マキナイトの王、ヴラディスが復活した。
ダイナストたちは健闘するも、王の証によって変身を果たしたヴラディス、仮面ライダーマグナスに敗れてしまう。
だがX-ROSSの一行は命を見逃され、代わりに彼の王の娘であるアルケーを奪われるのであった。
そして現在、千種たちはサンジェルマンの領土にある城の中で集まっている。
「……本当なのか? ヴラディスを倒したら、帰れなくなっちまうってのは」
そう口火を切ったのは千種だ。先の戦いで腕などに負った傷は、包帯で覆われていた。
問われたサンジェルマンは首を左右に振った後、頭を下げる。
「可能性は高いだろうね。私自身も空間移動能力を持つが、本来なら惑星間という長距離移動はできないんだ。それを可能にしたのは地球へのパスを繋ぐ蒸気を偶然発見して利用したのが理由だから、彼が死んで蒸気が失われるのなら使えなくなってしまう……」
「そう、か」
ヴラディスの死は即ち、千種と瑠璃羽と貂の地球への帰還が不可能になることを意味するのだ。
かといって彼を放置すればマキナイトとクドラクは地球に攻め入り、地球侵略は果たされてしまう。地球側で迎え撃つにしても、今度はシルキィやソーマたちが元の惑星に帰れなくなる。
住民を説得して地球で迎撃するか、ブラムストーク王国に骨を埋めるか。
仮面ライダーたちは、重大な選択を迫られていた。
「ヴラディスが定めた期限は一ヶ月だ。焦って今すぐ決める必要はない」
俯いて考え込む千種に対し、サンジェルマンは穏やかな口調で語りかける。
「簡単に決断できることでもないだろう、一度彼女らと共に地球へ戻ると良い。どうするのかよく考えるべきだ」
「……分かった」
その返事の後、千種は瑠璃羽と貂とシルキィを伴い部屋を後にした。
四人の気配が完全に遠ざかったのを確認すると、今度はソーマが静かに口を開く。
「もう彼らを戦わせるべきではないかも知れないな」
発言を耳にして、ミナとシモンは目を見張る。
「ソーマ……何を言うのです?」
「チグサの協力がなければ、俺たちに勝ち目はない。分かっているはずだろう?」
今ダイナストを欠いてしまえば、完全に人類軍は勝機を失う。
だがそれでも、ソーマは声をやや抑え、落ち着いて話をを続けた。
「彼は、ダイナストはもう十分やってくれた。僕らをずっと助けてくれていた。こんな戦場での生活とは本来無縁なハズなのに。なら、今度は僕らが頑張るべきじゃないか? 僕らこそが、彼を守らないといけないんじゃないのか?」
「だからと言って……何をする? 約一ヶ月……対策の武器やギミックアンバーを今から作るのでは、間に合わんぞ?」
「考えたんだが、二人はヴラディスの言ったことを覚えてるかい? 王の証とデミトリは他の星に移住するためのものだって」
二人はソーマの言葉を聞くと、ハッと目を見張る。
「まさか、デミトリの方を破壊すれば同じように蒸気を止められるということですか!?」
「イチかバチかだけどね。僕らだけで行動するのなら、こっちの方が通用する可能性があるだろう」
何より、これなら千種たちを巻き込む必要がなくなる。
これが彼らを無事に帰し、かつ敵を食い止められる唯一の方法なら。
ソーマからの提案に、シモンとミナ、サンジェルマンが頷いた。
「多少危険であれ、それでチグサたち地球人だけは助かるかも知れない……やる価値はあるかも知れんな」
「けれど私たちも今すぐ動く必要はないと思います。彼らがどう決断するのか、見届けてから実行するかどうかを考えましょう」
ミナからの意見にソーマは同意し、ひとまずシルキィが戻って来るまで他の対策を考えて待つこととなる。
一方千種たちの方は、城の外でシルキィがパスを繋ぎ始めているところだった。
その最中、貂は三人に対し、深々と頭を下げる。
「先輩、瑠璃羽。二人がどっちを選ぶにしても、悪いけど私は一ヶ月の時が来ても地球に残ることにするわ」
「貂ちゃん……」
「本当にごめんなさい。自分勝手な話なのは分かってる。でも、二度と帰れないかも知れないとなったら、流石にもう……これ以上は、私じゃついて行けないわ」
彼女や瑠璃羽はホッパーズバックルによってXレイダーに変身することもできるのだが、高位のマキナイト相手でそれは厳しい。
特に、公爵やヴラディスに対し通用する戦力とは言い難いのだ。
千種は彼女の謝罪を聞き、咎め立てはせず安心させるように笑みを見せ頷く。
「謝んなよ羽鳥、お前の判断は正しいぜ」
「才賀先輩……」
「戦うことになってもお前や香衣は地球で待ってりゃ良い、安心しな」
「……ありがとうございます」
彼の言葉を聞くと、貂はもう一度頭を下げ、先に蒸気の門を潜って去った。
しかし瑠璃羽の方は、胸の前でギュッと自分の両手を握り締め、黙り込んでしまう。
一体どうしたのだろうと思い、千種が尋ねようとした、その矢先。
「――助手くん、博士くん。キミたちも二度とこの国に戻って来ないでくれ」
シルキィはそう言い、千種と瑠璃羽の背中を押し始める。
「オイ、シルキィ? いきなり何を……」
「キミたちには帰るべき居場所がある。帰りを待つ家族だっている。だったら、ここが潮時だろう」
「シルキィさん……」
「行けよ! もう来なくて良いんだ! これ以上いる必要なんかない、行けったら!」
怒鳴りながら彼女は二人を無理矢理押し込み、そして姿が消えたその後、ひとり地に膝をついた。
「……ぅ、くっ……ぐ……はっ、うぅ……っ」
声を必死に押し殺すシルキィの両目から、頬を伝って涙が零れ落ちる。
直後、先程の叫び声を聞きつけ、ソーマたちがその場に駆けつけた。
「どうした!?」
「……助手くんたちに、二度と戻るなって言って別れた」
「なぜそんなことを……まさか、既に気付いていたのか? デミトリの破壊でヤツらの侵略を対処できる可能性に?」
涙を拭って静かに頷き、シルキィは立ち上がる。
そして、唇に笑みを作ってソーマの方に向き直った。
「あの子たちはワタシが巻き込んでしまった。本来はここにいちゃいけない、だからこれは元通りにしただけだよ」
「シルキィ、君は……」
「無駄話は終わり! さぁ、作戦を立てよう! なんたって時間は限られているからね!」
見かけだけは明るく振る舞い、シルキィはデミトリ破壊のための新たな武装の考案に取り掛かる。
※ ※ ※ ※ ※
シルキィによって追い出された後。
千種は瑠璃羽と共に駐輪場の物陰に転送され、先程の彼女の様子に目を白黒とさせていた。
「アイツ、なんでいきなりあんなこと……」
理解が追いつかず頭を抱える千種に対し、傍で立ち尽くしていた瑠璃羽は顔を上げ、ひとつ提案する。
「明日もう一度シルキィさんに会いましょう。私も一緒に行きますから」
「何言ってんだ、今から行こうぜ! ダイナストームを使えばすぐに――」
「先輩!!」
突然の大声に面食らう千種、すぐに瑠璃羽の方もハッとして「ごめんなさい」と頭を下げつつ、話を続けた。
「……一度お互い落ち着くべきだと思うんです。その上で話し合わないと」
「いや、お前の言う通りだ。悪い。俺もつい頭に血が昇っちまってた」
「きっと伝えたいことがあるはずなんです。シルキィさんも……私、も」
自身のスカートの裾を強く掴んで、瑠璃羽は告げる。
しかし千種には何を言っているのか理解できず、小首を傾げていた。
「とにかく先輩は家に戻ってください。ご両親も紬ちゃんも、きっと心配していますよ」
「……あ、ああ。そうする」
戸惑いつつも彼女の言葉に従い、途中まで瑠璃羽を送ってその場は解散となる。
自宅に到着した千種は、すぐさま駆けつけた紬に抱きつかれた。
「お兄!! おかえりっ!!」
「うおっと! ただいま」
勢い良く飛び出して来た妹を受け止めつつ、一緒に家の中に入っていく。
そして武生・巴にも挨拶を交わした後、テーブルを囲んで向こうで起きた出来事を共有する。
マキナイトの王、ヴラディスが復活したこと。それにより地球侵略が目前に迫りつつあること。期限は一ヶ月しかないこと。
何より、次に戦いに向かった時、ヴラディスを倒してしまえば確実に地球に戻れなくなるということを。
「……なるほど。事情は良く分かった」
「要するに敵の親玉を倒しに行くと、それでお別れになるかも知れないということなのね」
「ウソ……お兄、いなくなっちゃうの?」
考え込む両親と、瞳を潤ませ兄の顔を見つめる紬。
千種は机に視線を落とし、拳を握り締めた。
「サンジェルマンたちからはよく考えて結論を出せって言われたし、シルキィにはもう来るなって言われた。それだけじゃねぇ、ヴラディスは途轍もない強さだった……向こうは身体が治り切ってないってのに、ちょっと手傷を負わせるのがやっとだった」
「千種……」
「信念のない半端な王の俺じゃ、誰も守れないってよ……俺、どうしたら良いんだろう……」
俯く千種を見て武生は唸って自分の顎を擦り、紬は眉を下げる。
そんな中、巴は唇を一文字に引き結び、目の前で落ち込む千種の額にデコピンを食らわせた。
「痛ってぇ!?」
いきなり頭に走った刺激に驚いて、抗議の声を上げようとする千種。
すると巴は、彼が何か言う前にその肩に自らの手をポンと置いた。
「帰って来て正解だったわね千種。今のあなたは、そのヴラディスの力と言葉に
「え?」
「確かにあなたを打ち負かした敵は強かったのかも知れない。王としての力量や経験も向こうが上なんでしょうね。でも、だったら彼の言うことが全て正しいの? 人の命を脅かして食い物にする王が?」
「それは……」
「言葉で惑わされた上で出した結論なんて、それこそ半端なのよ。向こうの思う壺。まずは心を平静に保つべきだわ」
巴はそう言うと、武生に呼びかけてエプロンを手に二人でキッチンへ移動。
さらに食材と包丁を取り、手早く料理を始める。
「もう夕飯の時間だし、まずはみんなで腹ごしらえね。健全な心を取り戻すためには、健全な体を作るのが一番だから」
「腹が減っては戦はできんともいうからな。紬もこっちで手伝ってくれ、お兄ちゃんを喜ばせてやろう」
「うん! えへへ~、お兄は休んでてね!」
餃子に始まり、回鍋肉、麻婆豆腐に酢豚など。見ているだけで空腹感を誘う、三人の手で作られテーブルに並べられていく中華料理の数々。
作り終わって全員が食卓につき、まずは千種が口に運ぶ。すると陰っていた表情が綻び、箸を動かす手が止まらなくなる。
紬たちはそれを見て微笑むと、同じく料理に手をつけ始めた。
そうして完食の後、千種は両手を合わせて「ごちそうさまでした」と言った後、頭を下げた。
「父さん、母さん、紬。ありがとな。お陰で落ち着いたよ」
「どうするかは決まりそう?」
「ちょっと仲間と話したいことがあるから、その後で決める。
既に千種の両目には決意に満ちた光が灯っており、巴も武生も何かを掴んだと見て、満足そうに頷く。
「そう。じゃあ、答えを待ってるわ」
「後悔だけはするなよ」
千種も頷き帰し、未だ不安そうに自分を見上げる紬の頭をそっと撫でる。
こうして千種は戦いの痛みと疲れを癒やすため、この日は残る時間を家で過ごして眠りにつくのであった。
※ ※ ※ ※ ※
同日、同時刻。
王都上空を漂うデミトリ、その内部の『王の間』に備え付けられた玉座に腰掛けるのは、ブラムストーク王国の現在の王たるヴラディス・ド・ラクール。
彼の前には配下のオルロック・シュレックが跪き、傍にはカーミラが侍り、ドクロは近くの壁に背を預け控えている。
「――では言い訳を聞かせて貰おうか、オルロックよ」
ヴラディスは、豪奢な椅子に座して足を組み、目の前で全身を震わせ縮こまる大男にそう声をかけた。
するとオルロックはさらにビクッと身体を痙攣させ、両手と両膝を地につけて頭を下げる。
「も、申し訳ありませんヴラディス王。私は思い上がっておりました、あ、あなたの代わりに王になれるなどと……大変、申し訳ございませんでしたぁッ!!」
「そう簡単に謝られては、張り合いがないな。もう少しばかり抵抗してくると思っていたが。余を倒せば望み通り、次の王は貴様になるのだぞ?」
「ヒッ!? 滅相もございません!! あなた様が生きておられると分かった以上、私が玉座に付くなど、烏滸がましい限りでございます!!」
「……フゥ。もう良い、面を上げろ」
目を見開きながらブルブルと身震いし、顔を上げるオルロック。
瞬間、ヴラディスの手にあるナイトメアローズの刃が、まるで生きているかのようにしなって伸び、土下座していたオルロックの左肩と右の脇腹を深く抉る。
「ギャアアアアアッ!?」
「容易く人間に敗れるようではどの道玉座は譲れん、王になりたくば鍛え直せ。もう下がって良いぞ」
負傷した箇所を抱えるようにして、よろめき去っていくオルロックを見送りつつ、ヴラディスはナイトメアローズを杖の形態に戻す。
そして今度はカーミラが、邪魔者の公爵が部屋からいなくなった頃合いを見計らって声をかけた。
「ヴラディス様。ご命令頂ければ、今すぐにでも地球侵略は可能なはずです。一体なぜ動かないのでしょうか?」
「以前の戦いのダメージがまだ残っている。小さなものを転送するだけならともかく、デミトリ程の巨大戦艦を無理矢理転移させれば誤作動を起こしかねん」
「しかし人間たちにわざわざチャンスを与える必要など」
「そういえばカーミラ」
右手を小さく挙げて手招きし、ヴラディスは話を遮る。
カーミラは目を細め、跪いて王の膝下へ猫のようにしなだれかかった。
するとヴラディスは彼女の頬に手をやり、動物を愛でるように静かに撫で始める。
「お前、あの
「えぇ陛下。あなた様がお眠りの間、アレに関する研究を進めるのも私に課せられた使命でしたので」
「そうだ。アレはかつて我々の星を滅ぼした元凶、毒菌糸の変異体だ。原因不明だが何らかの理由で変質し、星の全てを喰らい尽くす悪魔……逆に、コントロールさえできればこれ以上ない最強の兵器として扱えると余は踏んでいた」
穏やかな表情で王の愛撫を受け入れ、思わず頬を緩ませていたのも束の間。
ヴラディスは彼女の口内に右手を深く突き入れると、そのまま強く力を込めた。
「あぐっ!?」
「余がいつ、人体実験した個体を外に逃がして良いなどという戯言を抜かした? 貴様、この星に既に見切りをつけているからと言って、我らの故郷と同じ方法で滅ぼして良いとでも思っているのか?」
「い、うぁっ……!?」
「錆油を殲滅し損なえば地球にまで流れ込んでくる可能性が高い。そうなればまた別の惑星を見つけねばならん。やる必要のなかった無意味な苦労をせねばならんのだぞ、この愚か者め」
メキメキと音を立て、徐々に頬の筋繊維と骨が千切れ出血していく。
瞬間、ヴラディスによって下顎から胸元まで舌ごと思い切り引き裂かれ、カーミラは声に鳴らない悲鳴を発した。
「死体が残っているか地上で調べさせろ。急げよ」
「ぐ、が……んあぁっ♡」
手酷く折檻され顔を醜く破壊されたというのに、カーミラはウットリと頬を上気させ絶頂のまま天井を見上げている。
しかしこれ以上その場にいては王の間が自身の血で汚れてしまうことに気付くと、慌てて部屋を後にしていく。
一方のドクロは、一連の公爵二人への厳しい叱責を目の当たりにして、楽しんでもいられず密かに冷や汗を流していた。
「ドクロ」
「……何か?」
声が裏返らなかった自分自身に感謝しつつ、ドクロはヴラディスの続く言葉に注意を払う。
「大したことではないが。甲板に出て、人間たちが来ないか様子を見ておけ」
「今仕掛けて来ると?」
「ここで奇襲をかけるのはあまりに愚かな選択だが、万が一ということもある。その時はわざわざ一ヶ月待ってやる必要などない、殲滅するのみだ」
「了解した」
要は使い走りだが変に口答えせず、三人目の公爵は甲板に向かって歩いていく。
それを見送った後、ヴラディスは深く息をついた。
「一刻も速く終わらせねば、こんなことは……」
王錫をグッと握り締め、蒸騎王はしばしの休眠を取る。
※ ※ ※ ※ ※
翌朝。
デミトリを陥落させるための装備について考案するため研究室に籠もっていたシルキィは、いつの間にか自分が寝落ちしてしまっていたことに気づき、気怠そうに身を起こした。
人類に残された時間は少ない。だというのに、彼女は昨夜から集中できずにいる。
原因は明白だった。千種と瑠璃羽、二人とあのような別れ方をしてしまったことが、トゲとなって彼女の胸に突き刺さり、心を苛んでいるのだ。
「シルキィ、ここにいるんだろ! 開けろ!」
「私も一緒です! 開けて下さい!」
いきなり研究室のドアを力強く叩く音が響いたのは、そんな時だった。
寝惚け気味の頭にいきなり件の二人の声が届き、シルキィはその場で跳ね上がってしまう。
「オラァ!!」
「うわぁ!?」
さらに施錠されたドアを千種によって容易く蹴破られ、いよいよ彼女は目尻に涙を浮かべる。
「な、何をしに、いやなんで戻って来たんだよ!? 言ったろ、もう二度と……」
「ンなモン関係ねぇよ! 俺は俺のやりたいようにやる! っつーかお前が勝手に決めたのが気に入らねェ!」
「はぁ!?」
人差し指を突きつけられ、思わず眉間にシワを寄せ声を荒げるシルキィ。
しかし反論をする前に、千種はダイナスティドライバーを取り出し、見せつけた。
「このベルトを最初に受け取った時、俺は助けて貰った借りを返すためだけに戦った。二回目は、紬や父さんや母さん……地球で生きてる知り合いみんなのためだ。それからずっと戦い続けて来た」
「だから、もうそんな危険に飛び込む必要ないんだよ! デミトリを落とせば蒸気も止まるはずなんだ、彼らが地球を訪れることは――」
「気付いたんだ。今はこの国の、この星のことも俺にとっちゃ大事なモンになってんだ。地球と同じくらいに、命懸けで守りたいと思えるほど」
「な……」
「お前の言う方法じゃここがなくなる。何もかも消えちまう。この星のみんなに……お前にも、二度と会えなくなんだろ」
固い決意に満ちた、強い眼差し。続いて瑠璃羽も、己を奮い立たせてシルキィに告げる。
「初めて会った時のことや、お祭りでドレスを着て花火を見たり、戦い以外で一緒に過ごしたことを私は忘れてません」
「博士くん……」
「辛いこともあったけど、全部忘れてなかったことになんてしたくないです!! もう私は、暗くて何もできなかった頃の弱い私じゃない!! 逃げ出して後戻りするくらいなら、一緒に戦います!!」
二人の言葉と真っ直ぐな瞳を前に、シルキィは身じろぎしつつも頭を振った。
「ダメなんだよ!! それじゃキミたちが帰れなくなるじゃないか!! 家族を置いて、ここに留まって良いって言うのか!?」
「……ずっと思ってたんだけどよ、
千種から鋭く放たれた言葉に、虚を突かれたようにシルキィはハッと息を呑む。
「自分が普段なんて名乗ってンのか今になって忘れたのかよ。誰が造ったモンなのか知らねェが、七大真祖が乗って来た昔の遠い星の船を、その技術の再現を、なんでお前ができねェと思うんだよ」
「ワタシの力を……そこまでアテにされたって、困る」
「何言ってんだ今更。俺たちはお前の力があったからこそ、ここまで来れたんだろうが」
気が付けば、シルキィは自分の目にまた涙が溢れ、それが頬から顎へと流れていくのを感じていた。
これほど千種から頼りにされていたという事実。
改めてそれを真っ直ぐに伝えられたことに、胸の奥が温かくなっていた。
「今すぐじゃなくて良い、十年だろうが百年だろうが時間かかったって文句なんぞねェよ。
「助手、くん……!!」
「それに、まだ野郎の言葉全部が正しいとは限らねぇ。っつーかアイツは確実に
千種はそう言った後、ヴラディスや地球とあの星の状況についての自分の考えを打ち明ける。
シルキィは耳を傾けている内に徐々に確信めいた神妙な面持ちになり、瑠璃羽もハッと目を見張った。
「……そうか、そういうことか……状況が状況だから考えもしなかったけど、確かにそれは
ゴシッ、と目元を拭い、シルキィは笑う。
その目にはもう暗い陰も迷いもなく、千種と瑠璃羽がいつも傍で見続けていた、最も頼れる大人の姿がそこにあった。
「もう弱音は止めだ! 全部このハイパーサイエンティストのワタシに任せてくれ!」
「やっと普段の調子に戻ったな」
「よかった、シルキィさんが元気に戻ってくれて……」
瑠璃羽はホッと息をつき、しかしすぐに表情を引き締め、二人に向き直る。
「先輩、シルキィさん。私からも伝えたいことがあるんです」
怪訝そうに千種とシルキィが彼女に注目すると、一度深呼吸をしてから瑠璃羽は切り出した。
「もしこの作戦が上手く行っても、行かなかったとしても……この間みたいに別れたくないんです。先輩とも、シルキィさんとも。私は……二人のことが、好き、だから……」
言った後で、瑠璃羽の頬が真っ赤に染まり、それを自覚して両手で自らの顔を覆う。
千種はその言葉を聞き終えると茹でダコのように耳まで紅潮し、シルキィもやや赤くなりつつ目を丸くしていた。
「え、あ……えっと、そ、それってつまり……その……」
「もう意味は分かってるだろ助手くん。博士くんが言ってるのは『そういうこと』だよ」
シルキィは咳払いし、瑠璃羽と同じく千種の顔を見上げる。
「ワタシも本当はキミたちと離れたくない。博士くんに嫉妬したこともあるけど……今はもう、同じ気持ちなんだ。三人一緒がいい」
「ちょ、ちょっと待て! お前らいいのかよ、その……俺が二人と同時に付き合うのって抵抗とかねぇの!?」
戸惑って二人の顔を交互に目で彷徨わせつつ、千種は尋ねた。
すると瑠璃羽は照れ笑いしながら「実は以前ミナさんから聞いたことがあるんですけど」と切り出し、話を続ける。
「マキナイトが現れる前は、複数人と交際とか結婚とかは珍しい話じゃなかったそうですよ。特に王族は自分の血筋を絶やしたくないとかで」
「だったら何も問題ないじゃないか。それで、どうなんだい?」
「先輩……答えを、聞かせて下さい」
二人の瞳が、じっと返事を待って千種の顔を仰ぐ。
千種は困惑し顔が真っ赤になったまま、必死に心を落ち着けるよう自分に言い聞かせ、その末にどうにか返事を口に出す。
「……ふ、不束者ですが、よろしくお願いします……」
あまりにも締まらない言葉。
三人とも一瞬沈黙してしまうが、やがて誰ともなく噴き出してしまい、三人ともが大声で笑う。
こうして、千種とシルキィと瑠璃羽の三人は、恋人として結ばれるのであった。
――そして、約束の日。
デミトリが宙を漂うブラムストーク王国の王都、その王城前にて。
「……来たか」
門前には、腕を組み番兵のように立つヴラディスの姿がある。
その場に現れたのは、千種とソーマとミナ、そしてシモンの四人のみ。
ヴラディスは彼らの姿を視認すると、ゆらりと上体を動かして歩いて来る。
だがその挙動はどこか不自然で、石畳の上を浮遊しており、時折ノイズが走っていた。
千種はすぐに、その原因を察する。
「ホログラムかよ」
「当たり前だ。わざわざ地上に降りてまで、貴様らの前に現れる理由などない。それより答えを聞かせて貰おうか」
この場に本人はいない。それでも、お互い言葉にしなければならないことがある。
「お前らをブッ倒して全部終わらせる。地球にも手出しさせねぇ、絶対にだ」
「では、ここに骨を埋める覚悟はできたのだな。潔いことだ」
「ンなワケねーだろバーカ。この戦いが終わったら、一回地球に帰ってメシ食って風呂入って寝るわ」
「……前言撤回だ。この期に及んでそのような妄言を吐くとはな。この一ヶ月間、貴様は何をしていたのだ」
眉根を寄せるヴラディス、何も言わず相手を見据える千種。
マキナイトたちの王のホログラムは、さらに目の前の少年に追及する。
「言ったはずだ。信念なき王に、貫くものなき王道に従う者などいないと。そんな王の放つ言葉は、着飾っただけの紛い物に……」
「冷静に考えたんだけどよ」
そこで、溜め息混じりに千種が割り込んだ。
何を言うつもりなのか。ヴラディスは聞き耳を立て、言葉を区切る。
「自分の国も星も守れなかったクセに、なんでお前は偉そうに王道とか言ってんだ?」
「……は?」
「しかもお前ソーマの先祖にも負けて今の今まで眠ってたろ、失敗してんじゃねーかお前の王道。そっちも十分紛い物なんだから、俺がバカみてーに同じ轍を踏む理由とか何もねェだろ」
突きつけられたのは、容赦ない正論と罵声の数々。
ヴラディスはあまりの事態に目を見張ってしばし呆けてしまい、直後に突如としてデミトリから無数の弾幕と主砲を含む破壊的な砲撃が地上に向かって降り注いだ。
当然、ヴラディス自身はその場にいないので負傷することはない。だが、目の前の少年たちは
「カーミラか! 勝手な真似を!」
恐らくこの会話を聞かれていたのだろう。主君に対する罵倒を許せず、命令もなしに動いたのだろう。
ヴラディスは舌打ちし、目に見えて憤り――すぐに、先程同様に目を見開いた。
そこには、傷一つない千種たちが立っていたのだ。
ただし、
「ホログラム……!? 我々の技術より、さらに精巧な……!?」
「かかったなバァァァーカ!! お前らが相手にしてんのはこの国ィ分捕り返そうとしてる魔王だぜ!?
言われてヴラディスが見上げれば、機械龍のさらに頭上を六機の蒸機戦艦が、透明化を解除して陣形を作り向かって来ている。
先程の会話は陽動。全て、デミトリの内部に侵入するための策だったのだ。
「そう来るか……!!」
「俺はお前と違ってお高いご身分の生まれじゃねェさ。でもそれで良いんだ。俺は黒の貴族の王権をブッ潰す、俺には俺の道がある!! それが魔王の道、俺の生き様だァッ!!」
その場からホログラムが消え、艦内の千種はダイナスティドライバーを装着すると、背後に立つX-ROSSの面々を振り返る。
「行くぜお前ら!! これが最後の戦いだ!!」
『オォォォォォーッ!!』