仮面ライダーダイナスト   作:正気山脈

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 エミディオに化けたサンジェルマンが、オルロックの自室から出て行ってから長い時間を経た後。

「伝令、伝令ー!!」

 一人のマキナイトが、慌ただしい様子でオルロックの元を訪れていた。

「何事だ?」
「エミディオ・フォン・クラトカ卿がスモーキー・ヴァーニーと交戦、したのですが……」

 随分と伝令の歯切れが悪い。
 まさか、敗走して逃げ帰ってしまったのだろうか。良い知らせを聞きたかったオルロックはそう思いつつも、目の前のマキナイトが落ち着くまで言葉を待つ。

「激戦の末、相討ちになりました!! クラトカ卿がスモーキーを討ち取った後、敵の攻撃により死亡が確認されています!!」
「――は?」

 直後に告げられた内容に、今度こそ開いた口が塞がらなくなった。
 あのエミディオが。四傑伯最強のジルさえ抑え込める実力の持ち主が。オルロック自身が最も信頼を置く、側近の一人が。
 こうも容易く敗れたという事実に、動揺を隠しきれずにいた。
 さらに、連鎖するような形でもう一人配下のマキナイトが入室する。

「緊急事態ですオルロック様!! カーミラ・リップ卿とドクロ・シラヌイ卿の軍が二方向から同時に攻めて来ました!!」
「なにィッ!?」

 戦力を失った、まさにその直後にこの仕打ち。
 エミディオを欠いた上、スモーキーによって戦力を分散させられた今のオルロックの軍に、この攻勢を止めるだけの手立ては存在しない。
 すぐそこに、その手にかかっていたはずの栄光の座が、ガラガラと崩れ落ちていく。

「私の、私の玉座が……遠のいていく……」

 ガクリと項垂れ両手で頭を抱え、オルロックは自分が黒の貴族の権力闘争に、真っ先に完全敗北したことを悟ってしまった。

※ ※ ※ ※ ※

「よし、作戦成功だ!」

 一方。
 戦線を離脱したサンジェルマンは、己の姿を隠す外套を纏って、歩きながら領地へのパスを繋ぐ準備を始めていた。
 敵味方両軍を含むマキナイトたちの見ている前で自身とエミディオの偽の死体を用意し、その上で厄介な者たちには例のポムグラネイトを盛って毒殺。
 さらに別人に化けて「スモーキーとクラトカが共倒れになった」と情報を流して煽り立て、カーミラとドクロの軍には「オルロックが王座を狙って動いている」と流し込んだ。
 これら全てを完遂した事によって、もはやマキナイトたちにとって人間の革命軍は取るに足らない存在となり、動きを察知されづらくなる。
 まさしく完璧な陽動とカモフラージュ作戦。そう思ったサンジェルマンがニヤリと笑みを浮かべた、その時。

「おっと」

 小石に躓きかかった拍子に、その懐から一枚のタロットカードがひらりと落ちてしまう。
 特に慌てることもなく、サンジェルマンは拾い上げる。
 だがそのカードを表に向けた瞬間、彼の表情は強張った。

「……なに!?」

 大アルカナ16番のカード『塔』。
 正位置でも逆位置でも悪い暗示となる、その意味は――逃れられない災い。
 瞬間、胸騒ぎを覚えたサンジェルマンは、すぐに自領に向かうのであった。


GEAR.36[蒼刃六華]

 カーミラの傘下であり女伯爵であるエレオノラの領地の付近、その廃墟と化した墓地にて。

 X-ROSSの仮面ライダーたちは、エレオノラの変異したフェモラータ・マキナイトと交戦していた。

 大きな足に備わったバーニアのジェット噴射によって超高速で立ち回るフェモラータに対し、ダイナストたちは苦戦を強いられる。

 

「この……喰らいやがれ!!」

 

 ダイナストが地上で地面の石畳を殴りつけ、ミサイルへと変換してフェモラータへ放つものの、飛行する彼女はその攻撃を振り切ってしまう。

 

「クソッ! こっちの攻撃が全然届かねェし当たらねェ!」

「動きを止めることさえできれば良いのですが」

「こうも飛び回られてはな……」

 

 モナークのパイルバンカーはもちろん、ダイナストとラレーヌの銃撃も高速飛行の前では掠りもしない。

 糸の罠を張ったところで、それさえ突き破られてしまう。

 そこへ、ソーマの変身するレギウスが声を上げた。

 

「僕が行こう」

「レギウス? だが、お前の武器では……」

「今ならやれる、これを使ってね」

 

 レギウスがそう言って取り出したのは、シルキィが新たに開発した群青色のギミックアンバーだ。

 彼女の作った新兵器なら、確かに行けるかも知れない。そう判断したダイナストは、他の二人に呼びかける。

 

「じゃあアイツの相手は任せる、俺たちは周りのヤツら潰すぞ!」

「了解した」

 

 作戦が決まり、ダイナストたちはフェモラータを無視して彼女の取り巻きへと攻撃に向かって、レギウスのフォームチェンジの妨害を事前に阻止。

 そしてレギウス自身は、取り出したギミックアンバーの巻き鍵をひねって起動する。

 

REVOLUTION(レヴォリューション)!!》

「僕たちの革命は、誰にも邪魔させない」

SET(セット)!! マンディブラリス!!》

 

 続いて、上から装填。

 内部に搭載されたマンディブラリスフタマタクワガタの機甲虫の両眼が輝き、大きなアゴが動く。

 

GLACIAL-COUNTERTIME(グレイシャル・カウンタータイム)!!》

 

 さらにドライバーに付いているグリップのマンディブルハンガーに手をかけると、その手で勢い良く左右に開いた。

 

「アーマーコンバート!!」

FREEZING ECLOSION(フリージング・エクロージョン)!!》

 

 流れる音声と共に、氷の繭が形成されレギウスを包み込み、地面に青く雪の結晶の紋様が浮かび上がる。

 

RAISE THE TUSK(レイズ・ザ・タスク)!! マンディブラリスアーマメント!!》

 

 次の瞬間、内側から大きなクワガタのアゴが飛び出して繭を斬り裂き、中から一人の仮面の戦士が姿を現す。

 クリアブルーと白銀の装甲の下に、青いアンダースーツを纏う赤眼の剣士。クワガタのアゴを模した頭部の二本角は、モデルとなった昆虫同様に半ばほどで大きな突起がついている。

 さらに背中からは裏地が翅の模様となっているマントが伸びており、突如吹き出した冷たい風によりたなびく。

 吹雪を纏い現れたレギウス マンディブラリスアーマメントは、双剣の切っ先を上空のフェモラータに向け、堂々と言い放つ。

 

「この力で、お前たちを止める……!!」

SO COOL(ソー・クール)!!》

 

 レギウスは剣を交叉させ、ゆっくりと近付いていく。

 しかしフェモラータから見れば、彼は所詮地上にいるしかない格好の獲物だ。

 彼女もまたサーベルを手に、自慢の高速起動で撹乱する。

 

「どんな姿に変わろうと! 私を捉えることのできる者など、存在しない!」

 

 その証拠に、この男は自分の動きについて来れず、微動だにできていない。

 フェモラータはそう思って内心嘲りながら背後に回り、一気に突撃して剣で刺し貫こうとする。

 が、その寸前。

 彼女の進路上に、無数の尖った氷の礫が弾幕のように張り巡らされた。

 

「これは……氷柱の罠?」

 

 超高速で空を飛び回るフェモラータ、しかしそれ故に彼女は突然現れる進路上の物体を避けることが困難だ。

 減速して回り込むのも不可能ではないが、そうなれば今度はレギウスからの攻撃を受ける危険が生まれてしまう。

 しかし、フェモラータは目前にあるその氷の罠をせせら笑った。

 

「その程度があなたの能力? 小賢しい!」

 

 言いながら一切減速せずに二本のサーベルを振り回し、氷柱を真っ向から打ち砕く。

 速度だけではなく、動体視力と練度の高い剣術によって為せる技。エレオノラが伯爵の位を得、カーミラの側近のとして扱われるに足る理由のひとつである。

 

「その命、今度こそ取らせて貰う!」

 

 次に彼女の刃が向かう先は、レギウスの首。

 だが、戦士の後ろ姿に近づくに連れてフェモラータの身体の動きは徐々に低速化し始め、高度も一気に沈んでいく。

 

「なっ……ぁ!?」

 

 終いには全身で這うように落下して地面を滑ってしまい、そのままレギウスの強烈なキックを顔面に受けて反対方向に転がされる。

 

「ぐぅ!?」

「氷の弾幕程度ならスタッグアーマメントの時でもできたさ、さっきのは君を誘い出すためのエサに過ぎない」

 

 言いながらレギウスはフェモラータが落としたサーベルを踏み砕き、剣を交叉させゆらりと迫った。

 

()()()()()()()()

 

 次の攻撃が来る。

 それを察知してすぐに立ち上がり飛び退こうとするが、今度は左足が凍りついてたたらを踏み、転倒してしまった。

 

「どうして!? 私は触れられてすらいないのに……!?」

「周りを良く見てみろ」

 

 指摘を受け目をよく凝らせば、チカチカと光る細かい銀色の雪のようなものが辺りを漂っているのが見える。

 さらにその粒が身体に触れた瞬間、冷たい感触が迸って凍りつく。

 

「これは……!?」

「ダイナストの爆破能力と似たようなものだ、この粒子を浴びたものを僕の意思で瞬時に凍結させる。ただ凍らせるだけなら今までのスタッグビートルでもできることだが……マンディブラリスアーマメントは、瞬間氷結粒子を風と共に空中散布できるのさ」

 

 レギウスは吹雪のように勢い良く突風と粒子を放出し、冷気の伴うそれからフェモラータは遠ざかろうと両脚のバーニアを稼働させ、全力で後ろへ飛んで行った。

 近づけば近づくほど粒子を浴びる危険は高まる。ならば逆に遠ざかりさえすれば、身体が凍ることもないはずだ。

 そんな彼女の思惑をも見透かしたように、レギウスはマントを翻して飛翔し、頭上を取る。

 

「なぁっ!?」

「実はこの形態、飛べるんだよ。そして氷の影響で速度の落ちた君なら……今の僕でも追いつける!」

 

 直後、フェモラータに向かって降り注ぐ鋭利な氷柱の雨。

 彼女はスピードを上げてそれを避けるものの、一本をかわし損ねて()()()()()防いでしまう。

 その行動が命取りとなった。断面から零れた微細な氷の粒が腕に付着、そのまま再び凍らせたのだ。

 

「そんな……!?」

「忠告が遅れたが迂闊に壊さない方が良い。だって……当たり前のことだが、氷に触れたら冷たいだろう?」

 

 フェモラータは理解した。

 彼が生み出す氷、それ自体が瞬間氷結粒子の塊のようなもので、破壊すれば直接身を冒されるということに。

 続くレギウスラッシャーの一閃が、左腕を両断。

 痛みに呻くフェモラータは、焦りと怒りのあまりすぐに反撃すべく蹴りを繰り出す。

 

「遅い」

 

 が、反応速度と感知能力が強化されている今のレギウスには、当然その攻撃を見切られており、足の動きに合わせて放たれたキックによって防がれる。

 そればかりか、粒子の付着によって凍結・粉砕される始末。たちまち、地面を転がり落ちた彼女はその口から大きな絶叫を発した。

 

「こっ、こんなハズは……あのお方に、カーミラ様に知らせなくては――」

「僕がお前を逃がすと思うか?」

 

 背後から聞こえる無慈悲な宣告。

 見れば、レギウスは既にキーをひねってマンディブルハンガーを開閉し、必殺の準備を終えていた。

 

BREAK OUT(ブレイクアウト)!!》

「終わりだ」

《マンディブラリス・リベリオンブリザード!!》

 

 レギウスがカツッと地面を足で叩くと、逃げ出そうとしていたフェモラータの足元から巨大なマンディブラリスフタマタクワガタの氷像が生成され、その大アゴが身体を挟み込む。

 そうして拘束された彼女の背後でクワガタの戦士は跳躍し、敵を捕まえたまま自身に向かって飛んでくる氷像に向かって、猛吹雪を背に自らの右足を突き出した。

 

「ハァッ!!」

 

 氷結粒子を纏うキックとクワガタの挟み打ちにより、フェモラータは悲鳴を上げる間もなく粉々に砕け散り、完全消滅。

 着地の後、レギウスは消え行くクワガタを背に空を仰いだ。

 

SO COOL(ソー・クール)!!》

 

 その後すぐに、取り巻きを掃討し終えたダイナストたちが駆け寄っていく。

 

「よし、これで片付いたな」

「それでは急いで帰りましょうか! この王錫さえ届ければ、私たちの勝利が決まるんです!」

 

 国民の人間たちは、今もマキナイトの脅威に怯えている。それを思うと、ラレーヌは気持ちが焦ってしまう。

 レギウスも同様であり、変身を解いてサンジェルマンの領土までのパスを繋ごうとしていた。

 だが、それをダイナストが腕で制する。モナークも武器を構え直しており、警戒を解いていない。レギウスもまた、二人の様子からハッと息を呑む。

 

「三人とも、どうしたんですか?」

「……気のせいかと思ったが、そうじゃねェらしい」

 

 ダイナシューターをライフルモードに切り替えつつ、墓場の近くにある大木の方に銃口を向け、ダイナストは叫んだ。

 

「そこで見てンのは誰だ!!」

 

 すると、木の裏に潜んでいた喪服のドレスを纏う少女が姿を現す。

 彼女は何も言わずにゆらりと前に出て、自身の顔を覆っているベールを捲り上げた。

 その素顔を目にしたダイナストとレギウスは、仮面の奥で思わず目を剥く。

 

「お前……まさか!?」

「バカな、生きていたのか!?」

 

 黒い布の下にあったのは、かつて倒したはずの女伯爵、それも四傑伯の顔だった。

 髪の色が白く変わり、目の周りに罅割れたような傷が付いているという違いはあるものの、紛れもなく『乱刺卿』と呼ばれていた()()マキナイトだ。

 

「そうよォ……私は、イザベラ・バートリー。忘れたとは言わせないわ、仮面ライダァァァー……」

 

 上体を幽鬼のように揺らしながら一歩一歩前に出て、イザベラは血走った目で睨む。

 

「アンタたちの、全部アァァァンタたちのせいで!! 私は!! 地位も名誉も領地も財産も!! 挙げ句、私の大事な部下も同胞も、仲間の四傑伯まで!! 何もかも失ったんだからァァァッ!!」

 

 静かに佇んでいるかと思えば突然狂ったように大声で騒ぎ、左目の周囲を爪で滅茶苦茶に掻き始める。

 血が噴き出しても肉が裂けても、イザベラはお構いなしだった。

 

「たかが家畜(人間)を何人か殺した程度のことが、そんなに気に食わなかったってワケ!? ふざけんじゃないわよ食われるためだけにいる家畜の分際でェッ……ェェェ……今度こそ、皆殺しにィ……して、あげるゥゥゥ……」

 

 そして再び、声と挙動が徐々に静まり、再びゆらゆらと上体を動かす。

 以前と比べ明確に情緒がおかしくなっている彼女の姿に、ダイナストは戸惑いを隠せなかった。

 

「こ、こいつ……何があったんだ?」

「それは知ったことではないが、何か異常なのは確かだろう。いずれにせよ我々の姿を見られた以上生かしてはおけん」

 

 必ずここで始末する。モナークは暗にそう告げて、武器のモナークスティンガーを構え、素早く突撃していく。

 

「死んで貰うぞ、イザベラ・バートリー!!」

 

 モナークがパイルバンカーを突き出し、先端が真っ直ぐにイザベラの頭へと向かう、まさにその時。

 

「BOA……アクティ、ベーェェェェェトォォォォォーッ!!」

 

 そう叫んだイザベラの全身がドス黒い蒸気に包まれていき、その両眼と口内から錆びて茶黒く変色した鉄のような色の、油めいた粘液が吹き出す。

 同時に彼女が咆哮と共に発した衝撃波によりモナークは後方に吹き飛ばされ、舌打ちしつつもダイナストたちの前に着地した。

 油のようなものはイザベラの周囲を埋め尽くし、自分自身だけでなく、墓石も石畳も草木も死したマキナイトの残骸でさえも飲み込む。

 

「なんですかこれ!?」

「分からない、前はヤツにこんな力はなかったはずだ!」

 

 錆油に侵食された物質は、草であろうが石であろうが金属であろうが例外なく、尽く腐り朽ち果て崩れ落ちていく。

 その様子を目の当たりにして、ダイナストたちは戦慄した。

 

「ただ変異しただけでこの被害かよ……!?」

 

 そして、丸く固まった油の塊の中から二本の野太い筋骨隆々の腕が伸び出て、赤い蒸気と粘液を引き裂き、()()は咆哮した。

 口部から飛び出す長い牙に、黒ずんだ剛体と背から伸びる巨大な翅。堅牢な甲殻は滴る赤黒い油でぬらぬらと光沢を放ち、それでいて錆びたような色合い。複眼は大きな楕円状で、真っ赤に光っている。

 あまりの変貌ぶりに息を呑みつつ、再び銃口をそのマキナイトに向け、ダイナストは言った。

 

「みんな気をつけろ、こいつは前のイザベラとは全然違う! 丸っきり別のマキナイトだ!」

「そう……今の私はウォレスジャイアント・マキナイト、お前ら仮面ライダーを……皆殺しィィィにする、力ァァァッ!!」

 

 再び叫び散らし、その黒い蜂の怪物、ウォレスジャイアントは拳を振り上げると同時に全身から錆油を周囲に放つ。

 ただそれだけで周囲の物質は腐食して溶け、金属は錆びて朽ち、全てが崩壊する。

 その上、見た目通りの怪力から繰り出される、油を纏う剛腕の拳打。

 

「くっ!?」

 

 たった一振りで、地面は油に侵食され溶解してしまい、レギウスが咄嗟に出した氷の壁も形を失った。

 これでは墓場はおろか、街までこの怪人に破壊され尽くしてしまうだろう。

 そう思ったダイナストたちは、一斉に射撃を始めた。ダイナストが土から生み出したミサイル、ラレーヌロッドからの銃弾、モナークスティンガーの矢。

 だがその全てが着弾と同時に朽ちるか錆びて、一切傷を負わせることができなかった。

 

「効いてない!?」

「銃弾と矢は甲殻に通っていない、ミサイルも爆破の前に錆油で無力化される……恐ろしい能力を手に入れたものだな」

 

 触れれば錆びる以上、迂闊に近接戦闘を挑むのも危険だ。

 ダイナストたち仮面ライダーの装甲は真鍮に似た特殊な錆びない金属でできているため、この油に対してもある程度ならば耐性はある。

 ただし、傷を負うなどして破損した状態で流し込まれた場合、あるいは物量で押し切られた際にまで無事でいられる保証はない。

 最悪の場合、腐食によるで強制的に変身解除、次いで直接油を浴びることで絶命するだろう。

 

「だったらこれならどうだ!」

 

 続いて動いたのはレギウス。氷結粒子によって作られた氷柱を飛ばし、さらに吹雪を放って粒子自体を飛散させる。

 するとウォレスジャイアントは口から膨大な量の油を吐き出し、それを壁にして防いだ。

 さらに彼女は油の嘔吐を継続し、津波のようにして仮面ライダーたちに向かって放つ。

 

「うわっ!?」

「逃げるぞ!!」

 

 ドス黒い錆油の滂沱が、四人を飲み込まんと牙を剥く。

 仮面ライダーらは一斉に走り出して脅威から逃れようとするものの、ラレーヌが躓いてしまう。

 さらに。

 

「あっ!? 王錫が!?」

 

 転びかけた拍子に落としてしまった王錫が、()()()()()()()()

 人間たちに残された最後の希望。見るも無惨に形を失い崩れていく様を見て、彼女は思わず立ち尽くす。

 そこへ、レギウスが錆油を粒子で冷却。凍結させることによって、油の侵食を食い止めた。

 

「冷やして固めれば一応防ぐことはできるのか……だが、これでは……」

 

 ダイナストやモナークはレギウス同様に戦闘態勢であるものの、ラレーヌは完全に戦意を喪失しており、地に両膝をついて呆然としている。

 ウォレスジャイアントはそんな様子を愉快げに眺めると、クスクスと笑いつつ突如として変異を解除した。

 

「無様な姿、良い気味ィ……今回はここまでにしておいてあげるゥ……せいぜい、私に殺される前に死なないよう、気をつけることねェェェッ!! ギャーッハハハハハハ!!」

 

 その言葉を残して、イザベラは蒸気と共に消失。

 千種たちも変身を解除し、脅威が消えたことにひとまず安堵し、深く溜め息をつく。

 だが、ミナは違った。王錫が失われたショックから未だ立ち直れず、その両眼からポロポロと雫を落としていた。

 

「どうしましょう……ソーマ、私たちこれからどうしたら……!!」

 

 

 

 そして、帰還後。

 

『王錫が破壊された!?』

 

 千種たちが持ち帰った報せに、アルケーやシルキィ、瑠璃羽に貂も動揺する。

 サンジェルマンに至っては、膝から崩れ落ちて愕然と天井を仰いでいた。

 

「……終わった……終わってしまった、何もかも。王錫を失ったら、我々の作戦は成立しない……」

 

 王の器を全て手に入れ、太陽をこの星に蘇らせることでマキナイトたちを一網打尽にするのが、最大の目的だった。

 その最後の鍵が完全に失われてしまった今、もはやブラムストーク王国に、千種たちの住む地球に未来はない。

 だが、アルケーはそんな絶望的な状況でも冷静に、千種へ質問を投げる。

 

「見つけた杖はどのような形でしたか?」

「金色で、先端に薔薇の装飾が付いてたな」

「その花は咲いてましたか?」

「ん? ああ」

 

 アルケーはその答えを耳にすると、確信に満ちた眼差しで顔を上げた。

 

「みなさん、落ち着いてよく聞いて下さい。まだ戦いは終わっていません」

「で、でも」

()()()()()()()()()()

 

 全員が耳を疑い、彼女の方に注目する。

 そして真っ先に浮かんだ疑問を、千種が口に出す。

 

「なんで分かるんだ?」

「本物の王の証はそんなに簡単に錆びて壊れたりしません、あなた方が変身した時と同じように、特殊な金属素材でできているので。それに、本来の装飾は蕾です。王錫によって認められた者が触れることでのみ、開花する仕組みになっています」

 

 アルケーはそう言った後「よって見つけた王錫は偽物です」と断定し、締めくくった。

 となれば本物は別の場所に保管されており、即ち人間側にもまだ勝算は残されているということになる。

 その事実を理解してミナたちは安堵するものの、サンジェルマンは逆に表情を強張らせた。

 

「いや、安心するのは早い! あの場所にあった王錫が偽物なら、つまり『元々偽物を置いていた』か『後からすり替えた』ということだ!」

 

 指摘を受け、全員がハッと目を剥いた。

 入念に調査した情報が誤りでなく、本来あるべき場所に王錫がない以上、何者かが事前に持ち去っていたことを意味する。

 しかし、マキナイトであることは大前提としても、一体誰がそんなことをしたのか。

 あるいは、()()()()()()()()()()()

 その真相に真っ先に辿り着いたのは、サンジェルマンだった。

 

「恐らく犯人はカーミラだ! 実際にどこまで知っているかは定かではないが……ヴラディスから大きな信用を得ている彼女なら、在処を知って入手していてもおかしくはない、所持している可能性が一番高い!」

「私も同じ意見です。エレオノラもカーミラの配下だった、視察の名目で領地を訪れて偽物を用意し、入れ替えるのも難しくないはずです」

 

 千種たちも頷き、次なる作戦が王錫奪還へと定まっていく。

 しかし、問題もあった。

 

「それが分かったところで、どうする? そもそもカーミラは今の俺たちの手に負える相手か?」

「しかも僕たちはイザベラを倒せず、正体が露見した上で逃げてしまったんだ。彼女が黙っているとは思えない、カーミラに報告されるんじゃないか?」

 

 シモンとソーマの口にした懸念は正しく、かと言ってこのまま戦いに向かっては、サンジェルマンが立てた作戦も台無しになってしまう。

 そう遠くない内に発覚してしまうのだとしても、まだカーミラに報告が挙がっておらず、かつオルロックとドクロが騙されているこの状況を利用しない手はない。

 ただし長く騙し切れない以上は、敵の不意を突きつつ大打撃を与え、加えて王錫を奪えるだけの戦力と手段を用意しなければならない。それも、正確な王錫の保管場所を突き止めた上で。

 千種たちがどう頭を捻っても、明らかな無理難題。しかしサンジェルマンはシルキィの方を振り返り、声を掛ける。

 

「シルキィくん、アレはどの程度まで完成しているかな」

「三機までならなんとか出せるはずだよ」

「……それならもしかしたら、なんとかなるかも知れない」

 

 会議室に集まった全員が、その一言を聞いてザワつき始めた。

 すると、その騒然とした空気を諌めるように、サンジェルマンが宣言する。

 

「聞いてくれ! またまた相当な無茶をすることになるが……今足掻けば、まだ勝つ見込みはある! 私を信じて欲しい!」

 

 希望は決して失われてはいない。

 その主張に、概要を聞いていないにも関わらず真っ先に賛同したのは、千種とシルキィ、そして瑠璃羽だった。

 

「動かず黙ってても意味がねぇ。俺らが生きてることがバレたら、どの道この場所は嗅ぎつけられるだろ」

「そうなるくらいなら、足掻いた方がよっぽど良いよ」

「教えて下さいサンジェルマンさん!! 私たちは、どうしたら良いんですか!?」

 

 ソーマやミナ、さらにシモンとアルケーも、信頼の眼差しを送っている。

 サンジェルマンは短く頷き、その手に『正義』のタロットカードを掲げた。

 

「付いて来てくれ。引っ繰り返すぞ、世界を……!」

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