と一緒にしてくれるなよ。儂は四傑伯……斬首卿のアルベリヒなのだからな!」
再び両手で大鎌を持ち、それを振るうゴースト。
レギウスは後ろに下がりながら分厚い氷壁を生み出し、攻撃を防ごうと画策する。
だが、その直後。氷の壁を
「なに!?」
「ムゥン!!」
驚く間に、鎌の一振りが胸を直撃し、装甲に火花が散る。
よろめきながらも、レギウスは剣を構え直して冷静に状況の分析を始めた。
「自分の体を透過して壁を越えられるのか……まさしく
「左様。貴様は防御に優れた力を持つようだが、いかなる防壁をも通り抜ける能力と長年磨き抜いた我が武技の前では、全て無意味だ」
大鎌を振り上げ、素早く突撃するゴースト。
氷壁が無意味ならと、今度は双剣を氷の刃で覆って延長し、レギウスもまた斬りかかった。
だがその肉迫の瞬間に、カレハカマキリの騎士は再び自身を半透明に変え攻撃をすり抜ける。
「うっ!?」
「ムゥンッ!」
そして意図せず背を向けてしまって無防備なところへ、大鎌の一撃が直撃。
振り向き様に振った剣も、苦し紛れと嘲笑うかのように透過の力でかわされてしまった。
「こいつ……無敵か!?」
「左様。儂ら四傑伯を倒せる人間など存在せぬ」
ゴーストはそう肯定して大鎌を振り、レギウスを吹き飛ばす。
しかし、疑問を口に出した側であるソーマの方は、本当に無敵であるなどとは考えていなかった。
なぜなら、本当に無敵であるならばアルベリヒの行動に不可解な部分があるからだ。
「……確かさっきの攻撃は……」
呟きながら、今度はクワガタのアゴを模した巨大なハサミを形成し、マンティス・ゴーストに左右から仕掛けつつ自分も剣を手に正面から飛び出す。
レギウスが氷柱と氷の礫を放った時は、透過の能力は使わず高周波の刃で攻撃を防いでいた。
ならば挟み撃ちや複数方向からの攻撃であれば、ゴーストの力を使えないのではないか、と判断したのだ。
「無駄だ無駄だ!」
だが、ローブを纏ったカマキリのマキナイトはレギウスの方に疾駆して透明化し、直撃を避けた。
続いて先程と同様、そのレギウスの背中に鎌の刃が振り抜かれようとした、次の瞬間。
「む!?」
構えたままの鎌が微動だにせず、振り下ろせないまま止まってしまう。
後ろに視線をやってみれば、氷柱が生み出されて鎌の柄が凍結しており、全く動かせなくなっていた。
レギウスが双剣を地面に突き立て、氷の力を行使したのだ。
「来ると分かっていれば防ぐのは難しい話じゃない」
「……小童が。これで儂を捕まえたつもりか?」
「ああ。僕はお前を倒せる」
その一言を聞いた直後、マンティス・ゴーストは目を見開き怒りの雄叫びを上げ、氷を引き抜くかのように力尽くで砕き、鎌を振り下ろす。
「人間如きめが! この儂を倒せるワケがないだろうが!」
大鎌が頭頂部目掛けて上段から振り下ろされ、命中するかに思われたが、その寸前にレギウスは剣を交差させ逆に思い切り前へと踏み出した。
驚いたゴーストは思わず透明となって衝突を避けるものの、直後にレギウスが双剣の刃でその背を薙ぐ。マンティス・ゴーストが振り向くよりも前に。
そして、その斬撃は
「ぬぅ……!」
「分かったんだよ。その力を発動する場合……視界に映っているものにしか通り抜けできないんだろう? だから腕の鎌と大鎌を使い分けている。視界の中にあれば透明化で無理矢理前に押し通って、視界外なら小回りの利く腕の鎌で切断しているんだ」
レギウスの指摘に、ゴーストは言葉を詰まらせる。図星を突かれたのだ。
先程鎌についていた氷も、本来であれば透過して外す事もできた。
そうしなかったのは、視線を外してしまうと敵の攻撃を受けてしまう危険があるからだ。
それを見抜いていたからこそ、レギウスは挑発して判断力を損なわせ、自分の思い通りの展開に運んだのである。
「良い気になるなよ小童! 弱点が分かったとて、貴様の不利に変わりはない! そして既に一撃受けた以上! 次に儂が隙を見せる事は断じてないのだからな!」
「どうかな?」
再び挑発するレギウス。平静を欠いたマンティス・ゴーストは、その言葉に乗せられ飛びかからんとする。
しかし、その身体は後ろから羽交い締めにでもされたかのように少しも動かなかった。
「な!? こ、これは!?」
首の後ろと背中から踵にかけて感じる冷気。根を張ったように動かない足と、後ろを振り返ろうにもほとんど動かない首。
カレハカマキリの伯爵は理解した。先頃のレギウスの斬撃は、この状況を作るためにあったのだという事を。
自分の体を、しかも背中を凍りつかされては透明化で逃れられない。しかも足を見れないように氷結を首にまで到達させている。
さらに動けなくなっている間に、レギウスはドライバーを操作して次なる手を打っていた。
《
「セヤァァァッ!!」
冷気を纏いながらのキックが、大鎌ごとマンティス・マキナイト・ゴーストの腹に炸裂。
《
必殺の一撃を喰らったマンティス・ゴーストのローブの中で、凍りついた身体が半ばで折れるような音が聞こえた。
下半身がローブからどさりと地面に落ちて砕け、大鎌も使い物にならない程に壊れる。
だが。
勝利を確信したレギウスの右足を、亡霊のカマキリの左手が掴んだ。
「なに!?」
「ヌゥン!!」
鎌を振るのと同じ要領でクワガタの戦士を地面に叩きつけ、両腕の高周波の鎌が襲いかかる。
間一髪立ち上がって飛び下がるが、避け切れず右腕に切り傷ができて出血してしまった。
「く……!?」
「カカカカカッ! 勝ったと思ったか? 甘いわ戯けが。貴様一人に討ち取れる程、儂の命は安くなどない」
「どういうことだ……なぜ、生きて……!?」
マンティス・ゴーストの身体を改めて確認し、レギウスはハッと目を見開く。
下半身から血も何も出ていない。そればかりか、全開となったローブの中には最初から何もなかったかのようで、上半身から下は円盤状の器官と繋がってふよふよと浮いている。
あの下半身は、分離しても問題ないダミーだったのだ。
そして老騎士は最後のトドメを刺そうと接近するが、その寸前に周囲のムカデ機関車たちの動きが変わった事に気付く。
「あやつらは本丸を攻め始めたか。丁度良い、儂も行くか……」
「マズい、このままでは全滅してしまうかも知れない……!」
「かも知れない、ではない。尽く死ぬのだ、貴様ら人間は」
「ま、待て!」
浮遊しながらその場を離れるマンティス・ゴーストに対し、レギウスは剣を構え直しながら呼び止める。
だがゴーストは、興味を失った様子で鼻を鳴らした。
「貴様の手の内は全て分かった、もう勝てんよ。
先刻の自分の言葉をそのまま返され、今度はレギウスの方が言葉を詰まらせる事となる。
それでも諦めずに戦うしかないのだが、そんな彼の前にひとつの影が転がり込んだ。
「ぐあっ!?」
「ダイナスト!?」
それはアルキュオネの鞭で打たれ、吹き飛ばされたダイナストだった。
彼もまた強大な力を持つ四傑伯を前に、追い詰められている。
――
「へぇ~、面白いことになってんじゃん」
二人の前に立ち塞がるアルキュオネの背後から、新たな敵影が戦場に現れた。
「まさ、か」
「ウソだろオイ……!?」
高級白スーツにキリン柄のネクタイという出で立ちの、端正な顔立ちの偉丈夫。
遠目にはただの人間にしか見えないが、身に纏う異常な空気と狂気めいた表情は隠し切れない。何より、この場にマキナイト側として現れた以上、名乗られずともダイナストたちには正体が分かる。
青髯卿ジル・ド・レスピナス。唇を裂けんばかりに釣り上げて、人間たちを見下ろし歩いてくる。
「俺チャンも混ぜてよ」
そう言って歯茎を剥き出しにして笑った後、彼は左手甲のサソリの紋章を頭上に掲げる。
「BOAエンペラー、アクティベートぉぉぉ~ン♡」
全身が禍々しく赤黒い蒸気に包まれ、内部で姿が変わっていく。
そうして蒸気が晴れた後に現れたのは、両手が巨大なハサミとなっている、後頭部から鋭利な針の付いたサソリの尾のようなものを生やした鈍色の騎士。
「さぁ、ブッ殺しタイムだァァァーヒャヒャヒャヒャヒャハハハハハーッ!!」
全身が重厚な鎧のようになっているその怪人は、ダイオウサソリのマキナイト、スコーピオン・マキナイト・エンペラー。
人間たちの未来に、絶望という巨大な壁が立ち塞がる――。
同じ頃。
Sトルーパーとなった警官たちは、巨大ムカデたちを前に膝をつき、次々に倒れていた。
「く……このままじゃ……」
「もう、終わりなのか? 俺たちはもう、お終いなのか!?」
まだ意識を保っている面々も、既に敗色濃厚と見て諦め始めている。
そしてムカデの内の一体が校舎へと体当たりを仕掛けようとした、次の瞬間。
「ギャアアアーッ!?」
屋上から巨大な火の玉が放たれ、ムカデの頭を焼いて怯ませた。
よく目を凝らせば、そこにはいくつもの『杖』のようなものが並んでおり、そこから火球が放たれているのが分かる。
さらに剣や杯から出た水、岩に変化するコインなども、ムカデたちの侵攻を妨害していた。
「今のは!?」
「多分Vって人が仕掛けてくれた防衛装置だ! これならまだ時間を稼げる!」
「で、でも……突破されるのも時間の問題だぞ!?」
希望を取り戻しかけるSトルーパーたちだが、これで巨大ムカデを倒せるワケではない。
できるのはせいぜい足止めくらいだろう。全員がそう思い、尻込みして奮起できずにいる。
そんな折、突如として頭上の月を遮るようにひとつの影が差し込んで来た。
「目、障りだ……廃棄物ども、が……」
ボロボロの外套を羽織ったその人影は、ムカデの頭上に飛び込んだかと思うと、片手に持ったチェーンソーを落下しながら突き立てる。
そしてそのまま、轟音を奏でながら真っ二つに斬り伏せてしまった。
「すげぇ!! 倒したぞ!?」
「アレは仮面ライダー……じゃない、のか?」
「あんた一体誰だ!?」
警官たちの質問が聞こえていないのか、彼らには目もくれず、男は次々にムカデを斬り裂いていく。
「ダイナスト……」
ムカデのアゴに捕まえられても動じずに蹴りを入れ、頭を両断し、着地した後もその巨体をズタズタにする。
「ダイナスト……!」
時折苦しげに頭を抱えつつも、歩みを妨げるムカデたちを倒し続け、前へ前へとひたすらに進む。
気付けば、もうムカデ車両は全滅していた。
「グゥオオオオオーッ!! ダイナストォォォーッ!!」
外套を破り捨て、その男――邪甲騎士ルーガルーのシモンは月夜に咆哮する。