サンジェルマンの領地、その研究施設にて。
シルキィをリーダーとした蒸機技師の研究グループと瑠璃羽及び貂は、新たな機甲虫の製造に取り掛かっていた。
彼女らの目の前にあるのは、横に並んだ長い二本の大アゴを伸ばす機械のクワガタ。そして、それを組み込むための小型機械だ。
「これができれば、きっと貴族との戦いも楽になりますよね」
「うん。地下の方も進捗状況は悪くないし……問題は
瑠璃羽の言葉にそう答えて、シルキィは一枚の図面に視線を落とす。
そこに描かれているのは、縦に二本の角を生やした機甲虫。ダイナスト用、とも書かれていた。
公爵たちとの直接対決の可能性を考慮した、アトラスアーマメントを超える力を求めたものである。
しかし。実物がある方に比べ、こちらの成果は芳しくなかった。
「うぅーん上手く行かないー! そもそもアトラスアーマメントがダイナストの形態で一番の出来だったからなぁ……アレ以上となると、どうしたら良いんだ……」
腕を組み、頭を悩ませるシルキィ。瑠璃羽も貂も、他の技師たちもアイディアが浮かばない。
気を取り直し、一同は再びクワガタの完成を目指して行動を始めるのであった。
「……それで、例の黒騎士を倒したと」
「些事ではございますが、報告が必要かと思い参りました」
シモンを倒し、王都へ帰還した後。
エミディオはオルロックの前で跪き、問題解決の報告を行っていた。
これでもう妨害を受ける事なく、レジスタンス討滅作戦を進行させる事ができる。
しかし、主たるオルロックは訝しげにエミディオの顔を見つめ、思索しているようであった。
「お前らしくない判断だな、エミディオよ」
「はっ……? と、申しますと?」
「いや、別段責めているワケではないのだ。ただ、確かにお前の言う通りこれは小事ではあるし、黒騎士は見逃しても勝手に死ぬ状況であったが、それでも反逆者相手に
その指摘を受けて、エミディオはハッと目を剥く。
ダイナストとその一味は処刑されているが、X-ROSS自体が全滅したワケではない。
であるなら、万が一にも生き延びた黒騎士が、例えばバベッジの弟子の蒸機技師と合流して新たな力を得てしまったら。
その時は、最大の脅威として貴族の前に立ちはだかるだろう。公爵たちを脅かすまでは行かなくとも、計画に支障が出る恐れはある。
「ぐっ……!!」
エミディオは今、自らの内から湧き上がる怒りと憎しみに歯を食いしばって耐えていた。
あまりにも迂闊な自分自身の判断、王にすべき
黒騎士は、あの場で確実に始末しておくべきだった。言い訳しようもない自分のミスにただただ腹を立て、しかしそれを押し殺してオルロックを見上げる。
「一応念を入れ、部下に死体の捜索を命じておきましょう。そして、もしも生きているのなら今度こそ確実な死を黒騎士に」
「それでこそだ」
一礼の後に、エミディオは退室。
そして足早に歩みを進め、思考を続ける。
黒騎士は今どこにいるのか。あの位置から移動するとすればどこまで辿り着くか。どこに留まるのか。
「なぜだ? なぜこんなにも不安になる……!?」
そう都合良くレジスタンスと邂逅するとは考え難いはずなのに。
何か見落としがあるような気がして、胸騒ぎが収まらない。
「やはり私自ら出陣するか」
今度こそ、確実なトドメを刺すために。
エミディオは部下を引き連れ、旧式機関車で飛び出した。
※ ※ ※ ※ ※
一方。
鉱山の集落から移動した千種たちは、地面に落ちていた破損状態のファングレイザーを回収した後、歩き続けて山の中の小さな家屋に辿り着いていた。
「山小屋か?」
「人が住んでいるようだが……」
窓から見える明かりに気付いたソーマはそう言って、扉の前に立ちノックする。
するとすぐに扉が開いて、幼い少女と少年が顔を出す。
「あ、こんにちは。どちら様ですか?」
「チッ! なんだなんだ、今日は余所者がよく来る日だな」
「どうぞどうぞ、中に入って下さい」
屋内に通された後、ミナは彼らと机に置かれた道具を見て、小首を傾げた。
「医療器具があるようですが……子供二人だけで?」
「オイコラ! 俺をガキ扱いするんじゃねぇ!」
声を荒げて抗議する少年だが、そんな彼の発言を少女が両手で塞いでしまい、笑みを浮かべて頭を下げる。
「えっと、普段はちゃんとお医者さんの先生がいるんです。私はそのお手伝いで……あっ、私はベニーです!」
「ご丁寧にありがとうございます。我々はレジスタンス組織X-ROSSのメンバー、私はミナです」
レジスタンスと聞くと、少年はハッと目を剥いて大人しくなり、自分も「俺はヘーケだ」と名乗った。
その名前を耳にして、サンジェルマンは興味深そうに眉を上げる。
「君はもしかして、ゲンジくんの弟の?」
「えっ、兄貴のこと知ってんのか!? いやでも、兄貴は黒騎士のヤツに捕まって殺されたハズじゃ!?」
「彼なら元気だよ、君の事を心配していた。こっちの用事が終わったら会いに行くかい?」
「……アンタ、何者だ?」
訝しみつつも興味を惹かれたヘーケは、冷静に話に耳を傾ける姿勢になった。ベニーもまた同様に。
これなら集落に籠もっていた者たちと違い、落ち着いて話ができそうだと思い、千種たちもある程度の事情を打ち明ける。
「スモーキー・ヴァーニーはマキナイトじゃなくて、人間側の味方!? しかも仮面ライダーって生きてたんですか!?」
「ウ、ウソだろ……? いやでも、本当に敵なら問答無用で襲われてるよな……」
本当に貴族の手の者ならわざわざ腰を据えて話し合って不意打ちするなどという真似をしなくても、正面からさらえば良い。まして、相手は子供なのだから。
意外にも落ち着いた態度のヘーケ少年に感心しつつ、千種は彼らに尋ねる。
「今俺たちは……簡単に言うなら、マキナイト共がこの鉱山に隠したお宝を探してるんだ。それさえ揃えりゃ、人間は勝てる。何か心当たりとか知らねェか?」
子供たちは唸って考え込み、自らの記憶を辿っていく。
そうして先に顔を上げたのは、ヘーケだった。
「もしかしたらアレの事か……?」
「アレって?」
「ほら、ここから少し登った途中のところに洞穴があってさ、その奥に変な祠がポツンと残ってるだろ。怖いし気味悪いからってみんな近付かないけど」
「あぁ~アレかぁ! 確かに何かあるとしたらそこかも!」
ベニーの方も彼の言葉に同意し、それを聞いて千種たちは礼を述べた後に早速出立の準備を始める。
だがそこへ、再びヘーケが口を出す。
「なぁ、俺に案内させてくれ。レジスタンスの役に立ちたいんだよ」
「それはありがたいが、大丈夫なのかい? もしマキナイトに出くわしたらどうする?」
「足は引っ張らねぇから! 多分、できるだけ!」
とにかく自分に任せて欲しいと豪語するヘーケに対し、危険があればすぐに逃げることを条件としてX-ROSS一同はこれを承諾。
意気揚々と自分も準備をするヘーケを見ながら、ふとベニーは声を上げた。
「あのさ……黒騎士さんも、探した方が良いんじゃないかな?」
「アイツに会ったのか!?」
「うん。大怪我してたから、心配なの」
ようやく見つかったシモンの手がかり。
生存が確認できた事で千種たちはホッと息をつくものの、黒騎士の名が出た途端にヘーケの唇はへの字に曲がる。
「さっきも言ったろ! アイツのせいで兄貴は捕まって……!」
「それは違う」
そう言って横から口を出したのは、サンジェルマンだった。
彼はヘーケたちに対して何かを言いかけて口を開いたが、しかし頭を振って「いや、詳しい話は後にしよう」と話を区切る。
「今はとにかく、鉱山を案内して欲しい」
「分かったよ。ついて来てくれ」
「ここだ。この穴の奥に、祠がある」
山をさらに登り、ややあって辿り着いたのは廃棄された坑道の入口だった。
地面には足を引き摺ったような跡があり、それが奥の方まで続いている。
酷く嫌な予感がして、サンジェルマンは先に走り出す。
「シモン!」
そして、発見した。傷ついて、地に伏せるシモンの姿を。
「スモーキー……なぜ、ここに……」
視線に気付くと、シモンの方もすぐに目を覚まし、身を起こす。
彼の中で薄れつつあった意識も徐々に明確化していき、サンジェルマンの肩を掴む。
「俺は……俺は一体、何者なんだ? お前なら何か知っているんじゃないのか?」
「……」
「教えてくれ、頼む……クルスニクとは、一体何だ!?」
「その名まではもう思い出しているんだね」
目を細めた後、サンジェルマンは語り始める。
己の知る真実を。
「君は我が友ジュスト・ヘルシングの細胞から私たちが作った人造人間、クルスニク。シモンというその名は、彼の父たるシモン・ヘルシングから取られたものだ」
その言葉を聞いた瞬間。
頭痛と共に、電光めいてシモンの頭の中で映像がフラッシュバックする。
冷たい箱の中で、ガラス張りの小窓から自分を覗き込む男、ジュストが最後に遺した言葉と姿が。
『良いねシモン。君の、クルスニクの使命を決して忘れないでくれ。どうか、人間を守ってくれ。
そこで再び現実に引き戻され、荒い息のまま自分の両手を見下ろすシモンは、ポツリと呟く。
「人を守るのが……俺の、本当の使命だったのか……」
「そうだ。そして、あのカプセルの中で眠っていた君を起こしたのが、私だ」
「――ならばなぜ俺に人間を襲わせたァッ!!」
腕を震わせ掴みかかり、シモンは喉が張り裂けんばかりに叫ぶ。
「貴様、全て知っていながらッ……なぜ黙っていた!? そのせいで俺は!! 知らずにレジスタンスを潰し、人の命をこの手に……!!」
「……」
「あの人との『守る』という約束も誓いも、全部俺自身の手で、破ってしまったんだぞ……!!」
最後の方は絞り出すような、消え入りかけていく声色で語るシモン。
だがサンジェルマンは、そんな彼の手を取って真っ直ぐに瞳を見つめる。
「君は誓いを果たし続けていた」
「何を……!!」
「
続いて彼の口から出て来たその言葉に、シモンは思わず言葉を失う。
「君が倒したレジスタンスも、捕らえた人間も、私が領地で保護したからだ。寿命を全うした者以外は今も生きている」
「……まさか、お前はそのために俺を目覚めさせて、貴族を欺き続けて……?」
「記憶の欠落が確認できた時にその方法を思いついた。我々が目をつけられる事がないまま人間を救い出し、守り続けるにはこれしかなかったんだ。そして今、マキナイトを討ち人間の時代を取り戻す方法も分かっている」
よろめき後退りするシモンに対して、サンジェルマンは手を差し伸べ、語りかける。
「共に来てくれ。君が必要だ」
差し出された右手を前にして、シモンはしかし頭を振った。
「……今更俺に、人間と共に戦う資格などあるはずがない……サンジェルマンの命令に人を守る意図があったとしても、俺自身が決断して人間を傷つけていたのに……」
すると話をずっと黙って聞いていたミナが、彼の顔を覗き込んで問いかける。
「私はあなたを責めるつもりはありません。そもそも全てはマキナイトの仕業であって、あなたは結果的に命を救い続けていたのですから、犯していない罪を償う理由がどこにあるのでしょう?」
「だが……俺は」
それでもシモンは手を取らない。眉根を寄せ、ミナたちから顔を背けてしまった。
どうしても自分を許せないのだろう。苦しむ彼にこれ以上どう声を掛けるべきだろうか、とミナが悩んでいると、今度はソーマが口を開く。
「僕らフェニックス一族は、ヘルシング一族の末裔だ」
「……なんだと!?」
「だからこそ、君が罪を犯したと感じているのなら、僕もそれを共に背負うよ。それでも納得できないか?」
次の瞬間、再びシモンは思い出した。
かつてジュストが遺した言葉、その続きを。
『そして、君が次に目覚めた時……世界はまだ混沌の渦中にあると思うが。どうか、生きて欲しい。戦いと使命が終わった後も……君自身の人生を、歩んでくれ』
不思議と頭は痛まなかった。
ただ、シモンの両目から、静かに涙が落ちていた。
「絶えていなかったのか、ヘルシングの血脈は……俺の守りたかった世界は、まだここに……!!」
「来いよ、シモン! この国にはお前の助けがいる!」
「ダイナスト……」
「いや、ブラムストーク王国だけの話じゃねェ! お前自身が前に進むためにも、一緒に戦ってくれ!」
ソーマにミナ、そして千種も。身分だけでなく住む星の違う人間でさえ、彼を助けるために手を差し出す。
シモンは三人を前にしてグッと唇を引き結び、改めてサンジェルマンに向き直った。
「ひとつだけ教えて欲しい。ジュストはなぜ俺をあの冷たい棺の中に閉じ込めた?」
「彼は君を息子同然だと思っていた。だから戦わせないようにするためにあの場所で
「……戦わせるために俺を生み出したのに、か?」
「それは私も思ったよ。でも当時は君の準備が万全ではなかったし……何より、私にもジュストの気持ちは良く分かる」
自分にとっても、息子に等しい存在だった。
そう語るサンジェルマンに対し、シモンはついに頷き、その手を伸ばす。
その時だった。
「こんなところで何をしているんだ、スモーキー?」
突然にそんな声が聞こえ、ゾロゾロと大勢の足音が聞こえて来る。
見れば、そこにいるのはシモンに重傷を負わせた張本人、エミディオだった。
「毒風卿……!!」
「なぜここに!?」
フードを被り直しながら、ミナとソーマが歯噛みする。
坑道の暗さや外套のせいか、それともピンチに陥っていないが故の慢心状態が原因なのか、千種たちの正体はおろか存在にさえ全く気付かれていない。
エミディオはシモンを鼻で笑い、サーベルを引き抜いた。
「フン! 死に損ないめ、よもやスモーキーを騙して再び貴族の軍門に下ろうとしたのか?」
その言葉を聞き、サンジェルマンはホッと息をつく。
どうやら彼はこちら側の素性や目的に気付いたワケでもなければ、王の証の事を知って回収しに来たワケでもないらしい。
それを理解すると、サンジェルマンはシモンに声を潜めて話しかける。
「シモン。これを」
受け取ったものは一本のベルト。
蜘蛛の姿を模した大きな白いバックルで、脚を広げ背を見せている形になっており、その背には蜘蛛の巣状のステンドグラスのような意匠が施されている。
さらに右手側の側面にはギミックアンバー装填用のスロットが備わっており、反対側には指をかけて引っ張る事で起動するレバーが備わっていた。
「これは……?」
「かつてジュストが使い、そして私が改修した『君のためのベルト』だ。これを使って共に戦ってくれ。人間の、そして君自身の未来のために」
自分の目を見つめ、静かに頷くサンジェルマン。
シモンの心の中にはもう、彼や自分を疑う気持ちは微塵も残っていなかった。
《モナークドライバー!》
ベルトを装着した瞬間にその音声が流れ、訝しそうにエミディオの片眉が釣り上がる。
それにも構わず、続いてシモンはタランチュラギミックアンバーを手に取り、それを装填した。
《
「最初から迷う必要などなかった。この命が、何のために生み出されたものであろうと」
《タランチュラ!
「俺は俺の信じる道を貫き進む!!」
巻き鍵を捻ると、黒い蜘蛛の足が展開して紫色の琥珀が露出すると共に、音声が流れてベルトのステンドグラスが発光する。
「……変身!」
《
最後に左手側のレバーを引っ張った瞬間、ステンドグラス内部のディスクが高速回転し、さらに光を放つ。
さらにシモンの身体も繭のように黒い蜘蛛糸に覆われると、そのシルエットが徐々に変化していく。
《
「ハァッ!!」
《
内側から拳でガラスのような蜘蛛糸を砕いて現れたのは、紫色のアンダースーツの上に白い装甲を装着した戦士だ。
以前のルーガルーのように、蜘蛛と彷彿とさせる八つ目に狼の耳のような形状の頭部の他、胸や腕甲・脚部などの装甲は蜘蛛の巣とステンドグラスの意匠で装飾されている。
ファングレイザーやタランチュラシールドは失われたものの、その姿は以前にも増して気高さと力強さを感じさせるものとなっていた。
「黒騎士が……バカな!? これは何の真似だ、スモーキー!?」
「知れたことだ。スモーキーはお前たちの味方ではないし、俺も既にお前たちの知る黒騎士ではない」
変身したシモンはそう言いながら、両手の拳を握って構えを取る。
「我が名はシモン・クルスニク! お前たち貴族の手から人間を守る、
創造者によって与えられた、種としての名。
それを自らの姓としたシモンは、変身した姿を仮面ライダーモナークと名乗り、そのままマキナイトたちと対峙した。
背後で千種たちも戦いの準備を始めようとするものの、モナークはそれを腕で制する。
「手を出すな。こいつらは、いや……
「たかが変身した程度で! 思い上がるなよこのクズがァッ! この私に手も足も出なかった事を、今すぐ思い出させてくれるわッ!」
憤慨したエミディオはBOAを解放してスティンクバグ・マキナイト・レトセラスとなり、さらに部下たちもマキナイトへと変異。
ダニやシラミの種などの他、スカラベやイヤーウィグなどに加え、デッドアントの姿も見える。
「ハァッ!!」
モナークはまずデッドアントを拳で叩きのめし、ハサミムシのマキナイトもダニ・シラミのマキナイトも自らの体術で尽く敵の攻撃をかわしつつ反撃していく。
だが敵も簡単には倒れず、パンチやキックを受けても再び立ち上がって来る。
もっと何か、決め手が欲しい。
そうモナークが思った直後、蒸気と共にその左手に武器が形成された。
《モナークスティンガー!》
一見銃のようにも見えるそれは、一本の鋭利な銀の杭が飛び出している紫色の武器、即ちパイルバンカーだ。
杭の左右に挟み込む形で使用者への負担を和らげる衝撃吸収装置が取り付けられている他、中心部には注射器のシリンジのようにも見えるガラスと、上部にギミックアンバー用のスロットに加えグリップにはトリガーと矢羽を模したレバーも付いている。
「ヌゥン!!」
モナークはイヤーウィグに対して、その心臓目掛けて銀杭を突き付けてトリガーを引く。
すると、轟音と共にその胸が一撃で砕けて背中まで貫通し、ハサミムシの騎士を絶命させた。
「ほう、これは良いな」
その破壊力を見た配下のマキナイトたちは委縮し、動きを止めてしまう。
瞬間、睨みあう形になったのを見計らって、スティンクバグ・レトセラスがアクアリウム・ケージの球体を投げつける。
「甘い」
《ボウガンモード!》
だがその球体は、衝撃吸収装置を腕側に開く事で杭が引っ込んでボウガンに変形したモナークスティンガーの光の矢の高速射撃により、全て撃ち落され破壊された。
「ば、バカな……!?」
「その力、やはり発動前に潰せば問題ないようだな」
「ぐっ! 思い上がるなと言ったはずだ! 水の中にさえ飲み込まれなければ勝機はあると思っているのなら、それは大間違いだぞ!」
言いながら、地上では鈍重ながらも部下に攻撃させ、走り出すレトセラス。
戦いに紛れて密かにアクアリウム・ケージを投げ、有利な戦場を作るつもりだ。
《パイルモード!》
するとモナークは、武器を再びパイルバンカーに変形させ、スカラベの胸を突く。
それと同時にレバーを一度引くと、スカラベ・マキナイトの体内の血液がシリンジの中に吸収されていき、容器を満たした。
《
「よし」
体内の血液を一気に失って力なく膝をついたスカラベを見下ろし、モナークは杭を彼の頭に押し込み、そしてカチッと引き金を弾く。
《
瞬間、銀色の粒子が混ざった液と共に力強く杭が撃ち出され、その頭を木っ端微塵に消し飛ばす。
内容液は失われたものの威力は凄まじく、近くにいた他のマキナイトやレトセラスの投げた球体も纏めて粉々にした。
「な、なんだと!?」
「残るはお前だけだな」
「くっ……おのれェッ!」
重い足音を轟かせながら、接近戦を試みるレトセラス。
しかしモナークは腕甲から糸を飛ばしてその両足を拘束し、さらに糸を天井に射出して跳躍、頭上を取ってギミックアンバーを装填した。
「なぁっ!?」
「水場でなければお前は俺よりも遅い。既に分かっていた事だがな……当たらなければ、そのパワーが無意味ということも」
言いながら、モナークは武器のレバーを三度引く。
必殺技の発動だ。そのまま落下の勢いに任せ、杭をレトセラスへと突きつけながらトリガーを弾いた。
《
「ぜぇい!!」
《
紫の光で構成された大蜘蛛の頭部が、その牙でレトセラスの胴の装甲を噛み砕き、直後に白銀のエネルギーを帯びたパイルバンカーが肉体を直接穿つ。
よろめくスティンクバグ・レトセラスは野太い腕でタランチュラの戦士を振り払いつつ、負傷箇所を押さえて睨み上げる。
「ぐ、が……こ、この程度で……倒れてなるものか! BOAフィロキセラ! シフト!」
その叫びと共に、レトセラスの姿が蒸気に包まれ再び変異していく。
全身が黄色いカラーリングで、両肩に装甲を持つ僧衣のようなものを纏う騎士。頭からは二本の触覚を生やし、手にはリングのついた金色の長杖を持っている。
突然姿が変化したことに、思い当たるものがある千種たちは目を見張った。
「四傑伯と同じ二重血章!?」
「いや。ヤツの形態はもうひとつある、つまり
左手のパイルバンカーのグリップを握りつつ、身構えるモナーク。
一方のスティンクバグ・マキナイト・フィロキセラは、その蜘蛛の戦士に向かって杖を振り襲いかかる。
モナークは難なく腕を交差させてその一撃を防ぐものの、直後にゾワリ、と腕を無数の小さな黄色い粒のようなものが埋め尽くした。
「な、なんだありゃ!?」
「虫……!?」
見れば、細かな機械の虫が鋭い吻を突き立て装甲を抉っているのが分かる。
驚きつつもモナークは針が肉に達する前に腕で振り払い、バックステップで距離を取った。
「ハハハッ! このアブラムシたちに血を吸われた者は、体内外に無数のコブを作って病魔に苛まれ衰弱死するのだ! 貴様も醜く死ぬが良い!」
「くっ!」
流石にこの無数の虫の鋭い針に何度も刺されては、装甲は耐え切れずモナーク自身も無事では済まない。
ならば、と次に取った行動は、真っ向からの突撃であった。
「血迷ったか黒騎士! 死ねェェェッ!」
スティンクバグ・フィロキセラもまた、アブラムシを操り飛ばす。
それを見計らって、モナークはギミックアンバーをセットしたまま武器を変形させた。
《ボウガンモード!》
「これで……」
《ギミックチャージ! ウルフスパイダー!》
「どうだ!」
そして引き金が指先で弾かれると、ボウガンから糸が射出されて虫を絡め取り、杖にも発射して完全に封じ込める。
良く見れば杖の先端には穴が空いており、そこからアブラムシが湧いて出る仕組みになっているようで、モナークはそれをすぐに看破していたのだ。
「なにィッ!?」
「ヌゥン!」
《
今度はボウガンを直接叩き付け、先端部で血を吸引。
装甲の薄すぎるフィロキセラになったのが災いして簡単に抜き取る事ができ、モナークはさらにギミックアンバーを差し替えて三度レバーを引いた。
それにより、内部の血液がさらに変質し、先程よりも強大な輝きがボウガンに宿る。
《
「行け!」
《
トリガーが引かれ、無数の矢がフィロキセラの両腕と両足を射抜き、拘束。
直後に巨大なカミキリムシのアゴが飛び出し、その身体を斬り裂いた。
「バカな!? な、なぜ……なぜこの私が押される!? 貴様如きに負けるはずがないのにィッ!?」
よろめき、杖を使いながらなんとか立ち上がるスティンクバグ・フィロキセラ。
しかしモナークは一切の容赦なく、追撃をかけるべく迫っていく。
「ぐっ……BOAアサシン、シフト!!」
内側から湧き上がる激情をこらえつつ、エミディオは再び変異する。
今度は最初に見せた姿、サシガメのマキナイトだ。
両肘部のパイプを背中のタンクに接続して掌を突き出し、スティンクバグ・アサシンが勧告する。
「そこを動くな黒騎士ィッ!! 忘れたか、この姿の能力を!!」
「……!!」
アサシンはタンク内の液を組み合わせる事により、ありとあらゆる毒ガスを生成して放つ力を持つ。
そして今、この場所は廃坑の中という閉じた空間で、しかも後ろにはヘーケという無防備な子供がいる。
つまり、人質だ。
「くくくっ、そうだ。私がその気になれば、この場に殺人ガスを充満させる事ができるのだ!! そうすればどうなるか、分かるだろう!!」
「卑劣な……!」
「これが知恵に優れた者の戦い方だ!! 分かったら抵抗を止め、大人しくその武器を捨てろ!!」
仮面の奥で歯噛みし、しかし抵抗する術を持たないモナークは指示に従いボウガンを地面に落とす。
それを確認して、スティンクバグ・アサシンは短剣を左手に持ち、右掌は突きつけたままゆっくりと近づいていく。
このまま一方的にモナークを斬り殺すつもりだ。それを分かっていても、何もできない自分にミナは悔しげに俯いた。
だが。
「二人とも、
彼女の横で、サンジェルマンはそう囁く。ミナに対してではなく、千種とソーマへと。
するとその真意を汲み取り、二人は自らの外套を脱ぎ捨て、叫んだ。
「戦えよモナーク! 俺らもこの子も大丈夫だ!」
「その通り! 僕らは不死身の仮面ライダーなのだから!」
彼らの顔を見ると、アサシンは眼を丸くした。
それもそのはず。廃坑の奥でスモーキーと共に立っているのは、王都に遺体として運ばれて来たはずの、二人の仮面ライダーの素顔と全く同じなのだから。
――エミディオ・フォン・クラトカは普段こそ慢心し切っているが、追い詰められると逆に冷静になって思考能力と情報処理・演算能力が冴え渡るという性質を持つ。
では、
仮面ライダーは死んでおらず、しかもこの場におり、同じマキナイトであるはずのスモーキーが行動を共にしている。おまけに自分を不死身と抜かしている。
圧倒的優位な状況で、いきなりそんな重大な事実を明かされたら
「は?」
答えは、完全な思考停止。
何が起きているのか全く理解できず、頭の中で疑問符が際限なく湧き出す。
無論それは一瞬の間だけの話。だがその一瞬目を離した隙さえあれば、
《
視線の外で聞こえる音声。見れば、そこにはドライバーの巻き鍵をひねり、レバーを三度引いて両足にエネルギーを集中させるモナークの姿があった。
「しまっ……!?」
「ウオォォォッ!!」
《タランチュラ・グロリアスストライク!》
「ハァァァァァーッ!!」
ガスを噴射させる暇も与えず、両足がアサシンの胸に叩き込まれる。
それによって廃坑の外まで放り出されたスティンクバグは、地面に強かに背中を打ち付けてしまい、背骨が砕け両肘の管も破れてしまう。
「フゥーッ……」
《
再びボウガンを装備し直したモナークは、スティンクバグ・アサシンの姿を見つけてゆっくりと近づいていく。
「あ、あぁがぁっ……ば、バカな……こんなはずは……」
痛む身体で必死に這いながら、モナークを見上げるアサシン。
肘のパイプはもう使えない。きっと、自らの主が王位に就く姿を見届ける事もできないだろう。
それでもアサシンは、エミディオは足掻く。辛うじて稼働するタンクの液を混ぜ合わせ、僅かに身を起こしながら。
「こうなれば道連れの皆殺しだ!! この山全体に毒ガスを充満させてやる!! そうすれば――」
モナークはその言葉を聞き、急いでトドメを刺すべく駆け出そうとする。
その刹那、彼の背後から飛んで来た炎の玉がアサシンの背中のタンクに直撃、引火して一瞬の内に全身を爆炎が埋め尽くした。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ゛!?」
見れば、モナークの背後には炎を発する杖を持つサンジェルマンが立っている。
変異の解けたエミディオは彼を睨み、怨嗟の言葉を吐き散らす。
「お゛、お゛ぉぉぉのれスモーキーィ!! 裏切り者!! 貴様を呪ってや゛る゛ッ!! 殺す、必ず殺してやるからな゛ぁぁぁぁぁ!!」
「まだ分かってなかったのか。私は最初から人間の味方だよ、君たちが気付かなかっただけだ。あれほど近くにいたのにね」
「な゛に゛ィッ!?」
「そもそも裏切りなんてどの口で言ってるんだい。元々この星の人間だったクセに、散々命を食い荒らしておいて」
「ぐっ……!!」
「だからこれは当然の報いでたった今呪い殺されていくのは君の方。地獄に落ちてしまえ、人食いのクズが」
タンクの破損によってガスが漏れているため、燃え盛る炎の勢いは衰えず、むしろより激しさを増していく。
その赤い灼熱の海の中で、エミディオは祈りを捧げるように天を仰いだ。
「オルロック様……ど、どうか……王に……必ずや、人間の支配を……レジスタンスの壊滅、を……」
炎の中で黒く焦げていく眼がグルリと裏返り、横倒れとなったエミディオはそのまま灰と共に消滅。
サンジェルマンはその最期を見送った後、シモンと共に廃坑の中へと戻る。
すると、千種が腕を組み眉をしかめながら声をかけて来た。
「あいつ死んじまって大丈夫なのか? 公爵直属の部下なんだよな、バレちまったら向こうも黙ってねェんじゃ……」
「問題ないよ。たった今、彼の死の有効な使い道を思いついたからね」
ニヤリッ、と意地の悪い獰猛な笑みを見せるサンジェルマン。
そうして一枚のタロットを手にした後、彼は千種たちに語りかける。
「役者は揃った、残るは王の証だ。必ず手に入れよう。人間の未来のために」
シモンはそれを聞いて頷き、右拳を突き出す。
千種とソーマ、そしてミナはその拳に答えて同じく腕を伸ばし、拳と拳を軽く突き合うのであった。