龍王機艦デミトリ、その内部の収監室にて。
檻の中にいるアルケーは、粗末なベッドに腰掛けて闇を映す窓を見上げ、指を組む。
「……チグサ、どうかお父様を……」
そして祈るように顔を伏せ、ひとり静かに涙した。
やや時を遡り、千種が王の間に入った直後。
シモン・クルスニクの変身する仮面ライダーモナークは、ドクロ・シラヌイが変異した冥獄剣豪クドラク・ホネバミとの対決を始めていた。
真正面から突撃し、左腕のモナークスティンガーを拳とともに繰り出す。
「遅い」
ホネバミはそう告げて、小刀でモナークスティンガーの杭を弾いて逸らし、一瞬で背後に回り込み右手の大刀でモナーク自身を薙ぎ払う。
モナークは即座にしゃがみつつ前転してそれを避け、そのまま下から後ろ回し蹴りを放つ。
しかしそれも交差させた二本の刀によって防がれ、反撃としてホネバミが血の剣閃を乱れ飛ばして攻撃。モナークは糸を発射して天井に張り付き、斬撃から逃れた。
「多少は動けるようになったようだな」
「貴様を倒すためにひたすら鍛えた、ただそれだけだ」
「では少し本気で遊んでやるとしようか」
双刀をヒュンッと振りつつ、ホネバミは言う。
直後、彼が周囲に飛ばした鮮血から、青白く不気味にゆらめく光が立ち上る。
「炎……!?」
それは徐々に足のない人型の骸骨のような姿を取り、音もなくゆっくりとモナークの方へ飛んでいく。
武装をボウガンモードに変えて撃つが、業火の亡霊は消えない。
それどころか、燃える血痕からどんどん湧き出し、モナークに迫っている。
「これぞ拙の持つ血の力、ホムスビ。この炎はそう簡単には消えん、貴様がどこに逃げようとも追いかけ続けるぞ」
「元より逃げるつもりはない!」
言いながらモナークは天井を射って、ホムスビの群れを瓦礫の下敷きにした。
だがそれでも火の手は衰えず、瓦礫の下から骸骨が燃え盛って這い出し、蜘蛛の戦士を追跡する。
「簡単に消せんと言っただろう?」
「くっ!」
ホムスビそのものの移動スピードは遅い。しかし散布した血が乾くまでの間増殖し続け、消火もできないのはモナークにとって厄介であった。
せめて水を使うことができれば、と考えるが、彼にはその手段も能力もない。
「早々に諦めて楽になれ、黒騎士よ。お前は拙には勝てん」
くつくつと笑い、高速接近して刀を振るうホネバミ。
背後は迫る炎の骸によって奪われてしまっており、やむを得ず両腕を交差させて正面から受け止める。
刃が装甲に食い込んでいくが、モナークは怯まず蹴りを繰り出す。
だが彼より遥かに素速いホネバミには掠りさえもせず、反撃とばかりに連続の斬撃を浴びる羽目になった。
斬られた箇所から血飛沫のように火花が散り、それでもモナークは倒れることなく、敵を睨み言い放つ。
「そうやって貴様も
一時の沈黙。ホムスビも動きを止め、影だけが静かに揺れる。
「何を、言っている……」
思わず口を閉ざしてしまったクドラク・ホネバミは、両手の刀を握る手に強く力を込めて呟く。
すると、モナークは冥府の炎から遠ざかりながら、追及を続けた。
「アルケー王女は貴様を享楽派と呼んでいたが、俺にはそうは見えん。口先では戦いを楽しんでいるようなことを抜かしているようだが、どう見てもお前は戦いに狂っているようには見えないし、明らかに王座を狙っていただろう」
「デタラメだな。一体何を根拠にそんなことを?」
「……初めに気付いたのは、先の公爵同士の大戦の時だ」
息を呑むホネバミに対し、人差し指を立てながら言う。
「貴様はオルロックやカーミラと対決するために現地に向かった、そして俺たちが現れた後でもカーミラを狙って襲撃している。
ぐっ、とホネバミの動揺が見て取れ、波紋が拡がるようにホムスビの揺らめきも強くなる。
「あの場でわざわざヤツを狙うより、ヤツを無視して先にオルロックと戦いに行き、後から合流して纏めて戦う方が『戦闘狂』としては自然だ。あるいは獲物であるオルロックを取られる前にカーミラを潰す、という手もあったはずだ」
「そんなものはお前の勝手な理屈に過ぎん!」
「そうかも知れんな。だが、貴様は他にもまだ不自然な行動を取っている……カーミラが隠し持っていた、あの王錫を見た時。驚いていたな」
「……当然だ。あの杖は本来別の場所に保管されている、あの女が持っているはずはなかったんだ」
「ほう。では
再び炎の揺らぎが大きくなり、モナークはそれを確認しながらさらに言葉を紡ぐ。
「王錫に限らず、ヴラディスが空で傷を癒やす間の王の証の管理は、恐らくカーミラに一任されていたはずだ。ヤツ以外のマキナイトは保管場所はおろか王の証の存在さえ知らなかっただろう……ただし、貴様とオルロックは王の証そのもののことは知っている」
「そ、それがどうし……」
「オルロックが驚いたのは、間違いなく王の証を密かに探していたからだろう。俺たちがそうであるように。そして、
「うぐっ!?」
「本当は王の証を見つけようとしていたんだろう? 大戦の時に一度カーミラと交戦したのも、共闘関係締結の交渉を持ちかけるための、さらには王の証の行方を聞き出すための布石。ただの
「ぬぅ……!!」
「今にして思えば、仮面ライダーの情報を聞きつけた時すぐ動き出さなかったのも妙だ。戦うのが好きという割には腰が重すぎる。入念に調査してから戦うつもりだったか、あるいはオルロックたちの戦力が十分削れるまで待っていたとしか考えられん」
図星を指されたのかホネバミは言葉に詰まり、炎の勢いが弱くなっていく。
しかし、ホネバミは頑として否定した。
「ふざけるな!! それもこれも全部根拠のない妄言、憶測だ!!
「フン、地が出ているぞ? では、これまでの推測を裏付ける決定的な事実を突きつけてやる」
モナークは余裕の態度を崩すことなく、堂々と言い放つ。
「ズバリ、今この状況。貴様がここで王の間の門番をやっているという状態。これが証拠だ」
「何ィ?」
「この一ヶ月の間、貴様は
ぶつけられた疑問に対して、ホネバミは目を剥いて完全に言葉を失った。
「沈黙は雄弁だ。戦うことを至上の喜びとする、などというのはやはり貴様自身が作った偽りのイメージだったようだな。自分より強い者には手を出せないらしい」
「ち、違う……俺は……」
「貴様も根底はオルロックと同じだ。王が死した今なら、こっそり王の証を手に入れれば自分が玉座につけると思ったのだろう? だがその強大な王が復活を果たし、勝てんと悟って早々に諦めた。そして、その魂胆はヴラディスにも
「なっ!?」
「気付いていなかったのか? 貴様はヤツに侮られているんだ。手を噛まない飼い犬としてな。でなければ、戦好きの狂った享楽派と呼ばれているような男にわざわざこんな眼の前で見張りなど頼まんだろう」
ホネバミは後退りし、ホムスビが消え入るのではないかという程に弱々しくなる。
だがそれは一時のことで、剣豪たるクドラクの怒気を孕んだ唸り声と共に、再び火は燃え盛っていく。
「殺す……殺してやるぞ、シモン・クルスニク……!」
「そこでヴラディスに挑む気を起こさない辺り、本当に格下の小物だ。オルロックよりも遥かにな」
「黙れェッ!!」
右手に握った刀を天井に向け、怒りに叫ぶホネバミ。
すると周囲のホムスビが全てその大刀に集まり、巨大な青白い灼炎の刀身を作り上げていく。
「お前などが何をほざこうが、俺に勝つことはできんのだ!!」
「勝つのは俺だ」
モナークはそう言いながら両腕を前にかざし、炎の太刀を生み出すホネバミの眼の前で、幾重にも織り重ねた視界を塞ぐほどの巨大な蜘蛛糸の防壁を形成。
その行動を見て、ホネバミは一笑に付す。
「糸の壁如きで俺の技を防げるものか!! 獄炎一閃、恐怖に呑まれて死に絶えろ!!」
真っ直ぐにモナークへと突き出された極大の炎の刃が、暴風雨のように渦巻きながら無数の炎を撒き散らして襲いかかる。
蜘蛛の糸で作られた壁を突き破り、その先にいた人影をも包んで焼き尽くす。
だが、ホネバミは燃え尽きていくその
そしてすぐにその違和感の正体に気付いた。本来モナークが持っているはずのパイルバンカーが消失しているのだ。
さらに、床下から音が聞こえて来る。ホネバミにとって、敵の狙いを悟るにはそれだけで十分すぎた。
「上手く逃れたつもりか? 詰めが甘いぞ、小童め!」
先程炎を浴びたのは、本人ではなく糸と瓦礫を組み合わせて作った身代わりの人形。
モナーク自身は床に開けた穴を通って背後へ回り込み、不意打ちを仕掛けようとしている、とホネバミは読んだ。
そうして実際に振り返った先で穴が開くと、人型の影が飛び出して来る。
ただし、蜘蛛糸で全身を覆った複数の人影が。
「下らん小細工を! そこだ!」
今度は人形たちに紛れて攻撃するつもりだ、と理解して、一体だけ自分に向かって来る個体を見つけたホネバミは即座にホムスビを纏う刃で胴を貫く。
だが、それは
「な!?」
見下ろせば、穴の中から目に見えないほどの細長い糸が何本も伸びており、その先から本物のモナークが飛び出して来る。
これすら単なる囮に過ぎなかった。燃えて散る人形の前でホネバミがそう思った刹那、彼の脇腹に冷たい感触が突き刺さった。
《ファングレイザー……!》
「捉えたぞ」
モナークの右手にあるのは、かつて邪甲騎士ルーガルーとして戦っていた時にも使っていた剣型チェーンソーの武装。加えて背中には、サブアームが四つに減ったタランチュラシールド改が装着されている。
戦いが始まるまでの一ヶ月の間に、サンジェルマンへ復元を依頼していたものだ。
轟音を立てて刃が肉を斬り裂き、ようやくホネバミへ大きな傷を負わせることに成功した。
「くっ、それがどうした!? 所詮は無意味な抵抗、この俺に勝つことなどできぬ!!」
食い込んだ刃を無理矢理引き剥がし、出血。さらにその血からホムスビが生み出され、またもモナークは囲まれる。
その状況を利用し、ホネバミは一度距離を取ろうと画策するも、いきなり絡みついた
見れば、床には蜘蛛糸が解けた人形の残骸がそこかしこに散らばっている。ホネバミがいくら超高速で動くことができようとも、これでは必然的に足が鈍くなるのだ。
「お、おのれ……」
「フン!」
「グガッ!?」
《
もたついている間にモナークは青白い炎に焼かれながらも接近、叩き込んだ杭の先端部を通してホネバミの血を吸収し、エネルギーチャージを完了させた。
「安心しろ、ドクロ」
「な、あ……!?」
「これからお前は死ぬ。戦いを愉しむ暇も余裕もなく、ただ討ち滅ぼされる」
身体がホムスビで燃え続けているにも関わらず、モナークは悠然と歩み、ファングレイザーとモナークスティンガーを同時に操作する。
《
《
「俺が……処刑する!」
「あ、あり得ん!! 貴様如きに負けるなどォォォッ!!」
足元の糸に血を撒いて焼き払おうとするホネバミ、しかしその行動を事前に予期していたモナークは背中のサブアームで床の糸をホネバミの手足に絡め、傷口も塞いでそれ以上の流血を阻止した。
そうして射程距離まで近づいたモナークは、二つの武器のトリガーを引き、必殺の一撃を連続で叩き込む。
「ハァァァッ!!」
《ウルフスパイダー・ファングザッパー!》
《ソーヤービートル・グロリアススパイラル!》
ファングレイザーを思い切り振り下ろして右肩から真っ直ぐに一刀両断、続いてモナークスティンガーの杭が掬い上げるように腹を貫きホネバミを天井に向かって吹き飛ばす。
《
《
「オォォォォォッ!!」
《
悲鳴を上げる間もなく、モナークはさらにドライバーを操作して跳躍。
それと同時に背中のタランチュラシールドが左右に分かれて両足に装着され、苦悶するホネバミに四つのサブアームの刃が迫る。
《タランチュラ・グロリアスストライク!》
「セェアアアアアーッ!!」
「うッゲぇぇぇーギャアアアーッ!?」
四本のアームが何度も何度もクドラク・ホネバミを刺し貫き、吹き飛んでいく前にモナークの放つ糸が全身を素速く拘束。
そして突き出された両脚が叩き込まれ、全身が粉々に砕け散ってダイオウグソクムシとオオエンマハンミョウの異形は崩れ去った。
《
「ヘルシング一族が望んだ人の世に、お前たちのような異星の亡者は必要ない」
ドクロの死によりその身を焼くホムスビも消え、変身を解いたシモンはよろめきながらも王の間の扉へと歩き出す。
だが、疲労と負傷故かその足取りは重く、呼吸も荒い。
「いかんな……少し、休むか……」
そう呟いた後、シモンは扉の傍の壁に背を預けて、静かに瞳を閉ざすのであった。
「余が……逃げた、だと? 何を言っている?」
王の間内部。前哨戦として卓上戦略ゲームで千種を追い詰めたヴラディスは、彼から出た質問にそう返す。
対する千種は「質問したのは俺の方なんだがな」と呟きつつも、問の内容をより詳細に改める。
「アンタ、自分が元々住んでた星からここに移ったって言ったよな」
「……何かと思えばその話か。確かに余はクドラクとなった国民と共に星を脱したが、それを逃避などとは言わん。むしろ民を生かすための――」
「ウソだろ」
千種の指摘が、刃のように鋭く切り込む。
「その言い分、後でよ~く考えてみたらすっげぇ違和感あったんだよな。移民したクドラクたちを飢えさせないためにこの星に来たのに、
ピクリとヴラディスの眉が反応するのを見て、千種は疑念を確信に変えて言葉を続ける。
「おかしいよなァ? 本当に人間を家畜化して食い物にする気があるなら、情が湧くようなマネはしちゃいけないはずだ。その上、生まれたアルケーも身体的には普通の人間と変わりねェのにわざわざ不死にすると来たモンだ」
「……」
「だんまりかい。ま、でも実を言うと俺もなんとなくアンタの本当の目的は読めてるんだ」
自分の王の駒を手に取り、眼の前の真祖の王を睨んで言い放つ。
「アンタさ、本当は
ヴラディスの目が見開かれ、徐々に殺意が溢れ出す。
構わず、千種はただ自分の分析・推測をつらつらと述べる。
「王の証でアルケーに不死の呪いを施したのは、自分を殺せるだけの力を持つ誰かを探して欲しかったからだ。人を喰わないと命を繋げられない存在になっちまった故郷の星の民を、死なせてやりたかったからだ」
「……」
「本当はずっと後悔してたんだろ。生まれ故郷を、民を、自分自身に呪いをかけたことを。刈人ってヤツに魂を売っちまったことを」
ギリッ、と強く牙を軋ませて、拳を握り込むヴラディス。
その反応を目にした千種は、トドメとばかりに彼の額に指を突きつけた。
「だけど自分ではどうしようもなくなって、王としての責任と板挟みになって、全部アルケーに任せて……アンタは逃げ出したんだよ」
瞬間。
「余を愚弄するか貴様ァッ!!」
部屋にあるもの全てを破壊せんばかりの大声を轟かせ、机を吹っ飛ばして、ヴラディスは千種の胸倉に掴みかかる。
それでも千種は涼しい顔で、怪物の目を毅然と睨み返す。
「別にアンタの気持ちが分かんねぇワケじゃねぇ。そりゃそんな目に遭っちゃ絶望しちまうだろうよ」
千種はその後「だがな」と続け、ヴラディスの頭に自分の額をぶつけて下がらせた。
「俺たちはアンタの食い物じゃない、地球まで侵略するってンなら……俺はアンタを殺すぜ」
ヌゥッ、と忌々しげに唸るヴラディス。
そんな彼を見て千種はフンと鼻を鳴らすと、椅子に座したまま「ところで」とヴラディスに王の駒を投げつけた。
「これは俺の勝ちってことで良いよな?」
言いながら壊れたテーブルの方を顎でしゃくると、そこでヴラディスはハッと目を見開く。
怒りのあまり、先程までの対局を、圧倒的優位な戦況を文字通り自ら引っ繰り返してしまった。明らかなマナー違反、反則負けだ。
全てを理解したヴラディスは憤怒の形相から一転、くつくつと声を漏らし、最後には大口を開けて笑い出す。
「よもやこれを狙っていたのか。食えんヤツめ」
「狙っちゃいねーよ。アンタが勝手にキレただけだ」
「臆面もなくよく言えたものだ……だが、余に挑むことが許されるだけの器にはなったようだな」
肩を竦め、ヴラディスは改めて千種に向き直る。
元より、こんな前哨戦など、シミュレーションなど何の意味もない。何百年という時を孤独に過ごし続けた彼が、自らの心を整理するための場として設けただけだ。
千種にとってもそれは変わらない。自分の考えを纏め、ヴラディスにぶつけるために時間が欲しいと思い付き合ったに過ぎない。
で、あるならば。
《ヘラクレスビートル!!》
「行くぜ、王様」
《
「来るが良い、魔王よ」
後はただ、両雄相見えるのみ。
大魔王、仮面ライダーダイナスト。
蒸騎王、仮面ライダーマグナス。
星の命運を懸けた二人の王の真の戦いが、今始まる。