仮面ライダーダイナスト   作:正気山脈

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 物心ついた頃から、その少年は闇に閉ざされた廃墟の地下で生きて来た。
 父親はどこにもおらず、母親()()()()()も痩せ細って病気を患っていた。食糧は全部少年に与えていたため、喰うに困って餓死するか、そのまま病死するかのどちらかなのは幼い彼の目から見ても明らかであった。
 廃墟はどこを探しても地下からの出入口が瓦礫で塞がれており、子供や病人の手では撤去する事もできない。
 その瓦礫の隙間から僅かに漏れ出る赤い月の光だけが、少年の知る『外の世界』の全てだった。

『大丈夫。信じて待てばきっと、助けが来るわ。ほら、あなたも祈って』

 外に行きたいと呟く度に、女はそうやって少年を諭した。
 彼女の手には幼い少女の姿をかたどった女神像があり、何かあればずっとそれに向かって祈っていた。
 やがて地下に貯蔵されていた食糧や時々現れるムカデやサソリなどの虫を食べながら成長を重ねた少年は、母親なのかも知れないその女の頭に瓦礫を叩きつけて殺した。
 別に彼女に対し怒りを感じていたのでも、女の肉を食おうと思ったワケでもない。
 ただ――。

『キレイだ……』

 彼女の持つ女神像が、その美しい彫像がどうしても欲しかった。
 ただ、それだけのこと。
 虫やネズミを狩って喰う事を覚えた少年は、()()()()()()()()()()()()()()()
 そして、皮肉にも彼女が祈る事さえできなくなった直後に転機が訪れる。

『おや? 血の匂いがするから何事かと思えば……こんなところにも人間がいたのか』

 女の死体を眺めつつ、奪った女神像をしゃぶりながら自分で自分の股ぐらをまさぐっていると、背後から男の声が聞こえて来た。
 そこにいたのは、濃紅色の礼服を纏う血走った四白眼の男。七大真祖の一人、オルロック・シュレック公爵である。
 少年はすぐに女神像を口から放し、どうやってここに来たのか、などと質問する事なく即座に近くにある血の染み付いた瓦礫を手に取った。
 すると、オルロックはその不気味な表情をより大きく歪める。

『……ほう。良い眼をしているな、小僧。どうだ? お前が望むのなら力を与えてやっても良いが。そんなザマでもまだ生きていたいかね?』

 そう言ってオルロックが手を差し伸べるのを見て、少年はじっと彼を見つめながら、女神像を掲げひとつ尋ねた。

『外には……これより美しいものが、あるのか?』

 オルロックはそれを聞いて一瞬目を丸くするものの、すぐに唇を釣り上げて自分の持つロケットペンダントを投げ渡す。
 開いたペンダントの中には写真が入っており、そこには美しい少女の姿が写っている。
 マキナイトたちが崇めるヴラディス・ド・ラクールの娘、アルケー・ド・ラクールであった。

『我々の王女殿下だ。その女神と違い、実在する存在だ。貴様がその気になって貴族として活躍すれば、婚姻を結ぶ事もできるかもな?』

 それを聞いて、少年の口もオルロックと同じように不気味に歪んだ。

『あぁぁぁ、欲しいなぁ~……コレを奪えるなら、俺はなんだってやれるぜ……』

 いつか、あの姫様を自分のモノにするために。
 この日を境に少年はひたすらに戦い、奪い、辱め続けて名を上げた。少年から大人になっても休まず人間を襲い、顔に髯が残ったままでも夢中で略奪を続ける姿を指して、貴族たちは彼を『青髯卿』と呼んで恐れた。
 ――これが、ジル・ド・レスピナスという怪物の起源である。


GEAR.29[魔王ノ死]

「さぁ、さぁさぁさぁ! お楽しみはこれからだぜぇぇぇ~!」

 

 最後に残った四傑伯、青髯卿のジルが変異するスコーピオン・マキナイト。

 彼の持つ二つの形態が融合したスコーピオン・マキナイト・モザイクとの決戦が、空久里アクアシティにて幕を開ける。

 対するダイナストとレギウス、ルーガルーは、ただでさえ苦戦を強いられていた状況で敵の新たな形態が登場した事に戦慄していた。

 

「……どっちにしろ関係ねぇ! こいつの血を吹っ飛ばしちまえば!」

 

 その動揺を先に打ち破ったのは、ダイナストだ。

 地面を思い切り蹴って砂や石を巻き上げ、爆弾に変えて飛ばす。

 先刻はこの方法で血を爆風で散らす事により、斥力の壁を突破した。

 だが今回はその斥力ではなく、破壊的な電撃が砂の爆破を妨げる。

 

「なに!?」

「ククク、分かってないな。今の俺は斥力も雷も両方出せるんだよ」

 

 そう言いながらスコーピオン・モザイクが左腕のハサミを振り回すと、周囲を飛ぶ血の衛星がひとつずつ飛んでいく。

 血渦が来る。咄嗟に銃を抜く判断を下したダイナストは、そのまま発砲して血の塊を幾つも撃ち落とす。

 しかし一つだけ外してしまい、その瞬間にスコーピオン・モザイクは自らの力を()()()発動する。

 

「狂い咲け! 雷霆血渦(ライトニング・ブラッドホール)!」

 

 引力と共に雷光が轟き、血が三人を引き寄せながら電撃によって焼き焦がす。

 

『ぐあああああ!?』

 

 雷のあまりの威力にダイナストたちは態勢を崩してしまい、一気に血渦の方へ動かされてしまうが、押し潰されるよりも先に渦の方が散った。

 どうやら通常の血渦ほど効果時間は長くないらしい。しかし、決定的な隙ができたのを見逃されるはずもなく、右腕の槍によって三人とも薙ぎ倒されてしまう。

 

「く、こいつ……あの姿になってますます隙がなくなったぞ!?」

「こんな隠し玉を用意してやがったとは……!」

 

 迸る雷をギリギリのところで回避しつつ、ルーガルーとダイナストが言う。

 レギウスもスコーピオン・モザイクの魔の手から逃げ続けるが、そんな彼らを嘲笑うかのようにこのサソリのマキナイトは次なる手を打って来た。

 

「逃げ回るヤツにはこういう手も使えるんだぜぇ?」

 

 言いながら自らの右腕に装備した槍を血で濡らし、思い切り振り被ってそれを仮面ライダーたちの方に散りばめる。

 瞬間、引力操作によって三人がスコーピオン・マキナイトの手にある槍の方へ引き寄せされ始めた。

 

「な!?」

「危ない!」

 

 その動きに気付いたレギウスは、すぐさま進路に氷の壁を形成して引力から身を守る。

 だがこの氷壁も一時凌ぎにしかならない。それを分かっているため、レギウスは二人に目配せをして同時にその場を離れた。

 すると案の定、雷を纏う槍の一突きにより氷の壁は木っ端微塵に砕け散る。

 

「しぶといねぇ~……でも、もう諦めた方が良いんじゃねぇの?」

「なに……!!」

「どうやってもお前ら、俺チャンには勝てないよ。逃げの一手しかできない時点でさ。もう分かってるだろ?」

 

 スコーピオン・モザイクからの鋭い指摘。しかしそれは事実であり、ダイナストたちはまともに反撃できないでいる。

 しかし、その時だった。

 膝を屈しかけていたレギウスが、強く拳を握り込んで叫ぶ。

 

「ああ。今分かった、()()()()()()()()()という事がな!!」

「……あぁん?」

 

 訝しむようにスコーピオン・モザイクが左腕のハサミをシャキンと動かし、次いでダイナストとルーガルーが思わず振り返った。

 そしてダイナストの足元とサソリの槍とを順に追う彼の視線に気付くと、二人ともハッと顔を上げる。

 

「そうか! そういう事か!」

「俺にも見えたぞ、勝利への光明が……!」

 

 三人は再び、戦意を取り戻す。

 か細いながらも見えた最後の望みに、全てを託すために。

 一方、スコーピオンの方は相変わらず不思議そうに、しかし愉快そうに肩で槍を担ぎトントンと叩いていた。

 

「揃いも揃って恐怖でトチ狂った……ワケでも、負け惜しみやハッタリでもなさそうだなァ」

 

 そう告げて不敵に笑うと、サソリの騎士は槍を振るって穂先を突きつける。

 

「いいぜ、来いよ!! まとめて正面から喰らい尽くしてやる!! どうせ勝つのは俺なんだからなァ!!」

 

 すると距離を取った三人は数刻ほど作戦会議の言葉を交わした後、行動に移った。

 最初は愉快げに歩きながら距離を詰めようとしていたスコーピオン・モザイクであったが、ダイナストたちの取った行動を目にすると、徐々にその首が傾いていく。

 

「は?」

 

 ルーガルー・タイラントの生み出した糸。全身を埋め尽くすようにそれを分厚く巻き、真っ白になった魔王の姿。

 開いた口が塞がらないと言った様子でスコーピオンが見つめている眼の前で、ミイラ男と化したダイナストは堂々と拳を掲げる。

 

「よぉーし! どうだ、蜘蛛の糸アーマーだぜ!」

「……え、何? それが秘策? ふざけてるとかじゃなくてマジで言ってんのか?」

 

 思わず視線が釘付けになってしまうサソリ騎士に対し、彼はあくまでも得意げに返す。

 

「ナメて貰っちゃ困るぜ。来いっていったのはお前の方だ、遠慮はいらねぇから全力で応えな!! 行くぞォ!!」

 

 言いながら、重量が増えたにも関わらずほとんど変わらない速度で走り出す。

 変わり果てた敵の姿に呆れ溜め息を漏らすスコーピオン・モザイクは、雑に斥力で血の塵を飛ばし、ダイナストの胸に付着した直後にトリガーを引く。

 迸り、魔王を舐めんとする稲光。

 しかし血から生じた電撃は、蜘蛛糸を黒く焦がすのみに終わった。

 

「なにィッ!?」

「オラァァァッ!!」

 

 問題なく接近したダイナストが、勢い良く拳を振り抜く。

 迎え撃つため斥力壁に使っていた血の一部を使ってしまったスコーピオンは、慌てて血を操作して自分自身に斥力をかけ、後方へ飛び退いた。

 

「なんだ!? 今、なんで!?」

 

 サソリの騎士が目を凝らすと、どうやら糸の鎧は相当に厚く幾重にもダイナストを覆っているようで、付着させた血は浅い場所に染み込んだだけで終わったようだ。

 そのため、発した雷も小さく焼いただけに終わり、動きを止める事さえもできなかった。

 スコーピオン・モザイクはそれを理解すると、すぐに対応策として多めに血を飛ばしながら槍を突き出そうとする。邪魔な糸を引き裂くために。

 だがそれさえ、三人は読み切っていた。

 

「やらせん!」

「うっ!?」

 

 ダイナストをかばう形で、タランチュラシールドを構えたルーガルーが介入する。

 八本の隠し腕の先端に付いた刃にも糸が厚めに巻かれており、そのスピーディな動きが全ての血を吸収せしめた。

 さらに突きの一撃は盾で直接受け止めた後、自らのシールドごとスコーピオンの右腕を糸で拘束する事で封じ込める。

 

「こいつら……本気で、本当にこんな手で俺を!?」

「オラァッ!」

「ぐぅ!? 調子に乗ってんじゃねぇ、これは凌げねぇだろうが!!」

 

 ルーガルーが槍を抑えている間に、ダイナストが突撃。

 それに対し、スコーピオンは煩わしそうに血の衛星を放って引力を集中させる。

 血渦の発動だ。瞬間、千種はフッと仮面の奥で笑う。

 

「かかったな」

 

 その言葉の後に、ダイナストは右肩の角に巻き付いた糸の塊を引き千切り、血渦に向かって放る。

 すると、糸は渦に飲み込まれながらも凄まじい吸水力で血を飲み込み、丸まりながらオレンジ色に明滅し始めた。

 

「ハッ!?」

 

 スコーピオンの気付きと同時に、想像通りの大爆発。

 角の部分から失われた糸はルーガルーの手で新たに補充され、再び完全な状態に。

 そして最も強く信用を置く技を容易く防がれてしまった事実を前に、スコーピオン・モザイクはいよいよ脅威を感じ取って警戒心を最大に高める。

 

「ただの糸の塊なら引力で思いっ切り押し潰されても壊れねえって事か、そのふざけた姿がマジに切り札だったとは恐れ入ったぜ! でもここまでだ!」

 

 左腕のハサミをサソリの騎士が突き出すと、全ての衛星と血の塵が集合し、嵐となって蜘蛛糸の追加装甲を赤く塗り潰す。

 当然、糸の鎧はその濁流のような血をも吸収する。ダイナスト自身がその重さで動きを鈍らせる程に。

 

「うっ!?」

「吸いたきゃたっぷり吸いな! ただし……こいつがお前の、最後の晩餐だぜぇ!」

 

 笑い声を上げながら、スコーピオンはトリガーを引いた。

 その直後、雷光と同時にダイナストの全身が真っ赤な火に包みこまれる。

 滴る程の血を浴びた事により、糸を完全に焼き尽くすどころか、ダイナストそのものを燃やす炎雷が発動したのだ。

 

「ハハハァッ! 勝っ――」

「そこだ!!」

 

 勝利を確信したその時、斥力壁が完全に失われた隙を見逃さず、再びルーガルーが動く。

 左腕から発する糸を、今度は防護ではなくスコーピオン・マキナイト・モザイクの全身を拘束するように放った。

 しかし。

 

「なんの……真似だ……?」

「ムッ!?」

「今更こんなモンで、俺をどうにかできるとでも思ってんのか!!」

 

 ハサミを動かすスコーピオンの左半身の各所、糸に包まれたその内側から血の赤が滲んだかと思うと、トリガーが弾かれて雷が糸を焼き切る。

 

「グァッ!?」

 

 サソリ騎士が二本の剣で胸を貫かれる痛みによって喘いだのは、まさにその瞬間だった。

 そこにいたのは、先頃から全く動きを見せていなかった二本角の剣士。

 

「どうにかできるのさ。僕がいればね」

「レギウス……!!」

 

 スコーピオン・マキナイトが名を呼んだその男は、ダイナストたちが注目を集めている間に息を潜めて、ずっと好機を窺っていた。

 糸で身体を覆ったのは、血の噴射口を探り当てるため。血の塵がどこから出ているのかが分かれば、如何に堅固な鎧でもそこは脆いだろうと考え、実行に移したのだ。

 これでようやく敵に大きな傷を負わせる事ができたはずだが、それでも当のスコーピオンには少しも堪えた様子がない。

 

「……で? 奇策はもう終わりって事で良いのかァ?」

 

 言いながら、槍を掲げる。胸を刺された程度なら何の問題もない、とばかりに。

 そして槍を振るってレギウスとルーガルーを打ち払うと、彼らの背を受け止めてダイナストが前にでる。

 見れば、爆炎が通じない強靭な装甲であるためか、先程の炎を浴びても無事だったようだ。

 

「あぁ、安心しろ。もう終わりなのはお前だ。ここからは俺一人でやる」

「この期に及んで血迷った事を言いやがるぜ」

 

 言いながら未だに身体に付いたままの糸を思い切り振り解き、迎え撃たんとするスコーピオン・モザイク。

 糸の守りを失ったダイナストは、それでも拳を構えて果敢に駆け出す。

 真っ直ぐに来るなら斥力で止めてから刺してやる。スコーピオンがそう考え、血を発しようとした、その時だった。

 

「……ん……!?」

 

 ()()()()()

 異変に気付いて自分の腕や身体を見下ろすと、手はかじかんだように震えており、噴射口も静かなまま血の一滴も出ていなかった。

 そのまま、ダイナストの掌底がスコーピオンの顔面を殴打する。

 

「ガッ!?」

「まだまだ行くぞォ!!」

 

 よろめきながら反撃しようとしたところで槍が手刀で叩き折られて爆散し、大バサミを突き出せば蹴りが飛んで左腕が無惨にひしゃげ、下がろうとすればすぐに追いつかれ掌底が腹に突き刺さった。

 血を出せないというだけではない。明らかに、普段戦う時よりも動きが鈍くなっている。

 

「何しやがった!?」

「内側から流し込まれた冷気が凍りつかせたのさ。君の血をね」

 

 その問いに答えたのは、ダイナストではなくレギウスだ。

 さらにルーガルーも、彼に続いて語り始める。

 

「お前はダイナストの足に血を浴びせた後、一度しか同じ場所に電撃を使わなかった。槍にしてもそうだ、帯電し続けて攻撃すれば良いものを一発しか発動していない。だから……恐らく使えないんだろう、電撃の後は血が黒く固まるせいで」

 

 そして、言葉を詰まらせるスコーピオン・モザイクに向かって、ダイナストが指を突きつけた。

 

「それがお前の能力の弱点なんだろ? 血が固形だと引力操作も電撃も使えない、だから俺たちはそこを狙った」

「そうか……糸アーマーも、レギウスの攻撃を通すための布石だったって事か……俺の血を凍らせるのが、本当の目的……!」

 

 折れた槍を放しながらそう言うと、スコーピオンはその右手に握り拳を作り、前へ踏み出して殴り掛かる。

 

「ぐっ!?」

「だがそれがどうしたァ!? 俺はまだ立ってんぜェ!!」

「ンの野郎……!」

「来いよダイナストォ! ここからは五分五分のタイマン、拳と拳の勝負だァァァ!!」

 

 再びサソリの騎士が拳を突き出し、ダイナストもそれに応じて拳打を繰り出す。

 ぶつかり合う音が響き渡り、そのまま肉弾戦に発展する。

 ダイナストが蹴りを放てばスコーピオンは再生した左腕でそれを防ぎ、反撃にそのハサミを振り被れば、ダイナストは右掌で腕を払って攻撃を捌く。

 血の力が使えず動揺していた時と違い、明らかに互角の勝負だ。そんな様子を目の当たりにして、レギウスとルーガルーは愕然とするばかりであった。

 

「あいつ! 既に冷気が全身に回って凍りつつあるはずなのに、まだあんなに動けるのか!?」

「もう単なる膂力の強さだけでは説明がつかん……あの狂った精神力によって、肉体の限界を凌駕しているとでもいうのか!?」

 

 さながら全てを吹き飛ばし粉砕する嵐の如き暴威。

 そんなスコーピオンの激しい猛攻を、ダイナストは静かにいなして直撃を避けつつ、大振りな攻撃が来る一瞬の隙を突いて掌打を浴びせる。

 

「バカ、な!! この俺が、マキナイトが人間との殴り合いで押されるハズがねェだろ!?」

「こっちは散々鍛えられて来てんだぜ。たとえ相手がお前でも……」

「ウォラァッ!!」

 

 話の途中でサソリの右拳が飛ぶが、それを手刀で軽々と打ち払い、ダイナストによる反撃の掌底が腹を抉った。

 

「グァガッ……!?」

「ステゴロのタイマンで、拳法使いが負けるかよ!!」

 

 顔面を殴りつけ、スコーピオンがふらりと膝を震わせたのを勝機と見たダイナストは、決定打を打つべくドライバーに手を伸ばす。

 そしてホーングリップを三度倒し、その四肢にオレンジ色の眩い光を宿した。

 

BREAK OUT(ブレイクアウト)!!》

「こいつで終わらせる!!」

「させ、るかァァァッ!!」

 

 危機を察したサソリ騎士は、自らの手首をハサミにかけようとする。

 腕を断つ事で無理矢理出血し、能力を発動しようというのだ。

 だが、それよりも速くダイナストの拳がスコーピオンの左腕を捉えて再び砕いた。

 

「ガッ!?」

「オオオオオオオオオオーッ!!」

《アトラスビートル・ダイナスティダイナマイト!!》

 

 怯んで体勢を崩したところに、顔面への右拳の一撃。

 さらに左拳を鳩尾、再び右で脇腹と連撃を加えたところで、突き刺さったままの剣に一際強い力を込めて飛び蹴りを叩き込む。

 瞬間、爆発を齎す光が一気にスコーピオンの体内に流れていく。血が凍りついているために、肉や骨、五臓六腑に至るまで体内を余すことなく駆け巡っているのだ。

 

SO GROOVY(ソー・グルーヴィ)!!》

「グ……アアアアアアアアアーッ!?」

 

 そして、大爆発。全身から爆炎を吐き出しながら、スコーピオン・モザイクは空を仰ぐように倒れていく。

 

「ついにやったか!?」

 

 レギウスの懇願のような言葉も束の間。

 倒れたかに見えたサソリ騎士は寸前でピタリと止まり、流れ出る血を斥力発動に利用したのか、上体を起こして復帰した。

 二本の剣は抜けたが胸から腹にかけて大きな爆発痕ができており、そこから多量の血が止めどなく溢れ出ている。

 

「本当……驚いたぜ……ここまでの傷を負ったのは初めてだ、俺じゃなきゃとっくに死んでただろうなァ……」

「強がりはよせよ、その傷じゃ流石に助からねぇだろ」

 

 肩で息をする程ボロボロの重傷を負っているスコーピオンを見やってダイナストが告げるが、本人はそれを一笑に付す。

 

「思うよなぁ、自分たちの勝ちだってよォォォ~? だが! この状態でも俺は体を治して生きていける……人間の血と肉さえ確保できりゃなァ!」

「やらせるかよ。今ここでトドメを刺してやる、テメェを野に放つワケには行かねぇ」

「ところがそれは無理なんだよねェェェ!! なぜなら俺には、お前ら纏めて食いながら皆殺しにする方法があるからだァァァッ!!」

 

 言いながらスコーピオンが全身に力を込めると、零れていく血を大きな腹の傷に集中していく。

 その直後、周囲にあるモノが浮かび上がり、校舎ですらも破壊し全て吸い込む勢いで引力が発生した。

 本当に、無差別にここにある全てを呑み込むつもりだ。それを察し、レギウスとルーガルーは引き寄せられないよう氷や糸で留まろうとするものの、引力が強すぎてあまり長くは保ちそうもない。

 

散華血渦(スーサイド・ブラッドホール)!! 切り札ってのはここぞという時に切るモンなんだよォォォッ!!」

 

 既に肉体が限界でありながら、大笑いしてさらに力を引き上げるスコーピオン。

 そこで、ダイナストが呟く。

 キーをひねり、ホーングリップを一度だけ倒して。

 

《アトラスビートル!!》

「お前の言う通りだよ、ジル」

BURNING VAPOUR BLAST(バーニング・ヴェイパー・ブラスト)!!》

「切り札ってのは……ここって瞬間まで取っておくモンだ!!」

 

 瞬間、繭に包まれたダイナストが三本角の巨大なカブトムシに姿を変える。

 身体の各部に銃火器やミサイルなどを装備し、角からは発振装置から赤いレーザーブレードを生み出していた。

 シルキィが最後まで諦めず、戦局を変える切り札として搭載した蒸気解放(ヴェイパー・ブラスト)。その発動と共に、ヴェイパー・ダイナストは飛び立つ。

 無数のミサイルが血を吹き飛ばして引力を破り、銃器が両足を撃ち抜いてスコーピオンをその場に縫い留め、そしてレーザーブレードの角が一撃で胸を刺し貫く。

 

「ガッ、あ……!!」

 

 再び大量の血を口から吐き出した後、ジルの変異が解ける。

 

「ちっくしょう……あぁ、クソッ……結局、本当に欲しいモンは掴めなかった……何も……」

 

 悔しげにダイナストの方にもたれかかって力なく手を付きながら、しかし彼は満足気に笑みを浮かべ、顔を出し始めた朝日に身体を灰化させていく。

 

「でもまぁいいかァ。最期に、こんな面白い戦いができたなら」

「……」

「地獄で……待ってる、ぜ……」

 

 最期に無邪気な笑顔で魔王へ語りかけた後、ジルは息絶え灰となった。

 四傑伯との死闘は終わった。

 再度変形して変身を解いた千種は、深い溜め息と共に空を仰いだ後、同じく変身を解いたソーマと共にシモンを見る。

 

「お前はどうする、シモン」

「……」

「俺たちを倒すんだって、何度も言ってたよな。そうすりゃ記憶が戻るとかなんとか。まだ……やるか?」

 

 尋ねてはいるものの、既に戦意がない事は二人とも承知していた。

 それでも聞かざるを得なかったのは、シモンが敵方でありながら自分たちに味方する理由を計りかねているからだ。

 しかし当のシモンはというと、戦う意志はないが迷っているようで、頭を抱えて俯いている。

 

「……もう……自分がどうすれば良いのか分からない……本当にこれで記憶が戻るのかも知れないが、なぜか……記憶が戻ろうとする度に、頭が痛くなる……胸がざわめく」

「どういう事だ?」

「一つだけ確かなのは、少なくともこの場で戦う気にはなれないという事くらいだ……」

 

 言いながら、シモンは武器を収め立ち去ろうとした。

 だが、背を向けようとする寸前に、その動きは止まる。

 

「ん?」

「なんだ、霧? いきなり?」

 

 ソーマの言った通り、突然周囲に濃霧が立ち込め始めたのだ。

 そしてその直後、何者かが近づく足音が三人の耳に聞こえて来る。

 

「ようやく時が来ましたね」

 

 言いながら現れたのは、フードを被った男。

 Vか、と千種とソーマは一瞬だけ安心するものの、彼の仮面は外れており、その指には『死神』のカードが挟まっている。

 さらに。

 

「スモーキー!?」

 

 シモンがVの素顔を見てそう叫んだ事で、二人もギョッと目を見開き戦闘体勢に移った。

 

「おい、あいつ……今、スモーキーって言ったよな!?」

「バカな! まさかヤツの、Vの正体は……愛煙卿スモーキー・ヴァーニーだったのか!?」

 

 自分たちはずっと敵を懐に入りこませてしまっていたのか。

 そう思って警戒していると、スモーキーは死神のカードを地面に投げ、笑いながら三人に拍手を送る。

 

「四傑伯を全滅させてくれて感謝しますよ。これでやっと、()()()()()を実行に移す事ができる」

 

 言いながら愛煙卿が指を弾くと、三人の頭上にボロボロのローブを纏った死神が姿を現し、大鎌を振り上げた。

 逃げなければならない。しかしどういうワケか、全員その場から足を離す事ができなかった。

 

「くっ、そ……!?」

「おやすみなさい魔王(ダイナスト)。その命、頂いていきますよ」

 

 スモーキーが挙げた手を勢い良く振り下ろすと共に、鎌も振り抜かれる。

 そして、霧が晴れた。

 

「あれ……? お兄? ルリリン? シルちゃん?」

 

 戦いの音が聞こえなくなってからしばらくの後、敗走して避難していた警官たちや逃げ延びていた住民が徐々に出てくる。

 しかしそこに仮面ライダーたちの姿はなく、さらに彼らと関わりのある瑠璃羽やシルキィ、貂もいなくなっていた。

 

「みんな、どこに……!?」

 

 焦燥して、目尻に涙を浮かべる紬。

 だが、どこを探しても兄が見つかる事はなかった。

 

 ――その後、ブラムストーク王国を占拠している貴族たちから、ある情報と写真が世間に流布された。

 黒の貴族を脅かした魔王、ダイナストとその一味の人間たちの処刑。

 文字通り晒し首となった彼らの素顔が、そこには写っていた。

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