Wizard's Climber【完】   作:ノイラーテム

13 / 46
遡る流れ星

 アンデッドが停滞した中で、空に向けて弓を構える女が居た。

番えた矢は銀、それも先を潰して刺突属性を失わせ、代わりに打撃属性にカスタムされた矢である。その予備を二本用意して厳しく天を睨んでいた。空に居るモノを狙撃するのはそれだけ難しいのだ。

 

狙うは一点、攻撃に移りルートが絞られる瞬間しかあるまい。

女は周囲に居る仲間に聞かせるでもなく、ただ愚痴をこぼした。思わず漏れてしまっただけで、誰に返答して欲しいわけでも無い。

 

「あの子ったら無茶して。黒幕を討つ必要なんてないのに」

「それは仕方ないさ。ただのマジックキャスターなら倒すチャンスだったんだろうし……真相が知れただけ儲けものだよ」

 それに男は応えた。答えたというよりは相槌に近い。

周囲を眺める目には、『足元』に居るアンデッドたちが居る。奴らは術者に制御されて居ない限り、適当にほっつき歩くか、生命反応を探知して憎しみから追い続ける程度の知能しかない。先ほどまで逃げる民衆を追い掛けていた姿とは別物であると、家屋の屋根から他人事の様に眺めていたのである。

 

そう、彼らはアンデッド退治の為に来ているわけではない。

逃げるわけでも無く、そのために家屋の屋根に登ったのではない。調査の為に訪れ、アンデッドでは思いつきもしない屋根という安全地帯で眺めていただけなのだ。

 

「とりあえずこれで術者を撃てば、倒せずとも逃げる余裕が出来るでしょ」

「そうですねえ。あの子であれば……ちょっと待ってください。向こうから誰かが来ますよ……。恐ろしい速度です」

 女が弓を引き絞り、長距離射撃の武技を発動しようとした。

限界射程を延ばすだけで有効射程はそれほど伸びないが、女は当てずともこの距離ならば掠らせる程度の誤差に納める自信はあったのだ。だが、そこに周辺を監視していた別の男が待ったをかける。絶好の機会なのに何故? そう思った時に変化が如実に表れたのである。

 

そう、彼方から戦場となった道を疾走する影がある。

パワフルに走るその姿は生命力に満ち溢れ、それゆえにアンデッド共が振り返るような光景であったのだ。

 

「……やれるかな? ううん、やるんだ。師匠みたいにやってみる!」

 それは殆ど鎧を付けない軽装の姿。

護拳で死人を殴りつけるその姿は一目で格闘家であると判るだろう。的確で素早いその動きは、グラップラーの中でも手技に長けているに違いあるまい。群がるアンデッドを手で払うだけで跳ねのけ、足は的確に何も無い場所を踏み……いや、歪な死体や岩を踏んでいるのに、無人の野を疾走しているかのようであった。

 

彼女の名前はエンリ・エモット。

そして戦闘用ではなく移動用の武技『神行法』を覚えてしまった、ちょっと変わった格闘家である! 本人は魔法使いの弟子だと言ってはばからないのだけれど。

 

 そして地上より逆行する流星が放たれた。

ドンと鈍い衝撃がスケリトルドラゴンに突き刺さる。魔法などは無効化するはずの死竜が、苦しそうに悶える姿は不思議であろう。だが、それ以上に死竜は憎々しげに眼下を見下ろすのであった。

 

先ほどまで追い詰めていた相手ではなく、新たな相手に視線を移したのは、その脅威を察しての事か?

 

「馬鹿な。どうして傷つく?! もしや呪文ではなく武技なのか!?」

 スケリトルドラゴンを操っていたナニカは驚愕という心を思い出した。

先ほど久方ぶりの怒りを思い出した事に続き、珍しい事がある物だ。しかしそれも仕方があるまい。スケリトルドラゴンは魔法に対する絶対耐性を持つと言われている。実際はそうではないのだが、彼がそれを知らないのだから彼の中では事実であろう。

 

そして、絶対耐性がありながらダメージを受けた。

その事が、目の前で起きている事実に彼が気が付けた理由である。

 

『オオオオオオ!』

「これほどまでに傷つき、殺意を覚える。まさか格闘家……いや、それだけではなく闘気使いか! これはいかん!」

 アンデッドと格闘家は互いを苦手としている。

刺突を耐性で無効化し、斬撃にも高い防御を有する。だが格闘家は自動的に打撃攻撃であり手数も多い、その時点ではイーブンなのである。しかし素手と言う物は火力が低く、タフネスなアンデッドを格闘家の方でも苦手として居るのだ。しかし、これを覆すのがキ・マスターなどの闘気使いの存在である。

 

闘気使いは生命力より成る闘気を体にまとう。

それはシンプルな付与魔法であり、基本的には弱い効果だ。しかし格闘家と言う基本火力が低い職業には、これ以上ない程の増強効果足り得る。また豊かな生命力をぶつけられるという事であり、アンデッドに対して特攻めいたところがあるのかもしれない。聖属性や火属性ほどではなくとも有効ではあろう。

 

「一度離れよ! さすればあの程度の相手は恐れるに足りぬ。待っておれよ……レイ・オブ・ネガティブエナジー!」

『グルルル!』

 使役者である彼はひとまずスケリトルドラゴンに落ち着きを取り戻させた。

負の生命力を回復させ、怒りを落ち着かせれば最強格のアンデッドという肩書になんら遜色はないのだ。一般的にスケリトルドラゴンを倒すには、最初から情報を知っているという前提でもミスリル級冒険者が1チーム専念する必要があると言われている。これは敵の魔法は無効化できるが、自分や味方の魔法は受け入れる、さらに空を飛べるという点で仕切り直しが出来るからでもあった。

 

つまり、スケリトルドラゴンを倒すにはミスリル級冒険者1チーム以上の火力が無いと、倒す前に逃げられてしまうのだ。これにマジックキャスターの援護があれば、倒す為の難易度は天井知らずに跳ねあがると言っても良いだろう。

 

「そこ!」

「まだ届く? ええい! もっと離れよ呪文で焼き払ってくれるわ!」

 先ほどよりも射程の長い遠距離攻撃が放たれた。

威力重視ではないので火力は下がったが、武技ゆえに無効化できないし、豊富な生命力により傷つている。しかも格闘家は手数が多いので、動きが緩慢なアンデッドには苦手な相手であるのだ。だが、所詮は地を這う存在に過ぎない。呪文の射程ギリギリ、あるいは射程延長の魔法も併用すれば……。

 

そう思った時、エンリの姿が俄に掻き消えたのである。

正確には、地上から消えて、木の枝を経由して宙を舞っていたのだ!!

 

「スキル、軽身功。武技、神行法。同じく武技、真空破! ついでに頸も!」

「な、なんじゃととおおお!? レレレレ、レイ・オブ・ネガティブエナジー!」

 もしクラスと種族という相性以外にも、相性が存在するならば……。

エンリという少女はスケリトルドラゴンの対極なのかもしれない。一定時間、身を軽くすることで回避力を高める軽身功というスキル。そして移動困難地形での阻害効果を無効化する神行法という武技。この二つを組み合わせることで、エンリは木の上を飛び跳ねた、そして射程を延ばす武技と貫通する武技を合わせて、天を舞う敵を穿ったのである。

 

もし彼がアンデッドに対する回復魔法を使えなければ、勝負はこの時点で決まっていただろう。いや、彼の正体を考えれば……エ・ランテルを揺るがす現在の事件は終結していたかもしれない。

 

『アロロロロロン!』

「いーやっ!」

「はああ!? 爪に飛び乗っただと!」

 スケリトルドラゴンが組み付き、噛みつこうとた。

だが、恐ろしい事にエンリは爪の上に飛び乗ったのだ。そして拳を構え直し、噛みつこうとする顎の骨にキツイ一発をかまして来る。まるでスケリトルドラゴンが倒され、落下しようともお構いなしであるかのようである。

 

とはいえエンリの快進撃もこれまで。

神行法は移動困難な状況でも普通に移動できるが、自分の攻撃の反動までを無力化はしないのだ。衝撃波を叩き込んだ以上は、落下するのが定め! だが絶望を味わい、乗り越えて来た彼女の根性は一味違う!

 

「もう一発!」

「にににに、逃げよ! 疾く逃げよ! 相手が悪過ぎるわい!」

 落下し切る前に再度の攻撃!

その事を察した黒幕、カジット・デイル・バダンテールと呼ばれた男は恥も外聞もなく逃げ出すことにした。そもそも恥だのといった言葉はとうに捨てている。なにしろ彼はアンデッドになっていたのだから。久方ぶりの恐怖が彼を支配する。心をがすり減ったアンデッドにも、恐怖があるのかと思ったほどである。

 

そして、凍っていた心が今動き出す!

 

「こ、こんな所で滅びれるか! アンデッドに成ってでも、叶えたい願いがあるのじゃ! にーげるんじゃよ!!!!」

 カジットには夢がある! 幼き日に死に分かれた母への思い!

その再会を切望し、どうしても蘇生魔法の研究に足りない時間をひねり出すため、わざわざアンデッドになるという事を選択したのだ! 今までアンデッド化したことで心を失いかけ、上層部の言うままに動いて来たが今ここに心を取り戻したのだ!

 

あの女は駄目だ、相性が悪すぎて絶対に勝てない!

その事を明晰なる頭脳で察知すると、恥も外聞もなく、素直に逃げることをスケリトルドラゴンに命じたのであった。

 

「エンリ……君なんだね……」

「エンリ……エンリって言うのか……すげえ!」

「英雄だ……新しい英雄。俺達の英雄、エンリさんが骨のドラゴンに勝ったんだ!」

 そしてエンリの活躍を誰もが見つめていた。

あれほどまでに戦場で暴れ回った猛威を、ただ一人の少女が容易く打ち破ったという事実を、誰とはなしに理解したのである。絶望の中にあった避難民たちは、いや、絶望の中にあったからこそ。その名前を希望のように感じた。実際にそれほどの英雄なのかは分からない。だが、確実にアンデッドを何とかしてくれる存在なのだと。

 

誰もがその存在を認識し、その多くが希望を見出した。

中には任務を果たしたとしてそっと離れるワーカーが居たり、絶望の中で現実を認識する人々が居たのであるが。

 

「……私が一番、魔法を使えるんだ……」

「? どうしましたニニャさん? 行きますよ。カルネ村まで辿り着ければ、きっと暖かい飲み物でも飲めますよ」

 ンフィーレアの手をニニャは暖かいと思った。

だが、人は時に優しさだけでは生きていけないのだ。ニニャが彼に付いて行ったのは、考えるのが億劫であったから。誰かに強引に道を示してもらいたかったからである。

 

一同の不幸はここで去った。しかし世の中には二番底と言う物がある。

カルネ村においてンフィーレアは男のプライドというものが何かを理解し、ニニャは嫌悪感溢れる欲望と言うものが他人ではなく自分にあったことを分からされるのであった。




 と言う訳で護送隊とエンリが合流しました。
スケリトルドラゴンはデスナイトと成らんdね上位存在とされるのですが……。
飛行・呪文無効化・高い攻撃力・タフネスと言う組み合わせで成り立っております。
飛んでいても関係ない、射程外から攻撃、付与魔法で特攻。とかいうエンリは相性が悪い感じです。

新スキル『軽身功』
 一時的に身を軽くし、回避力を上げる消費型のスキル。
レベルが上がっても回数も増えないし修正値も増えないが、その分強力。

新武技『神行法』
 まるで地図上をすべるかのように、神の視点で移動可能。
移動困難地形で無理なく移動できる以上の能力は無いが、そういう場所で生きる武技。
インパール山脈だろうがロシアの黒土地帯であろうが八甲田山であろうが普通に歩いて行ける。
そこに足場があれば枝であろうが相手の武器であろうが渡っていける程。
ただし、速力やジャンプ力などは増えないので、他のスキル・武技・魔法による強化は有用。

●今週の人物名鑑
『人の良い三人組』
 漆黒の剣の代わりに出て来たワーカーたち。
何かの依頼を受けてエ・ランテル周辺で活動していた模様。
現在は任務を果たし、報酬を貰いに戻っている模様。

『カジット』
 アンデッド。よくわからないが目的があって最近アンデッド化したらしい。
それも不確実な方法であった為、感情だけではなく、執着心=目的も見失っていた。
だが、エンリと邂逅して根源を揺さぶられたため、記憶と感情を取り戻したらしい。
『儂は、正気に戻った!』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。