七大真祖の王、ヴラディス・ド・ラクールを討伐した後。
デミトリの外で錆油のバッタたちが国を蹂躙し始めているのを、X-ROSSの面々が見下ろしていた。
「マズい、どんどん被害が広がってる!」
「どうしたら……!」
千種だけでなくソーマもミナもシモンも、先の戦いでの負傷と疲労が残っている。
その上、現状の最高戦力であるヘラクレスビートルギミックアンバーも、今は排熱中で使用できない。
「あのコルディセプスとかいうヤツ、まさか今日の決着がつく瞬間を待ってやがったのか……? 最初からそのつもりで?」
「とにかく対処しよう! 一度地上へ降りるんだ!」
ソーマの言葉に一同は頷き、戦闘のできるライダー四人はサンジェルマンの協力でパスを繋いで地上へ直接向かって、残りは蒸機戦艦へと戻っていく。
アルケーもまたそれに続こうとするが、その寸前に、足元で彼女を呼び止める声が響いた。
「娘よ……私の話を、よく聞きなさい」
「お父様!?」
既に肉体の消滅が始まっているヴラディス。彼の遺す言葉に、アルケーが耳を傾ける。
※ ※ ※ ※ ※
一方、冬虫夏草の生えた巨大バッタの姿を取るコルディセプスは、足音を轟かせながら周囲一体を錆で埋め尽くし続けていた。
『この世に産まれた者たちの後悔が聞こえるか。死と恐怖の果実を堪能する虚無の喜びが聞こえるか。宇宙滅亡の足音が聞こえるか』
彼女の道を切り開くかのように、錆油で構成された小さなバッタたちも星の環境を汚染する。
『人よ、生命よ。次なる標的は地球だ。死からは何者も逃れられない、破滅からは決して抗えない。ただそこで座して待つが良い』
草木を蝕み、岩石を溶かし、形あるものを全て喰らい尽くす。
ひたすらに汚染活動が行われる中、その巨大怪虫へと立ち塞がる四つの影が、蒸気の中から現れた。
『変身!!』
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発砲音の後に銃弾が小さなバッタたちを撃ち落とし、双剣やチェーンソーから繰り出される斬撃が残りを斬り払う。
どうやら錆油に対抗するためのコーティングがされているようで、武器には全くダメージがない。
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ダイナスト、レギウス、ラレーヌ、モナーク。
爆炎で油を消し飛ばしつつ、仮面ライダーたちが前に出ていく。
「消えるのはテメェの方だ、クソッタレのバケモンが」
『現れたな人間ども。貴様らもすぐに滅びる、この星と共に造作もなく、だ』
「宇宙を滅ぼして一体何になる、テメェら何がしたいんだ」
『それは単なる尖兵の私が知ったことではない。しかしあらゆる命は滅びるが定め、例外は存在しない。それが自然の摂理というものだ』
飛び来る油をミサイル爆撃や銃弾で相殺しつつ、ダイナストはコルディセプス本体へも攻撃。
しかし爆炎が命中しても即座に修復されてしまい、そもそも液状の塊にしか見えないため効いているのかどうかも分からない。
舌打ちしつつも、魔王は射撃を続行。その後ろではレギウスが氷の鉄壁を周囲に生み出して守りを固め、油を防いでいる。
「ならばなぜ、食事を必要としない不老不死になれると偽り、ヴラディスたちをクドラクに変えた!? その行動がなければ、今のような惨状は起きなかったはずなのに!!」
『何度も言わせるな、そんなもの私の知ったことではない。全ては虚無の意思なのだ。クドラクやマキナイトどもも、今この瞬間に消え去る定めだったに過ぎない』
巨大バッタが空へ跳躍し、銃弾と爆破を受けながらも頭上から急襲。
寸前でレギウスの作り出した氷の道を滑るように走り、ダイナストたちはそれを避ける。
「人間の滅亡もそうだというのですか!?」
『そうだ、それが摂理だ』
「ならばここで貴様の方が滅びたのなら、それもまた摂理ということだな」
『否。私は滅びない。刈人も、虚無もまた然りだ』
ラレーヌとモナークの問いに短く返した後、コルディセプスは口部から一直線に油の球を吐き出す。
ダイナストはその攻撃に対し、爆破の力で地面に大穴を開け、そこに滑り込んで直撃を避けた。
『分からないのか? 虚無に属する我らこそが、この宇宙の『死』そのものなのだということが……』
「テメェらがその摂理そのものだってのか」
『そう言っている』
「だったらそんなモン、俺が捻じ曲げてやる!!」
『たかが人間にできるものか』
「やるって言ってんだよ!! 俺が
言いながら再び拳を地面に叩き込むと、爆破のエネルギーがコルディセプスの足元に集まり、その数刻後に巨大な火柱が立ち昇る。
が、下半身を失った巨大バッタはそれでも健在で、背の冬虫夏草の中から大柄な裸身の女が姿を現した。
「……本体はあっちか!?」
『無駄な抵抗をまだ続けるか。なんとも愚かな。では、絶望を見せよう』
コルディセプスの足元にある冬虫夏草と巨大バッタの身体がボコボコと膨張し始め、彼女自身と一体化した後、八つの錆油の塊に分かれる。
さらに、それらが徐々にバッタに似た怪人の姿を成し、それぞれ二体一組で仮面ライダーたちの方に向かっていく。
「分裂した!?」
「どれかひとつが本体ってワケか……!」
ダイナストたちは眼と眼を合わせて頷き合い、散開。
一人につき二体を相手に、迎撃を開始する。
『無駄だ。私の進行は止められない』
「知るかよ!」
殴りつけた地面の一部をミサイルに作り変えて飛ばし、油の怪物に爆撃するダイナスト。
しかし敵は肉体を失っても即座に元通りになり、目の前の魔王に向かっていく。
油まみれの拳が胸の装甲に直撃し、防錆・防腐のコーティングすら無力化して溶解せしめた。
「くっ!?」
《
ダイナストはアーマーが溶け切る前にすぐ飛び退き、ドライバーのギミックアンバーをマルスの方に交換。
油弾を避けながら、ホーンを倒して形態を切り替える。
《
「ラァッ!!」
両腕を突き出して業炎を放ち、油の塊を焼き払う。
全身が燃え上がって炎が拡がるものの、それでもコルディセプスは立ち向かって来る。
そもそもこれが本体なのかどうかさえ分からないが、ヘラクレスビートルを使えるまでの時間を稼ぐためにも、ダイナストは継続して炎を発し続けた。
だがこの炎では冬虫夏草の怪物を焼き尽くすことができず、伸び出て来た油の腕によって再び装甲が溶かされてしまう。
「まだだ……!!」
《
「アーマーコンバート!」
《
崩れた装甲を別のアーマメントに切り替えることで対処していたが、もはや後がない。
レギウスたちは氷の壁を駆使してなんとか立ち回っている一方、有効打を与えることもできておらず、徐々に追い詰められつつあった。
このままではジリ貧だ。一同が打開策を頭の中で捻り出そうとしている中、背後から突然に声が聞こえて来る。
「ダイナスト、それを使ってください!」
そんな叫び声と共に
すると、油の塊は驚くほどスルリと
一体何が起きたのか。魔王が自分の手元を見下ろすと、そこには薔薇の装飾がされた一振りの剣があった。
「こいつは……ナイトメアローズ!? まさか!」
振り返れば、蒸気の向こうに立っていたのはアルケー・ド・ラクールだ。
彼女が、戦場に剣を投げ込んだ。それを理解し、コルディセプスは嘆息する。
『人でもクドラクでもない混ざり物の紛い物か、一体何をしに現れた?』
「新たなる王として、あなたを裁くために」
そう告げた後、アルケーは自らの指に装着した赤い指輪を見せ、腰にマグナスドライバーを装着した。
コルディセプスでさえ目を奪われる中、彼女はそのまま自らの指を天面に押し込む。
「今こそ、戴冠の時……」
《
血が流し込まれて赤く灯り、アルケーはさらに指輪をかざす。
《
「変身」
《
直後、真っ赤な花吹雪が彼女を包んでその全身を満開の薔薇へと変え、そして散ると共に新たな王を生み出した。
《
吊り上がった赤い眼と、黒いアンダースーツの上に装着された豪奢な金色のアーマーに、トンボの四枚翅を思わせる深紅のマント。
ヴラディスが変身した際にも見られた薔薇や荊の意匠もそのままに、カブトガニとメガネウラの要素が散りばめられた、金色の丸い盾を構える女性的な姿の王が前に出た。
「頭が高いですよ、
《
ロイヤルマグナスと名乗った彼女が隣に並び立つと、ダイナストは剣を構えつつ尋ねる。
「やれそうか、アルケー」
「決して足を引っ張るつもりはありません」
良い答えだな、とダイナストが短く返した後、集った五人の王はもう一度腐敗王へと立ち向かう。
しかし、コルディセプスは全く余裕を崩さない。
『だから何だ。一人増えたところで、状況は何も変わっていない』
「それはどうでしょうね?」
不敵に笑うマグナスの傍ら、ダイナストはナイトメアローズの薔薇の装飾を回転させ、トリガーを弾いた。
《血華抜剣!! ナイトメアストラッシュ!!》
「オオオオオラァァァァァーッ!!」
『なっ……!?』
鮮血の如き烈光の斬撃が、眼前のバッタ怪人たちを纏めて両断する。
ただし間一髪のところで本体だけは後ろに跳躍し、無傷で切り抜けてしまう。
それでもコルディセプスは激しく動揺せざるを得なかった。
本来、王の証を扱えるのはマグナスのみのはず。王錫たるナイトメアローズも、他の者であれば必殺の一撃どころか、剣として使うことすらできないのだ。
『バカな!? なぜお前がその剣の力を扱える!?』
「王の証は所有者を選ぶ。王自身か、王の血を継ぐ者か……
『……まさか!?』
「私とお父様が彼を認めました。私と同じ、ナイトメアローズを振るうに値する王として!」
王の証が持つのは万能の力。コルディセプスの錆油でさえも貫き、本体を滅ぼし得る。
このまま使わせては負けてしまう。そう考えてコルディセプスは再び自身に錆油を集約し、巨大バッタの姿に戻った。
『ならば貴様ら纏めて、この私の力で消し去ってやる!!』
「そりゃ無理だな。こいつが来た時点で、
言いながらダイナストはナイトメアローズを掲げ、マグナスも共に指輪を天へと向ける。
すると、腰部にマウントされているヘラクレスビートルギミックアンバーが赤い輝きを帯び、王の証の力によって急速冷却され排熱状態が解けた。
『あっ!?』
「
《ヘラクレスビートル!!
ダイナストはそのまま直接ドライバーへそれをセットし、青炎の黒いヘラクレスの戦士となってキングヘラクレシューターとナイトメアローズを構え、五人で同時に突撃していく。
オーバー・ザー・ダイナストの創造と破壊の力もまた、コルディセプスの天敵。状況は一気に引っ繰り返った。
『く、だがこれがかわせるか!!』
コルディセプスは素早く上空へ飛翔し、さらに地上へ急速落下。
地響きの後に怒涛の勢いで錆油の大津波が湧き出し、青炎や鋼氷で身を守る間もなく五人のライダーを飲み込んだ。
これで全員死んだか。そう思ったのも束の間、油の中から無傷のダイナストたちが姿を現す。
『なっ……!?』
見れば、先頭には薔薇の紋章を宿すカブトガニを模した丸い盾を持つロイヤルマグナスがおり、これに王の証の力を通すことによって完全に攻撃を防いだようであった。
その驚愕の隙にレギウス・ラレーヌ・モナークがそれぞれ自分の持つギミックアンバーをダイナストに手渡し、キングヘラクレシューターへとそれらがひとつずつリードされる。
《ライノビートル!!》
《スタッグビートル!!》
《レディバード!!》
《ウルフスパイダー!!》
「俺たち五人の力で……ブッ倒してやる!!」
《フォーキングス、セットアップ!!》
四種の光が銃口に集まり、キングヘラクレシューターのトリガーを弾いた瞬間、大きな光の弾がコルディセプスへと打ち出された。
《スーパーギミックチャージ!! フォーキングス・ブラスト!!》
「ブチ抜けェェェェェー!!」
バッタは錆油を吐き飛ばし相殺を狙うものの、直撃の寸前で弾丸は四つに分裂。
それぞれエネルギー体の巨大なカブトムシ・クワガタ・テントウムシ・クモに転じ、破壊の青い炎を纏って四方向から挟み討つ。
『ぐ、バランスが!?』
「まだ行きますよ」
《
脚と翅を失い身動きが取りづらくなったところに、猛スピードで飛行するカブトガニの盾の上に乗って現れたのは、ロイヤルマグナスだ。
鋭利に尖った赤い爪で何度も大型バッタの身体を裂き、油を分解していく。
『このォッ!!』
反撃とばかりにバッタが前脚を振り下ろして叩きつけるが、そこにはマグナスの姿はなく、盾が残されているのみ。
彼女は既に、コルディセプスの頭上で、右脚を天に向ける形で逆さまに飛びながら必殺の態勢に移行していた。
《
「ヤアァァァッ!!」
《
狙いは背中の冬虫夏草。撃ち出された矢のように、ロイヤルマグナスのキックが飛んでいく。
中にいたコルディセプスは、たまらず外へ脱出しバッタの背から降りた。
直後に赤い閃光が巨大バッタの身体を貫き、その錆油の身体を液状に崩してしまう。
「見つけた、本体が出て来たぞ!」
「これ以上好き勝手はさせません!」
「捕らえてやる!」
逃げた先に立ち塞がるのは、レギウスとラレーヌとモナーク。
鋼の壁が冷気と共にコルディセプスを閉じ込め、頭上から放り込まれた宝石弾が閃光を放って視界を埋め尽くし、壁内で張り巡らされた蜘蛛の巣が動きを止める。
『く、こんなもの!?』
しかしバッタの怪人と化しているコルディセプスも錆油を全身から滴らせ、拘束から抜け出し、壁を溶かして脱出した。
その先に、ダイナストがいるとも知らずに。
『なっ……』
「後は任せな」
ダイナストはそう言って、ナイトメアローズの薔薇の装飾を手で何度も回転させ、トリガーを引き込む。
だがそこで指を離さず、さらに薔薇の回転を続け、赤く染まった刀身が黄金の輝きを帯びたところで引き金から指を外した。
《夜煌赫閃!! クリムゾンローズストリーム!!》
解き放たれる赤と金の光の嵐。
咄嗟に先程液化したバッタの錆油を操って分厚い膜を作り、防御するものの、刺突から守り切れず吹き飛ばされる。
派手に転げ回った末に身を起こせば、左右と背後には高く燃え上がる青い炎の壁。
眼前に立つのは、ナイトメアローズを持ち主に預けた大魔王だった。
『あ、あぁっ!?』
「これで終わりだ、コルディセプス」
《
キーを三度回し、ホーングリップを三度倒す。
最大の必殺技にて、迎え撃とうとしているのだ。
『図に乗るな……! 私はこの宇宙を滅ぼす、災厄そのものだ! お前たちのような矮小な存在に負けるハズがないんだァァァッ!』
コルディセプスはそう言いながら、残る力全てを振り絞って自身の錆油を肥大化させ、粘液を纏い無数のキノコを生やした巨大な人型の錆の塊と化す。
それを前にしてもなお、ダイナストは全く恐れない。
「この星にも地球にも、いやこの宇宙のどこにも!! テメェの逃げ場所なんざ与えねェッ!!」
《ヘラクレスビートル・ダイナスティリジェネレーション!!》
「消えてなくなれ、外道ォッ!!」
黒き大魔王が青炎の翅を扇いで跳躍し、背後に青い炎で構成されたヘラクレスオオカブトを生み出した後、共に突撃。
醜く膨れ上がった冬虫夏草の怪物に爆発的な威力の飛び蹴りが直撃し、青い炎の角がそれを収縮するような形で敵の肉体ごと挟み潰す。
瞬間、コルディセプスの全身に亀裂が走り、青い火の粉が断面から吹き上がって、それに触れた彼女自身や地面に草花を咲かせる。
『バカな……バ、カなァァァ……ッ!?』
苦しみ、あえぐ油の巨人。
ダイナストの力を極限まで高め放たれる、終着点の技。言うなればそれは、超小規模のビッグバウンス。
破壊と創造が体内で同時に行われ、全く別のモノに変質していく。危険な毒が薬になるように。世界を腐らせる錆と油を、戦で荒れた大地を潤す草木や花に変えるのだ。
《
油の巨人が割れて砕け、錆の胞子は青い炎によってこの星を癒やす花となり、風に乗って国中に拡がって行く。
――そして、世界に太陽が戻った。