森の遺跡から生還した後。
千種たちはすぐにサンジェルマンの領土へと戻り、シルキィや瑠璃羽と共に集まって、屋敷の中で指輪を渡して状況を報告していた。
「ふむ、遺跡の中にもマキナイトがいたのか……」
「アレが本当にマキナイトなのかどうかは分かんねェけどな。そもそも、話の通りなら死んでなきゃおかしいだろ?」
長期間血液を摂取できなかった場合、そのマキナイトは凶暴化の末に死亡する。
アルケーが千種たちに語った内容が正しければ、あの遺跡に留まっていた以上そうなっていて然るべきなのだ。
誰かが密かに遺跡に侵入して血を提供した、というケースもあり得ない。それなら、千種たちがスイッチを押す前に石戸を開けた形跡があるはず。
「しかしポムグラネイトには反応している……ふむ」
サンジェルマンもその考えに至り、顎に手を添え考え込む。
心当たりでもあるのだろうか。尋ねる前に、ソーマが口を出した。
「今の話はアルケーにも共有した方が良いだろう」
「そのつもりだ。一緒に来るかい?」
彼の提案に千種たちは頷き、同行する。
そうしてアルケーの部屋で先程と同じ報告をすると、彼女は目を丸くし息を呑んでいた。
「……そのマキナイトは、どこから現れたのですか?」
「なんか遺跡の天井にフジツボみてーなのがビッシリあってよ、そこから落ちて来たんだ」
それを聞いて、彼女もまた黙り込んで考え込む。
ミナは首を傾げ、率直に尋ねた。
「何か知ってるんですか?」
サンジェルマンとアルケーは互いに顔を見合わせ、そして頷く。
「……ついに、お話しなければならない時が来たようですね」
「おいおい、この期に及んで隠し事してたのかよ?」
「ごめんなさい。私自身、知っている内容や聞いた話に確証を持っているワケではなく、みなさんを混乱させたくなかったのです。事実を確かめてからでないと、余計な誤解や不和を生むと思って……」
「まぁ、それは分かるけどよ。何なんだ? 知ってる事って?」
千種に問われて、アルケーは一度深呼吸し、再び静かに口を開いた。
「結論から言います。あなたたちが出会ったのは、厳密にはマキナイトの祖でありその頂点に立つ者たち……『クドラク』という種です」
「クドラク?」
「特徴から見て、デッドアントの原型となった『バーナクル』で間違いないでしょう」
続いて、サンジェルマンが問う。
「ジルやエミディオが『最強のマキナイト』を名乗っていると聞いて、変だと思わなかったかい? 彼らより上の立ち場の七大真祖がいるのに、どうして最強を名乗っているんだろうって」
「……そもそも公爵は全員マキナイトではなく、その上位種のクドラクだから……」
話を聞いたソーマたちはそう結論付け、戦慄する。
三人がかりでなければ敵わなかったあのジルをも超える脅威、それがクドラク。
そんな恐ろしい敵を相手にしなければならないのか。ソーマが息を呑み、ミナも身震いする。
「私も七大真祖がクドラクとして戦う場面を直接見たワケではないので、どれ程の力を持っているのかは知りません。しかし、エミディオがオルロックに従順である以上、彼より上の力を持っている事は予想がつきます」
「まさかとは思うけどよ、残りの場所にもバーナクルってのがいるんじゃないだろうな?」
「王の証を守るために配置されたのだとしたら……否定はできません。皆さんが見たフジツボに似たものは、中身の個体を長期間保存するためのカプセルだと思われますし、侵入者に反応するよう最初から仕掛けていたのかも……」
「逆に言えば、そうまでして守りたいモンってワケだ」
千種はそう呟き、不安げに俯くシルキィたちの方を振り返ると、唇をニッと釣り上げた。
「連中はまだ俺たちが生きてる事も、王の証が狙われてる事にも気付いてないハズだ。有利なのはこっちの方だろ。太陽が復活すりゃ、連中は纏めて灰になるんだしよ」
マキナイトが太陽に弱い以上、その前身であるクドラクもまた太陽の光によって倒せるはず。
事実、ヴラディスはその太陽を隠しているのだ。弱点である事は疑いようがない。
まだ希望は残されている。それを千種によって示されて、彼らは再び戦意を取り戻した。
「さて……翌日以降は、山岳地帯の方に向かって欲しい。これを持ってね」
再びサンジェルマンが注目を集め、半分に切れたタロットカードを取り出すと、それを千種に渡す。
「あんたのカード? 俺たちじゃ使えねェだろ?」
「持っているだけで良い。恋人のカードは、残り半分のある場所までワープする機能があるからね。山の辺りには生存者が隠れている可能性があるから、証の回収が終わったら手早く避難させておきたいんだ」
「なるほど」
得心して頷き、カードをしまう千種。
こうして今回の経過報告と作戦会議は終わり、各々解散し始める。
そんな中、貂は一人椅子に座って思索していた。
「クドラク……」
「貂ちゃん、どうしたの?」
「いや、ちょっと……ね」
彼女にしては珍しい曖昧な返事を聞いて、瑠璃羽は首を傾げながらも共に部屋を去っていく。
※ ※ ※ ※ ※
――それは、シモンがとある駅で機関車を待ち伏せしていた時のこと。
「来たか」
貴族たちの企てを潰すため、ファングレイザーを手に運転席の扉をこじ開け侵入する。
だが、その時だった。
開いた瞬間に細身の剣が飛び出し、切っ先がシモンのマントの肩の部分を浅く斬ったのだ。
「なに!?」
見れば、そこには一人の男だけが立っている。客席の方にも、誰もいない。
そしてその人物とは、エミディオだった。
「黒騎士、悪行はここまでだ。BOAアサシン、アクティベート!」
「くっ!」
《
邂逅するなり、二人は同時に姿を変える。
シモンは超邪甲騎士ルーガルー・タイラントに。
対するエミディオは、全身が黒い装甲で覆われている、口部に長いホースの付いたガスマスクを装着した怪人になっていた。
腰部背面には小型のタンクが配備され、二本の短剣を手に低い体勢で構えるその姿は、騎士というよりも暗殺者のように見える。
「まさか貴様が出張って来るとはな。そんなに俺を殺したかったのか」
「当然だ愚か者めが! お前のような不穏分子を、この私がいつまでも野放しにするワケがなかろう!」
「フン……なら、一人で来た事を後悔しろ!」
エミディオ・フォン・クラトカ侯爵は、かつて四傑伯最強のジル・ド・レスピナスを唯一抑止できた戦力と言われていた。
しかしそれは飽くまでも『配下のマキナイトを伴った上で』の話であり、単独での戦闘能力では彼よりも劣るとも評されている。
ならば、負けるはずはない。ルーガルーはそう思いながら糸を放出し、エミディオの両足を拘束してファングレイザーを横薙ぎに振り被った。
だが、渾身の一振りは彼の持つ短剣によって、あっさりと受け止められてしまう。
「う!?」
「だから愚かだと言うのだ。私一人を倒せる程に自分が強いなどと、本気で思っていたのか?」
その言葉と同時に、腰部のタンクから伸びるホースと肘裏に備わった円形の接続口がジョイントされ、そこを通してエミディオの両掌にある噴射口からガスが散布される。
直後にガスを浴びた蜘蛛糸がボロボロになって崩れ、続く前蹴りがルーガルーの胸を突く。
「ぐあぁっ!?」
「お前如きなど、私だけで充分なんだよ!!」
これがエミディオの怪人形態、スティンクバグ・マキナイト・アサシン。カメムシの中でも『サシガメ』と呼ばれる肉食性の種ものだ。
タンク内で生成される幾種もの特殊液剤を調合し、毒ガスを撒いて敵軍を速やかに殲滅したり、毒液を付着させた短剣や毒手による暗殺など多岐に渡る戦略・戦術を使い分ける能力を持つ。
先程の糸を崩壊させたのも、その力である。
「毒風卿の名は伊達ではない……お前も今までの人間たちと同じように、苦しみのた打ち回って悶え死ね!」
スティンクバグ・アサシンは再び、掌からガスを放つべく腕を前に掲げる。今度は、ルーガルーに向けて直接だ。
しかし、その瞬間。邪甲騎士は後ろに飛び退きながらファングレイザーを力強く投擲する。
苦し紛れか、と思いながらアサシンは悠々と身を反らしてかわす。
だがそこへ蜘蛛の糸が飛んで脇を通り、ファングレイザーを引き寄せて背部のタンクを斬り裂きつつ、今度は腕と足の両方を一度に拘束した。
「む……」
「どうだ。そのタンクさえ破壊すれば、毒など使えまい」
言いながらルーガルーは左腕のタランチュラシールドのサブアームを展開、そのまま突進し、アサシンの心臓を狙う。
タンクを壊された以上、彼の言った通りガスは出せず糸からは抜け出せない。
では、どうするか?
「
まるで簡単な謎掛けに答えるかのように、余裕の態度でスティンクバグ・アサシンが宣言すると、その姿は蒸気に包まれ変質する。
そうして現れたのは、異様に野太く屈強な両腕と全身を埋め尽くす鈍重な装甲が特徴的な、藍色の重装騎士。
腕甲の先端からは鋭利な刃が伸び、腰の両側には黄色い球体状のアクセサリーを何個も提げている。
その姿は、まさしくタガメそのもの。名はスティンクバグ・マキナイト・レトセラス。
タランチュラシールドの刃はスティンクバグ・レトセラスの分厚い鎧の前に砕け、そして糸を無理矢理千切った剛腕が、ルーガルーの身体を木の葉より容易く吹き飛ばす。
「がっ!?」
「つくづく愚かだな。お前、
心底うんざりしたようにそう言うと、黄色い球体を一つ千切り、ルーガルーの前に放り投げる。
瞬間――発光した球体から止めどなく水が溢れ出し、邪甲騎士の周囲一帯を水で構成された球体で包み込む。
「こ、れは……!?」
「アクアリウム・ケージ。今、ここは私のテリトリーとなった」
これこそが、エミディオがジルを完封できた理由。
ただ毒ガスを発したところで、スコーピオン・エンペラーの重力やスコーピオン・デスストーカーの雷を使われて無力化されてしまうだけであり、暗殺やパワーで押し切る事も不可能だ。
だが、この水の檻ならば。
引力操作も雷撃もジル自身の血によって発生する以上、水と混ざり合って溶け込んでしまえば無力化される。
それこそジルの最大の弱点であり、エミディオはそこを突く事ができる上で充分に力を持つ戦力だった。
「そしてジルを一方的に抑えられるという事は、人間やお前のようなカスの出来損ないを殺すのにも最適というワケだ!!」
言いながらレトセラスは水の檻に入ると、見た目からは想像もできないスピードで自由自在に泳ぎ始め、四方八方からルーガルー・タイラントを裂く。
為すすべなく一方的にやられてしまい、最終的に黄色の球体が砕けて水牢が形を維持できず地面に染み込んでいくのと同時に、シモンの変身も解けてしまう。
「く……ガァァァッ!」
それでも、とシモンはファングレイザーでレトセラスの胸を横一線に斬るが――傷は浅く、しかもファングレイザーは半ばで折れてしまった。
カメムシの騎士は嘆息し、シモンの身体を突く。ただそれだけで黒騎士は丸めた紙クズのように飛んでいき、ファングレイザーを手放して壁面に叩きつけられる。
「なるほど……これが、噂の黒騎士か。思った通り、大した相手ではなかったな」
あっという間に戦いは終わりを告げた。黒騎士の剣を足蹴にし、変異を解いたエミディオがサーベルを手にゆっくりと近付いていく。
そして、抜いた刃を突きつける。
「終わりだな。では、死ねい!」
そのまま切っ先で胸を突き刺そうとした、次の瞬間。
目を開いたシモンは、エミディオが蹴り出して手元まで来たファングレイザーを拾い上げ、サーベルを圧し折った。
不意を突かれたエミディオはよろめき、さらにシモンのタックルを受け思わず転倒。
走り去っていくその背中を見て、追いかける事はせずただ一度舌打ちをした。
「武器も力も失っている上、あの傷では助かるまい……勝手に野垂れ死ぬが良いわ」
鼻を鳴らしてそう独りごち、エミディオは王都へと帰っていく。
「ハッ!?」
再び意識が覚醒した時。
シモンの目の前には、見知らぬ天井が映っていた。
周囲を見回せば、どうやら簡素な木製の家屋にいるようで、外は薄暗くやや靄がかかっている。
「ここは……?」
ベッドから身を起こしながら、シモンは自らの記憶を辿っていく。
確かエミディオと戦い、完敗してしまったはず。その後は必死に走って逃げ続けた。
そして段々と意識が遠のいていき、恐らく力尽きてしまったのだろう。
では、ここはどこなのか。一体なぜベッドにいるのか。
「あーっ! お兄さん、気が付いたんだ!」
その理由を考えていると、突然ドアが開いて一人の幼い少女が声をかけて来る。
手には果物の入った紙袋を持ち、ニッコリと笑みを浮かべてシモンの方に駆け寄って行く。
「ビックリしたよ~、山の中であんなに傷だらけでぐったりしてたんだもん。わたしが見つけてなかったら危なかったと思うよ? 一日中寝てたし。あ、わたしはベニー! よろしくね!」
「そうか。随分迷惑をかけた、ではな」
「えっ、もう出ていっちゃうの!?」
身を起こしてベッドから出ようとするシモンだが、全身の傷の痛みで眉をしかめ、その場を動けなくなってしまう。
「ほらぁ、無理しちゃダメ! 本当にすごい大怪我なんだから!」
この傷ではまだ動けないか。
そう思ったシモンはベニーに促されるまま、大人しくベッドに腰掛けた。
「ここはどこなんだ?」
「山小屋だよ。わたしたちの集落は廃坑を利用して作った穴倉にあるんだけど、そこに病人とか怪我人を入れておくワケにはいかないから。目立たないようにカモフラージュした小屋を近くに建てて、診療所にしてるんだ」
「貴族の目を欺くためか……」
「うん。で、お兄さんはどこから来たの? ていうか、どこの生まれの人?」
「俺は……」
口を開こうとして、しかし閉じてしまう。
一体どうしたのだろうとベニーが首を傾げると、再びドアが開いた。
「おいベニー! 聞いたぞ、また余所者なんか拾って……」
「あ、ヘーケ兄?」
水の入った桶を持っているヘーケと呼ばれた少年は、シモンの顔を見ると徐々に目を剥き、その桶を思い切りシモンに向かってぶち撒けた。
当然、彼の身体は水でずぶ濡れになってしまう。
ヘーケはさらに、自らの人差し指を突きつけて叫んだ。
「今すぐ出ていきやがれ、この人殺し!」
「ちょっと!? どうしたの!? いきなり何言ってんの!?」
「俺は知ってる! 見た事あるんだ! こいつはあの黒騎士シモンだ……レジスタンスだった俺の兄貴は、ゲンジはこいつに捕まって帰って来なくなったんだ!」
「え!?」
「お前はマキナイト共の仲間だろ! 出て行けよ、ここはそんなヤツのための寝床じゃない!」
怒りに満ちた目でシモンを睨むヘーケと、二人の顔を見比べるようにキョロキョロとするベニー。
やがてベニーは、戸惑いながらもシモンをかばうべく立ち塞がる。
「待ってヘーケ兄! 本当にマキナイト側なんだったら、どうしてこの人はこんなに傷だらけで行き倒れてたの!? おかしいじゃん!」
「知るか! とにかく出て行け! ここには、貴族の手先なんかを置いておくような場所はない!」
激昂して睨むヘーケ、今にも泣き出しそうなベニー。
するとシモンはよろめきながらも立ち上がり、小さく頷いた。
「分かった、すぐに出る。世話になった」
「あ……」
横腹を押さえてやや荒く息をつきつつも、二人を振り返る事なくシモンは去っていく。
「俺は一体何のために戦って……いや、何のために生きているんだ……?」
歩きながら自問する。
自分は何者なのか。
どこから来て、どこへ行くのか。
ベニーという少女の問に、シモンは答える事ができなかった。
もしも、戦う事だけが自分の全てだと言うのなら。
今の自分に、一体何の価値があるのか。
「寒い……」
集落から離れた暗い廃坑の洞窟の中、シモンはひとり地面に座り込み、眠りにつく。
※ ※ ※ ※ ※
シモンが診療所を出たのと、時を同じくして。
パスを繋いで山岳地帯にやって来た千種たちは、周囲の捜索を行っていた。
前回同様、マキナイトにバレないようにと外套も纏っている。
そうして歩いていく内に、一行は廃坑の洞窟へと辿り着く。
「こんなところに集落があったのか」
番兵やそこに住む人々の姿を目にして、ポツリとソーマが呟く。
貴族の魔の手から逃れるために、こんな場所でひっそりと暮らさざるを得ないこの状況。それを悲しく思いつつも、王の証さえ手に入れれば覆る事を思い出し、ミナは己を奮い立たせる。
三人は番兵の男の方に近づいて声をかけようとして、しかし当の本人に遮られた。
「そこで止まれ! 怪しいヤツらめ、何者だ!」
「レジスタンス組織、X-ROSSのメンバーだ。故あってこの近辺を調査している」
「なにぃ? わざわざこんなところまでレジスタンスが来るワケがない、お前ら貴族のスパイだろう!」
ザワッ、と住民たちの間で動揺が広がっていく。
ミナは目を丸くしつつも、努めて冷静に、丁寧に振る舞う。
「そもそも集落の中までにお邪魔するつもりはありません。ただ、近くを調べるために道をお尋ねしたいだけですので」
「フン! 怪しいヤツらめ、そう言って貴族領に戻って、俺たちを売るつもりだろう!」
「なっ……何を言うんですか!? 人間同士でそんな無意味な争いをして、どうなるというんですか!?」
「そういう手で貴族に媚びて生き延びようとする連中を、俺たちが何度見たか! 全員引っ捕らえて牢にブチ込んでやる!」
番兵はそう言って、腰に帯びた剣を抜く。
その瞬間。
「オイ」
銃声と共に、その刀身が砕けて地面に落ちる。
状況を静観していた千種が、ダイナシューターで発砲したのだ。
「こっちはちゃんと話し合おうとしてんだぜ、なのにいきなり得物を抜くってのはどういうつもりだ?」
「う……!」
「俺らは人間だろうが。決めつけてかからずに、まずはちょっとは冷静になって――」
千種が最後まで言葉を終える前に、その後頭部に破砕音と共に衝撃が走る。
見れば、そこには酔っ払った男が割れた酒瓶を持っており、彼がそれを使って殴打したのだという事が見て取れた。
「へ、へへへ……やってやったぜ」
酔っ払いの男が笑いながら言い、番兵の男もどこかホッとした様子で笑みを零す。
直後、ほとんど無傷の千種は酔っ払いの方に掴みかかり、その身体を地面に押し倒した。
「いぎっ!?」
「別に信用できねェのは仕方ねェさ、こんな世の中で一から百まで全部信じて貰えるとは俺も思っちゃいない。こりゃ当然の事だろうよ。けどな」
番兵や住民が呆然とする中、千種は酔っぱらいの胸倉を引っ掴んで思い切り壁に叩き付け、その瞳を睨む。
「そんなに勇ましく振る舞うのが好きなら、こんな辺鄙なところに引きこもってないでマキナイトに特攻でも仕掛けに行きやがれ。強く出られンのは人間相手にだけか? なぁ?」
「うぅ、うるせぇ! 何の役に立たない、レ、レジスタンスもどきのくせにぃ!」
「だからそういうタンカをマキナイトに切れってんだよ」
そう吐き捨てて乱暴に手を離すと、男はよろよろと尻もちをつき、番兵の後ろに逃げ隠れる。
千種はフンと鼻を鳴らして、くるりと踵を返した。
「行こうぜ。自力で手がかりを探そう」
「ああ、こんなところにいたら僕らまで腐ってしまいそうだ」
ソーマも失望に満ちた眼差しを集落の者たちの方に送った後、ミナを伴い去っていく。
そうして歩き続けた後、ミナは突然「ごめんなさい」と頭を下げた。
「あの人たちはただ不安と恐怖に苛まれているだけなんです。元々住んでいた場所を追いやられて、まるで閉じ込められてるみたいにこんな場所で暮らして……」
「大丈夫だって、そりゃ俺も分かってるよ。あんたが謝る事じゃねェ……ん?」
ふと、足にカランッと何かがぶつかった音が聞こえ、千種は視線を落とす。
そこにあったのは、半分に折られた剣のような物体だった。そして、彼とソーマはそれに見覚えがある。
「これは……ファングレイザー!?」
一体なぜこれが、こんな山道に。
困惑しつつも、千種はすぐにサンジェルマンへと連絡を取った。
『千種くん、着いたのかい?』
「シモンがここに来てるかも知れない」
『……なんだって!?』
それを聞いて、サンジェルマンはすぐに恋人のタロットの力で転移し、地面に落ちたファングレイザーを拾い上げる。
「確かにこれは彼のものだ。だが破損しているという事は……まさか、やられたのか!?」
「血痕もあるが、これは完全に乾いた後だ。身を隠しているのかも知れない」
「急いで彼を探してくれ、ここでシモンを失うワケには行かないんだ!」
普段の冷静な姿からは考えられない程、血相を変えてサンジェルマンは言い放つ。
するとソーマはずっと気になっていた事を、じっと見つめながら問いかけた。
「教えてくれ、サンジェルマン。あの男は一体何者なんだ? どうして、あなたはそこまで必死になっている?」
問われた本人はそれを聞いて落ち着きを取り戻し、深呼吸をしながら頷く。
「彼の正体は……クドラクを討ち滅ぼすために、ある男の細胞を使って私たちの手で作り上げた、最初で最後の人造人間……マキナイトハンター『クルスニク』だ」