『あり得ない、あり得ないィィィッ……こ、この、私が……!!』
肉体を肥大化させ立ち向かおうとしたコルディセプスは、ダイナストの必殺の一撃により敗れた。
しかし砕かれてなお滅亡の思念は僅かに地表に留まっており、元の大柄な裸体の女の姿を取って魔王軍を睨みつけている。
『まだ、まだだ……私は死んでいない! よく聞け! 少しでも肉体を維持できれば、僅かでも胞子が残れば、そこから錆油が生まれてもう一度この星に私の思念が根付く! かつてヴラディスが回収して研究材料にした時のように!』
「……」
『こっちを向けダイナスト! 胞子さえ撒くことができれば私は必ず生き残る! そして再び目覚めたら! 貴様らを、絶対に殺してやるからな!』
煽動し、攻撃を誘導するコルディセプス。まだ青い炎の力が完全に回り切っていない今なら、攻撃を受ければ僅かでも胞子を撒けるかも知れない。
加えてダイナストは再び排熱状態となっており、再度王の証で冷却されない限り消滅させられることはないのだ。
だが千種はそのまま変身を解除してしまい、ソーマとミナ、シモンもまた元の姿に戻った。
『何のつもりだ!?』
「戦いはもう終わりだ、
言いながら千種たちは背を向けて去っていく。
それと同時に、後ろから襲いかかろうとしたコルディセプスの身体が、針で縫われたように静止する。
『ぐがっ!? こ、これは……!?』
「安心なさい、胞子が残ることは二度とありませんよ」
背後から聞こえるのは、ロイヤルマグナスに変身したままのアルケーの声。
頭上には、赤い薔薇の紋章。そこから伸びる無数の血の糸が、コルディセプスを胞子ごと拘束しているのだ。
「お父様からの伝言です」
カシャンッ、カシャンッと一度ずつ、ちゃんとコルディセプスに聞こえるように薔薇の装飾を手で回す。
「『お前を生かしてこの星に持ち込んでしまったのは私の落ち度だ。今、私自身とここにいる娘が、王の判決を言い渡す』と」
『ヒィッ……!?』
《夜煌赫閃!! クリムゾンローズストリーム!!》
「死刑――執行」
一、二三四、五六七八九十。刃が、紅金に閃く。
断末魔の後に青い火燐が血飛沫のように舞い、薔薇の花を産むのを確かめると、アルケーは息をついて変身を解いた。
そして空を仰ぎ、目の端に涙を浮かべて指先で拭う。
「お父様。やっと終わりました……これからは私が、本当の意味でこの国を救うために生き抜いてみせます」
誓いを空に向けて告げ、千種にそっと背を撫でられたアルケーは、彼の胸の中に抱きついた。
いきなり抱擁されたことで、顔を赤くして戸惑う千種。そんな二人の頭上から、明るい光が差し込んで来る。
「これは!」
「キレイな光だ……」
「ようやくこの星に、太陽を取り戻せたのですね」
ソーマたちもそれに気づいて、各々声を上げた。
この国の外にも、きっとまだマキナイトは残っているだろう。太陽の復活を察知して、影に逃げ延びる者たちもいるはずだ。
それでも彼らはやり遂げた。人類にとって、大きな一歩となる戦いを。
「ブラムストークの夜明け、だな」
千種はそう呟いてフッと笑みを見せ、ソーマと共に頷き合った。
「さぁ、X-ROSSのみんなを呼ぼう。きっと、この国の人々が僕らを待っている」
※ ※ ※ ※ ※
――それから、二年後。
修復されたブラムストーク王国の教会にて、鐘の音が鳴り響く中、大勢の来客に見守られながら二人の男女が祭壇の前で指輪を交換し合う。
純白の礼服を纏うソーマと、同じく純白のドレスを着たミナ。今日は、二人の結婚式だ。
「それでは、誓いのキスを」
牧師として式を進行しているのは、サンジェルマンだった。
その言葉に従いソーマはミナの唇にそっと自らの口を重ね合わせて、祈祷の後に両者は証明書にサインを記す。
夫、ソーマ・ヘルシング・ストーク。妻、ヴィルヘルミナ・ヘルシング・ストーク。
今回の婚姻に際して、ソーマはヘルシングという自身の一族本来の名に改め、その上でストーク王家の婿として王位を継いだ。
王家の国章には、中央の盾に大きくクワガタが描かれ、その左右を
「二人の婚姻はこれで成立となりました。では皆様、新郎新婦に大きな拍手を」
サンジェルマンの促す声の後に、割れんばかりの拍手と喝采が教会に響き渡った。
「結婚おめでとー!」
「お幸せにー!」
参列者は王国の人間だけではなく、中には地球から来た紬ら才賀一家や浅黄の姿もある。
「この日を迎えられて、心から嬉しく思う! これまで共に戦い抜いた国民の皆に感謝する!」
「まだ国の復興は完璧ではありませんが、この一瞬がみんなの心に勇気を与えられることを願っています!」
フラワーシャワーが舞う中、手を繋いだソーマとミナが告げ、再び拍手が鳴り響く。
「聞こえているか、ジュスト……お前の子孫がこの国の王となったんだ……お前たちの代わりに今日という日に立ち会うことができて、本当に良かった……!」
その様子を傍で見守っているシモンはそんな呟きを残しながら、フッと笑みを零した。
こうして無事に挙式を終えて、牧師の役も終えたサンジェルマンは、そのまま中庭で行われる披露宴にも参加するため移動を始める。
その最中に千種を見つけ、彼の背中に向かって声をかけた。
「やぁ」
「おう、お疲れさん」
千種の隣に並びつつ、サンジェルマンは話し始める。
「今後、ソーマくんは国王としてミナくんと一緒にブラムストーク王国の再興、シモンは王国騎士団長としてこの国を守るために戦うそうだよ。刈人がここを諦めたとは限らないしね」
「アンタはこれからどうするんだ?」
「私かい? しばらくは王家の相談役としてこの国に残るよ、また旅に出るかも知れないが。君の方こそ、どうする?」
手を振りながら出てくるソーマらを見つめながら、千種に問い返す。
「望み通りに地球との行き来は可能になったが、この国で何かしたいことでも?」
「ん~……やりてぇ事はあるんだけど、ソーマたちほど大した話じゃねェんだよな」
「聞かせてくれよ」
一瞬呼吸を置いた後に、千種は少しずつ自分の考えを述べ始めた。
「俺、地球の方で親父の店を継ぐ気なんだ。でもそれだけじゃなくて、もっともっと赤心軒の名と味を広めてぇ」
「ふむ……それで?」
「でも味を広めるには、俺の腕はまだまだ半人前だからよ。地球にいる間は料理の勉強をして、この星を駆け巡る味修行の旅に出ることにした」
せっかくデミトリも使えるようになったしな、と千種は付け足す。
国々を巡る味修行。
一国を統治することに比べれば、確かに大したことではないのかも知れない。
しかし千種自身の目は真剣そのものであり、彼にとって重大なことなのは明らかだ。
「地上に太陽が戻っても、ブラムストークの外はまだまだマキナイトの脅威やら戦いの爪痕やらが残ってるはずだ。俺はその残党どもの始末と国の復興を手伝って、疲れ切った住民に腹一杯メシを食わせる。舌を満足させる」
「そうなれば国民の活気も戻るはず、ということか」
「それに……ヴラディスは、何もかも間違ってたワケじゃなかった。コルディセプスのせいで起きた例の飢饉も、最初から刈人に仕組まれたことだったし、アイツはただ自分の大切な人たちを死なせたくなかっただけなんだよな」
「千種くん……」
「この星を狙ったのを許すつもりはねェ。ただ、クドラクにされたせいで殺し合うしか選択肢がなかったってのは……やりきれねぇよ」
ヴラディスたちが道を誤った一番の原因は、刈人によって引き起こされた毒胞子による食糧難。
そのせいで彼らは人を食らう怪物に変わってしまい、この星にマキナイトが生み出されてしまった。
千種の本当の願いは、そんな何も食べられなくなってしまった人々や、怪人にされたせいで人間を食べなければならなくなってしまった人々の魂を救うことなのかも知れない。
今この星に生きる人々の飢餓をなくすことが、きっと過去の被害者たちの魂に対する『供養』になる。そう信じているのだろうと、サンジェルマンは感じていた。
「他国に勝手に踏み入り、当人たちの力を借りずに問題を解決して異星由来の料理を食べさせる……フフ、こう言い換えると君は立派に魔王かも知れないね?」
満足気にそう言いながら、サンジェルマンは一枚のタロットカードを手渡す。
「これは?」
「『
「お守り……」
「君の
サンジェルマンの激励に笑みを返し、千種は「ありがとよ」と言ってカードを懐にしまう。
と、そんな折。
背後から、パーティドレス姿のシルキィと瑠璃羽が、千種の腕に絡みつきながら話しかけて来る。
「ところでチグサ~?」
「私たちもそろそろ結婚できる年齢ですよね、先輩?」
「決まったかい、
シルキィも瑠璃羽も頬を紅潮させ、意地悪な笑みを浮かべながら千種の目を覗き込む。
対する千種は、言葉を詰まらせて困った様子で顔を真っ赤にしていた。
結婚したいのは事実だが、彼女らは争っているのではなく、単に大好きな彼をからかっているだけである。
しかし、そんな会話に割り込む者が現れた。
「二人とも、待って下さい」
今はデミトリの管理を任されているアルケーだ。
呪いが解けて二年、12歳相応の成長を果たした彼女は、ワインレッドのドレスを纏って千種の手を握る。
「私もチグサ
『えっ?』
会場に集まった一同は、彼女からの突然の告白を耳にして、目を丸くした。
千種は頭を押さえ混乱しながらも、事情を問い質し始める。
「え、えっと? 待て、えっ? は? マジで何言ってる?」
「まぁ、お忘れですか? 二年前、お父様との決着をつけた時に確かに言ったじゃないですか!」
頭の中の二年前の記憶を必死に掘り返し、心当たりになるものを思い出す。
そして、ハッと目を剥いた。
確かに言っていたのだ。彼女の身を案じるヴラディスに対して『俺が守る』と。
本人にその気はなかったとはいえ、聞き方によっては紛れもなくこれはプロポーズだろう。
「私もこの時をずっと待っていたんです。とはいえ、既にお付き合いのあるお二人より後のことなので後回しになってしまうのも仕方ないかも知れませんが……」
「待て待て待てぇー!? お、俺そういう意味で言ったつもりは――」
「ちなみにあの時
「あンの野郎!! 最後の最後にとんでもねぇ時限爆弾仕掛けやがって!?」
既に逝ったヴラディスに恨みを吐き、直後にシルキィと瑠璃羽が先程までと違った雰囲気で詰め寄って来る。
「チ~グ~サ~!? どういうことなんだいこれは!? ワタシに黙って、しかもこんな小さな子と!!」
「相手がアルケーさんなら、私は許しても良いですけど……事前に相談くらいはして欲しかったです!」
「うふふふふ、チグサ様との結婚生活が楽しみ♡」
三人の美女に迫られて、千種は額からダラダラと汗を流す。
サンジェルマンはそんな彼の様子を眺め、爆笑していた。
「ハハハッ! 英雄色を好むと言うが、君はとんでもない女難の相が出てるなぁ! これはもう生涯続く呪いかも知れないね!」
「うるせぇーッ!! 勝手に占ってんじゃねぇーッ!!」
頬や耳などを引っ張られながら、千種は「なんでこうなるんだよぉ!?」とひとり慟哭。
そこへ助け舟を出すように、ブーケを持ったミナが声を上げた。
「あの~……そろそろブーケトスの時間なんですけど……」
シルキィたちはそれを聞いて、名案を思いついたとばかりにポンと手を叩く。
「そうだ! あのブーケを取った方がチグサと最初に結婚するってことにしよう!」
「なるほど……これなら対等な勝負になりますね!」
「そういうことなら負けません。私が第一夫人になります」
それを聞くと他の参列者たちが面白い余興だとばかりに道を開け、シルキィ・瑠璃羽・アルケーの三人が先頭に立つ。
さらにその三人の隣に、紬も加わった。
「紬?」
「……あたしだってお兄と結婚したいし!!」
「紬ィ!?」
先程のアルケー以上の爆弾発言が飛び出し、目玉が飛び出すのではないかと言うほどに千種が目を見開き、女性陣はさらにヒートアップ。
そして今、ブーケが放られるという、その瞬間。
遠くから大きな爆発音と、慌てた様子の住民が飛び込んで来た。
「た、大変だ! 生き残ったマキナイトが攻めて来た!」
「太陽光を遮る霧を生み出す機械を作ったらしい!」
ソーマとミナが顔を見合わせ、シモンが頷く。
だが、その三人を千種が手で制し、ユニットのない新造されたダイナスティドライバーを装着する。
「王様たちは休んでな。こういうのはこれから、俺の仕事だ」
《
「変身!」
《
愛機のダイナストームに跨り、頭上を飛ぶデミトリと共に大地を突き進む、赤いカブトの戦士。
《
「道を開けろ
《
仮面ライダーダイナスト。地球に住みながら、マキナイトや刈人から異星を守る大魔王。
後に、彼の偉業を称え、自らの住むこの星に民は名を付けた。
――惑星ダイナスト、と。
ここまでのご愛読、ありがとうございます。
仮面ライダーダイナストはこれで完結致しました。
思ったよりも筆の進みが遅くなってしまったために二年経過してしまいましたが、読者の皆様の応援のお陰もあり無事に終わらせることができました。
改めてもう一度、本当にありがとうございました!
「さぁ、ハジケようか」
次回作、仮面ライダー
2026年本格連載予定、プロローグを先行公開中!