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トブの森と呼ばれた大きな森、その近くにカルネ村という開拓村がある。
周囲は森を切り拓いて作られた同様の村が幾つもあり、そこでは同様の『出来事』が順を追って起きていた。今度はカルネ村の番と言う訳だ。
その日は村から煙が上がり、大きな声があちこちから漏れた。
もし近くまで寄れば、何者かに襲撃を受けていたのだと気が付くだろう。煙は家を錬金油で焼いた痕、大きな声は怒号と悲鳴である。
「きゃあ!?」
油断ゆえに一人の兵士が少女に殴られた。
報復とばかりに斬撃を浴びせたが、怒りにまみれた稚拙な技だったがゆえに、運よく少女は回避できたのだろう。だが、幸運は長続きなどしない。戦いの専門家である兵士と、ただの農民の娘ではその結果を考えるまでも無いからだ。
「きっ、きっきさまあああ! また、またか!? 許さん!」
しかし何度目かの襲撃というのもあるだろう、やはり兵士は油断していた。
だから今度こそ切りつけた後、剣で切り刻んでやろうと胸倉掴んだところで再び殴られてしまったのだ。これにて少女の運命は固定されてしまう。
「服を? なんで……いっ、嫌!?」
「おいおい。今は任務中だぞ、そんな事をしている暇はないぞ」
「なっ、殴られたんだぞ! 土民風情に二度も! 思い知らせてやらなきゃ、気が済まねえ!」
押し倒された少女は服を切裂かれていた。
その解れ目から力を掛けて、ビリビリと兵士は破り捨てて行く。血に濡れた服と言う物は以外に丈夫なのだが、鍛えた力ならばそのくらいは余裕だろう。つまり少女が村人としては多少力を付けて居ようとも、どうしようもないという事だ。仮にタレントがあろうとも、鍛えていない少女では比較するだけ無意味である。
絶望しかない中で少女は最後まで正気であった。
もし彼女しかそこに居ないのであれば、とっくに気絶していたかもしれない。何故ならば……。
「お、いい加減にしろよ」
「お前はもう一人のガキを捕まえて来いよ。それまでに済ませておいてやる! おい、こら! 暴れるな!」
「っ!? ネムを? 逃げて! ネム、逃げてえ!」
少女は一人では無かった。そこにもう一人居たのだ。
大切な妹を守るために、我が身を犠牲にして少女は奮戦していたのである。無力に等しい抵抗でも、僅かな時間が妹を救うと信じて暴れ続けた。それがいけなかったのだろう……。
再び少女は痛みを覚える。乱暴に殴られ、突き立てられながら鉄と血の味を……。
「くそっ! くそっ! くそっ! 鎧を付けてると動き難いな」
「手伝ってあげようか?」
「……?」
その時、静かな声が聞こえて来た。
もう一人居た兵士では無く、他に居た仲間でもない。もちろん最初に少女へ目を付けた隊長格でもなかった。当然ながら少女が聞いたことも無い声であり……。
「誰だ!? 何処に居やがる!?」
「たすけて、誰でもいいから。ネムを……妹を助けて」
兵士が振り向いた時、少女はか細く声を上げた。
体を内と外から貫く傷みや、顔や髪から伝わる鈍い痛みに負けない様に。それでいて、小さく儚く、だけれども強い声を上げた。
「何でも……しますから」
「あ? 黙れよ! 出てこい! 誰がそこに居るんだ!」
「良いだろう。……ただし、真っ二つだぞ?」
静かな声は、魔法で届けられた物だった。
その事に気が付いて居れば、兵士も長生きできたかも知れない。だが、そこで一巻の終わり。パチンと澄んだ音が聞こえたかと思うと……。
グラリ、と上半身と下半身が斜めにスライドしたのである。
「お願い……ネムを……助け……」
「既に救助した。安心し給え」
少女の体は血だらけで、意識は揺れていた。
暴力的にも性的にも散々に嬲られたのもあるが、目の前で人間一人が真っ二つに成れば当然であろう。
「あ……?」
「だが、よくぞ……よくぞ生きていてくれた」
だが、意識が散漫しつつある中で、少女は信じられないモノを見た。
一人の男性が血で汚れるのも気にせず、自らの体を抱き上げてくれたのだ。そして何より、それが嬉しいのだと言わんばかりに……力のない微笑みで少女を真っ直ぐ見つめていたのである。
こんな良い人が居てくれて良かったと思う。
自分を助けてくれたこと、そして何より大切な妹を助けてくれたことを喜んだ。そして出来れば村人を助けてほしい……そう口にしようとした所で意識を失ったのである。
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事態が落ち着いた時、ラズロックは戸惑っていた。
殺さずに気絶させておいた兵士たちから、自分が知らない国の名前が出て来たからだ。催眠暗示は割りと使う魔法なので、失敗したとも思えない。
(バハルス帝国の兵に偽装したスレイン法国の兵士だと?)
(そして此処はリ・エスティーゼ王国? まったく訳が分からないな)
(私の知らない国だとしても奇妙過ぎる。やはり、転移などに手を出すべきでは無かった)
命に係わるから仕方なかったとはいえ、知らない所に来てしまった。
何度目なのか分からない溜息を吐きながら、後悔よりも先にすべき問題にラズロックは目を向けた。何しろこの村では、そこらかしこに負傷者がいるのだ。今は死者の埋葬を行っているが、その内に色々と話を通さねばなるまい。
そして何より重要なのが……隊長格が途中まで話した、戦士長襲撃計画である。
(時間がない。適当に話を合わせて避難させるしかないな)
(だが、どんな話に持って行く? そもそも私自身が困って居るんだが……)
(やはり此処は何人かを適当な理由で屋敷に連れて行くしかないか)
独り言にならないように注意しながら、傷付いた少女を眺める。
側に小さな子供……妹のネムとか言う子が眠っているのが見えた。沢山走って緊張感が切れて一緒に眠っているのだろう。少なくとも姉の方は放置して良い傷ではないのだが『理由』があって最低限の延命で留めていた。
それ以上に、ラズロックには少女を連れて行く必要があったのである。
そこには色々な意味があるが、彼自身の命にも関わる事だ。それが少女にとって良い事かは判らないが……今の状況を利用して、そういう方向に進めなければならないと言えた。
(実に面倒な事態だ……)
(だが、かろうじて外道に落ちない為には仕方のない経費と言える)
(我ながら悪辣な事だが、生きるためには仕方がない。事態を利用させてもらう事にしようか)
ラズロックはもう一度溜息を吐き、気持ちを切り替える事にした。
このままでは再び自分に命の危機が訪れる。それを回避するためには必要なモノがあり、その状態を自然な物にする為には言い訳が必要だったのだ。都合の良い言い訳などそうそう思い付きはしない、そこでやがてやって来る問題に全てを押し付けることにしたのだ。
そして村の現状を把握し、何とかしようともがいている村長の元へ向かう。
「おお、これはラズロック様。エンリの治療は終わりましたか?」
「一応は動かせるところまで治療した。後は私の屋敷で行うしかないな。治療の他に村を救った代金だが、今の君たちには法外だろう、私に良い考えがある」
どうやら少女はエンリと言うらしい。
名前すら聞いて居なかったとは我ながら迂闊だなとは思いつつ、ラズロックは話を進めることにした。ラズロックはグレイトシックスと呼ばれる世界でも有数の魔法使いであったが、彼を雇える料金がこの村にあるとも思えない。
そこで報酬と引き替えに、ラズロックが必要とするものを手に入れる事にしたのだ。
「彼女を始めとして重傷者や悲惨な目にあった女性は私が治療しよう」
「もし魔法使いの才能が見られた者は弟子とする。身内に尽くすのは当然の事だ」
「そうでない者は暫くの間、狩りや薬草の採取を覚えさせ下働きをすることで代価としよう」
「私も薬草や食料の備蓄が減ってきたところでね。お互い様と言う事だが……」
ラズロックはまず心理的な抵抗を段階的に排除した。
また、この世界に置いてもマジックキャスターの才能は貴重なものだし、魔法の才能以外にもタレントの存在が知られているので何となく納得できることだった。他人だったら法外な料金を必要としても、身内に甘いというのは何処でもあることだ。この村は開拓村でしかないが、地方によっては領主の子供が代官を務めている村は他よりも優遇されて居たりするものだからだ。そしてトブの村に面しているがゆえに、貴重な薬草や栄養豊かな獣の一部には価値がある事を知っていたのも大きい。
「師が気に入った弟子や気の利いた下働きに手を付けるのは良くあることだ。もし彼女たちが嫁に行く時は『そう言う事』にしておきたまえ」
「おお! なんと慈悲深い。エンリたちの心も癒される事でしょう」
村社会に置いて純潔というものは本来重視されない。
見合い結婚どころか適当に年齢が近い者同士が適当に選ばれるし、地方によっては夜這いであったり、領主の巡検に村の女が枕を共にすることはよくあった。だが、胡乱な余所者や不特定な相手に組み敷かれることは『汚れている』とみなされ、嫁に行く際での瑕疵とされることがある。
そこでラズロックは偉いマジックキャスターの『お手付き』であって、素性も判らない兵士に抱かれたのではないと言う事にしても良いと告げたのである。少なくとも相手が格上のマジックキャスターであり、誰だか判明していると言う事で穢れてなど居ない、覚えた薬草の扱いは嫁入り道具になるだろうし、村長から見ても相手の男は文句を言わないだろうと思われた
「それともう一つ重要な事がある。先ほどの男たちを尋問したのだが……」
「王国戦士長を殺すため、誘き寄せるための囮にされたようだ」
「周辺の村も悲惨な様だし、この辺りの開拓村が再編されるかもしれん」
「だが厄介なのは、もうすぐ戦士長が訪れること、そして襲撃者も現れるという事だ。もっとも頑丈な建物に村人を集めておいた方がいい。とはいえ村長は私と戦士長を出迎える必要があるな」
襲撃者が現れ、再び窮地に晒される。
その事はショックではあるが、尋問により得られた情報を活かそうと協力的なラズロックに、村長は胃を痛めながらも救われた思いであった。
前から考えていたクロス系二次です。
エッチするだけで、魔力が無い者にも魔力を与える主人公。
原作では魔法とか使えなかったエンリが魔法を補助で使うヒロインになり、元から魔法が使えたもう一人がさらに優秀になってサブヒロインとなる感じのショートストーリーになります。
エロに関してはその気になって、かつ要望があれば外伝でですかね。