ザクロの華   作:理乃碧王

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ep1:果実狩り

「ぼん、エラくしごかれたもんですな。酷いケガじゃ」

「かわいがりじゃ、かわいがりじゃ、力王の悪い癖じゃて」

 

 

 しごき(訓練)を終えたザクロは、果樹の室の医務室で治療を受けていた。

 治療を施すのは双子の老婆、金と銀の柑橘系マスクを被っている。

 

力王(脳筋)は容赦がないからのう、小竹さんや」

「血の繋がりは薄くとも同じサンキストなのにのう、小梅さんや」

 

 金のオーレンジな覆面を付けるはマスク・ド・サンキスト“小梅”。

 銀のオーレンジな覆面を付けるはマスク・ド・サンキスト“小竹”。

 カポエラと日本古武術の合わせ技(ミックスジュース)な老練のサンキスト一族の姉妹、この果樹の室の重鎮である。

 

 

「「キ"ィ"ィ"ィ"ス"キ"ス"キ"ス"サ"ン"キ"ス"ト"」」

 

 熟れた(ふた)つの声が不気味に響く。

 口では心配した素振りを見せるも、痛めしごかれたザクロを見て喜んでいるかのようだ。

 

「さてさて、治療でもするかのう」

 

 小梅はそう述べると医療室の棚からツボを取り出した。

 中には橙色の軟膏が見える。

 これは、この双子の老婆が考案し作り出した特性軟膏。

 原材料は陳皮、金柑、柚子、すだち、その他薬草や漢方が練り込まれている。

 怪しくも見えるが効果は抜群、あらゆる打撲、傷を治す。

 

「ほうれ、ぼんや塗りますぞえ」

 

 小竹は軟膏をヘラにつけ、それをザクロの背中に塗った。

 

「…………ッ!」

 

 ザクロの背中に激痛が走った。

 双子の老婆は優しく語りかける。

 

「ほんにザクロのように弾けた背中に染みますじゃろうな」

「耐えなされ、耐えなされ、鉄は熱いうちに打て。若いうちに鍛えなされ」

 

 そして、双子の老婆は声を合わせる。

 

「「ぼん、いつか力王に感謝する時が来るじゃろうて」」

「「受けた仕打ちが貯金となり、礎を作り」」

「「その貯金と礎を元手に、新たなる大神の家を作るのじゃ」」

 

 小梅も小竹もこのザクロという若者に期待していた。

 それはこのザクロが大神家の跡取り候補の一人だからだ。

 

 ここで大神家を簡単に紹介しよう。

 大神家とは長年日本の裏の歴史を支え続けた闇の一族。

 元々は甲賀忍者だった大神破幻を始祖とし、戦国時代から暗躍。

 要人暗殺など様々な裏の仕事を請け負ってきた。

 このザクロは、その大神一族の一人。

 

 父は大神家の当主、大神右兵衛。

 母はサンキスト一族の何某(なにがし)、つまりは不明。

 何故、不明かというとこの大神右兵衛、いや大神家代々の当主は正式な妻を持たない。

 

 数多の妾を囲み、子を産ませる。

 多くの子の中から大神家当主を決めるのが、長年続いた闇の習わしだからだ。

 ザクロの母も、彼を産むとすぐにいなくなった。

 右兵衛からの金だけが目的で生んだにしか過ぎないのだ。

 乾いた関係で愛も情もないが、それはザクロだけではない。

 大神家の子達の母は同じようなもの、各々に関係は希薄であった。

 

「ザクロや、今は辛抱するのじゃ」

「あの力王に師事すれば、おんしは必ずや強くなれる」

 

 小梅、小竹はこのザクロに期待していた。

 サンキスト一族の血が流れるザクロが大神家の当主になれば、それはサンキスト一族にとっても喜ばしいもの。

 故に大神の血の方が濃いザクロを、この果樹の室へと入らせた。

 

 しかし、それが気に食わないものもいる。特に力王がそうであった。

 例え重鎮である小梅、小竹の紹介があったとしても、この親の七光り、大神家の血が濃い異物を果樹の室に入れたのが気に入らなかった。

 従って、力王の憂さ晴らしだけでなく、このザクロが気に入らないから厳しく当たり、指導するのだ。

 それでも、小梅と小竹は力王がザクロを強くすると確信していた。

 

「「ぼんや、我慢ぞ、辛抱ぞ」」

 

 双子の老果実はそう述べる。

 ザクロは黙って頷いた。

 それはザクロにとって、この小梅と小竹が母のような存在。

 信頼に足る人物なのだ。

 

〇〇〇

 

「殺せ!」

「血の雨を降らせろ!」

「悲鳴を聞かせて!」

 

 場所は変わり、ここは東京六本木の地下に設けられた格闘場(リング)

 ここでは、深夜の0時から始まる闇の格闘試合『拳魂一滴(けんこんいってき)』が開催されている。

 主催は指定暴力団川口組、それ故にこのイベントは非合法的なものであるとわかる。

 

 ルールは簡単だ。

 武器以外を用いて、相手の死、もしくは再起不能によって勝敗が決する。

 出場選手にはオッズがあり、それぞれに好きな金額を掛けて試合をさせる。

 所謂、闇の賭博。

 試合を観戦する観客はヤクザや半グレの者達が多いが、中には芸能人やスポーツ選手、政治家の顔があった。

 日本の闇を象徴するような光景がそこにあった。

 

「それでは今宵の試合を――第1ゲームを始めさせていただきます!」

 

 試合をするは道化師の格好をした男。

 名前はカフカ、珍妙な名前と服装であるが、この拳魂一滴の司会を務める。

 

「赤コーナー! 元総合格闘技のライト級! 八木英明!」

 

 リングの赤コーナーには髪を金髪に染め、背中には龍の刺繍を入れた男がいる。

 八木英明、日本の総合格闘技大会『未来戦士』の元ライト級チャンピオン。

 総合格闘技の本場、アメリカでも活躍した男であるが、度々ジムやプロモーター、女関係でトラブルを起こす問題児。

 ついには暴力事件を起こし、表の格闘技界から追放された曰く付きの男である。

 

「青コーナー! サンキスト流プロレス殺法! マスク・ド・サンキスト“力王”!」

 

 対する青コーナーはマスク・ド・サンキスト“力王”である。

 黒いスパッツとリングシューズを履き、鬱金色をした柑橘系マスクを被る。

 リングを照らす光が、額の『力』に当たり怪しく輝いていた。

 

「おい、ザクロ」

 

 ザクロは力王のセコンドとしている。

 小梅、小竹に頼みにより、この試合をセコンドとして観戦することになったのだ。

 

「俺の〝果実狩り〟を見せるのは特別だからな」

 

 力王は憎々しくザクロを睨みつける。

 いかにあの老婆達の頼みといえど、ザクロに自分の試合を見せるのが嫌だった。

 それは力王がスポーツマンではなく、生を賭して戦う格闘者だからだ。

 

 真の格闘者は自分の技や戦法を知られたくもの。

 見られるということは技を盗まれ、対抗策を練られるのと同意。

 それは格闘者――力王にとって死と同じだった。

 

「なるべく手の内は隠して戦うぜ」

 

 力王がそう述べると。

 

 カン!

 

 リングの音が鳴った。

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