仮面ライダーダイナスト   作:正気山脈

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SECTION.Ⅲ[終血]
GEAR.31[王証探索]


 レジスタンス組織、X-ROSSが擁する魔王(ダイナスト)一味の死。

 その情報がブラムストーク王国全土に広まって、一ヶ月が過ぎた頃。

 王都では、スモーキー・ヴァーニー侯爵によって編成された、新たなレジスタンス討滅部隊が集っていた。

 数え切れない程のデッドアントやマキナイトが押し寄せ、人間を殺し喰らい尽くす瞬間を待ち焦がれている。

 

「ククッ、壮観だ。これを率いるのが私ではないというところだけは気に入らんが……」

 

 エデミィオはそんな光景を王城の窓から見下ろし、唇を釣り上げていた。

 そんな折、一人の斥候が駆け出してエミディオの前に跪く。

 

「クラトカ様。お耳に入れたいことが」

「一体なんの騒ぎだ? こんなめでたい場で」

 

 愉快な気分に水を差されたような気がして、エミディオは溜め息を吐きつつも余裕のある態度で報告に耳を傾ける。

 

「黒騎士が貴族領の駅を襲撃しました。王都行きの旧式機関車に乗り合わせていた貴族の方々はおよそ半数が死亡、人間も解放されたようです」

「またか……」

 

 ますます嫌気が差したように、神経質な侯爵は眉を顰めた。

 ギースレーリン伯爵死亡の影響により、今まで使われていたムカデ機関車は全て灰となってしまい、黒の貴族は現存している古い時代の車両を使わざるを得なくなったのだ。

 ほぼ自動制御な上に襲撃されても自ら身を守ってくれるムカデ車両の時と違い、武器の類が搭載されておらずスピードも遥かに及ばない旧式機関車は、運行上の不便が増えた上に乗客にとって頼りない存在として映っていた。

 そして、その隙を突くかのような黒騎士騒動。ここ最近のシモンの行動は彼らにとって不利益に働く、というよりも黒の貴族に対し完全に反旗を翻しており、各地で不満の声が頻発している。

 エミディオ自身、既にシモンの蛮行を看過できなくなっていたが、かの黒騎士は神出鬼没であり、討伐しようにも向かった頃には去っているのが現状だ。

 

「そろそろ灸を据えてやるべきだな……()()()()()()()()()()()

 

 スモーキーにレジスタンス討滅の任務が与えられ、貴族たちが尽くシモンによって次々と倒されているこの現状。

 今動ける中で、黒騎士を倒し得るマキナイトはきっと自分しかいない。

 

「囮の車両を用意したまえ! ヤツが現れると予測できる地点に、私が往こう!」

 

 陞爵前の最後の一仕事としては充分だ。

 そう考え、エミディオはマントを翻して出陣した。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 翌日、正午。

 空久里アクアシティに存在する中華料理店、赤心軒。

 いつものように店内の厨房には才賀夫婦が立ち、千種と紬の兄妹が接客を行っている。

 しばらくの後、ドアが開いて来客を知らせると共に、千種はそちらに目を向けた。

 

「らっしゃいませー!! ……あ」

 

 その客の姿を見るなり、千種は小さく溜め息を漏らす。

 ブラムストーク王国にてレジスタンスとして行動している中心人物の一人、サンジェルマンだ。今回は紺色のビジネススーツを着て現れた。

 

「ンだよ、アンタか」

「やぁ千種くん。注文、いいかな?」

「どーぞ」

 

 千種はサンジェルマンの隣に立ち、声を潜めて接客ついでに問いかける。

 

「……で。単にメシ食いに来たワケじゃねぇんだろ、何か進展があったのか?」

「海老炒飯と餃子のセット、それから食後にジャスミン茶を。三種の王の証の大まかな所在が分かった」

 

 昼食の注文の後に質問に答え、それを聞いた千種は眉根をピクリと動かす。

 

「エビチャー餃子セット、それとジャスミン茶! ……間違いねぇのか?」

「ほぼ確実だ。王城の資料も当たって、マキナイトの配下には他の貴族領の文献・記録を徹底的に集めさせ、そして現地で細かく調査させたからね。私がレジスタンス側だとも知らずに良くやってくれたよ」

「じゃあこの後すぐ集まるか? お先餃子お待ち!」

「どうも。そうだね、できれば頼みたい。それとお友達も連れて来てくれたまえ」

 

 その会話の後、別の客を席へと案内しつつ、千種は再び炒飯を手にサンジェルマンの方に戻っていく。

 

「海老炒飯お待ち!」

「ほほう、かなり美味しそうだね」

「じゃ、また後で」

「ジャスミン茶を頂いた後でね」

 

 傍目には紳士的なやり手のビジネスマンに見えるその男は、大ぶりのエビとパラパラに炒められた米をレンゲで掬って口に運び、そしてニヤリと笑って数度頷く。

 そうしてサンジェルマンが食べ終わった頃にジャスミン茶を出した後、千種は瑠璃羽と貂に連絡して集合場所を決め、キッチンの父母へと声をかけた。

 

「悪ィ、ちょっと行って来るわ」

「……千種」

「ん?」

 

 エプロンを外して店を出ようとする息子を呼び止め、武生は巴と共に真剣な眼差しでじっと見つめる。

 

「店の事は心配いらん。俺も母さんも、あと浅黄たちにも例の一件があるから無理にでも手伝わせる。だがそれで店を守れても、お前がここにいなければ意味がないという事を忘れるな」

「というか、生きているなら必ず帰って来なさい。私たちにとって、あなたと紬の事が一番大切なんだから。約束よ」

 

 千種がサンジェルマンに連れて行かれ、そして書き置きされていた通り三日後に帰って来た際、この父母は揃って涙ながらに千種を迎え抱擁した。

 と同時にみっちり説教も受け、仮面ライダーとして戦っている事やブラムストーク王国の事など色々話してしまったのだが、武生も巴もシルキィたちを助ける事には否定的ではなかった。

 命を救われた恩を受け、王国の有り様や今後マキナイトを止めなければ地球すらも危機に瀕する事、止められ得る者が千種しかいないという事実と彼自身が敗北し命を落とす可能性もある事を踏まえ、それでも息子自身の意思を尊重したのだ。

 

「分かってる。もう心配かけねーよ……まぁ、危ないところに行くワケだし、正直ちょっと怖ェのもあるけどさ」

 

 半ば自嘲気味に笑いつつ、千種は確信と覚悟に満ちた眼で返す。

 

「この家に帰るって約束だけは、絶対守るよ」

 

 武生も巴もグッと唇を引き結び、その後に頷いた。

 そして去ろうとする寸前に、紬もその場に駆けつける。千種の方もそれに気付き、手を振る。

 

「んじゃ、紬もしっかりやれよ」

「……」

 

 兄の顔を見れず俯きながらも、口を開きかけて、しかしまた閉じてしまう紬。

 しかし意を決した表情で顔を上げると、彼女は千種の手を握って震えながら声をかけた。

 

「お兄」

「ん?」

「……負けないでね」

「俺ってそんなに頼りねェかなぁ?」

「だって……」

 

 目に涙を溜め、紬はその手にすがりつく。

 ジルとの戦いの後、千種が帰って来るまで彼女はずっと心ここにあらずという様子だった。無事に帰って来た時も、胸に抱く想い故に積極的に話せずにいた。

 ダイナストの正体が兄であったと知り、その恋心をどうすれば良いのか分からなくなっていたのだ。

 何よりも、これからまた死地に赴いて帰って来ないかも知れないという事実に、どうしようもなく胸がザワついてしまっていた。

 そんな今にも泣き出しそうな妹の姿を前にして、千種は逡巡した後。

 

「客の前でそんなメソメソした顔見せんなよ、お前はいつでも可愛く笑ってな。それが俺にとっちゃ一番大事なことだ」

 

 紬の小さな体を、そう言って柔らかく包みこんだ。

 兄の腕にそっと抱かれて、その温かな感触と優しい言葉に、彼女は思わず涙を零して抱き返す。

 そうしてしばらく抱擁を交わした後、紬は再び顔を上げ、千種へ微笑みかけた。

 

「がんばってね、お兄!」

「おう!」

 

 千種は改めて玄関から出て行き、集合場所に向かう。

 紬はその愛する人の背を、その姿が見えなくなるまで、熱の込められた視線で見つめ続けるのであった。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

「皆さん、お集まり頂きありがとうございます。これから、王の証が封印されているであろう地点について説明し、実際に現地のひとつに向かおうと思います」

 

 地球からの移動後、サンジェルマンの管理する領土に到着した千種と瑠璃羽たちは、アルケーたちの待つ小城の中に通されていた。

 同席しているのは天才蒸機技師シルキィ・バベッジ、さらにヘルシング家に連なる血統のソーマ・フェニックスに加えて、ストーク王家の血筋たるヴィルヘルミナ・ストーク。それぞれ自分の席につき、卓を囲む。

 人間たちの立ち上げたレジスタンス組織X-ROSSとアルケーとサンジェルマンがマキナイトの目から匿っていた人間たち、その目的は『この星に太陽を取り戻す』こと。

 そして会議が始まって早々に、千種が挙手する。

 

「アルケーさんよ。その前にちょっと確認してぇ事があんだけど、良いか?」

「なんでしょう?」

「王の証の力ってのはよ……何でもできるのか? 例えば、その……死んだ人間を生き返らせたり、マキナイトを人間に戻したり……とか」

 

 シルキィと瑠璃羽とミナの視線が千種に、さらにそこからソーマの方に移動した。

 もしそんな事が可能なら、今までの犠牲者を全て救う事ができる。

 それだけでなく、ソーマの姉であるソニアも、人間として蘇らせる事ができるかも知れない。

 だが、アルケーはそんな希望に対し頭を振った。

 

「……ごめんなさい。たとえ王の証でも、失われた命を蘇らせる事はできません。同様に、マキナイトを元の姿に戻す事も不可能です」

「間違いないのか? 生き返らせるのは無茶かも知れねェけど、人間に戻すくらいならできそうなモンだろ?」

 

 アルケーは俯き加減になりながら「本当に申し上げにくいのですが」と前置きし、詳細を明かす。

 

「マキナイトに改造された時点で、肉体は既に生命活動を停止しているのです。生きて動いているように見えるかも知れませんが……実際には、BOAの機能でただ死体を動かしているに過ぎません。デッドアント以外のマキナイトに意思があるのも、血の力によって脳を機能させているからですし……その意思さえ、人の生き血を求める凶暴な衝動には決して抗えないのです。そして人の血肉を摂取できないようにしたとしても、血が渇いて理性を失い凶暴化するか、死ぬだけです」

「生きた屍からBOAを取り払ったところで、ただ抜け殻が残るだけ……という事か」

 

 ソーマは話を聞くと、そう呟いて自らの腕を組む。

 哀しげに目を細めるアルケーに対し、千種はグッと唇を引き結び、頭を下げた。

 

「悪ィ、嫌な事言わせちまった」

「いいえ。元より私には説明の義務があります、気にしないで下さい」

 

 そうアルケーが告げた後に、サンジェルマンが暗くなった雰囲気を取り払うかのように手を叩いて「話を戻そう」と注目を集める。

 

「王の証が封印されている場所だが、三つの道具はブラムストーク王国本土にバラバラに納められている事が分かった。この地図を見て欲しい」

 

 サンジェルマンが示したのは、王城から遥か南の山岳地帯に一つ。

 その山からさらに北東・北西に離れた場所に、ちょうど逆正三角形を作るような形で、それぞれ一つずつ王の証が配置されているらしい。

 北東側は森の中で、北西にあるのは墓地のようだ。

 

「なんか、これ……王の証って呼ばれてる割には、随分王都から離れたところにありませんか?」

「ああ。どういう意図があるのか正確には分からないが……まぁ、恐らく誰かに掘り出される事を危惧したんだろう」

 

 その言葉に貂が納得したように頷いた後、千種は問う。

 

「で、どこから行くよ?」

「私は山岳から北東の森を推す。山岳側は移動や捜索に手間がかかるだろうし、北西の方は貴族領がかなり近い」

「敵に見つかるリスクは避けてェしな……なら、北東にするか」

 

 とりあえずの方針はこれで定まった。次に、一同は『何人が現地に向かうか』という部分について触れる。

 

「俺が出撃すんのはまぁ、確定としてだ。誰がここに残る?」

「いや、仮面ライダーの三人で行ってくれ。私が通信でサポートする」

「え? 大丈夫かよ、ここの守りが手薄になるんじゃねェか? それに、もし戦いになって目立っちまったら、貴族連中に俺らの事がバレちまうぞ?」

 

 するとサンジェルマンはくつくつと笑いながら、肩を竦めて答え始めた。

 

「何のために私が貴族の上位層に所属していると思っているんだい? こういう時、配置換えや情報操作をしやすいからさ。幸いにも、今は王城に多くの貴族が『レジスタンス討滅隊の編成』という体で集められている。私の思惑通りとも知らずに」

「だから貴族領の近く以外なら比較的安全ってワケか」

「そうだ。それに、もし戦いとなったら敵を誰一人逃がせない。討ち漏らしがないようにするなら、全員の方が都合が良いだろうね」

 

 言われて千種も頷き、彼の作戦に同意する。

 また万が一この島に襲撃が来たとしても、今のレジスタンスにはホッパーズバックルがある。これを使えば、少なくとも多少自分の身を守る事はできるのだ。

 現地に向かう面々が決定したところで、今度はソーマが疑問を口にした。

 

「向こうにどれがあるのかはともかく、実際に証を発見できた場合はどうする? 一度持ち帰れば良いのか? それとも、すぐに別の地点へ向かうか?」

「そこは君たちの体力次第という事にもなると思うが……できれば見つけ次第帰投してくれ、万全を期しておきたい」

 

 人間たちをマキナイトの魔の手から救うためには、一刻も早く太陽を復活させなければならない。

 しかしそのために性急に事を進め、結果が失敗に終わってしまっては本末転倒。ソーマもサンジェルマンの慎重な作戦に了承した。

 

「念押ししておくが、くれぐれも貴族には見つからないようにしてくれ。特に、北西の貴族領にいるエレオノラという女伯爵には気をつけることだ」

「やべぇヤツなのか?」

「実力のみで言えば君たちが相対した四傑伯ほどではないが、彼女はあのカーミラ公爵のお気に入りの一人だ。具体的には時折寝台(ベッド)を共にしている」

「……は? それって、つまり……」

 

 サンジェルマンの言葉を聞いて、千種の頭の中にはその光景が浮かび上がる。

 裸体の美女同士が、ベッドの上で濃密に絡み合い、温かい吐息と共に湿った音と甘い声を交わし合うあられもない姿。

 しかし、女性陣――特にシルキィと瑠璃羽からの視線を感じて、ハッと我に返って咳払いした。

 

「何にせよ、彼女に発見されるということはカーミラが皆さんの生存を知ることに直結します。気を付けて行動して下さい」

 

 心なしかアルケーからは生暖かい目で見られているような気がして、どこかバツが悪そうにしながら千種は頷く。

 一方、ミナはパァッと目を輝かせていた。

 

「隠された宝を持ち帰る……それってなんだか、とっても怪盗っぽくないですか!?」

「……この国のお姫さんって随分愉快な人だったんだな……」

 

 その後も会議は進み、細かな目標やシモンの行方の調査などに関する話し合いを経て。

 約一時間半に及んだ会合は終わり、その場は一時解散。そして準備が出来次第、千種・ソーマ・ミナは目標地点に出発する事となった。

 直後、瑠璃羽がミナに駆け寄っていく。

 

「ミナさん」

「あら、ルリハさん? もしかして『例の件』かしら」

「そうです、今から行ってもいいですか?」

「構いませんよ! 出発まで時間があるので、すぐに行きましょう!」

 

 楽しそうな彼女らの様子を尻目に、千種は首を傾げる。

 

「二人して何の相談してたんだ……?」

「さぁね。さて、ワタシも自分の仕事に取り掛からないと」

「シルキィの仕事? また何か、新しいギミックアンバーでも作るのか?」

 

 問われた後で「それもあるけど」と言った後、シルキィは人差し指を自分の唇に押し当て微笑む。

 

「今はまだヒミツだ。けど、アレを見たらビックリすると思うよ! 助手くんも、ソーマもね!」

 

 得意げにウィンクした後に、鼻歌交じりに去っていく自称ハイパーサイエンティスト。

 

「俺らも準備すっか」

「ああ」

 

 残された千種とソーマは短い会話を交わし、同じく部屋を出ていくのであった。

 

 

 

 会議が終わってから数分後。

 ミナの部屋を訪れた瑠璃羽は、彼女のクローゼットに収納されたあるものを見て目を輝かせる。

 黒いシルクハットに裏地の赤い黒マント、そしてフリルのついたハイレグのレオタードとヒールブーツ。

 

「すごい、これがあの怪盗探偵衣装……!」

 

 ミナが名乗り、そして瑠璃羽が憧憬の眼差しを送っていた謎の怪盗探偵美少女アルセーヌ・ホームズの装束だ。

 この一ヶ月の間に彼女との友好を深めた瑠璃羽は、思い切って自分もこの衣装が欲しいと打ち明けていたのである。

 

「早速着てみませんか? この間採寸した通りに、あなたに合わせて新しく作ってありますよ」

「わぁ! 着ます、着ます!」

 

 手渡されたシルクハットやレオタードを受け取って、瑠璃羽はいそいそと服を脱ぎ始めた。

 そうして下着姿にまでなったところで一度手を止めると、ベッドに腰掛けて着替えを見守るミナの方を振り返る。

 

「ミナさん、そういえばずっと聞きたかったんですけど」

「何でしょう?」

「私がシルキィさんと協力を始めた頃、先輩が『誰かに見られてた』って言ったんです。それから、ヴァリエテでも私は視線を感じた事があります。もしかして、あなたなんですか?」

 

 すると、その質問に対してミナはギミックアンバーを見せてにこやかに返答した。

 

「その通りです。私というよりこのドローンビートルギミックアンバーを使って監視していたのですけどね。サンジェルマンの指示で、あなたたちを死なせないために」

「な、なるほど……では、サンジェルマンさんとはもう長い付き合いに?」

「そうですね。マキナイトの襲撃を受け、ソーマと離れ離れになってしまった後……頭から食べられそうになっていた私を、助けてくれたんです。すごく胡散臭いけれど、いい人ですよ。この衣装も私が頼んで彼に仕立てて貰ったので」

「えっ!? そうなんですか!?」

「素性を隠すために相応しいものが必要と言われましたから。何より、カッコいいでしょう?」

 

 ミナの真剣な言葉に、瑠璃羽はこくこくと頷いて同意を示す。

 その様子を見て満面の笑みを見せ、ミナはベッドに横になって目を細めた。

 

「彼のお陰でまたソーマに会う事ができた、今では肩を並べて戦う事もできる。だから本当に感謝しているんですよ」

「ソーマさんのこと、本当にお好きなんですね……」

「もちろん」

 

 瑠璃羽が一糸纏わぬ姿にまでなったところで、ミナはふと思い出したように頭を上げる。

 

「喋りすぎて少し喉が渇きましたね。お茶を淹れますけれど、あなたもどうですか? お茶請けもあるんですよ」

「お願いします!」

 

 憧れの怪盗探偵の衣装を前に、素裸であるのにテンションが上がりっ放しの瑠璃羽に笑みを返しながら、ミナは扉を開く。

 その瞬間、偶然廊下を通りかかった千種と危うくぶつかりかかる。

 

「あ、すいません」

「っと、悪い悪い……ん?」

 

 咄嗟に壁側に避けた事で難を逃れるが、さらに直後に勢い良く扉が開いてしまう。

 

「あの、ミナさん。これ多分間違えて取ってますよ、ニップレスは付いたけど胸が入り切らな――」

「ちょっ!? 今出て来たら……!!」

 

 大慌てのミナの静止も虚しく、千種の視界に飛び込んで来たのは、明らかに収まり切っていないハイレグで下半身を隠して、裸身の上半身の()()をハート型のニップレスで隠しただけの瑠璃羽の姿。

 マキナイトの世を砕くために魔王を名乗っているだけの健全な高校生である彼にとって、その刺激はあまりにも強く。

 

「グッハァ!?」

 

 貴族との戦いの中でも出さなかったレベルの血を鼻から噴き、その場で倒れた。

 

「きゃあああああぁぁぁぁぁ!?」

「わあああぁぁぁ!? 誰か、誰か来て!! 襲撃の前に死んじゃいます彼!!」

 

 

 

 それから、本来の出発時間から遅れること約十分。

 

「大丈夫かい? 一体どうしてあんな量の血を……」

「……なんでもねぇから気にしないでくれ……」

 

 玄関には、すっかり意気消沈してしまった千種を心配そうに見つめるソーマと、その千種を見て笑いを堪えるミナが並んでいる。

 そして彼らを見送るのは、羞恥で顔を真っ赤にした瑠璃羽と、ニマニマと口角を釣り上げているシルキィだ。

 

「行ってらっしゃい、スケベ魔王の助手くん?」

「う、うるせー」

「ははは」

 

 シルキィはそっと千種に近づくと、耳元で囁く。

 

「無事に帰って来たらワタシも着てあげるよ」

「エッ!?」

 

 目を一杯に見開き、ゴクリと生唾を呑む千種。

 すると流石に気恥ずかしくなったのか、シルキィも顔を赤らめて顔を背けた。

 

「じょ、冗談だよ! ほら、元気になったならまた鼻血出す前に速く行く!」

「お、おう! 行ってきます!」

 

 先程までとは打って変わって元気良く返事をしつつ、千種が真っ先に外へ出て、慌てて残りの二人も追いかける。

 移動には島から繋いだパスを使い、座標はサンジェルマンが事前に調査した『王の証の眠る森』の付近に合わせてある。三人は黒い外套を纏い、目の前に生み出された蒸気の中へと飛び込んだ。




 ――それから幾許かの時が過ぎた後。

「なるほど……これが、噂の黒騎士か」

 王都に繋がるとある貴族領の駅で、毒風卿のエミディオ・フォン・クラトカが呟く。
 自身の胸から横一線に大きく開いた傷を、右手の指先でツッと撫で、彼は地面に落ちている()()()()を踏みつける。

「思った通り、大した相手ではなかったな」

 半ばで刀身を折られ、完全に破損し使い物にならなくなったファングレイザー。
 そして侯爵の視線の先には、駅の向こう側の壁に背を預け、目を閉ざしている血塗れのシモンがいた。
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