ヴラディスの元に向かう千種を見送った後、デミトリの甲板にて。
マンディブラリスアーマメントのレギウスに変身したソーマは、クドラク・クライシスの姿となったオルロックと交戦していた。
「ムゥン!!」
「ぐあぁっ!?」
しかし、その力の差は歴然。
氷の壁による防御も氷柱を放つ攻撃も、その全てを屈強な腕とサブアームのペンチで破壊されてしまう。
さらに血の力で甲殻の鎧から針を飛ばし、それが氷壁で防がれれば液状化して鎖に再変化させ、手元まで伸ばして引き剥がす形で粉砕する。
どれも前回の戦いでは見られなかった芸当であった。
「……以前戦った時より、明らかに強くなっているな」
「当然だろう! あの御方が生きておられる以上、もう私は無様な姿は晒せんッ! 生き延びるにはもはや勝つしかないのだァッ!」
副腕の先端にある血の力で構成されたペンチが、ドリルの形に変形。レギウスが何層にも重ねて作った強固な氷の壁を、いとも簡単に破壊してしまう。
その破片から氷の礫を無数に飛ばしても、クライシスの腕が全て叩いて砕いていく。
やむを得ず距離を取っても、甲殻から伸ばした針を引き抜いてナイフに変え、投擲して攻撃して来る。
「無駄だ無駄無駄無駄無駄無駄ァァァーッ!! もはや氷の力如きでこォの私を阻むことなどできはしないィッ! そもそも貴様は最初から私の敵ではなかったんだよォ!」
「くうっ!?」
「潔く諦めて死ねェェェーッ!」
握った右拳へと一気に血を集中させ、力強く踏み込んで振り抜かんとするクライシス。
瞬間、レギウスは咄嗟にその足元を凍結させて滑らせることによって、自身は前転しつつ直撃を避けた。
「ムゥ!?」
「悪いが僕にも、死ねない理由がある!」
そう言いながらレギウスが手にしたのは、これまでの戦いで見せたことのないギミックアンバー。
メタリフェルホソアカクワガタの機甲虫が内蔵された、メタリフェルギミックアンバーだ。
《
巻き鍵をひねって起動し、続いてレギウスドライバーにそれを装填。
《
そして、そのままマンディブルハンガーに手をかけ、仮面の中で静かに目を閉ざす。
「力を貸してくれ、姉さん」
《
言いながらハンガーを開いた瞬間、レギウスの背後に金属光沢を放つコバルトグリーンの装甲の
次第にそれは蛹となり、内部で融け合いレギウスの姿を変化させていく。
《
やがてレギウスが自らの手で蛹を破ると、甲板を凍てつかせるほどの冷気と共に、新たな姿に変じたレギウスが姿を現す。
《
頭部から異様に長いクワガタのアゴを天へと伸ばす、メタリックなコバルトブルーの装甲を纏う戦士。
両手にはレギウスラッシャーに加え、双つの剣レギウスラッシャー
「貴様、それは一体!?」
「仮面ライダーフルメタルレギウス。この星をお前たちから守る、鋼の覇王だ」
ジャキッ、と剣先をクライシスの顔へ向け、レギウスは答える。
その行為を挑発と捉えた吸血の暴魔は、すぐさま強靭な拳で以て応じた。
だが。
「グァッ!? こ、この硬さは……!?」
血の力によって強化された拳打を受けていながら、レギウスは傷を負うどころか
そればかりか、クライシスの拳の方がヒビ割れて出血する始末だ。
「硬いだけじゃないぞ」
フルメタルレギウスはそう言って、一息に接近して剣を振り下ろす。
クライシスは慌てず反応し、サブアームのドリルでそれを受け止めた。
しかし、レギウスの一太刀はその武器を腕ごと真っ二つに斬り裂いてしまう。
「ヌゥ!? だがこの程度ォ!!」
クドラクには強力な肉体再生能力がある。
今回も副腕を復元し、再び攻撃を仕掛けようと画策している。
だが、普通ならばすぐに完治しているはずの傷が全く治らない。明らかに再生速度が衰えている、というよりも止まっているのだ。
見れば、先程の攻撃によって断面が完全に凍結してしまっており、さらに液状金属を上から被せて血と同化させることで復元を妨げているのが分かった。
「あ!?」
「血の力はこれで封じた。もう二度と、お前には負けない」
「ぐ……ほざけェーッ!!」
それでも諦めることなく、副腕を根本から引き千切って新たに生やしつつ、手にした方は大剣に変じさせる形で逆に利用する。
クライシスはそのまま柄を握り締め大上段に構え、全力で振り下ろす。
「潰れて死ねェェェイッ!!」
対するレギウスが自らの右腕を前に掲げると、その腕の装甲に液状金属が纏わりつき、増加装甲となってより強固な護りを築く。
結果、クライシスの渾身の一撃はまたもや無傷で凌がれ、強力になった凍結粒子が大剣を侵蝕する。
「くうっ!?」
一転して窮地に追い込まれる暴魔。
こんなはずはない。人間相手にこれ以上負けてはならないと思い必死に力を高めた自分が、再び敗れるなどということがあってはならない。
事実既にカーミラとドクロを凌駕し、何よりダイナストを超えるべく能力の進化を果たした。
なのに目の前の人間は、ダイナストに劣るはずの仮面ライダーは、その自分を超えようとしている。
葛藤と苦悩が頭の中で駆け巡り、クライシスは声にならない声で叫ぶ。
「ふざけるな……ふざけるな、ふざけるなァ!! お前は!! この私に、倒されなければならないんだァァァァァーッ!!」
サブアーム先端が拳の形を取り、血を纏う四つの腕がレギウスに向かって繰り出される。
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レギウスはその前に自らのドライバーにセットしたメタリフェルギミックアンバーのキーを一度ひねり、マンディブルハンガーを開閉。必殺技を発動した。
背中のレギウスラッシャーAが分離し、自律行動。クライシスの腕二本を受け止め、レギウス自身も双剣を手に攻撃を防ぐ。
《メタリフェル・リベリオンクロスインパクト!!》
「ハァァァッ!!」
「ぐがっ!?」
続いて四本の剣がクライシスの腕全てを切断し、凍りつかせて粉砕せしめた。
《
両腕と副腕を失い、天を裂くような悲痛な絶叫を上げるクライシス。
その上、先頃と同じく再生も封じられており、文字通りに手が出せない状態となってしまう。
「ま、まだだ……まだ終わらん……! 私は、私はァァァッ……!!」
それでもなお闘志は衰えておらず、レギウスの喉元にに喰らいつかんばかりに睨み上げている。
するとレギウスは再び四本の剣を納刀し、暴魔のクドラクに問いかけた。
「お前は何のために生きている?」
「なに!?」
「この国でお前が生き続けていたのは、ヴラディスに成り代わって王になるつもりだったからだろう。そしてその野望は潰えた」
鋭い指摘に言葉を詰まらせつつも、クライシスはその言葉に自然と傾聴してしまう。
だがそんな自分に気づくと、頭を振って改めてレギウスを睨んだ。
「今のお前は何がしたい? 今更になってヴラディスに忠誠を誓うのが、お前の望みなのか? そもそも王になって何がしたかったんだ?」
「ぐ……!?」
「ヤツのことは気に入らないが、ひとつだけ良いことを言っていたのかも知れないな。信念なき王の言葉も、貫くものなき王道も、ただ飾りだけのまやかしだ。お前は……どうしたいんだ」
「黙れェェェッ!!」
怒りに叫び、しかし逆転の方法を思いついていたクライシスは、最後の大勝負に出た。
自らの肋骨を変容させ、無数のトゲが生えた前腕に。そのまま飛びかかり、鋼鉄のクワガタの戦士を砕こうというのだ。
レギウスはその様子を見ても冷静に、かつ素早くキーを三度ひねる。
《
「僕は、王になる」
《メタリフェル・リベリオングレイサー!!》
「王になって、人間の世を……この国を復興させる!! それが僕の王道だ!!」
続いてマンディブルハンガーを開閉した後、フルメタルレギウスのカウンターキックがクドラク・クライシスの腹に炸裂。
生やした腕で脚をねじ切ろうと試みるも、今の一撃で身体が凍結して動かない。
さらに体内へ流体金属が流し込まれたことにより、内側で鉄球が大きく膨れ上がって、木っ端微塵になってしまう。
「ぐおおおお!?」
「僕の勝ちだ」
《
変異が解け、頭だけになってしまったオルロックの脳裏に浮かぶのは、かつての故郷の星で暮らしていた頃の走馬灯。
貴族などという肩書や戦いとは全く無縁な、ただの一農家の男。それがいつしか、毒キノコによって農作物が腐り、飢饉が訪れ。
最終的にはヴラディスに選ばれて星を脱出し、こんなところまで来てしまった。
「は、ははは……そうか、そうだったのか……私は」
――故郷が滅びに向かったその時から。ただ、もっと生きていたかっただけなんだ。
こんな男が王になれたはずがない。最期の瞬間オルロックはそれを自覚し、己の滑稽な有様を嘲笑し、そのまま朽ち果てた。
「その思いを、この星で、お前たちのせいで死んだ人たちはみんな吐き出せずに逝ったんだぞ。バカが……」
既に物言わぬ残骸となったオルロックに吐き捨て、変身を解いたソーマはそのままデミトリ内に入ろうとする。
だが、その寸前。
「ソーマー!」
頭上からそんな声が聞こえ、見上げればそこには蒸機戦艦からドローンビートルを使って降りてくるミナの姿があった。
「ミナ、どうして船に?」
「どうしても外におびき出す必要があって……私、ちゃんと倒せましたよ!」
自慢げに言いながらミナがギュッと抱きつき、ソーマは彼女を受け止め「流石だよ」と囁いて背を撫でる。
そうして二人がデミトリの中に侵入し、王の間を目指していると。
王の間の壁に背を預け、座り込んで項垂れているシモンの姿を発見した。
「シモン!?」
「そんな、どうして!?」
ドクロの姿はない。ということは、相討ちになってしまったというのだろうか。
そう思って駆け寄っていくと、彼の口から吐息が漏れていることに気付く。
「ぐぅ……すー……」
『寝てるだけ!?』
二人してずっこけそうになりつつも、とりあえず彼を起こすために声をかけようとする。
瞬間、王の間の壁が木っ端微塵となり、その爆風にシモンも巻き込まれてしまった。
「シモォォォーン!!」
「なんの騒ぎだ」
「いや流石に落ち着きすぎだろ!?」
普通に立ち上がって寝起きのように周囲を見回すシモンに、またもやソーマが困惑の声を上げる。
それはそれとして、今一体何が起きたのか。
砂煙の向こう側に目を凝らすと、そこにはマグナスの前で胸を押さえながらよろめいている、窮地のオーバー・ザ・ダイナストの姿があった。
「ダイナスト……!」
「そんな、押されているのか?」
なら、加勢しなければ。
そう思いドライバーを装着しようとする一同だが、それは他ならぬダイナスト自身によって妨げられる。
自分一人で戦い、勝たなければ意味がない。そう言いたいのだ。
「見せてやるよ。大魔王のとっておき、ってヤツをな」
ダイナストは言いながら、ヘラクレスビートルギミックアンバーのキーをひねり、ホーングリップを一度だけ倒す。
そして、青い炎を全身に纏い、力強く叫んだ。
「
《ヘラクレスビートル!!