時は遡り、X-ROSSの面々がサンジェルマンの領土に初めて招かれてから、数日が経った後のこと。
屋敷内に宿泊していたシルキィは、食卓でそんな声をかけられ、目を丸くした。
「……随分いきなりな話だね。そもそも、キミも優れた科学者のはずだけど?」
「無論その上で言っている。ソレを作るために長く時間を費やしたが、私一人では不可能な作業だった。君の蒸機技師としての腕と天才の頭脳が必要だ」
耳をピクリと反応させ、ニヤリと唇を釣り上げた彼女は、自信に満ちた様子で胸を張り鼻を鳴らす。
「ンまぁ、確かにワタシは誰より優れたハイパーサイエンティストだし? どんなものだろうと作って見せるけど?」
「実に頼もしいね」
「フッフ~ン! それで、どうすれば良いんだい?」
サンジェルマンはシルキィの返事を聞いてからすぐ、ある場所へと導く。
恐らく彼自身の手で作られたであろう偽物のツタやコケで天井と壁を覆われた、屋敷の隣にひっそりと隠されている小さな建造物。
中に入ってみると明かり一つ点いていないが、様々な機材や薬品などが並べてあるため、ここが工房である事はシルキィにも想像がついた。
しかしサンジェルマンはそこで止まらず、棚の裏に隠された扉を開き、さらにその先にある階段から彼女を地下へと案内する。
「ここは私の工房の中でも特別な場所だ。我々にとって、とても重要なものを隠してある」
徹底してカモフラージュしている事からも、シルキィはその言葉の真実味を実感せざるを得ない。
下へ下へとどんどん降っていくと、そこには上階とは比べ物にならないほど広大な空間があり、目の前には巨大な
それを見るなり、息を呑む音と共にシルキィの目が見開かれる。
「……は!? え、ウソでしょ!?
「太陽を取り戻しさえすれば確実に人類の勝利だが、これが完成すればより盤石なものにできる。引き受けてくれるかな?」
「そりゃ、これを復元できれば科学者冥利に尽きるけどさ……動くのかい!? これは!?」
「聞いてどうするんだい?
科学者なら、君もそう思うハズだ。
サンジェルマンの言葉の裏にそんな意図を読み取り、シルキィはニッと笑って、堂々と自分の胸を叩いた。
「いいねぇ! やってやろうじゃないか、このハイパーサイエンティストのシルキィ・バベッジが!」
そして、現在。
カーミラ派の黒の貴族、エレオノラ伯爵が管理する領地『ロブコビッツ』の城下町から遠く東にある森林にて。
ガサガサと葉や草の踏む音を立てながら歩く、複数名の影がそこにあった。
「まったくこんなところまで来て生き残りの人間を探すハメになるとはな」
「本当ならスモーキー卿のレジスタンス討滅部隊に参入できるハズだったのに、我々の伯爵様は何を考えておられるのか……」
森の中を歩きながらそのような愚痴を零しているのは、散策にはあまり向いていないキレイな身なりの六人の男たち。
黒の貴族のマキナイトの集団だ。周囲には彼らを守るデッドアントが十二体ほどおり、鼻をヒクつかせて警戒しているようであった。
「おい、余計な事を喋るな。この辺りが隠れ場所として最適なのは事実、人間どもが隠れている可能性は充分にあり得る」
「しかし連中の頼みの綱である仮面ライダーとやらは、一人を除いて全滅したのだろう? 今更こんなところまで逃げて抵抗して何になる?」
「足掻かれた結果、四傑伯は敗れ一人だけになってしまったんだ。無意味だと思うな、油断せず見つけ次第即殺すぞ」
話しながら真面目に捜索を続ける貴族が半分、あまり精を出していないのが残り半分といった様子で、それぞれ人間の痕跡を自分たちなりのやり方で探している。
そうして数刻の後、一人の貴族がピクリと顔を上げた。
「ん? この匂いは……」
デッドアントたちも、鼻をスンスンと鳴らして周囲を見回した後、ある方向に向かって走り出す。
追いかけながら見下ろせば、果たしてその周囲の草木には僅かに赤い液体が付着しているのが分かった。
「血だ! 人間の血の匂いがするぞ!」
「こっちからだ、デッドアント共も反応している!」
どこか興奮した様子で、やる気がなかったはずの三人の貴族たちが血気盛んに走り出す。
「おっ、おい!?」
「クソッ、追うぞ!」
残りの三人も同族とデッドアントたちを追いかけ、そしてすぐに発見した。
彼らはまるで気が違ったかのように、樹の表面にぶち撒けられた赤い液体に手を当て、舐め取っていたのだ。
デッドアントなど、葉っぱの上の赤い雫を四つん這いになりながら舌で掬っている。
「見ろ! まだ乾いてない、近くに人間がいる証拠だ!」
「ハァァァ! 美味い、美味い!」
「こんなに良い血を流す人間がいるとは!! 本体はどこだ!?」
目を赤々と輝かせ、やや酒気を帯びた吐息を発して時折しゃっくりをしながら、周りを見やる貴族たち。
そんな彼らに対して、まだ赤い液体に触れず正気の三人の内一人が叫ぶ。
「速く離れろ!!
「……え?」
間の抜けた声の直後に、ガサッという枝葉を散らす音が響き、三つの影が頭上から降りて着地する。
黒い外套を纏う三人の男女。その中の金髪がフードから覗く男の手の中には、赤い液体の詰まった酒瓶があった。
「効くじゃねェか、流石サンジェルマンの発明品だぜ」
「一人も逃がしはしないぞ」
「それでは、参りましょうか」
そう言って三人は自らの腰にベルトを装着し、機甲虫の入った琥珀――ギミックアンバーをバックルに装填する。
《
貴族たちが驚く間に、各々のドライバーを操作。すると、その場に三つの繭が形成された。
《レディバード!
《スタッグビートル!
《ライノビートル!!
『変身!』
《
そして繭が破れると、中から姿を現したのはフード付きの黒いトレンチコートに変化した外套を被る三人の戦士。
《
《
《
仮面ライダーラレーヌ、レギウス、ダイナストだ。
突然現れた敵を前に、赤い液を啜っていた貴族たちの間に動揺が広がる。
「まさか、かかか、仮面ライダー!? 死んだハズでは……!? また新たに増えたのか!?」
「狼狽えるな! まずはBOAアクティベート、それから信号弾で伝令を出せば良い!」
黒の貴族らはそう言って、全員でマキナイトとしての本性をあらわにし始めた。
弧を描く二本角を生やした
それらに加え、モスキート・マキナイトやドゥードゥルバグ・マキナイトにスカラベ・マキナイトの姿もある。
変異したモスキートたちは慌ただしいながらもすぐに信号拳銃を手に取る、が。
すかさずダイナシューターを抜いたダイナストの早撃ちにより、空へ放つ前に全て破壊されてしまう。
「は、はわわっ!?」
「やらせるかよ」
これで領土からの応援を呼ぶことも、この事態を伝達することもできなくなってしまった。
さらに、それだけでは終わらない。
「うっぶ……オッ、オゲェェェッ!?」
デッドアントや液体を舐めていた三人のマキナイトたちが、一斉に地面に向かって嘔吐し始める。
「な……なんだ!?」
「大丈夫か!?」
これには冷静だった残りの三人も愕然とし、隊列が乱れてしまった。
対して、レギウスとダイナストは想定通りとばかりに笑っている。
「サンジェルマンの言った通りだったな」
「ああ。対マキナイト用人工血液『ポムグラネイト』……ちょっと舐めただけなのに、えげつねぇ効果だ」
その呼称は、エジプト神話において殺戮の限りを尽くす女神セクメトに対して太陽神ラーが贈ったザクロ果汁で作られた魔法の薬品に由来し、これを血と思い込んで呑んだセクメトは酩酊し戦いを止めたという。
人間の血の匂いを放って気を引いたり酩酊状態にするというだけの代物ではなく、マキナイトの体液と混ざり合うことで化学反応を起こす特殊な酵素が含まれており、彼ら特有の生体金属を分解・腐食させる事ができる。
摂取させるというプロセスを踏む必要はあるものの、取り込めば身体を内側から溶かして破壊し、弱小のマキナイトならば死に直結する程の被害を与えるのだ。
「中身が……と、溶けてる……く、クソォッ……」
再生能力があるとはいえ、少量飲み込んでいた三人は既に立ち上がれない程に体内がズタボロとなっており、デッドアントは既に全滅している。
必然、戦闘はツリーホッパーとドブソンフライ、モールクリケットが務める事となった。
「おのれぇ! かくなる上は我々のみで貴様らを倒してやる!」
「かかれ!」
ツリーホッパーがダイナストに、ドブソンフライがレギウスに、モールクリケットがラレーヌにそれぞれ仕掛けていく。
ドブソンフライの手から先手必勝とばかりに一直線に突き出された長い剣の切っ先が、レギウスの胸に直撃。
しかしその刃はコートを斬り裂く事ができず、滑るように流されてしまう。
「なっ!?」
「ハァッ!!」
結果間合いを詰められ、レギウスの双剣によって手首を裂かれ、続いて蹴りがドブソンフライの喉へ突き刺さる。
「グッ……カッ、ア……!?」
呼吸ができない。言葉も出て来ない。
それに気付いて触れてみると、ひやりとした冷気が指を撫でたことから、ヘビトンボの貴族は自分の喉が凍結しているのだと理解した。
徐々に身体の自由が効かなくなり始め、死が目前に迫っている事実に恐怖し、凍った喉を震わせて翅を広げ飛び立たんとする。
だが。
「逃さない」
「ギ、ヒッ……!?」
レギウスの投擲した剣が翅を斬り、ドブソンフライを転倒させた。
これでは逃げる事もできない。凍った喉でか細い悲鳴を上げ、瀕死のマキナイトはそれでも走り出す。
その背に向かって、レギウスはドライバーを操作して無慈悲に追い打ちをかけた。
《
「消えろ!」
「ぐぎゃっ!?」
背中から胴まで貫く踵落とし。その一撃で完全に全身が凍結すると同時に、結晶を撒き散らして死滅する。
《
ドブソンフライの残骸を足で踏み砕きつつ、レギウスは仲間たちの戦いに目を向けた。
モールクリケットは右手のドリルをラレーヌへ向けて飛び出すが、その一撃はラレーヌロッドによって容易く弾かれ、さらに後頭部を小突かれる。
「ちっ!?」
「遅いですよ」
《マスケットモード!》
続いて武器を銃に変形させ、体勢を崩しているモールクリケットの脹脛を撃ち抜く。
そうして膝から崩れ落ちかけたところに、追撃の飛び回し蹴りがケラのマキナイトの脇腹に直撃した。
「ゲェッ!?」
「まだまだ行きます」
「く、調子に乗るなよ!」
怒りに震えて振り向き様にカギ爪を振るうモールクリケット。
だがその攻撃も、先頃のドブソンフライと同じく刃の通らないコートによって無力化される。
さらに今度は右目を銃弾で撃ち抜かれ、悲鳴を上げかかったところで顔面への蹴りが叩き込まれた。
「がっは……?!」
「残念、あなたじゃ相手になりませんでしたね」
言いながらラレーヌはドライバーからギミックアンバーを引き抜き、ロッドにセット。
そして、モールクリケットの眉間に銃口を突きつけ、トリガーを引く。
《
「終わりです」
《
放たれた雷撃が首から上を焼き払い、ケラの騎士の頭を跡形もなく消滅させる。
残りはツリーホッパーのみ。ダイナストはそれと殴り合っており、コートを翻しながら繰り出した掌打で腕を圧し折った。
「ぐが!?」
「オラァッ!」
逆側に曲がった右腕から走る激痛に思わず苦悶すると、すかさずダイナストが拳で殴打し、ツノゼミのマキナイトがよろめいたところでその尖った角を両手で掴んで根本から砕く。
「ぎぎっ!? ひ、い……!!」
「四傑伯の後じゃ相手になんねェな、こんなヤツら」
「ま、まさか貴様ら……死んだハズの……!?」
マキナイトたちの中で、点と点が線で繋がる。
目の前にいるのは補充された仮面ライダーの戦力ではなく、四傑伯を討ったダイナストとレギウスそのものであると。
しかし、彼らが生きてその事実を誰かに伝える事はできない。
既にダイナストは、ドライバーを操作して戦いを終わらせようとしているからだ。
《
「今更気付いてももう遅ェよ。消えな」
瞬間、吹き出す蒸気と共に顔面へと一撃が蹴り込まれる。
《
ツリーホッパーはそれによって砕け散り、仮面ライダーたちは未だ嘔吐しながらも生き残っているマキナイトたちの方に目を向けた。
彼らは這ってでもその場を逃れようとしていたのだが、すぐにダイナストたちに回り込まれ、そのまま赤い吐瀉物の中で踏み潰されて死んだ。
「さて……終わったは良いけどよ」
戦闘態勢を解き、変身も解除して周囲を見回す千種。
そして外套のフードを被り直しつつ、無線機に向かって声をかける。
「マジにどこにあるんだ? 結構歩き回ってるのに全然見つかんねェぞ、サンジェルマン」
すると、無線機からややノイズ混じりながら通信相手の声が聞こえて来た。
『その森に入った者たちは皆、方向感覚を乱されてしまう。詳しい原因は不明だが、恐らく王の証が関係しているんだろう。証が納められている場所に立ち入れないようにする何らかの力が働いているんだ』
「何らかの力ってのは?」
『推察するに、近付けば近付く程に強い力場が発生して道に迷う……という仕組みになっているんだと思う』
「って、それじゃあどうやって行けば良いんだよ? そのせいでつい今マキナイトに会っちまって戦ったんだぜ?」
一瞬の間の後、再びサンジェルマンから返事が届く。
『ミナくんのラレーヌロッドが役に立つはずだ』
「ドローンビートルですか? 実はさっき試したんですけど、ドローンも無力化されちゃいまして……」
『いいや、そうじゃない。千種くん、ファイアフライのギミックアンバーを彼女に渡してくれ』
首を傾げつつも、言われた通り二人はギミックアンバーを受け渡し、ミナがラレーヌロッドにそれを装填。
トリガーを引くと、杖からホタルのような小さな光の球体が飛び出して、木々や草葉に纏わりつく。
その無数に溢れる光球の中に、赤く明滅して道筋を示すものがあった。
「なるほどね」
「今のすごく探偵っぽくないですか!!」
「わかったわかった」
ファイアフライは元々索敵など探査機能を持っている。これを利用する事で、力場の発生源の方角を迷わず辿れるということだ。
「ミナ、チグサ。そうと分かれば先を急ごう」
「そうですね」
「おうよ!」
赤い光を目印として、一行は進み始める。
場所がはっきりしているためか、今度は力場に撹乱される事なく順調に歩んで行き、そして危なげなく赤い光の集中する目的地に到着した。
そこにあるのは、一本の大きな樹木だ。
「この木に隠してあるって事か?」
「いや……どうやら『下』のようだ」
「下?」
ソーマに言われて千種とミナが視線を下ろせば、地面にも赤い光が四角い図を作るように集まっている。
千種はもしやと思い土を手で払ってみると、そこには明らかに人工的な石造りの戸があった。
しかし取っ手はなく、力付くで開けようにもどうする事もできない。
「どうする、ブッ壊すか?」
「崩れたら降りられなくなるかも知れない」
「まぁ、だよなぁ。何か仕掛けでもありそうなモンだが……」
ミナはその言葉にピクリと反応し、目を輝かせてフンフンと意気込む。
「探偵らしく調べてみましょう!」
「いや俺ら別に探偵じゃないし」
「では怪盗らしく!」
「怪盗でもねぇ」
「もう、ワガママな人ですね」
「これって俺が悪いの?」
頼りにはなるが度々意味の分からない言動を繰り返すミナに呆れた言葉を漏らしながら、千種も辺りを調査し始める。
するとすぐに、石戸の前にある木の裏側のウロの中に、小さなスイッチを発見した。
それを入力してみれば、地面の石戸が音を立てて開いていく。
「随分大掛かりな仕掛けだな」
「どうやら僕らの探し物はこの中にありそうだね」
三人は開いた先にある階段を下り、その先にある真っ暗な広間と思しき場所へと辿り着いた。
中は明かりがついておらず、ミナはすぐに再度ラレーヌロッドでファイアフライの機能を作動させる。
すると。
「……え?」
緑の明かりが灯った室内の天井が、大きな無数の『殻』のようなものでビッシリと埋め尽くされている事に気付いた。
「なん、だ!? これは!?」
「フジツボ……!?」
驚いている間に、そのフジツボに似た何かからチカッと光が点灯するのを見て、言葉にできない寒気を感じた千種は即座にギミックアンバーを取ってドライバーに装填する。
《
「変身!」
そして殻の中から『黒いもの』が落下したかと思うと、それは全身がフジツボのようなもので覆われたアリに似た容姿の人型となって立ち上がり、三人を睨んで飛び掛かって来た。
「オラァッ!」
マントを脱ぎ捨て、アトラスアーマメントに変身を完了したダイナストの拳が、そのアリ怪人の顔に叩き込まれる。
続いて爆発。赤い炎が咲き、アリはよろめく。
しかし、顔部のフジツボが爆ぜただけでほとんど負傷はなく、その上僅かなダメージさえその場で即座に再生してフジツボさえも元通りになっていた。
驚く間にアリ怪人は硬い拳で殴りかかり、命中する前にレギウスが氷壁で攻撃を防ぐ。
だがその守りの壁も、たった一撃で大きな亀裂が走ってほとんど使い物にならなくなってしまう。
「そんなバカな!?」
二撃目で、氷は完全に粉砕される。
アリ怪人の勢いはさらに増し、鞭のようにしなる蹴りがラレーヌを吹き飛ばし壁面に叩きつけ、拳打は両腕を交差させて身を守ろうとしたダイナストを捻じ伏せる。
さらにレギウスが氷の壁で四方を閉じ込めても、再び力技で突破されてしまった。
「く……さっきの貴族たちよりよっぽど強い!」
「こんなマキナイトがいるだなんて!?」
――いや、そもそもこれは
全員の頭の中にそんな疑問が浮かび上がるが、答えは出ない。考えたところで分かるはずがない。
今、最も優先すべき事は。
「手ぶらでは帰れねェ! こいつが王の証を守ってんなら……ブッ倒して証を見つけて帰る、そんだけだ!」
「それは、そうだが……!」
レギウスの視線の先にあるのは、天井のフジツボ。それが一斉に光り出し、同じ姿の怪人が次々と落ちて来る。
数は二十を超えており、ゆらりと立ち上がって全員で襲いかかって来た。
「流石にこの数では無理でしょう!?」
「いや、やれる! 信じろ!」
言いながら、ダイナストは取り出したポムグラネイトの栓を開け、敵軍の頭上に投げる。
匂いに釣られ、見上げるアリ怪人たち。直後、朱い光を帯びたその瓶が爆発し、中の液体が降り注ぐ。
アリたちは腕や顔にかかったそれを長い舌で舐め取ると、先程のマキナイトたちと同様に苦しみ始めた。
「効いた!?」
「レギウス、今だ!」
ハッとしたクワガタの戦士は双剣を地面に突き刺し、アリ怪人集団の両足を凍結せしめる。
瞬間、ダイナストも床に拳を打ちつけ、接地面を通してオレンジ色の光が流し込まれていく。
そして、爆発。下半身の千切れ飛んだ怪人たちは、その場で血を撒き散らして倒れた。
だが先程の再生能力を見ていたので、ダイナストたちはそれでも油断しない。
《
「こいつで終いだ」
《アトラスビートル・ダイナスティキャノン!》
ギミックアンバーをセットしトリガーを引くと、再生し始めていた怪人たちが爆炎によって一掃され、ようやくその場から敵影がいなくなる。
《
ダイナストは一瞬息をつきつつも、また何か起こらない内に急いでレギウスたちと共に広間の奥へ向かう。
そうして、一行はようやく機械に囲まれた透明なケースのようなものの中に浮かぶ指輪を発見した。
「これが王の証、指輪か!」
どこにも取っ手のようなものはなく、機材の操作の方法も分からないので、ダイナストはケースを拳で叩き壊して中身を取る。
そのダイナミックなスタイルにミナは仮面の中で目を丸くし、直後に「手段に怪盗らしさがないです!」と不服そうに頬を膨らませ唸った。
「まぁ良いですけど。急いで帰りましょう」
「……いや、待てよ」
ふと、レギウスは顔を上げる。
「この遺跡、入口だけでも埋めておいた方が良いんじゃないかい? 指輪を失ったのなら力場も消えているハズだ」
「誰かがここを見つける可能性がある、ということですね」
「だな。俺が爆破するよ」
もし再び先程のフジツボが稼働したら、今度は倒すのに苦労するかも知れない。
そう思ったダイナストは、施設内を丸ごと爆破して入口も埋め立て、完全に封鎖した。
これならば誰も中に入れないだろう。一行は安堵の後、再び外套を纏ってパスを繋いで立ち去る。
石戸を開くスイッチのあった木が、見るも無惨に倒れているのにも気付かず。
数時間後。
王都行きの旧式機関車が通る貴族領『パルメル』付近にある鉱山、その廃坑にて。
周囲を警戒しながら、まだ10歳程の一人の幼い少女が、ボロ布をマントのようにして坑道の入口を目指して駆けていく。
紙袋の中には食糧がたっぷりと入っており、彼女は大事そうにそれを抱えて走っている。
そして、入口に辿り着いたその時。
「……え?」
その手前で行き倒れた男の姿を発見し、荷物を置いて大慌てで声をかけた。
「ねぇ、わたしの声聞こえる!? 大丈夫!? しっかりして!!」
身体を揺さぶってみるが、息はあるようだが返事はない。
大変だ大変だ、としきりに呟き、少女は再び荷物を持って廃坑の中に入っていく。
倒れていた人物の持つ、折れた剣――ファングレイザーには気付かないまま。