仮面ライダーダイナスト   作:正気山脈

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『目を開け、イザベラ・バートリー』

 ダイナストとレギウスに敗れ、全身を燃やされた上に五体をバラバラにされ上顎と下顎が断裂したイザベラ。
 ほとんど意識を失いつつあった無惨な姿の彼女は、地上でそんな声を聴く。

「だれ……?」

 自分でも未だ声を出せることに驚きつつも、視線を上げると、そこには3m近い巨体の裸身の女がいた。
 頭には鍔が広く下に垂れ下がった真っ黒な帽子を被っているため、素顔は伺い知れないが、淫靡で妖艶な雰囲気を漂わせる男の目を引くような体型だ。
 一体どこから現れたのか。人間であれマキナイトであれ、こんな長身でしかも裸では目立つため、どこかで見かけていてもおかしくないはず。
 いや、そもそも彼女は現実に存在しているのか。

『我が名は、コルディセプス。端的に説明するなら、お前の体内にある錆(・)油(・)の(・)化(・)身(・)だ』

 浮かんだ疑問を晴らすように、コルディセプスと名乗った女は語り続ける。

『もっと力が欲しくないか?』
「え……?」
『お前の身体は丈夫だ。まだ生き永らえている。もし望むのであれば、私が修復してお前の中の錆油をもっと強力にしてやる。代償は頂くがな』

 その力で、もっと強くなれるのなら。仮面ライダーを倒せるというのなら。
 イザベラは、再生しつつある頭部をゆっくり動かし、頷く。
 コルディセプスはその様子を確認すると、満足げに唇を釣り上げた。

『よし。ではより深く侵蝕させて貰うぞ、脳(・)ま(・)で(・)な』

 そんな不穏な一言の意図を尋ねる前に。

「ギャヒッ!!」

 イザベラの顔は、今までの彼女自身のものとは明らかに違う狂喜に歪んだ。


GEAR.38[大魔王譚]

 蒸機戦艦を使い、王錫の奪取と王都に蔓延るマキナイトを討つために侵攻を開始したX-ROSSの面々。

 ダイナストとレギウスは作戦を滞りなく進めるために王城に潜入し、破壊工作を行っていた。

 しかしそんな二人の前に立ち塞がったのは、黒の貴族のトップである三公爵の一角、オルロック・シュレック。

 最大の敵は怪人としての姿、クドラク・クライシスとなり、ダイナストたちに襲いかかる。

 

「フハハハハッ!!」

 

 銃撃と氷の礫を受けながらその剛腕から繰り出されるラリアットが、レギウスの頭部に命中。

 そのままの勢いでなぎ倒し、レギウスの背が壁面に叩きつけられてしまう。

 

「ぐはっ!?」

「どうした、こんなものか!!」

「くぅ……ガッ!?」

 

 続いて痛烈な回し蹴りを胸に受け、吹き飛ばされていく。

 さらに追撃を食らわせようとするクライシス、そこへダイナストがその大きな背中に銃弾を何発も浴びせる。

 アトラスアーマメントの力によって、弾丸は命中の後に明滅し、爆発。ダイナストはこれまでにも、あらゆるマキナイトをこの爆破の力で葬り続けて来た。

 だが。

 

「フンッ、なんだ今のは?」

「クソッタレ、直撃してんのによ! なんで全然効いてねぇんだ!」

 

 銃撃も爆撃も、クドラク・クライシスの甲殻に一切傷を付ける事ができなかった。

 それだけではない。凍結粒子の含まれたレギウスの氷の礫・氷柱なども、甲殻に阻まれ粒子が浸透できず通用しない。

 ならば、と二人は互いの顔を見て頷き合い、左右に並び立つ。

 そしてレギウスが地面から氷壁を形成し、ダイナストがそれを蹴り上げ氷塊を飛ばす。

 ウォレスジャイアント・マキナイトとなったイザベラを苦しめ倒した、二人のコンビネーション攻撃。氷が命中し、オレンジ色に明滅した後に爆発する。

 

「クククククッ」

『な……!?』

 

 しかしそれさえも、ヤシガニとゴライアスオオツノハナムグリの怪人となったオルロックには、全く効いていなかった。

 文字通り無傷で凌ぎ、防御のための頑丈な氷壁も巨大なペンチのようなハサミに容易く引き裂かれ砕けた挙げ句、二人とも剛腕に殴り飛ばされてしまう。

 

「なぜ凍らないんだ……!?」

「爆破もダメだ、どんな体してやがる!?」

 

 咄嗟に両腕を交差させ身を守ったため、ダイナストとレギウスのどちらも大した傷は負っていない。

 それでも、自分たちの攻撃が全く通じないという事実を前に、その圧倒的な力に驚嘆するばかりであった。

 

「これがクドラクだ!! マキナイトは我らの変異した姿を模倣し、我ら自身の手で改造して作り出した存在に過ぎない!! 怪力も再生力も異能も!! 何もかも我々をコピーしたものでしかないのだ!!」

 

 言いながら、クドラク・クライシスは再び野太い四本の腕を振り回す。

 

「そしてそんな模造品相手に苦戦する貴様ら人間如きが!! 真のクドラクに勝てるワケがないだろうがァッ!!」

「うおっ!?」

 

 ペンチの先端で胴を突かれ、よろめくダイナスト。

 陽光砲の再発動まで時間を稼がなければならないのだが、このままではクライシスのパワーの前に、一方的にやられてしまう。

 ならば、とダイナストとレギウスは自らのドライバーに手を伸ばし、操作する。

 

「これならァッ!」

《アトラスビートル!! BURNING VAPOUR BLAST(バーニング・ヴェイパー・ブラスト)!!》

「こっちもだ!」

《マンディブラリス!! FREEZING VAPOUR BLAST(フリージング・ヴェイパー・ブラスト)!!》

 

 仮面ライダーたちの切り札、蒸気解放。

 これによりダイナストは巨大な三本角のカブトムシに、レギウスは長く鋭い大アゴを伸ばすクワガタになり、クライシスの周囲を飛び回る。

 ヴェイパー・ブラストであれば、いくら膂力に優れるオルロックでも簡単に自分たちを止めることはできないはず。

 そう判断し、二人は左右から挟み込むような形で一気に突撃する。

 クライシスは副腕のハサミで攻撃を受け止めるも、甲殻がミシミシと音を立てて筋肉も軋み、二人の強大な力に堪えきれず徐々に身体が後ろに下がっていく。

 

「いっけェェェーッ!」

「圧し潰す……!」

 

 二人の尽力により、ついに甲殻に亀裂が走って砕け散った。

 このまま行けば押し切れる、そう二人が思い力を込めた、次の瞬間。

 

「小賢しいッ!!」

『ぐあっ!?』

 

 何事もなかったかのようにクドラク・クライシスの殻が元通りになり、蒸気解放形態の二人の身体をぶつけて強制的に元の仮面ライダーの姿に戻させる。

 圧倒的な力の差。四傑伯全員を倒し、王都の貴族をここまで追い詰めてなお、届かない高み。

 

「シルキィ、まだなのか……!? このままでは僕だけじゃなくチグサも……!!」

 

 己の非力を嘆きながらレギウスは拳を固く握り、直後にハッと頭を上げた。

 

「まだだ……僕にはもう一つ、奥の手があった!!」

 

 そう言って彼はマンディブルハンガーを一度閉じ、さらにギミックアンバーのキーを三度捻ってから再びハンガーを開く。

 すると、レギウスの周囲に凍結粒子が集まって装甲を上から覆い、新たに氷の鎧を形成し始める。

 

《DEEP FREEZE(ディープ・フリーズ)!!》

「ハァァァッ!!」

 

 そうして出来上がったのは、薄く鋭い氷の刃と追加装甲で全身を固め、強化されたレギウスの姿だった。

 常に身体から凍結粒子を放出しつつ、アーマー自体を粒子でコーティングすることにより、さらに防御力を高めつつ攻撃性能も引き上げている。

 

「ソーマ、それは!?」

「覇王氷鎧(ディープ・フリーズ)……マンディブラリスアーマメントの持つ、最大の力だ」

 

 レギウスが告げて両腕を交差させると、その腕甲から鉤爪のようにハサミが展開された。

 ダイナストを守るように突撃し、レギウスは自身の腕のハサミを突きつけ、クライシスはそれを副腕のハサミで受け止める。

 

「フム? 先程までよりは幾分かマシになったようだな?」

「ほざけ! 醜い人喰いの吸血鬼め!」

「……この私にそんな口を叩いて、今日まで命が繋がった者は存在しない。そしてそういう人間を私は喰ってやらん事にしている。そんなクズの末路は家畜(人間)のエサだ」

 

 メキメキと音を立て、レギウスの腕甲、アームシザーが砕けていく。

 

「貴様も同じ目に遭わせてやるぞゴミクズがァァァーッ!!」

 

 そんな怒号と同時にペンチがアームシザーを裂き、その瞬間に砕けて舞った氷片が無数の針に転じ怪物の胸や甲殻を刺す。

 

「ムゥ!?」

「そこだッ!」

 

 言いながら、続いてレギウスは双剣を真っ直ぐに突き出した。

 クライシスはそれを副腕のハサミで防ごうとするも、そのハサミは開かない。

 見れば、先程アームシザーを破壊した際に噴出した粒子によって凍らされたようで、使い物にならなくなっていた。

 

「チッ!」

 

 仕方なく、オルロックは副腕を盾にしつつ自身の両腕も使って刺突から身を守る。

 剣先は深く突き刺さり、異形の怪物は初めて出血。しかしそんな事態をものともせず、レギウスを蹴倒して刃を抜く。

 さらに自ら副腕のハサミを地面へと叩きつけて破壊し、再生することによって無理矢理開閉可能な状態に戻した。

 そして再生の瞬間、ダイナストは目撃する。

 刺された箇所や砕けた副腕の先から、赤い体液を放出して成形している姿を。

 

「アレは……血か!?」

 

 クライシスの血はすぐに固まり、傷もハサミも塞いで復元してしまう。その様子を見ながら、レギウスは言う。

 

「この殻は固めた血液を何層にも積み重ねてできたもののようだ。だから凍結粒子も爆破のエネルギーも、内部まで浸透する前に自壊することで喰い止めていた! 殻が頑丈に見えるのも、壊れたら即座に自分の血を送り込んで元の形状に戻しているからだ!」

「フハハッ、それが分かったところでどうなる? 我が血で作られたこの柔剛自在の鎧、貴様如きで破ることは叶わんぞ!」

 

 その言葉の直後にクライシスは全身に力を込めて、無数の野太い鋼鉄の棘を生やし猛突進する。再生能力の正体が割れた今、攻撃手段を隠す必要もなくなったのだ。

 対するレギウスは、素早く飛び退いて回避を試みる。

 するとクライシスの方も立ち止まり、右肩から伸びている棘を数本引き抜くと、ブーメラン状の刃に変え投擲した。

 想定外の挙動にも関わらずレギウスは粒子を固めて氷壁を展開し、寸でのところで防御するものの、ブーメランは容易く氷を砕く。

 さらにもう一本棘を抜いてメイスに変えると、それを使ってレギウスの側頭部を打った。

 

「ぐあっ!?」

「我が血の力はこのような使い方もできるのだ、クククッ……」

 

 クライシスは両腕と副腕でよろめいたレギウスを捕まえ、そのまま屈強な四本の鉄の塊で抱き込み、メキメキと圧し潰していく。

 

「取った! 貴様のような非力な人間では、私の腕から抜け出せまい! このまま平らに潰し――」

 

 言い終える寸前、腕の力が徐々に弛緩し始める。

 見下ろすと、レギウスは身体から放つ粒子の量を増幅させ、凍った層を砕く暇も与えず一気に流し込んでいた。

 

「が、うぁ……!?」

「捕まえた、とはこっちのセリフだ。流石の貴様でも、この至近距離から極限まで全開にした凍結粒子を受けてはひとたまりもないだろう」

「キッ……サマァ!!」

「このまま凍りついて死ね」

「させる、か……貴様こ、そ……砕け散れェェェッ……!!」

 

 徐々に凍てつきつつある中でも、クライシスはクワガタの戦士を腕から離さない。

 人間相手にここで退いては、それは敗北を意味する。

 故に力を決して緩めず、先にレギウスを圧殺しようとしているのだ。

 レギウスも負けじと粒子と共に氷の棘を生やして押し返し、圧迫に耐えている。

 一方ダイナストは、少しでもクドラク・クライシスを倒せる可能性を引き上げるために銃撃。ダメージはほとんど負わないまでも、それによって確実に集中力を削いでいく。

 氷の鎧と血の鎧のぶつかり合い。その決着の行く末は。

 

「カァメェェェン、ラァァァァァイダ……ァァァァァァァァーッ!!」

「うッ!?」

 

 突如として床下から伸び出て来た、錆油に塗れた巨腕よって妨げられてしまった。

 足元から聞こえた声に危機を察知し、レギウスとクライシスは互いを突き飛ばして退いたため、油を浴びずに済んだ。

 しかしその後に這い出て来た異形を前に、人間二人はおろかオルロックすらも言葉を失う。

 

「これがあのイザベラか……!?」

「っつーかあいつ、なんであの傷で生きてんだ!?」

 

 一見すると巨大なハチそのもののような姿でいて、実際は六本の昆虫の脚は全て無数の人間の手を絡めて構成されたものであり、複眼は目玉の集合体、触覚は耳を一本の針金で連ねたようなモノになっている。

 特徴的な大アゴは二本の巨大な女の脚、背はまるで福笑いのように様々な人体のパーツが混ざり合ってできていた。

 

「ウジュ、ッケへへへヒェ~ッ!! キイイイイイェェェファファファフェ~ッ!!」

 

 縦に割れた口部と思われる部位からドロドロとした液体を垂れ流し、言語化不能な音色を発するソレは、辛うじて笑っていると判断できる声を奏でて無差別に暴れ回る。

 その際にやはり錆油を広範囲にバラ撒き、クライシスの二つの副腕がそれを浴びて僅かに溶解してしまう。

 

「くっ!? 頭の足りんガキめが、私まで巻き込むとは……!」

 

 副腕を自切して難を逃れ、距離を取る。ダイナストたちもまた、ウォレスジャイアントから遠ざかった。

 意識の有無すら曖昧な巨大蜂は目と触覚をせわしなく動かして全員を視認すると、再び奇怪な音色を紡ぎ錆油を周囲に放散させる。

 油は前回よりも明らかに強力になっており、漂う瘴気が壁に触れただけでも溶解が始まっていた。

 弾丸もミサイルも氷と凍結粒子さえも届かない。油で防ぐどころか、着弾する前に溶けてなくなる。これでは攻撃できない。

 クライシスの方は、城が形を失いつつあるのを見て舌を打つ。

 

「ゴミ人間共め、これでは光を遮るものがなくなってしまうではないか! その汚物共々纏めて始末してやるぞ!」

 

 そう言って身体に付いた棘を剣と盾に変えて握り、クドラク・クライシスが迫る。

 さらにこのタイミングで、レギウスのディープ・フリーズも活動限界を迎え、変身自体が解除されてしまう。

 目の前に自分たちの力も技も通じない強敵二人、まさに絶体絶命。

 そんな彼らの耳に届いたのは、シルキィからの報せであった。

 

『聞こえてるかい助手くん!』

「シルキィ! 例のヤツはできたのか!?」

『ああ! そっちの状況はどう!?』

「かなりマズい、だから使えるってンならもうやるぞ!」

 

 返答を待たずに、ダイナストは事前に貰っていたヘラクレスオオカブト型のギミックアンバーを取り出し、角と頭部そのものを巻き鍵のようにカチッとひねって起動する。

 

《ヘラクレスビートル!》

「行くぞォ!」

 

 続いてヘラクレスビートルギミックアンバーをドライバーに装填、そして先程と同様にヘラクレスキーをひねってホーングリップを倒す。

 すると。

 

《C'MON(カモン)!! キングヘラクレシューター!!》

「……へ?」

 

 いつもと異なる音声と共に、空間を突き破ってダイナストの手元に金色の大振りな銃が転送された。

 これもまたヘラクレスオオカブトを模した形状で、上下に二本の鋭利な長い角が銃剣のように配置され、その間に銃口が付いている。

 さらに左手側の側面にはハンドルの付いた大きな歯車が、銃本体の上部にはギミックアンバーを一直線に通して読み込ませるための一本のレールがあった。

 

「な、なんだこりゃ!?」

《キングヘラクレシューター!!》

 

 ところどころを歯車やパイプや色とりどりの琥珀で装飾されているその武装は、重厚かつ荘厳で豪華絢爛、しかしそれ故にアトラスアーマメントには不釣り合いな武装に見える。

 

「おい、これどう使えば……」

 

 シルキィに使い方を尋ねようとした、その寸前。

 撃鉄に当たる部位のレバーが赤く発光していることに気付いて、ダイナストは直感した。

 

「ここか!」

《CHARGE UP(チャージ・アップ)!! UNLIMITED-SHOWTIME(アンリミテッド・ショウタイム)!!》

 

 それを引っ張り、キングヘラクレシューターなるその武装の銃口を天に掲げ、引き金を指先で弾き叫ぶ。

 

「変身!!」

《HYPER ECLOSION(ハイパー・エクロージョン)!!》

 

 ファンファーレとジャズの調和した演奏音が鳴り響き、ダイナストのアーマーが解除されてアンダースーツのみになったかと思うと、上空に巨大な黄金の繭が形成されて漂う。

 

《KING(キング)》

 

 内側から突き出た二本の角が繭を破り、翅を広げて現れる巨大な黄金のヘラクレスオオカブト。

 

《OF THE KING(オブ・ザ・キング)》

 

 その機械の体はバラバラに分離し、地上にいるダイナストへと次々に合着して新たな装甲となっていく。

 

《OF THE(オブ・ザ)》

 

 続いて黒のスーツが燃え立つように真っ赤に染まったかと思うと、眼部のゴーグル状のレンズがクリアブルーに輝いてクドラク・クライシスを睨む。

 

《GRANDEST KINGS(グランデスト・キングス)!!》

 

 そうして完成したのは、真鍮のパイプを芯とする大きな二本の角が頭部から伸びている、ヘラクレスオオカブトの仮面ライダー。

 アトラスアーマメントよりも装甲自体は薄く見えるものの、銀色で縁取られ各部に様々な色の琥珀が埋め込まれた黄金のアーマーは、まさしく王者と呼ぶに相応しい風格があった。

 両腕と両足の装甲には数本のパイプ状のエネルギーディスチャージャーが増設されている他、背中にはカブトムシの背甲を模したフローティングユニットが付いている。

 ウォレスジャイアントはその姿を見るなり震えだし、すぐさま口部から間欠泉めいて錆油を放出した。

 

《オーバー・ザ・ダイナスト!!》

「オラァッ!!」

《PERFECT GROOVY(パーフェクト・グルーヴィ)!!》

 

 対するダイナストは、自らの拳で錆油の塊を殴りつける。

 その瞬間、破裂音と共に放ったはずの油が消し飛び、続けてキングヘラクレシューターで発砲。銃弾の軌跡さえ視認できないまま、ウォレスジャイアントの右の触覚と眼が抉れて砕け散った。

 何が起きたのか理解できず、クライシスは当惑してダイナストとウォレスジャイアントを交互に見やる。

 

「な、なんだ……その姿は!? その力は!?」

「仮面ライダーオーバー・ザ・ダイナスト……テメェら貴族を纏めてブッ潰す、大魔王だ!!」

 

 問いに対し、新たなダイナストは、大魔王(オーバーロード)たるその仮面ライダーは銃口を突きつけながら名乗りを上げた。

 クライシスは歯を軋ませ、全身から怒りを滲ませ切っ先を向ける。

 

「貴様らのような人間風情めが、この国で王を名乗るなど!! 不届き極まるぞォッ!!死ねィ!!」

「しゃらくせェ!!」

 

 真っ直ぐに突進し、剣を振り下ろすクライシス。

 その一撃はキングヘラクレシューターのツノ、キングフロントホーンによって容易く受け止められ、続く刺突で盾諸共に押し返された。

 たたらを踏みつつも堪えたその刹那、背後にいるウォレスジャイアントが、既に傷を再生させ大口を開いて二人に襲いかかろうとしている。

 すると、オーバー・ザ・ダイナストは自らの手の内に四種のギミックアンバーを取り、銃に備わったリードレールへとそれらをひとつずつ順番に通していく。

 

《ライノビートル!!》

《ファイアフライ!!》

《ドラゴンフライ!!》

《スワロウテイル!!》

《インセクトコンボ、セットアップ!!》

 

 バックステップして攻撃から逃れつつ、さらに掻き混ぜるようにしてセンターギアのハンドルを素早く何度も回転させ、ダイナストは二体の怪物へ狙いを定める。

 

《スーパーギミックチャージ!! インセクトコンボ・バスター!!》

「喰らいやがれェェェッ!!」

 

 解き放たれる緑色の光弾。超高速で発射されたその一発は、異形のウォレスジャイアントの頭を吹き飛ばすだけでなく、後ろに退避していたクライシスをも負傷させた。

 

《PERFECT GROOVY(パーフェクト・グルーヴィ)!!》

 

 咄嗟に盾で身を守っていたクドラク・クライシスであったが、先程の必殺の一撃は左腕を丸ごと消失させている。

 だが彼は、それ以上に。

 

「ぐっが……ァァァァァッ!! わ、私の腕が……こんなクソ人間如きにィッ!?」

 

 見下していた人間に、これほどの傷を負わされた事に対して屈辱を感じていた。

 

「許さんぞ家畜共がァァァッ!! バラバラに斬り刻んで粉々にして殺してやるぞォッ!!」

「やってみろ!! 俺もお前らを許さねェッ!!」

 

 クライシスは身体の棘を全て射出すると、それらを剣に変えて雨のように降らせる。

 そして回避している隙を突いて四本の剣を両手と副腕でキャッチし、袈裟・逆袈裟の四方向から斬りかかった。

 既に刃の届く範囲まで迫った段階での斬撃、回避できるはずなどない。

 そう思っていたクライシスであったが、その渾身の一振りは命中こそしたものの今のダイナストには傷一つ付けることさえできず、剣の方が砕け散ってしまった。

 

「な……!?」

「効かねェよそんなモン」

 

 戦滅暴魔クドラク・クライシスの血で作られた武具は、あらゆるものを寸断せしめる鋭さとどんな衝撃を受けようと刃毀れも砕けもしない硬度を持つ。

 そんなことが可能だとすれば、それはレギウスやウォレスジャイアントのように何らかの能力を使っている場合だけだ。あ(・)る(・)例(・)外(・)を除き、真っ向から防がれた事は一度もない。

 今目の前にいるこの仮面ライダーは、その例外と全く同じことをしている。

 瞬間、クライシスは地面まで揺れてるのではないかと思える程の身震いを起こし、後退りし始める。

 無論ダイナストがその隙を見逃すはずもなく、撃鉄のレバーを一度引き、ハンドルを回転させて必殺技を発動した。

 

《BREAK OUT(ブレイクアウト)!!》

「お前ら随分長生きしてんだろ、そろそろくたばりな!!」

《ヘラクレスビートル・ダイナスティタイフーン!!》

 

 そして、トリガーが引かれる。

 撃ち出された金色のエネルギーの砲弾は、ウォレスジャイアントとクドラク・クライシスに向かって真っ直ぐに飛んでいく。

 血の力で作った鉄の壁を幾重にも生み出すことで防ごうとするものの、容易く破られる。ウォレスジャイアントが放った油も、消滅してしまう。

 その力の正体を、クライシスは攻撃を受ける直前に理解した。自らの鉄壁が破られた理由を。

 たった今放った光の弾は、鉄の壁や錆油を削(・)り(・)取(・)る(・)よ(・)う(・)に(・)空(・)間(・)ご(・)と(・)破(・)壊(・)し(・)て(・)いた。

 アトラスアーマメントの爆破能力をより発展させた、圧倒的な破壊能力。それが、オーバー・ザ・ダイナストの力の一(・)端(・)なのだ。

 

「ぐああああああああああ!?」

 

 悲鳴を上げ、クライシスは吹き飛んでいく。巨大蜂もまた、攻撃に耐え切れなかったのかその場で油そのもののように溶けてしまう。

 

《PERFECT GROOVY(パーフェクト・グルーヴィ)!!》

 

 勝利した。あの公爵を、人間にとって最大の敵を相手に。

 ソーマは溢れ出す喜びをダイナストと分かち合おうとするが、その前に彼は手で制する。

 

「おい、動けるか? 悪いけど急がなきゃならねェぜ」

「え?」

「あの野郎、ギリギリで耐えて逃げやがった……まだ生きてやがる!」

 

 その言葉を聞いて、ソーマが青褪める。

 手負いとはいえ、ミナやシモンがオルロックと鉢合わせてしまったら。

 二人は急ぎ、地上へと走り出した。

 イザベラの亡骸を確認しないままで。




 ダイナストが異形化したイザベラを倒し、オルロックを撃退した直後。

「ハァッ、ハァッ……く、クソッ!!」

 そのオルロックは、身体の至るところから血を流しながらも、城壁伝いに逃げ続けていた。

「私は生き残らねばならんッ……野望のために、まだ!!」
「あら。珍しいわね、私たちの中で一番生き汚いあなたが瀕死だなんて」

 不意に、そんな声が響く。
 視線を上げてみると、そこには四つの人影がある。
 内二つは、オルロックも良く知る者たちだ。

「カーミラ……ドクロ……!?」

 自分と同じ公爵の二人。
 彼女らの後ろには、片膝をついて息も絶え絶えな二人の戦士、ラレーヌとモナークがいる。
 ドクロに挑んだ彼女らは、ダイナストたちのようには行かず敗北寸前まで追い詰められてしまったのだ。

「丁度良いわ。今から、とっても面白いものを見せてあげるところだったから」

 言いながらカーミラは舌舐めずりをすると、自らの胸に手を突き刺し、深く抉る。
 そしてその中から、薔(・)薇(・)の(・)蕾(・)の(・)装(・)飾(・)が(・)さ(・)れ(・)た(・)杖(・)を取り出した。

「あ……あ……!?」
「それ、は!?」

 仮面の内で、ラレーヌとモナークが目を見張る。
 オルロックとドクロもまた、その杖を前に言葉を失ってしまう。

「そう……これこそが王錫『ナイトメアローズ』よ」

 血に濡れてなお赤い唇を釣り上げ、カーミラは語る。
 ――人間にとっての真の地獄が、その瞼を開こうとしていた。
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