ザクロの華   作:理乃碧王

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ep7:その男、マンダリン

 一泊、約五千円ほどの安宿。

 ザクロは真っ裸となり、女と交わっていた。

 無論、その女――まほろも裸となり蛇のようにザクロに絡みついていた。

 

「ぐっ……!」

 

 裸のままザクロは極められていた。

 基本的な関節技アームロック、ハンマーロック、ヒールホールドと流れるように極められていく。

 

「ほら、どうしたの? 返しなさいよ」

 

 まほろは嘲笑う。

 ザクロという未熟なオーレンジを笑っていた。

 まるで人形のようにされるがまま、なされるまま状態。

 

「……くっ……っ……」

 

 苦悶の表情に歪むザクロ。

 彼は腕や足、更には首を捻じられ、うねられ、極められていた。

 まるで蛇に締め付けられる小動物のように――。

 

「まだまだね。多少は技を覚えたようだけど」

 

 まほろの怪しくも妖美な微笑み。

 その体に彼女は技と夜を教え込んでいた。

 お互いに生まれたままの姿、自分だけでなく相手の筋肉や骨の動きが手に取るようにわかる。

 どの方向に曲げれば痛みを与えられるのか、どう動けば技に移行できるのかが手に取るようにわかる。

 技をかけられ、その目に、体に刻み込むことがこの上ない教本として機能していた。

 

「ふゥ……はァ……」

 

 ザクロの額から汗が滴り落ちる。

 吐息は荒く、喉の奥からかすれた呻きが漏れる。

 

「……っは、く……ぐぅっ……」

 

 まほろの白く滑らかな脚がザクロの腰に巻き付く。

 太ももの内側が肌に密着し、そこから伝わる熱と圧力がザクロを徐々に追い詰めていく。

 

「無理しないで……ね?」

 

 囁きとともに、まほろの腕がザクロの首筋を這う。

 指先は首の後ろから滑り込み、後頭部をがっちりとホールドした。

 

「――ッ!」

 

 フェイスロック。

 強烈に後ろへと反らされる首、背骨が悲鳴を上げる。

 呼吸が、浅くなる。意識が霞む。

 

「ふふ、ほら、ちゃんと――タップすれば、許してあげる」

「ぐううっ!」

「技、変えるから。反応してね」

 

 まほろは妖しく笑う。

 そして、即座にまほろは体制を変えて三角締めの体勢へと入る。

 

「あらら? 技を変える際に隙を作って上げたんだけど」

「ぐふっ……ごほっ!」

「可愛い……そのボケっとしてるところ……このままじゃあ、あなたの負けよ?」

 

 ただの勝負ではない。これはザクロを試す夜だ。

 その未熟な体に、戦いの中で何を学び、何を刻めるか。

 

「……ぁ、あ……」

 

 ザクロは震える腕を伸ばしかける。

 タップ、降参、勝負あり。

 しかし、その指先は空を掴んで止まった。

 

「あら?」

「……まだ……だ……」

 

 まほろの瞳が細まる。

 試されるのは技術だけではない。

 折れぬ心、負けぬ意志、夜の中で研ぎ澄まされる戦士の本能――。

 

「ふふ……いいわ、その目……」

 

 まほろは更に締め上げる、更に捻る。

 そして、ザクロの口元が吊り上がる。

 

「……まほろ……ォ……!」

 

 呼吸を整え、僅かに腰をずらす。

 筋肉が緊張し、背筋に力が籠もる。

 首を絞められたまま、体をひねり、重心をズラし、反動で――ッ!

 

「っ!」

 

 ズシャア!

 ベッドの上で二人の体勢が大きく崩れる。

 ザクロの脚がまほろの腰を捉え、逆に抑え込む形へと変わった。

 

「ふふっ、やるじゃない……これがコンクリートの床だったら、私がダメージを受けていたわ」

 

 余裕を失わないまほろの笑み。

 だが、その瞳の奥に赤い興奮の色が灯った。

 

「――ご褒美よ」

 

 まほろはザクロを抱き寄せた。

 ザクロもまたまほろを抱き寄せる。

 肉音が鳴る、喘ぎ声が響く。

 夜はまだ終わらない。

 技と本能が交錯し、汗と熱が絡み合う。

 戦いは続く、まるで愛と暴力の境界線を彷徨うように――。

 

○○○

 

「そういうことで、オメエさんの『捌き』ってやつを教えてやってくれよ」

 

 果樹の室の一室。

 力王はテーブルに着き、向かいに座る男にポンジュースを差し出していた。

 その男は力王と同じく柑橘系の奇妙な覆面を被っていた。

 

「ふむ……君の弟子に指導ですけんか」

 

 しかし、その形状は同じ柑橘系ではあるが銀朱、黄みの強い赤色の覆面であった。

 そして、特徴的なのは白の道着、空手着をまとっていた。

 その道着の胸には赤色で『芦崎空手』と刺繍されている。

 

 彼は空手家であろうか?

 だが、この柑橘系の覆面を被ることから同じサンキスト一族。

 ――カポエイリスタの一族のはずである。

 それ、ひょっとしてサンキスト? と訊ねたくなるほどである。

 

「ポンジュースだけ――というわけじゃないけんね?」

「当たり前じゃねぇかい“マンダリン”さんよーっ!」

 

 マンダリン。

 このサンキスト一族の男の名前のようだ。

 

「キィスキィスト!」

 

 力王はポンと札束をテーブルに置いた。

 お値段は約五十万ほどである。

 

「わちも安く見られたものけんね。捌き料――否、裁き料はもっと高くくれないと困りますけん」

「ダーッ! この野郎、コイツでどうでエエエッ!」

 

 力王は更に五十万円を出した。

 合計で百万である。

 

「力ちゃん、わちは久しぶりに愛媛から来たけんよ。もう少し欲しいですけん」

「なんだとゥ? まだ吹っかけようってのか」

「当たり前ですけん。当日は君も立ち会うんだろう? 同じサンキスト、昔馴染みだけどさ、わちと力ちゃんはライバル――技は見せたくないのが本音ですけん」

「わーった! わーったよ! マンダリンさんよオオオオオッ!」

 

 力王はドンと更に五十万ほどをテーブルに叩きつけた。

 合計で百五十万。

 マンダリンはニンマリと笑みを浮かべ、置かれた札束を懐に入れた。

 

「初代ポ〇ットモンスターと同じ栄一の枚数。捌きと喧嘩と! サンキストの世界へ! レッツゴー!」

 

 その男――マンダリン。

 マスク・ド・サンキスト“マンダリン”。

 カポエラとサバキ系空手のミックスジュース。

 ザクロに差し向けられる<打撃系指導教官>である。

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