一泊、約五千円ほどの安宿。
ザクロは真っ裸となり、女と交わっていた。
無論、その女――まほろも裸となり蛇のようにザクロに絡みついていた。
「ぐっ……!」
裸のままザクロは極められていた。
基本的な関節技アームロック、ハンマーロック、ヒールホールドと流れるように極められていく。
「ほら、どうしたの? 返しなさいよ」
まほろは嘲笑う。
ザクロという未熟なオーレンジを笑っていた。
まるで人形のようにされるがまま、なされるまま状態。
「……くっ……っ……」
苦悶の表情に歪むザクロ。
彼は腕や足、更には首を捻じられ、うねられ、極められていた。
まるで蛇に締め付けられる小動物のように――。
「まだまだね。多少は技を覚えたようだけど」
まほろの怪しくも妖美な微笑み。
その体に彼女は技と夜を教え込んでいた。
お互いに生まれたままの姿、自分だけでなく相手の筋肉や骨の動きが手に取るようにわかる。
どの方向に曲げれば痛みを与えられるのか、どう動けば技に移行できるのかが手に取るようにわかる。
技をかけられ、その目に、体に刻み込むことがこの上ない教本として機能していた。
「ふゥ……はァ……」
ザクロの額から汗が滴り落ちる。
吐息は荒く、喉の奥からかすれた呻きが漏れる。
「……っは、く……ぐぅっ……」
まほろの白く滑らかな脚がザクロの腰に巻き付く。
太ももの内側が肌に密着し、そこから伝わる熱と圧力がザクロを徐々に追い詰めていく。
「無理しないで……ね?」
囁きとともに、まほろの腕がザクロの首筋を這う。
指先は首の後ろから滑り込み、後頭部をがっちりとホールドした。
「――ッ!」
フェイスロック。
強烈に後ろへと反らされる首、背骨が悲鳴を上げる。
呼吸が、浅くなる。意識が霞む。
「ふふ、ほら、ちゃんと――タップすれば、許してあげる」
「ぐううっ!」
「技、変えるから。反応してね」
まほろは妖しく笑う。
そして、即座にまほろは体制を変えて三角締めの体勢へと入る。
「あらら? 技を変える際に隙を作って上げたんだけど」
「ぐふっ……ごほっ!」
「可愛い……そのボケっとしてるところ……このままじゃあ、あなたの負けよ?」
ただの勝負ではない。これはザクロを試す夜だ。
その未熟な体に、戦いの中で何を学び、何を刻めるか。
「……ぁ、あ……」
ザクロは震える腕を伸ばしかける。
タップ、降参、勝負あり。
しかし、その指先は空を掴んで止まった。
「あら?」
「……まだ……だ……」
まほろの瞳が細まる。
試されるのは技術だけではない。
折れぬ心、負けぬ意志、夜の中で研ぎ澄まされる戦士の本能――。
「ふふ……いいわ、その目……」
まほろは更に締め上げる、更に捻る。
そして、ザクロの口元が吊り上がる。
「……まほろ……ォ……!」
呼吸を整え、僅かに腰をずらす。
筋肉が緊張し、背筋に力が籠もる。
首を絞められたまま、体をひねり、重心をズラし、反動で――ッ!
「っ!」
ズシャア!
ベッドの上で二人の体勢が大きく崩れる。
ザクロの脚がまほろの腰を捉え、逆に抑え込む形へと変わった。
「ふふっ、やるじゃない……これがコンクリートの床だったら、私がダメージを受けていたわ」
余裕を失わないまほろの笑み。
だが、その瞳の奥に赤い興奮の色が灯った。
「――ご褒美よ」
まほろはザクロを抱き寄せた。
ザクロもまたまほろを抱き寄せる。
肉音が鳴る、喘ぎ声が響く。
夜はまだ終わらない。
技と本能が交錯し、汗と熱が絡み合う。
戦いは続く、まるで愛と暴力の境界線を彷徨うように――。
○○○
「そういうことで、オメエさんの『捌き』ってやつを教えてやってくれよ」
果樹の室の一室。
力王はテーブルに着き、向かいに座る男にポンジュースを差し出していた。
その男は力王と同じく柑橘系の奇妙な覆面を被っていた。
「ふむ……君の弟子に指導ですけんか」
しかし、その形状は同じ柑橘系ではあるが銀朱、黄みの強い赤色の覆面であった。
そして、特徴的なのは白の道着、空手着をまとっていた。
その道着の胸には赤色で『芦崎空手』と刺繍されている。
彼は空手家であろうか?
だが、この柑橘系の覆面を被ることから同じサンキスト一族。
――カポエイリスタの一族のはずである。
それ、ひょっとしてサンキスト? と訊ねたくなるほどである。
「ポンジュースだけ――というわけじゃないけんね?」
「当たり前じゃねぇかい“マンダリン”さんよーっ!」
マンダリン。
このサンキスト一族の男の名前のようだ。
「キィスキィスト!」
力王はポンと札束をテーブルに置いた。
お値段は約五十万ほどである。
「わちも安く見られたものけんね。捌き料――否、裁き料はもっと高くくれないと困りますけん」
「ダーッ! この野郎、コイツでどうでエエエッ!」
力王は更に五十万円を出した。
合計で百万である。
「力ちゃん、わちは久しぶりに愛媛から来たけんよ。もう少し欲しいですけん」
「なんだとゥ? まだ吹っかけようってのか」
「当たり前ですけん。当日は君も立ち会うんだろう? 同じサンキスト、昔馴染みだけどさ、わちと力ちゃんはライバル――技は見せたくないのが本音ですけん」
「わーった! わーったよ! マンダリンさんよオオオオオッ!」
力王はドンと更に五十万ほどをテーブルに叩きつけた。
合計で百五十万。
マンダリンはニンマリと笑みを浮かべ、置かれた札束を懐に入れた。
「初代ポ〇ットモンスターと同じ栄一の枚数。捌きと喧嘩と! サンキストの世界へ! レッツゴー!」
その男――マンダリン。
マスク・ド・サンキスト“マンダリン”。
カポエラとサバキ系空手のミックスジュース。
ザクロに差し向けられる<打撃系指導教官>である。