突如として現れ、襲いかかって来た謎の騎士ルーガルー。
今の状況では彼を倒せないと見た仮面ライダーダイナストは、ルーガルーの執拗な追跡を振り切って見事逃げ切る事に成功する。
だが、逃げた先で千種と瑠璃羽とシルキィの一行の前に立ち塞がったのは、同じ人間であるはずのレジスタンス集団、
「お前ら余所者だな、この星とは別の場所から来たんだろ!?」
「異星人め、何を企んでやがる!」
「ブッ殺す!」
口々に罵詈雑言を浴びせかけて来る、自称レジスタンスたち。
瑠璃羽は怯えて千種のとシルキィの後ろに隠れ、その二人は目の前に集まった面々の言葉に眉をしかめていた。
「大した歓迎ぶりだなオイ」
「やはり協力を求めようと考えたのは間違いだったようだ」
溜め息と共に頭を抱えるシルキィ。
すると、代表格らしい屈強な巨漢が片眉を釣り上げる。
「あぁ? 誰かと思えば、お前もしかしてあのバベッジのガキかぁ? ヘッ、10年も会ってない間に随分イイ女になったモンだなぁ?」
「悪いけどワタシはお前に見覚えがないね。名乗られても覚える気はないが」
「ククッ! よく見りゃあそっちの女も、なかなか良い身体してるじゃねぇか……」
値踏みするようにじっくりと二人の全身を眺め、レジスタンスの男らは舌舐めずりをする。
そして筋肉質の大男は、下品な笑みを浮かべながら提案を投げかけた。
「どうだ? お前らが大人しく俺らについて来るなら、助けてやっても良いぜぇ? あ、男はダメだけどな! ギャハハハ――」
直後、風を切る音が響いたかと思うと、掌大の石の塊が貫かんばかりの勢いで彼の股間に直撃する。
「んぐっ!?」
「グダグダうるせぇんだよオッサン」
それが飛んで来た方向にいたのは、千種だった。
あまりにも品がない数々の発言に我慢ができなくなり、近くにあった石を拾って全力で投げつけたのだ。
「お、おご……おぉぉぉ……」
大男は豪速球を受けた股間を押さえ、苦しんだ様子で仰向けに転がり、白目を剥いて意識を失った。
その姿を見て取り巻きの男たちは動揺しつつも、近くにいた者たちは介抱に向かい、離れていた者たちは千種の方へとズカズカ歩いていく。
「あ、兄貴ぃ!?」
「このガキ! 痛い目に遭って貰うぞ!」
レジスタンスの一人がサーベルの剣先を突きつける。
しかし千種は臆する事なくその腕を素速く掴み、捻り上げて剣を手から落とさせた。
「うぎゃ!?」
「ナメてんじゃねぇぞタコどもが! 痛い目に遭うのはてめぇらの方だ!」
言いながら掌底を顔面に食らわせ、さらに襲いかかってくる者たちも同じように薙ぎ倒していく。
あまりにも呆気なく戦闘不能になるので、勝っている千種の方が拍子抜けしていた。
「口ほどにもねぇってのはこの事だな。お前ら本当に本物のレジスタンスか? ただの山賊にしか見えねぇぞ」
千種の拳法を前にして、為すすべなく一人残らず打ちのめされるX-ROSSの面々。
そんな折、地面に並ぶレジスタンスの軍団をかき分けるようにして、霧の向こうから一人の男が姿を現した。
薄い褐色の肌に、一つに束ねられて背中に垂らしたコバルトブルーの長い髪と、深い紫色の瞳。背に青い十字架が刺繍されたコートを羽織り、頭にはリベットで装飾されたゴーグル付きの海賊帽を被っている。
「総員下がれ、今すぐ彼らから離れろ。攻撃は許さない」
青髪の男が言い放つと、千種に掴みかかろうとしていたはずの荒くれ者たちは縮み上がってそれに従い、股間を石で強打した男も助け起こして大人しく様子を見守った。
「すまない、部下が失礼した」
「誰だ? アンタは」
まだ警戒を解かない千種に問われ、男は帽子を取って一礼しつつ、名乗る。
「ソーマ・フェニックス、今はX-ROSSのリーダーの代理をしている。僕に争う意思はない。君も矛を収めてくれると嬉しいんだが」
青髪の男、ソーマはそう言って再び帽子を被り直す。
他のレジスタンスたちと違ってあまりにも落ち着いた物腰なために、千種も瑠璃羽も面食らっていた。
しかしそれはそれとしてどうしても気になることがあるので、千種は尋ねる。
「……海賊かなんかにしか見えねぇんだけど?」
「レジスタンスだ」
「いや、でもその帽子とか明らかにさぁ」
「レジスタンスだ」
頑なに言い張るので千種は訝しむが、そこへシルキィがソーマに声をかけた。
「はぁ、やっと知ってる顔に会えたよ。久し振りだねソーマ」
「バベッジ……生きていたんだな。無事で何よりだ」
そう言ってシルキィは、疑惑を晴らすべく千種たちへと振り返る。
「安心して良いよ二人とも、彼はワタシの昔の友人で、間違いなくレジスタンスの一員だからね」
「じゃあこの格好は?」
「彼の先祖は海軍の提督だったらしいんだよ。まぁともかくソーマ、今の拠点に案内してくれ」
そうして千種・瑠璃羽・シルキィは元々乗っていた装甲車に、ソーマは大勢の部下と共に大型の装甲車へと乗り込むと、通信機を起動してソーマも交えながら会話を始める。
まずシルキィと千種たちが出会った頃の事を、ソーマへ。
ダイナストについての事情を聞いて、彼は「ほう」と感嘆の声を漏らした。
『少し前にあのレンフィールド男爵が死んだという噂は耳にしていたが、君の仕業だったんだな』
「ワタシひとりの活躍じゃあないさ。ここにいる助手くんが変身してくれたお陰だよ」
『そうか。サイカくん、だったか。お陰でこの辺りの黒の貴族の戦力は着実に削られている、久々に良い報告を聞く事ができて良かった。ありがとう』
ソーマからの感謝を受け、千種はむず痒そうに短く「おう」と返答する。
続いて今度は瑠璃羽が挙手し、恐る恐ると質問を始めた。
「お、お二人はどういう関係なんですか?」
『幼馴染といったところかな。お互いの両親が友人同士で、かつレジスタンスだった。バベッジ一族は本当に腕の良い蒸機技師で、僕らは何度も助けられた』
「まぁ……もう、いないんだけどね。あんな事があったせいで」
運転する手は止めず、遠くを見るような目でシルキィが言う。
沈黙がその場に訪れる中、車は山の中へと入っていく。
しばらくすると、ソーマが彼女の話に補足を入れた。
『僕らX-ROSSの中には蒸機技師そのものを酷く嫌う者もいる。BOAが生まれたのは技師がいるからだ、なんてとんでもない言いがかりをつけてね』
「そのせいでワタシも父も母もレジスタンスを追い出されて、貴族に二人とも命を奪われ、結局生き残ったのはワタシだけ。だから二度と彼らに頼らず生きていこうと思った」
『当時は父さんや僕らが必死にバベッジさんたちをかばっていたんだが、芽吹いた反感を完璧に取り除く事ができなかった。挙げ句ファーブル博士まで貴族の毒牙に……すまなかった……』
「キミたちが悪くないのは知ってるよ」
互いの心傷を知ってか、通信機越しに励まし合う二人。
千種もソーマの苦心を知って信用しかけていたが、どうしても気になる事があって、また質問を投げる。
「っつーことは、さっき突っかかってきたオッサンはその反発してたレジスタンスってワケか」
『ああ、その通りだ。彼はスピエルドルフと言って、父が存命の頃、牢屋を襲撃した時に黒の貴族に捕まっていた者の一人なんだが……どうやら元々粗暴な男のようでね。自分は貴族に媚びながら人間相手に強盗まがいの行動を繰り返し、挙げ句に投獄されたそうだ』
「なんだってそんなヤツを仲間にしてんだよ」
『こっちも人手が足りないんだよ、とにもかくにも。今は貴族に反発しているから、ちゃんと働いてくれていると思っていたんだが』
認識が甘かったようだ、と付け加え、ソーマが嘆息した。
どうやら彼も苦労しているようだと思いつつ、ある事を思い出してそれについても尋ねる。
「そういやリーダー代理だって言ってたよな、本来のリーダーは誰なんだ?」
『ああ、それについては……そろそろ目的地が見えて来たから、そこで話そう。あの穴蔵の中だ』
窓の先に見えるるのは、人の手で補強・舗装された大きな洞窟だ。
駐車するため、彼らはひとまず脇道にある真鍮のシャッターで守られた車庫の入口へと案内された。
それを終えると、警備の者たちに挨拶した後、全員ソーマに連れられてX-ROSSのアジトの内部に通される。
地下に向かって歩き、辿り着いた場所に広がる光景は、千種と瑠璃羽にとって想像もしないものだった。
丸くドーム状にくり抜かれたアジトには、いくつもの住居や施設が建って老若男女を問わず様々な人間が暮らしており、ドームの中心には巨大な船を逆さに引っ繰り返して屋根として作ったような建造物がある。
あれがX-ROSSの本部なのだというのは、言われずともすぐに分かった。
「す、すごい大きな洞窟ですよね……どうやって掘ったんですか?」
「掘ったと言うよりは、元々あったものを使って少しずつ僕らが住めるようにアジトに変えたんだよ」
「ということは、本来は炭鉱か何かだったんでしょうか……?」
「さぁね。いつ何のために作ったのか、誰が使っていたのかなんて話に興味はない。過去の歴史より、今を生きるのに必死な身だから」
言いながら一行は中心にある本部へと向かって行き、そして屋内に入る。
玄関口からすぐに大広間に出ると、ソーマは大きな円卓の前に立って、千種たちへ一礼した。
「改めて……X-ROSSへようこそ。遠慮なく座ってくれ」
促されるまま千種らは椅子に向かおうとするが、その寸前。
チャキッという音と共に、先ほどの男、スピエルドルフが蒸気銃を手に現れ、ソーマに向けて銃口を突きつけた。
「スピエルドルフ。何の真似だ」
「けっ! どうもこうもあるか、ソーマ! 前々からてめぇらフェニックス姉弟は気に入らなかったんだ! たかが海軍提督の末裔如きがボス面しやがって! こんな時代じゃそんな肩書き、クソの役にも立ちやしねぇだろうがよ!」
「ボス面をしているつもりはないよ。X-ROSSのリーダーは僕や姉さんでもなければ、ましてや君如きにさえ務まらない」
「うるせぇ! お前もバベッジも、この異星人どもも! みんな今すぐ頭フッ飛ばしてやる!」
言いながらスピエルドルフは、トリガーを指で引いた。
弾丸が飛び出し、ソーマへと猛スピードで直進。
しかし、それが直撃する事はなく、彼の背後の床のタイルに
「……は?」
一体何が起こったのか、発砲したスピエルドルフにもその場にいた瑠璃羽やシルキィにも分からない。
ソーマの様子を窺っていた千種だけが、辛うじて状況を理解できた。
先程まで手ぶらだったソーマの右手には、いつの間にか
尤も、千種にさえその剣を抜いた一瞬を視認する事はできなかったのだが。
「く、くそ!」
それでも諦めずトリガーを引こうとしたところへ、千種が腕に蹴りを入れて妨げた。
体勢を崩して倒れるスピエルドルフ、そして立ち上がろうとする前に、ソーマがもう片方の手にもカトラスを握って切っ先を顔の前に突きつける。
「げ!?」
「本当に失望したよ。武器を置いて出て行け、君にレジスタンスを名乗る資格はない。彼に与する者も同様だ」
「野郎ォ!」
「まだ法に背き続けるのならばこの場で処刑する」
カトラスの刃がジリッと近づき、さらに騒ぎを聞いた他のレジスタンスたちも銃を持って駆けつけた。
これには流石に命の危険を感じ取ったようで、スピエルドルフは大慌てでその場を去っていき、暴動を起こさないよう見張るために出口までソーマの部下たちが追跡する。
その様子を見送って、ソーマは深い息をついた後、千種たちに向き直った。
「重ね重ね失礼。姉さんがいればこんな事にはならなかったんだが……先程も言った通り、X-ROSSは人材不足で。そればかりか今の僕らは本来いるべきリーダーを欠いているんだ、だからまとまりがない状態なのさ。スピエルドルフの味方をしていたのも、彼が最近勧誘した元山賊の連中ばかりだ」
「誰なんだ? そのリーダーって」
「……彼女は我々にとっては叛逆の旗印となる人物であり、黒の貴族からすれば確実に抹殺すべき人間」
言いながら椅子に座ると、彼は神妙な面持ちでその名を告げる。
「ヴィルヘルミナ・ストーク。旧き王家、真王エイブラハム・ストークの血を継ぐ『
思わずシルキィは息を呑み、ストーク王家について多少の事情を聞いていた二人も驚きの声を発した。
「それは事実なのか!? 本当に、ストーク王家の血筋の生き残りがいると!?」
「間違いない。かつて彼女が持っていた首飾りに、ストーク王家の紋章が刻印されているのを見た。彼女自身も認めている」
「すごいじゃないか! 機を見て報せれば、全てを諦めた奉仕市民も未だ燻っている他のレジスタンスも一斉蜂起するはずだ! 最高の切り札になるぞ!」
「だが今は大きな問題に直面している。半年ほど前から、その姫君が音信不通になってしまったんだ」
先程とは別の理由で一同が絶句するが、それでもソーマは構わずに話を続ける。
「今は姉さんやX-ROSSの他のメンバーが捜索も兼ねて各都市の奴隷解放に動いているが、まだ見つかっていない。住民たちに姫君の実在が伝わっていないのは不幸中の幸いだが」
「い、一大事じゃないかキミ!? なに冷静に話してるんだよ!?」
「こういう時こそ落ち着いて対処しなければならないんだよ……さて、そういうワケで姫君を探して見つけ出すのが当面の大きな目標のひとつだが、その前に君たちには他にいくらかやって貰いたい事がある」
極めて冷静にそう言いながら、ソーマは円卓上に地図を広げると、指で示しながら三人へ説明する。
「僕らにとっての最大の敵であるラクール王家を倒すためには、王都周辺にいる貴族どもを倒して領土を奪還し、市民を解放する必要がある。君たちにはそれを手伝って欲しい、手始めにアジトに近い場所にいる男爵や子爵を相手にするのが良いだろう」
「まぁ、それが俺向けの仕事だろうな。でもあんたはともかく、他の連中はちゃんと協力してくれるのか?」
「確かに、稀に現れる異邦人や蒸機技師に対し偏見の目を向ける者は組織の中でも少なくない。主に貴族共のせいだが。しかし、僕はその評価を覆せると思っている。君たち自身の力でね」
「要するに自分で信頼を勝ち取れってか? まぁ、黒の貴族の相手をするより気は楽だけどよ」
肩をすくめながら千種が言い、そのまま苦笑するソーマへ質問を投げた。
「っていうか、さっき『異邦人が現れる』って言ったよな? もしかして俺ら以外にちょくちょく迷い込んでたのか?」
「ああ。なるべく見つけ次第保護して送り返している、ただ僕らが見つけられなかった者もいるかも知れないし、そういう者たちに関してはどうなったのか分からない。すまないね」
「そうか。いや、十分だよ」
ひとまずは無事な者がいるという事なので、千種たちは安堵する。
そして改めてソーマに感謝の言葉を述べ、握手を交わした。
「話は分かった。俺たちに任せてくれ、身を守るためでもあるしな」
「ただ、そろそろ帰らせて頂けると……もう向こうは遅い時間になると思いますし、色々あって疲れているので……」
「あ、ワタシも今日は助手くんのお家にお邪魔させて貰うからね」
「なんでだよ! ……まぁ良いけど」
三人の話す様子を微笑みながら見守り、ソーマは「分かった」と頷く。
「気を付けて帰ってくれ。それからバベッジ。実はこの近くに、蒸機技師用の研究区画を用意してあるんだ。次来た時はそこを利用して構わない」
「おや、それは本当にありがたい。助かるよ」
そう言った後、一行はパスを繋いで蒸気の門を抜け、地球へと戻って行った。
ソーマはそれを見送ると、再び椅子に座って指を組む。
「彼らとX-ROSSの力、そして姉さんが帰還して
組んだ手を強く握り込み、ソーマは眼光鋭く天を睨んだ。
「必ず成し遂げてみせる……人類の明日のために……!」
※ ※ ※ ※ ※
その後。
「ふぅ~! いやぁ、やっぱりお風呂は良いねぇ!」
「ねー!」
千種とシルキィは地球へと戻ると、そのままひとまず才賀家に向かった。
長く気を張る戦いが続いていたのもあって大きく疲労しており、シルキィはすぐに家主の武生と巴に断って風呂場に直行。
それを聞いた紬も一緒に入浴したいと言い出し、彼女らは現在身体を洗い合っている。
さらに、もう一人。
「ご、ごめんね紬ちゃん、急にお邪魔しちゃって……」
瑠璃羽も寮に戻らず才賀家の浴室にいた。
実は地球に戻った直後、貂から『水道の故障で浴場が使えなくなった』という連絡があったため、やむを得ず彼女も才賀家の風呂場を借りる事になったのだ。
「いーのいーの、賑やかな方がこっちも楽しいもん! それにちょっとお話もしたかったし~」
にひひと笑いながら、紬は瑠璃羽の肢体に泡だらけの手を滑り込ませた。
「ひゃあ!?」
「んんー、やっぱルリリンのお胸はすごいねぇ! 私も将来このくらいのナイスバディになりたいな~」
「ちょ、ちょっと紬ちゃん……!」
「あ、でも先っぽちょっと隠れてる。かわいい~」
「言わないでぇ!? そ、それに!! スタイルならシルキィさんの方がお腹もスッキリしててキレイだよぉ!!」
身体をまさぐられて慌てふためく瑠璃羽は、咄嗟の判断でその標的をシルキィへと移す。
言われたシルキィの方は、得意げに笑いながら泡にまみれた自分のボディを紬と瑠璃羽へ見せつけた。
「まぁそれは当然だね! ワタシはハイパーサイエンティストであり、完璧な美貌の持ち主なのだから!」
「う~ん、確かに! シルちゃんお肌もスベスベだー!」
「んあ、ちょっ!? く、くすぐったいなぁ妹くん!?」
「良いじゃん女の子同士なんだしぃ。わ、お尻おっきくて形もキレイだね」
「わぁぁぁ!? す、ストップストップ!」
流石に触られると恥ずかしいようで、シルキィも顔を真っ赤にして自分の体を両腕で抱き込むように覆う。
そんなこんなで姦しく騒ぎながらも体を洗って入浴を終えた三人は、バスタオルで身体を拭きつつ着替えを始める。
その途中、洗面所でパジャマに着替えながら、紬がふと口を開いた。
「でさー、二人に聞きたいんだけど。お兄のことどう思ってるの? 恋愛的な意味で好きだったり?」
「え?」
「へぇっ!?」
彼女の質問に瑠璃羽がきょとんと首を傾げ、シルキィは目に見えて動揺する。
紬はニヤリと唇を釣り上げると、まずはシルキィの方に詰め寄った。
「あれあれ? どうしちゃったのシルちゃんってば~?」
「え、あ、いやいやいや! ワタシが助手くんに惚れるなんて、違う……違うよ!? え、えっと……そう! 逆なんだよ! 助手くんの方がワタシに惚れてるんだよ!」
「へぇ~? ホントかなぁ~?」
「ホントホント! いやぁ参っちゃうなぁ! モテるハイパーサイエンティストは困っちゃうな~、うん!」
焦りと照れを隠すように大声で笑いながら、シルキィは無理矢理そう締めくくる。
するとまたもや紬は、標的を瑠璃羽に変更した。
「ルリリンはなんとも思ってないの?」
「わ、私は……別に、恋愛に興味はないというか……先輩の事は良い人だと思ってるけど、それだけだよ」
「ん~、そっかぁ」
「それに私なんかに恋愛は向いてないし、そんなの縁がないし……人とそんな風に深く接するのも、ちょっと怖い……そもそも、先輩だって別に私の事をそういう風には思ってないとだろう、し……」
「いやぁ~それは違うよ? っていうか、少なくともお兄はルリリンのこと絶対えっちな目で見てるよ」
「えぇっ!?」
本人がいないのをいい事に強く断定する紬と、それに便乗してうんうんと頷くシルキィ。
容姿に関してだけでなく何かと褒められ慣れていない瑠璃羽はそれだけで戸惑い、顔を赤くして俯いてしまう。
「自信持ちなよぉ、ルリリンは可愛いんだからさ!」
「そうだね。博士くんはワタシから見ても十分魅力的な少女だ」
「か、からかわないで下さいよ、もう……」
三人はそのままガールズトークに花を咲かせ、洗面所から出て行った。
一方。
千種は、自室のベッドに横たわって頬をほのかに紅潮させて悶えていた。
「クソ……あいつら、何話してんのか知んねぇけど声デケェんだよ……」
シルキィも瑠璃羽も、千種にしてみれば眼を見張るような美女。意識をしないわけがない。
リビングの方から聞こえる瑠璃羽とシルキィが楽しそうに話す声を耳にして、ますます落ち着かなくなっていく。
悶々とした気分が全く晴れないまま、瑠璃羽が寮に戻る時間になったので、千種は見送りのために共に外へ出るのであった。
※ ※ ※ ※ ※
その数日後、ブラムストーク王国のとある街にて。
黒騎士シモンが変異した邪甲騎士ルーガルーが、周囲にデッドアントの屍を築き上げ、一人のダニの姿のマキナイトの鼻先にファングレイザーを突きつけていた。
「ひ……や、やめてくれ……ゆるし、許して……」
必死に頭を下げ、縋り付く。しかしルーガルーはそれを一切許さず、頭を蹴り飛ばす。
「お前はプレラーティ子爵の屋敷に無断で侵入し、薬品を窃盗した。黒の貴族の規律を破り、ラクール王の名に泥を塗った。その罪は万死に値する」
「それは私の子供たちのために必要だったんだ、しかしいくら頼み込んでも子爵は譲ってくれなかった! こうするしかなかったんだ! 頼む! 助けてくれよぉ!」
「俺が何と呼ばれているか、知らんワケではあるまい」
それが、シモンに与えられた役割なのだ。
説得は無駄と判断し、ダニのマキナイトは跳躍して逃れようとするが――。
「無駄だ」
ルーガルーはそれより高く跳び、キーをひねって三度トリガーを引く。
《
「ヌゥン!!」
《ウルフスパイダー・ファングザッパー!》
チェーンソーの刃が回り、ダニの頭部に直撃。
そのまま、一刀両断して爆散せしめた。
「一切の例外なく……俺は罪を断つ」
《
「誰にも邪魔はさせん」
緩やかな着地と同時に地面にダニの機甲虫が落ち、それが砕けて消滅。
任務を完了して短く息をつき、元の姿に戻るシモン。
ふと空に浮かぶ満月を見上げると、その月に奇妙な形の影が差すのを目の当たりにする。
「ハッ!?」
上に向かって伸びる二本の角を生やし、屋根から屋根へと跳躍する者。
シモンは咄嗟にその正体を追おうとするものの、その二本角の影の動きは素速く、既に姿は見えなくなってしまっていた。
一体今のは何者だったのか。マキナイトの可能性が高いのだが、色々な貴族を見てきたシモンでもその姿に見覚えがないのだ。
得も言えぬ薄気味悪さを感じつつも、シモンはその場を後にするしかなかった。