仮面ライダーダイナスト   作:正気山脈

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「バカな!? なぜシモンがここにいる……!?」

 校舎に攻撃を仕掛けようとしていた巨大ムカデを屋上から見下ろしていたV、スモーキー・ヴァーニーは、突如として現れ咆哮したルーガルーに愕然とする。
 スモーキーはVとして活動する際にシモンとの関わりを絶っているため、共に行動するどころか会って話す事さえありえない。
 それ故に、この場に現れた事について動揺を隠し切れなかった。
 しかし、しばらく考え込んだ後に彼はポツリと呟く。

「だがこれは……好都合、か?」

 言いながらVは歩いて屋上を後にし、シルキィのいる理科室へ向かう。

「博士。新しいギミックアンバーはできましたか?」
「もうすぐできる、できはするんだけど……」

 見れば、実際にクリアグリーンの琥珀とそれに機甲中が内蔵されており、後はメタリックレッドの外装を付けるだけとなっていた。
 だが今すぐ完成させたとしても、大きな問題があった。

「四傑伯が集まってる状況じゃどの道届けられないよ、隙がなさすぎる! どうすれば……!」
「お兄ぃー! もう、どこ行っちゃったの!? 今外に出るのは危ないのに!」

 話している最中に廊下から声が聞こえ、Vはそこに視線をやる。
 その先にいるのは千種の妹、紬だ。
 Vは懐に備えた一枚のカードをこっそりと指で弄ぶと、ニヤリと笑みを浮かべる。

「私にいい考えがあります、博士」


GEAR.26[暴君魔狼]

 空久里学園への襲撃に現れたマキナイトたちを前に、千種とソーマたちは抗い、必死に戦い続ける。

 しかしギースレーリンとアルベリヒの強さは凄まじく、二人の仮面ライダーでも太刀打ちできなかった。

 そしてそこに追い打ちをかけるかのように、四傑伯の中でも最強の男が姿を現す。

 

「こいつがジル・ド・レスピナスか……!」

「さ、最悪だ……この状況で現れるとは……」

 

 先刻の戦闘での負傷もあって、レギウスは思わず膝をつきそうになる。

 だがその寸前に、ダイナストがその肩を掴む。

 

「弱気になってんじゃねぇ! どの道こいつら全員ブッ倒さねぇと、俺たち全員皆殺しにされんだぞ!」

「ブッ倒すぅ? 俺を? アッハハハハ~! 俺チャンを前にしてこんなに威勢の良い事言うヤツ初めてだなぁ!」

「ナメてんじゃねぇぞクソ野郎が!!」

 

 ダイオウサソリの騎士の姿となったジルに対し、ダイナストは敵意を剥き出しにしながら三体のマキナイトに発砲。

 だが、スコーピオン・エンペラーが右腕を前にかざした瞬間、全ての弾が当たる直前に空中で静止した。

 

「はっ!?」

「当たってない……いや、弾丸が……止まっている!?」

 

 驚く二人のライダー。さらに良く目を凝らしてみると、ダイナストは異様な光景が映っている事に気がつく。

 

「なんだ、()()は……」

 

 視線の先にあるものは、スコーピオンの周囲で漂っている小さな赤い球体。

 スコーピオン・エンペラーを中心として、衛星めいて規則的にぐるぐると動き回っている。

 それだけではない。さらにじっくり見ると、エンペラーの周りだけが()()()()()()のようなもので覆われている事が分かった。

 

「クックックッ、良いねぇ。動揺してるのが分かるよ。でも」

 

 カチッ、とスコーピオン・マキナイトがハサミを鳴らす。

 すると止まっていた弾丸が、凄まじい速度でダイナストたちの方へと戻っていく。

 

「うおっ!?」

「俺の能力の正体を考察するのは、死んだ後でゆっくりやった方が良いんじゃないかなぁ~!」

 

 レギウスが目の前に氷の壁を生み出した事で被弾は回避したものの、今度は真っ直ぐ突進して来たエンペラーがハサミの一撃で氷を砕いた。

 どうやって一瞬の内に接近したのか。それを考える前にダイナストもレギウスもすぐに飛び退き、武器を構える。

 

「なんだよさっきの! 見えない壁でも作ってんのか!?」

「いや。だとしたら弾丸を打ち返した事に説明がつかない、もっと何か別の力と見るべきだ」

 

 先程の高速接近もその力だろう。

 そんな推測を立てた直後、今度はスコーピオン・エンペラーの両脇からアルキュオネとゴーストが迫って来る。

 

「儂らの事を忘れているのではあるまいな」

「覚悟しろ。人間如きが二度と我らに逆らう気が起きないよう、頭を脊椎ごと抜き取って晒し者にしてやる」

 

 長身から繰り出されるリーチの長い前蹴りと、高周波の刃を持つ両腕の鎌。

 それらムカデ騎士とカマキリ騎士の攻撃が、二人の仮面ライダーに当たるかと思われた、その寸前。

 

「ダァァァイナストォォォォォーッ!!」

『!?』

 

 敷地内で突然に響き渡ったその叫声に、その場にいた全員が空を仰ぐ。

 するとそこから降って来たのは、剣型のチェーンソーを肩で担いでいる、蜘蛛と人狼を掛け合わせたような風貌の騎士。

 その名を知るダイナストは、ギョッとして声を上げる。

 

「ルーガルー……!? なんでお前がここに!?」

「貴様を討つためスモーキーを追って来た!! ついに見つけたぞ!! 俺と戦え……戦え!!」

「なんでそうなるんだよ!」

「貴様に敗れてから何度も何度も妙なビジョンが、俺の知らん記憶が頭に浮かんでくる……それを晴らすには、現れ始めた原因である貴様を殺す以外にはない!」

 

 チェーンソーの刃が激しく回転し、じりじりと距離を詰めるルーガルー。

 一方、伯爵たちはその様子を見てヒソヒソと話し始めた。

 

「聞いたか二人とも」

「うむ。愛煙卿がここにおられるなど、そんな報告は挙がっておらんはずだが……どうする、ジル?」

 

 マンティス・マキナイトのアルベリヒが自らの顎に指を添え、僅かに目を細め考え込む。

 愛煙卿ことスモーキー・ヴァーニーは、同じ黒の貴族たちにとっても元々神出鬼没で何を考えているのか分からない人物だ。

 しかしそれと同時に、知恵者で緻密な計画を立て動く人物とクラトカなどに評価されている。

 という事は、ここで迂闊に動けばスモーキーの計画を妨げてしまう可能性がある。アルベリヒの危惧はその点にあった。

 だが、そこでギースレーリンが「待った」をかける。

 

「そう悩む必要もないだろう。元々この作戦は私たちに任されていて、愛煙卿は後から来たに過ぎない。要は人間どもを皆殺しにするための手駒が増えたというだけのこと……」

 

 言いながら彼女はルーガルーの隣に立ち、その左肩に手を置く。

 

「邪魔だけはするなよ、黒騎士」

 

 直後、そのセンチピード・アルキュオネの腕を狼の騎士が捩じ曲げ圧し折る。

 

「はっ?」

「邪魔なのは貴様だ……ギースレーリン」

 

 さらにルーガルーはそのまま右拳をアルキュオネの腹部に叩き込み、思い切り殴り飛ばしてしまった。

 

「失せろォッ!!」

「ガハッ!?」

 

 アルキュオネはそのままスコーピオン・エンペラーの方に吹き飛んで行き、ぶつかる手前で先程の弾丸同様に空中で静止、今度は地面に落とされる。

 

「おーっとっとっとォ~? こいつァ一体何の真似だい、シモンくん?」

「ダイナストを倒すのはこの俺だ……」

「それマジィ? 俺チャンたちはクラトカの指示で仮面ライダーを狙ってる、そんでクラトカも公爵から直々に命令されてんだぜ。つまり俺チャンたちの邪魔をするのは公爵に弓を引くって事に繋がる……ってか、そもそもスモーキーはこれ知ってんの?」

「くどいぞ! そんな話はどうでもいい! 俺の邪魔をするなら貴様らとて殺すのみだ!」

「……チッ、こいつイカレやがったか?」

 

 言いながらエンペラーがルーガルーと対峙しようとするが、先にセンチピード・アルキュオネの方が立ち上がり、怒りの叫びを発しながら突撃した。

 重く破壊的な拳と蹴りの乱打。だが蜘蛛騎士はその連続攻撃を軽々といなし続け、時に左腕から蜘蛛の糸を放って足を絡め取り、ファングレイザーで斬りつけていく。

 その立ち回り方には、ダイナストもレギウスも舌を巻いていた。

 

「おいおい、あいつ前より強くなってねぇか!?」

「凄まじい力だ……! 四傑伯と対等に渡り合っている!」

 

 二人がそんな話をしている間にマンティス・ゴーストが忍び寄るが、ダイナストもレギウスもそれに気付いておりすぐに距離を取る。

 とはいえ、敵は一人ではない。スコーピオン・エンペラーも、正体不明の力を再び行使しようと腕を前に掲げた。

 しかし、その時。負傷から立ち直ったSトルーパーの面々がエンペラーの背に銃口を向け、発砲する。

 

「バケモノめ、お前らの好きにはさせんぞ!」

 

 ショットガンにライフル、さらにはガトリングまで。

 使用可能なあらゆる射撃武器を利用し、トルーパー総出で集中砲火を浴びせる。

 だがそれでも結果は同じで、一発たりとも命中していない。

 

「はいはい無駄打ちご苦労さん」

「そんな、バカな!?」

「喉も渇いてきたし丁度良いかな」

「く……総員怯むな! 撃ち続けろ! 一分一秒でも長く、我々で時間を稼ぐんだ!」

 

 動き回りながら、あらゆる角度からの射撃を続行するSトルーパー。

 エンペラーは必死な彼らの様子を嘲笑いながら、ダイナストにしたように弾丸を飛ばし返し、反撃する。

 大多数が身体の装甲で防いで直撃を避けるものの、攻撃に意識を向けていたために回避できなかった者が四名ほどおり、彼らは腕や足に僅かな傷を負ってしまう。

 その小さな傷を見てスコーピオン・エンペラーが満足げに笑い声を上げ、自身の周囲に浮いて漂う血の球体の一つを飛ばす。

 猛烈に嫌な予感がして、ダイナストは声を上げる。

 

「や……やめろ!!」

「血を寄越せ」

 

 その瞬間。

 飛んでいった球状の血の塊が破裂し、それが負傷者たちの身体に付着した後、傷の中へと()()()()

 そして直後に、傷を内側から抉るような形で血液が勢い良く噴出し、まるで()()()()()()()()()()()()()()()かのように、大口を開けたエンペラーの口内へと吸い込まれていく。

 明らかに致死量であり、急速に血を失った警官たちは絶命。じっくりと味わってくつくつと笑うサソリの騎士に対し、ダイナストは怒号を上げる。

 

「おォ前ェェェーッ!!」

 

 ホッパーアーマメントのバネを利用しての、跳躍力を活かした高速突撃。

 だがそれも見えない力によって阻まれ、急停止してしまったダイナストの身体が浮かび上がってレギウスの方に飛ばされる。

 

「ほいっと」

「くうっ!?」

 

 ダイナストは驚きつつも地に足をついて体勢を立て直し、拳を構える。

 スコーピオン・エンペラーは未だに無傷。余裕の態度を崩さず、ゆっくりとダイナストの方に向かう。

 そしてたった今の攻防から、仮面ライダーの二人は僅かにこのサソリの騎士の能力の正体を、その一端を掴み始めていた。

 しかし理解し切る前にエンペラーは跳躍し、そのままふわりと浮遊して校舎の方へ向かっていく。

 

「悪いけど俺チャンは先にこっち潰すわ、足手まといとか余計なモンあったら君らも全力出せないでしょ?」

「ま……待て、やめろ!!」

「やだね」

 

 残虐な笑い声と共に、スコーピオン・マキナイトはハサミの付いた腕を掲げる。

 その直後。

 彼の周りを石柱が取り囲み、檻のようになって動きを封じ込める。

 

「ありゃ?」

 

 一瞬の出来事だった。それ故に周りの誰も、すぐに反応できなかった。

 自体に気づいたジルは内側からの破壊を試みるものの、石柱は頑丈で全く動かず、さらにその上から水の膜が張られてしまう。

 これで外側から壊そうとしても、校舎を守っているのと同じ流水によって阻止される結果となった。

 

「参ったねぇ、こりゃ俺チャンに狙いを絞り込まれてるかな? 壊せなくはなさそうだけど、ちょいと時間がかかるかなぁ」

 

 石檻の中でふわふわと浮かびながら、大きく伸びをするスコーピオン。

 それを見て、ダイナストとレギウスは密かに眼と眼を合わせる。

 

「あの力……まさか、Vが動いたのか」

「良いところで助太刀が入った、しばらくアイツを止めてくれるなら……なんとかできるかも知れねぇ」

 

 僅かながらも希望が繋がった事を確信し、ダイナストは拳を握り込む。

 だが脅威が去ったワケではない。少なくとも、目の前にはまだルーガルーがいる。

 

「どこを見ているダイナストォ!! お前の相手は、この俺だァッ!!」

「この野郎……こっちはテメェの相手をしてる暇ねぇんだよ!」

 

 言いながらダイナストは、背後にいるレギウスへと、こっそりとギミックアンバーをひとつ手渡す。

 

「レギウス、これ使え。カマキリの方を任せる」

「良いのか!? いや……この状況ではそうする他ないか」

 

 頷いたレギウスはエンペラーとアルキュオネ、そしてルーガルーのいるこの場から離脱し、カマキリの老騎士を阻むべく再び対峙。

 スコーピオンはその姿を、檻の中であぐらをかいた姿勢になりつつ、退屈そうに見下ろして溜め息を吐く。

 

「……あのさ。これで二対一になったとか思ってる? そいつ(ルーガルー)は君の味方じゃないんだぜ、もう俺らの味方でもないけど」

「こいつは私が殺すぞジル!! 構わないな!?」

「あーもういいよいいよ。好きにやっちゃって」

 

 ムカデの女騎士はその言葉を受け、両手に鞭を握ってダイナストとルーガルーを打つ。

 そしてルーガルーの両腕に鞭を巻き付け、何度も地面に叩きつけた。

 

「ぐうっ!?」

「爵位もないただの従僕如きが! 思い上がるんじゃないぞ! 恥を知れ、このクズが!」

 

 黒騎士を鉄の鞭で足元まで引き寄せた後、その頭を何度も何度も踏みつけるアルキュオネ。ダイナストは彼女の持つ鞭やエンペラーの動向を窺っており、助けようにも隙が見当たらないため身動きが取れなくなっている。

 一方のスコーピオンはその様子をニヤつきながら眺めていたが、ふと蹴られているルーガルーの手元に目をやると、彼がギミックアンバーを一つ手にしているのが見えた。

 瞬間、声色が変わる。

 

「そろそろトドメを刺した方が良いよ。そいつ、()()()()()()

「あぁー……? 貴様らしくないぞジル、こういう調子付いた反乱分子は徹底的に」

「ギースレーリン」

 

 アルキュオネの言葉を遮り、スコーピオンは一言だけ、静かに告げた。

 

「殺れ」

「……!」

 

 つべこべ抜かすのなら後でお前も殺す。

 ジルの言葉には、そのような意図も含まれている事を察し、思わず背筋を震わせる。

 そして、それが仇となった。

 ルーガルーは彼女の足を拳で払うと、すぐに立ち上がってファングレイザーを振り鞭を切断して距離を取る。

 

「なっ!?」

「あーあ、バカ」

 

 そうしてチェーンソーを地面に突き刺すと、もう片方の手に握っていた、表面が黒い部品で覆われているギミックアンバーの巻き鍵を捻った。

 

《タランチュラ!》

 

 音声と共に黒い部分が開き、紫色の琥珀が露出。黒のパーツは八本の脚となり、このギミックアンバーの本来の姿である蜘蛛を模した形状が明らかとなる。

 続いて、ルーガルーはそれをファングレイザーにセットした。

 

TRAP(トラップ)! タランチュラ!》

「牙よ、我が怒りに染まれ!!」

HIGH JACK ON(ハイ・ジャック・オン)!》

「グォォォォッ……!!」

 

 トリガーに指をかけ、振り抜く。

 すると装甲が分離して周りに黒い蜘蛛の糸が巡らされ、ルーガルーの頭上から八つの目を輝かせる黒き機身の大蜘蛛が降り立つ。

 そしてその機械の身体が黒騎士に合着していき、新たな姿へと変貌させていく。

 

CRUNCH(クランチ)……SCRATCH(スクラッチ)……RAMPAGE(ランペイジ)!》

 

 完成したのは、ファングレイザーを右手に携え、もう片方の腕に八本の爪がついた刺々しい形状の盾が装着された漆黒の騎士。

 以前のルーガルー同様に狼と蜘蛛の似姿である事に加え、腰にあったマントは取り払われた代わりに背中に長い紫色のマントを羽織っている。

 

NIGHT IN TYRANT RULER(ナイト・イン・タイラント・ルーラー)!》

「ガァルァァァァァッー!!」

S-S-S-SCARY(ス・ス・ス・スケアリー)!》

 

 超邪甲騎士ルーガルー・タイラント。牙を開いて空に咆哮し、驚くアルキュオネに襲いかかった。

 

「く! 姿が変わったくらいで、良い気に……」

 

 立ち向かうアルキュオネは、ルーガルーの盾の内側から糸が伸び出て来るのに気付いてそれを避け、拳を握り込んで殴りかかる。

 

「なるな!!」

 

 その一撃は盾によって受け止められるものの、彼女は即座にルーガルーへ高濃度の蒸気を放つ。

 蒸気に含まれた毒を吸えば動きは止まる。アルキュオネはそう思いながら、蹴りつけようと足を上げた。

 だが、実際に止まってしまったのは、他でもない彼女自身の方だった。

 

「え?」

 

 八つの刃の下、盾の内側に仕込まれていた隠し腕(アーム)がカシャッと音を立てて伸び出し、アルキュオネの腕や横腹を貫いたのだ。

 蜘蛛のような形となったその盾のアームを操って刃を抜くと、ルーガルーはさらにファングレイザーを振り下ろして、激痛と出血で動揺している彼女を袈裟に斬る。

 今のルーガルーに対し、アルキュオネの発する毒は通じていないようであった。

 

「グウゥゥゥガァァァァァッ!!」

「うあああああ!?」

 

 鞭も、打撃も、そして毒の蒸気も。

 武器となるものの尽くを、ルーガルーは薙ぎ倒す。

 巨体とタフネスを活かした防御でさえ、ファングレイザーとタランチュラシールドの八つの刃、そして黒騎士自身の膂力によって押し切られてしまう。

 

「つ、強ェ……」

 

 自分が苦戦した相手をまるで子供同然のように扱うルーガルーの暴威を見て、ダイナストは目を見張る。

 そして、その視線に気付いた黒騎士は魔王の方を振り向くと、標的をそちらに変更し走り出す。

 

「ガァァァーッ!」

「うおっ!」

 

 足のバネで飛び、ダイナストはシールドから伸びる刃を避ける。

 逃げながら、ルーガルーに気づかれないようにアルキュオネの方に接近し、糸を吐き出したところで真上に飛び上がった。

 糸は彼の狙い通りにアルキュオネを縛り付け、そして引き寄せた。

 

「な!?」

「チッ……邪魔だ!!」

「ぐがはぁ!?」

 

 ルーガルーはアルキュオネを殴り倒した後、頭を踏みつけた上でダイナストを追う。

 ダイナストの方は、跳躍して校舎の壁を蹴り、ダイナシューターとドライバーを操作して高所からルーガルーに飛びかかった。

 

BREAK OUT(ブレイクアウト)!!》

「喰らいやがれ!」

《グラスホッパー・ダイナスティクラッシュ!!》

《ライノビートル・ダイナスティキャノン!》

 

 貫通力の高い弾丸を飛び蹴りと共に放ち、熱風を纏って降下していくダイナスト。

 対するルーガルーは蜘蛛型の盾を構えて両足に力を込め、真っ向から受け止めようとする。

 そして、衝突。雷の落ちるような音が轟いた後、しかし渾身の一撃はルーガルーには届かず、ただ一枚の盾によって阻まれてしまう。

 失敗した。それをすぐ理解してタランチュラシールドを蹴って離れようとするものの、既に右足が蜘蛛の糸で縛られている。

 

「はっ!?」

「獲ったぞ……ついに! 俺の勝利だ!」

NO FUTURE(ノー・フューチャー)!》

 

 ファングレイザーにセットしたギミックアンバーのキーをひねり、トリガーを三度指で弾く。

 瞬間、チェーンソーの刃が黒く発光してバチバチと激しい音を立て回転し始める。

 攻撃が来る。しかしそれが分かっても、避ける術はない。

 腕を交差させて身を守るダイナストへと、ルーガルー・タイラントの斬撃が解き放たれた。

 

《タランチュラ・ファングエクスキューション!》

「ヌゥン!!」

「ぐあぁぁぁっ!!」

S-S-S-SCARY(ス・ス・ス・スケアリー)!》

 

 思い切り吹き飛ばされ、背中を校舎の壁面へと強かに打ち付けてしまい、千種の変身が解除される。

 

「う、あああ……く、そっ……!」

 

 地に伏しつつも、再び立ち上がろうとする千種。

 そんな時、背後にある校舎の入口から少女の声が聞こえて来る。

 

「え? お……お兄? お兄が、ダイナスト様……?」

「……紬!?」

 

 自分の妹が戦場に現れてしまった。しかも、変身が解除されるところも見られてしまったのだ。

 その上、目の前からはチェーンソーを片手にルーガルーが迫っている。

 

「逃げろ紬!!」

「これで終わりだ。死ね、ダイナストォォォーッ!!」

 

 千種の首を目掛け、ファングレイザーを振り下ろさんとするルーガルー。

 だが、その寸前で腕が止まった。

 

「ぐっ!? あ、あが……あああああ!!」

 

 トドメを刺す寸前で激しい頭痛に苛まれ、ルーガルーは剣を振れないまま、頭を抱えていた。

 そして、彼の脳裏で、彼自身も知らない記憶が過ぎり始める。

 身も凍るような冷たく四角い箱の中に閉じ込められ、ガラス張りの小窓から外の様子を見れば、以前もフラッシュバックした記憶に現れた自分によく似た顔の男がこちらを覗き込んでいた。

 

『どうやら、後の事は君に託すしかないようだ。本当にすまない』

 

 男は咳き込んで血を吐き、胸を押さえながらシモンに微笑みかける。

 

「なん、なんだ……この記憶は……誰なんだ、これは……」

『良いねシモン。君の、クルスニクの使命を決して忘れないでくれ。どうか、()()()――』

「あ……あぁあああ、うあああっ!?」

 

 浮かんだビジョンが消え去ると共に、苦悶の声を発して蹲るルーガルー。

 その間に、紬は震えながらも千種へ声をかけた。

 

「ダイナ……お兄、これ……」

 

 彼女が手渡したのは、新たなるギミックアンバー。どうやらシルキィが完成させ、ここに持ち込ませたようだ。

 なぜ紬にその役目を任せたのか? それは千種には分からなかったが、とにかくこれで状況は変わるはずだ、と思いその赤い機械に手を伸ばす。

 それと同時に、再びアルキュオネが動き出した。

 

「まだ私は死んでいないぞ……この場で散れ! ダイナストォッ!」

 

 拳を握り、蒸気を吹きながら飛び込んでくるムカデの騎士。

 その眼前に、先程まで苦しんでいたルーガルーがシールドを構え立ち塞がる。

 

「なっ!?」

「……」

「何度も何度も邪魔立てするな、黒騎士め! そんなに死にたければ貴様も死ね!」

 

 言いながらアルキュオネはルーガルーの盾から伸びるアームを引っ掴み、それごと彼を投げ飛ばす。

 そして改めて千種の方に向き直ると、立ち上がった彼は既にギミックアンバーを手にしていた。

 

「死ぬのはテメェだデカブツ」

 

 千種は紬をかばうように手で制し、首だけを僅かに振り向き、囁きかける。

 

「紬……届けてくれてありがとな、下がっててくれ」

 

 そう言われて紬は口を開こうとするものの、何も言えずに校舎の中に戻っていく。

 これでもう妹は安全だ。そう思った直後、背後から紬の大声が響いて来る。

 

「お兄! がんばって!」

「……ああ!」

 

 フッと微笑んだ後、千種はダイナスティドライバーDへと新たなギミックアンバーを装填した。

 必ず勝つと、心に誓って。

 

「俺が……魔王(ダイナスト)だ!!」

SET(セット)!! アトラスビートル!! DYNAMIC-SHOWTIME(ダイナミック・ショウタイム)!!》

「変身!!」

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