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エ・ランテルからアンデッドが湧き出始めた時……。
リ・エスティーゼ王国辺境域にて変化が無かったわけではない。カルネ村でも小さな変化が訪れ、それは次第に大きなものとなっていった。
正式な命令はまだ先だが、それを待てるほどにカルネ村は豊かではない。
「アンデッド対策に加えて難民対策を?」
「はい。都市長から近隣の貴族領や王家直轄領に指示が出たそうです」
ラズロックの元にカルネ村の村長が訪れていた。
彼は壊滅した近隣の開拓村を束ねる立場になっており、激減したとはいえ多くの村人を支える立場である。だが精々が百人程度の村を束ねる男が、免税されたとはいえ三百人からの生き残りを何とか食わせることに追われており、気の毒なほどに疲弊していた。
そこで今回の騒ぎである。ラズロックに協力を求めて来ても仕方がないであろう。
「具体的には? 私に協力できる範囲であれば良いのだが」
「ありがとうございます。襲われないように避難しつつ、ある程度離れた安全な村は大きさによって受け入れるようにと。代わりに徴兵や租税に関して便宜を図るとの通達なのですが……」
都市長であるパナソレイの指示は、妥当な内容を準強制したものだ。
放っておいてもそうなるのだろうが、難民が難民を呼んでゾロゾロと流動するよりは、明確な指示の元で人数を割り振った方が混乱が起きない物である。並行して直轄領には租税や徴兵に関して便宜を図り、貴族領には何らかの利益を約束するというのも現実的である。
確かにその段階では、妥当であり現実的なのだ。
しかしカルネ村は先日の被害ゆえに、戦士長の助言もあって既に減税や徴兵免除をされている。これ以上は難しいであろうし……そもそも、カルネ村一つという扱いには成るまい。おそらく開拓村数戸分の役目を担わされるものだと思われた。
「ふむ。正しい命令が、何時如何なる時と場所でも正しいとは限らないという見本ですな。都市長と新たな条件で交渉する術はなく、出来たとしても今年の食料も危ぶまれると」
「はい。仮に難民が畑で働けても……直ぐには……」
そもそもの命令が本来かなり温情的だ。
近隣の村人をアンデッド化させない為であり、その村人を確実に受け入れさせるための指示である。これ以上どうにかしてくれと個別の村が言うのは厳しく、カルネ村の現状を都市長が思い出してくれればどうにかというところだが、少なくとも難民の引き受けを迫られるだろう。
もしラズロックが植物や土壌魔法を使えたら話は違ったかもしれない。
あるいはタケノコのように成長が早い植物があるなら、少しは変わったかもしれない。だが現実的にはそのような事はなく、食料面で村の備蓄は危険なことになるだろう。それでも飢饉確定ではないだけ、他国から羨まれるレベルの生産力なのだが。
「畑に関しては私はそういった知識は無い。ならば森で少々派手な狩りをするしかないでしょうな。私とエンリが率先し狩人たちや、こちらに冒険者が来ているならば彼らの力も借りよう」
「おお……ありがとうございます。ありがとうございます!」
無い袖は振れず、ゆえに農作では解決し得ない。
熊や猪に鹿といった、比較的に大型の獣を積極的に狩って行くしかないだろう。ラズロックのその言葉を聞いた時、村長は心底救われたような気がした。狩りを大々的に行うことまでは思いつけたとしても、ラズロック自らが動いてくれなければどうしようもないからだ。
なお、ラズロックは農耕や牧畜の専門家ではない。
だが、それは同時に無学教養のない人間ではないという事だ。彼には彼の専門知識がある。
「村長。せっかくなので今の内にやっておくべき事があるでしょう」
「はあ……なんでしょう? 私達に可能な事であれば協力いたします」
「それで十分ですよ。村の周りに穴を掘り、柵を立てているでしょう? あれを二重三重に広げましょう。まずはエ・ランテルの方向から。一通り終わったら街道を挟むように少しずつ、何段にもね。それだけで守り易さが随分と違うんです」
ラズロックの世界には塔型ダンジョンがあった。
そこを延々と昇る修業があるので、タワーディフェンスとかタワーアタックと呼ばれている。それは同じ状況で守りを固める事の有利さと、戦う訓練で少しずつ工夫する事の重要さを学ぶことが出来た。
そして低級アンデッドのような思考力の無い魔物は、同じ動きしかしないのである。唸り声がないので気が付かない事もあって危険だが、上手くやれば同じ対処で戦い続けることが可能なのである。
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やがてエンリはラズロックと分かれて森へ出ることが多くなった。
言わずと知れた獣狩りであり、より危険な魔物が居る場所をラズロックが担当、大丈夫だと判っている場所をエンリが担当している。
この日も熊を倒したり、亜人種を見つけたら急行して狩人たちを守っていたのだ。
「エンリ、こっちだよ!」
「殆どゴブリンですか? 当ったれー!」
エンリはあれは二つの武技を習得していた。
オーガを個人で倒したり、その為にゴブリンの集団を一人で片付けながら覚えた物である。一つは『真空破』と呼ばれる威力が低いが射程の長い遠距離攻撃で、以前に覚えた威力は保持されるが射程の短い『衝撃波』と使い分けたり組み合わせて使っている。
「今のはもしかして二つの技を合わせたの? なんで?」
「いえ、出来そうかなーって。というかそれぞれ欠点があって使い難いんですよね」
エンリはここで複合技をやってみた。
熟練の戦士は流水加速から連撃に強打などを組み合わせて速攻で倒したりするが……エンリは性質の異なる遠距離攻撃技を組み合わせたのだ。すると衝撃が波のようになって60度コーンの三角形になったようだ。最近になってカルネ村に来た女戦士に言わせると、なんで同じ遠距離攻撃を組み合わせようと思ったのか不思議であるとか。
とはいえ、こういった自由な発想こそがエンリの長所であろう。
相変わらず防御のイロハを覚えていないので対人戦はサッパリだが、『まるで拳と言う名の魔法を使っているかのようだ』とよく言われている。
「まあいいや。ゴブリンなんかアタシらで何とかするから、オーガをやっちゃって」
「はい! 頑張ります!」
女戦士も弱い訳ではないが得意分野が存在する。
彼女は連撃などを使って戦う軽戦士であり、走り回るという意味ではエンリと似ているがパワー系ではない。オーガはどちらかと言えば苦手な部類だ。フェイントも使えるので、どちらかと言えば対人向きだと言えた。盗賊相手には良く雇われたものである。
一方、エンリもまた火力を向上させる技は覚えていない。
攻防の要になる技を覚えていないのは、戦士の自覚がサッパリないと言っても良いだろう。だが先ほど言った、『まるで拳という魔法を使っているようだ』と言う評価は伊達ではない。遠距離から牽制しつつ、大技をぶち当てれるという意味でオーガ戦はむしろ得意に成っていたのだ。
『オオオ!』
「……この距離なら当るはず。触った方が確実だけど……避けないでよね」
エンリはまず真空破で牽制、接近して衝撃波の構えを放つ。
だが、そこから派生する行動が違う。衝撃波で殴りはするが、そのままでは時間が掛かるのだ。ゆえに彼女が狙うのは、もう一つ覚えた武技である。呼吸を整えて回転する様に掌を構え直したのである。
そして彼女の華奢な姿を見て侮ったオーガが振り被り……棍棒を振り下ろした所で肥満した腹から胸に掌を押し当てたのである。
「はっ!」
『オア!?』
トンと触ったはずなのに、ドン! と揺らいだような気がする。
それはエンリが掌越しに放った一撃が、そのままオーガの心臓と脳を揺らしたからである。相手の防御を貫通する『勁』と呼ばれる新しい武技を使ったのであった。エンリはこれに衝撃波を組み合わせることで、体内ダメージを放射状に放ったと言えるだろう。
そう、ドン! という音はオーガが棍棒を振り下ろす態勢のまま崩れ落ちた音であった。
「お疲れ。何というか……理不尽じゃあるけど、そういう姿を見るとあんたがマジックキャスターの弟子ってのが理解できるような気がするよ」
「えへへ。ありがとうございます、ブリタさん!!」
ブリタと呼ばれた女戦士は苦笑する。
相性もあるがエンリはまだブリタに勝つことができないのだ。対人戦の工夫を凝らすこともあまりないので、五本戦えばまず三本以上ブリタが取る。アンデッドから逃げ出すようにカルネ村行きの任務を受け、そのまま居付いた彼女ではあるが……。エンリの前向きで明るい姿を見ていると、自分も頑張ろうという気になるのであった。
そして彼女らが守っていた猟師たちと共に狩りを続けようとした時……。
「大変だ! 難民を連れて来た連中が、隣村の辺りで立ち往生してる! 追いつかれたんだ!」
「なんだって!?」
カルネ村に凶報が舞い込んだのであった。
と言う訳で改めて新章と言う感じですね。
エンリもレベルが上がり、武技を覚えて強く(?)なりました。
カルネ村はアインズ様が居ないので、別方向に発展していきます。
『エンリ・エモット』
●クラス
・タオシー(地仙系仙道士)3レベル
・グラップラー(専門/手)4レベル
・キ・マスター3レベル
●スキル
・漏尽通(パッシブ。自然回復強化・循環性強化)
・賦活術(アクティブ、一瞬。HP・MP・SPの他者融通)
・練功行(アクティブ、一時間。戦闘以外も含めて、能力値を緩やかに一通り上昇させる)
●武技
・衝撃破(射程5mほど、威力を保持し易い)
・真空破(射程20ほど、ただし10mを越えるたびに威力は下がる)
・頸(貫通攻撃。他の武技を混ぜなければスキル・魔法・武技以外を貫通する)
●魔法
・オーラパワー(生命力・闘気を付与し威力を高める)
・オーラヒール(生命力・闘気を回復させる)
・クール・ド・リオン(精神を安定させ状態変化形に抵抗力を増す)
●総括
タオシーは本来中級職なので同じ経験値では後発のキ・マスターの方が成長している。
どちらも基礎能力値が上がり易い魔法職なので、レベルのわりに習得する数が少ない。
またグラップラーは手技に専門化している為、若干成長が早くなっている。
エンリは魔法使いのラズロックを師匠に持ち、彼に人間的憧れを抱いている。
このために戦士としてはかなり歪んだ発展を遂げ、遠距離攻撃を主体として戦う。
もし何処かの道場の長が見たらツッコミを入れるのは間違いがないが、偶にモンスター相手に戦う非専門家としてはこんな物だろうか?
●エンリの成長計画
・呪文。悩み中。
おそらくオーラシュート(生命力・闘気をぶつける遠距離攻撃)を覚えると思われる。
・スキル。防御系?
さすがに無防備はまずいので、身動きを良くする意味で軽身功を覚える物と思われる。
本当は硬身功を覚える方が格上との戦いに向いているのだが、そもそも対人戦を想定して居ない為。
・武技。不明。
誰もが要塞・強打・連撃辺りを取れと進めるだろうが、きっと彼女の興味はそこには無いため。