ダイナストの元にキングヘラクレシューターが転送された直後、サンジェルマン領の研究所にて。
完成品がその場からなくなったのを見届けて、アルケーは安堵した様子で呟く。
「王の証は全て揃っていないと機能しないって話を聞いて、ピンと来てね。動力面はサンジェルマンが協力してくれたし、助かったよ」
「私もアレに組み込んだ『
シルキィとサンジェルマンはそう言い合った後、拳と拳を突き出し合う。
あとは、王錫を手に入れるだけ。そうすれば、全てが上手くいく。
そう思っていた矢先に、王の指輪とベルトを見ていた瑠璃羽がハッと目を剥いた。
「あの……なんかこれ、光ってませんか!?」
『え?』
彼女の方を一同が振り返ると、確かに二つの王の証は白く輝きを放って浮かび上がっている。
これは一体どういうことなのか。三人がアルケーに問いただそうとした次の瞬間、全員が光に包まれ、一枚のカードを残しその場から消失した。
以前サンジェルマンが引いてしまった、塔のタロットカードを。
「バ、バカな……あり得ない」
オーバー・ザ・ダイナストとして変身した千種に敗れ、命からがら逃げるオルロック。
彼が城壁伝いに歩いて辿り着いた先にいたのは、ラレーヌとモナークを倒したドクロと、その様子を眺めるカーミラだ。
さらに、カーミラは自らの体内に仕込み隠していた王錫を、四人の前で掲げるのであった。
「なぜ貴様がそれを!! ヴラディスの王錫を持っている!?」
「あら、私たちの王を呼び捨て? 人間はともかく、臣下のあなたが?」
「ぐっ……だ、黙れェ!! あの男はもうこの世にいない、どう呼ぼうと私の勝手だろうが!!」
「その言葉、後悔するわよ」
胸の傷が塞がったカーミラは、口角を吊り上げながらそう呟く。
そうして睨みあっていると、今度はダイナストとソーマがその場に駆けつけた。
モナークたちは、咄嗟に走って彼らの後方に避難し変身を解除する。
「追いついたぜ、オルロック」
「ぐ……!?」
「どうもややこしい状況になってるみてーだが、関係ねぇ。王錫も貰っていくだけだ!」
キングヘラクレシューターを向けて、臆することなくダイナストは言う。
オルロックに勝利している今、他の公爵にも勝てる見込みはある。動揺する必要はないのだ。
「あなたたちが王錫を欲しがる理由、なんとなく察しがついているわ。大方、あの小娘を王にするため協力していると言ったところでしょう? 何か人間側にも有益な取引でもしてね。それならしぶとく生き永らえてここまで深く潜り込めたのも頷ける」
「だったらなんだってんだよ」
「良いことを教えて上げる。あなたたちがやって来たこと、これからやろうとしていること、
「……なに?」
くつくつと笑うカーミラに対し、仮面の奥で千種は目を細める。
残りの王の証は今この場にいないアルケーが所持している。確かに彼女の手に王錫があるのは厄介だが、今すぐに使うことはできないはず。
では、あの妙な余裕は一体何なのか?
「その様子なら王の証のことについては知っているようね。そうよ、本来なら証全てを揃えない限り前王の血を宿さない者にこれを使うことはできない……でも」
カーミラは笑みを崩さずに、人差し指の先を自身の牙で傷付けた後、王錫の先端にある薔薇の蕾の装飾に血を垂らす。
「あなたたちは
こんな風にね、と言ってカーミラは錫杖を掲げる。
すると蕾が赤く輝き、ダイナストたちの目の前で閃光が迸った。
徐々に光が消えていくと、そこには見知った四人の人物が立っている。
「え、えぇっ!? ここは一体……!?」
「助手くん、みんな!?」
「シルキィと香衣!? サンジェルマンにアルケーまで!? なんでここにいるんだよ!?」
「分かりません、王の指輪とベルトが浮き上がって光ったと思ったら、いきなり目の前が真っ白に……」
瑠璃羽がそう言った直後、シルキィとサンジェルマンがハッと顔を上げた。
先頃までアルケーたちの手の中にあったはずの王の証ふたつが消え、カーミラの手元まで移動しているのだ。
「あなたの仕業ですか、カーミラ。王錫の力で指輪とベルトをこの場に転送したのですね」
「ええ、愚かな王女殿下。正統後継者である私は、王錫さえあれば最初から全ての王の証を手元に集めることが可能だったのです。どこにあろうとね。尤も、あなた方がオマケで付いてくるのは想定外でしたけれど」
「王手をかけていたつもりが……私たち全員、あなたに遊ばれていただけだった……」
「
心底愉快げに、己の内の悪辣さをそのまま貼り付けたように、カーミラは赤い唇を歪める。
そして再び王錫を掲げると、今度は王都全体が赤く発光し、地鳴りと共に光の柱を形成し始めた。
「な、なんだ!? なんの光だ!?」
「一体何が起きている!?」
否、王都だけではない。以前王の証を発見した遺跡の位置からも光柱が生まれ、それらが線を描いて逆十字の形を成す。
ひとつの赤い十字となって天に昇ったその光は、ずっとブラムストーク王国上空で静止し続けていた赤い満月に向かっていく。
まるで、エネルギーを送り込んでいるかのように。
直後、その満月にピシッと切れ目が浮かび上がって割れたかと思うと、山をも砕きかねない爆音がそこから轟いた。
「うおぉっ!?」
「なんだこの音!? いや、これは鳴き声か!?」
地響きが収まり、変容していく赤い満月からの声も次第に小さくなっていく。
やがて、月と思われていたソレは、大きな翼を拡げて地上の者たちに真の姿をあらわにした。
黒いカラーリングに真っ赤な翼、長い首と強靭な爪を持つそれは、まさしく龍の威容。アルケーは両手で口元を押さえて、声を震わせ呆然としている。
「そん、な……アレは、龍王機艦『デミトリ』……」
デミトリと呼ばれたその巨大な黒き機械の龍、それの出現と同時に蒸機戦艦が太陽の如き光を放つ。
しかしそれは龍の口部から発せられた黒い蒸気によって遮られ、その赤い眼が戦艦をギロリと見下ろす。
機械龍の手で掴める程度のサイズである人間たちの戦艦は、即座に勝てないと判断して方向転換、パスを繋ぎ転移して逃げ出した。
「バカなッ!? かつての戦いでヴラディスと共に消えたハズのデミトリが、なぜ、いやいつからあそこにある!?」
「まだ分からないのかしら、オルロック! こんなに簡単なことが!」
カーミラが嘲った後、デミトリの背のハッチが開くのを見て後ろに下がって、自ら膝を折る。
公爵たる彼女がわざわざ足に土を付けるべき相手、そのリユと意味を考え、そして全員が理解した。
まさか。あの機械龍から出て来た、あの人物の正体は。
一同がそれを口に出すより前に、男はゆっくりと飛び降り、静かに大地へ着地した。
「頭を垂れてお迎えしなさい、無礼な家畜ども。この御方こそが黒の貴族を統べる真なる王! ヴラディス・ド・ラクール陛下なのだから!」
カーミラのそんな言葉は、誰の耳にも届いていない。
ややウェーブがかった黒い長髪に、真っ赤な瞳。髭はなく肌は白く艶めいて、全身を覆う漆黒の礼服は光を飲み込む夜闇のよう。
眼の前のその男の雰囲気に呑まれてしまい、皆が皆口を利く余裕すらもなかったのだ。
「陛下、王の証はここに揃っております」
沈黙する人間たちとオルロックを尻目に、カーミラは頬を上気させ指輪とベルト、そして王錫を手渡す。
すると、ヴラディスは何も言わず王のベルトを装着、右手の中指にリングを嵌めた。
その姿に全員の視線が奪われ、誰一人として止められずにいる。
「……なんということだ。塔の暗示は、避けられない災いとは、こういうことだったのか……」
辛うじて口を開くことができたのは、身を震わせるサンジェルマンだけだった。
しかしそれも束の間、一同を睥睨するヴラディスは、その唇から静かに声を発する。
「――跪け」
その瞬間。
人間も貴族も一切区別なく、その場の全員がカーミラと同じように膝を屈してしまった。
『ぐ……!?』
ソーマやミナは抵抗するために立ち上がろうとするものの、まるで縫い付けられているかのように足が上がらない。
仲間のはずのオルロックやドクロも同様のようで、仮面ライダーたちを追い詰めたはずの両者は額から脂汗を滲ませている。
また、膝をつきながらシルキィとサンジェルマンは確信する。
これは、
「恐怖から来る防衛本能だ、これは……そうしなければ死んでしまうと、遺伝子レベルで人間の身体と精神に刻み込まれているんだ……!!」
震えながらシルキィは言い、しかし恐れを噛み殺しながら公爵たちの様子に目を配った。
カーミラは未だ余裕の笑みを浮かべており、ドクロはどこか不服そうだが平然としている。
オルロックに関しては人間たちと変わらずガタガタと身を震わせ、真っ赤に充血した目を揺らしていた。
「ヴラディス王……い、生きていらしたとは。人間に殺されたと聞かされて、私はてっきり……その、つまり……」
「死にかけはした。脳と心臓だけは無事であった故、デミトリと共に空の上で身体を癒やしていたのだ。緊急事態になれば王錫を使え、とカーミラに伝えてな」
そう言った後、ヴラディスは咎めるようにコツッと地面を錫杖で突く。
「オルロック。状況は概ね把握している。処遇については後で伝える、今は黙っていろ」
「ひぃっ……陛下、どうか御慈悲を!」
「余の言葉が聞こえなかったのか」
ヴラディスの眼が僅かに細められた途端、その顔を見たオルロックは「うっ」と言葉を詰まらせる。
凄まじいプレッシャー。これ以上何も喋ってはならない、絶対に許されない。
そんな恐怖感は他の者にも波及した。
「ぁっ、かっ……は、あぁぁぁ……」
喉を手で押さえ、涙を溜めながら苦しみ呻く声。瑠璃羽のものだ。
あまりの重圧によって呼吸が浅くなり、彼女はその場で失禁までしてしまっていた。
このまま直接手を下さなくとも酸欠となり、命を落とすだろう。だがヴラディスは彼女を一瞥して、背に帯びたナイフを抜く。
「この場に相応しくない者がいるようだな」
抜き身のナイフを手に、ゆらりと瑠璃羽の方に近づく。
ソーマもミナも、サンジェルマンもシルキィも全く足が持ち上がらず、それを止めることができない。
これでは瑠璃羽が殺されてしまう。造作もなく、ただナイフの一刺しで。
そう思った時、静寂に包まれていた場に銃声が響き、ヴラディスの手から刃が落ちた。
「む?」
こんな状況に介入できたのは、ただ二人。
立ち上がってダイナシューターで銃撃したダイナストと、モナークへの変身を完了させたシモンだった。
「香衣に何してんだ、コラ」
「やるぞ、ダイナスト!」
二人は頷き合い、ダイナストはモナークへ先程使った銃を渡してキングヘラクレシューターを構え、モナークはパイルバンカーを突き出して黒の貴族の王へと駆け出す。
それを見てヴラディスはそれを見て溜め息を吐いた後、錫杖で地面をトンッと衝いた。
すると光の壁が王を守るように目の前に展開され、二人の攻撃を妨げる。
だがダイナストもモナークも諦めることなく銃撃と打撃を継続し、その姿を見たソーマとミナも己を奮い立たせ、立ち上がった。
「僕たちもやろう!」
「ええ……あの男に勝たなければ、どちらにしても人間に自由はありません!」
二人もまたレギウスとラレーヌに変身し、立ち向かう。
これで四対一の状況となるが、ドクロはおろかカーミラもヴラディスに加勢する様子はない。
ただヴラディスは静かに、両手を自らの装着している錆びついたベルトへかざす。
瞬間、古びていたはずのベルトや指輪が王錫と共に輝きを帯び、完全に修復される。
《
「頭が高いぞ、人間ども」
その冷淡な一言を耳にして、四人ともゾッと背筋を震わせた。
続いて一瞬動きが止まった隙を見計らい、ヴラディスはドライバーの天面にある牙状の機構に左手の親指を押し込む。
《
直後にそんな音声と共に牙が指を僅かに傷つけ、血が伝って王のベルト――マグナスドライバーに染み込む。
ドライバー表面が赤く発光すると、ヴラディスはさらに右手に着けた指輪、ブラックブラッドリングをドライバー右側面にかざす。
《
「変身」
《
右手を離すと、周囲から真っ黒な薔薇の花弁が吹雪のように舞い踊り、全身を包みこんで蕾に変える。
《
やがて薔薇は満開の花を咲かせ、散ると共に中から一人の王を生み出した。
頭部に長い触覚を生やし、青く吊り上がった複眼を輝かせ、黒い装甲を纏う恐ろしくも美麗な鎧姿。口部に長い牙があり、背には薄翅のような赤いマントをはためかせる。
身体の各部に薔薇や荊の衣装が見られる他、ハサミに似た形状の肩鎧や強靭な脚部、さらに全身の刺々しい装飾からザリガニとリオックの要素を併せ持つことが見て取れた。
《
「余は
王錫を手に、悠然とヴラディスの変身した仮面ライダーマグナスがゆらりと迫る。
モナークは武装をパイルバンカーからボウガンモードに変形させ、ダイナシューターと合わせ二つの射撃武器を連射して迎え撃つ。
しかしマグナスが腕を前に掲げると、装甲に仕込まれたノズルから血が噴き出して鋼鉄の壁となり身を守った。
「なんですかこれ!?」
「血が壁に……」
「オルロックと同じ能力か! ならば!」
レギウスは凍結粒子を放ちつつ、交叉させた剣を振り上げる。
同一の力を持つのなら、弱点も同じのはず。そう思って血を凍らせる事で対処しようと考えたのだ。
だがマグナスが腕を翻すと、血は再び液状となって地面に染み込んだ後、レギウスの足元で血が炸裂し
「がっ!? 電、撃……!?」
「今のは四傑伯のジルが使ったヤツだ……何がどうなってやがる!?」
ダイナストとラレーヌも銃撃を行うが、攻撃は全て回避されるか血の壁に阻まれる。
そうしてしばらく防ぎ続けた後、マグナスは静かな吐息と共に錫杖を右手に持ち替えた。
すると、薔薇の装飾が真っ赤に光を放ち、杖の形状が変化していく。
「ガッカリだ。お前たちは、
《抜剣!!》
「そろそろこちらの武器を抜かせて貰うとしよう」
《夜煌剣ナイトメアローズ!!》
ガラスの割れるような音と共にシャフト部が砕け、そこから現れたのは白銀の鋭い刃。
マグナスはそれを使って、掬い上げるように地面の血を仮面ライダーたちに向かって飛ばす。
猛速で向かって来る半月状の血の斬撃。この攻撃は避けられないと判断したダイナストは、即座にキングヘラクレシューターの銃口を血の刃に向けて発砲する。
すると光の弾がその一撃を相殺し、四人を無傷で生き延びさせた。
「ほう、凌いだか。何者だ」
「才賀 千種。お前をブチのめす大魔王だ」
「そうか……余に歯向かえる力を持つ人間が、ついに現れたか。ならば少しばかり話ができそうだな」
「あぁ? どういう意味だそりゃ」
「これまでこの星で戦い続けて、聞きたいことも山と積もっているだろう? 特別に答えてやる……攻撃を凌ぎ続けている限りは、な」
ダイナストが困惑する中、真っ先に口を開いたのはレギウスであった。
「なぜ貴様は、貴様ら真祖はこの国を襲った!! 何が目的だ!?」
「別段、こだわったつもりなどない。あえて言うなら
「なに……!?」
「――かつて我々は、ここから遠く離れた国に住んでいた。余はその国の主だった」
マグナスが血の雷で攻撃を続けながら、それをレギウスが氷柱防ぎながら、話を紡ぐ。
「ある時我々の国に飢饉が訪れた。食糧となる生物に異質な菌糸が付着し、その生き物の肉を摂取した者も同じく毒の菌に侵されるのだ。それは病魔の如く広まり増え続け、命を奪うキノコによって国は滅びに向かっていた。だがある時降りて来たのだ、奇跡が」
「奇跡、ですか?」
「天上から『刈人』と名乗る神の使徒が現れた。彼は進化を司る存在で、望むならば破滅に抗うための祝福を与えると語った。余は刈人に願い、自分と国民を進化させたのだ……朽ちぬ機械の肉体を持つクドラクへと、な」
それこそがクドラクのルーツ。彼らもまた、元は同じ人間だった。
ナイフに変わった鮮血から身を守るラレーヌやダイナストらに対し、マグナスはそれを何本もの飛ばしながらさらに述懐する。
「機械の肉体を得た我々に、食事は必要ない。故に菌糸の毒に悩まされることもなくなり、キノコ駆除も可能になって、全ての問題が解決した……はずだった」
「実際は違う。貴様らは既に死んだ肉体を動かしているだけで不死身ではないし、何も喰わなくても済むワケではない」
「その通り。与えられた祝福には代償があった、人の血肉を喰わねば渇きによって死ぬという代償が。その問題を解決するために、余は奔走した。自国も他国も……
「……まさか!!」
「そうだ。飢餓から身を守るべく人喰いを繰り返した末、クドラクの中で七人の代表となる統治者を決め、他の星への移住を決定した。そのためのデミトリであり、王錫であり、七大真祖なのだ」
即ちヴラディスらクドラクは、既に滅んだ星の住民の成れの果てであり、絶滅を免れるためにこのブラムストーク王国まで逃げて来たのだという。
「この身体はもう二度と元の人間に戻ることはない、ならばそれを受け入れ生きるしかない。余はこの星で王となり、国民を導き人間を家畜として繁殖させ、今度こそ飢餓を克服して生きねばならん」
「それで勝手にこの星の先住民を改造した上に、失敗したら次は地球に進出しようってか!? ふッざけんじゃねェぞ、そんな身勝手な話が通ってたまるかァッ!!」
「通る。余は王なのだ。如何に姿が醜くなって人喰いに変わろうとも、余には民を守る義務がある。これは王たる余の下した決断であり、決定事項だ。諦めろ人間」
今度はナイトメアローズを振り上げ、斬りかかってくる。
四人は分散して一撃を回避し、ダイナストがマグナスの着地点を射撃。破壊と同時に蒸騎王の足を巻き込んで一瞬にして復元され、その場に縫い留めた。
ダイナストの第二の力、物質の再構築あるいは復元能力である。破壊の能力と併用することにより、変幻自在の柔軟かつ豪快な戦い方が可能になるのだ。
すかさず一斉に弾丸や矢や氷の塊を飛ばして攻撃するものの、マグナスはそれすら無傷で凌ぐ。
その様子を見ながら、ようやく呼吸を整えた瑠璃羽は静かに呟いた。
「まるで、侵略的外来種……」
「博士くん?」
「様々な要因で、本来住んでいた環境と違う場所に持ち込まれて野生化した帰化生物の中でも、元から住んでいる生き物を捕食したり住処を奪って絶滅させ、自然環境を脅かすものをそう呼びます。例えばアメリカザリガニ、ヒアリ、セアカゴケグモ……他にも、たくさん。中には外来の動物と混血してしまったせいで遺伝子汚染が起きたケースもあります」
彼女の言葉を耳にして、地面を砕いて無理矢理足を抜いたマグナスはフンと鼻を鳴らす。
「まるで他人事のようだが、少なくとも余にお前たちから責められる謂れはない」
「何ィッ!?」
「そうだろう? ダイナスト、チグサと言ったか……お前はこの星の住民ではない。余と同じだ」
「テメェと一緒にすんじゃねェよこのクソッタレが!!」
「いいや同じだとも。お前は王を名乗っているのだろう? さらにこの星の人間を従えているではないか。それは即ち、この星の王権を握り支配しようとしている証拠だ。違うのか?」
仮面の奥でギッと歯を食いしばり、ダイナストはキングヘラクレシューターの撃鉄部を二度引いて、トリガーを引いた。
《ラピッドモード!!》
「俺はこの国の人たちを見捨てたくないし、地球にテメェら人喰いが来て欲しくない!! 守るために戦ってんだ、全然違うだろうが!!」
高威力の弾丸を単発発射するバスターモードから変化した、高速連射形態のラピッドモード。
無数の光の弾がマグナスを襲い、攻撃の手を阻む。
だが、言葉まで遮ることはできない。
「ではなぜ王を自称している。いや予想はつくぞ。大方、偶然力を持ったから王に祀り上げられたといったところだろう。可哀想に」
「ンだと!!」
「まだ分からぬのなら、こう問おう。この星と地球、お前はどちら側の王だ? 仮に余を討ち全ての決着をつけることができたとして、お前はその後のブラムストーク王国をどうしたいのだ?」
「……!?」
「この国と地球へのパスが繋がっているのは余の力によるものだ。余が死ねばそれが絶たれるのだ、そうなると分かった今貴様はどちらにつく? 地球に帰るのか、この星に骨を埋めるのか」
考えもしなかったことを突きつけられ、思わずダイナストはほんの一瞬手を止めてしまう。
するとマグナスは深く息をつき、ナイトメアローズを地面に突き刺し、再び天面の牙に一度親指で触れ血を注ぐ。
「答えられぬか、未熟なる王よ。何も背負うことなく王を自称するだけの空虚なお前では、一生を掛けても余には勝てぬぞ」
《
「信念なき王の言葉に、貫くものなき王道などに、絶滅の危機に瀕しているとはいえどうして
何も言い返せず、ダイナストは歯を軋ませる。
そしてそれでもなお諦めず、キングヘラクレシューターを操作して銃口を向けた。
《
「負けてたまるかよ……!!」
《ヘラクレスビートル・ダイナスティサイクロン!!》
銃口から放たれる赤い光線の嵐。もしもまともに直撃すれば、全身が引き裂かれ粉微塵となって消滅するだろう。
しかしマグナスはその場を動かず、全身のノズルから夥しい量の血をその場に流出させる。その場にいる全員の足首が覆われるほどに。
直後、その血の海の中から二つの影が飛び出し、立ち塞がった。
「なっ!?」
「アレは……!!」
さらに、現れたその影の正体を目の当たりにして、ダイナストたちは瞠目する。
死んだはずの四傑伯の二人、スコーピオン・マキナイト・エンペラーとセンチピード・マキナイト・ギガスだ。
ギガスはその巨体を活かしてダイナストの光を覆うように壁となり、エンペラーも引力操作によって攻撃を捻じ曲げ、結果として赤い閃光は威力を削ぎ落とされてしまった。
マグナスはそれでもなお自分に向かって来る光条を、自らの左腕一本で食い止める。
「これが我が血の力、我が王国……余はこの世に生まれし血の臣民、即ちクドラクとマキナイト全てを記憶し、その能力を行使しつつ影法師を生み出すこともできるのだ。従来より強力にした上でな」
「ウソだろ……!?」
「さらに、こんな使い方もできる」
パチンッと指を弾くと、二体のマキナイトは流体化し血の海に戻っていく。
続いて四人のライダーの背後に血で作られた薔薇の紋章が描かれると、それが無数の糸を放って巻き付き、操り人形のようにして身動きを封じた。
「ぐ、あ……!?」
「終わりだ」
《
それを見計らって、マグナスはドライバーにリングを着けた右手をかざす。
すると両腕に血が集まって巨大なザリガニのハサミを形成し、その乱打によって何度もダイナストたちを紋章に叩きつけ、変身解除へと追い込んだ。
『うわあぁぁぁぁぁ!?』
《
血の紋章が消え、地面に倒れ込む千種やソーマ、ミナとシモン。
マグナスは体内に血を取り込み直した後、変身を解く。
「勝敗は決した……が、思ったよりやってくれたな」
言いながら、ヴラディスは自らの左手を見下ろす。
先程放たれたダイナストの必殺。威力を落としたはずが、左手には大きな傷が残っていた。
ヴラディスは未だに闘志を燃やす千種の方を向くと、右手の人差し指を立ててアルケーへと突きつける。
「取り引きをしよう、偽りの魔王よ。そこにいる我が娘、アルケーを返せ」
「なに……?」
「今すぐにこの星を滅ぼしても良いが、実を言うと余はかつての戦争の傷が治り切っていない。デミトリも修復が完了していない。お前たちに付けられた傷も含めて、どちらもあとほんの一ヶ月必要だ。そこでお前たちにも猶予をくれてやる。娘を人質としてな」
万全じゃない状態であっても、あれほど力の差があるのか。
そんな事実にソーマたちでさえ打ちのめされるが、千種は睨みを効かせて凄む。
「ふざけんなよこの野郎……自分の娘を、何だと思ってやがる!?」
「拒否する余裕があるとは思えんが? それに、お前とアルケーには何の関係もあるまい、クドラクと人間の混ざりものの王女だぞ」
「それこそ関係ねェんだよ!! 何者だろうと俺が知るか!!」
「……一人前の振りだけは立派だ。だが吠えるだけでは何も――」
ヴラディスが話を終えるよりも前に。
アルケーは、自ら国王の前へと進んでいく。
「アルケー!?」
「要求を呑みます、父上。私はどうなっても構いません。彼らに時間を」
唖然としつつも千種は手を差し伸べて止めようとするが、しかしアルケーは振り向いて頭を振った。
「皆さん。私がどうなったとしてもこれだけは信じています。あなたたちがきっとこの星を救うと」
「一ヶ月後、楽しみにしているぞ」
倒したければ、一月の後にもう一度この場所に来い。
ヴラディスはそう言い残した後、配下の公爵他貴族たちと共に消え失せる。
行き先は間違いなく、頭上の巨龍、デミトリだ。
「クソッ!! ちっくしょう……!!」
肩を震わせ、地に膝をつき拳を叩きつけ嘆く千種。
何もできなかった。アルケーを守れず、敵の元に行かせてしまった。
誰もが敗北を認めざるを得ず、千種に掛ける言葉もなく、ただ絶望と無力感に苛まれてしまう。
サンジェルマンが声をかけ、領地に戻るまで。
時を同じくして、薄暗い下水道にて。
「さて、ようやく肉体が戻ったは良いが……このサイズではな」
ドロリとした錆の粘液を滴らせ、一人の幼い少女が呟く。
ところどころが溶けた喪服のドレスを纏い、キノコのカサのような鍔の長い帽子を被るその子供は、自らの四肢や体躯を見下ろして不満げに唇を尖らせた。
「まぁ良い。念願の復活を果たしたのだ、ゆっくりやるとしよう」
そう言って少女は粘液を撒き散らしながら歩き出す。
彼女の足跡には、粘液を放つ錆色の小さなキノコがボコボコと伸び出ていた。