仮面ライダーダイナスト   作:正気山脈

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「あ、アレは一体……なんだ!?」

 本土から空久里アクアシティに向かう貨物船、その操舵室にて。
 人工島を双眼鏡で視認できる位置まで到達した船員たちは、しかし激しく動揺していた。
 船の周囲には霧なのか蒸気なのか判然としないものが立ち込めているため、一時的に動きを緩めている。そして周囲の状況を確認するため、船員たちは双眼鏡などを駆使して様子を伺っているのだ。

「どうした!? 何が見える!?」

 彼らの見た異常をまだ認識できていない船長が、当惑しながら問いかける。
 すると、双眼鏡を持つ船員は、青ざめた顔で彼の方を振り返った。

「見た事もない、船……アレは……蒸気船、なのか? 何でできているんだ……?」
「蒸気船!? 何を言っているんだ、正確な情報を頼む!!」
「し、しかし現にアレは……うわっ!? す、水面下に何かいます! なんだ!? あの形は……タガメ!? 巨大な虫のような……!?」
「バカな! 海にタガメが出るワケないだろう!? 貸せ!!」

 言うなり、船長は双眼鏡を引ったくって自身も窓の外を覗き見る。
 そこに広がっている光景は、彼が想像だにしないものだった。
 水上に浮かぶ島へと直進するいくつもの蒸気船に、水中に見える無数の虫の影。真昼のはずだと言うのに空は赤い満月が浮かび、人に似た形をした無数の虫が飛び交っている。

「なんだ、これは……本当にここは、我々の知る空久里なのか!?」

 恐怖に心を縛られかける船員たち。
 瞬間、船の窓に黒い何かが張り付き、亀裂が走る。
 翅を生やしたアリ、それが大きな人型となったかのような怪人だ。手には大きなフォークのような槍を持ち、船内の者たちを品定めするように見つめていた。
 たちまち船員たちは悲鳴を上げ、万事休すかと目を閉ざす。
 だがどれほど待っても何事も起こる事なく、瞼に差し込む光に気づいて目を開けると、そこに虫の怪物の姿はなくなっている。
 周囲の風景も元通りとなっており、満月も蒸気船もタガメも夢だったかのように消失していた。

「船長……自分たちは一体何を見たんでしょう? 集団幻覚? それにしてはリアルだった……一体この街に何が起こっているんですか?」

 窓についた傷やヒビを眺めていた船長は、その言葉を聞いて深い溜め息を吐き出す。

「彼らに伝えるべきかも知れないな……」
「彼らとは?」
「こういう不可思議な現象に対処する専門家だ。聞いた事くらいあるだろう」

 彼の言わんとする事を察して、船員の男はハッと目を見張った。

魔祓(まばらい)課……!」


GEAR.05[邪甲騎士]

 ブラムストーク王国に戻った後、ビネガロン・マキナイトとウィーヴィル・マキナイトを討ち取ったダイナスト。

 しかしそれも束の間、彼の前に休む暇もなくシモンと名乗る新たな脅威が立ちはだかる。

 そのシモンが持っていたのは、シルキィも知らない謎のギミックアンバーであった。

 

「邪甲騎士ルーガルー……!?」

 

 BOAを持たないシモンが、剣のような形状のチェーンソーを用いて変身した、その蜘蛛と人狼を掛け合わせたような騎士の姿。

 凄まじい威圧感の漂うその風貌を前にして、千種はただ息を飲む。

 

「貴様に恨みはないが……ダイナスト、と言ったか。狩らせて貰うぞ」

 

 そんな言葉をルーガルーが発すると、千種は歯を軋ませつつギミックアンバーとダイナスティドライバーを再び取り出す。

 

「ざけんな、こんなところで死んでたまるかよ!」

SET(セット)! ライノビートル! SHOWTIME(ショウタイム)!》

「変身!」

ECLOSION(エクロージョン)! HEAT & MASSIVE(ヒート・アンド・マッシブ)! ライノアーマメント! GROOVY(グルーヴィ)!》

「仮面ライダーダイナスト、行くぜ!」

 

 言いながら、変身したダイナストはダイナシューターのトリガーを引いて銃弾を放つ。

 

「フン……」

 

 しかしルーガルーは全く動じる事なく、頭を僅かに傾ける最小限の動きで回避すると、前へと疾走してすぐに刃の届く距離まで詰める。

 

「ヌゥン!」

「ぐ!?」

 

 そしてチェーンソーが横に振り被られ、その刃によって胸の装甲に大きく傷が走った。

 ライノアーマメントは硬い装甲が特徴なので深手を負ったワケではないのだが、それでもこれまでにない事態なのは間違いない。

 今までの相手とは、あまりにも格が違いすぎる。

 そう認識して、ダイナストは威嚇の発砲で距離を稼いだ後、すぐさま踵を返して走り出す。

 

「逃げるのか!」

「ああ逃げるだろそりゃ、当たり前だろ! てめぇには用があるのかも知れねーけど、別にこっちはお前の相手するために来たんじゃねぇんだからな!」

「その判断力には感心するが、容易く逃げられると思っているのか!」

 

 言いながら大きくチェーンソーを振り上げるルーガルー。

 瞬間、ダイナストは空に向かって叫ぶ。

 

「ダイナストォォォーム!!」

「ヌ!?」

 

 すると、待機していたダイナストームが自動で動き出し、攻撃に動こうとしていたルーガルーを壁面へ撥ね飛ばした。

 

「ぅぐおっ!?」

「そんじゃ失礼」

 

 ダイナストームはそのまま魔王の前まで車輪を動かし、ダイナストは素速くサドルに跨り走り出す。

 さらに装甲車の方にいるシルキィと瑠璃羽へ、声を抑えて通信を試みる。

 

「こいつは俺が引きつけておく。お前らは中を突っ切って先の街を目指して、レジスタンスの手がかりを探してくれ」

『大丈夫なのかい!?』

「心配すんな、後で合流するさ。この狼野郎を振り切っ……」

 

 言いながら振り向くと、ルーガルーはその重厚なチェーンソーを腰に帯びたまま、バイクに劣らない凄まじい速度で追い縋っていた。

 

「は!?」

『ウルフスパイダー……コモリグモって、とっても身軽で素速いんです』

「だぁからぁ! そういうことは先に言えってぇぇぇ!」

 

 悲鳴のように叫び声を上げつつ、建造物の隙間を縫うようにして走りつつ、バイクをさらに加速させるダイナスト。

 これなら完璧に振り切れたはずだ、と思い再度確認するが、ルーガルーは既に上空から迫っていた。

 そして、理解する。彼がどうやってダイナストームを相手にここまで間合いを詰めて来たのかを。

 かの邪甲騎士の手首には、粘着性・伸縮性の高い糸の射出口があるのだ。それを伸ばして周囲の構造物に付着させ、縮む勢いを利用し、元々高い運動能力を合わせて超常的な加速力を発揮しているのだ。

 

「クソが! こいつでどうだ!」

《ギミックチャージ! ファイアフライ!》

 

 焦燥しながらも、ダイナストはロクに見もせずに背後に銃口を向けてトリガーを引く。

 跳び回るルーガルーを、追尾弾が自動で撃ち抜かんとする。だがそこで、ルーガルーも動いた。

 ウルフスパイダーをファングレイザーから抜き取り、新たなギミックアンバーを装填したのだ。

 

《ギミックジャック! ソーヤービートル!》

「ヌン!」

 

 さらにトリガーを引くと、ルーガルーの左腕側の発射口の先端にカミキリムシの歯に似た形状の二叉の刃が装着され、ファングレイザーとその武器を駆使して追尾弾を全て打ち落とした。

 

「マジかよ……!?」

 

 無傷で凌がれるとは想定していなかったダイナストだが、同時にこの状況をチャンスとも捉えていた。

 左腕があの武装で塞がっている今なら、右腕だけであればスピードが落ちるはず。そう判断し、ダイナストームの速度を上げる。

 しかし。

 

「逃げられると思うな! ソーヤースティンガー!」

 

 ルーガルーはその刃の武装を腕から射出し、ダイナストの進路上にある石像にそれが突き刺さる。

 刃は噴射口の糸で繋がれているため、糸を巻き取る事で、先程と同じように高速移動が可能なのだ。

 よって、ダイナストはその無防備な背中へと、チェーンソーの一太刀を浴びる事になった。

 

「ぐあっ!? や、野郎……!」

 

 このままではルーガルーを振り切って逃げる事などできはしない。

 そう感じたダイナストは、本格的な反撃に転ずるべく、ダイナシューターのギアを何度も回転させる。

 そして敵が先程と同じように大きく加速した刹那、引き金を弾いた。

 

BREAK OUT(ブレイクアウト)!》

「今だ!!」

《ファイアフライ・ダイナスティキャノン! GROOVY(グルーヴィ)!》

 

 再び無数の光弾が放たれ、半数がダイナストの周囲を漂い、残りは空中のルーガルーを取り囲んでいく。

 全力跳躍のまま接近している以上、命中の避けられない一撃。万一この追尾弾の檻を抜け切ったとしても、勢いのままに飛びかかって来るルーガルーは、ダイナストの回りに配置された光弾に直撃する事になるのだ。

 

「無駄だ!」

 

 だがルーガルーはそんな思惑を打ち消すように叫ぶと、ギミックアンバーのキーをひねり、そのままファングレイザーのトリガーを三度指で引く。

 

NO FUTURE(ノー・フューチャー)!》

「ヌゥン!!」

《ソーヤービートル・ファングバースト!》

 

 すると、糸で繋がれた左腕の刃が飛び出してうねるように動き回り、光弾を斬り裂いて消滅させる。

 さらにそれだけでは終わらず、ダイナストを守る光の球も全て破壊してしまった。

 

SCARY(スケアリー)!》

「なっ……!」

 

 そして今度は、前に回り込んで来たルーガルーのチェーンソーの刃が襲いかかる。

 しかしダイナストもただ斬られるだけでは終わらず、左腕で斬撃を受け止めた後、素速く引き金を弾いて人狼の騎士の胴に弾丸を撃ち込んだ。

 

「グ!?」

 

 不意を打たれ、地面を転がるルーガルー。とはいえ、路上を疾走する魔王は相手がすぐに立ち上がってくるだろうと予想していた。

 

「となりゃ、もう手はひとつしかねぇ!」

 

 腕の痛みに耐えながらそう言って、バイクに跨るダイナストが走る方向。

 その先から聞こえる汽笛の音を耳にして、ルーガルーはハッと息を呑んだ。

 

「なっ……まさか貴様!?」

 

 邪甲騎士が追跡し、魔王が向かう先にあるもの。

 それは、シルキィから立ち入らないよう言われていた駅だった。

 周囲にはマキナイトと見られる者たちがおり、隙間を縫うように走り抜けるダイナストに大混乱している。

 

「ヘヘッ、ここには来て欲しくなかったろ? お前の攻撃やら糸やらが、回りの罪深い貴族様に当たっちまうかも知れねぇからなァーッ!」

 

 貴族と接触するか否かというギリギリのラインを疾走し、背後の騎士を挑発するように高笑いを上げるダイナスト。

 迂闊に手を出す事もできないようで、腕の武装を解除したルーガルーはやや遠回りするように糸を建築物へと飛んで移動し、憤慨する。

 

「ふざけるな貴様!」

「ほーら、せいぜい()()()()()()()()気を付けな!!」

 

 ダイナストームで階段を登り、駅内部を抜けて次に向かったのは、機関車の方だ。

 既にポリドリから発車し始めており、そこに目をつけて素速くバイクごと屋根の上に飛び乗る。

 

《ライフルモード!》

「ヘヘッ」

 

 そしてやや遅れて来たルーガルーも、屋根に向かって糸を伸ばそうとした。

 瞬間、ダイナストはトリガーを引いて追尾弾で糸を焼き切る。

 

「何!?」

「てめぇの機動力には、ダイナストームですら到底敵わないってのは良ーく分かった。今の俺じゃ真っ向勝負を挑んでも負けるだけだろうよ。だから最初に言った通り……」

 

 何度腕から糸を射出しようとも、ファイアフライの光弾が直前に撃ち抜いてしまう。

 流石に糸の力を借りる事ができなければ機関車に追いつく事はできない。両者の距離は、どんどん離れていく。

 

「逃げる。全力で」

 

 ダイナストームに跨ったままルーガルーに照準を定め、ダイナストは狙撃の姿勢を崩さない。

 するとルーガルーはファングレイザーをホルダーに装填し直し、両腕を大きく広げる。

 

「させるか、決して逃さんぞ……!」

 

 そう言うと、腕の発射口から蜘蛛の糸を伸ばし、近くの左右に配置された街灯に接着。

 さらにそのまま勢い良くバック走を始め、どんどん糸を伸張させていく。

 弓の弦を引き絞る要領で糸を張り、銃撃が来る前に大きく跳躍しようとしているのだ。

 だがダイナストはその行動を見て、仮面の中でフッと小さく笑みを見せる。

 

「おーっとそりゃ悪手だぜ!」

「なに!?」

「ほらよ!」

 

 ライフルモードのダイナシューターから光弾が発射され、左腕側の街灯に繋いだ糸が切れた。

 張った糸が突然失われたために体勢を崩すルーガルー。しかし再び糸を放出すれば良いだけだろうと思い、その場で踏ん張る。

 彼がダイナストの言葉の真意を理解したのは、その直後だった。

 銃で自身の狙うダイナストに注視していたために、ルーガルーは気付かなかったのだ。ポリドリから離れる機関車とは反対方向の、()()()()()()()()()()()()()()()()()()に。

 

「ハッ!?」

 

 気づいた頃には遅く、ルーガルーの糸は機関車にピッタリと付着。

 邪甲騎士はそのまま引っ張られ、ポリドリへと逆戻りする事となった。

 

「じゃあな黒騎士さんよぉ! もう二度と会わない事を祈ってるからなぁ!」

 

 すれ違う形で通り過ぎて行った機関車を眺めながら、ダイナストは安堵した様子で手を振った。

 

「しっかしこの機関車……よく見りゃとんでもねぇデザインだな」

 

 足元で走るその車両を見下ろし、ダイナストが呟く。先程までは逃げるのに必死で気づいていなかったが、その外観は千種のいる地球とは全く異なるデザインなのだ。

 赤黒い車体で車輪を覆うようにして鋭く尖った棘のようなものが両側から伸び、上下に蠢いている他、先頭と最後尾にはそれぞれ二本の大きなアンテナらしきものが迫り出している。

 これはまるで――。

 

「バカデカいムカデ……?」

 

 それに気付いたのも束の間、突如シルキィから通信が入った。

 

『助手くん、ルーガルーは撒いたかい?』

「ああ。お前ら今どこだ? こっちは機関車の上に乗って逃げてる途中なんだけど」

『……はぁ!? 駅に行ったのかい!?』

「え? お、おう。なんかムカデみてーな機関車があって」

『もおおお、何やってるんだよ! 助手くんのバカ! すぐに離れるんだ、逃げて逃げて!』

「な、なんだよ? そんなにマズいのか?」

『良いから一刻も早く! すぐにそれから降りてこっちと合流して!』

 

 ワケが分からないまま、ダイナストはその言葉に従いバイクに乗ったまま跳躍し、その機能によって蒸気の噴射を利用して地上に向かって降下していく。

 機関車から金属を擦り合わせたような不愉快な鳴き声が聞こえたのは、着地した直後の事だった。

 

 

 

 一方。

 機関車に引かれたルーガルーは、ファングレイザーを抜いて糸を斬る事もできずに何度も地面へ身体を叩きつけられた挙げ句、結局ポリドリまで戻って来てしまっていた。

 その後なんとか糸を外して変身を解いたシモンは、眉を歪めて深い息を吐き、地面にチェーンソーを突き立てる。

 身体に負った傷は大したものではない。ただ狩るべき獲物を逃してしまったという事実が、その心を強く燃やしていた。

 

「驚いたな。手強い相手なのは分かっていたが、まさか君をこんなにも手こずらせるとは」

「愛煙卿……」

 

 背後から声がかかったのは、そんな時だ。

 いつの間にか近づいていた愛煙卿は、薄く微笑みながらタロットカードの束をシャッフルしている。

 

「すまん。反対側にいたレジスタンスは殲滅したが、こっちの任務は失敗だ」

「そのようだね。しかしまぁ、とりあえずはこれで構わない。レジスタンスの方はデッドアントが連行しているし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()からね」

 

 ここで敗れるようならそれまでだったが、と付け加え、カードを混ぜる手を止めた。

 

「ともかくこれで、黒の貴族は彼らを無視する事はできなくなった。衆目にその存在が触れ、マキナイトが倒された事も知れ渡ってしまう……こうなった以上、誠に遺憾ながら! 黒の貴族上層部の会議の場で、ダイナストの事を話さざるを得ない!」

 

 至極愉快そうに笑顔を見せた愛煙卿に対し、シモンは呼吸を整えた後、問いかける。

 

「お前の目的はなんだ? 今回は何を企んでいる?」

「それは……」

 

 山札を引くために指をかけ、その質問に答えようとした瞬間。

 突如として強い向かい風が吹いた事によって、そのカードがひらりと地面に落ちてしまう。それも、横向きで。

 裏返ったそのアルカナは『運命の輪』。しかしこれでは、正位置だったのか逆位置だったのかが分からない。

 

「面白い事、だよ」

 

 正か逆か。幸か不幸か。

 カード占いでも予測できない未来を堪能するかのように、愛煙卿は己の唇を舌で舐める。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

「まったくもう助手くんは! 本当に人の話をちゃんと聞いていないんだから!」

「しょうがねぇだろ、アレしか手はなかったんだからよ」

「言い訳をしない! 下手をすれば死ぬかも知れなかったのはキミが一番良く分かってるだろ!」

「うぐ」

 

 邪甲騎士の魔の手から辛くも逃げ延びた後。

 シルキィの運転する装甲車に乗り込んだ千種は、頬を膨らませる彼女から早速叱られていた。

 そんな彼へ助け船を出すように、瑠璃羽がある問いを投げる。

 

「そ、その……そんなに大きかったんですか? そのムカデは?」

「機関車そのまんまのサイズだからな……アレがギチギチ鳴き始めた時はマジで喰い殺されるかと思った。何だよアレ、生きてんの?」

 

 すると、シルキィは「先に話しておくべきだったかな」と呟いた後、運転を続けながら話し始めた。

 

「以前も言ったように、鉄道は黒の貴族が管理しているんだ。そしてその中の最高権力者は、城や館のような特定の住居を持たない代わりに、線路そのものを自身の領地として駅から駅へ機関車で移動し続けている。しかも、そいつはキミが今までに戦ったマキナイトを遥かに超える強敵だ」

「は!? じゃあ、運が悪けりゃそいつが乗ってたかも知れねぇのか!?」

「ああ。そもそもあの機関車も、巨大なマキナイトのようなものだ。キミ自身で言った通り、もし気付かれていたら喰い殺されただろうね」

「……マジでもっと速くに言っといてくれ、それ」

 

 危うく本当に命を落とすところだった。その事実を今になって思い知り、千種は頭を抱えて溜め息をこぼす。

 

「良い機会だから、敵について知ってる事をもう少し話しておこう。ラクール王家の配下である黒の貴族、その階級(カースト)は6つに区分される。下から男爵・子爵・伯爵・侯爵・公爵・大公で、基本的に階級が高いほど強力なマキナイトになると思われる。ただ大公は過去の大戦で死亡して以来、誰かが就任したという話を全く聞かない。だから実質的には5つの階級になってる、はずだ」

「さっき言ってた強敵はどこの階級なんだ?」

「伯爵だよ」

「真ん中か……じゃあそこまで手が届かない距離ってワケでもないんだな」

 

 千種はそう言うが、シルキィは眉を下げて頭を振る。

 

「確かに階級だけ見ればそうなんだけど、例外もある。貴族の中でも大きな功績を挙げた者は二つ名を与えられ、階級に見合わない特別な力を有すると聞く。そして彼女もその一人……」

 

 物語を語って聞かせるように、シルキィは言葉を紡いだ。

 

「かつて王都でレジスタンスによる大規模な暴動が起きた際、それを鎮めたのはまだ無名の、たった四人の騎士だったという。その功績を讃えられ、全員に伯爵の階級が与えられた。彼らは『四傑伯(しけつはく)』と呼ばれ、個々に『青髯卿』『鉄道卿』『斬首卿』『乱刺卿』の二つ名を与えられて今も恐れられている」

「じゃあ、その鉄道卿というのが……」

「そうだよ。鉄道卿ポーダ・ギースレーリン、先程から言っている鉄道の管理者さ」

 

 瑠璃羽からの質問に答え、シルキィは神妙な面持ちで先の道を睨む。

 訪れる沈黙。それを破ったのは千種だった。

 

「けど、どの道いつかは戦わなきゃいけない相手なんだろ? 駅や路線を解放した方が人間側にとっても便利だ」

「それは、そうだけど」

「だったらそんな話で気弱になんかなってらんねぇ。そん時が来たら、絶対俺が倒してやるさ」

「……頼もしいね、ワタシの魔王」

 

 シルキィが笑みをこぼし、瑠璃羽も力強く頷く。

 そしてひとまずレジスタンスとの合流を果たすべく、次の街へと装甲車で向かう。

 しかし、その時。

 突如として車体に何かがぶつかったように大きな衝撃が走り、急停止せざるを得なくなった。

 

「なんだ!?」

 

 驚き、車の外に出る一行。

 そこにいたのは、サーベルで武装した青いコートを羽織る集団。

 先頭に立っているのは、コートの袖部分が破れてノースリーブ状態になっている、筋骨隆々の大男であった。

 装甲車が受けた衝撃はこの男の仕業のようで、車の近くには砕けた岩石が転がっている。この男が投石したのだ。

 しかし、全員マキナイトの特徴であるBOAを有してはいないようであった。

 

「止まれ! そして脳味噌地面にブチ撒かれたくないなら黙って付いて来い!」

「てめぇ何者だ!」

 

 千種が尋ねると、その巨漢は自らの筋肉を誇示するかのように両腕を掲げるポージングを取る。

 

「俺様たちはX-ROSS(クロス)! 泣く子も黙るレジスタンスよぉ!」

 

 レジスタンス。自分たちが協力を得ようとしていた相手。

 それを知った千種も瑠璃羽も、彼らが人間を襲撃したという事実に、ただただ困惑するばかりであった。

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