王錫奪取の作戦行動が始まるよりも前。
シルキィは、右手に持ったあるものを千種へと差し出す。
それは、縦に二本配置された長い角を持つ金色のカブトムシの形状をした物体で、背甲状の小型ディスプレイは真っ赤な宝石のように輝いている。
「こりゃ……なんだ? 新しいギミックアンバー、なのか?」
「うん。でも、実はこれだけじゃ使えない。王の証を見て思いついたことはあるんだけど、まだ完成じゃないんだ」
「じゃあ、俺が持ってても意味ねぇんじゃねぇか?」
「大丈夫だよ、むしろ今それを持ってて貰った方がとっても都合が良い」
首を傾げる千種に対し、シルキィと瑠璃羽は顔を見合わせクスリと笑う。
「とにかく、無事で帰って来て下さいね。その……先輩のこと、待ってますから」
「ワタシも博士くんと同じ。キミの無事を祈って、勝つって信じて待ってるよ」
二人から見つめられて頬を染め、照れ臭そうに顔を背けつつも、自身もフッと笑みを浮かべる。
「へっ、いつものことだけどよ! こりゃ何がなんでも負けらんねェな!」
こうして千種は誓いを胸に、作戦の遂行のため戦いに向かうのであった。
※ ※ ※ ※ ※
同じ頃。
カーミラ領の地下深くに作られた牢獄兼秘蔵のラボに、息の荒いイザベラが現れる。
「……ハァッ、ハァーッ……」
彼女は壁に手をついて這うように進み、その途中で口を抑えて呻く。
「ウグッ!? オゴ、ヴェェェ……ェェェーレッ!!」
そして、嘔吐した。
身体の穴という穴から噴き出すそれが、彼女の喪服を腐らせ溶かしてしまい、丸裸にしてしまう。
『イザベラ・バートリー。役立たずのあなたにピッタリの、特別な任務を今から与えるわ』
かつてカーミラからかけられた言葉が頭の中で響くのを感じながらも、油まみれのままペタペタと歩き、牢の中にある錆びない金属でできた培養槽まで辿り着くと、端末を操作してゆっくりと中に浸かった。
――現在、イザベラの身体は錆油の研究材料として使われ、マキナイトの体内に投与することによる変化と強化性能、及び濃度調整による耐久力テストを重ねたことで非常に不安定な状態になっている。
『いい傾向ね、やはりあなたに目をつけておいて正解だったわ。あなたは最弱の四傑伯なんかじゃない。四人の伯爵の中で、最も強大な生命力がある。そして、錆油の実験にはその生命力が必要不可欠……ウフフ、アハハハハハッ』
錆の侵蝕を抑制し、油を取り込んだことによる体の乱調を復元する特殊な薬液の中で、イザベラは歯を軋ませた。
元々マキナイトに改造された状態からさらに再改造された挙げ句、例の奇妙な油を投与されたことによって、彼女はこの培養槽なしでは生きていけない身体になってしまった。
『普通のマキナイトでは、この培養槽から出てしまったら三日間、戦うために変異すればたった一日で死んでしまう……けどあなたはすごいわ、変異した後でも半月程度は生きていられる数値を叩き出しているのだから』
イザベラにとって冷笑混じりのそんな言葉は何の慰めにもならなかった。
油でも血でもない、混じり気のない涙をこぼしながら、イザベラは牢屋の天井を睨み上げる。
「私の身体ァァァ……あいつらのせいで、こんなに、ボロボロにィされて……殺す、人間も公爵も、私の敵はどいつもこいつも必ず殺してやるゥ……ーッ!!」
まずはあの仮面ライダーたちだ。
悲嘆と激情を胸に抱きながら、彼女はゆっくりと目を閉ざす。
エミディオとスモーキーの死がオルロックへと報告された後。
王都に立てこもる彼の元へ、二つの軍勢が押し寄せていた。
「反逆者オルロックを殺せ!!」
「カーミラ様の御意思はヴラディス王の御意思だ!! 逆賊は尽く殺せ!!」
ひとつはカーミラ率いる保守派の軍。オルロックの革新派と水面下で牽制し合っていた者たちが、領地に逃げ延びて表向きカーミラ軍に加わっていたスモーキーが殺され口実もできたことで、これを好機と見て襲撃をかけたのだ。
「カーミラ様に勝利を!!」
『カーミラ様に勝利を!!』
「ヴラディス王のために!!」
『ヴラディス王のために!!』
「ラクール王家万歳!!」
『ラクール王家万歳!!』
保守派の士気は凄まじく、最後列に陣取るカーミラの耳にまで、その号令は届いていた。
カーミラは赤い唇を妖艶に釣り上げて片手を挙げ、進軍の合図を出す。
それを目にして、先頭に立つ隊長格のマキナイトは再び声を張り上げた。
「全軍、突撃ィィィッ!!」
『オォォォーッ!!』
カーミラ軍が進み、城門と城壁への攻撃が開始される。
一方、もうひとつの軍の総大将であるドクロも、盃を片手に自らの率いる享楽派の軍勢と共にその様相を眺めていた。
「権力者の作り上げた仮初の均衡が崩れ、暴力と暴力がぶつかり合い、血肉が飛び散り舞い踊る……」
クイッ、と酒を呷り、ドクロは唇を歪める。
「全く面白きものよなぁ」
上流のマキナイトたちがこんな混沌とした状況に飲まれても、彼はその混沌自体を楽しんでいた。
貴族同士の全面戦争は、ドクロにとって大いに望むところ。ついでに王座に就くことができたなら、より多くの殺戮と戦乱を引き起こすことができるだろう。
「強敵と快楽に飢えし輩よ。欲しくば剣を持て、奪いたくば弓を引け」
ドクロはゆらりと席を立ちながら、配下たちにそう語りかける。
「今宵の相手は公爵二人とその傘下の軍勢。だが所詮は群れねば自己を保てぬ軟弱者の集まり、恐れることはない。討てば思うがままだ。報酬も、爵位も」
そして腰に帯びた一本の刀を抜き払い、切っ先を天に掲げた。
「このドクロ・シラヌイの名の下に!! 財も命も喰らい尽くすが良い!!」
ドクロの号令と共に大地に鳴り渡る、血を求めるマキナイトたちの咆哮。
騎士の軍勢三つが怪人に変異してぶつかり合い、主君に勝利を捧げるため、戦いに奔る。
己の信念を貫くため、あるいは主への忠義を果たすため、はたまた戦いたいという欲求を満たすため。躊躇いなく、誰もが刃を振るう。
そうして最初に勢いが削がれ士気を落とし始めたのは、オルロック軍であった。
スモーキーの離反とエミディオの死亡により戦力と兵数を失い、戦場で指揮を執る者も欠いた状態での籠城戦。劣勢になるのは必然なのだ。
もはや逆転は絶望的で、カーミラとドクロも、配下たちもじきに城壁を落とせると確信していた。
「ん?」
空から大きなひとつの黒い影が突然に差し込み始めたのは、そんな時だった。
見上げれば、そこにあるのは楕円状の一つの大きな黒い鉄の塊。
誰もが手を止め、その威容に視線を注いでいた。
「アレは……なんだ!?」
「デカいぞ、いつからあそこに!?」
悠々と空を泳ぐその様は、まるでクジラのようだ。
別々の場所に陣取っている公爵三人は、上空のそれを見て息を呑んでいた。
『……
――かつて、マキナイトが現れる前にこの国を統治していたストーク王家が所持していたという、空を飛ぶ巨大な船。
蒸機戦艦。廃棄された状態からサンジェルマンとシルキィたちが復元し、新たに追加した特殊光学迷彩機能を含む様々な武装によって強化されたそれが、マキナイトたちにとっての悪夢そのものがそこにあった。
カーミラもドクロも、狼狽して後退りしてしまう。
「あり得ない! アレが現存するハズがないわ!」
「かつて人間どもが使っていた、気の狂った卑劣な兵器……全て破壊した、はず……」
一方、城内で状況を視認していたオルロックは、全く逆に歓喜の笑みを見せ拳を振り上げブンブンと回してはしゃいでいた。
「は、ははははは!! 来た、来たぞ!! また玉座が見えて来た、チャンス到来だァッ!!」
そして窓から身を乗り出して、大声で城の外に向かって叫ぶ。
「総員! 至急城内に帰投し、窓から離れた場所で次の指示を待て! 最悪敵に壁を越えられても構わん、城に侵入さえされなければ問題ない!」
「急いで城壁を破って……いや、飛び越えて中へ!」
「敵勢は無視し、とにかく遮蔽のある場所に潜んでいろ」
各公爵の配下たちは何がなにやら分からぬまま、指示に従い走り出す。
しかし逃げる者ばかりではなく、指示の意図がわかっていないかそもそも話を聞かず戦いを継続しているマキナイトがカーミラ・ドクロ陣営におり、そういった連中は放置して隠れていく。
直後、頭上の船の下部のハッチが幾つか開き、中から砲身のようなものが伸び出てくる。銃口に当たる先端部には透明なレンズに見えるものが取り付けられており、地上で多くマキナイトが集まっている地点に照準を定めている。
攻撃が来る。咄嗟に、カーミラは未だ遮蔽物に隠れていない部下に呼びかけた。
「伏せなさい!」
その言葉を聞いた後、戦っていた者たちが最期に見た光景は、
レンズから放たれた眩い閃光は戦場全体を照らし、逃げ隠れせずそこにいたあらゆるマキナイトを例外なく灰に変えた。
「あがっ!?」
「ひっ!? と、溶けて……いぎゃっ!!」
また、指示通りに隠れていた者たちの中には、僅かな隙間から光を浴びてしまった者もいる。
マキナイトを消し去る、今は忘れられし『太陽』の如き光。
当時を知る者たちが最も恐れたその兵器は、たった一撃でカーミラ・ドクロ軍を半壊せしめた。
「少し……厄介ね。このままでは全滅よ」
「カーミラ様、如何致しましょう」
「あの光の兵器は再使用可能になるまでしばらく時間がかかるはず。だから、次の攻撃までに幾許か猶予があるわ」
「では、我々でその間にあの船を落としましょうか?」
部下の執事服の男の進言に対し、カーミラは僅かに間を置いて思考を巡らせた後「いいえ」と答える。
「それはドクロや彼の配下にやらせて、私たちは先に城内へ侵入する。裏手からならオルロック軍の手勢も少ないはずよ」
「かしこまりました」
結論を出し、二人は急いで裏門の方へ飛び出していく。
だが、その時だった。
彼女らの正面へ回り込んで、六人ほどの集団が立ちはだかる。
先頭に立っているのは、ドクロだった。
「ドクロ……?」
「どこへ行くつもりだ」
自分の予想が外れたこと以上に、カーミラは目の前の公爵の行動に目を見張る。
「本気? アレを無視するというの?」
「貴様も放置しているではないか。それに、あの船の相手をするよりもこっちの方が面白い」
「……つくづく狂っているわね」
溜め息を吐くと共に、カーミラはサーベルを抜刀。隣に立つ付き人のマキナイトも、自身の姿をスパイダー・マキナイトのものへと変化させた。
「そんなに殺し合いが望みなら、良いわ。受けて立つ」
「フッ、そう来なくてはな?」
その言葉に応じ、ドクロも刀を抜いて構え、周囲の者たちもそれぞれマキナイト形態に変異していく。
そして城外に残っている両軍のマキナイトたちは、現状最大の脅威である上空の蒸機戦艦に目を向けていた。
「今の内に船を狙え! あの光を出す砲台だけでも砕くんだ!」
翅を持つ者は空へ飛び、地上にいる者は敵軍を対処。
これ以上人間にも敵派閥にも邪魔されないようにするために、必死で立ち回る。
しかし無情にも、飛行していたマキナイトたちは針のように細い無数の光の粒子に貫かれてしまい、地に落ちていく。
「ギャッ!?」
「な、なんだ!?」
見れば、先程のレンズの大砲とは別に船の側面に機関銃が配備されており、そこから放たれた光の弾によってその身を貫かれたのだ。
さらに背中にジェットパックを装備したXレイダーも次々に戦艦から降下していき、地上及び空中でよろめいているマキナイトを殲滅し始める。
反撃が来れば、飛行して距離を置く。充分に退避できたなら、すかさず遠距離から射撃、あるいは白兵戦によって仕留める。その繰り返し。
ただそれだけの戦法で、生き残ったマキナイトたちも順調に数を減らしていく。
「に……人間……人間、風情がァァァッ!!」
そう吠えたゾウムシの騎士もまた、眉間を撃ち抜かれて死に絶える。
このままではどちらの軍も戦力を失って、結局オルロックが一人勝ち、あるいはこれまでに積み上げて来た全てを人間の手で壊されてしまう。
二人は一度攻撃の手を止めると、武器を収め口を開く。
「ドクロ、ここは一時休戦しましょう。まだ時間はある、全員で城に駆け込めば間に合うはずだわ」
「……まぁ、仕方あるまい。しかし実際どうする? あの船は前より手強い、容易く落とせんぞ」
「一応手段は二つほどあるわ。けど片方はダメ、アレは本当に困った時の
「ふむ、なるほど。ヤツと三人がかりなら、確かにそう困難な話でもなくなるな」
ドクロとカーミラは頷き合い、側近の部下たちにも呼びかけ戦闘を中断させる。
彼らも不満に思いつつも主の提案した共闘には賛成し、肩を並べ壁の内側に侵入した。
しかし、その直後。光の矢と弾丸がドクロの配下を撃ち抜く。
「ムッ!?」
「これは……!?」
公爵二人はそれらを自らの刀剣で打ち払い、攻撃が飛来して来た頭上を見上げると、そこには二つの人影があった。
既に変身している仮面ライダーたち、モナークとラレーヌだ。
「ようやく貴様らと戦う時が来たぞ、公爵ども」
「ここで私たちが食い止めます!」
彼らの姿を見ると、ドクロとカーミラは目を見張りつつも余裕を取り戻し、刃を収めて肩を竦める。
「驚いた。我々に直接挑む人間が、そんな命知らずがまだ存在するとは」
「一体誰の差し金かしら?」
質問には答えずに、モナークたちは各々の武器を持って身構えた。
対する真祖・ドクロは、くつくつと喉を鳴らして笑い、部下たちを下がらせ悠然と前に出る。
「その勇気を称え、相手をしてやろう。貴様は手を出すなよカーミラ」
「構わないわ。どうせ、どちらが先だろうと決着は瞬きする間についてしまうでしょうから」
「よし」
ドクロは満足気に頷き、改めてモナークとラレーヌを睨んで首を鳴らす。
ただ立っているだけだが、その凄まじい威圧感は二人を警戒させるには充分であった。
「油断するなよ」
「当然です!」
聖王と麗王はそう言葉を交わした後、同時にドクロへ飛びかかる。
※ ※ ※ ※ ※
一方、先に地上に降りていた千種とソーマは、運良く誰とも鉢合わせる事なく壁の内側に忍び込んでいた。
目的は王城を完全破壊して遮蔽物を排除し、太陽光を通して敵を一網打尽にすること。
侵入成功した二人は早速ドライバーを装着して、ギミックアンバーを手に取った。
「始めよう。チグサ、頼むよ」
「任せとけ」
『変身!』
《
《
起動と共に装填、そして繭を破って同時に変身。
赤きアトラスオオカブトと青きマンディブラリスフタマタクワガタの仮面ライダーが並び立ち、直後にレギウスの方が周囲に氷を散布させつつ廊下の扉や窓を凍らせていく。
「まずは凍らせて出口を絞り込んで……」
「そんで爆破でブッ壊す!!」
続いて、ダイナストがオレンジ色の光を周囲に撒き散らす。
明滅が始まり、二人が上階へ走り出した後、小規模ながら爆発と炎上が起こった。
と同時に、二人は二階でも同じく凍結と爆破を行い、声色を変えて廊下を走りながら叫ぶ。
「敵襲だぁぁぁっ!」
「ヤツら火を放ったぞぉ!」
「このままじゃ城の中も危ない!」
「急げ、早く逃げろ逃げろー!」
すると段々周囲から慌ただしい足音が聞こえ、ダイナストたちは手近な扉を開いて隠れる。
そして僅かに開いた隙間から覗いてみれば、先程の声を聞いて動揺したマキナイトが廊下に集結しているのが分かった。
「ぐわっ!? 本当に燃えてる!?」
「煙も激しいな……」
言いながら貴族の一人が窓に手をかけるものの、全てレギウスが凍結させているため、開かない。
「クソッ、熱で変形したのか!?」
「マズい……このままでは城壁も保たない!!」
「ヤツら、我々が焼け死ぬかあの光で死ぬかを空の上で見てるつもりか!?」
「お、落ち着け! オルロック様だ、こういう時は公爵様を頼れば……」
小太りの貴族がそう言ってなだめようとしたのを見計らい、二人は扉を静かに閉めて行動開始。
まずは今いる部屋を凍結で密閉状態にし、左右の壁を爆破して、炎を燃え広がらせていく。
「また爆発!?」
「こっ、これは……悠長にしている時間はないのでは!?」
さらなる動揺が広がる中、ダイナストたちは爆破と凍結を継続しつつ、再び叫ぶ。
『逃げろォォォー!!』
その一声で、堰を切ったように貴族たちが逃げ出し始めた。
煽り立てられた恐怖で大騒ぎしながら、我先にと。
「貰った」
瞬間、ダイナストは爆発で僅かに穴が空いた壁に銃口を向けて数度発砲、それが廊下の天井に命中してオレンジ色の光が流し込まれる。
貴族たちが気付かぬ内に光が明滅すると、爆発が響く後に瓦礫に潰される音が外から聞こえた。
「へっ、ざまぁ見やがれバケモンども」
「今ので死ななかったヤツらもいるだろうが、どの道あの兵器の前じゃ無意味だ。このまま破壊工作を続けよう」
「おうよ、逃げ道全部塞いでやる!」
周囲に警戒を払いながら二人は廊下に出ると、三階に登ってまた凍結と爆破を繰り返す。
これを続けることでオルロックを含む貴族たちを炙り出し、最後に陽光砲で纏めて消し去る。
仮にその光を受けた上で公爵たちが生き残ったとしても、直接始末できなくとも重傷を負うのは確実。
そして一人でも捕らえれば、特にカーミラを取り押さえることができたなら、王錫の在処を吐かせることもできるはずだ、というのがX-ROSS側の作戦であった。
ダイナストとレギウスはその希望を現実のものとするため走り続けるが、そんな二人の頭上で天井が
不審に思い両者ともバックステップすると、黒ずんで崩れた瓦礫と共に大柄なマキナイトが姿を現した。
「やっぱり来ていたのねェ……仮面ライダー……ァァァァァッ!!」
既にウォレスジャイアント・マキナイトに変異しているイザベラだ。滴る錆油が床や壁も腐食させ、溶かしている。
「……どうする? こいつがいるのは想定外だ」
「どうもこうもねぇ、やるしかないだろ!」
ダイナストに言われてレギウスも双剣を構え、油まみれの巨人と対峙する。
するとウォレスジャイアントは喉奥で笑い、強靭な両足で踏ん張った。
「そうよ戦いなさいィ……私はァッ、仇を討つんだァァァッ!!」
巨漢のマキナイトがそう言って自らの筋肉に大いに力を込めると、全身がボコボコと盛り上がり、錆油が弾丸めいて四方八方に飛び出していく。
「ンなこともできんのかよ!?」
「アァァァッハハハハハハハハハハァァァーッ!! 皆殺し皆殺し皆殺し皆殺し皆殺しィィィーッ!!」
錆油が周囲の壁をグズグズに溶かし、レギウスが氷壁でその攻撃を防ぐ。
だがこのままでは、前回と同じ結末を辿るだけ。そこで、クワガタの戦士は振り返る。
「ダイナスト!」
「おう!」
続いて、声をかけられたダイナストは自らの拳で氷壁を打ち壊して破片を飛ばし、撒き散らされたそれがウォレスジャイアントの足元や背後で爆炎を放つ。
「グゥッ!?」
ひとつひとつは小さな種火でも、今のイザベラは燃えやすい油を纏っている。
よって必然、その黒光りする巨躯にも炎が燃え移った。
「フンッ、こんな小細工ゥッ!!」
だがそれでも、ウォレスジャイアントは燃えた部分ごと多めに油を射出し、難を逃れてしまった。
「そこだ!」
「!?」
瞬間、再びダイナストが動く。先程殴ってから未だ残っている氷塊を蹴り上げ、銃撃によって砕いて散らす。
その氷の礫は、油が薄くなった影響で錆蜂の騎士の四肢と腹部に突き刺さり、ついに肉に食い込んだ。
粒子によってウォレスジャイアントは内側から凍りつき、滴る錆油も冷えて固まり、大アゴが開いて悲鳴が上がる。
「チィィィッ……! でも、この程度で!」
彼女自身が語る通り、実際既に負傷の再生が始まっており、油によって氷も溶解しつつある。
それでも、レギウスたちは勝利を確信していた。
「そう、お前はこの程度じゃ死なないだろう。だが」
「何か忘れてンじゃねェか。その氷、
ダイナストが言った途端に、氷は火が点いたように朱く閃く。
さらにその光は、凍りついたウォレスジャイアントの体内にまで侵蝕し――。
「ギャアアアアアァァァァァーッ!?」
発光、爆破。流れる油によって全身はおろか腹の中まで火の手が回り、大きな口から濁った声の悲鳴が上がる。
手で火を振り払おうとするも効果はなく、彼女自身の意思と無関係に油が出るせいでどんどん燃え広がってしまい、ついには傷のせいで手足が裂け上半身と下半身が千切れてしまう。
終いにウォレスジャイアントの立つ床が軋む音と共に崩壊、その大きな体が地面に向かって転落していく。
「よし、これで……」
「まだだ。レギウス、そのギミックアンバー貸してくれ」
下階で五体が炎上しもがくウォレスジャイアントを見下ろしつつ、ダイナストは受け取った琥珀を自らの銃に装填する。
「前回も殺したと思ったら生きてやがったからな」
《
「確実に、念入りにやんねェとな」
《マンディブラリス・ダイナスティキャノン!》
銃口から放たれた、巨大なクワガタの姿を取る凍結粒子の塊がウォレスジャイアントを飲み込み、再び爆裂。
穴から猛烈な勢いで炎が舞い上がり、もう一度下を覗き込んだ時には、真っ二つになった上で四肢が千切れて瓦礫に潰されたイザベラだった肉塊が残されているのみだった。
《
「流石にこれは死んだろ」
「仮に今ので生きていたとしても、再生に時間がかかるはずだ。しばらくは立ち上がれないだろう」
二人はそう言って、再び破壊工作を続行しようと走り出す。
だが、上階への階段に向かおうとしたその時、濃い紅色の礼服を纏った巨躯の男に出くわしてしまう。
「この騒ぎは一体何だ……?」
現在の黒の貴族のトップの三公爵の一人、オルロック・シュレック。打倒すべき敵を前に、ダイナストは拳を握り締め油断なく構える。
「テメェがオルロックか」
「ダイナスト……それにもう一人!? 貴様らは死んだハズ!?」
ギョロリとした目をさらに大きく見開いた後、すぐにその大男は納得した様子で頷いて、額をペタンと掌で打った。
「そうか、そういうことか……揃いも揃って、まんまと騙されていたのか。人間風情に」
続いてスーツが張り裂けんばかりに筋肉を盛り上がらせて拳を握ると、その瞳でダイナストたちを睨む。
「私としたことが、これは平和ボケと言うものか? 高位の貴族として安全圏に居座り続けた弊害だろうか。だが問題はない……貴様らを殺せばいい。蓋を開けてみれば、ただそれだけの簡単な話ではないか」
「これまでもンなこと言ってたマキナイトが何人もいた、でもみんな俺たちがブッ殺してやった。アンタも今からその一人になる」
「食糧どもが抜かしおるわ……私の前に立ったことを後悔するが良い、人間」
その言葉と共に、オルロックはスッと唇を引き結んで目を剥き、自分の顔の前に右手をやる。
すると、顔面にビキビキと真っ黒な血管のようなものが浮かび上がり、強く脈打つ。
「
続いて出た掛け声の直後、その体は雷鳴を伴うドス黒い蒸気に包まれる。
そうして現れたのは、先程戦ったウォレスジャイアントよりもさらに大柄で筋骨隆々で、頑丈な甲殻に包まれた怪人。
白と黒の縞模様の頭部からは二又に分かれた短い黒角と長い触角が伸び、背中の紅い殻の下からは薄翅のマントがはためいている。
また、肩甲骨の辺りには腕とは別にもう二本、大きく屈強な副腕が付いており、その先端部は何かを挟んで斬り潰すためのペンチのような形状となっている。
オルロックが変異したそれは、明らかにこれまでのマキナイトとは別格の存在――否、完全に別物であった。
「こ、これが……!?」
「そうだ。これこそがマキナイトの真祖、クドラクたる我が姿」
ヤシガニとゴライアスオオツノハナムグリを掛け合わせたような見た目のその異形の怪物は、副腕で瓦礫を叩いて払いながら、ゆっくりと歩いていく。
「戦滅暴魔クドラク・クライシス!! 往くぞ人間ども!! 泣き、叫び、無様に許しを乞うが良いわ!!」
咆哮と同時に、猛然と疾走する怪物。
その暴威を迎え撃つべく、仮面ライダーたちは立ちはだかった。