Wizard's Climber【完】   作:ノイラーテム

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逃避行の行方

 騎士ないし役人を護衛して、兵士と冒険者たちが精力的に動く。

これは都市長であるパナソレイと冒険者ギルドの長であるアインザックが腐心した結果である。冒険者たちの経験を活かすと同時に独自性を確保し、絶対多数の兵士は彼らの知識で守られる。

 

そして騎士や文官たちが主導するのにも意味がある。

最初に兵士たちだけで避難民を救おうと村々を回った時に、徴兵した村人を戦力として送り返し、精鋭である職業兵士たちを手元に残そうとした愚かな貴族が居たのだ。それ以降、兵士だけでは貴族に逆らえないと反省し、こんな編成になったのである。バハルス帝国皇帝ジルクニフをして『迅速な対応は見事』と腐っている王国で無ければ、介入する隙を見い出せなかったほどである。

 

「た、大変だ! まだ後ろの方でアンデッドが……」

「放っておきなさい! 私たちにはみんなを助ける力なんてないんです! それに……」

 ンフィーレアの伝える危機的状況をニニャはにべもなく跳ねつけた。

その眼は激しく燃えており、怒りに満ちていた。活動を始めた最初の頃はこうでは無かったはずなのだ。村々を助けて回る救援隊を組織した時、ンフィーレアは漆黒の剣に一時的に入れてもらっていた。バレアレ家の名前を出すと、徴兵されてポーション造りの要員に引き戻されてしまうからだ。それも最上級を目指すどころか、一番よく使うポーションを量産する為だけに。

 

そして過去に依頼して内情を知っていた事や、彼らが金級冒険者として査定審査を行う際に協力したこともあって、むしろ仲が良かったと言える。だが……。

 

「あんな奴ら! 助けに行く必要ないじゃないですか!」

「そもそも犯罪者に協力してた連中なんでしょう!?」

「そんな奴らを助け出す必要なんかなかったんですよ!」

「貴方の我儘で、みんなを殺すんですか! ペテル達のように! 私の友人を返してくださいよ!」

 ニニャは怒りの衝動に突き動かされていた。

後ろでグダグダやって居た連中は、八本指に言い含められて秘かに麻薬を作っていた村の住人である。そんな奴らをアンデッドから守るために、ニニャは友人たちを無くすことになった。それも二重の意味で。

 

漆黒の剣を中心とした決死隊で何とかしようとした時……。

ンフィーレアが代わりに魔法を使う役目を買って出たのだ。余計なことに、ニニャが女の子であるから逃げるべきだと告げ口までして。それまで男として通して来たのに台無しではないか。

 

「ま、まだ死んだわけじゃ……」

「動き回る屍どもに巻き込まれてどうやって生きてるって言うんですか! 私たちは英雄じゃない! 貴方もですよ!」

 ンフィーレアが告げ口したおかげで、ニニャは置いて行かれた。

女の子は護られるべきだとして見られ……その時から、彼らは友人ではなくなったのだ。ニニャはずっと友人だと思っていたのに!

 

ただ……ニニャにだって判っているのだ。

才能があり若くして銀級、そして金級への試験を受けている彼らが……何時までも気が付かない訳はないのだと。丁度良いキッカケだから、そして愚かな賭けだからおいて行くためにンフィーレアの口車に乗ったのだろう。

 

「返して! 返してくださいよ……そしたら、また、みんなで……」

「ニニャさん……」

「そっとしておいてやりな。冒険者にゃよくある事だ」

「はい……」

 おめおめと一人だけ助かったンフィーレアには返す言葉が無い。

彼が助かったのは後衛であり希少なマジックキャスターである事、何よりバレアレ店の顧客として彼の顔を何人かが見知っていたこともある。待機していた別の班が後衛組だけでも助けようとしたのだが、ある者は共に助けられ、別のある者は助けられなかったのだ。

 

(ああ、まただ。またやってしまった)

(ンフィーレアさんに悪気が無いのは知ってるのに)

(後ろの人たちだって生きてく為には必死だったんだ)

(それに領主が白と言えば黒だって白になるのが貴族だもの。八本指の息が掛かって居たらどうしようもないのに……やっぱり、八本指がうちの村にも……居たのかもって……思ったら)

 普段のニニャはここまでヒステリックではない。

貴族たちのことを思い浮かべれば、毒を吐いてみなに呆れられることだってあるだろう。だが、彼女をしてここまで感情的にさせるのは……領主の都合で村がいい様に利用されていた話を聞いたからである。

 

そして妙に羽振りが良く成ったり、稼いだ金を何処かで使っている愚かな貴族。そんな奴にニニャも心当たりがあった。もし自分の故郷が、そんな奴らの仲間だったらと思うと、はらわたが煮えくり返るのである。

 

(もしそうなら……私は……どうしたら良いんだろう……)

 八本指は国家すら揺るがす大犯罪組織である。

貴族が数人程度では話にならないというか、権門の家長達ですらドップリと浸かっているという噂は幾らでも聞いた。特にこのごろは、ワーカーたちが傭兵として加わる事も多かったので猶更だった。

 

そして漆黒の剣で友情を誓った仲間たちが死んでしまったのだ。

身の振り方を考えには……いや、復讐を考えるには……良い機会であり過ぎたのだ。何しろ八本指は大犯罪集団であるが……彼女には心当たりがあったのだから。

 

 最終的に可能な範囲で助けることになった。

どの道、このままアンデッドが追って来たら大変なことになる。カルネ村周辺が要塞化して居ることを知らない事もあり、生き残りで何とかアンデッドを処理することになった。素早く倒すというよりは、追いつけそうな足の早いアンデッドだけ倒して逃げるというべきか。決して食いつかれている人々を助けるわけではない。あくまで放置したら危険な個体だけを始末する予定である。

 

ンフィーレアとニニャもマジックキャスターとして可能な範囲で協力することになっている。おそらくは魔法の矢や加速の魔法で援護することになるだろう。そう思って居たのだ。

 

「そんな! スケリトルドラゴン!? 魔法を無力化するのに……」

「なんだって!!」

 天空に座すは骨に寄って成り立つ邪竜。

ちょっと強いアンデッドというだけならば、なんとでもなっただろう。だが、空を飛び、しかも魔法を無力化するとあっては対処のしようがない。

 

これではどうしようもない、逃げるしかないのか?

いいや、スケリトルドラゴンを前に、そもそも逃げることができるのだろうか? 戦うだけでも敵が降りて来なくては話にならないのだ。もはや骨で造られた絶望、あるいは竜の形をした死そのものであろう。

 

「そんなアレは……アレは……」

「逃げなきゃ! 早く! どうしたの? ニニャさん、みんなを連れて早……あ……雷撃? 誰か空で戦ってる?」

 だが、ニニャの正気にトドメを刺したのは別の存在だった。

何者かがフライの魔法を唱え、ライトニングをスケリトル・ドラゴンの背中に向けて放って居る。そしてよく見れば……こちらに向かっているのではないのだ。逃げながら電撃を放つ誰かを追い掛けていたのである。

 

そしてニニャは、その誰かの姿を見てしまった。

 

「女の子? それも……私より小さいのに……」

「多分ワーカーだと思う。アンデッドの件を聞きつけてワーカーや傭兵たちが沢山雇われてるって聞いたよ。その内の一人だと思うけど……どうしよう、助け……ううん、駄目だ。届いたとしても倒せないし……やっぱり逃げるしかないのかな……」

 空を飛んで戦っているのは、ニニャよりも幼い少女であった。

金色の髪をなびかせて飛び交い、スケリトル・ドラゴンより遠ざかっていく。牽制として放つライトニングでは役に立たない筈なのに、それでも敵が怯む光景がどこかおかしかった。そして、どうして胴体ではなく背中に放つのか?

 

その事に疑問を覚えたンフィーレアであったが、逃げるべきなのか助けるべきなのかで夢中。思考が流されて考えがまとまらなかったのである。

 

「私だって、私だって……才能があるって言われたのに……お姉ちゃんを助けることも出来なくて、それなのに、私の才能は大したこと無くて……」

「もしかして誰か背中に……って、ニニャさん! 逃げますよ!」

 ニニャが錯乱し始めたところでンフィーレアも気が付いた。

もし正気だったら相談に乗ってくれたかもしれないが、これではどうしようもない。それにアンデッド達の流れも止まっており、村人たちはとっくに逃げ出すか……既に食われていた。

 

だからこそンフィ-レアはニニャを連れて逃げ出したのである。

 

「くっ……間に合うかな……ううん。間に合わせないと。せめてニニャさんだけでもカルネ村に……」

 ンフィーレアは沢山の人の中で孤独であった。

だが、今絶望に浸るわけにはいかない。ここで何とかしなければならないが、何もできない無力な自分が居る。だが、カルネ村にさえ辿り着けば、ラズロックが何とかしてくれるかもしれない。流石にスケリトル・ドラゴンを何とか出来るとは思えないが……。

 

先ほど見た異様な戦闘の光景を思い出す。

おそらく使役しているであろう死霊使いが居たのだ。おそらくは腕利きのワーカーがそれを突き止め、始末するために追っているのだと思われた。

 

「この情報をエンリに……ラズロックさんに届けてもらわないと……」

 ンフィーレアはこの時必死で頭を巡らせていた。

彼自身は大したことはない。若くして将来を期待されて居ても、いまだに第二階位の魔法しか唱えられない。ポーションだって薬草を殆ど使わない錬金素材の物がようやく手に付くようになったレベルだ。だからこそ、自分ができることをしようと思っていた。今自分が思いついた情報に価値があると信じて走っていた。

 

「ダメだ。あの人、回り込まれた。しかもこっちの進路……迂回しなきゃ……間に合……」

 だが、現実は無常である。空も地上も逃避行の結末は同じ。

空を飛んでいた少女は次第に逃げ場を失い、そしてその進路はンフィーレア達が逃げている方向であった。これはダメかもしれない、そう思った時の事である。

 

地上より逆行する流れ星をンフィーレアは見た。




 と言う訳で隣村、逃げている人々です。
現在、冒険者・ワーカー・傭兵団を都市長が雇っています。
彼らの知識を利用し、兵士たちが巻き込まれてる人々を誘導。
エ・ランテルに近い人々は比較的安全な場所へ、倉庫の食料頼りに。
装でない人々は、他の大都市とか、比較的に安全な辺境の村へ逃げてる感じです。

●今週の人々
『ニニャ』
 ”マジックキャスター”という冒険者仲間での評判が嫌になってるころ。
兵士たちが一杯戦死し、漆黒の剣の仲間達がMIAになっている所へ、自分よりも才能ありそうな小さい子を見て錯乱中。

『ンフィーレア』
 一足先に男性としての絶望を乗り越えたところ。
一皮剝けても居ないし、大人になっているとも言えない。しかし、確実に成長している模様。

『金髪の少女』
十代の少女でかなり可愛いらしい(ニニャ談)。
欲を出して黒幕らしき相手にちょっかいを翔けたらしいが……。

『逆さの流れ星』
誰なんだ、一体!?
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