「女を見るのは初めてかしら」
ザクロをマジマジと見つめる女、まほろ。
その黒く妖艶な左目の瞳、艶やかな亜麻色の髪はまるで妖姫のようであった。
東洋が日本における絡新婦のように――。
西洋がユダヤにおけるリリスのように――。
「ぼん、力王からの金をまほろに渡せ」
「抱け、抱け、好きなだけ抱いて『お楽しみ』をするのじゃ」
囃し立てる小梅、小竹の二人。
熟れた二つの
「ごくっ……」
ザクロの喉が、かすかに鳴った。
男を知らぬ目ではない。
けれど、それがまほろを見てなお、戸惑うように息を呑むのは――。
その美が、毒であると本能が告げているからだ。
「ヒヒヒッ……! ぼんはまだまだチェリーボーイ、たくましいオーレンジになれぬのう」
「男は心も、あそこも一皮剝けなければ一人前のサンキストになれぬぞよ」
戸惑い続けるザクロに双子は怒涛の言葉を投げつける。
「そんな顔して……まほろに呑まれたくて仕方ないんじゃろ?」
「腰が引けてるぞ、ぼんや。まほろは、甘くて、苦いぞえ……?」
「ザクロの種はまだ青い。でも、それも今宵で終わりかのう……♪」
「怖いか? 怖いなら、やめてもええんじゃよ?」
「舐めて、啜って、むさぼって……それが男の仕事じゃろうがぁ!」
「喰らうのじゃ! 強くなりたくば喰らうのじゃ!」
一方、まほろは――。
「あなたが来ないなら……私があなたを食べてあげるわ」
その台詞を述べると、フッと消えた。
さながら蜃気楼のように、一流のマジシャンが行う奇術のように消えたのだ。
「……ッ!?」
気づくと、ザクロは押し倒されていた。
所謂、マウントポジション。
絶体絶命の体勢であるが、
「うっ!」
ザクロは動けなかった。
自分より、体重も軽い華奢な体のまほろ。
それがどうだ、ザクロがいくらあがいても、あがいても動けないでいる。
まるで『蜘蛛に捕らわれた虫』のようであった――。
「――いただきます」
まほろはザクロに深い口づけを行った。
マスク越しではあるも甘く、とろけるような口づけであった。
ザクロはその口づけにとろけ、自分が何をされたかわからぬ放心状態である。
「ぼんや、これで男になりまするな」
「ゆうべはお楽しみでしたね――という朝を迎えますな小梅さんや」
「そうじゃのう、そうじゃのう、お楽しみじゃ、お楽しみじゃ」
二つの熟れたオーレンジはケタケタと笑いだす。
「「キ"ィ"ィ"ィ"ス"キ"ス"キ"ス"サ"ン"キ"ス"ト"」」
その笑い声だけを残し、小梅、小竹の両名は姿を消した。
残されたザクロは、まほろの妖艶な姿に見とれ眺めていた。
「さあ、これからお楽しみと行きたいけど――私とやる前にあなたがどれほどのものか試させてもらうわ」
まほろはザクロの耳元で囁いた。
「お互いに繋がる前に……じゃあ、まずは『抑え込み』から」
言葉の刹那、ザクロの右手が逆手に取られ、背中を捻られた。
「ぐっ……!?」
無理な角度に極められた関節が軋み、呻きが漏れる。
「肩関節、甘く見てるとすぐ外れるわ。男の力任せじゃ、私には勝てない」
まほろは続けて、太ももでザクロの首を挟み、ぎゅうっと締め上げた。
「これが『三角締め』。あら……血の気が引いてきたわね。可愛い」
ザクロは口をパクパクさせる。
甘く官能的な空気が一転し、まほろの所作はあくまで冷徹な技のレクチャーだった。
ザクロは思った「一体どういうことだと」。
そんな疑問、不可解な展開に戸惑うも、まほろの技が続けざまに繰り出される。
「じゃ、次は『急所』。睾丸って、拳で打つより――こう、指先でえぐるのが効くのよ」
「痛ッ!?」
ほんの軽く触れただけのように見えて、ザクロの体が跳ねる。
「今のはほんのさわり。弱いままなら、ここで使い物にならなくなっても文句はないわよね?」
その表情は妖しく微笑みながらも、どこか殺意を孕んでいる。
「ねえ、ザクロ……あなた“女を喰らう”前に“女に喰われる”覚悟はできてる?」
――まほろの体は艶めきと同時に、殺意と戦術を帯びていた。
それはまさに『絡新婦』そのもの。
快楽と死の狭間で、男を試す魔性の女。
ザクロの汗が額から伝い落ちる。
それが興奮か、恐怖か、自分でももうわからなかった。
このまほろは何者なのだ。
小梅、小竹は何故この女を差し向けたのか――娼婦ではなかったのか。
「弱い者は強い者に喰われる」
まほろの指先が喉元に添えられた。
甘い声が、耳の奥に囁き落ちる。
「――私の体を、ただの快楽の器だと思ったなら――それは甘いわ」
彼女の手が動くたび、ザクロの神経が震える。
それは撫でるでもなく、殴るでもない。
技と官能の境界にある『試練』だった。
押さえ込み、絞め技、急所攻め。
だがそれらはどれも――生きるための術。
「本当の『お楽しみ』って、どちらか一方が『強い』と成立しないのよ」
まほろの目が細められる。
「あなたが『男』として立つのか、それとも『獲物』で終わるのか……」
その瞬間、まほろは指先でザクロの胸元をなぞる――だが、その動きは突如として変化した。
伸ばされたのはザクロの衣服。
脱がすのではなく、剥ぐようにはだけられた――。
「あなたはただ一方的に喰われるだけの弱者――喰われたくなければ、強くなりなさい。今日から毎晩、私が教えてあげる」
まほろはザクロと一方的に繋がる。
まるで蜘蛛がエサを貪るように――。