討ち漏らした黒騎士の捜索に向かってから、十日後。
「部下と共に黒騎士にトドメを刺し、完全に死んだ事を確認致しました。これでもうヤツに頭を悩まされる心配はないでしょう。ただ……」
「まだ何か懸念があるのかね?」
やや目を伏せ唇を引き結んだ後、エミディオは意を決した様子でオルロックに向かって口を開く。
「今回の件、裏にはスモーキー・ヴァーニーが関わっている可能性が高いのです」
「……なに?」
ギョロリと血走った目を丸くするオルロック。
エミディオの発言を頭の中で反芻しつつ、しかし首を左右に振って「そんなバカな!」と強く否定した。
ただしそれはスモーキーの人格に対する信頼から来るものでは決してなく、彼の性格や行動基準から見たものである。
「彼が反逆を企てていると、本気でそう言っているのか? 今更それはあり得ないだろう! 私を相手に……いや、下手を打てば公爵全員を敵に回す事になるんだぞ?」
「しかしオルロック様、今回の騒動を起こした黒騎士はヤツの指示しか聞きません。それにヤツは度々行方を暗ませている。妙だと思いませんか?」
「……彼の神出鬼没は昔からだが」
進言を繰り返すエミディオを見て、オルロックは腕を組み考え込む。
ただ怪しいというだけで反逆と判断し、悪戯に戦力を割く事はできない。それでは残りのラレーヌという仮面ライダーに隙を突かれてしまうからだ。
スモーキーは裏切っているのだと断定できるような、動かぬ証拠がない限りはどうしようもない。
「何か確たる証拠はないのか?」
「それが……ひとつ、あるのです」
「なんだと?」
「スモーキーは黒騎士に王の証の捜索を命じていたようなのです。しかも、我々には秘匿して」
それを聞いた瞬間に、オルロックは充血した目をさらに目一杯に見開いた。
王の証を探すという行為、それ自体には何ら問題はない。だがそれは、飽くまでも
オルロックに無断で秘密裏に事を進めた挙げ句、レジスタンス壊滅のための部隊を編成している今のタイミングで捜索し始めたのは、何のためか?
恐らく自分で使うためではない。王の証を独占すれば、その時点でオルロックを含めた真祖三人を同時に相手にしなければならないからだ。そんなリスクを冒してまでスモーキーが自分で玉座を獲りに行くのは、彼の性格上まずあり得ない。
では、それ以外の理由があるのだろうか?
「まさか本当に……!」
証を狙う思惑など決まっているだろう、とオルロックは頭の中で己の問いに答える。
王の証を手土産に他の公爵と密かに手を結び、集めた兵力で自分を潰すためとしか考えられない。
最初からカーミラかドクロのどちらかと繋がっていて、この絶好の機会を作るために今まで自分の下で動いていたのだとすれば、あらゆる部分に合点が行く。
オルロックは乱暴に席を立ち、エミディオに命じた。
「あらゆる手を尽くしてヤツを探し出せ!! 見つけ次第殺して構わん!! 反抗する者も全て殺せ!! 王の証だけは決して誰にも奪われてはならん、私が手にすべきものなのだ!!」
「御意に」
恭しく一礼し、エミディオは退室する。
その唇に、
※ ※ ※ ※ ※
同じ頃。
王都ではなく自身の領地の地下牢にて、カーミラ・リップはあるものを見つめてその際立つ赤い唇を釣り上げる。
「今日は随分静かだけど、ご機嫌いかがかしら?」
彼女が声を掛けると、檻の中で全身を鎖で縛られている裸身の
左目の周りは罅割れたような痛々しい傷を負っており、黙したまま息遣いだけが牢の中で響いている。
「その様子なら落ち着いたみたいね。実は近々、大きく動く予定なの」
彼女はその言葉を聞くと、先程までとは打って変わって、目を剥きながら鎖を鳴らし、獣のように叫び散らす。
「元気が良くて頼もしいこと。その時が来たらよろしく」
カーミラは彼女を見下ろしながらクスクスと笑い、そう言い残して去って行った。
時を遡り、モナークに変身したシモンがエミディオを討った直後のこと。
千種たちは、再び山の中にある集落へと戻っていた。
脅威を排除した事で、ここは目を付けられる可能性もある。その危機から脱するために、住民を一緒に説得して欲しいとヘーケとベニーから頼まれたのだ。
「とりあえず安全な場所を用意してある、そこについて来てくれ」
まずはソーマが穏当に呼びかけ一部は好反応、もう一部は迷うものの、やはり彼らの多くは反発してしまう。
「ふ、ふざけるなよ! あんたらがどんなに強いのか知らねぇけど、いきなり今まで住んで来た場所を捨てろなんて!」
「そりゃ、そっちの気持ちも分かるけどよ。いつまでもこんな穴倉の中に残る理由もないだろ? 一生ひっそり隠れて生きてるつもりか? マキナイトを滅ぼした後も?」
「滅ぶならその時になってから出た方が良い、今は子供たちのためにもここにいた方が絶対安全だ!」
「あー、じゃあ聞くけどよ。ずっと閉じ籠もったままで、どうやってマキナイトが滅んだって話を知れるんだ?」
「そんなの……人から聞けば分かる!」
「俺たちが来た時に話もロクに聞かず襲いかかったクセに?」
千種の言葉に、住民たちは口を噤む。
マキナイトたちを倒し、その証人としてヘーケがここにいる今、彼らも話に耳を傾けざるを得ないのだ。千種は続けて、住民たちの説得にかかった。
「本当はもう分かってんだろ。ずっと穴ン中にいたって、何も変わりゃしねぇって。限界なんだって。今すぐ動かなきゃいけない時が来てるってのがよ」
反発していた者たちが徐々に押されて、だんだん何も言えなくなっていく。
だが、それでもまだ全員納得はしていなかった。
「け、けど……他の町から来たヤツを信用できるかどうかなんて……」
「大丈夫。たとえ何かあったとしても、その時は私がなんとかしてみせます」
そこで口を挟んだのは、フードを取ったミナであった。
彼女は民衆の前に素顔を晒し、一礼した後に名乗りを上げる。
「私の名はヴィルヘルミナ・ストーク! ストーク王家の血を引く、新たな女王となる者です!」
瞬間、ベニーたちも含め集落の者たちが一斉にザワつき始めた。
「ほ……本当に!? 王家の血筋は、まだ絶えていなかったのか……!?」
「いっ、いや! 騙されるな! 仮にこの女が本当の王家の人間だったとしても、自分が王になったらすぐ掌を返すに決まってる!」
「そうよ! 統治者が変わったって私たちの生活は変わらない、誰になったって結局同じよ!」
反発している者たちが心を動かされながらもそのような言葉を述べるが、ミナは一度深呼吸した後、再び口を開いた。
「――物心ついた時から、この国はマキナイトの支配を受けていました。誰もが世の行く先を憂い、希望を持てないまま無為に時間を浪費させられ、偽りの貴族の統治に苦しめられるばかりの日々……」
キュッと拳を握りしめたミナは、住民たちを見据え強く訴えかける。
「そんな暗雲に満ちた世界を変えるため、人間が人間として立っていられる世界を作るために私はここにいる!! 貴方たちは本当にこれで良いのですか!? このままこんな暗い場所に押し込められて、それだけが全ての世界で構わないと言うのですか!!」
気づけばいつの間にかどよめきは収まり、全員が真剣にミナの言葉に耳を傾け、息を呑んでいた。
ミナは自らの胸にトンと拳を当て、そして堂々と力強く宣言する。
「私はこの国の全ての民のため、人間の尊厳を取り戻すために貴族と戦う!! そのために生きて来た!! 今日までの私に、これから王として道を歩む私に、恥ずべきところなど何一つとしてないッ!!」
『……!!』
「まだ人間でありたいのなら!! 今こそ自らの足で、自分の力で立ち上がりなさい!! 立って、進み続けるのです!! 民が歩いていくための道は、必ず私が作ります!!」
千種とシモンを含めるその場の全員が、彼女の勇姿を前にして確信した。
紛れもなくミナは、ヴィルヘルミナ・ストークこそが真の王の血族であるということを。
「お、俺は行くぞ! この人たちは、本当に何か変えてくれるかも知れない!」
一人がそのように声を上げると、周りの者たちにもその興奮が伝播していき、新たな王となるべき彼女へ喝采と歓声が送られる。
ソーマは微笑み、その肩をそっと抱き寄せた。
「よくやったな、ミナ」
「あはは……ちょっと、緊張しちゃいましたけど」
「大丈夫かい? まだ肩が震えているよ」
「もう! ソーマったら!」
ミナが頬を膨らませ、直後にソーマと共にプッと吹き出し笑い合う。
そんな様子を横目に見ながら、シモンはサンジェルマンへ問いかける。
「とりあえず話は纏まったようだが、これからどうする?」
すると、サンジェルマンは微笑みながらあるものをシモンたちに見せた。
その手にあったのは、一本の古びたベルト。中央のバックル部には宝石のような物が埋め込まれており、その周りをやや錆びの目立つ機械的な部品で装飾されている。
廃坑の奥にある祠を調べた結果、発見した遺跡で千種たちが手に入れた二つ目の王の証。ここにはバーナクルは存在しなかったため、難なく入手できたのだ。
「これを持って領地に帰る。それから君たちはしばらくの期間休んでから最後の王の証を探して貰う事になるが……私の方は、少しやらなければならない用事があるんだ」
「用事?」
「なぁに、一芝居打ちに行くだけさ。公爵を相手にね」
「……大丈夫なのか?」
「正直恐ろしいが、勝算はある。それに、これは私にしかできない事だ」
ニッと笑みを浮かべ、シモンは自分の領地に繋がるパスを出現させる。
「さぁ、戻ろうか! 彼らにも新しい住処を紹介しなければいけないしね!」
こうして一行はパスを通り、マキナイトのいない安全地帯へと足を運ぶのであった。
そして、帰還直後。
「なるほど。今回はベルトを手に入れたのですね」
領地の城の中、千種たち探索組とシルキィら研究組、それに加えてアルケーが会議室に集まっていた。
アルケーは王の証であるベルトを受け取って、それを装着。さらに前回手に入れた指輪を装着し、それをバックルにかざす。
まるで仮面ライダーたちが変身する時と同じように。
だが、何も起こらない。
「ダメですね、やはり今の私では反応しないようです」
「どういう事だ?」
「これは本来こうして使うものなのです。ベルトと指輪さえ揃っていれば扱えると。使い手を選ぶベルトなのだとも語っていました」
「使い手を選ぶ……?」
「どうやら何か仕掛けがされているようで、王の証の所有者が生きている限り、たとえ真祖や強大なマキナイトであろうと他の者には使えないそうです。もし前の使用者が死んでしまったらその子孫に所有権が受け継がれて、子孫もいない場合は全ての王の証を揃えた者が後継者になると言っていました」
ヴラディスは既に死んでいるはず。にも関わらず、アルケーに使用が許可されていないようだった。
「私に使う事ができないのは恐らく……王錫の力で血の呪いをかけられたせいか、王の証全てが揃っていないためでしょう」
「何にせよ、結局王錫も手に入れなきゃいけないワケだな。元からそのつもりだったし気にすんな」
彼女の呪いは王錫の力によってのみ解除できる。元より千種たちは、どちらにしても呪いは解く気でいたのだ。
特に手間が増えたワケでもないので慰めの言葉をかけると、アルケーは柔らかに微笑み、小さく礼を述べた。
そして、その目的の最後の王の証は、カーミラ傘下の貴族の領地付近の墓地にあるという。
「次はカーミラ公爵の配下の領地へ向かうのですよね? くれぐれも気を付けて下さい、彼女が偶然視察に現れる可能性も考えられます」
それを聞いて、千種は小さく手を挙げる。
「気になってたんだけど、公爵連中ってどういうヤツらなんだ?」
質問に対し、アルケーとサンジェルマンは顔を見合わせ、首肯し合う。
「そうだね。次の作戦が始まる前に七大真祖の生き残りたちの内情を少し話しておこうか」
一同は椅子に腰掛け、サンジェルマンからの説明に耳を傾ける。
「今、黒の貴族は三つの派閥に分かれている。オルロック率いる革新派、カーミラが主導する保守派、どちらにも与しないドクロの享楽派だ」
「何がどう違うんだ?」
「オルロックは明確に自らが王になろうしている。ヤツは黒の貴族やマキナイトの体質を体現したような男で、自分の地位のためなら文字通り何でもする。私やエミディオを使って他の公爵を出し抜き、王の証を揃えようと一番躍起になっていたしね」
即ち、オルロック・シュレックとは典型的なマキナイトそのものであり、三人の中で最も利己的にして狡猾なのだという。
それ故にこの派閥の賛同者は最も多く、これまでに千種たちが相対した者たちの多くは革新派の者たちである。
謂わばヴラディスを失ったマキナイトたちにとっての、新たなカリスマだ。
「裏を返せば、オルロックさえ倒す事ができれば革新派の士気は大いに下がる……か」
ソーマの呟きにサンジェルマンは頷くと、話の続きを語り始める。
「一方カーミラはオルロックとは全く異なる思想で動いている。だからと言って、我々にとって安全ではないんだが……」
「どういうこと?」
首を傾げる貂に対し、サンジェルマンとアルケーが順に答えを出す。
「彼女はヴラディスを愛していて、同時にまるで神のように扱い信仰しているんだ。だから進んで王になろうとはしていない。けど、妙な話だが……アルケー王女に対して忠実かと言えば、それも違うようでね」
「カーミラが忠実なのは父の言葉にだけ、ですから。だから、今の『空席の玉座』を維持しようとしているのです。そこにいるべきなのは、私や他の者、まして自分自身ですらないという事なのでしょう」
異常な執着と狂信から来る、マキナイトの秩序の継続。
それこそが、カーミラの望み。オルロックほど勢力は大きくないものの、太陽を覆い隠したヴラディスを崇めるマキナイトは今なお多くいる。
信仰心は人を猟奇的なまでに強くしてしまう。マキナイトでもそれが変わらないのだとすれば、カーミラを倒してもこの派閥は潰れないかも知れない。
「本当に許せない……王を名乗って、私たちから何もかも奪って……! その上、勝手に玉座を自分の都合の良いように使うだなんて!」
それでも、ミナは義憤に腕を震わせ、強く決意を固める。
必ず、カーミラを討つと。
「ドクロは他の二人に比べれば分かりやすいが、同時に最も厄介でもある。どちらの主張にも耳を貸さず、かといって自分で積極的に王になろうと動いているワケでもない」
「それの何が危険なんだ?」
「簡潔に説明しよう。彼は、あらゆる利権を闘争と勝利によって掴む事を至上としている。自由に戦い、自由に奪う。玉座も戦いたくなったら公爵二人を殺して勝手に手に入れるくらいのもので、今の彼にとっては特に価値のないものなんだ」
玉座に狙う価値を感じていない。
利己主義なマキナイトたちにしては珍しい、と千種たちは思うが、続くサンジェルマンの言葉に目を剥いた。
「だから貴族の誰にも味方しないし、ついて来る部下たちも勝手放題やれって放任してる。そしてヤツが何より最悪なのは……
「……は?」
「ヤツは人間を、そこらを歩いていれば勝手に出て来て悲鳴を上げる食用オモチャくらいにしか思ってない。他の二人も危険だが、人間の世界を作るためにはヤツを確実に殺しておかなければならないだろう」
それを聞いたシモンは、何も言わずただ拳をグッと握り締める。肉が裂け、血が出るのではないかとばかりに。
サンジェルマンはその怒りを感じ取り、溜め息を吐いた後に話題を切り替えた。
「三人の公爵は今までのマキナイトよりも遥かに強敵だが、私はひとつ作戦を考えた」
「作戦?」
「同士討ちさ。彼らを騙し、食い合わせる」
驚く一同を見ながら、サンジェルマンは指を弾いて「計画はこうだ」と概要を語り出す。
「まず、私がエミディオの姿に化けオルロックに伝える。シモンを倒して尋問した結果、スモーキー・ヴァーニーは王の証を狙って造反を企てている事が分かった……とね」
「は!? お、おいおい、そんな事したらアイツら人間を襲い始めるんじゃねェのか!?」
「あはは! 確かに、事実をそのまま伝えたらそうなるだろうね。でも、誰と手を組んでいるのかを伏せて、秘密裏に行動していたと言えばどうなるかな?」
「え?」
「彼は利己主義で狡猾な、マキナイトの典型だ。断片的な事実だけを明かされれば、その情報に基づいて真相に辿り着く。
それを聞くと、ソーマが真っ先にハッと目を見開いて声を上げた。
「そうか……オルロックから見れば、まだサンジェルマンはスモーキー・ヴァーニーという貴族側のマキナイト、何より知恵者だ。そんな男が王の証を持って人間側に付くはずがない、あるとすれば……」
「別の公爵に献上して成り上がるため、ってことか! しかも王の証を集めようとしてる事が分かれば、玉座を狙ってるオルロックも乗り遅れないように行動を起こさなきゃいけなくなる!」
ソーマと同じ結論に至った千種は得心した様子で数度頷き、サンジェルマンが続いて話を補足する。
「さらに言えば私は彼らの中では何度も人間に邪魔をされ、汚名返上の機会を与えられた事になっている。もう失敗できないならいっそ誰かに取り入ろうとするだろう、と考えるのさ。私がちょっと背中を押せば、彼らは勝手に点と点を繋げてしまうんだよ」
「恐ろしいが、すごい作戦だ……」
「ハハッ、これくらいで驚いて貰っては困る。この作戦行動は全て陽動でしかないからね」
つまりサンジェルマンがオルロックたち公爵勢を撹乱している内に、千種たちは王の証を探し出さなくてはならないのだ。
「でもその後はどうすんだ? いつまでもエミディオの姿でいたら、いつか絶対バレるだろ?」
「安心してくれ、そこも考えてある。君たちはとにかく、私が動いている間に最後の証を手に入れるんだ」
一同は頷き、その後も会議は続いていく。
人間の世界を取り戻すため、作戦を確実なものとするために。
そして、現在。
サンジェルマンがエミディオの姿を取ってオルロックを自らの策にかけに向かう前、シルキィは一つのギミックアンバーを手に、出発の準備を進めている千種たちの元を訪れた。
「ソーマはいるかい?」
名を呼ばれてすぐにソーマが立ち上がり、そして彼女の手からその深い群青色のギミックアンバーを受け取る。
内部に組み込まれているのは、長い角のクワガタだ。
「はいこれ、キミ用の新しい力だ。機能の解説書も同封してあるから移動中にでも目を通しておいてくれ」
「ありがたい。敵もどんどん手強くなって来たからね、使わせて貰うよ」
ソーマはそう返してギミックアンバーをしまい、シルキィは得意気に胸を張る。
そうしてしばらくの後に準備は整い、外に出た千種たちは、パスを繋いで生まれた蒸気の前に立つ。
「さて、そんじゃあ最後の証を獲りに行くか!」
今回の調査メンバーは千種・ソーマ・ミナに加え、新たに仲間となったシモンが参入する。
領地からやや離れた場所に到着した四人は、今まで同様に正体を隠す外套を被り、そのまま墓地を目指して歩き出す。
ほどなくして目的地に付くと、苔生している墓石らしき物体や、恐らく花や供え物だったであろうドス黒く変色した何かが地面に散乱しているのが見て取れる。
ここがかつて墓地だった、という事実が信じられない程に、廃れ寂れた場所であった。
「ひでぇな、全然手入れされてねぇぞ」
「恐らく人間のものだからだろう。今までと同じだとすれば小規模な保管用の遺跡を作っているはずだ、人間の都合などお構いなしに……」
マキナイトは基本的に半不老不死。だから、墓地を用意する必要がない。
一応領地の一部だというのに掃除も何もされていないのには、そう言った理由もあるのだろう。そんな事を考えつつ、千種は他の三人と共に王の証の手がかりを探す。
するとすぐに、ミナが集合をかけた。
「多分これじゃないでしょうか?」
彼女が指差した真っ黒な墓石は、他のものが欠けていたり亀裂があったりしているのに対し、破損が明らかに少なかった。汚れに関しても、他のものより状態はキレイだ。
何よりも、隅の方には赤い文字で小さくW.D.
これは明らかにヴラディスに関連したものであるという証拠。四人がその墓や周りを調べていると、下部に一部分を取り外せる蓋のようなものを発見した。
千種がそれを外すと、そこには四角いスイッチがある。
「合っているようだ。よくこの墓を見つけたね、ミナ」
「ふふん、これも怪盗の手腕です! 早速押してみましょうよ!」
言われて千種がそのスイッチを指で押し込むと、今度は墓場の中央の方で何かを引き摺るような音が響いて来た。
驚きつつも向かってみれば、そこにあった石畳が開いて地下へ繋がる階段が現れていた。
一同はそのまま慎重に地下を下っていき、そして発見する。祭壇のようなものに安置された、薔薇の意匠が施されている金色の杖を。
「こいつが王錫か。じゃ、さっさと帰ろうぜ」
言いながら千種がその杖を取り、遺跡の中に脅威が何もないのを確認すると、一行は階段を登り外へ出て行く。
と、その時だった。
物陰からいくつもの足音が響いたかと思うと、何人もの女たちが千種たちを取り囲んだ。
「なっ!?」
「待ち伏せか……」
どうやら領地から来たマキナイトらしい。彼女らを見た千種たちは、即座にドライバーを取り出して身構える。
その中の代表格が、カツカツと足音を響かせ前に出て来た。
ウェーブがかった髪色で、胸の開いた丈の短い深緑色のドレスを纏い、その肉付きの良い蠱惑的な脚線美を惜しみなく曝け出している女。
「まさか本当に侵入者が現れるとは。私の名はエレオノラ、愛しきカーミラ様の命によりこの地を守る伯爵……」
エレオノラと名乗った女はそう言って一礼した後、自らの左手を掲げて唇を釣り上げる。
「BOA、アクティベート!」
直後に、マキナイトの女たちが蒸気に包まれ姿が変わっていく。
多くはゾウムシのウィーヴィル・マキナイトとビネガロン・マキナイト、さらにホースフライ・マキナイトの姿もある。
そしてエレオノラ自身は、無数のバーニアが付いた異様に大きい両足を生やす異形の女騎士となっていた。
「なんだありゃ!? 太腿でっか!!」
「光栄に思いなさい! この私の手で始末される事を!」
オオモモブトハムシの騎士、フェモラータ・マキナイトは二本のサーベルを取り、跳躍と同時にバーニアを噴かせて宙を舞う。
それを見た千種たちは敵の攻撃が始まるよりも前に散開、それぞれのドライバーへギミックアンバーを装填。
全員同時に、変身に移った。
『変身!』
《
《
《
《
墓場に並ぶ四人の戦士、対するは血肉を求めるマキナイト。
《
《
《
《
「行くぞォ!」
千種の掛け声と共に、両者はぶつかり合う。
――そんな彼らの様子を、離れた位置にある領地への門の上で眺める者がいた。
根本まで真っ白な髪を生やしている、喪服のドレスを纏う少女。頭には鍔の短い帽子を被り、顔を黒いレースのベールで覆っている。
「カ、メン……ライダァー……ァァァ……」
罅割れた顔の左側をガリガリと爪を立てて掻きながら、少女は怨念の込もった眼差しで呟いた。