仮面ライダーダイナスト   作:正気山脈

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GEAR.46[最終審判]

「余のもうひとつの隠し事、だと?」

 

 ハイパーブラストモードとなって、マグナスを圧倒するダイナスト。

 その戦いの最中、二人は手を止め語り合っていた。

 

「あんたが()()()()()()()()()()()()()()だ。これは同時に、アルケーに呪いをかけて生かし続けたもうひとつの、恐らく最大の理由でもある」

 

 人差し指を立てたまま、ダイナストは自らの見解を述べる。

 

「アルケーは指輪とベルトを揃えても変身できなかった。でもそれは王錫を手に入れる前だったからで、本来ならあんたの血を引くあいつなら指輪とベルトさえありゃ変身できるはずだ。()()()()()()()()()の話だがな」

「む……!」

「それも狙いのひとつだだったんだろ。自分を倒せる人間が現れた時、いつでもあいつを後継者にできるように呪いをかけた。娘を確保した後も、他のヤツらが気付いて手出しできないように閉じ込めた」

 

 ダイナストはそう指摘した上で「そして」と話を紡ぐ。

 

「あんたが死ねば確かに地球へのパスは途絶えるが、アルケーがその力を継げば……」

「もう言うな。そこから先は、君の考えている通りだ」

 

 マグナスは言葉を遮り、ダイナストの話の続きを自ら語る。

 

「余が死に娘が力を受け継ぐことができれば、地球とこの星とのパスを繋げたままにできる。無論、太陽を取り戻すことも可能だ」

「ヴラディス……」

「だが簡単に成就はさせん。余には信念が、民を導く責務がある。余の王道を超えられぬ者に道を明け渡しはしない!」

「だったら尚更本気でやろうぜ! ここにはあんたの本気を思いっきりぶつけられる相手がいるんだからよ!」

「言われずとも! 余の真の力を、今こそ見せてやる!」

 

 直後、自らの指を三度天面の牙に食い込ませて血を注いだ後、マグナスはブラックブラッドリングをドライバーにスキャンした。

 すると、蒸騎王の全身を黒い血液が駆け巡り、その姿を徐々に異形へと変貌させていく。

 

IMPERIAL DOMINATION(インペリアル・ドミネーション)

「ぬ、ぅ……オオオオオッ!!」

MAGNUS NOSFERATU(マグナス・ノスフェラトゥ)

 

 甲殻に覆われて体格が先程までより遥かに大きくなったばかりか、昆虫めいた六本脚とハサミの付いた前肢、強靭な牙が生えた怪物となるマグナス。

 背からは翅を伸ばし、けたたましい咆哮を上げ、黒い炎の吐息を漏らしている。

 

「なんだ……あの姿は!?」

「コオロギとザリガニのバケモノ!?」

「あんなものに勝てるのか!?」

 

 ソーマもミナもシモンも戦慄する中、ダイナストは物怖じせず真っ向から立ち向かう。

 マグナスもまた、姿が変わりながらも瞳には理性的な光を宿し、自らの前に立つ魔王へ挑まんとする。

 

「これがマグナス・ノスフェラトゥ、望み通りの本気(フルパワー)の決闘だ!!」

「おうよ!! 気張って来い!!」

 

 ダイナストはそう言いながら手招きをし、それに応じる形でマグナスがハサミを突き出し迫った。

 鋭利なハサミは装甲を裂くことなく回避され、代わりに魔王の拳が異形の怪物の顔面に直撃。

 しかしその一撃はあまり効いておらず、逆に巨大怪物の口部から放たれた黒炎がダイナストの身を焼く。

 

「やるなァ!!」

 

 直後、その歓声と共に炎を突き破って魔王が飛び出し、再び拳を叩きつける。

 

「君こそ!!」

 

 拳打をハサミの側面の甲殻で受け止めたマグナス・ノスフェラトゥは、反撃とばかりに大きな尾を振り回してダイナストを吹き飛ばした。

 だがダイナストもただではやられず、床や天井の破片を破壊・再構築して空中に足場となる壁を作り、それを蹴ってもう一度マグナスの方に飛んでいく。

 そのまま頭突きを繰り出し、ハサミを砕くものの、前肢はすぐに再生してダイナストを地面に叩き落とす。

 

「お父様、チグサ……!」

「戦いはまだ続いていたか」

 

 そんな戦場に、アルケーやサンジェルマン、シルキィに瑠璃羽も駆けつけた。

 戦う二人はそのことに気付かず、ただ拳と言葉を交わし合う。

 

「君には分からんだろう、子を持つ父の気持ちなど! 自分の民と種族として何もかも違う子が誕生してしまったことなど!」

「がっ!?」

 

 尻尾をダイナストの頭に叩きつけ怯ませ、血の力で無数の刃を生み出して四方八方を取り囲み、一斉に射出する。

 

「この星に降りた時、余はブラムストーク王国の王を殺し王妃を奪った……人間の反抗心を削ぐために! だが!」

 

 しかし魔王は拳と体捌きのみでそれらの刃を全て受け流し、時に数本を掴み取って別の刃へ投げ返すことで凌ぎ切った。

 とはいえマグナスの攻め手は未だ止まっておらず、血の刃が爆破鱗粉に転じてダイナストの周囲に散布、さらに高熱空気弾が放たれて大爆発を引き起こす。

 

「産まれて来たあの子に生きて欲しいと思ってしまった! 王として民を飢え死にさせるワケにはいかない、しかし父として娘を死なせたくない! 両方を幸せにすることはできない! その苦しみが分かるか!?」

「そんなに責任持てねェんなら、最初から子供作んなよバカ野郎!」

「ぐぅっ!?」

 

 直後、爆炎の中から飛び出したダイナストが、マグナスの顔面を蹴り飛ばした。

 それでも負けじと、前肢のハサミがその足を掴み、床に撒き散らした血で鋭利な刃を作って思い切り振り落とす。

 

「ここまで大事にしといて、今更被害者とか子供思いの父親みたいなツラしてんじゃねェぞクソが!! どんなに言い繕おうがテメェはこの星を壊したんだ!! 地球も喰い荒らそうとしてんだ!! 板挟みで苦しいのもそりゃテメェのせいだろうが!!」

「そうとも……全ては余の責任だ!! もしもあの時、人間であることを捨てず星と共に滅んでいれば……そしてこの星で妻を娶った時、人間を愛する心を失っていなかったことを自覚せずにいれば、どれほど良かったか!!」

「開き直ってんじゃねェ!!」

「黙れ小僧!!」

 

 殴って殴って殴って蹴って蹴って蹴って。

 殴打と斬撃と凶弾、とにかく攻防の応酬が、何度も何度も目まぐるしく繰り返されていく。

 そしてどちらも倒れる様子がなく、全くの互角だ。

 やがて双方息が切れ始めると、マグナスの方から声がかかった。

 

「魔王、この一撃で最後にしてやる!」

「良いぜ! 丁度こっちも、これで終わらせてやろうと思ってたところだ!」

 

 静かに睨み合い、ゆっくりと正面から歩いていく二人。

 先に動いたのはマグナス・ノスフェラトゥだった。

 銃口を突きつけようとしたダイナストの胸に強靭なハサミを深く突き入れ、脳天目掛けて斬り上げる。

 胸から真っ二つに頭が割れ、断面から()()()が迸った。

 

「勝っ……!?」

 

 瞬間、マグナスの目が見開かれる。

 確かに斬ったはずなのに、一滴も血が出ていない。

 しかも、この光は。

 否、これは炎だ。

 たった今殺したはずの相手が、仮面の中でニィッと笑った気がした。

 

《ファイナルアタックモード!!》

「ブチ抜いてやる、その呪われた運命!!」

 

 キングヘラクレシューターの撃鉄部を三度引き、銃身が赤く激しい光を帯びた後、ダイナストはハサミを掴みながらトリガーを引く。

 

B-B-B-BREAK OUT(ブ・ブ・ブ・ブレイクアウト)!! ヘラクレスビートル・ダイナスティハリケイン!!》

 

 凝縮された青炎が真っ直ぐに解き放たれ、至近距離から怪物の腹に命中。

 螺旋を描く火炎砲は、マグナスの腹の甲殻にヒビを刻み始めた。

 

「ぐ、がァァァッ!!」

「貫けェェェーッ!!」

PERFECT GROOVY(パーフェクト・グルーヴィ)!!》

 

 炎の柱が天井を突き破って昇り、変身の解けたヴラディスがその場に倒れる。

 千種もまた変身が解け、排熱状態のヘラクレスビートルギミックアンバーがドライバーから吐き出された。

 

「――敗れた、か」

 

 完全な決着。自分の腹に開いた穴を確かめるように見下ろし、ヴラディスは血を吐き呟く。

 

「結局余は王として臣民を守れなかった、父親としても失格だ。この星に滅亡の危険をも招いた。情けない限りだな」

「かもな。でもよ、少なくとも自分の娘を守ることだけはやり通せたんじゃねーのか」

「なに……?」

 

 眉を寄せながらも、千種の言葉に耳を傾ける。

 

「あんたのかけた呪いは解ける。それであの子は、今からでも人間として普通の人生を送れるようになる」

「……できる、のか? 余の娘ということが人間たちに知られたら、ただでは……」

「俺が守る」

 

 死に逝くヴラディスに誓いを立てるように、魔王の少年は断言した。

 そしてすぐに、涙ながらにアルケーがその場へ駆けつける。

 

「お父様!!」

「……見ていたのか」

 

 息も絶え絶えな状態の父親の傍らで膝をつき、彼女は震えながら力を失いつつあるその手を握り締めた。

 ヴラディスもまた、娘の手をもう片方の手で優しく包み込む。

 

「アルケー……ずっとひとりぼっちにして、すまなかった。私の身勝手な理想に付き合わせて、お前の人生を狂わせてしまった。故郷も、この星も、地球も。ただ私が死ぬべきか否かを見極めるための道具のようにしてしまっていた」

 

 そう言って、ヴラディスは指につけていたブラックブラッドリングを外すと、それをアルケーの手に握らせて強く念じる。

 すると指輪にはまっていた黒い石は赤色に変化し、アルケーを主と認めたように彼女の指に収まった。

 

「お父様、これは!?」

「呪いが解けた今、お前の身体はこれから一年ずつ普通の人間と同じように年を取る。この力はお前が使いなさい。ただし私のような愚かな王になるのではなく、お前自身の為すべきことのために戦いなさい。一人の人間として」

 

 マグナスドライバーも外れ、アルケーへと委ねられる。

 今この瞬間に、新たな王へと力が継承されたのだ。

 その様子を全員が見届けていると、ヴラディスは千種の方に顔を向けた。

 

「ダイナスト、いや……チグサだったな。君に私の全てを託そう。娘を頼む」

 

 蒸騎王の遺言をしっかりと聞き届け、千種は静かに頷く。

 長きに渡ったヴラディス・ド・ラクールの人生。

 人間に圧政を強い、マキナイトの世を生み出した王道。

 己の死と引き換えにその王道を覆せる人間を求め、アルケーに呪いをかけてまで受け継がせた理想。

 ようやくその全てが終わる。娘が自由に生きていける世界が来る。

 

 

 

 

 

 そう思っていた矢先。

 

『まだ終わっていない』

 

 突然、何処からか響いた女の声に、デミトリ内の者たちは目を剥いた。

 

「なんだ、今……」

「どこから声がしたんですか?」

 

 ソーマとミナが周囲を見回すが、声の発信源は特定できない。

 少なくとも艦内ではない、ということは。

 

「見て! そ、外がすごいことになってる!」

 

 シルキィに促されて王の間の窓から外を眺めてみれば、地上には茶色い巨大な虫の姿があった。

 頭から伸びた二本の触覚に丸い複眼、異様に大きく筋肉質な後肢を含めた六本脚に加え、背甲から機関車の煙突のようにキノコ状の物体が真上に伸ばす。

 さらに、そのキノコは煙めいてドス黒い胞子を噴き出しており、それに触れたものは生物・非生物問わずドロドロの粘液を吐いて腐って溶けてしまう。

 

「アレは……!!」

「あの時の錆油か!?」

 

 以前千種とソーマが倒した敵、イザベラに与えられた正体不明の錆油。

 地上を侵蝕している液体は、明らかにそれと同じものだった。

 なぜ今になってアレが再発しているのか。一同がそう思っていると、地鳴りと共に大きな声が木霊してくる。

 

『我が名は腐敗王コルディセプス。遥かなる虚無より来たりし奈落の刈人が産み落とした、滅びを齎す尖兵の一角』

 

 コルディセプスと名乗った大怪虫が、再び胞子をバラ撒く。

 すると、その細かな腐敗粒子が小さなバッタの形を取り、あらゆるものを腐らせ老朽化させていく。

 

『人よ、星よ、宇宙よ。貴様らに自由も未来も必要ない』

 

 ドシンドシンと歩く度に、その足跡のついた地面も腐ってしまい、植物が死滅する。

 

『生命の存続は不要――私と共に、全て息絶えよ』

 

 巨大なる冬虫夏草の怪物はそう告げて、王なき王国を作るべくひたすらに災厄を振り撒いた。

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