ザクロの華   作:理乃碧王

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ep4:新芽

「女を見るのは初めてかしら」

 

 ザクロをマジマジと見つめる女、まほろ。

 その黒く妖艶な左目の瞳、艶やかな亜麻色の髪はまるで妖姫のようであった。

 東洋が日本における絡新婦のように――。

 西洋がユダヤにおけるリリスのように――。

 

「ぼん、力王からの金をまほろに渡せ」

「抱け、抱け、好きなだけ抱いて『お楽しみ』をするのじゃ」

 

 囃し立てる小梅、小竹の二人。

 熟れた二つの果実(オーレンジ)はザクロにまほろをだけという。

 

「ごくっ……」

 

 ザクロの喉が、かすかに鳴った。

 男を知らぬ目ではない。

 けれど、それがまほろを見てなお、戸惑うように息を呑むのは――。

 その美が、毒であると本能が告げているからだ。

 

「ヒヒヒッ……! ぼんはまだまだチェリーボーイ、たくましいオーレンジになれぬのう」

「男は心も、あそこも一皮剝けなければ一人前のサンキストになれぬぞよ」

 

 戸惑い続けるザクロに双子は怒涛の言葉を投げつける。

 

「そんな顔して……まほろに呑まれたくて仕方ないんじゃろ?」

「腰が引けてるぞ、ぼんや。まほろは、甘くて、苦いぞえ……?」

「ザクロの種はまだ青い。でも、それも今宵で終わりかのう……♪」

「怖いか? 怖いなら、やめてもええんじゃよ?」

「舐めて、啜って、むさぼって……それが男の仕事じゃろうがぁ!」

「喰らうのじゃ! 強くなりたくば喰らうのじゃ!」

 

 一方、まほろは――。

 

「あなたが来ないなら……私があなたを食べてあげるわ」

 

 その台詞を述べると、フッと消えた。

 さながら蜃気楼のように、一流のマジシャンが行う奇術のように消えたのだ。

 

「……ッ!?」

 

 気づくと、ザクロは押し倒されていた。

 所謂、マウントポジション。

 絶体絶命の体勢であるが、

 

「うっ!」

 

 ザクロは動けなかった。

 自分より、体重も軽い華奢な体のまほろ。

 それがどうだ、ザクロがいくらあがいても、あがいても動けないでいる。

 まるで『蜘蛛に捕らわれた虫』のようであった――。

 

「――いただきます」

 

 まほろはザクロに深い口づけを行った。

 マスク越しではあるも甘く、とろけるような口づけであった。

 ザクロはその口づけにとろけ、自分が何をされたかわからぬ放心状態である。

 

「ぼんや、これで男になりまするな」

「ゆうべはお楽しみでしたね――という朝を迎えますな小梅さんや」

「そうじゃのう、そうじゃのう、お楽しみじゃ、お楽しみじゃ」

 

 二つの熟れたオーレンジはケタケタと笑いだす。

 

「「キ"ィ"ィ"ィ"ス"キ"ス"キ"ス"サ"ン"キ"ス"ト"」」

 

 その笑い声だけを残し、小梅、小竹の両名は姿を消した。

 残されたザクロは、まほろの妖艶な姿に見とれ眺めていた。

 

「さあ、これからお楽しみと行きたいけど――私とやる前にあなたがどれほどのものか試させてもらうわ」

 

  まほろはザクロの耳元で囁いた。

 

「お互いに繋がる前に……じゃあ、まずは『抑え込み』から」

 

 言葉の刹那、ザクロの右手が逆手に取られ、背中を捻られた。

 

「ぐっ……!?」

 

 無理な角度に極められた関節が軋み、呻きが漏れる。

 

「肩関節、甘く見てるとすぐ外れるわ。男の力任せじゃ、私には勝てない」

 

 まほろは続けて、太ももでザクロの首を挟み、ぎゅうっと締め上げた。

 

「これが『三角締め』。あら……血の気が引いてきたわね。可愛い」

 

 ザクロは口をパクパクさせる。

 甘く官能的な空気が一転し、まほろの所作はあくまで冷徹な技のレクチャーだった。

 ザクロは思った「一体どういうことだと」。

 そんな疑問、不可解な展開に戸惑うも、まほろの技が続けざまに繰り出される。

 

「じゃ、次は『急所』。睾丸って、拳で打つより――こう、指先でえぐるのが効くのよ」

「痛ッ!?」

 

 ほんの軽く触れただけのように見えて、ザクロの体が跳ねる。

 

「今のはほんのさわり。弱いままなら、ここで使い物にならなくなっても文句はないわよね?」

 

 その表情は妖しく微笑みながらも、どこか殺意を孕んでいる。

 

「ねえ、ザクロ……あなた“女を喰らう”前に“女に喰われる”覚悟はできてる?」

 

 ――まほろの体は艶めきと同時に、殺意と戦術を帯びていた。

 それはまさに『絡新婦』そのもの。

 快楽と死の狭間で、男を試す魔性の女。

 

 ザクロの汗が額から伝い落ちる。

 それが興奮か、恐怖か、自分でももうわからなかった。

 このまほろは何者なのだ。

 小梅、小竹は何故この女を差し向けたのか――娼婦ではなかったのか。

 

「弱い者は強い者に喰われる」

 

 まほろの指先が喉元に添えられた。

 甘い声が、耳の奥に囁き落ちる。

 

「――私の体を、ただの快楽の器だと思ったなら――それは甘いわ」

 

 彼女の手が動くたび、ザクロの神経が震える。

 それは撫でるでもなく、殴るでもない。

 技と官能の境界にある『試練』だった。

 

 押さえ込み、絞め技、急所攻め。

 だがそれらはどれも――生きるための術。

 

「本当の『お楽しみ』って、どちらか一方が『強い』と成立しないのよ」

 

 まほろの目が細められる。

 

「あなたが『男』として立つのか、それとも『獲物』で終わるのか……」

 

 その瞬間、まほろは指先でザクロの胸元をなぞる――だが、その動きは突如として変化した。

 伸ばされたのはザクロの衣服。

 脱がすのではなく、剥ぐようにはだけられた――。

 

「あなたはただ一方的に喰われるだけの弱者――喰われたくなければ、強くなりなさい。今日から毎晩、私が教えてあげる」

 

 まほろはザクロと一方的に繋がる。

 まるで蜘蛛がエサを貪るように――。

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