地上での戦闘を見下ろしながら、仮面を外したスモーキーが呟く。
「ジル・ド・レスピナスは『最強のマキナイト』……個人の実力なら、階級が上の毒風卿エミディオ・フォン・クラトカすら凌駕する。せめてあと少し時間を稼げていれば良かったのだが」
タロットカードの山札のカドを指でなぞり、スモーキーは思索する。
「このままでは
言いながら彼が引いたカード、そこに示されたアルカナは――。
ダイナストとレギウスの奮戦により、打倒された四傑伯のギースレーリンとアルベリヒ。
そして最後にして最強の敵、青髯卿のジル・ド・レスピナスが彼らとルーガルーの前に立ち塞がる。
「まァずは挨拶代わりだ! かわしてみな!」
浮遊状態のジル、スコーピオン・マキナイト・エンペラーが、勢い良く地面に落下。
すると、轟音と共に地面に大きな亀裂が走ったかと思うと、その衝撃で浮かび上がった土礫が三人の方に飛んでいく。
「くっ!?」
「なんだ!?」
レギウスが氷壁によってその飛礫を防ぐものの、今度は瞬時に接近したエンペラーの拳打により、氷の山は一撃で木っ端微塵に吹き飛ぶ。
「なに!?」
「アッハハハハハァーッ!」
恐ろしい破壊力。その進撃を止めるべくダイナストが転倒しながらも銃撃を、レギウスは氷の飛礫を放つが、やはりその全てが見えない何かによって逸らされてしまう。
さらにルーガルーの蜘蛛の糸さえ、触れる前に千切れ飛んでいった。
「一体何なんだ!? ヤツの能力は!?」
「あらゆる攻撃を、これほどまでに容易く凌ぐなど……!!」
未知の力に翻弄され、レギウスとルーガルーが狼狽する中。
ダイナストは一人、地に手をつきながらも握り拳を作って呟いた。
「俺、分かったかも知れねぇ。アイツの力の正体」
その言葉に二人は驚いて振り向きそうになるが、すぐに目の前の敵に集中し直し、武器を構え直す。
よろめきつつもダイナストは立ち上がり、鼓舞するように叫ぶ。
「絶対に傷を付けられるな! さっきのギースレーリンの時みたいに、体ン中に血を流し込まれる! そうなったら全部終わりだ、死ぬぞ!」
レギウスとルーガルーはダイナストに頷き、不用意に攻撃せず各自別々の方向に散開してエンペラーから遠ざかる。
一方のスコーピオン・エンペラーは、彼らの立ち回りに感心した様子で頷く。
「そうそう、俺ちゃんの対処法はそれが大正解! まず近付けさせないこと。ちょろっとでも身体に傷ができたらその時点でアウトだからねぇ~、でェ~もォ~……」
ダイナストに狙いを定めたサソリの騎士は、壁を蹴るようにして空中で前方に跳躍すると、一気に手の届く距離まで間合いを詰めた。
直後に、魔王の身体がゆっくりと宙に浮かぶ。両足が地に着かないため力を込めて堪える事ができない、無防備な状態だ。
そのダイナストに向かって、エンペラーはハサミを真っ直ぐ突き出す。
「それだけじゃ俺の能力を暴いた事にはならねぇなァッ!!」
瞬間、ダイナストが動く。
手の内に握り締めていた砂や土を、サソリの顔を目掛け振りかけるように投げつけた。
砂も小石も土も当然のように空中で静止、エンペラーは苦し紛れの悪足掻きかと鼻で笑おうとしたが、寸前にハッと目を見開く。
舞い踊る砂埃が、バラバラの土煙が、無数の小石が、チカチカと
そして――爆ぜる。
幾度も響く連続した爆発音。それと同時に、エンペラーもダイナストも、垂直に地面に着地した。
「お~っ!?」
「今だ!」
その号令を合図とし、仮面ライダーとルーガルーの一斉攻撃が始まる。
《グラスホッパー・ダイナスティキャノン!》
《ドラゴンフライ・リベリオンカッティング!》
《タランチュラ・ファングエクスキューション!》
跳ぶように途中から超加速する弾丸、猛スピードで繰り出される双剣の斬撃、チェーンソーによる一刀両断。
その全てをハサミと重厚な鎧で受け切り、スコーピオン・エンペラーは愉快げに笑う。
「アハッ! 良~いね~え!」
三人同時の必殺技が、ほとんど効いていない。
しかし、それについての動揺以上に、レギウスたちには気になる事があった。
「どうなっている? なぜ、ヤツの能力は一度解除された?」
「そもそもあの力の正体は何だ? 僕には見当も付かないが……」
ダイナストは不気味に笑うサソリから視線を離さず、銃を構えたままその疑問に答える。
「『引力操作』だ。あの野郎は……ジルは、引力を自在に操れるんだ」
「引力、だと!?」
それを聞いて二人が驚くと共に、エンペラーの方も一層不気味な笑い声を上げ、両腕のハサミを拍手する形で打ち鳴らした。
「
「お前が手も触れずに血を引っ張り出してるところを見て、なんとなく気付いたのが最初だ。浮いたり攻撃を止めて逸らしたりする時は、引力を逆方向に作用させて引き離す力を使う……確か、斥力ってヤツだ」
つまりエンペラーの周囲には、常に『斥力の壁』とも呼ぶべき目に見えないバリアが張られている。ダイナストは、そう語る。
加えて、と魔王は真っ直ぐに銃口を眉間に定めた。
「引力を操作できる範囲は限られている、だろ?」
「……そうか! 血だ!」
レギウスが瞠目し、ルーガルーは息を吞む。
スコーピオン・マキナイト・エンペラーの周囲に広く張り巡らされた赤い塵。それは彼自身の血液であり、その血を介して引力を操作しているのだ。
Sトルーパーから血を奪う時も傷口に血を忍ばせていた事からも、それが証明されている。
先程一時的に斥力の壁が剥がれたのは、ダイナストが砂を使い小規模な爆発を起こしたのが理由だ。必殺技をほぼ無傷で耐えたのは本人の膂力によるものだが。
ダイナストの口から考察を聞くと、再びエンペラーは歪な拍手を奏でた。
「そこまで分かるんだなぁ! いやぁ、すごいすごい! 本当に感服したねぇ~! んじゃ死ね」
間を置かず、エンペラーの周囲を漂っていた血の塊が二つ、三人の方に飛んで行って混ざり合う。
全員が瞬時に悟る。これは、ギースレーリンを肉玉に変えて殺した最悪の技。
「やべぇ、すぐに離れろ!! 逃げろ!!」
血塊が球状へと変じ、エンペラー以外の全てをそこに引き寄せる。
前後左右上下関係なく、その球体を中心として全方位に強大な引力を発生させ、あらゆるものを一点に纏め圧し潰す。
その名も――。
「
凄まじい引力がダイナストたちを引っ張り始め、危機を感じたレギウスは地面に剣を刺しつつ氷の壁を作って耐え抜こうとする。
だが、その壁にもすぐ亀裂が走り、砕けて渦の中へ吸い込まれていく。
「こんのおおおおお!!」
そこで、ダイナストが動いた。
氷塊を拳で壊し、爆弾に変えたのだ。
吸い込まれ行く氷は渦に入った途端に起爆し、球体を四散させ、引力の発生を止める。
危うく死ぬところだった。最小限の動作と手数で確実に敵を殲滅する攻撃を仕掛けて来るスコーピオン・マキナイトに、三人は冷や汗を流す。
「これが、ジル・ド・レスピナスの力……!」
「二つ分じゃ足りなかったかなぁ? じゃあ次はもっと大きなのを作って……」
ハサミをカシャカシャと開閉すると、体内から血の霧が発生し消費した血の塊が再び生み出され、ジルの周囲を衛星のように漂う。
先程の攻撃をもう一度やるつもりなのだ。それを悟り、ダイナストは再びレギウスの作る氷の壁を殴り砕いて飛ばし、エンペラーの周囲で起爆する。
「させるワケねぇだろ!!」
「だぁ~よぉ~ねぇ~っとォ!」
再度展開した赤い塵の斥力結界がまたもや剥がされるが、それでも関係ないとばかりに疾走し三人の方に接近していくエンペラー。
「手の内が分かれば!」
血霧を再発させていない今なら、スコーピオン・マキナイトは斥力で防御ができない。
ルーガルーはそれを理解し、ハサミを糸で絡めて動きを封じた後、ファングレイザーを叩き込まんと振り上げる。
だが。
「甘いねぇ」
エンペラーは後頭部にあるサソリの小針のような器官からルーガルーの足元に血を撒き散らし、すかさず引力操作を発動。
その強大な力で下方向に引っ張られ、剛力の蜘蛛騎士でさえも地に跪いてしまう事となった。
「ぐ、お……!?」
「君から死んで貰おうかなぁ~?」
楽しそうにそう告げて蜘蛛の糸を腕ずくで引き千切り、血の衛星三つをルーガルーの眼前で組み合わせようとする。
そこへダイナシューターからの銃撃が飛び、三つの血塊を全て精確に撃ち抜いた。
「やらせてたまるかァ!」
「手間を省いてくれてありがとう」
エンペラーの礼の後、銃撃によって弾け飛んだ血液は霧となり、斥力結界が再生する。
さらに強力な斥力を帯びたハサミの殴打でルーガルーも吹き飛ばされ、強制的に距離を取る事になってしまう。
攻め続けているのはダイナストたちの方だというのに、全く状況が好転しない。
「ダイナストがアトラスアーマメントを得てなお……こいつは、この怪物は強すぎる……!!」
「レギウス……」
「勝てない、のか!?」
動揺を押し殺すように奥歯を噛み締めていたレギウスだが、あまりの強さを前につい弱音が漏れ出てくる。
すると追い打ちをかけるように、サソリの騎士は左腕を天に掲げた。
「じゃあそろそろ俺チャンも。ガンガン攻めて行っちゃおうかなァァァ~」
「……まさか!?」
その言葉に、レギウスだけでなくダイナストとルーガルーも目を剥く。
彼らの反応を楽しむように笑いながら、スコーピオン・マキナイトは叫んだ。
「BOAデスストーカー! シフトォ!」
瞬間、サソリの騎士の姿が蒸気に包まれ、内部で変質していく。
そして現れたのは、スコーピオン・エンペラーの時のような重装騎士ではなく、クリアイエローの薄い装甲に身を包んだオブトサソリの似姿。
ハサミは小型化して盾のような形で装備されている他、左手の五本の指先は全て銃口のような形状となっている。
しかしそれらよりも目を引くのは、後頭部から伸びるケーブルめいた太く長い尻尾と、それに繋がって右腕に装着されている鋭い円錐状の
引力操作は解除されているが、傷を負えば再びエンペラーの形態に戻って即殺されてしまう。決して油断はできない。
「さぁいくぜぇ、避けてみな」
言いながらスコーピオン・マキナイト・デスストーカーは左手の指先から血の弾丸を発射、三人とも素早く回避に動くが、ダイナストは間に合わず足に血を浴びる。
それを見てデスストーカーはニヤリと笑い、ランスに付いたトリガーを引く。
直後、血が塗られた足に光が瞬き、ダイナストの身体に電流が走る。
「がっ!?」
全身がビクッと跳ね上がり、動きが止まる。足に付着していた血液は、雷撃を発した後に煙を噴いて黒く凝固していた。
その隙に、デスストーカーは槍の重量を感じさせない身軽さで一気にダイナストに向かって突撃し、鋭利な先端を胸へ突き出す。
命中すれば確実に傷を負うであろう一刺しを、寸でのところで魔王の両手が握って止めた。
「……っぶねぇ!?」
「へぇ~」
スコーピオン・デスストーカーは余裕の笑い声を発しつつ、ダイナストの動きが鈍っている内に、爆破されないよう槍を引き込む。
そして再度疾走して距離を置き、左手の銃口で三人に狙いを定めつつ突進した。
あの血を浴びれば電撃を受ける事になる。先程のダイナストの攻防でそれが分かっているため、全員必死に回避に動く。
「雷の能力、それにあのスピードとパワー……かなり攻撃的だな」
「クソッタレ! さっきの引力操作だけでもかなり厄介だってのに!」
「話している場合ではない! また来るぞ!」
ルーガルーの指摘通り、デスストーカーがまた槍による突撃を仕掛けて来る。
迎撃しようにもサソリの騎士の速度は三人全員を上回っており、血も引き続き発射しているため近付く事ができない。
辛うじて動きは直線的であるため、避ける事そのものは難しくない。回避しながら、ルーガルーはダイナストへ呼びかける。
「おい、電撃を使われる前に血を爆破できないのか!?」
「……無理なんだよ、シルキィからその辺の事は聞いてる。アトラスアーマメントの爆破機能はナノマシンってヤツで物体に干渉して発動するから、水とか血みたいな液体には使えない! 気体でも同じだ!」
「打つ手はないというのか……!?」
そんな会話をしている間にも、先刻すれ違ったデスストーカーが再び槍を突き出し迫っていた。
「諦めて俺チャンに刺し殺されちゃいなよ! 死ぬ時は一瞬だから、さァ!」
デスストーカーの高速突撃。
それと同時に、ルーガルーは仮面ライダーの二人とアイコンタクトを交わし、身をかわしながら拳を握り込んだ右腕を思い切り引っ張る。
すると、ブレーキをかけ立ち止まったデスストーカーの両足に、ロープのように編み込まれた蜘蛛の糸が絡みつく。
「貰った……!」
「ハァ? こんな糸なんかで俺を止められると思ってんのかよ」
「無論だ。ダイナスト、今だ!」
その合図の瞬間、三人の戦士は動き出す。
ダイナストの右手には蜘蛛の騎士が生み出したロープの端が握られており、オレンジ色の光が一気に糸へ流し込まれていく。
レギウスは動きの止まったデスストーカーの両足を凍りつかせて逃げ場を封じ、ルーガルーはファングレイザーで糸を切り離す。
「あっ」
サソリの騎士が彼らの意図を察するのと、ロープが爆発するのは同時だった。
爆破によりデスストーカーは両足を大きく負傷、先程までの素早い動きができなくなり、その隙にダイナストの拳とロープから変化して生まれたミサイル五発が胸に直撃する。
重装甲だったエンペラーの時よりも攻撃は通りやすくなっており、攻撃を受けた箇所から出血が目立つ。
「おお!? そう来る!?」
「まだまだ!」
よろめきながらも槍で反撃しようとするデスストーカーへ、ダイナストが拳打――と見せかけ、跳躍して背後のレギウスが氷の壁を生み出し攻撃を受け止める。
そしてシザーモードのレギウスラッシャーとダイナシューターの弾丸が、さらにファングレイザーの唸る刃が装甲を切り裂く。
デスストーカーのダメージが目に見えて増し、逆にダイナスト側の攻め手はどんどん勢いが強くなる。
「良いぞ、効いている!」
「このままなら押し切れそうだ!」
勝てる。反撃と再生を許さずスピーディに攻め続ければ、やれるはず。
そう確信した三人は、もう一度同時に必殺技を叩き込むため、それぞれ武器を手に動き出す。
だが、その時。
スコーピオンの禍々しい顔が、笑顔に見える程にグニャリと歪んだ、気がした。
「
ジルのその宣言と同時に、三人ともが
さらに全身に血に触れていないというのに電気を浴び、そのまま地面に落下してしまった。
「があっ!?」
「なん、だ!?」
「今のはまさか……!?」
立ち上がり、デスストーカーを睨むダイナスト。
すると、そこには左半身を蒸気で包まれたサソリの騎士の姿がある。
「いやぁ今のは惜しかったねぇ、あと少しでマジに死ぬところだったんじゃないかなぁぁぁ~でも俺さぁ……負けるの嫌いなんだよな」
今までのようなどこか冗談めかしたふざけた口調ではなく、真剣味を帯びた言葉。
徐々に蒸気は薄くなり、その中にあるシルエットがロウソクめいて揺らめく。
「誇ってくれて良いよ。人間相手に
半身にかかった蒸気が晴れると、三人の戦士は絶句した。
鈍く光を反射する、硬く重い装甲。大振りのハサミ。そして周囲を漂う細かな赤い星々と血の衛星。
スコーピオン・マキナイト・デスストーカーの右半身と、スコーピオン・マキナイト・エンペラーの左半身が融合しているのだ。
「じゃ、三人仲良く地獄で踊りなァ!!」
引力操作と電撃の併用。頑強かつ身軽でありながら、より力強くなったスコーピオン・マキナイトが、ダイナストたちに真の力を誇示する。